かなり真面目にFFをノベライズしてみる@ まとめウィキ内検索 / 「三節 Two of us18」で検索した結果

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  • FF4 三章
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  • 三節 Two of us18
     ぞわ、とおぞましい寒気が彼らの背筋に走った。  やはり・・、やはりこの男が黒幕なのだ。  ダムシアンの虐殺、ホブス山での奇襲、そしてこの襲撃。全ての糸を引いていた者。 それがこうして目の前にいる。彼らのうちに、燃えるような感情が息づきだしていた。 「そして・・」  だが、当の男はあくまで平然としていた。今のいままで話しかけていたギルバートを ものともせずに素通りすると、今度は横たわるセシルの前に歩み寄った。 「お前がセシルか・・、私の前任者というわけだな」 「・・貴様が・・ゴルベーザ・・・・!」  怒りに燃える瞳で、激痛に耐えながら起き上がろうとするセシルを、ゴルベーザはまた しごくつまらなそうに見下していた。やがて、セシルに向かって手をかざすと、 「お互い積もる話もあるといいたいところだが、・・なにぶん多忙な身でな。  会えたばかりで残念...
  • 三節 Two of us1
    ギルバートは逃げ出した。 息を切らし、薄暗い地下道をひた走る。手当てしたばかりの傷が開き、再び血が流れ出すのがわかった。 ファブルール王らはここで追っ手を防いだのだろう、無造作に転がる双方の死体が激闘を物語る。流れ出した体液はまだ乾ききらず、急ぐ足元を滑らせた。 周囲に動くものの姿はない。 死臭に満たされた空気は、ギルバートに故郷を思い出させた。 竜騎士カイン──ミストの惨劇を境に消息を絶った、セシルとローザの幼馴染み。 彼らが友人の名を口にするとき、必ず深い信頼と、その身を案じる響きがあった。 しかしカインは敵として現れ、行く手を阻むセシルを一方的に翻弄した。奥の手である暗黒の力さえ通じなかった。 そして、勝敗が決してからの行動は完全に常軌を逸している。セシルたちから聞いた人物像とあまりにかけ離れていた。 人とも思えぬほどの強さ。かつての友を嬉々...
  • 三節 Two of us14
    「シド・・」 「それに、わしがいなくなれば助手どもの命も危ない。  ・・なにより、娘を残しては、行けん」  目を細めるシドに、ローザは恨めしそうな声を出した。 「・・もう一人の娘の力には、なってくれないの?」  うなだれる彼女の頭に、ごつごつした油臭い父の手が置かれる。 「ローザ、この国は腐りきっとる。古くなった船と同じじゃ。そこら中にガタがきて、 いまにも沈んでしまいそうな有様じゃ。しかも、薄汚いウジ虫どもまでたかっとる。 正しい歯車が残らないといかんのだ。わしは見守らねばならん。それがわしのつとめ なんじゃよ。わかるな?」  静かな沈黙が流れた。ローザは顔を上げると、小さく微笑んだ。 「・・わかったわ、シド」  二人は見つめ合い、親子の抱擁を交わした。あたたかい、人間の温もりが感じられた。  やがて彼らの耳に、二人を引き裂く無慈...
  • 三節 Two of us15
     そうしてローザは国を離れた。残してきたシドにほんの少し後ろ髪を引かれながら。  海路を利用してカイポの南端の海岸に降り立ち、つれてきたチョコボを駆けさせて、 砂漠をひたすら北へと急いだ。セシルが生きているならば、必ずあの街に立ち寄るはず。 会えはしなくとも、何か得られるものがあるはずだと自分を力づけながら。  だが、幽閉生活の間に衰弱しきっていた彼女の肢体に、砂漠の熱は容赦なく襲い かかった。黄金色の熱砂によって何重にも乱反射され、増幅された日光が放浪者の 身体をなぶるのだ。しかも悪いことに、急ごうとするあまり彼女はチョコボに無理強いをしてそのために手持ちの水のほとんどを与えていた。  やがて、彼女は限界を迎えた。最後の意識で、ゆらめく街の姿を認め、そしてローザは 気を失った。  そのまま彼女は、以後十数日に及び生死の狭間をさまようことになる────。...
