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梓「それは私が天使だった頃のお話」 27 - (2013/03/16 (土) 16:19:42) の最新版との変更点

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 * * *  一通りの考え事が終わった頃、  外の屋台から、緑が盗まれた!青海苔だ!  という叫び声が聞こえてきた。  が、そこに生徒会室へ持ち込まれた、  その屋台に残されたとされるメッセージカードを  一瞥した私は、正直落胆した。  はっきり言って、今までで一番出来の悪い文章だ。  模倣するのも疲れてきたのか。  しかし私の隣では、別の意味で溜め息を吐く和がいた。  それもそうだろう。生徒会は模倣犯に対する警告を  新聞部を通じて行ったのにも関わらず、  こうして止まらなかったのだから。 和「まあ、お祭りで浮かれているのはわかるけど。  ちょっとキツイわね」  和は苦笑いを浮かべた。  一方、憂ちゃんたちは次の配置について  話し合っているようだった。  先輩の私たちより随分計画性がある。  私の視線に気付いたのか、梓がこちらへ振り向いた。 梓「あの、澪先輩たちも協力してくれるんですよね?」 澪「そのつもりだよ」 梓「じゃあ私と一緒に行動しましょう。  携帯電話、持ってないんで」  私が憂ちゃん、鈴木さんと連絡先を交換した上で、  分かれて行動するって寸法か。  それならば梓が携帯を持っていない  リスクもカバーできる。お見事。 澪「了解。じゃあ、憂ちゃんと鈴木さんと、  連絡先を交換した方がいいよね?」  私の発言に、後輩三人は目を丸くしていた。  あれ、なにか間違えたかな。 純「……今の梓の言葉だけで、よくわかりましたね」  そっちの意味で驚いていたのか。  安心して胸を撫で下ろす。 純「では、私から送ります。どうぞ!」  鈴木さん、登録完了。 憂「今度は私ですね」  憂ちゃん、登録完了。  そして二人に私の電話番号とメアドを書いた  メールを送り、連絡先の交換は完了した。  それを見ていた和が口を出した。 和「これだけいても、澪は手際がいいのね。  生徒会の仕事もそれぐらい手っ取り早く出来ると  いいんだけど」 澪「いや、そんな凄いことじゃないよ。  それにしても、そんなに大変なのか、仕事」 和「そうね」  あっ、ただの愚痴だから真剣に聞かないね。  そう前置きした和は、宣言どおり次々と愚痴をこぼしていった。 和「例えば昨日だと、舞台で澪たちが  演奏している間は舞台袖。  時間配分から発表団体の準備の程度を逐一チェックするのよ。  それが終わったら今度は生徒会室で事務仕事。  たまに転がり込んでくる問題に対応するの。  正直あまり人は来ないから、楽だけど楽しくないわ。  最後の方はクラスのお手伝い。  これは楽しく出来たけれど、レインボー登場で事態は一変。  また生徒会の仕事に戻る必要が出ちゃったのよ」  聞いているだけで大変そうだ。  果たして、自由時間というものがあったのかどうか。  しかしそれにしても、いくら手際がいいと言われたって、  やはり私にはそこまで出来ない。  結局、和の方が手際いいんじゃないのか?  そう言うと、和は、 和「そこまでじゃないわ、私は」  と言って、肩をすくめた。いやいや、十分凄いよ。  その和の肩を姫子がつつく。 姫子「この流れに乗って、私たちもメアド交換しない?  唯のファンクラブ結成のために」 和「あ、それはいいわね。是非」  冗談で交わされる連絡先。  なんか見ていて微笑ましい。  そういえば折角姫子と友達になったのに、  私も連絡先を交換していなかった。  そこに私も混ぜてと、そう言おうとした時。  「今のは聞き捨てならないよ、二人とも!」  【Yi-side】 唯「ちょっとちょっと、ダメだよ!  ファンクラブなんて、ノーサンキューなんだからね!」  私と文恵ちゃんで看板を持ち、  学校中をうろちょろ遊び回っていたら  間違えました。  学校中をうろちょろ宣伝し回っていたら、  とんでもない言葉が聞こえてきたので、  思わず叫んでいました。  ……なんですか、ファンクラブって!  それは澪ちゃんのもので足りてるでしょう!  全く、これだから人気者になると困ります。 文恵「えっ、面白そうじゃない?」  面白そうって形容した時点でアウトだと思います。  というか、人多いです。  よく見ると見知った顔ばかりで、  憂、澪ちゃん、和ちゃん、あずにゃん、姫子ちゃん、  純ちゃん、私の背後に文恵ちゃん。  あと確かあの人は生徒会長の恵先輩。  これだけいるということは、  必ず何かが起きたということです。  そう思って、それを聞こうとしたところ、 純「あっ、もう劇の準備する時間だよ!  二人とも早く行かないと!」 憂「え、えっ?」 梓「十時二十分……。  もう準備開始する時間だ、急がないと!」 憂「あ、本当だ!急ごう!」  三人は講堂の方へ走っていってしまいました。  劇の準備といっていましたから、  多分クラスの劇の準備でしょう。 恵「元気な子たちね。さて、私も行くわ」 和「どこへですか?」 恵「パトロール。ここの見張り番は、  真鍋さんに一旦任せるから。それじゃ」  次に恵先輩がこの場を離れました。  八人いた廊下が、途端に四人減りました。 姫子「じゃ、私たちもどこか行く?」 澪「あ、ちょっと待ってくれるかな」  おっと、更に減りそうというところで、  澪ちゃんが待ったをかけました。 澪「……ちょうどいいから、  皆に聞いて欲しいことがあるんだ」  一体なんでしょう。  レインボーに近づくヒントでも見つけたのでしょうか。 文恵「私がいてもいい話?」 澪「うん、問題ないかな」  澪ちゃんは咳払いをして、話を始めました。 澪「……これは昨日、  私が出した模倣犯見分け方の補足説明だ」 姫子「グループ分けの?」 澪「そう。実は昨日、家に帰ってから私は、  “あれは言い過ぎた”と思っていたんだ」  言い過ぎた。そうでしょうか、  私には十分な推理に感じられましたが。 澪「当然、あの場で弾き出した模倣犯は、  全部そうだと思っていい。  私が言い過ぎたのは別の点だ」 唯「それはどの点なの?」 澪「“レインボーは絶対単独犯だ”ってところ。  あの場での絶対っていうのは、  今までに起こった事件に対しての言葉だったと、補足したい。  つまりレインボーは、今まではほぼ単独で行動していたが、  これからはどうなるかわからない」  恐らく、そこにいた全員が面食らっていました。  私も姫子ちゃんも、和ちゃんも。 和「それは、レインボーが実は複数犯だとでもいうの?」 澪「わからない。ただどちらにも断定は出来ない。  でも模倣犯の存在だけは確かだと、それは断定する」 唯「でも文面の特徴が……」 澪「文面を書いた人間が一人で、  実行に移しているのが  もう一人という可能性も捨てきれない」  その推論に、私は唸っていました。  確かに、どうしてその可能性を忘れていたのでしょう。  でも、だからといって、そうだとは限らない。  澪ちゃんはさっきそう言っていました。  ……まだ、どうにも動けそうにないと、  そう言っているようにも聞こえました。 澪「まあ、それでも。文化祭で意味のない盗みを  繰り返す人間なんて、そんなに多くないよ。  実行犯が一人と協力者が一人が、精々じゃないかな」  * * * 文恵「なんか想像以上に本気だね」  仕事に戻った私たちはまた、  廊下を看板持って歩いていました。  後方からはまだ、  澪ちゃんたちの声が聞こえています。 文恵「なにか訳あり……って、あれだよね」  文恵ちゃんは苦い顔をしました。  そういえば、あの新聞を私たちに届けてくれたのは  文恵ちゃんでした。 唯「まあ、敵討ちってわけじゃないんだよ。  後輩がね、どうしても許せないって言うの。  それで深入りしちゃうのが怖かったのかな」 文恵「怖かった?今は違うの?」 唯「まあ、最初の印象と違うというかねえ」 文恵「なるほどね。でも、意外かな」 唯「なにが?」 文恵「ううん、思い違いだよ、きっと。  ただ、もう少し唯なら楽観的に、  物事を考えられるんじゃないかなあって」  確かに、一年生の私ならそうでしょう。  しかし今年は色々ありすぎました。  ……例えば、人の裏側が見えてしまったりとか。 唯「春に、ちょっと事件があってね。  まあ、その、人の嫌な部分を見ちゃったの」 文恵「それが影響して、今の唯が誕生したってこと?」  私は頷いて、それを肯定しました。  自分でもある程度はわかっていました。  あの事件が、園芸部の塵取りテニスの真実が、  確実に私の価値観を壊して作り変えたのだと。 文恵「ああ、そうだったんだね……。  じゃあもう、あんまり詳しいことは聞かないよ。  唯、悲しそうな顔してるもん」  そうでしょうか。  果たして私は今と昔、  どちらがいいと思っているのでしょう。 唯「……えっ」  そして、どうしてなのでしょうか。  その選択肢を前にした時、私は他の誰でもない。  “あずにゃんの顔を思い浮かべていたのです。” 文恵「……また悲しそうな顔してる。  そんな顔で宣伝なんて、出来ないよ?」  む、それもそうです。  頬を叩いて、気を引き締めました。 文恵「違う、違う。そうじゃなくて」  しかし、文恵ちゃんはそう言うと、  私から看板を取り上げてしまいました。 唯「え、文恵ちゃん?」 文恵「唯、行ってきなよ」  文恵ちゃんは二つの看板を、  どこぞの漫画やゲームに出てきそうな  二刀流のように構えて見せました。 文恵「私はこれで頑張るからね」  なんだか頼もしい。  そう思うと、ちょっと笑えてきました。 文恵「なに笑ってるの?」 唯「ううん、なんでもないよ!  文恵ちゃん、ありがとう!」 文恵「うんうん、そっか。  ……あれー、でもそれだけいい顔されると、  宣伝に行かせたくなっちゃうかもなあ」 唯「じゃ、じゃあ急いで行ってくるね!」  どう聞いても、私を急がせたいだけ。  文恵ちゃんめ、なかなか策士です。 文恵「唯」 唯「ん?」 文恵「頑張って!」 唯「……うん!」  【Mi-side】  ‐二年一組教室‐  神は私を見放していなかった。  ありがとう、神様。ありがとう、地球。  ありがとう、木村さん。 唯「えへへ、来ちゃったよ~」  ありがとう、私の天使! 姫子「澪?おーい、澪、帰ってこーい」  今の私なら、天にも上れる気がする。  グッバイ、現世。 澪「……」  とはいえ、今の現状を無視して、  天に上ってはいられない。私は目を閉じた。  意識を現実に引き戻したところで、  ゆっくり目を開ける。 澪「よし」 唯「大丈夫?」 澪「大丈夫だ、私の天使」 唯「全然大丈夫じゃない!」  そんなことはない。  ふと、唯が手に持ったものが気になった。  唯がお腹が減ったと言っていたので、  私が奢ってあげたものだ。 澪「そういえば、そのホットドッグ早く食べてあげて。  私のクラス自慢の品物だけど、  出来るだけ熱々のうちに食べてもらいたいな」  唯が途端に顔をしかめた。  手元のホットドッグに視線を落とす。 唯「……どうせならレインボーも、  マスタードを全部盗めば良かったのに……」  小さく吹き出してしまった。  それはちょっとだけ困る。  * * *  唯が顔を歪めながらホットドッグを  食している中、私たちは教室の隅に設けた  椅子に腰かけていた。  会話の場所に二年一組を選んだ理由は簡単で、  ただ自分の仕事にすぐ移れるから。  そして、居心地がやはり自分のクラスだといいからだ。 姫子「いいの?営業中でしょ?」 澪「大丈夫、これだけ隅にいれば、  邪魔にならないからな」  それよりも。 澪「文化祭期間中に悪事に手を染める方が、  文化祭の円滑な進行を妨げるという意味で邪魔だな」 姫子「ま、それはそうね」  姫子は私の適当に冗談を流し、  そして唯に視線を向けた。  唯は未だマスタードに泣かされている。  そんなに嫌いなのか。  泣いている唯も良いには良いけど、  やっぱりちょっと可哀想かもしれない。 澪「……唯、あとは私が食べるから、いいよ」 唯「だ、ダメだよ!これは私のだからね!」  そんな涙目になって言われても。 姫子「じゃあ唯もそう言ってることだし、  レインボーについて話し合いしようか」 澪「そうだな。今のところ、盗まれた品は四つ。  色の数と同じだ」  私は事前に用意したメモ帳に文字を  書き込み、それを切り取って机の上に置いた。   “・赤 → 梓のギター   ・橙 → 三年一組のヘアピン   ・黄 → 二年一組のマスタード(空容器)   ・緑 → 生徒会のハサミ   ・青 → ?   ・藍 → ?   ・紫 → ?”  二人はこの紙を覗き込み、  何かを感じたようだ。  それは多分、私が感じたことと同じだろう。  つまり、 姫子「生徒会だけ、なんか浮いてるよね」 唯「ほれわはひほおほっは!」  ホットドッグを無理矢理口に押し込んだ唯は、  何を言っているのかわからない。  でもまあ、そういうことだ。  つまり、レインボーが色のみを頼りに  ターゲットに選んでいるにせよ、  わざわざ生徒会の備品を狙うなど不自然すぎるということ。  私だって今日始めて、生徒会のハサミが緑色だと知った。 澪「私もそれは不思議だと思う。  どうやってレインボーが生徒会のハサミを  緑色だと知りえたのか。  なにより、何故レインボーが自分を探している  生徒会の本丸に踏み込むようなリスクを負ってまで、  その品を盗んだのか。  疑問は大きくわけて、その二つだな」 姫子「二つ目はまだしも、一つ目の疑問なら、  まだ色んな人が知りえるチャンスがあったと思うね」  姫子の発言に、私は驚かされた。  が、それもそうだと、自分の言ったことを反芻して確認した。 姫子「生徒会室が生徒会の人たちだけの  ものじゃないように、そこにあったハサミだって、  生徒会の人たち以外も使用する機会はあるんじゃない?」 唯「例えば、講堂使用届けを遅れて提出する人とか  使用してるかもしれないね!」 澪「遅れて出す必要はないと思うぞ」  あいつの顔を思い浮かべながら。 澪「だけど、それもそうだ。じゃあ訂正。  疑問はこの一点だ。どうして高いリスクを負ってまで、  生徒会のハサミをレインボーは狙ったのか」 姫子「解決法は、簡単だよ。つまり」 澪「あっ、ちょっと待って」  私は姫子の言葉を止めるように言った。  そして姫子にそっと目配せをし、席を立った。 