「唯「きのう何食べた?」 1」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

唯「きのう何食べた?」 1 - (2014/08/03 (日) 17:35:17) の1つ前との変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

// // // // // これは、あの卒業式から二十五年以上が過ぎた十月のお話…… ――金曜の夜。駅前の居酒屋にて。 唯「おーい、りっちゃん。こっちこっち」ブンブン 律「おー、いたいた。ひっさしぶり!」 唯「ホント久しぶりだよね。何年ぶりかな」 律「最後にみんな集まったのが澪の結婚式ん時だから、もう四年ぶりになるのか? 電話や   メールくらいだったもんな。 ……しっかし唯は変わらないなぁ」 唯「いやぁ、さすがの私も結構あちこちガタガタだよ。もう来月には四十五だし……」 律「さすがの、ってコノヤロw」 店員「いらっしゃいませ。こちらお通しの松前漬けとイカの塩辛です。お飲み物はお決まり    ですか?」 律「とりあえず生で。唯は?」 唯「あ、私も。生二つでお願いします」 店員「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」 律「で、どうよ。最近」 唯「それこそ変わらないよ。毎日何とか先生やってる。でも最近の子はよくわからないねえ。   私達が高校生の頃はもうちょっとこう、ね」 律「まあ、そんなもんだろ。私達だってそんな風に言われてたんじゃない? っていうか、   そうじゃなくてさ。いい加減、男のひとつもいないのかって」 唯「あ、え、えーと…… 彼、氏…… こ、恋人ならいるよ。今一緒に住んでるし……」 律「マジで!? ついに唯にも春が来たか! どんな人!?」 唯「え? あー……」 店員「生ビール中ジョッキお待たせしましたー」ガチャガチャ 唯「あ、はーい。はい、りっちゃん」ヒョイッ ヒョイッ 律「お、サンキュ」 店員「ご注文はお決まりですか?」 唯「あ、もずく酢とマグロ山かけください」 律「渋いなぁ」 唯「こう見えても健康に気を遣ってるんだよ」 律「私、ホッケと刺身七種盛り合わせ。あと厚焼き玉子」 店員「かしこまりました」 唯「見事に肉も油物も無いねw」 律「最近それ系キツくてなw まあ、年相応ってヤツだw」 唯「じゃ、再開を祝して、かんぱーい」スッ 律「乾杯」カチッ ングッングッングッ 唯「ふう」 律「ぶはーっ。で、唯さんの彼氏はどんな人なの? ちょっとおばさんに聞かせなさいよ」ワクワク 唯「うーんと…… 先に同窓会のこと話そうよ。今日のメインはこっちだし」 律「あ、そうだった。いやー、なんか悪いなぁ。唯にまかせっきりにしちゃって」 唯「だいじょぶだいじょぶ。母校の教師やってるとそっち方面も色々とやりやすいしね。   えーと、こっちが資料でー…… あ、ちょっと待ってね」スチャッ   律「あれ? 眼鏡なんてかけてたっけ? 目悪くなったのか?」 唯「これ老眼鏡。最近小さい文字が厳しくてねー」 律「うへー、ついに来たかー」 唯「ホントは和ちゃんが昔かけてたような赤いのがよかったんだけどね、『四十過ぎて赤は   無いでしょ』って言われたから、この黒のアンダーリムにしたの」 律「なんだ。和とは会ってたんだ」 唯「あ……! あー、ホラ、幼馴染みだから。親同士も仲いいし。それより、りっちゃんは   老眼まだ?」 律「幸いなことにねー。まあ、老眼はまだだけど今度おばあちゃんになるよ」 唯「へ!? おばあちゃん!?」 律「うん、娘の出産が近いんだ」 唯「ええ!? あの娘さん、もうそんな大きくなったの!? はぁー、そりゃ私も老眼に   なるはずだよ…… そっかぁ、りっちゃんがおばあちゃんかぁ……」 律「昔から澪に『律二号だな』なんて言われるくらい似てはいたけど、若くして未婚の母、   ってとこまで似なくてよかったのにな…… まったく……」 唯「大変だね……」 律「もう二十四にもなるいい大人なんだから、私もあれこれは言わないし、好きなように   生きてくれていいんだけどさ…… まあ、せいぜい孫の面倒でも見てやるさw」 唯「産まれたら私にも会わせてね。