  • 三節 Two of us12
     どくん、と胸の奥が震えた。 「・・いいかローザ。お前さんのそんな有様を見て一番悲しむのは、わしでもなければ お前さん自身でもないんじゃぞ」 「・・・」 「赤い翼の・・わしらのセシルが惚れた女は、こんなくだらない人間か?」 「・・セシル・・・・」 「立ち上がるんじゃ。お前さんを失って、セシルがどんな顔をすると思う。  あやつを慰める役目なんぞ、わしはまっぴらごめんじゃぞ!!」  ぐい、とシドがローザの身体を引き上げる。幽閉され、いっそう細身のかかった肢体は 急な反動にふらついたが、その瞳にはいまや毅然とした輝きが宿っていた。  シドは満足げにニヤリと笑った。 「信じるんじゃローザ。ここにいてはいかん。信じてセシルを追え!」 「えぇ・・そうね、シド。私たちのセシルを信じるわ!」 「素直に" 私の "と言わんかい」 ...
  • 三節 Two of us17
     やがて決意したようにローザはそっと立ち上がると、ゆっくりとカインに歩み寄って いった。慌てて止めに入るヤンを制して、踞る友の側に膝をつく。そして、彼女は震える カインの背にそっと手をかけようとした。  そのとき、コツリ、と床を踏みしめる音が響いた。  固く、乾ききったその音は気味が悪いほどよく響きわたり、その場の全員が言葉を 発することも出来ぬまま、ただその主が訪れるのを待っていた。  開かれた扉を、一点に見つめたまま。  やがて、どす黒い影と、凍り付くような空気を纏ってその男は現れた。 「何を血迷っているのだ・・カイン」  カインの震えが止まった。彼の言葉を待たずして、皆はその男の正体を悟っていた。  「ゴルベーザ・・様・・」 「ゴルベーザ・・!」  長身のヤンよりもさらに二回り以上もあるその男は、巨大な...
  • 三節 Two of us19
    「・・虫ケラに用はない」  なす術も無く吹き飛んだ二人に吐き捨てる。その口調には、先程の礼節などかけらも 残っていない。ゴルベーザは踞っているカインに向き直ると、パチンと指を鳴らした。 とたんにカインが人形のように起き上がる。 「カインよ、遊びはここまでだ。クリスタルを手に入れろ」 「・・はッ!」  先ほどまでの狂態が嘘のように、落ち着いた様子で歩きだすカイン。ローザはその 変貌に慄然としながらも、しかし彼が向かう先にあるものを認めて、彼の前に立ち はだかった。 (────クリスタルは渡さない!) 「やめて! カイン・・!」 「・・!」  カインの顔がほんの少し苦痛に歪み、押しとどまった。  それを得て、ローザは彼の手を強く握りしめる。 「お願いカイン! 正気に戻って!」  さらにカインの身体が後ずさった。  ロー...
  • 三節 Two of us16
    「カイン、まさかあなたが・・」  ローザはまたカインに尋ねた。だがその声には、もはや先ほどまでかすかに残っていた 信頼の影はなく、既に決定した事実を問責するに近いものだった。その音色に耐えきれ なかったのか、カインは立ち上がり声を上げた。 「違う! ローザッ、違うんだ!!」  だが、その声は動揺しきっていたローザを刺激し、彼女は思わず身を引いた。  それはごく小さな動作だった。しかし、カインの目にはそうは映らなかった。彼女が 自分から離れたという事実、そしてほんの少しだけ後ずさったその距離は、もはや彼には 永久に埋めることの出来ない空白のように感じられた。  カインはすがるように彼女に向かって手を差し出す。しかしローザはさらに後ずさり、 不安げにセシルの胸に手を添えた。そして彼の中で、何かが崩れた。 「・・俺は・・・・」  カインは膝を...
  • 三節 Two of us13
    「行きましょう、シド」  守衛をなぎ倒し、夜の闇にまぎれて二人は脱走した。ところが城壁から堀へ出る通路の 入り口まで来たところで、不意にシドは足を止めてしまった。 「・・シド?」 「行くんじゃローザ」 「いったい何を・・? あなたも一緒に・・」 「わしはここに残らねばならん」 「何を言い出すの!」  あおの言葉に耳を疑いながら、ローザは必死で声を殺して説得しようとした。  時間がなかった。衛兵がいつかぎつけて、ここにやってくるかもしれない。 「シド! ここにいたら、いつかあなたも殺されてしまうかもしれないのよ!?」 「案ずるな、王にわしは殺せん。わしは飛空艇に必要な人間じゃからな」 「でも、それなら、なおのことここを離れるべきじゃないの!」 「そうはいかん」  シドは決然と言った。 「わしがいなくなれば、これ以上の飛空艇の開発は不...
