かなり真面目にFFをノベライズしてみる@ まとめウィキ内検索 / 「三節 山間32」で検索した結果

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  • 三節 山間32
    山頂までには辿り着くための道中には一つの吊り橋が架かっている。 長年放置されていたのかその橋は酷く老朽化し、所々の木々が腐食し、足を載せただけで 崩れてしまいそうであった。 「やっぱりこれを昇らなきゃ駄目なんだろうな」 ぐっと息を飲みながら震えた声を口にするのはパロムだ。 「今更怖じ気づいたの?」 「別に……そんな事はないぜ。この程度の橋なんら問題ないぜ」 「ふーんじゃあ、あんたが一番最初に行く?」 「わっ! 分かったよ、そうするぜ」 そこまで言われたら黙ってわいられなかったのか。覚悟を決めたかのように歩を進み始める。 パロムが足を載せた途端、吊り橋はぶらりと左右へと揺れ動く。 「うわぁわーー! やっぱり怖い!」 猛烈な勢いでパロムはセシル達の元へ引き返してくる。 「あら、やっぱりね」 すっかり怖じ気づいたパロムを見て、意地の悪そうな...
  • FF4 四章
    ...試練36 299 三節 山間1 297 三節 山間2 297 三節 山間3 297 三節 山間4 297 三節 山間5 297 三節 山間6 297 三節 山間7 297 三節 山間8 297 三節 山間9 299 三節 山間10 299 三節 山間11 299 三節 山間12 299 三節 山間13 299 三節 山間14 299 三節 山間15 299 三節 山間16 299 三節 山間17 299 三節 山間18 299 三節 山間19 299 三節 山間20 299 三節 山間21 299 三節 山間22 299 三節 山間23 297 三節 山間24 297 三節 山間25 297 三節 山間26 299 三節 山間27 299 三節 山間28 299 三節 山間29 299 三節 山間30 299 三節 山間31 299 三節 山間32 299 三節 山間33 299...
  • 三節 山間3
     それにしても。セシルは首を傾げる。  どうして誰に教えられるわけでもなく、次々と新しい魔法を覚えることが出来るのだろうか? 「いいえ、学書で学べることは、一通り長老様から教えていただきましたので」 「………それって、…全ての魔法を覚えてるということ……なのかな?」  五歳の子供が? 「まだ使うことは出来ませんけど……」  俯きながらポロムは恥ずかしそうに笑った。言葉を失うセシルを尻目に、向こうではパロムが また新たな魔法をゴブリンに放っていた。  まだ山を見上げている二人を眺めながら、セシルは苦笑した。  いや、まったく、ここにきてはセシルも彼らへの評価を改めざるを得なかった。子守りなど ではない。双子はもう立派な仲間だった。初めて出会ったとき、彼らの同行を断ろうとしていた 自分が思い出され、つくづくセシルは頭のあがらない思いだった。 ...
  • 三節 山間34
    橋も終わりにさしかかった頃、前方にははっきりと浮かぶ影が一つ見渡せた。 「ようやく到着か……」 その進むごとにその影ははっきりとその形を露わにしていく。 「!」 その建物まで後少しと言ったところでセシルは一つの気配を感じ、後ろを振り返る。 「何だ! あんちゃん。そんなに構えて?」 だが、後ろには驚いた様子のパロム達が居るだけであった。 「いや、ちょっと悪い気配がしたような気がしてさ……」 「そうか? おいらは何も感じなかったな。ポロムは――」 ポロムが首を立てに振ろうとしたその時、橋がぐらりと左右に大きく揺れる。 「な……なんだよ」 パロムは振り落とされそうになり慌てて身を屈める。 フシュルッルーーー 揺れに合わせるかの様にまた山頂に向かうまでに聞こえたあの声が聞こえてきた。 「どうやら、奴はまだ生きていたようだな」 その声を聞い...
  • 三節 山間33
    「二人とも僕に付いてきて。大丈夫、下を見なければ怖くないよ」 「でもよ……」 「ええい、何を怖がっとる! 早く行くぞ」 躊躇を続けるパロムの背を今まで黙っていたテラがぽんっといった感じで押す。 そのまま流されるようにパロムは橋に歩み出す。 「ちょっとじいちゃん! いきなり何すんだよ」 「いいから行くぞ。ここで立ち往生って訳にもいかんからな」 「分かったよ」 急かすテラの言葉を受け、それ以降は黙りきってしまった。
  • 三節 山間35
    「私をこの様な姿にしたお前らはただでは死なせんぞ! ゆっくりといたぶりながら この私に刃向かった事を目一杯後悔させてやるぞ!」 言い終わらぬうちに、その歪んだ口から白い煙を吐き出す。 「まずいっ、口を塞げ!」 いち早くその正体に気づいたのかテラは皆に注意を促す。 しかし、その頃にはその煙、何かのガスはセシル達の体を蝕んでいた。 たちまちに体が鉛の様に言うことをきかなくなった。 「これは……」 パロムも苦痛に満ちたような呻きを上げる。どうやらこの症状は自分だけでは ないのだろう。 「テラ……これは……」 この状況では口を開くことさえも相当な労力を要した。 それでも何とか声を絞り出してテラに訪ねる。 「吸った人間の動きを劣化、停止させるガスじゃ。このままでは……」 「この程度はまだまだ序の口、楽しみはこれからだぞ! 簡単にくたばってもらっ...
  • 三節 山間38
    「何とか……退けられた」 しばらくの間、下を見ていたポロムが息も絶え絶えと言った感じで声を絞り出す。 「ああ……」 同じく息を切らした様子のセシルが同意を返す。 「そういえば体がさっきよりもだいぶ軽くなったきがするぜ」 今更だと言った感じでパロムが体を動かしながら言う。 確かに先程まで体を支配していた不自由さは殆ど消え失せていた。 それでもこの山の空気は厳しいことこの上ないのだが。 「このガスの効果が薄れて来ておるのだろう。しばらくすればもう何とも感じなくなるはずじゃ」 「そうか。なら安心だ」 テラの説明を背に受けつつ、セシルは目前に見える建物に目を向けた。 それは遠くで見たときよりもさらに美しく輝いている。 「これが試練を受ける場所か……」 自分に課せられた試練。その終着点となる場所。 「でもこの入り口開くのか?」 見る限り建物...
