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梓「それは私が天使だった頃のお話」 12 - (2013/09/07 (土) 02:57:39) の1つ前との変更点

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 【Yi-side】  ‐別荘‐  ‐テラス‐  肝試しも無事に終わり、全員が別荘に帰宅しました。  澪ちゃんがコンニャクをりっちゃんに投げ、  追いかけている以外は多分無事なんだと思います。  ……一体、何があったんだろう。 紬「何でも、りっちゃんにコンニャクをぶつけられたんだって」  なるほど、道理でりっちゃんだけ誰ともペアを  組まないと思っていました。先に行って、待機していたわけですね。  釣り竿でコンニャクを吊るす姿が目に浮かびます。 紬「もう夜も遅いし、寝ちゃおうか?」 唯「そうだね」  鬼ごっこをしてる二人を尻目に、私たちは寝室に向かいました。  …………。  ‐スタジオルーム‐  深夜。皆が寝静まった頃。  私はスタジオルームで、ギターを弾いていました。  寝れないからとか、そんな理由ではありません。  ちょっと上手くいかない部分があるのです。 唯(ここをこうやって)  あっ。また失敗してしまいました。 唯(難しい……)  なかなか上手くいきません。 梓「……何してるんですか?」 唯「うわっ!?」  あ、あずにゃんいつの間に!?  ドアの開く音なんて聞こえなかったよ!? 梓「まあ、テレポート使いましたから」  ああ、そういうこと。  出来るなら普通にドア開けてきてほしいよ。 梓「それで、何してるんですか?」 唯「練習。ちょっと上手くいかない部分があってね」 梓「ふむ」 梓「私も一緒に練習します。ギター取りに行ってきますね」  ……今度はドアから出て行くんだね。  * * * 梓「そういえば唯先輩に一つ報告したいことが」  ん? 梓「澪先輩にバレました」  何が? 梓「私と唯先輩が親戚ではないと」 唯「えっ」 梓「私が墓穴を掘ったわけではありませんよ。  ただ、私たちが嘘をついていただけです」  墓穴を掘っていない、というのは怪しいところではありますが、  バレたというのは事実のようです。 梓「どうします?私の正体、正直に言いますか?」 唯「……そうだね。仕方ないよ」  澪ちゃんは頭が良くて、とても鋭い人。  これ以上隠し通すのも限界があると感じました。  ならばいっそバラしてしまい、  いざという時に助けてもらった方が良いでしょう。 唯「ちょっと澪ちゃんを起こしてきてくれる?」 梓「はい」  今起こすのは悪いと思いましたが、今ほど話すのに適したタイミングもありません。  出来るだけ優しく起こすようにと、あずにゃんには伝えました。  * * * 澪「おい」 唯「いや、私のせいじゃないよ!?」  澪ちゃんがとんでもなく不機嫌です。  理由は簡単。全然優しく起こさなかったから。 梓「そうです、唯先輩のせいではありません!」  このあずにゃんのせいです。 梓「どっちかといえば、運が悪かっただけです」  百パーセントあずにゃんのせいです! 澪「はあ……まあ夜だし怒鳴るのは止めるよ。  それよりも何だ、こんな時間に起こして?」  明らかに不機嫌そう。  そんな状態で私の非現実的な話を聞いてしまったら、  馬鹿らしすぎて怒りが爆発してしまうんじゃないでしょうか。 唯「あのね、澪ちゃん。これは真剣な話なの」 澪「真剣?」 唯「実はね……」  真剣という言葉に反応した澪ちゃん見た私は、  一気に全ての事情を話しました。  かくかくしかじか、ということでして。  うんぬんかんぬん、ということなんですよ。  全ての質問が終わった頃には、  澪ちゃんの目が不審そうなものを見る目に変わっていました。  これはマズイ。 澪「……梓が天使?」 唯「うん」  ああ、どう見ても信じていません。  それが当然の反応と言えそうですが、  非現実的な話を真剣に語った手前、自分が恥ずかしくなってきます。  ですが、これは現実なのです。  