  • 三節 Two of us11
    「この馬鹿者がッ!!」  バシッ、と乾いた音を立てて頬を払った。衰弱した彼女の身体が、そのまま倒れ込む。 ローザは目を丸くしていた。痛みよりもむしろ、驚きの方が大きかった。幼い頃から 父親のように接してくれたシドだが、叩かれたのはこれが初めてであった。まだ呆として いるローザの肩をつかみ、シドは分厚いゴーグルを外して語りかけた。その目は、彼が 見せたこともないような悲哀に染まっていた。 「ローザよ・・いつからそんな弱い女になったんじゃ」 「・・・」 「お前さんは強い女のはずじゃ。そして、セシルのことも一番よく知っとるだろう? そのお前さんが、どうしてあやつがそんな真似をするなど言うんじゃ。どうして、 あやつが死ぬなどと・・軽々しく口にするんじゃ。なぜ、あやつが生きてると信じない?  なぁ、ローザよ。あやつがそんな簡単に・・お前を置いて逝ってしまう...
  • 三節 Two of us10
     ローザは耳を塞ぎながら、狂おしく声を上げた。 「もう二度と、私の名前を呼んではくれない、笑いかけてもくれない、抱きしめても・・ 全部、もうぜんぶ終わってしまったのよ! どうなったって構わないのよっ!!」  ローザはうつむき、ポロポロと涙を流した。まだ自分には、これだけの水が残って いたのか。そんな風に思うほど、とめどない悲しみが溢れていた。  構わない、と彼女は言った。そう、どっちでも構わなかったのだ。  決して噂を信じたわけではない。だが彼女にとって、たとえセシルがバロンに弓を ひこうとも、本当は構わなかったのだ。彼がそうするというのなら、それがどんな道でも 歩んでいける。彼が何をなそうとも、自分はそれを信じて支えさえすれば良い。  彼女に必要なのは、セシルのそばにいる、たったそれだけのことだったのだ。  そして、それが全てだった。だからこ...
  • 三節 Two of us3
     地下道を走りながら、ローザは先ほどのギルバートの言葉を反芻していた。 「カインが敵に────!」  背後を振り返ると、少し遅れてギルバートがリディアの手を引いて走っている。  ローザは視線を低くしている彼を睨みつけ、彼が顔を上げるとまた前を見据えた。 (────何も知らないくせに!)  彼女にとって、セシルとカインとの三人の輪は聖域だ。誰にも傷つけられないし、 もちろん内側から破れることなどあるはずもない。そしてそこに土足で入り込んできた ギルバートは、憎むべき対象だった。 (何かの間違いに決まってるわ)  仮にギルバートの言っていることが事実なら、それはきっと魔物がカインの姿を 纏っているだけに違いない。たとえ操られようとも、本物のカインがセシルを傷つける ことなどあるはずがない。自分もセシルも、必ずそうであると断言できる。  けれど、何...
  • 三節 Two of us5
    扉を開けたローザの目に飛び込んできた光景は、彼女の意識を破壊するにあまりある ものだった。部屋の中心に立ち、同じように放心したように自分を見つめるのは、 まぎれもなく親友のカインの姿。  そして、 その、 手の、  槍が 、セシルの、・・ 「やめてえぇーーーーーっっ!!」  もっとも大切なひとが奪われようとしていた。  もっとも信頼していた友人の手によって。  その光景の意味を理解してしまう前に、彼女の理性はそれを否定した。 「ローザ!?  なぜ、君がっ・・!?」  泣き叫ぶローザの姿にカインは気を取られ、無意識に槍を握る手を緩めていた。 その機を逃すヤンではなかった。  痛烈な爪の一撃がカインのみぞおちをえぐり、続けざまの攻撃で間髪入れずに壁際に 蹴飛ばされる。 「ぐっ!」 「ローザ殿!」  すかさずヤンがセシル...
  • 三節 Two of us7
     ・  ・  セシル達がミスト討伐に旅立った直後のことだった。その日のうちから、バロンでは 突然、妙な噂が広まりだしていた。  「赤い翼のセシル=ハーヴィは謀反を企てている」  根も葉もないものだった。  不祥事により赤い翼の指揮権を剥奪され、そもそも王に対して反心を抱いていた セシルは密かに同志を募り、いまや王権の乗っ取りを目論んでいる、などと噂は尾ひれを つけて広がる一方で、しかも翌日には、噂を裏付ける証人まで現れた。あわれな姿で バロンにやってきたその男は、自分はミストの村の生き残りだと名乗り、バロンの 親善大使としてミストへやってきたセシルが、彼らにバロンへの反乱同盟の結託を 持ちかけ、拒否した彼らを無慈悲にも村ごと焼き滅ぼしたと、涙ながらに訴えたという。  しかもあろうことか、王はあっさりとそれを信じたのだ。 ...
