「あの―――」 「君は一人で来たのかい?」 「え?あ、はい」 「何故こんな森に一人で来たんだい?」 先程と同じように優しい口調で話しかけてくる男性に、彼女は少しだが警戒心が下がるのを覚えた。 「この森の、湖に来たかったんです。湖畔で休むと気が休まりますから。懐かしい感じがするんです。 まだ行ったことはないけど、故郷の空気が感じられるようで。薄暗くて不気味ですけど、とても綺麗な森ですし。 本当は森にはあまり良い思い出が無いんですけど、でも、どうしても来たくなることがあるんです」 「そうかい。でもね、ここは廃駅だよ」 「え?」 彼女は訝った。 急に話を変えられたようなせいもあるが、その唐突な発言の意味が分からなかった。 何故廃駅に人がいるのか、目の前にいる男性はどう見ても迷っているようには見えなかったからだ。 「もうじき列車が来るのは確かだがね。私は、妻を待っているんだよ。 君は列車に乗らない方がいい、街には続いていない。この森は、心配しなくてもすぐに出られる」 やはり意味が分からなかったが、彼女は仕方なく彼の隣に腰掛けて話を聞くことにした。
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