  • 三節 山間30
    降り注いだ岩石は巨大な音と共に、その場にいたアンデット達もろとも地面を穿ち、 窪んだクレーターが幾つも残すだけとなった。 「お……の…れぇぇ……!」 アンデットを残さず倒されたスカルミリョーネはローブに付着した土を払いつつ、 全身をわなわなと振るわせ、怒りを露わにしている。 「さあて、残ったのはあんただけだぜ」 「形勢逆転ですわね」 「かくしてはこの私が相手をしてやろう。今のお前らなど!」 ふらりといった様子で一歩ずつ歩み寄る。 「私だけでも十分だ!」 そう言った後、二人に向けて呪文を放つ。 普段の二人ならば容易く避けるだろうが、先程の呪文が相当に 体力を消耗させたようだ。 何とか攻撃を避けるものの、いずれは限界がくるだろう。 顔からは疲れが見て取れる。 「セシル! 助けるぞ」 テラが岩陰から飛び出した。次いで、セシルは剣を抜...
  • 三節 山間31
    「終わったのか?」 数秒間、液体、おそらくは血を流し続けて地面に転がるスカルミリョーネを見ていたセシルであったが、 その奇妙な姿に今だ勝利を確信できず、ついそんな疑問を口からこぼす。 だが、その様子からはもう生きてはいないという結論に達し、納得するかのように剣を納める。 「取りあえずは退けたのか……」 テラも少し疑念を抱いているかのような口調であった。 「ま、いいじゃねえか。そんなに深く考えなくてもさきっと大丈夫さ」 そう言った後、行く先に見える建物を指さす。 「ほらあれがパラディンの試練を受ける所だろ。ささっといかないと日が暮れちまうぜ」 指さす方向には確かに何かの建物が見えた。特殊な材質で作られたかの様な外装は既に傾きつつある 太陽の日を直に受け光り輝いていた。 あれが試練の間……あそこに行けば今の自分とも決別できるのか。 この忌まわしき...
  • 三節 山間36
    「ほらほらっ! どうした? いっその事、このまま麓まで突き落としてやろうか? そちらの方が苦しまずに死ぬことができるぞ」 崖…… そも言葉に触発されるかのようにセシルは目を下に落とす。 吊り橋を構成する、板と板の隙間からはうっすらともやに覆われた森が見える。 ここから落ちたら一貫の終わりであろう。 「そうだ!」 眼下に見える風景を眺めなが、セシルにはある一つの考えが浮かんだ。 「みんな大丈夫か」 「ええ」 いまだに続く攻防の中ポロムが返答する。 「みんな僕の後ろ、つまり山頂の方まで下がって。この場を何とかやり過ごす方法があるんだ」 そこで一旦言葉を切り、皆の様子を伺う。皆、何を始めるつもりなのか疑問に感じているようだ。 「とにかく見ていて。後、テラ……少し協力してほしいんだ」 後退を始めたテラにセシルが訪ねる。 「僕が指定した場所...
  • 三節 山間37
    「二人とも頼んだ!」 セシルが指定したのは橋の途中であった。 「いいのか、あんなところに?」 半信半疑ながらもテラは魔法を撃ち込む。勿論、すぐに撃てるくらいの極小威力のものだ。 次いでパロムもその攻勢に加わる。こちらもテラと同じ魔法を放ったのだが、テラとの経験の差か 僅かに遅れての加勢となった。 「よし、後退だ」 「逃がすか!」 執拗に追跡を続けようとしたスカルミリョーネであったが、セシル達に追いつくことは できなかった。 橋の一部が急に音を立て崩れ始めたからだ。 「何だと?」 落下せぬように残った部分を掴み、這い上がろうとするがそこが大きなスキとなった。 「よし今の内に攻撃を重ねるんだ!」 セシルの指示が響いた後、テラとパロムの魔法――今度は容赦ない程でかい威力のものが スカルミリョーネに襲いかかる。更に、セシルの暗黒波が追い打...
  • 三節 山間39
    どこか透明感のある、それでいて懐かしい声がセシルに響いてきた。 「誰だ! それに今何て!?」 息子――確かにそう聞き取れた。 セシルは孤児である。本当の両親というものの記憶を持ち合わせてはいなかった。 自分の中にある一番古い記憶を引きずり出してもバロンでの日々である。 「セシル。どうした?」 急に声を上げたのに驚いたのかテラが訪ねる。 「今、誰かの声が聞こえて――」 「そうか? 私には何も聞こえなかったのだが」 そこまで言ってポロムの方に向き直り返答を求める。 「私も聞こえませんでした……」 「おいらもだ」 合わせるかのようにパロムも首を横に振る。 「じゃあ僕だけに聞こえたのか……」 その時、今までびくりとも動かなかった扉が音を立て横に開いた。 「おいっ! 扉が開いたぜ……」 「どうなっとんだ?」 「行こう……」 戸惑...
  • 三節 山間8
    「だめだ、もう無理。オイラこっから一歩も動かないぞ」 「パロム! 置いてくわよ!」  また、相変わらずなやり取りを交わしている。セシルは顔をほころばせかけながら、しかし 努めて真面目な風を装った。 「いや、なんだか僕も疲れたよポロム。あそこの登りきったところで少し休まないか?」 「えっ……そ、そうですか。セシルさんがそうおっしゃるなら……」 「ヒャッホー、流石あんちゃん! 話が分かるぜ」  言うが早いが、へたりこんでいたパロムは飛ぶように起き上がると、いち早く丘の上に向かって 駆け出してゆく。 「動かないって言ったくせに!」と呆れるポロムも、どこか安堵した様子が見える。 「あまり無理をしない方がいいよ」  そう言いかけて、セシルは慌てて口をつぐんだ。せっかく彼女の気も緩みかけているのに、 そんなことを言えばまた意固地になって「先を急ぐべきです...