  • 三節 Two of us2
    「そこにいるのは誰!」 「ローザ!?」 ギルバートには皮肉なことに、ローザもまた胸騒ぎにかられてセシルの元へと急いでいた。狭苦しい地下道は見通しが悪く、まず声を掛け合って互いの正体を確かめる。 「ギルバート? どうして……」 「急いでクリスタルルームに!  セシルが危ない。カインが敵に回ったんだ」 虚を突かれたローザは一瞬黙り込み、すぐにギルバートを怒鳴りつけた。 「……バカ言わないで!!」 「本当だ!!」 負けじとギルバートも叫び返す。 「止めてほしくて君を呼びに来たんだ。とにかく、来ればわかる!!」 必要なことは伝え終え、ギルバートは踵を返した。戸惑いを残しながら、ローザが後に続く。そのとき、ふたりを引き止める声が響いた。 「待って、あたしも!」 「リディア!?」 二人は驚き、音のした方向に視線を走らせた。少女の姿は見当たらないが...
  • 三節 Two of us9
    「そこにいるのは・・、ローザか!?」 「・・・シド?」  新たに向かいの独房に押し込まれてきた囚人、それは飛空艇整備隊の長であり、 彼女やセシルの友人でもあるシド=ポレンディーナであった。 「あなたまで・・」 「王がダムシアンを攻めるなどと戯言をほざいておるから、寝ぼけるなと言ったとたん このざまじゃ。何を考えとるのじゃ陛下は・・」 「ダムシアン・・また、人が死ぬのね」 「しかし・・なんてざまじゃ、ローザ」 「・・・」 「あのクソッタレの王め! 監禁されておるとは聞いていたが、まさかこんな所に!!」  やつれきったローザの姿に憤慨するシドを見て、彼女は骨張った頬を緩ませ、力なく 笑った。 「もう・・・いいのよ」 「・・なんじゃと?」 「どうでもいいのよ・・」 「ローザ・・! どうしたんじゃ、しっかりせんか! お前らしくもない!...
  • 三節 Two of us6
    リディアも遅れてやってきた。背中に負傷をしているギルバートを気遣っていたが、 彼は弱々しげに微笑みそれを制した。すこしためらったいながらも、彼女もセシルの 回復にむかった。二人分の魔法の力がセシルの傷ついた胸を癒し、徐々に彼の顔に生気が 戻りはじめた。 「・・ロー・・ザ?」  ようやく自分を見つめる彼女の姿を認めたらしい。それを得て安堵したローザは、 うち震えるカインに向き直った。 「カイン・・どうしてあなたがこんなことを」  カインは黙っていた。再びローザは、どうして、と問いかけた。  しかしそれへの答えは、カインの漏らした意外な言葉によって返された。 「・・なぜここに。君は、謹慎処分になっていたはずだ・・」  ローザは驚愕の表情で息をのんだ。はっとカインは口をつぐんだが、もう遅かった。 すでに彼を見つめるローザの瞳には、よりいっそう色濃い...
  • 三節 Two of us4
     クリスタルルームの巨大な扉は、無惨に破壊されていた。震えながらも、彼女はおそる おそる扉に手をかけた。  その瞬間、ローザはひどい悪寒に包まれた。 (────この扉を開けてはいけない!!)  彼女の直感が泣き叫び、悲鳴を上げていた。いますぐその場から逃げ出してしまいたかった。彼女は、無意識のうちにそっと手を引こうとしていた。          (ローザ!)  ぴく、とローザは顔を上げた。セシルの声が聞こえたような気がした。  そうだ、もしもこの中にセシルがいるなら・・。もしも、本当にギルバートの言う ように深く傷ついているのだとしたら。ローザの手に、ゆっくりと力が戻ってきた。  ごくりと固唾をのみ、ローザは残骸となった扉を思い切り押し破った。
  • 三節 Two of us8
     もしその時の彼女に普段の冷静さの半分でもあったなら、周囲を取り巻く状況の 不自然さに疑いをもつこともできただろう。落ち着いて考えてみれば、どの噂にしたって 根拠もなにもなく、ずさんなことばかりである。そもそも、なぜこれほど急にそんな 噂が流れ、大衆に浸透していくのか。あの証人、それに王のあまりの短絡ぶりにしても、 平静の彼女なら、そこに何かしら周到なものを感じ取ることができただろう。悪意に まみれた陰謀の影を。  けれど、絶えず聞かされる耳を塞ぎたくなるよう中傷に、離ればなれの恋人に想い焦が れるローザの心は弱りきっていた。そうして、ふとしたときにほんの少しだけでも セシルを疑ってしまっている自分に気づき、ひどい自己嫌悪に苛まれる。慌てて彼の 無実を自分に言い聞かせる、それを嘲るようにまた周囲から聞こえてくる歪曲した事実。 それらから目を背け、ひと...