なんとしても理解してもらわなくてはいけません。 唯「いや、あのね。ふざけてるわけじゃないの」  証拠を見せるのが手っ取り早いでしょう。 唯「あずにゃん、空中浮遊してくれる?」 澪「空中浮遊!?」 梓「わかりました!」  ……あれ。こんな会話を前にしたような気がします。  きっと気のせいでしょう。そうします。  そして“びゅーん”という音が聞こえそうなほど、  軽々しく真上に飛んだ梓ちゃんは、 #aa{{{          天   井 ________________          ├‐1   ト-┤ <どーん!             }___{   廴._j            `¨´   `¨´ }}}  こうなりました。 唯「……」 澪「……」 梓「……どうですか?」  あずにゃん。……やっぱり二回目だったよ。  しかもめり込み具合が前回より相当悪化してるよ。 澪「えっ?……えっ!?」  * * *  壊れた天井は、あずにゃんの天使パワーで修復しました。  さて、本題です。 唯「信じてくれた?」 澪「まあ、少なくとも梓が人間離れの石頭であることは……」  そのポイントで信じちゃいましたか。  どちらにせよ信じたのであれば、結果オーライでしょう。 唯「……さて、澪ちゃん」  バラしたからには、私にはやらなければならないことがあります。  それは澪ちゃんを味方につけるということ。  いわば、秘密を共有するということ。 唯「このことは誰にも言っちゃいけない、凄い秘密なんだよ」 澪「そうなんだろうな。わかったよ」 唯「あれ、もうわかったの?」  あっさり了承してしまいました。  ちょっと拍子抜けです。 澪「というか」 澪「こんなこと誰に言ったって、誰も信じるわけないさ」  澪ちゃんは苦笑しながら、そう言いました。  全くその通りです。まあ結果オーライ。  味方になってくれたなら、それで全て良しです。 唯「これで私たちの秘密は全部話したよ。  ごめんね、夜遅くに起こしちゃって」 澪「いや、いいんだ。元はといえば、私が原因だし」  澪ちゃんが原因。そうなのでしょうか。  この時、私の脳裏にはある光景が浮かんでいました。  あの時の澪ちゃんと、床に落ちた一枚の花弁。  二つの情景が頭の中で交差します。  交差した情景は徐々に近づいていきます。  そして、そこから繋がる一本の糸が伸びて……。 唯「……」  ……止めておきましょう。今は合宿中です。  しばらくそのことは忘れておくべきなのです。  他に楽しんだりする事があるうちは、まだ。 澪「唯?」 唯「……あっ、ゴメン。ちょっと寝てたかも」 澪「ふふ、唯らしいな。さすがに布団に戻ろうか」 梓「私も眠いです」 唯「うん、じゃあ戻ろうか!」  嫌なことは忘れて、寝てしまおう!  私は心の中で自分をそうやって励ましました。  ‐寝室‐  床についた私は、何故か眠りにつけませんでした。  夜遅くまで起きすぎていたのでしょう。  そんな私はゴロゴロと掛け布団に巻かれながら  転がっていました。深い意味はありません。  私は丁度、鉄火巻きのマグロの構えになっています。  どん。何かにぶつかりました。  ぶつかった方を見てみると、澪ちゃんがいました。 唯「……では、失礼して」  私を巻いていた海苔……ではなくて布団を剥がし、  澪ちゃんに抱きつきます。澪ちゃん抱き枕の完成です。  これで寂しい夜も安心です。  ところで、時間が経つに連れて、  抱き枕の温度が加速度的に上昇していったのは、  私が抱き付いたせいなのでしょうか。  いや、夏だからか。  -翌日・海-  この日も練習、及び遊びに精を出しました。  (ただし八割は……言わずもがな、です)  が、今日は昨日と違うというのが世界の常識ですので、  当然今日は昨日とは違うイベントが起きるわけです。  それは良いことなのか悪いことなのか、  残念ながら私たちに予見することは出来ません。  ただ、 梓「……なんだか、くらくらします」  イベントが発生した時点で、それは判断可能となります。  今回は間違いなく悪い方。  私たち全員、そんなあずにゃんの発言に青ざめていました。 紬「……まさか……。  