  • 三節 山間4
     とにもかくにも今のセシルには関わりたくない相手だった。以前は魔法具と赤い翼の砲撃で 難なく追い払うことが出来たが、生身ではそうやすやすとはいかないだろう。  幸いズーはセシルたちに気づいていないらしく、無難にやり過ごせると思ったのだが、 「あんちゃん、オイラに任せな!」  上達に次ぐ上達で無鉄砲の塊となっていたパロムは、止める間もなく鬼の角を突いていた。 悪戯に刺激された巨鳥は、怒りに燃えた目で小賢しい獲物を睨みつけた。 「おわわわっ!!」  慌ててパロムはセシルの後ろに引っ込む。当たり前だ。子供の魔法の一発やそこらでなんとか なるような相手じゃない。諦めて、双子を遠ざけると、セシルは剣を抜いた。  ズーも相手を定めたらしく、真っすぐにセシルに狙いを付けて飛び込んでくる。ふいに、 嘴を突き出すその体勢が、カインの凄まじい槍撃を思わせた。だが。 ...
  • 三節 山間5
     デスブリンガーが光っていた。刀身から黒い邪気が溢れるほどに。暗黒剣を放つために、 セシルが自分の命を剣に注いだ時と同じだ。だが、彼は暗黒の力を込めてはいない。  ハッとセシルは動かなくなった巨鳥の残骸に目を向けた。緑黄の草生えを染める黒い血の色が、 黒色の刀身と重なる。 (お前の力なのか……?)   死をつかさどる刃は、満足げにその色を滲ませた。  その後も何度かズーと遭遇したが、結果は同じだった。疑問は確信に変わる。やはり、この剣の 為した仕業なのだ。  つくづく呪われた力だな、と思った。それは彼が暗黒剣を志してから、常に感じ続けていた ことだ。暗黒騎士という甲冑に身を包み、人々からの冷たい視線を浴びるにつけ、彼はいつも 自身を蔑み、そして暗黒剣を蔑んだ。剣を見つめるとき、彼の視線は必ず悲哀に満ちており、 剣もその視線を吸ってまたその身...
  • 三節 山間7
    「セシルさん? 急がないと、また炎が……」  長老の魔法は、氷の魔法に反応して消えるものの、すぐにまた元に戻る仕組みになっている。  だが、それも彼の耳にはまったく入っていない様子だった。 「どうか…されましたか?」  二人の顔に困惑の色が浮かぶ。  ようやく炎から目を離した彼は、双子の顔をまじまじと見つめた。 「………いや、なんでもないさ。ありがとうパロム。さぁ、先を急ごう」  キョトンとする二人を尻目に、セシルはまた歩を踏み出し始めた。  砂利を蹴立てながら山路を進むこと、はや数刻。森を抜けたときには東に佇んでいた陽も、 すっかり空の頂に落ち着き、彼らの足が荒い岩場に慣れだした頃だった。 「あんちゃ~ん……もうオイラ歩けねえよ」  ようやく三合目の台地にたどり着いたところで、途中ずっと不平をこぼし通しであったパロムが とうとう音を...
  • 三節 山間1
     ミシディア大陸の夏は暑い。  日の長い時間を陽が空に居座り、地に根を張る者たちをじわじわと執拗に炙る。大地は まるで焼けた鉄板のように熱を帯び、その上に生きる生物を上下からはさみ焦がしてゆく。  冬には、これが全て裏返る。海流の流れで混ざり合った季節風は冷たい大気と雨を運び、 彼らから全てを奪いさる。食物も、温もりも、そして生きる気力をも。  だが、この過酷な大地にあって、故郷を追われた人々は懸命に生きようとした。彼らはみな、 自分の家を切実に求めていた。例えどれだけ土が自分たちを拒もうとしているのだとしても、 他に彼らが根を張ることの許される場所などどこにも無かったのだ。  決して多くは望まない。望めば、代わりに何かを差し出さなければならないから。  開拓者たちは、辛抱強く、ゆっくりと根を広げていった。その根が大陸全土に伸び広がった 今でも、彼ら...
  • 三節 山間2
     草原と岩肌の境界線にさしかかり、セシルたちは眼前の山を見上げた。真っ青な空を突き抜ける ようにその体躯を伸ばして、山が悠然と彼らを見下ろしている。 「たっ……けぇー………」  パロムの口から自然にこぼれた言葉に、二人も言い知れず同調した。その高さたるや、雲一つ ない晴天にもかかわらず、はるか頭上に位置する頂が、不思議に靄がかかったように薄らいですら 見えてしまうほどだ。以前に登ったホブス山よりも一回りも二回りも大きい。三人はしばしの間、 自然の生み出した脅威に思い思いの敬服を抱いていた。見上げる首が痛くなってくるまで。  セシルは身を預けていたチョコボを降りて、離してやる。森に入ってすぐにチョコボの群生地を 見つけられたのは幸いだった。  木立の中に消えていくチョコボを見送りながら、セシルはそこまでの道程を振り返った。 「山までは、獣の足で一...
  • 三節 山間6
    足場の悪い山道を進んでいると、まもなく前方になにやら赤いものが映った。近づいて見ると、 ゆらめいているように見えたそれは巨大な火柱だった。 「あれは?」 「長老様の魔法ですわ」  ポロムが手短に説明する。 「力なき者が、無闇と山に入り込まないようにと張られた結界です」 「結界、か」  頷きながらセシルは魔法の火に目を向けた。ごうごうと唸りをあげて燃えさかる炎は、かなりの 距離をとっていても熱を及ぼしてくる。なるほど、壁のように山路を遮っているそれは、まさしく 結界と呼ぶに相応しい代物だ。 「しかし、これじゃ僕たちも……」 「大丈夫ですわ。────パロム、出番よ!」 「わかってるよ! いちいち威張んな!」  悪態をつくパロムは既に炎の前に進み出ており、ロッドを翳すと、静かに目を閉じた。セシルも すぐにその意図を察して、ポロムと共に後ろに...
