ロックは、ノックの音で目を覚ました。目をこすりながら、時計をみるともう夕暮れ時である。 オレンジ色の西日がロックのすすけた革靴を照らしていた。 「ごめん。まだ、寝てた?」入ってきたのはティナだった。 「いや、そろそろ起きようと思ってたところだし…。」 背伸びをしながら、ロックはベッドから立ち上がった。 「…それで、どうした?」 「うん、あのね。海…」 ティナは少しうつむいている。 「海?」 「うん。海を見に行きたいんだけど…。」 (ダメかな?)と言いたげな表情でロックのほうを見上げた。 ロックは、内心驚いたが、少し嬉しかった。ティナ自ら、何かをしたいと発言することは滅多にない。 「うしっ!じゃあ行くか!」 宿屋を後にし、二人は海岸線に向かった。 途中、サウスフィガロの市場を通ったとき、 突然「おっ!ロックじゃねぇかっ!?」と声をかけられた。 声の方向を振り向くと、船乗りのような風体の大男が立っている。 剥き出しになった大きな左腕には、碇とカモメの刺青が彫ってあった。 「おぉ!グダじゃん!こいつま~た太りやがったな?奥さんは元気か?」 といいつつ、互いに歩み寄りロックとグダと呼ばれた大柄な男は握手をした。 ロックは、 「ティナ!こいつはグダっていって昔、帝国軍の下っ端に絡まれているのを助けてやったのさ! 今はこの町で一番うんまい居酒屋やってんだ!」 と紹介すると、近寄ってそっと耳打ちした。 「…こいつも、リターナーの一員さ!」 ティナがおそるおそるグダの方を見ると、大声で笑っている。品はないが、どこか痛快な笑い声でもある。 「ガッハッハ!元気も元気!今じゃすっかりカカァ天下さぁ!こうやって使いっぱしりにも出されてるぐれぇだしなぁ! まっ、ここで積もる話もなんだし、後で店に顔出せや!サービスするぜ、後ろの姉ちゃんもな!」 グダはティナのほうを向いて大声をあげた。 「おっと!あんまり油売ってるとあとで母ちゃんにどやされっからな!ロック、また後でな!」 「おぅ!」 グダは巨体を揺らし町の方角へ歩いていった。