ばあばw」 律「それはもちろんだけど、先に唯の彼氏に会わせろよ。なあ、どんな人?」 唯「さあ、同窓会の話し合い始めるよ!」 律「話をそらすなー!w」 ――午後11:00過ぎ。唯と和が住むマンションにて。 唯「ただいまーっと。和ちゃん、起きてるかな?」ガチャ 和「おかえり……」グッタリ 唯「の、和ちゃん! テーブルに突っ伏してどうしたの!? 具合悪いの!?」 和「大丈夫、疲れてるだけ…… 倒産した北白川重工の仕事に加えて、裁判所依頼の破産   管財人の仕事が重なっちゃってね…… 数年に一度の祭りみたいな状況なのよ……」 唯「ええっ、北白川重工って大企業だよね?」 和「うん…… とんでもなくめんどくさい上に、もうひとつの裁判所依頼の方は絶対に   断れないのよ…… 断ると二度と来ないから……」 唯「ありゃあ…… で、でも日付が変わる前に帰ってこれてよかったね! あとはゆっくり   休んで――」 和「ううん…… 一旦、シャワーと着替えをしに戻ってきただけ……」 唯「え? 一旦?」 和「またこれから事務所に戻るわ……」 唯「そんな! 身体壊しちゃうよ!」 和「しょうがないのよ…… 祭りだから……」 唯「祭りって…… ご飯は? 食べた?」 和「ううん……」フルフル 唯「……よし! 和ちゃんはシャワー浴びてて! その間に私がご飯作っとくから!」フンス 和「え……? でも……」   唯「いいから! ちゃんと食べなきゃ身体がもたないよ!」 和「うん…… じゃあお願い…… 私、シャワー浴びてくるから……」 唯「まかせて!」 ――キッチンにて。 唯「じゃあ、まずは卵焼きからっと。結構苦手だけど…… あれ、前に和ちゃんが書いて   くれたメモどこだったっけ」 唯「えーと、まず合わせだしだね。水80cc、和風だしの素少々、醤油小さじ1、お塩2つまみ、   お砂糖大さじ1.5をよく混ぜ合わせると……」カチャカチャ 唯「で、卵三個をボウルに割って、菜箸の隙間を開けてボウルの底に白身をこすりつけて   千切るようにまっすぐ前後に10往復……」シャカシャカシャカ 唯「そしたらボウルを90度回してまた前後に10往復。『卵はあまり混ぜ過ぎない。白身の   ダマが残るくらいで』か。なるほどー……」シャカシャカシャカ 唯「ここで卵に合わせだしをだーっと…… で、また菜箸で縦横10往復ずつ前後に切るように   卵とだしを混ぜると……」シャカシャカシャカ 唯「さて、こっからが大変なんだよねー」 唯「サラダ油をしみ混ませたキッチンペーパーを用意して、卵焼き鍋を強火で1分加熱   させたら……? え、えーと『卵焼き鍋の横からはみ出さない程度に火を落とす』   と……」モタモタ 唯「ペーパータオルで油を引いて…… な、なんか鍋がすごく熱そうでドキドキする……」シュウウウウウ 唯「ま、まずお玉1杯分の卵液を入れ―― きゃあああああ!」ジュワアアアアアッ 唯「ちょっとちょっと! すごい勢いで卵が焼けちゃってる! やだもう、卵液がだしで   柔らかくってお箸じゃ全然返せなーい!」ジュウオオオオオッ ※和メモ『大きな気泡だけつぶしながら待ち、表面がドロドロになってきたら卵を奥から 手前へ三つ折りにたたむ』 唯「お箸無理! フライ返しにしよう! ええっと、手前に三つ折りって、ああん、もうダメ!   なんかグチャッとなっちゃって! でも、とにかく卵を手前に寄せて……!」グイグイ 唯「んで、今度は前に寄せてから、開いたとこにまた油を引いて、お玉2杯分の卵液を   入れてっと! は、早くしなきゃ……!」ジュウジュウ 唯「『15秒ほど置いて、まだ固まっていない卵を卵焼きの下に流し入れる』って、これでいいの?   で、またドロドロになるまで待って……? あー、もう15秒とか全然わかんないよぅ!   これ大丈夫かな……」ジュウジュウ 唯「と、とにかく焼けてきたら卵を奥から手前にパタンと……」グイグイ 唯「えっと、そしたらまた卵液を、うわわわわ! あ、あとはまた同じ工程を繰り返して……!   