四節 Eternal Melody5

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四節 Eternal Melody5 - (2007/12/14 (金) 03:53:27) のソース

初めて目にする異国の男は、エリスには、狂っているとしか思えなかった。 
寝台の上に上体を起こし、手にした骨細工のようなものに向かって、一人でつぶやいている。 
俯いた横顔を髪が隠しているので、顔はよくわからない。ただ、大きな傷跡のようなものは見えた。 
今にも命が危ういような、差し迫った気配はない。 
「セシル……ヤン…… 
 返事を……」 
声をかけるべきか、誰かに報告すべきか、素知らぬ顔で立ち去るか。迷いながら物陰で中を窺ううち、男の様子に変化が現れた。 
「セシル……聞こえるか!? 
 気づいてくれ、僕だ、ギルバートだ!」 
呼びかける言葉に確信が宿る。耳を澄まして返事を待つ。応答はない。人の声では。 
代わりに聞こえてきたのは、恐ろしげな唸り声。硬い物が打ち合う響き。柔らかく重たい何かが、どさり、と地面に落ちる音。 
それらは全て、客人──ギルバートが手にした、奇妙な品から発せられていた。 
ヒソヒ草、という名前をエリスは知らない。ただ、目の前の男が狂ってなどいなかったことを理解した。 
厚い布を通したような、くぐもった物音が、遠く離れた磁力の洞窟での出来事を、この場に伝えているのだ。 
戦いの最中にあると知って、ギルバートは一時呼びかけを中止した。息を詰めて、手の中のヒソヒ草が届ける情報に耳を傾けている。 
やがて雷鳴のような鋭い音を最後に、争いあう音は止み、人の話し声が取って代わった。 
聞き取り辛いが、どうやら休息を取ろうとしているようだ。 
「セシル……!」 
三度の呼びかけで、ヒソヒ草の向こう側から音が消える。 
「ギルバートだ。ヒソヒ草を通して声を送っている。 
 聞こえていたら、返事をしてくれ……」 
今度ははっきりと反応があった。 
荷物をかき回すような、ごそごそという音がしばらく続き、突然、音が鮮明になる。 
『ギルバート!? 
 本当にギルバートなのか!?』 
「……ああ。僕だよ、セシル」 
ギルバートの口元に、かすかな笑みが浮かぶ。こっそりその様子を見ていたエリスも、なぜか自分のことのように嬉しかった。 
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