りっちゃん、これ別荘の鍵だから先に戻って!」  すぐにムギちゃんはあずにゃんを背負い、  りっちゃんに別荘の鍵を預けました。 律「わかった!」  鍵を受け取ったりっちゃんと、私と澪ちゃんは  色々な準備をするために先に別荘へ急いで戻りました。  私には天使の病などわかりませんが……。  人間基準で見れば、あれは“熱中症”が疑われます。  ‐別荘‐  -エントランス-  澪ちゃんは以前覚えたという作り方で経口保水液を用意。  りっちゃんは霧吹きを見つけたので、その中に冷水を。  私は部屋のエアコンを起動させた後、冷凍庫にあった氷枕を持ってきました。  きっと、これで準備としては十分のはずです。  大丈夫だといいのですが……。  準備がほぼ完了すると、ムギちゃんが戻ってきました。  背負われたあずにゃんは海岸にいたとき同様、ぐったりしています。 唯「あずにゃん!」 梓「あ、唯先輩……」 唯「ゴメンね、私が早く気付いてあげれば……!」 梓「い、いえ、そんなことは……」 律「いいから、早く横になれって!」 梓「皆さんすみません、心配かけちゃって……」  本当に申し訳ないのは、間違いなく私たちの方です。  遊び呆けて、挙句の果てはまともな水分補給も忘れてしまったのですから。  特に私は、水着を買いに行った日に約束したはずです。  あずにゃんの面倒を見ると。  回復したらもう一度、あずにゃんには謝らなくてはいけません。  私たちの必死の処置で、幸いにも症状は軽く済みました。  ですが、今日一杯海で遊ぶことは控えざるをえないでしょう。  -テラス-  室内での合宿。私は一人、テラスに座っていました。  別荘の中には去年と違う、少し居心地の悪い空気が流れていました。  だからでしょう。私は外の空気に吹かれていたかったのです。  これは誰の責任でもなく、  あるいは私たち先輩の責任でもあります。  だからといって、いつまでも落ち込んでいることを  あずにゃんは望んでいませんでした。  心配する私に、あずにゃんは言っていました。 梓「私は天使であり、人に迷惑をかけるのを嫌います」  ……んっ?  ま、まあ嫌うことと、しないことは別です。  ですからセーフなんです。きっとツーストライクなんです。 唯「……」  ここにいると、風に乗った潮の香りが流れてきます。  おかげで少し気分を晴らすことが出来ました。  が、それは同時に他のことを考える余裕が  出来たということでもありました。 唯「澪ちゃん……」  あの日の視線。  実際に見たときは、大して気にしていませんでした。  しかし、後日に起きた“落ちた花弁事件”以降は、  何故かその視線が気になって仕方ありません。  あずにゃんは、これを悪い方向へ考えるには  まだ早いと言っていました。それは正しいと思います。  ですが、聞かなくてはいけないとも思うのです。  “澪ちゃんは視線の先に、何を見ていたのかを。” 唯「……聞こう」  私は、決心しました。  * * *  夜。また全員が寝静まる時間。  私は澪ちゃんと二人で、テラスにいました。  空一面には星が瞬き、月の光が私たちをぼんやりと照らしていました。  この大空に文句を言うわけではありませんが、  あまりに他人事、場違いすぎるのではないでしょうか。  いえ。場違いじゃない。そうではないと、私は願っているのです。  ですから、これは適した場面といえるのかもしれません。  ……そうであって欲しいものです。 澪「なんだ二日連続呼び出して?」 唯「うん、ゴメンね。迷惑だよね」 澪「いや。律なら悪戯をしかけるだろうと思って  無視するけど、唯は別だ。何か理由があるんだろ?」  そうやって澪ちゃんは私に微笑みかけました。  今の澪ちゃんの頭では、どんな未来が見えているのでしょうか。  軽音部の相談をする未来?  恋愛相談をする未来?  まさかの告白?  どれも違うのです。そして、どれも似つかないのです。 唯「じゃあ単刀直にゅ……うに、言うね」  私は、たった今澪ちゃんに向けられた言葉が、  あの新聞部員に向けられた言葉と同じだったことに気付きました。  そして、これ以上言葉にすることを躊躇しました。  