  • 三節 Two of us29
    「ほら、おとなしく横になって!」 「わかった、わかったよ」  乱暴に布団をかぶせるリディアに、セシルは苦笑しながら横になった。 「君も休んだ方がいいよ、リディア」 「いいの、もうすこしで傷も全部治るんだから」  リディアはエーテルを口に含みながら張り切っている。素直に言うことを聞きそうに 無い。セシルはため息をつきながらも、嬉しそうな顔で目を閉じかけた。だが、ついと 横を向いたときにとんでもないものが目に入ってきた。 「・・!? リディア! いったい何本それを飲んだ!?」 「・・・」  リディアは黙ってセシルの胸に手を当てている。セシルは、ベッドの脇にある棚の上に 散乱している、エーテルの空き瓶の山と彼女を見比べた。  エーテルには魔力の源となる精神力を回復させる効果がある。昔から魔道を志す者達に 重宝されてきた良薬なのだが、薬という代物...
  • 三節 Two of us34
     セシルはまじまじと剣を眺めながら、胸の内で動揺を隠せなかった。  暗黒騎士のつかう剣は、技者がその力を用いる度に徐々にその刃自身にも闇を蓄え、 やがて黒みを帯びだしたそれは、まさしく暗黒剣と呼ばれる魔剣になる。  だがこれほどまでに深々とその身を黒に染めている剣など、未だ嘗て見たことが無い。 「いったいこれは・・」 「かつて、この国を訪れた暗黒騎士がもっていたものだ。  ・・恐ろしいほどの強さを秘めた男だった。何処から現れたのか、その素性も目的も 知れなかったが、ただ彼の騎士が去った後にこの剣が残されておった。  どうせ我々には縁のないもの、セシル殿の旅に役立てていただきたい」  セシルはそっと柄を握った。たちまち剣から暗黒の霧が腕に流れ込み、全身が粟立つ ような錯覚を覚える。 (こんな剣を使いこなす騎士・・・いったい誰が?) 「・・...
  • 三節 Two of us40
    「さて、そろそろ部屋に戻ろうか。抜け出したことが妻に気づかれると面倒でな」  セシルへの気遣いからか、それとも本音なのか。苦笑するヤンにセシルは顔を ほころばせた。そういえば、自分もリディアに内緒で抜け出してきたのだった。 「そうだね、そろそろ・・」  いいかけて、セシルは顔を上げた。にわかに空を覆っていた雲が晴れ、のぼり きった月が顔をだし、訓練場の彼らに柔らかい光彩を注いでいた。ヤンも目を細め ながら、その美しい照明を仰いだ。すると、透き通った光に再び影がさした。 また雲がかかってしまったのだろうか。 「!」  次の瞬間、ヤンは腰に下げていた炎の爪に手をかけていた。雲ではない。 月光を遮ったのは、バサバサと翼をはばたかせながら降下してくる深緑色の巨体。 手負いのまま訓練場に姿を潜めていたガーゴイルであった。明かりが差したので 見つかってし...
  • 三節 Two of us24
    『おい!』 『・・え?』 『お前、セシルっていうんだろ?』 『あ・・・・う・・うん』 『こんにちはっセシル。ねえ、私ローザっていうの、こっちはカインよ』 『・・こ、こんにちは』 『なんだよ、おとなしいやつだなぁ』 「・・ここは?」  目を開けると、どこかの部屋の天井が映った。前に見たことがある壁の色だった。  ここは確か・・そうだ。 「宿屋・・か?」  周りにはいくつかベッドが見え、自分にも清潔そうな毛布がかけられていた。ベッドの 側には見慣れた自分の鎧が置いてあった。  あたりを見渡しているうちに、ふと自分の足下に寄り添うようにして寝ている、 リディアの姿を認めた。 (看病・・してくれていたのかな)  そっとリディアの頭を腕を撫でると、ちいさく寝息を立てた。疲れているのだろう、 そっとしておこう。 ...
  • 三節 Two of us37
    「・・本当によかったのかい、ヤン?」  会見を終えて、セシルはヤンに尋ねた。また自分に無関係だった人間を巻き込んで しまったことを気にかけているのだ。不安そうな彼に、ヤンは顔をしかめて答えた。 「ご迷惑だったかな?」 「まさか! そんな、大歓迎だよ・・ただ・・!」  慌てて首を振るセシルに顔を緩ませ、ヤンが力強く彼の手を握りしめた。 「セシル殿。無用な気遣いなどいらぬ、これは私の決めたこと。私はそなたの内に秘め られた何かにかけてみたいのだ。不肖だがこの命、そなたに預けさせてくれぬか・・!」 「・・ヤン、・・・・ありがとう」 「よろしく頼むよ、ヤン!」 「これからもよろしくね!」  ギルバートとリディアも横から手を加えた。彼らはお互いの結束を確かめ合うように、 重ね合わせた手とそれぞれの顔を見渡しながら笑った。 「船の準備に半日ほど...