ああもう、すっごいテキトーになっちゃったけど、まあいいや、もう……」ワタワタ 唯「な、何とか卵焼き出来たよぉ……」グッタリ 唯「……あっ、続き続き」ハッ 唯「軽く2膳分の冷凍ご飯をチンして、軽く水で洗って……」ジャー 和「ふう、スッキリした……」ガチャッ 唯「あっ、もうちょっとだけ待っててね。すぐ出来るから」 和「ええ。楽しみにしてるわ」 唯「この洗ったご飯にたっぷりの水と白だしをテキトーに入れて火にかけるっと……」カチッ 和(あ、貴重な白だしをそんなに……) 唯「その間に鶏モモ肉を一口大に切って、鍋が沸騰してご飯がふやけてきたら鶏モモ肉を   入れてっと……」グツグツ 和(たぶん雑炊だと思うんだけど、雑炊二人分に鶏モモ肉1パックって多すぎじゃ……) 唯「ん、味はこんなものかな。お吸い物よりちょっと薄め。で、最後は卵でとじて……   あっ、三つ葉切っとかなきゃ! わわっ、鶏肉切ったからまずまな板洗わなきゃ!」オタオタ   和(相変わらず手際が悪い……) 唯「出来た! 和ちゃん、出来たよー!」 〈今日の夜食〉  ・鶏肉と卵と三つ葉の雑炊  ・卵焼き 和「あら、美味しそうじゃない(卵焼きと卵とじ雑炊って、おもいっきり卵がダブってる……)」 唯「ささ、食べよう食べよう!」 和「いただきます」 唯「いただきまーす!」 和(あら、もしかしてこの卵焼きかなり上手く出来てる……?)モグモグ 唯「ねえねえ、和ちゃん! この卵焼き、見た目悪くなっちゃったけど美味しいよ!   お店屋さんのみたいにじゅわっとジューシー! さすが和ちゃんのレシピだね!」 和(雑炊も結構いい味。やれば出来るんじゃない。これならもう少し教えて実践を重ねれば   もっと上手くなるわね。今までは私ばかり作ってきたけど、これからのことを考えたら   唯も料理が出来た方がいいわよね。老後に健康でいるのが私とも限らない訳だし……)モグモグ 唯「の、和ちゃん? 味の方はどう……?」 和「……え? ああ、すごく美味しいわよ。ありがとう、唯」 唯「えへへー、よかったぁ」ニコニコ ~20分後~ 和「ごちそうさま」 唯「ごちそうさまー!」 和「あ、そういえば唯……」 唯「なぁに?」 和「……やっぱり後で話すわ。今抱えてる仕事が全部終わらないと時間も取れないし」 唯「そうなの? じゃあ落ち着いたらお話してね」 和「うん。さて、戻らなきゃ……」 唯「あまり無理しないでね……?」 和「ありがとう。行ってきます」ニコッ ――数日後。私立桜が丘女子高等学校。放課後、職員室にて。 唯「はぁあああああ……」ドヨーン さわ子「お疲れ様、平沢先生。どうしたの? そんな浮かない顔して」 唯「あ、山中先生。お疲れ様です」 さわ子「悩み事があるなら聞くわよ。職場の先輩としてがいい? それとも友人として?」 唯「じゃ、じゃあ友人として」 さわ子「よーし。話してみて、唯ちゃん」 唯「それがねー、のど…… パ、パートナーの仕事が忙しくて最近全然一緒にいられなくて。   毎日毎日一人の食事がさびしくてさー」 さわ子「浮気してるんじゃないの?」 唯「そんなことないよ! のど…… あ、あの人に限って浮気なんて絶対ありえないんだから!」ガタッ さわ子「じょ、冗談よ。冗談」   唯「冗談になってないよ! まったくもう、さわちゃんったら」プンプン さわ子「でも、真面目な話、その忙しいのはいつものことなの?」 唯「ううん。数年に一度って言ってた。実際、一緒に住み始めてから初めてだし」 さわ子「それなら辛抱しなきゃ。むしろそんな時くらい唯ちゃんが彼氏を支えてあげないと     ダメよ。どうせいつもおんぶに抱っこなんでしょ? 唯ちゃんのことだから」 唯「むむむ。言い返せない……」 さわ子「何がむむむよ。いい? そのくらいで腐ってるヒマがあったら、彼氏が唯ちゃんの     ことを気にかけること無く安心して仕事に打ち込めるくらい、自分を磨きつつ家の     中をキチンとする努力をしなさい」 唯「はーい……」ショボン さわ子「とりあえず、まずは自分一人だからってパスタばかりとかスーパーのお惣菜とかを     やめることね。栄養が片寄るし、不経済よ」 唯「な、なんで知ってるの!?」ドキッ さわ子「そりゃわかるわよ。自分の通ってきた道だもの」 唯「なぁんだ。