しかし一度発しようとした言葉は止まりませんでした。  結局全て言い切ってしまいました。  つまり、今の澪ちゃんを、私は……。 唯「……違う、絶対違うよ」  私は小声で自分の考えを否定しました。  澪ちゃんには聞こえていません。 澪「どうしたんだ?」 唯「うん、ゴメン。言い直すね」  そうじゃないと、私が私を許しません。  これ以上自分に罪を重ねさせることは許されないのです。 唯「ちょっと聞きたいことがあるんだ~」 澪「うん」  出来るだけ、嫌な気持ちを隠すように。  私は明るく装っていました。 唯「あのね、あの日のことなんだけど」 澪「あの日?」  園芸部員さんが……と言おうと思ったところで、言葉を飲み込みました。  もっと違う言い方がいい。そう感じました。 唯「豪雨で、私と澪ちゃんが部室で雨宿りした日」 澪「……ああ、あの日か」  澪ちゃんの表情から笑顔が消えました。結局。  でも止めて。違うの。私は本当にそう思ってるわけじゃない。 唯「えっと、だからね、その……」 澪「……」 唯「……お願い、私を……」  私を?違う。私じゃない。 唯「ううん。違う。違うんだよ!!」  突然私が叫んだことに澪ちゃんは驚きました。  そして、澪ちゃんは私を心配するような表情に変わりました。 澪「唯、本当にどうしたんだ!?誰かに何かされたか……?」  澪ちゃんのその問いが、私の何かを解き放ちました。  言葉を抑える何かが取り去られ、思った言葉が  そのまま外へ流れ出て行きました。 澪「唯?」  誰か?……その答え。 唯「……澪ちゃんが……」 澪「えっ……私?」  何かされた?……その答え。 唯「あの花瓶を見てたの……。とっても怖い目で……」 澪「……」  そして、私が澪ちゃんを呼び出した理由。 唯「澪ちゃんはあの時、何を花瓶に何を見ていたの……?」 澪「それは……」  もう一つ。でも、これは言ってはいけない。ダメ。  ですが、今の私ではどうしようもありません。  いつの間にか感情を抑えるダムが、決壊していたのです。 唯「後で見つかった床に落ちた花弁のことなんだけど……。  ……澪ちゃん、何か知ってるんじゃないの……?」  ……ああ、言っちゃった。  今の私は感情を抑える術を持ち合わせていません。  だからでしょうか。涙が突然溢れて、止まらなくなってしまいました。 唯「本当は、言いたくなかったんだよ?  自分が軽音部の仲間を疑ってるなんて、信じたくなかったから……」 唯「でも……!」 澪「……そうか、なるほどな。それが聞きたかったのか」  泣き止まぬ私の頭を、澪ちゃんはそっと撫でてくれました。  大きくて頼りがいのある手は私の心を確かに安らかにしてくれます。  ですが、いつでもそうでした。  結局今日起きるイベントというものは、良いものか悪いものか予見できず、  実際に起きてみないと判断できないということが。 澪「唯。多分その通りなんだよ」 唯「えっ……?」 澪「あの花弁は、きっと私が落としたんだ」  ―――私は聞きたかったのでしょうか。  一番聞きたくなかった、その言葉を。  私のお腹にぽっかりと穴を空けた、その言葉を。  私は泣きたかったのでしょうか。  いつでも隠れた事実は暗くて悲しいものだから。  それを明かした私は、きっと。  私は救われたかったのでしょうか。  前はあずにゃんの言葉で。  今度は澪ちゃんの言葉で。    違う。違うんだ。  私は聞きたくなかった。だけど聞いた。  私は泣きたくなかった。だけど泣いた。  私は救われることを、望んだわけではなかった。  私は謝りたかった。私自身の罪を。  どこかで澪ちゃんに疑いを向けていた私を。  疑う必要なんて無かったはずの場で、  疑いを向けていた、この私を。  でも。 唯「なんで……どうしてなの、澪ちゃん……?」 澪「……ごめん。唯にだけは言えない」  罪は冤罪に、疑いは事実に変わってしまった。  私が謝る理由も機会も方法も、泣き止む術さえも……、  無くなっていたのです。 第七話「夏は夜、月は見えていた」‐完‐ #exkp(p){{{#ref(私が天使だった頃1.jpg)}}} #exkp(k){{{#ref(tensi_azusa.jpg)}}} ―――第八話に続く [[13>梓「それは私が天使だった頃のお話」 13]]