  • 三節 Two of us21
    「セシル・・?」  懸命に身体を起こしながら、自分に呼びかけるセシルをローザは愕然と見つめた。 (どうしてあなたが・・そんなことをいうの?  この人はカインなのよ。なぜカインを信じてあげられないの?  どうしてあなたまでもが、わかってくれないの!)   熱を帯びた瞳から、彼女の想いが流れ込んでくる。  だが、残念ながら彼女の願いとは裏腹に、状況を少しでも理解していたのはセシルの 方だった。事実、ローザの眼前にいるカインの拳はギリギリとうち震え、今にも彼女に 襲いかかろうとしていたのだから。  ローザは冷静さを失っている。今のカインがどれほど危険か、わからないほどに。 「下がるんだ・・ローザッ!」  セシルは再び、強く叫んだ。そして渾身の力を振り絞って、自分を貫いていた槍を自ら 引き抜くと、それを支えにして立ち上がった。カインに放った暗黒波の反...
  • 三節 Two of us41
     ところが当のセシルを見やると、何故かぼんやりとした様子で、ビクビクと痙攣する 魔物の死骸を見つめていた。まるで、彼自身も驚いているようにすら見える。 「・・・」 「・・セシル殿?」 「・・・・・った・・」 「なに?」 「・・・・・・違った」  訝しげな表情のヤンを見据えて、セシルは言った。 「・・カインだと・・思ったんだ」  愕然と見開いた目で自分を見つめるセシルを、ヤンは黙って見つめ返していた。 やがてゆっくりと大きな息を押し出すと、彼の肩に手を添えた。 「・・気が昂っているのだ、セシル殿。そなたはあまりに多くを抱え込みすぎている。  その重みに精神が戸惑っているのだ。・・もう、休まれよ」  セシルはしばらく虚ろな目でヤンを見ていた。が、やがて視線を落とすと、 「・・わかったよヤン。でもすまないが、もうしばらくひとりにしてもらえる...
  • 三節 Two of us35
    「陛下」  それまでじっと控えていたヤンが、俄に口を開いた。 「なんだ、ヤンよ?」 「まことに勝手な申し出とは存じておりますが、この私もセシル殿に同行させて いただきたい所存であります」  セシルは目を見開きヤンを見た。だが、口を挟もうとしたセシルにヤンが向けた 視線は、鮮明に彼の意思を物語っていた。 (何も言わないでほしい) 「・・つまり、国を出たいと言うことか?」  王が厳しい表情で尋ねる。一国の統治者たる威容に満ちた口調だ。 「・・ハッ」 「今この期に、復興の中心となるモンク隊の要であるおぬしが、この国を離れるという ことが、どういう意味かわかっておるのだろうな?」 「・・ハッ」 「・・二度とこの国に戻らぬ覚悟か?」  一瞬、冷たい沈黙が流れる。ヤンはごくり、と唾を飲んだ。  だが、彼はすぐに、迷いの無い口調で言葉...
  • 三節 Two of us39
    気がつくと、セシルはすっかり汗ばんでいた。予想以上に彼とデスブリンガーの相性は良く、握った柄の感触に、初めて手に取った時のよそよそしさはない。 禍々しさは、けして薄れてはいないのに── 背筋にうそ寒いものを覚え、セシルはもう一度素振りをやり直した。基本の型を一通りなぞり、今度こそ鞘に収める。 彼が一息つくのを待って、背後で見守っていたヤンが声をかけた。 「お見事。  しかし、もう休まれたほうが良い」 「……そうですね」 セシルはうなずいた。だが、本当はまだ眠れそうもない。鎮まらぬ胸のうちを見透かしたように、ヤンが問う。 「陛下の言葉を気になさっておいでか?」 「え?」 「見当違いならば申し訳ない。  先程の太刀筋、些か鋭さを欠いているように見えたのでな」 打ち明けるべきか、セシルが答えを出す前に、重い溜息をヤンは吐き出した。 「どのような...