さわちゃんも同じだったんじゃん」 さわ子「私がそうだったのは二十代までだけどね」 唯「ぐぬぬ……」 さわ子「まあ、精進しなさい。ここで気づけてよかったじゃない。始めるのが遅すぎること     なんて、この世には無いんだから」 唯「頑張ります……」 さわ子「よろしい」 唯「……ねえ、さわちゃん」 さわ子「ん? なに?」 唯「さわちゃんは私のパートナーのこと、『どんな人?』とか『まだ結婚しないの?』とか   聞かないんだね」 さわ子「あら、聞いてほしかった?」 唯「ううん。そうじゃないけど……」 さわ子「じゃあ、いいじゃない」 唯「……ありがとう、さわちゃん先生」 さわ子「どういたしまして」 教頭「オホン! 井戸端会議は終わりましたかな? 山中先生、平沢先生」 さわ子「さーて、仕事仕事ー!」 唯「け、軽音部の様子を見に行かなきゃー!」 ――その日の夜。自宅マンションにて。 〈今日の晩ご飯〉  &nowiki(){・}ハヤシライス  &nowiki(){・}トマトとレタスとキュウリとパプリカのサラダ 唯「市販のルウだけどちゃんとハヤシライスを作ってみました! 玉ねぎ多めでシメジも追加!   テキトーに切っただけだけどサラダも添えて栄養バランスもバッチリ!」フンス 唯「ハヤシなら冷凍しといて後で和ちゃんにも食べてもらえるしね。いっただっきまーす」 カチャ モグモグモグ カチャカチャ モグモグ 唯「とはいえ、一人の食事がさびしいことに変わりはないワケで……」クスン   唯「頑張ってお料理しても和ちゃんが帰ってくるかどうかすらわかんない状況だし……   そもそも『泊まり込みが多くなるから私の分はいらないわよ』なんて言われてるし……」ドヨヨーン ヴーンヴーンヴーン 唯「およ? りっちゃんからだ。 ――はい、もしもし」 律『今、大丈夫か?』 唯「うん、大丈夫だよ。どしたの?」 律『同窓会の会場でいくつか確認したいことがあってさ。あと連絡や段取り、私も手伝うから   手分けしようかと思って』 唯「あー、助かるー。ありがとう、りっちゃん。ちょっと待っててね。今、資料取ってくる」 ~1時間30分後~ 唯「――って感じでいこうか」 律『オッケー、こっちはまかせといて。 ……あ、そうだ』 唯「なぁに?」 律『ちょっとさ、スマホをスピーカーにしてテーブルの上に置いてくんない?』 唯「いいけど…… 何するの?」ピッ コトッ 律『……こんばんはぁー!! 唯の友人の田井中律と申しまぁーす!! 唯の彼氏さん   ですかぁー!?』 唯「ちょ、ちょっとりっちゃん!」 律『いやー、唯の彼氏と話してみたくてさw この時間なら一緒かなって――   チョットリツ! アンタナンジダトオモッテンノヨ!   キュウニオオキナコエダサナイデヨカアサン! ビックリスルデショ! ハスイシタラドウスンノサ!   ごめんって! 悪かったよ! ――もしもし、唯? 彼氏に声届いた?』 唯「んもー! りっちゃんったら! 今日は仕事が遅くていないの!」 律『なぁんだ、つまんね。でかい声出して損した』 唯「いてもいなくても非常識でしょ!」 律『ご、ごめんごめん。怒んなってw』 唯「そんな怒ってはいないけどさ…… じゃあ、また近くなったら連絡するから。一応、   最終の打ち合わせしようね」 律『わかったー。んじゃ、またなー』ピッ 唯「ふう、こんだけさわちゃんと正反対だと逆に清々しいよ……」 唯「……」 唯「……」 唯「……」 唯「私と和ちゃんの関係を知ってるのって誰だっけ……? お父さんと、お母さんと、憂と、   憂の旦那さんと…… あと姫子ちゃんと風子ちゃんか……」 唯「それほどカミングアウトしてるってワケでもないんだよねー……」 唯「いつになったら誰にも秘密にしなくていい時が来るのかなぁ……」ハア ――それから更に二週間後。自宅マンションにて。 唯(今日はご飯どうしよう。めんどいけど、お魚焼いてみようかなぁ。あ、でも同じお魚なら   お刺身がいいなぁ。でも、スーパーまで戻るのもやっぱりめんどい……)スタスタ ---- [[2>唯「きのう何食べた?」 2]]

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: