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梓「美しき軽音部部長の娘」 1 - (2014/08/21 (木) 06:36:33) のソース

 思えば私は音楽、いやどちらかといえば音に導かれてこの部に入ってきた。
新歓のときのあの音に導かれ入部を決意した。
そのときからすでに運命は決まってたのかもしれない

「確保ー!」
そんな言葉と共に私は捕まえられる
正直なところ、どうしようもない人だなとしか思えなかった。
いや、今もそう思っているところがあるんだけど。

律先輩のドラムはいつも走りすぎている。
私の後ろからいつも一歩早い音が聞こえてくる。
もどかしくて、もどかしくて注意したくなる。
けれども注意するのは澪先輩の役目、そういうものだと思っていた。

でもなんだか悔しいような、独特の疎外感を感じるようになっていった。
気になる、気になるけれど構うことができない。
いつかそれは焦燥になっていった。

「まったく、律先輩のドラムはいつも走りすぎです」
意を決して言ってみる。
「もー、梓も同じことを言うー」
律先輩は先輩方と変わらないような返事をしてくれた。
それで急に肩の荷が下りたようになっていろいろと「お説教」をした。
本当はただ、沢山喋ってみたかっただけなのだけれど。

「律先輩っていつもカチューシャしてますよね。それも黄色の」
「んー?なんだ梓?」
「いえ、いつもしているな、って思いまして」
「好きな色だからなー」

律先輩の好きな色は黄色。
黄色は太陽の色、輝く色!
私はいつのまにか黄色を意識するようになっていた。
どうして、こんなに黄色を、律先輩を気にしてしまうのだろう。

そう思い始めたころ律先輩の誕生日が近いことを知った。
何かプレゼントしなければ。
強く思い始めた。

迷った挙句結局私は黄色のカチューシャを選んだ。
すこし黄色の色味が違うものを。


 でも結局当日渡すことができなかった。
学校にもって言ったけれど、どうしても渡せない、恥ずかしい。
結局私は郵送という手段に逃げた。

しばらくして部活の前に律先輩に部室の外に連れて行かれた。
「梓、これありがとうな」
律先輩は頭上のカチューシャを指差し私にこう言って来る。
確かに律先輩はいつもと少し色味の違うカチューシャをつけていた。

それを確認したとたん嬉しくなる、体温が上がり興奮を感じる。
律先輩が私のプレゼントを使ってくれている!
その事実だけでもう私は満足だった。

その後も時々私のプレゼントを律先輩は身に着けてくれた。
「律先輩、本当にカチューシャが良く似合ってますね」
「お、梓は分かる子だなあ」
私のプレゼントしたということを分かって言っているのか分からないけれどそんな返答をしてくれる。
また嬉しくなる。

私の心はすっかり律先輩に奪われていた。
このどうしようもないのにどこか素敵な先輩に。
理由は分からなかった。けれど独占したいという気持ちだけは強くなっていた。

 でも辛いことも増えた。
私のカチューシャをつけた律先輩が唯先輩とじゃれあったり、澪先輩と親しげに話す。
できるのなら強引にでも離させたい、けれども相手は憧れている先輩。
私も会話に参加するけれどやっぱりどこか先輩方とは違う。
律先輩、どうか、私のカチューシャを返してください。
幾度もそう言おうと思った。

いつのまにかプレゼントからもう1年が経つ。
思いは捨てられず、けれど何の行動もできなかった。
ただ、律先輩が構ってくれるのを待つだけだった。
けれど今年こそ、今年こそは私から動き出したい。

手筈を整える。
プレゼントはあえて用意しない。直接聞くために。
時間は学校が終わってから、律先輩の家に行って直接言おう。


当日、学校が終わるのをひたすた待つ、楽しい部活も今日は早く終わってほしかった。
この実行力の無いまま膨れ上がった思いを律先輩に早くぶつけたい。

「おお、梓かー、入って入って。」
律先輩はすんなりと私を招きいれてくれた。

「あの、律先輩。」
「待って、お茶入れるから。」
「律先輩!」

つい大声を出してしまった。
「梓?」
律先輩が少し不安げな顔で私を覗き込む。

「あの…… すみません。」
「なにか悩みでもあるのか。」

どう切り出そうか。
迷う、迷ったけれど

「律先輩のことが、好きなんです。」

律先輩がは一瞬言葉に詰まった。
けれどすぐに私を抱きしめて

「そっか、ごめんな。気づいてやれなくて。」

律先輩が優しく答えてくれる。

「こっちの勝手な思いだということは分かっています。」
「いいんだって。私も梓のこと好きだし。」
「先輩、いいんです。無理して答えなくても。」
「梓、そんなことは無いぞ。」

律先輩がはっきりとした口調で語りかける。

「梓とまったく同じ類の『好き』なのか分からない。けれど確かに好きだ。」
「だから、その、私でよければ…… あー、恥ずかしい恥ずかしい!」
「律先輩…… 本当ですか」
「私は嘘をついたことはない!」
「うーん、本当ですか?」
「信用してくれよー。で、梓はいいの?」

「……はい。」

ヲハリ


#openclose(show=あとがき){
一応律誕を意識した律梓SSでした。
タイトルで分かる方も多いと思いますがミュラーの「美しき水車小屋の娘」を意識しています。
シューベルトの歌曲で有名ですね。
あれはバッドエンドもいいところなので私の能力ではエッセンス程度にしか使えませんでした。
普段とかなり違う様式にしてみたので読みづらかったり意味不明だったりな箇所があったら申し訳ありません。
それでは失礼いたします。}


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