澪「ごめんお手洗いに行ってくる」 姫子「あっ、それなら私も」  どうやら目配せの意味を、姫子は理解してくれたようだ。  心のなかで感謝する。  ‐廊下‐ 姫子「で、なに?  まさか私に告白するわけでもないでしょ?」 澪「あ、当たり前だろ!」  姫子のたちの悪い冗談に、思わず声が荒立つ。  すぐにここは廊下だと思い出し、  両手で口を塞いだ。 澪「……私は、唯一筋だ……」  周りに聞こえない程度の声でそう言った私を、  姫子は今更なにを、といったように笑い飛ばした。 姫子「冗談。で、唯に聞かれたくないことがあるんでしょ?」  理解が早くて助かる。  私は唯が近くにいないことを確認し、  さらに周りを警戒して姫子に耳打ちをした。 澪「姫子にはある人物を見張っていて欲しいんだ」 姫子「私だけで?」 澪「そう。唯は梓……、  軽音部の後輩と一緒に行動させる」 姫子「そうやって、私と唯を引き離そうとするんだー?」 澪「冗談言ってる場合じゃないぞ」 姫子「……そっか。それで、誰を見張ってほしいの?」  私は一度、姫子から顔を離れさせた。  深く息を吸い、そして吐く。  正直こんなことは言いたくないが、  やはり口に出さなければいけないのか。  私は重々しいその口を、ゆっくりと開いた。  【Yi-side】  ‐二年一組教室‐  全く、二人してヒソヒソ話ですか。  私一人だけ仲間外れにするなんて、  良くないと思います。  そうです、わかりますとも。  絶対二人ともお手洗いなんて行ってません。  手持ち無沙汰になってしまった私は、  他になにかやることがないのかと、  教室中を見渡しました。  ここは一応、犯行現場の一つです。  私は念入りに一つ一つのものを確認し、  自分の中の記憶と照らし合わせていきました。  早速ですが、その結果は。 唯(特に変わった点は、ないね)  全てが昨日と同様でした。  入り口に設置された、いわばカウンター用の机には  大きさが不釣合いのテーブルクロスが敷かれ、  その端はこちら側の床についてしまっています。  入り口から順に、お金を払う場所、  ホットドッグを焼く場所、それを受け取る場所と  続いています。  そしてそれを受け取ったお客さんは、  それを歩きながら食べるか、  または教室に用意された少々の机に座って  食べるかを選択できます。  尤も、ホットドッグぐらいなら座る必要も  あまり無いような気がしますが。  ……さて、なにか変なところはあったでしょうか。 唯「……」  正直、私が見た限りでは、無いです。  また手持ち無沙汰になった私は、  視線を窓の外に移しました。  少々の雲はあるものの、十分な青空。  その空の下にあるのは文化祭の活気……ではなく、  そこから隔たれたような空気を持つ校舎裏。  とはいえ、そこも文化祭の出し物が展示されています。  園芸部の花壇です。文恵ちゃんと看板持って文化祭巡りを  していたとき、窓から見えました。  そのときは綺麗だなあとか、  あれはなんて名前の花なんだろうとか、  そんな感想しか持てませんでした。  しかし、あの一件のことに鑑みてみると、  それが何十倍にも美しく思えてきました。  逆転満塁ホームラン。多分、そんなとこです。  この瞬間でした。  私の脳裏に、カキィンと快音が鳴り、  今までの事実を全てひっくり返すような  逆転満塁ホームランが上がった、 唯(ような気がする)  のです。  ただ、その逆転劇を完成させるには、  どうも話が足りないようでした。  つぎはぎの物語をどうにかして繋げるような、  ちょうど中継役のようなものが、  私には足りていませんでした。  私たち三人では、まだ足りていない。  だとすれば、これから。  これからそれを見つけていけばいいのです。 唯(それなら、天使の力を借りればいいよね)  天使を守るために解決しようとしていた事件は、  いつの間にか天使とともに解決しようとする事件に  替わっていました。  いえ、元々の目的とは大差ありません。  怪盗が下手に成敗される前に、  私たちが見つければいいのです。  天使の力、あずにゃんの力を借りた上でというのは、  とても卑怯な気はしますが。 唯(……でも……)  ―――文化祭。発見。  あらゆる思惑が錯綜するこの学校で  私たちはある一つの思いを追い求めていました。  その名は、レインボー。  あずにゃんのギターを盗んだ、  その怪盗は確かに悪者でしょう。  まるで遊びの一環のように、  大切な物を盗んでいったのですから。    しかし、私は思ったのです。  果たして、レインボーの一連の行動に、  なにかしらの目的があったとするならば。  それが、天使の怒りを買わないものだったのなら。 唯(それは、きっと……雨上がりの空に、虹がかかってくれるよね)  私が見た今日の空は、幸いにも、  晴れやかな青が広がっていたのです。 第十三話「天使と飛び上がる日」‐完‐ ―――第十四話に続く [[28>梓「それは私が天使だった頃のお話」 28]]