  • 三節 山間9
    パロムの言葉通り、丘の上には人影が一つ立っていた。 「テラ……」 丘の上の人影-ー老人は確かにテラであった。 テラはダムシアンが落ちた日、唯一の血のつながった愛娘を失った。そしてゴルベーザへの 復讐を誓い、セシル達と快を分かった。以来消息は掴めぬままであったのだが。 「まさかこんなところで会えるとは」 セシルは率直な意見をこぼす。 「何と! セシルか!」 テラの方もまったくの同意見のようであった。 「あなたがテラ様!」 急にポロムが驚いたような声を上げテラの方にやって来る。 「へえ……爺ちゃんがあのテラか……」 パロムも驚いているが、直ぐに納得したのかテラを見ながらうんうんと頷いている。 「二人とも知ってるのか?」 「おうよ……ミシディアでは凄く有名だぜ。賢者テラ。創生期のミシディアを発展へと 導き、封印された古代魔法を解き、それ...
  • 三節 山間26
    「じゃあ、いくわよ?」 「おう。まかせとけ」 どんっと胸を叩き高らかに宣言する。その態度はついさっきまで怪我を負っていた人間には思えない。 (二人とも何をするつもりなんだ?) この兄弟の事だ。なにやら尋常でない事を企んでるかのようであるが…… 「何処を見ておる!」 だが、考える間もなく背後からアンデット達が襲いかかってきた。 慌てて振り返り、攻撃を受け止める。 「テラ! ちょっといいか?」 セシルは傍らで魔法を撃ち込み続けるテラを見やる。 「何じゃ! こんな時に?」 追いつめられたせいかその声は少しばかり怒りがちであった。 この状況に少なくとも危機感を抱いているのであろう。 「パロムとポロムに何か策が有るようなんだ」 「何じゃと! 本当か?」 「うん。だから、僕たちに時間を稼いで欲しいらしいんだ」 「よしっ! そう言うことなら...
  • 三節 山間54
    沈黙を打ち破るかの様に、扉が開く。 そして遠慮無く中に入ってきたのはテラであった。 「セシル、すまないな。久しぶりに帰ってきたものだからつい懐かしくてな、色々見て回ってしまったのだ」 「久しぶりじゃな」 長老が嬉しそうに声をあげる。 「ああ……」 テラの方は何処か遠慮しがちな態度であった。 さっき町中でテラを見た者達も何かをしっている素振りであった。 テラにとってこのミシディアになんらかの因縁があるのだろうか。 「この爺ちゃん凄いんだぜ! 何たって伝説の魔法。メテオを覚えたんだから」 「メテオだと……」 その単語を聞いた長老の声が裏返った。 「そうだ、セシルがパラディンの試練を超えた時、山頂で聞こえた声が私にも話しかけてきた、 そうして、力を授けてくれた」 「あの魔法の封印が解かれるとは、やはりただ事でない何かが起ころうとしているのか...
  • 三節 山間10
    「へえ……凄いんだな」 「よしてくれ……セシル。それより、お前は何故この山に来たのだ?」 パロムの力説を遮るかのように訪ねる。 「はっ! はい、セシルさんは今からパラディンの試練をうけに来たのです。 それで私とパロムはそのお供をしております。あっ……申し遅れました私はミシディアの白魔導師 のポロムと言います。こっちは弟のパロムです。と言っても双子なんですけど……」 聞かれてもいないのにポロムが次々と一人で話始めた。 まだ完全に緊張がほぐれていないためか、会話は何処かぎこちない。 それでもテラを目前にして、喋っていないと落ち着かないのかさらに続ける。 「ほらっ、パロムちゃんと礼をしなさい」 「分かってるよ」 パロムはしぶしぶと言った感じでそれに従う。 「さっきポロムが紹介したと思うけど、パロムだ。よろしくな爺ちゃん ちなみに黒魔導師だぜ」 ...
  • 三節 山間45
    謝罪に浸る間もなくセシルの耳に入ってくる声色が変わった、そしてその内容もなにやら自分に 怒っているかのようであった。 「貴様よくここに来れるな!」 「あなたたちのせいで私たちがどれだけ苦しんだか……」 「バロンの…暗黒騎士だー!」 憎悪と恐れに満ちたその声は紛れもなくミシディアの人々である。 そしてその声をセシルは黙って聞いていた。 そうだ。自分は国に背けずに彼らを犠牲にした。その行為は我が身の可愛さ 余っての自己保身に過ぎない。こうして自分の過去を振り返っみれば、つくづく 自分はどうしょうもない人間だ。 ――あなたはそんな人ではないわ!―― 絶望に暮れるセシルを叱咤するかの様な声が聞こえてきた。 聞き覚えのある声だ。そう随分前から聞いていないがその優しい声は何よりもセシルを癒し、勇気づけた。 だがそれが誰の声だったのかさえ今...
  • 三節 山間15
    丘にはセシルとポロムの二人だけが残されていた。 「時々……」 ポロムはゆっくりと話し始めた。 俯きがちの顔からは表情を伺う事はできない。しかし、彼女がどんな表情なのかは予想するのは容易かった。 「あいつのああいう所が羨ましく思えます」 そのまま顔を上げセシルを見やる。顔は泣き出しそうなのを必死に押し殺している。 「なんて言うんでしょうね? 子供じみている感じなんでしょうか。 私にはとても真似できませんわ……でもあんなになれたら楽にはなれるんだろうな……」 「…………」 「すいません。何か愚痴を言ったみたいですわ。何だかお兄さんができたみたいでつい……」 顔を赤め自嘲気味に話す。少しは落ち着いたようだ。 「私、双子でも一応姉ですからね……なんか色々抱えすぎちゃったのかな」 「困ったときは時は遠慮なく僕に相談してくれ」 ため息まじりに喋るポロ...