 【Yi-side】  ‐別荘‐  ‐テラス‐  肝試しも無事に終わり、全員が別荘に帰宅しました。  澪ちゃんがコンニャクをりっちゃんに投げ、  追いかけている以外は多分無事なんだと思います。  ……一体、何があったんだろう。 紬「何でも、りっちゃんにコンニャクをぶつけられたんだって」  なるほど、道理でりっちゃんだけ誰ともペアを  組まないと思っていました。先に行って、待機していたわけですね。  釣り竿でコンニャクを吊るす姿が目に浮かびます。 紬「もう夜も遅いし、寝ちゃおうか?」 唯「そうだね」  鬼ごっこをしてる二人を尻目に、私たちは寝室に向かいました。  …………。  ‐スタジオルーム‐  深夜。皆が寝静まった頃。  私はスタジオルームで、ギターを弾いていました。  寝れないからとか、そんな理由ではありません。  ちょっと上手くいかない部分があるのです。 唯(ここをこうやって)  あっ。また失敗してしまいました。 唯(難しい……)  なかなか上手くいきません。 梓「……何してるんですか?」 唯「うわっ!?」  あ、あずにゃんいつの間に!?  ドアの開く音なんて聞こえなかったよ!? 梓「まあ、テレポート使いましたから」  ああ、そういうこと。  出来るなら普通にドア開けてきてほしいよ。 梓「それで、何してるんですか?」 唯「練習。ちょっと上手くいかない部分があってね」 梓「ふむ」 梓「私も一緒に練習します。ギター取りに行ってきますね」  ……今度はドアから出て行くんだね。  * * * 梓「そういえば唯先輩に一つ報告したいことが」  ん? 梓「澪先輩にバレました」  何が? 梓「私と唯先輩が親戚ではないと」 唯「えっ」 梓「私が墓穴を掘ったわけではありませんよ。  ただ、私たちが嘘をついていただけです」  墓穴を掘っていない、というのは怪しいところではありますが、  バレたというのは事実のようです。 梓「どうします?私の正体、正直に言いますか?」 唯「……そうだね。仕方ないよ」  澪ちゃんは頭が良くて、とても鋭い人。  これ以上隠し通すのも限界があると感じました。  ならばいっそバラしてしまい、  いざという時に助けてもらった方が良いでしょう。 唯「ちょっと澪ちゃんを起こしてきてくれる?」 梓「はい」  今起こすのは悪いと思いましたが、今ほど話すのに適したタイミングもありません。  出来るだけ優しく起こすようにと、あずにゃんには伝えました。  * * * 澪「おい」 唯「いや、私のせいじゃないよ!?」  澪ちゃんがとんでもなく不機嫌です。  理由は簡単。全然優しく起こさなかったから。 梓「そうです、唯先輩のせいではありません!」  このあずにゃんのせいです。 梓「どっちかといえば、運が悪かっただけです」  百パーセントあずにゃんのせいです! 澪「はあ……まあ夜だし怒鳴るのは止めるよ。  それよりも何だ、こんな時間に起こして?」  明らかに不機嫌そう。  そんな状態で私の非現実的な話を聞いてしまったら、  馬鹿らしすぎて怒りが爆発してしまうんじゃないでしょうか。 唯「あのね、澪ちゃん。これは真剣な話なの」 澪「真剣?」 唯「実はね……」  真剣という言葉に反応した澪ちゃん見た私は、  一気に全ての事情を話しました。  かくかくしかじか、ということでして。  うんぬんかんぬん、ということなんですよ。  全ての質問が終わった頃には、  澪ちゃんの目が不審そうなものを見る目に変わっていました。  これはマズイ。 澪「……梓が天使?」 唯「うん」  ああ、どう見ても信じていません。  それが当然の反応と言えそうですが、  非現実的な話を真剣に語った手前、自分が恥ずかしくなってきます。  ですが、これは現実なのです。  なんとしても理解してもらわなくてはいけません。 唯「いや、あのね。ふざけてるわけじゃないの」  証拠を見せるのが手っ取り早いでしょう。 唯「あずにゃん、空中浮遊してくれる?」 澪「空中浮遊!?」 梓「わかりました!」  ……あれ。