  • 三節 Two of us36
     突然、王は高らかに笑い出した。  ヤンをはじめ、呆気にとられている面々に、やがて王は向き直って笑いかけた。 「はっは、いやすまぬ、すまぬな。許せよヤン。  ぬしのような貴重な人材がいなくなるというのは、薄情な話ではないかと思ってな。 少しばかりおぬしをからかってみたくなっただけよ」 「・・は?」 「ヤンよ、ぬしの気負いはしかと見届けた。セシル殿の荷物とならぬようにな」 「・・! かたじけのうございます」 「よい、よい。もとよりおぬしの気質は把握しておる。  そう言いだすことだろうと思って、既に細君には旅立ちの旨、伝えておいたぞ」 「まっ、まことですか!?」 「ぬしはとんだ甲斐性なしだと腹を立てておったぞ。早く会いにいってやるがよい。  そうだ、ウェッジにもな。ぬしがいなくなれば、彼奴もひどく寂しがるであろう」 「ハッ! ・・陛下、...
  • 三節 Two of us28
    「・・ならば明朝にでも王にお頼みして船を出していただこう。  幸い、赤い翼の砲撃を逃れた船が何隻かあったはずだ」 「しかし・・、復興のただ中に船を借りるなど」 「なに、そなたたちにはまこと世話になった。王もこれくらいの援助は惜しまれぬはず。  むしろ、これくらいはさせてもらわねば、面子が立たぬと言うものよ」  ヤンの珍しい軽口に、みなが笑った。  それからすこし間を置いて、またヤンが口を開く。 「あの竜騎士は・・?」 「・・彼は、カインは・・バロン竜騎士団の団長で、僕の親友・・・・だった。  共にバロンを抜けようと誓ったのに・・」 「そうであったか・・」 「・・・・どうして、なんだろう・・。信じていたのに。他の、誰よりも・・」  悲痛な表情になるセシルに、ヤンは言葉に詰まってしまう。 「でも」  ポツリ、とこぼれた声に皆が顔を向けた。...
  • 三節 Two of us42
    「真の悪に、暗黒剣は通用せん」  王の言葉が頭をよぎる。  あのとき、自分の剣が通用しないカインは真の悪になってしまったのだろうか、 そう思って悲しくなったものだった。だが、そう感じている僕はなんだ? (おいおい、自分のことは棚に上げるのかよ。暗黒騎士サマ?)  カインの笑い声が聞こえた。そうだ、親友と言いながら彼をためらいなく殺そうと している僕だって、悪以外の何者でもないじゃないか・・。  無意識のうちに、セシルは握りしめたデスブリンガーの刃を顔に近づけていた。 剣はセシルを嘲笑うかのように、妖しく黒光りしている。力をこめると、剣先に邪気が 充満しだす。 (僕は、お前と同じなのか・・?)  セシルは壁にもたれて、腰を下ろした。  身体を抱え込むようにして顔を伏せ、目を閉じた。郷愁が強くその身を包んでいた。  明日はバロンに...
  • 三節 Two of us38
    ファブール最後の晩。リディアに追い立てられ、早々とセシルは床に就いた。傷は塞がったというのに、怪我人扱いは当分変わりそうにない。 少女が寝入ったころに部屋を抜け出し、人気のない訓練場で黙々と剣を振るう。この先、戦いはいっそう厳しいものになる。今のうちに、新しい武器での感覚を体に叩き込んでおいたほうがいい。 ──それ以上に、様々な思いが交錯し、とても眠れそうになかった。 昨晩までは体が休息を命じてくれたが、全快した今はそうも行かない。しかも明日は、いよいよバロンに向けて出発するのだ。これではいけないとわかっていても、考えずにはいられなかった。 カインのこと。ローザのこと。ゴルベーザ。飛空挺。クリスタル。闇。圧倒的な力の差。不安。恐怖。仲間。信頼。変化。 変わってしまったバロン。変わってしまった赤い翼。変わってしまったカイン。 薄暗い空間に浮かぶ雑念に向けて、デスブリン...
  • 三節 Two of us31
     ふいにリディアは涙を流した。  ありがとう、セシルのその言葉が、リディアの心に穏やかな波紋をもたらしていた。  彼女は嬉しかったのだ。 (ごめんなさい・・)  あのとき、自分は黙って見過ごしていた。偉そうなことを言って、強引にギルバートに ついてきたくせに、何も出来なかった。怖かったのだ、あたしは臆病者なんだ。  そのくせ、今こうして彼女の場所に・・、そう、セシルの側にいて、彼を独占していることが嬉しかったのだ。たまらなく。それどころか、そこはもともと自分の場所だった のだから、とすら考えている。臆病なだけではない、あたしは卑怯者だ。 (ごめんなさい・・)  リディアは溢れ出る涙を拭いながら、声を抑えてセシルの胸に手をかざし続けた。  懸命に手先だけに意識を集中しようとしたが、涙はいつまでたっても止まらなかった。 (今・・何時か...