  • 三節 山間16
    フシュルルル…… 声とも呻きとも取れるその音がセシル達の耳に聞こえてきたのはーー 二人に追いつき、強い傾斜が連なる道を黙々と進んでいた時であった。 「パロム! 何か言ったでしょ!」 パロムの悪戯に思ったのかポロム振り向き彼を睨むように見やる。 「言ってねーよ」 「嘘おっしゃい。全く、びっくりするじゃない」 「本当だよ!」 「じゃあ、あんた意外に誰が」 「おい、やめんか」 言い争いを始めた二人をテラがやや強く制止する。 「テラ様」 「もうその辺にしておけ……喧嘩なんかしとる場合じゃないだろう。 この山を昇るには協力せぬ限りは無理じゃぞ」 「そうですけども……」 テラに諭され、ポロムはこれ以上は言うまいとばかりに身を引いたが その様子はまだパロムを疑っている。 パロムも怒ったような目でポロムを睨んでいる。 「まったく」 ...
  • 三節 山間43
    だが、墜落する意識化の中で自分に話しかける声がまた一つ。 それも先程までの声ではない。何処か曇りのある声だ。 「どうだ。やはりお前にはできなかったんだ……」 「誰だ……?」 しどろもどろな口調でセシルは訪ねる。 「暗黒騎士……つまりはお前自身と言うことさ……」 つまり先程まで自分が相まみえていたものか。でも、何故すぐに止めを刺さない…… 自分はこの試練に敗れ去った。つまりはもう用済みなはず。 「お前にはほとほと呆れたからさ。セシル=ハーヴィ」 見透かした様にその暗黒騎士は言う。 「正しき心を得るだの何だのと行っておきながらこの体たらく。所詮はお前もその程度の覚悟しかなかった のだな。その癖、中途半端に国家などに背いて……こんな事ならカインの様に自分に素直になった方が幾分か ましだったのかもな」 暗黒騎士の嘲弄に近い言葉に反論する言葉を今の...
  • 三節 山間14
    「無茶ですよ、おやめ下さい」 「止めないでくれ! 奴は何としてもこの私の手で葬る。 例え、この身が砕け粉々になろうとも!」 ポロムの抗議を弾くテラの瞳には計り知れないような覚悟と 決意に満ちていた。 その気迫に押され、ポロムこれ以上は何も言うことができなかった。 「私はこのまま頂上に向かう。セシル、お前も向かうのなら一緒に いかぬか」 「分かった……そうしよう」 テラの誘いに相槌を打ちつつも、にわかには信じられない思いでかつての仲間を見やった。 今のテラには昔からは想像も付かないような厳しい雰囲気が感じられたからだ。 元からそこまで穏和な人物ではなかったのだが、今目の前にいるテラは 以前とは明らかに違う雰囲気であった。 憎しみとはこんなにも人を変えてしまうのであろうか。 「ちぇえ、大人って何でこんなに頑固なんだろうな」 今までずっ...
  • 三節 山間52
    「それで、パラディンになった感想はどうだ?」」 重い雰囲気を晴らそうとしてか、長老が話題を切り替える。 「正直、今になっても実感はありません。本当に僕が……って感じで」 その場を取り繕う為の方便でもなければ、遠慮しての事でもない。率直な感想であった。 「それに力に馴染むのには、少しばかり時間がかかりました」 「どういう事だ……」 「ええ、この力を手にしてから下山しようとした時でした。幾度か魔物の群れに遭遇して戦闘に突入する事が あったのですが、戦おうにも最初はなかなか力を発揮する事ができませんでした」 「ほう……」 長老の反応を待った後、セシルはさらに続けた。 「でも。戦闘を重ねていく内にだんだんと力の使い方が分かってきました。今では特に問題はありませんよ。 おかげで下山してここめで帰ってくるのに結構な時間がかかりましたが」 もし、チョコボに...
  • 三節 山間53
    「それと、ちょっと気になることが……」 ふと思い立ったかの様にセシルは口を開く。 「山頂での試練の際、剣を授かったのですが、この剣、よく見てください……」 セシル自身も下山の折、剣を扱っていく中で、偶然にも気づいた事だった。 刃の部分に何か文字らしきものが深く刻み込まれていた。 「幸い、文字が読み取れない事は無かったのですが、何について書かれているのか長老に伺っておきたい と思いまして」 一度、セシルも全てに眼を通したのだが、今ひとつその言葉が何を意味するものなのかが分からなかった。 だが、長老なら何か分かるかも知れない。 「剣にはこう書かれています……」 龍の口より生まれしもの 天高く舞い上がり光と闇を掲げ 眠りの地にさらなる約束をもたらさん。 月は果てしなき光に包まれ 母なる大地に大いなる恵みと慈悲を与えん。 「こ...
  • 三節 山間13
    メテオ…… テラの口から発せられたその名には言い表せれぬ様な重みがあった。 まるで、強大な何かがのしかかってくるような感じだ。 「テラ様……まさかメテオを……」 メテオの名を聞いた途端、ポロムの顔は青ざめていた。おまけに体は微弱ながら恐怖に震えている。 「あれだけはおやめ下さい! 下手をすると命まで失いかねません! それにテラ様はもうお年を召されております……」 話を続けるポロムの口調は腫れ物にでも触るかの様に慎重だ。 「命!」 その会話にただならぬ雰囲気を感じて思わず疑問を口に出す。 「メテオは封印された古代魔法の中でも最高の威力を有すると言われておる 幾多の魔法の謎が解き明かされた現在でもその詳細は全くの謎に包まれておる」 「ですけどメテオの行使には常人離れした知力と体力をかね揃えた 者でないといけません。万が一半端な者が行使しようと...
