「待てよ! コイツは……」 これまでに見たことのない異様な姿の怪物を目の前に、ビックスが声をあげた。 戦場における彼の知識には全幅の信頼を置いているウェッジは、相棒から もたらされる情報を黙って待つことにした。 「思い出したぜ!」 「知ってるのか?」 その問いに頷いたビックスは、左右のレバーを握りしめると視線を前方へ向けた ままで言葉を発した。今し方見せた豪快さとは打って変わり、慎重な物言いだった。 「以前、雷を食う化け物の話を聞いたことがある……」 相棒の言葉に、以前どこだかの任務で見た資料の記述を思い出したウェッジが、 記憶の中の記録を辿った。 「殻に強力な電流を蓄えるという……」 「そうだ。殻には手を出すなよ、ウェッジ!」 「わかったぜ!」 そう言って再び戦闘態勢に入った二人の横で、“少女”は何も語らずにユミールを 見つめていた。 最初に攻撃を仕掛けたのはビックスだった。こんな局面でもファイアビームを使用する 辺り、筋金入りの横着者なのだろうかと疑いながら相棒を横目で見やったが、パネルを 操作する手を止めることはなかった。 相棒から遅れること数分、青白い光を纏った冷気の固まりがユミールめがけて一直線に 伸びる。ブリザービームだった。搭載された兵器の性能と、目標物自体が巨大だった事も 手伝って、それは見事に命中し相手にダメージを与えた。 これで目の前の怪物は魔導アーマーからの攻撃を二度もまともに食らったことになる。 舞い上がった土埃の中に目を凝らし、与えたダメージの大きさを測ろうと試みる。 しかし、ユミールは倒れていなかった。 薄々分かっていた事だが、現実を目の当たりにしたビックスのレバーを握る手にうっすらと 汗が滲んだ。こんな風に恐怖と高揚が入り混じった心地を、戦場で味わうのはずいぶん 久しぶりのように思えた。