 * * *  一通りの考え事が終わった頃、  外の屋台から、緑が盗まれた!青海苔だ!  という叫び声が聞こえてきた。  が、そこに生徒会室へ持ち込まれた、  その屋台に残されたとされるメッセージカードを  一瞥した私は、正直落胆した。  はっきり言って、今までで一番出来の悪い文章だ。  模倣するのも疲れてきたのか。  しかし私の隣では、別の意味で溜め息を吐く和がいた。  それもそうだろう。生徒会は模倣犯に対する警告を  新聞部を通じて行ったのにも関わらず、  こうして止まらなかったのだから。 和「まあ、お祭りで浮かれているのはわかるけど。  ちょっとキツイわね」  和は苦笑いを浮かべた。  一方、憂ちゃんたちは次の配置について  話し合っているようだった。  先輩の私たちより随分計画性がある。  私の視線に気付いたのか、梓がこちらへ振り向いた。 梓「あの、澪先輩たちも協力してくれるんですよね?」 澪「そのつもりだよ」 梓「じゃあ私と一緒に行動しましょう。  携帯電話、持ってないんで」  私が憂ちゃん、鈴木さんと連絡先を交換した上で、  分かれて行動するって寸法か。  それならば梓が携帯を持っていない  リスクもカバーできる。お見事。 澪「了解。じゃあ、憂ちゃんと鈴木さんと、  連絡先を交換した方がいいよね?」  私の発言に、後輩三人は目を丸くしていた。  あれ、なにか間違えたかな。 純「……今の梓の言葉だけで、よくわかりましたね」  そっちの意味で驚いていたのか。  安心して胸を撫で下ろす。 純「では、私から送ります。どうぞ!」  鈴木さん、登録完了。 憂「今度は私ですね」  憂ちゃん、登録完了。  そして二人に私の電話番号とメアドを書いた  メールを送り、連絡先の交換は完了した。  それを見ていた和が口を出した。 和「これだけいても、澪は手際がいいのね。  生徒会の仕事もそれぐらい手っ取り早く出来ると  いいんだけど」 澪「いや、そんな凄いことじゃないよ。  それにしても、そんなに大変なのか、仕事」 和「そうね」  あっ、ただの愚痴だから真剣に聞かないね。  そう前置きした和は、宣言どおり次々と愚痴をこぼしていった。 和「例えば昨日だと、舞台で澪たちが  演奏している間は舞台袖。  時間配分から発表団体の準備の程度を逐一チェックするのよ。  それが終わったら今度は生徒会室で事務仕事。  たまに転がり込んでくる問題に対応するの。  正直あまり人は来ないから、楽だけど楽しくないわ。  最後の方はクラスのお手伝い。  これは楽しく出来たけれど、レインボー登場で事態は一変。  また生徒会の仕事に戻る必要が出ちゃったのよ」  聞いているだけで大変そうだ。  果たして、自由時間というものがあったのかどうか。  しかしそれにしても、いくら手際がいいと言われたって、  やはり私にはそこまで出来ない。  結局、和の方が手際いいんじゃないのか?  そう言うと、和は、 和「そこまでじゃないわ、私は」  と言って、肩をすくめた。いやいや、十分凄いよ。  その和の肩を姫子がつつく。 姫子「この流れに乗って、私たちもメアド交換しない?  唯のファンクラブ結成のために」 和「あ、それはいいわね。是非」  冗談で交わされる連絡先。  なんか見ていて微笑ましい。  そういえば折角姫子と友達になったのに、  私も連絡先を交換していなかった。  そこに私も混ぜてと、そう言おうとした時。  「今のは聞き捨てならないよ、二人とも!」  【Yi-side】 唯「ちょっとちょっと、ダメだよ!  ファンクラブなんて、ノーサンキューなんだからね!」  私と文恵ちゃんで看板を持ち、  学校中をうろちょろ遊び回っていたら  間違えました。  学校中をうろちょろ宣伝し回っていたら、  とんでもない言葉が聞こえてきたので、  思わず叫んでいました。  ……なんですか、ファンクラブって!  それは澪ちゃんのもので足りてるでしょう!  全く、これだから人気者になると困ります。 文恵「えっ、面白そうじゃない?」  面白そうって形容した時点でアウトだと思います。  というか、人多いです。  よく見ると見知った顔ばかりで、  憂、澪ちゃん、和ちゃん、あずにゃん、姫子ちゃん、  純ちゃん、私の背後に文恵ちゃん。  あと確かあの人は生徒会長の恵先輩。  これだけいるということは、  必ず何かが起きたということです。  そう思って、それを聞こうとしたところ、 純「あっ、もう劇の準備する時間だよ!  二人とも早く行かないと!」 憂「え、えっ?」 梓「十時二十分……。  もう準備開始する時間だ、急がないと!」 憂「あ、本当だ!急ごう!」  三人は講堂の方へ走っていってしまいました。  劇の準備といっていましたから、  多分クラスの劇の準備でしょう。 恵「元気な子たちね。さて、私も行くわ」 和「どこへですか?」 恵「パトロール。ここの見張り番は、  真鍋さんに一旦任せるから。それじゃ」  次に恵先輩がこの場を離れました。  八人いた廊下が、途端に四人減りました。 姫子「じゃ、私たちもどこか行く?」 澪「あ、ちょっと待ってくれるかな」  おっと、更に減りそうというところで、  澪ちゃんが待ったをかけました。 澪「……ちょうどいいから、  皆に聞いて欲しいことがあるんだ」  一体なんでしょう。  レインボーに近づくヒントでも見つけたのでしょうか。 文恵「私がいてもいい話?」 澪「うん、問題ないかな」  澪ちゃんは咳払いをして、話を始めました。 澪「……これは昨日、  私が出した模倣犯見分け方の補足説明だ」 姫子「グループ分けの?」 澪「そう。実は昨日、家に帰ってから私は、  “あれは言い過ぎた”と思っていたんだ」  言い過ぎた。そうでしょうか、  私には十分な推理に感じられましたが。 澪「当然、あの場で弾き出した模倣犯は、  全部そうだと思っていい。  私が言い過ぎたのは別の点だ」 唯「それはどの点なの?」 澪「“レインボーは絶対単独犯だ”ってところ。  あの場での絶対っていうのは、  今までに起こった事件に対しての言葉だったと、補足したい。  つまりレインボーは、今まではほぼ単独で行動していたが、  これからはどうなるかわからない」  恐らく、そこにいた全員が面食らっていました。  私も姫子ちゃんも、和ちゃんも。 和「それは、レインボーが実は複数犯だとでもいうの?」 澪「わからない。ただどちらにも断定は出来ない。  でも模倣犯の存在だけは確かだと、それは断定する」 唯「でも文面の特徴が……」 澪「文面を書いた人間が一人で、  実行に移しているのが  もう一人という可能性も捨てきれない」  その推論に、私は唸っていました。  確かに、どうしてその可能性を忘れていたのでしょう。  でも、だからといって、そうだとは限らない。  澪ちゃんはさっきそう言っていました。  ……まだ、どうにも動けそうにないと、  そう言っているようにも聞こえました。 澪「まあ、それでも。文化祭で意味のない盗みを  繰り返す人間なんて、そんなに多くないよ。  実行犯が一人と協力者が一人が、精々じゃないかな」  * * * 文恵「なんか想像以上に本気だね」  仕事に戻った私たちはまた、  廊下を看板持って歩いていました。  後方からはまだ、  澪ちゃんたちの声が聞こえています。 文恵「なにか訳あり……って、あれだよね」  文恵ちゃんは苦い顔をしました。  そういえば、あの新聞を私たちに届けてくれたのは  文恵ちゃんでした。 唯「まあ、敵討ちってわけじゃないんだよ。  後輩がね、どうしても許せないって言うの。  それで深入りしちゃうのが怖かったのかな」 文恵「怖かった?今は違うの?」 唯「まあ、最初の印象と違うというかねえ」 文恵「なるほどね。でも、意外かな」 唯「なにが?」 文恵「ううん、思い違いだよ、きっと。  ただ、もう少し唯なら楽観的に、  物事を考えられるんじゃないかなあって」  確かに、一年生の私ならそうでしょう。  しかし今年は色々ありすぎました。  ……例えば、人の裏側が見えてしまったりとか。 唯「春に、ちょっと事件があってね。  まあ、その、人の嫌な部分を見ちゃったの」 文恵「それが影響して、今の唯が誕生したってこと?」  私は頷いて、それを肯定しました。  自分でもある程度はわかっていました。  あの事件が、園芸部の塵取りテニスの真実が、  確実に私の価値観を壊して作り変えたのだと。 文恵「ああ、そうだったんだね……。  じゃあもう、あんまり詳しいことは聞かないよ。  唯、悲しそうな顔してるもん」  そうでしょうか。  果たして私は今と昔、  どちらがいいと思っているのでしょう。 唯「……えっ」  そして、どうしてなのでしょうか。  その選択肢を前にした時、私は他の誰でもない。  “あずにゃんの顔を思い浮かべていたのです。” 文恵「……また悲しそうな顔してる。  そんな顔で宣伝なんて、出来ないよ?」  む、それもそうです。  頬を叩いて、気を引き締めました。 文恵「違う、違う。そうじゃなくて」  しかし、文恵ちゃんはそう言うと、  私から看板を取り上げてしまいました。 唯「え、文恵ちゃん?」 文恵「唯、行ってきなよ」  文恵ちゃんは二つの看板を、  どこぞの漫画やゲームに出てきそうな  二刀流のように構えて見せました。 文恵「私はこれで頑張るからね」  なんだか頼もしい。  そう思うと、ちょっと笑えてきました。 文恵「なに笑ってるの?」 唯「ううん、なんでもないよ!  文恵ちゃん、ありがとう!」 文恵「うんうん、そっか。  ……あれー、でもそれだけいい顔されると、  宣伝に行かせたくなっちゃうかもなあ」 唯「じゃ、じゃあ急いで行ってくるね!」  どう聞いても、私を急がせたいだけ。  文恵ちゃんめ、なかなか策士です。 文恵「唯」 唯「ん?」 文恵「頑張って!」 唯「……うん!」  【Mi-side】  ‐二年一組教室‐  神は私を見放していなかった。  ありがとう、神様。ありがとう、地球。  ありがとう、木村さん。 唯「えへへ、来ちゃったよ~」  ありがとう、私の天使! 姫子「澪?おーい、澪、帰ってこーい」  今の私なら、天にも上れる気がする。  グッバイ、現世。 澪「……」  とはいえ、今の現状を無視して、  天に上ってはいられない。私は目を閉じた。  意識を現実に引き戻したところで、  ゆっくり目を開ける。 澪「よし」 唯「大丈夫?」 澪「大丈夫だ、私の天使」 唯「全然大丈夫じゃない!」  そんなことはない。  ふと、唯が手に持ったものが気になった。  唯がお腹が減ったと言っていたので、  私が奢ってあげたものだ。 澪「そういえば、そのホットドッグ早く食べてあげて。  私のクラス自慢の品物だけど、  出来るだけ熱々のうちに食べてもらいたいな」  唯が途端に顔をしかめた。  手元のホットドッグに視線を落とす。 唯「……どうせならレインボーも、  マスタードを全部盗めば良かったのに……」  小さく吹き出してしまった。  それはちょっとだけ困る。  * * *  唯が顔を歪めながらホットドッグを  食している中、私たちは教室の隅に設けた  椅子に腰かけていた。  会話の場所に二年一組を選んだ理由は簡単で、  ただ自分の仕事にすぐ移れるから。  そして、居心地がやはり自分のクラスだといいからだ。 姫子「いいの?営業中でしょ?」 澪「大丈夫、これだけ隅にいれば、  邪魔にならないからな」  それよりも。 澪「文化祭期間中に悪事に手を染める方が、  文化祭の円滑な進行を妨げるという意味で邪魔だな」 姫子「ま、それはそうね」  姫子は私の適当に冗談を流し、  そして唯に視線を向けた。  唯は未だマスタードに泣かされている。  そんなに嫌いなのか。  泣いている唯も良いには良いけど、  やっぱりちょっと可哀想かもしれない。 澪「……唯、あとは私が食べるから、いいよ」 唯「だ、ダメだよ!これは私のだからね!」  そんな涙目になって言われても。 姫子「じゃあ唯もそう言ってることだし、  レインボーについて話し合いしようか」 澪「そうだな。今のところ、盗まれた品は四つ。  色の数と同じだ」  私は事前に用意したメモ帳に文字を  書き込み、それを切り取って机の上に置いた。   “・赤 → 梓のギター   ・橙 → 三年一組のヘアピン   ・黄 → 二年一組のマスタード(空容器)   ・緑 → 生徒会のハサミ   ・青 → ?   ・藍 → ?   ・紫 → ?”  二人はこの紙を覗き込み、  何かを感じたようだ。  それは多分、私が感じたことと同じだろう。  つまり、 姫子「生徒会だけ、なんか浮いてるよね」 唯「ほれわはひほおほっは!」  ホットドッグを無理矢理口に押し込んだ唯は、  何を言っているのかわからない。  でもまあ、そういうことだ。  つまり、レインボーが色のみを頼りに  ターゲットに選んでいるにせよ、  わざわざ生徒会の備品を狙うなど不自然すぎるということ。  私だって今日始めて、生徒会のハサミが緑色だと知った。 澪「私もそれは不思議だと思う。  どうやってレインボーが生徒会のハサミを  緑色だと知りえたのか。  なにより、何故レインボーが自分を探している  生徒会の本丸に踏み込むようなリスクを負ってまで、  その品を盗んだのか。  疑問は大きくわけて、その二つだな」 姫子「二つ目はまだしも、一つ目の疑問なら、  まだ色んな人が知りえるチャンスがあったと思うね」  姫子の発言に、私は驚かされた。  が、それもそうだと、自分の言ったことを反芻して確認した。 姫子「生徒会室が生徒会の人たちだけの  ものじゃないように、そこにあったハサミだって、  生徒会の人たち以外も使用する機会はあるんじゃない?」 唯「例えば、講堂使用届けを遅れて提出する人とか  使用してるかもしれないね!」 澪「遅れて出す必要はないと思うぞ」  あいつの顔を思い浮かべながら。 澪「だけど、それもそうだ。じゃあ訂正。  疑問はこの一点だ。どうして高いリスクを負ってまで、  生徒会のハサミをレインボーは狙ったのか」 姫子「解決法は、簡単だよ。つまり」 澪「あっ、ちょっと待って」  私は姫子の言葉を止めるように言った。  そして姫子にそっと目配せをし、席を立った。 澪「ごめんお手洗いに行ってくる」 姫子「あっ、それなら私も」  どうやら目配せの意味を、姫子は理解してくれたようだ。  心のなかで感謝する。  ‐廊下‐ 姫子「で、なに?  まさか私に告白するわけでもないでしょ?」 澪「あ、当たり前だろ!」  