  • 三節 山間12
    「バロンへ向かう途中リバイアサンに襲われて……」 重い口を開いて出てきたのはその一言だけであった。 「何と!……死におったのか!」 さすがに驚きを隠せず声を荒げる。体はわなわなと震えていた。 「いや……きっと……きっと生きてますよ」 その言葉がまずあり得ない事だというのは自分でも分かっていた。 しかし、例え絶望的な可能性でもセシルは皆が生きていると信じたかった。 例えどんなに空しい行為だとしても…… 「ところでテラ。あなたは何故この山に?」 もうこの話を続けたくはないと思い、少し気がかりであった事を訪ねる。 ゴルベーザを倒すのならバロンに向かったのだとばかり思っていたのだが、 何故、バロンより遙か離れたこの場所にいるのだろう。 ひょっとするとこれもまたミシディアの長老の言うように偶然ではなく 運命が引き合った結果なのだろうか。 「実は...
  • 三節 山間21
    「え……わっ!」 襲いかかってきたのはアンデットであった。腐食し、今にも崩れ落ちそうな腕をパロムに叩きつけてくる。 咄嗟に横に飛に回避しようとするが、振り下ろされたではポロムの脇腹をかすめた。 そのままパロムはドサッと勢いよく地面に倒れ込んだ。 「大丈夫!」 「ああ……何とか。くっ!」 慌てて駆け寄るポロムを安心させるかのように口を開く。だが、ダメージを負った脇から血が流れ始めている。 「じっとしてて、結構な傷よ」 ポロムは直ぐにでも立ち上がろうとする彼の体を押さえ白魔法の詠唱に入る。 「はははーーーっ! 思ったよりも素早いのだな」 「あったりめーだよ! いつも長老に追い回されていたからな。逃げ足だけは誰にも負けねえ……ぜ…」 勇んで言葉を返すパロムだが、最後の方は言葉にならなかった。顔は青く、かなりの無茶をしている事がうかがえる。 「じっと...
  • 三節 山間64
    昨夜の内に、長老から指定されていたのでその場所には直ぐにたどり着けた。 「セシルか?」 既に到着していたテラが声をかける。 「おはよう、テラ。早いんだね」 「良く寝付けなくてな。まあ、復讐を誓った時以来、睡眠と言うものをまともに取ることが 出来なくなってな……」 「そうか……」 「そんなに遠慮をするな。、別に気にしてはおらんよ。ところでその鎧は?」 「ああ、旅立ちの餞別として貰ったんだよ……」 「ほお……なかなか様になっとるぞ」 まじまじと見つめながら、感想を一言。 「はは、有難う……」 町はずれにぽつんとそびえる、一軒の小屋。この魔法国家の神秘的な建物に比べると、明らかに質素な 作りである。 「ここからバロンに行けるのか?」 その事は既に長老から確認済みだった。しかし、今ひとつ実感が沸かなかったので念を押すかのように 聞いて...
  • 三節 山間41
    「あなたは……セシルさんですの……?」 ポロムは目の前に立つセシルをまるで初対面の人にでもあったかのような顔で見やる。 「あんちゃんなのか!?」 二人が驚くのも無理がなかっただろう、今の自分に起こった事に一番驚いたのはセシル自身であったのだから。 「ああ……そうだよ」 水晶状の物質でつくられた床から反射して見える自分自身の姿をじっくり観察しながら、ゆっくりと口を開いた。 鮮やかな銀色の髪に悟りを開いたかの様な瞳。 そして白を基調とした様相は、先程までの暗黒騎士としての面影は翳りも感じられないほどであった。 「これがパラディンというものか……」 「やりましたわね! セシル様」 「これにて一件落着だな」 皆が嬉しそうに感嘆の声を上げる中、セシルは切り出す。 「まだ終わりでないよ。これからが本番だ」 そう言った後、ゆっくりと声がした方向へと振り...
  • 三節 山間47
    「セシルよ……ついにやったようだな」 暗黒騎士が消え去った直後、あの懐かしい声が聞こえてきた。 「私も一部終始を見届けさせてもらったが。見事なものだ」 「いえ……僕だけの力では到底無理でした……」 苦楽を共にした仲間達やローザが居てくれてこそだ。 「これから私の最後の力を託そう。今のお前にら使いこなせるはずだ。それにお節介かもしれんが一つ言葉を……正義よりも正しい事よりも大切な事がある。 この試練を乗り越えたお前になら分かるはず」 「分かりました……」 「それでは私はもう消えよう、行けっ! セシルよ。ゴルベーザを止めるのだ……否止めてくれ。 お願いだ……」 「待って下さい!」 この声にはまだ聞きたい事が沢山あった。自分の事を息子と言ったのは何故だ。 それにゴルベーザの事も知っているようであるが… だが、もう声からは何も返事は帰ってこなかっ...
  • 三節 山間25
     残念ながらスカルミリョーネの言葉は的を得ていた。戦局は一時は均衡状態に持ち越されたが、 不利を抱えているのは明らかにセシルたちの方だった。彼らはこうして抗戦しているうちにも、 刻一刻と体力を消耗している。その一方で、疲れを知らないアンデッドたちはじわりじわりと 着実にその距離を詰めてくるのだ。このまま続けば結果は火を見るより明らかである。  守る二人もそのことはわかっていて、先程から慌ただしく考えを巡らせているのだが、押し迫る 緊迫の最中のためか、いっこうに策が浮かばない。隣を見るもテラの方も同様らしく、しわがれた 額に焦燥の汗が照っていた。  セシルの額にも汗がたれ始めた。  こうしていても埒があかない。これ以上の体力の消耗は、避けた方がいいのではないか。 そんな不安が過り、無意識の内にセシルは剣を下ろしかけていた。 (このまま続けて!) ...