こんな会話を前にしたような気がします。  きっと気のせいでしょう。そうします。  そして“びゅーん”という音が聞こえそうなほど、  軽々しく真上に飛んだ梓ちゃんは、 #aa{{{          天   井 ________________          ├‐1   ト-┤ <どーん!             }___{   廴._j            `¨´   `¨´ }}}  こうなりました。 唯「……」 澪「……」 梓「……どうですか?」  あずにゃん。……やっぱり二回目だったよ。  しかもめり込み具合が前回より相当悪化してるよ。 澪「えっ?……えっ!?」  * * *  壊れた天井は、あずにゃんの天使パワーで修復しました。  さて、本題です。 唯「信じてくれた?」 澪「まあ、少なくとも梓が人間離れの石頭であることは……」  そのポイントで信じちゃいましたか。  どちらにせよ信じたのであれば、結果オーライでしょう。 唯「……さて、澪ちゃん」  バラしたからには、私にはやらなければならないことがあります。  それは澪ちゃんを味方につけるということ。  いわば、秘密を共有するということ。 唯「このことは誰にも言っちゃいけない、凄い秘密なんだよ」 澪「そうなんだろうな。わかったよ」 唯「あれ、もうわかったの?」  あっさり了承してしまいました。  ちょっと拍子抜けです。 澪「というか」 澪「こんなこと誰に言ったって、誰も信じるわけないさ」  澪ちゃんは苦笑しながら、そう言いました。  全くその通りです。まあ結果オーライ。  味方になってくれたなら、それで全て良しです。 唯「これで私たちの秘密は全部話したよ。  ごめんね、夜遅くに起こしちゃって」 澪「いや、いいんだ。元はといえば、私が原因だし」  澪ちゃんが原因。そうなのでしょうか。  この時、私の脳裏にはある光景が浮かんでいました。  あの時の澪ちゃんと、床に落ちた一枚の花弁。  二つの情景が頭の中で交差します。  交差した情景は徐々に近づいていきます。  そして、そこから繋がる一本の糸が伸びて……。 唯「……」  ……止めておきましょう。今は合宿中です。  しばらくそのことは忘れておくべきなのです。  他に楽しんだりする事があるうちは、まだ。 澪「唯?」 唯「……あっ、ゴメン。ちょっと寝てたかも」 澪「ふふ、唯らしいな。さすがに布団に戻ろうか」 梓「私も眠いです」 唯「うん、じゃあ戻ろうか!」  嫌なことは忘れて、寝てしまおう!  私は心の中で自分をそうやって励ましました。  ‐寝室‐  床についた私は、何故か眠りにつけませんでした。  夜遅くまで起きすぎていたのでしょう。  そんな私はゴロゴロと掛け布団に巻かれながら  転がっていました。深い意味はありません。  私は丁度、鉄火巻きのマグロの構えになっています。  どん。何かにぶつかりました。  ぶつかった方を見てみると、澪ちゃんがいました。 唯「……では、失礼して」  私を巻いていた海苔……ではなくて布団を剥がし、  澪ちゃんに抱きつきます。澪ちゃん抱き枕の完成です。  これで寂しい夜も安心です。  ところで、時間が経つに連れて、  抱き枕の温度が加速度的に上昇していったのは、  私が抱き付いたせいなのでしょうか。  いや、夏だからか。  -翌日・海-  この日も練習、及び遊びに精を出しました。  (ただし八割は……言わずもがな、です)  が、今日は昨日と違うというのが世界の常識ですので、  当然今日は昨日とは違うイベントが起きるわけです。  それは良いことなのか悪いことなのか、  残念ながら私たちに予見することは出来ません。  ただ、 梓「……なんだか、くらくらします」  イベントが発生した時点で、それは判断可能となります。  今回は間違いなく悪い方。  私たち全員、そんなあずにゃんの発言に青ざめていました。 紬「……まさか……。  りっちゃん、これ別荘の鍵だから先に戻って!」  すぐにムギちゃんはあずにゃんを背負い、  りっちゃんに別荘の鍵を預けました。 律「わかった!」  鍵を受け取ったりっちゃんと、私と澪ちゃんは  色々な準備をするために先に別荘へ急いで戻りました。  