姫子のたちの悪い冗談に、思わず声が荒立つ。  すぐにここは廊下だと思い出し、  両手で口を塞いだ。 澪「……私は、唯一筋だ……」  周りに聞こえない程度の声でそう言った私を、  姫子は今更なにを、といったように笑い飛ばした。 姫子「冗談。で、唯に聞かれたくないことがあるんでしょ?」  理解が早くて助かる。  私は唯が近くにいないことを確認し、  さらに周りを警戒して姫子に耳打ちをした。 澪「姫子にはある人物を見張っていて欲しいんだ」 姫子「私だけで?」 澪「そう。唯は梓……、  軽音部の後輩と一緒に行動させる」 姫子「そうやって、私と唯を引き離そうとするんだー?」 澪「冗談言ってる場合じゃないぞ」 姫子「……そっか。それで、誰を見張ってほしいの?」  私は一度、姫子から顔を離れさせた。  深く息を吸い、そして吐く。  正直こんなことは言いたくないが、  やはり口に出さなければいけないのか。  私は重々しいその口を、ゆっくりと開いた。  【Yi-side】  ‐二年一組教室‐  全く、二人してヒソヒソ話ですか。  私一人だけ仲間外れにするなんて、  良くないと思います。  そうです、わかりますとも。  絶対二人ともお手洗いなんて行ってません。  手持ち無沙汰になってしまった私は、  他になにかやることがないのかと、  教室中を見渡しました。  ここは一応、犯行現場の一つです。  私は念入りに一つ一つのものを確認し、  自分の中の記憶と照らし合わせていきました。  早速ですが、その結果は。 唯(特に変わった点は、ないね)  全てが昨日と同様でした。  入り口に設置された、いわばカウンター用の机には  大きさが不釣合いのテーブルクロスが敷かれ、  その端はこちら側の床についてしまっています。  入り口から順に、お金を払う場所、  ホットドッグを焼く場所、それを受け取る場所と  続いています。  そしてそれを受け取ったお客さんは、  それを歩きながら食べるか、  または教室に用意された少々の机に座って  食べるかを選択できます。  尤も、ホットドッグぐらいなら座る必要も  あまり無いような気がしますが。  ……さて、なにか変なところはあったでしょうか。 唯「……」  正直、私が見た限りでは、無いです。  また手持ち無沙汰になった私は、  視線を窓の外に移しました。  少々の雲はあるものの、十分な青空。  その空の下にあるのは文化祭の活気……ではなく、  そこから隔たれたような空気を持つ校舎裏。  とはいえ、そこも文化祭の出し物が展示されています。  園芸部の花壇です。文恵ちゃんと看板持って文化祭巡りを  していたとき、窓から見えました。  そのときは綺麗だなあとか、  あれはなんて名前の花なんだろうとか、  そんな感想しか持てませんでした。  しかし、あの一件のことに鑑みてみると、  それが何十倍にも美しく思えてきました。  逆転満塁ホームラン。多分、そんなとこです。  この瞬間でした。  私の脳裏に、カキィンと快音が鳴り、  今までの事実を全てひっくり返すような  逆転満塁ホームランが上がった、 唯(ような気がする)  のです。  ただ、その逆転劇を完成させるには、  どうも話が足りないようでした。  つぎはぎの物語をどうにかして繋げるような、  ちょうど中継役のようなものが、  私には足りていませんでした。  私たち三人では、まだ足りていない。  だとすれば、これから。  これからそれを見つけていけばいいのです。 唯(それなら、天使の力を借りればいいよね)  天使を守るために解決しようとしていた事件は、  いつの間にか天使とともに解決しようとする事件に  替わっていました。  いえ、元々の目的とは大差ありません。  怪盗が下手に成敗される前に、  私たちが見つければいいのです。  天使の力、あずにゃんの力を借りた上でというのは、  とても卑怯な気はしますが。 唯(……でも……)  ―――文化祭。発見。  あらゆる思惑が錯綜するこの学校で  私たちはある一つの思いを追い求めていました。  その名は、レインボー。  あずにゃんのギターを盗んだ、  その怪盗は確かに悪者でしょう。  まるで遊びの一環のように、  大切な物を盗んでいったのですから。    しかし、私は思ったのです。  果たして、レインボーの一連の行動に、  なにかしらの目的があったとするならば。  それが、天使の怒りを買わないものだったのなら。 唯(それは、きっと……雨上がりの空に、虹がかかってくれるよね)  私が見た今日の空は、幸いにも、  晴れやかな青が広がっていたのです。 第十三話「天使と飛び上がる日」‐完‐ ―――第十四話に続く [[28>梓「それは私が天使だった頃のお話」 28]]

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