  • 三節 山間51
    「二人は足手まといにはならなかったか?」 気を取り直して長老は訪ねる。 「ええ……それは問題ありませんでした」 むしろ、多くの局面を救って貰ったこの二人には感謝の言葉もない。 「それで……この二人は? 一体」 「ああ! そうか戻ったら話すんだったな。長老……」 そう言ってパロムは長老の方へと向き直った。代わりに話してくれと言ってるようだ。 「では、私の口から話そうか……そもそも私がパロムとポロムをセシル殿のお供につけたのは当然修行を兼ねた 手伝いとしての意味もあるが、もう一つはお主を監視するためだったのだ」 「監視?」 「ちゃんと最後まで試練をなせるかどうかを詳しくな」 「そうですか……」 「だが、その必要も無かったようじゃな。二人ともご苦労であった」 「ごめんなさい。セシル様……黙っていて」 「いや、あんな事までしたんだから疑われな...
  • 三節 山間11
    「も、もがっ…」 「ちょと! その…こ…とは…密…って言っ…しょ…」 口をふさいだまま、パロムに強く耳打ちする。 「い、痛いよ! ぱろむ!」 「いいから、黙ってなさいよ!」 「おっ……おい。もうその辺にしといてやれ」 二人のやりとりに見かねたテラが口を挟む。顔からは疲れがよぎって見える。 無理もない、この二人のペースには最初はセシルも戸惑わされた。 「いやだぁ! テラ様、セシルさん。気になさらないで」 「そうかなあ……」 「そうですわ。ははは……ウフフッ」 不自然に笑う様は疑わない方が無理という感じであった。 「そう……長老の命でセシルさんの案内をしていますの」 「元気のいい子供達だな。ところで……」 話題を変えようとしてか、咳払いをし、間を置いてから話し始める。 「リディアは何処に行った? 一緒じゃないのか。それと……」 言...
  • 三節 山間28
    「何だこの揺れは……」 地面が揺れている。最初は錯覚に思えたが、直ぐにそれが真実だと気づく。 そして、セシル達にも揺れは伝わった。 揺れは、どんどんと強くなり、やがては立っていることすらも困難になる。 さすがのアンデット達もこれには侵攻を一時止めるしかなかった。 「これは……」 後ろを振り向くと詠唱を続ける二人を中心に白い光が輝いていた。 さらに二人を守るかのように強風は吹き付け、誰も近づく事ができない。 「あの子ども達か! 全く、やりおるわい」 強風と揺れから体を守りつつ、テラはまるで自分の子供を見るかのような口調で言う。 「よしっ、一気にいけ!」 「ああ」 「はい」 二人は重なるかのような声を返した。そして―― 轟音が響き、急に辺りを大きな影が覆った。 「上だ!」 空を見上げたセシルは思わず目を丸くせざるを得なかった。 ...
  • 三節 山間55
    「おい、長老――」 感情を乱した長老を見たことがないのか、やや取り乱している。 「パロムパロムが口を挟む。 ここまで!」 だが、それ以上はポロムが言わせなかった。 「出ましょ……」 パロムのがここまで感情を崩す事を見たくはなかったのだろう。 この様な場に肩を掴み静かに退出する。 二人には長老はとてもではないが耐えきれなかったのだ。 曲がり角へと消えていく二人の影を見ながら自分も引くべきかとは思ったが、やめておいた。 「アンナが……娘が……」 二人が去った頃合いを見計らったようにテラが言う。 「…………」 セシルにもあの時のダムシアンの様相が頭に蘇ってくる。 「娘が殺されたのだ」 ずっしりとしたテラの声はとても短かったが、深い憎しみが秘められている。 「それだけで充分な理由であろう……」 「私怨で戦うというのか! 愚か...
  • 三節 山間42
    地面を蹴り、暗黒騎士へと斬りかかる。 しかし、向こうは軽くセシルの太刀を受け流す。 それもほぼ確実にセシルに剣の切っ先を見切ってるかのようにだ。 「セシルよ……仮初めでなく本当にその力を手にしたければ剣を納めるのだ。 そして自分の罪を受け入れるのだ」 再び、ささやく様な声が頭に流れ込んできたのは、暗黒騎士の反撃を避け、後退した時だ。 セシルにはその意外な言葉を咄嗟には理解できなかった。にわかには信じられない思いで上を見やる。 目前には今まさに暗黒騎士が迫ろうとしているところだ。迎え撃たねば此方がやられるであろう。 「何故だ……」 目前に迫る自分の闇を振り払う事こそが今の自分に課せられた試練ではないのか。 少なくともセシル自身はそう考えていた。 「相手を倒すことだけでは決して暗黒騎士には勝てんぞ。いずれは闇に取り込まれるであろう」 確かに暗黒騎...
  • 三節 山間29
    「まずい離れないと。このままでは僕たちまで巻き込まれてしまう」 立ちつくすテラの腕を反射的に引き、慌てて近くの岩陰まで走る。 「この辺りなら大丈夫だろう。テラ……」 振り返った先にあるテラの顔は何か信じられないものを見たような表情であった。 「これはメテオ……」 「え!」 その言葉につられるかのように、セシルは今目前で繰り広げられている光景を顧みる。 「否、断言するには早計すぎるだろう。だが、完全な形ではないにしろ間違いなくメテオ 又はそれに近いものであろう」 「そうなのか……」 ミシディアから一緒にこの山を共にしてから幾度と無く二人には助けられた。 その戦果は長老に紹介された時点での第一印象を払符する為には充分すぎるといってよいものであった。 だが、それでもセシルは二人に対し何処か子どもだからという認識があった。まさかここまで力を隠し持って...
  • 三節 山間40
    「お前が来るのを待っていたぞ……」 今度はよりはっきりと聞こえたその声は間違いなく外で聞こえた声だ。 「聞こえるかポロム?」 「いいえ」 そう言ってポロムは首を横に振る。テラも何も聞こえていないような雰囲気だ。 おそらくはこの声は自分にしか聞こえていないのだろう。 「あなたは……あなたは一体誰なんですか? それに僕を知ってるんですか!」 「我が息子よ……聞いてくれ。今、私にとって悲しい事が起きている。そして その悲しみはこのままさらに加速していくだろう……」 セシルの疑問を余所に声は語り始める。ずっしとのしかかってくるような重みのある声に セシルは質問を止め、聞きいってしまう。 「悲しみですか……」 「そうだ。そして今お前に新たなる力を授ける事になる。その事により私はさらなる悲しみに包まれることに なるだろう。しかし、今はこの手段を用いる...
