その日の真夜中。バッツは独り、ゾックの家の前にある小さな川の前で俯きながら昔を思い出していた。 「クリスタルか…そう言えば、親父が昔…」 「クリスタルだけは、守らねばならん…」 「私にもしものことがあっても、バッツにはクリスタルの事は言わないでくれ…」 「あいつには…背負わせたくない…」 「あなた!そんな事言わないで!!」 バッツが幼い頃に父ドルガンと母ステラが何気無くしていた会話である。 幼いバッツにはその意味が分からないまま言葉だけを覚えていた。 父の「私にもしもの事があっても」と言う部分とそれに対する母の強い口調が妙に印象に残ってしまったからである。 今になってバッツはその意味を感じている。そして、クリスタルの事を背負っている。 「もしかしたら、これも必然だったのかもな…」 バッツは小川に自分の顔を映しながらそっと呟いた。その顔は少し泣いているように見えた。 家に戻るとゾックもまた独りで考えていた。それに気付いたバッツが話し掛ける。 「ゾック?どうしたんだ?」 「おお、バッツか…私はレナ様の事が心配なんじゃ…」 ゾックは神妙な面持ちで静かに話す。 「お主こそこんな真夜中に何を?」 「いや、ちょっと昔のことを思い出してたんだ…」 バッツの顔が少し曇る。ゾックはそれに気付いたようで、 「頼む!レナ様を守ってやってくれ…」 バッツに願うようにそう言うと、静かに自分の部屋に戻っていった。 「ゾック…」 バッツも静かに寝室へ戻った。