私には天使の病などわかりませんが……。  人間基準で見れば、あれは“熱中症”が疑われます。  ‐別荘‐  -エントランス-  澪ちゃんは以前覚えたという作り方で経口保水液を用意。  りっちゃんは霧吹きを見つけたので、その中に冷水を。  私は部屋のエアコンを起動させた後、冷凍庫にあった氷枕を持ってきました。  きっと、これで準備としては十分のはずです。  大丈夫だといいのですが……。  準備がほぼ完了すると、ムギちゃんが戻ってきました。  背負われたあずにゃんは海岸にいたとき同様、ぐったりしています。 唯「あずにゃん!」 梓「あ、唯先輩……」 唯「ゴメンね、私が早く気付いてあげれば……!」 梓「い、いえ、そんなことは……」 律「いいから、早く横になれって!」 梓「皆さんすみません、心配かけちゃって……」  本当に申し訳ないのは、間違いなく私たちの方です。  遊び呆けて、挙句の果てはまともな水分補給も忘れてしまったのですから。  特に私は、水着を買いに行った日に約束したはずです。  あずにゃんの面倒を見ると。  回復したらもう一度、あずにゃんには謝らなくてはいけません。  私たちの必死の処置で、幸いにも症状は軽く済みました。  ですが、今日一杯海で遊ぶことは控えざるをえないでしょう。  -テラス-  室内での合宿。私は一人、テラスに座っていました。  別荘の中には去年と違う、少し居心地の悪い空気が流れていました。  だからでしょう。私は外の空気に吹かれていたかったのです。  これは誰の責任でもなく、  あるいは私たち先輩の責任でもあります。  だからといって、いつまでも落ち込んでいることを  あずにゃんは望んでいませんでした。  心配する私に、あずにゃんは言っていました。 梓「私は天使であり、人に迷惑をかけるのを嫌います」  ……んっ?  ま、まあ嫌うことと、しないことは別です。  ですからセーフなんです。きっとツーストライクなんです。 唯「……」  ここにいると、風に乗った潮の香りが流れてきます。  おかげで少し気分を晴らすことが出来ました。  が、それは同時に他のことを考える余裕が  出来たということでもありました。 唯「澪ちゃん……」  あの日の視線。  実際に見たときは、大して気にしていませんでした。  しかし、後日に起きた“落ちた花弁事件”以降は、  何故かその視線が気になって仕方ありません。  あずにゃんは、これを悪い方向へ考えるには  まだ早いと言っていました。それは正しいと思います。  ですが、聞かなくてはいけないとも思うのです。  “澪ちゃんは視線の先に、何を見ていたのかを。” 唯「……聞こう」  私は、決心しました。  * * *  夜。また全員が寝静まる時間。  私は澪ちゃんと二人で、テラスにいました。  空一面には星が瞬き、月の光が私たちをぼんやりと照らしていました。  この大空に文句を言うわけではありませんが、  あまりに他人事、場違いすぎるのではないでしょうか。  いえ。場違いじゃない。そうではないと、私は願っているのです。  ですから、これは適した場面といえるのかもしれません。  ……そうであって欲しいものです。 澪「なんだ二日連続呼び出して?」 唯「うん、ゴメンね。迷惑だよね」 澪「いや。律なら悪戯をしかけるだろうと思って  無視するけど、唯は別だ。何か理由があるんだろ?」  そうやって澪ちゃんは私に微笑みかけました。  今の澪ちゃんの頭では、どんな未来が見えているのでしょうか。  軽音部の相談をする未来?  恋愛相談をする未来?  まさかの告白?  どれも違うのです。そして、どれも似つかないのです。 唯「じゃあ単刀直にゅ……うに、言うね」  私は、たった今澪ちゃんに向けられた言葉が、  あの新聞部員に向けられた言葉と同じだったことに気付きました。  そして、これ以上言葉にすることを躊躇しました。  しかし一度発しようとした言葉は止まりませんでした。  結局全て言い切ってしまいました。  つまり、今の澪ちゃんを、私は……。 唯「……違う、絶対違うよ」  私は小声で自分の考えを否定しました。  