  • 三節 山間66
    「それで長老は?」 昨日の内に礼は言っておいたが、あの人にはお世話になった。未練がましいかもしれないが、旅立つ直前に、もう一度だけ 顔を合わしておきたいと思った。 「長老は……明朝、祈りの塔に入られました」 「祈りの塔だと!」 「テラ、知ってるのか?」 「ああ……一応はな。詳しくは知らんがそこに入ったとなれば当分は出てこないと言うことだ」 そこまでして、長老は何に祈るのか? だが、セシルはそれを理解していた。 長老も世界……いや、守りたい者の為に戦いを始めたのだ。それはセシル達の様に直接的に手を動かす行為ではないかもしれない。 だが、その行いも一つの戦いである。 それだけで聞けば充分であった。此処にはいないが、長老が自分を全力で見送ってくれているのを感じる事ができた。 「そうか……じゃあ、僕たちも急ごう!」 小屋に入る途中に一度だけ後ろを振り...
  • 三節 山間56
    「ああ、セシル殿。ちょっとばかり見苦しいところを見せてしまったな……」 寂しげな様子でテラを見送った後、長老はセシルに切り出す。 「あいつと私は昔からの仲でな。つい本音でやり合ってしまう。仮にも国を統べるものなのに パロムとポロムもいたというのに……」 「いえ、そんな友人はとっても羨ましいです。本当に……」 もし、自分にもそれだけ他人とうち解けあえたら……カインも。 だが、もう過ぎ去ってしまった事。その日々を取り戻す為にもこの力を手に入れたのだ。 「そうか……有難う」 「何故、テラはミシディアを出て行ったんですか?」 聞いて良いのかどうか迷ったが、今聞かなければもう聞く機会はないだろう。 多少、配慮に欠ける行為だとは思ったが、セシルは思い切って質問した。 「やはり、分かるか」 「一応、テラとの付き合いは長い方ですし、さっき長老とも何処か余所余...
  • 三節 山間23
     と、鞘にかけたまま動かないセシルの手を、突然テラの杖がしたたかに打ち据えた。 「セシル! 何を迷っておる!!」 「テラ……!」 「おぬしに出来ることなど一つしかないじゃろうが! ならばそれをやれッ!!」  テラの杖が一転して弧を描き、中空に陣を描いた。その軌跡が光を発した、と思った次の瞬間、 円陣からいくつもの火球が飛び出し、迫りかけていたアンデッドたちの顔を焼き焦がした。 連中は間の抜けた仕草でしばらく火のついた自分の顔を叩いていたが、やがてその火が消えて しまうと、またもこちらに迫ってきた。頼みの綱である魔法も、ほとんど効いてはいないようだ。 いよいよなす術がない、セシルが肩を落としかけると、再びアンデッドたちに炎が襲いかかった。  驚いてセシルは横を見る。テラの横顔には微塵ほどの迷いも無く、既に次なる魔法の詠唱を 行っていた。落ち窪んだ瞳の中...
  • 三節 山間63
    「それで何か御用でしょうか?」 「お荷物が届いています」 一通りの挨拶を終え、用件を尋ねると女官は部屋の前に置かれた一つの包みを指さす。 「これは?」 「武具屋の店主さんから餞別だそうです。重いのでご注意ください」 ここまで持ってくるのも相当な苦労でしたと苦笑する。 セシルもその荷物を持ち上げようとする。それは確かに見た目以上の重さを有していた。 何とか部屋まで運び込み、女官に礼を言って扉を閉める。 持ち込むのも困難であったが、梱包されたその荷物を紐解くのも結構な労力を使用した。 「これは……」 開いた荷物から覗いたものは鎧であった。 それだけでなく、篭手を始めとした防具一式が詰め込まれていた。 そのどれもが渾身を込めた出来であり、丁寧に鍛えられたものであった。 「パラディンの……」 試練の山へ向かう前準備として、武具屋に行った時があ...
  • 三節 山間27
    「む、むう……」 だが、一見してがむしゃらな攻撃であるが、意外に効果があったようだ。 スカルミリョーネはこ少なからず戸惑い、どうアンデット達に 指示を仰げばいいかを悩んでいる。 (チャンスだ!) 意外ではあったが、この機会を逃すわけにはいかないだろう。 そう思い、セシルは背後の二人を見やった。 「!」 背後にいる二人の様子にセシルは驚きを隠せなかった。 二人はなにやら、声を合わせ、何かを呟いている。 「あれが、とっておきの策……」 「おいっ! セシル。手伝わんか」 テラの叱咤が、セシルを現実へと引き戻す。まだ戦いは続いている。 「分かってます」 あれだけの魔法を一気に撃ち込んだにもかかわらず、アンデット達はさしてダメージを受けた様子は 無かった。 「今度はお前の暗黒を打ち込め。何としても近づけさせるな!」 言いも終わらぬ内...
  • 三節 山間60
    「馬鹿ですね……それでもし、私が此処にいなかったらどうするつもりでたの?」 「でも、結局は会えた……」 自分でもえらくいい加減な理屈だとは思ったが、敢えて言った。 「…………」 「…………」 そこまでで会話が途切れた。 「無理をしないでください。そんなに取り繕わなくても、一番言いたい事があるんじゃないですか?」 「明日にはここを発つ……」 促され、いきなり切り出す。 「それだけを言いたくて……」 言葉自体には大きな意味はなかった。他にもお互い、話す事はいくらでもあるはずだ。 だが、もうそれだけで充分だった。今更、謝罪の言葉が意味を成さない事をセシルは悟っていた。 「それじゃあ……」 踵を返し、夜闇に消えようとしたセシルをか細い腕が引き留める。 「私はまだ、あなたと面と向かって話す事はできません。それに今もあなたの事を全て許すこと ...
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