澪ちゃんには聞こえていません。 澪「どうしたんだ?」 唯「うん、ゴメン。言い直すね」  そうじゃないと、私が私を許しません。  これ以上自分に罪を重ねさせることは許されないのです。 唯「ちょっと聞きたいことがあるんだ~」 澪「うん」  出来るだけ、嫌な気持ちを隠すように。  私は明るく装っていました。 唯「あのね、あの日のことなんだけど」 澪「あの日?」  園芸部員さんが……と言おうと思ったところで、言葉を飲み込みました。  もっと違う言い方がいい。そう感じました。 唯「豪雨で、私と澪ちゃんが部室で雨宿りした日」 澪「……ああ、あの日か」  澪ちゃんの表情から笑顔が消えました。結局。  でも止めて。違うの。私は本当にそう思ってるわけじゃない。 唯「えっと、だからね、その……」 澪「……」 唯「……お願い、私を……」  私を?違う。私じゃない。 唯「ううん。違う。違うんだよ!!」  突然私が叫んだことに澪ちゃんは驚きました。  そして、澪ちゃんは私を心配するような表情に変わりました。 澪「唯、本当にどうしたんだ!?誰かに何かされたか……?」  澪ちゃんのその問いが、私の何かを解き放ちました。  言葉を抑える何かが取り去られ、思った言葉が  そのまま外へ流れ出て行きました。 澪「唯?」  誰か?……その答え。 唯「……澪ちゃんが……」 澪「えっ……私?」  何かされた?……その答え。 唯「あの花瓶を見てたの……。とっても怖い目で……」 澪「……」  そして、私が澪ちゃんを呼び出した理由。 唯「澪ちゃんはあの時、何を花瓶に何を見ていたの……?」 澪「それは……」  もう一つ。でも、これは言ってはいけない。ダメ。  ですが、今の私ではどうしようもありません。  いつの間にか感情を抑えるダムが、決壊していたのです。 唯「後で見つかった床に落ちた花弁のことなんだけど……。  ……澪ちゃん、何か知ってるんじゃないの……?」  ……ああ、言っちゃった。  今の私は感情を抑える術を持ち合わせていません。  だからでしょうか。涙が突然溢れて、止まらなくなってしまいました。 唯「本当は、言いたくなかったんだよ?  自分が軽音部の仲間を疑ってるなんて、信じたくなかったから……」 唯「でも……!」 澪「……そうか、なるほどな。それが聞きたかったのか」  泣き止まぬ私の頭を、澪ちゃんはそっと撫でてくれました。  大きくて頼りがいのある手は私の心を確かに安らかにしてくれます。  ですが、いつでもそうでした。  結局今日起きるイベントというものは、良いものか悪いものか予見できず、  実際に起きてみないと判断できないということが。 澪「唯。多分その通りなんだよ」 唯「えっ……?」 澪「あの花弁は、きっと私が落としたんだ」  ―――私は聞きたかったのでしょうか。  一番聞きたくなかった、その言葉を。  私のお腹にぽっかりと穴を空けた、その言葉を。  私は泣きたかったのでしょうか。  いつでも隠れた事実は暗くて悲しいものだから。  それを明かした私は、きっと。  私は救われたかったのでしょうか。  前はあずにゃんの言葉で。  今度は澪ちゃんの言葉で。    違う。違うんだ。  私は聞きたくなかった。だけど聞いた。  私は泣きたくなかった。だけど泣いた。  私は救われることを、望んだわけではなかった。  私は謝りたかった。私自身の罪を。  どこかで澪ちゃんに疑いを向けていた私を。  疑う必要なんて無かったはずの場で、  疑いを向けていた、この私を。  でも。 唯「なんで……どうしてなの、澪ちゃん……?」 澪「……ごめん。唯にだけは言えない」  罪は冤罪に、疑いは事実に変わってしまった。  私が謝る理由も機会も方法も、泣き止む術さえも……、  無くなっていたのです。 第七話「夏は夜、月は見えていた」‐完‐ #exkp(p){{{#ref(私が天使だった頃1.jpg)}}} #exkp(k){{{#ref(tensi1.jpg)}}} ―――第八話に続く [[13>梓「それは私が天使だった頃のお話」 13]]

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