  • 三節 Two of us22
    「き・・さま、ローザに何をっ・・!!」 「案ずるな、眠らせただけだ。少しばかりお前に興味がわいたのでな、  是非また会いたい。この女はその約束の証と思え。  ・・行くぞ、カイン」  分厚い甲冑の内側で冷酷な笑みを浮かべると、ゴルベーザはローザを抱きかかえ、 悠然と去ってゆく。 「・・待・・て」  セシルはその後を追おうと、フラつきながらも杖にしていた槍を構えたが、 「おい」  背後に、いつの間にかクリスタルを手に取ったカインがいた。彼は槍を掴むや否や、 セシルの胸に思うさま拳を叩き付けた。 「ぐあっ!」 「返してもらうぜ」  セシルがリディアの側に倒れ込む。震えながら成りゆきを見ていたリディアは我に返り セシルの頭を支えると、キッとカインを睨みつけた。カインは無表情のままリディアに 一瞥をくれると、再びセシルのもとから去っていった...
  • 三節 Two of us23
    「・・みんな大丈夫?」  リディアが気遣わしげな声を出す。比較的軽傷だったヤンとギルバートは、彼女の 魔法でだいぶ回復したようだが、セシルだけはいまだ横になったまま、リディアに 治療され続けている。それでも意識だけは保っているが、 「ローザ・・」  やはりまだ先刻までの出来事が、心に焼き付いているようだ。肉体的にもさながら、 精神的にみても、セシルは彼らのなかでもっとも傷ついていた。 「セシル・・」 「ローザがさらわれてしまうなんて・・」 「クリスタルも・・」  彼の悲しみに同調し、皆の中にやりきれない思いが立ちこめる。憎い仇を目の前に しながら全くなす術も無かった彼らは、深い無力感にうちひしがれていた。 「ねえ・・、しっかりしてよ!」  その重い空気に耐えきれなくなったのか、リディアが声を上げた。 「ローザはきっと無事よ! それに、...
  • 三節 Two of us30
     セシルはその思いよらぬ口調の強さにのけぞった。  セシルは覚えていないだろうが、リディアは彼のある言葉を忠実に守ろうとしていた だったバロンの襲撃の前に、セシルが短く言い残したひとこと。 「リディア、ローザを頼むよ!」  もちろんセシルは、本気で彼女に恋人を守ってもらおうなどと思ってそう言ったわけ ではない。ただ単に、彼女の安全を優先するため、ローザの近くにいろ、と。彼女が従い やすいように言葉を選んだつもりにすぎない。  だが、幼く純朴なリディアはそうは受け取らなかった。その言葉は彼女に強い責任感を 植え付け、そして目の前にいながらローザを奪われてしまった今、彼女を大きな無力感と 悔恨の鎖で締め付けていた。  その罪を償うため、今の彼女にできるのは、セシルの傷を癒すことだけだった。  本来ならばそこにいるはずの、ローザの代わ...
  • 三節 Two of us33
    「そうか・・バロンに行かれるか」  床に伏せたままの王は、神妙な顔つきで目を細めた。  昨日のヤンの言葉通り早速ファブール王への会見を求めたセシル達であったが、 思いのほか王の傷の具合は良くなかったらしく、それでも会見の場を設けたいという 王の計らいで、寝室に通してもらえた。無理を通してくれる王の配慮に恐縮しつつ、 船が必要であるという旨をいま、話し終わったところであった。一方、頭を下げながら 緊張した様子で言葉を選ぶセシルをよそに、リディアは前日の寝不足がたたったのか、 御前もはばからず先ほどから何度も大あくびをしている。 「・・あいわかった、すぐさま船を用意させよう」 「あ、ありがとうございます・・!」 「いや、此度はまことに世話になった。そなた達にはまったく感謝の言葉も無い。  ローザ殿も奪われてしまい、この上に手ぶらで返しては面目も...
  • 三節 Two of us25
     目覚めたばかりだからだろうか。どうにも断片的にしか思い出せない。  狂ったように笑うカイン、ヤンの怒鳴り声、胸を焼き焦がす槍の痛み、不気味な足音、 甲冑に包まれた男、倒れ込んだローザ。 (・・そうだ、ローザが!!)  急に頭の中が鮮明になった。  思い出した。クリスタルが奪われ、さらにローザまでもさらわれてしまったのだ。  こんなところで寝ている場合じゃ・・! 「つっ!」  慌てておき上がろうとしたセシルの胸に激痛が走った。思わずうめき声がこぼれる。 それをききつけて、リディアが目を開けた。 「・・セシル?」  彼女はぽかんとして彼を見つめている。セシルは胸を抑えながら笑いかけた。 「やぁ、リディア・・君が看病してくれ・・」  セシルが言い終わらないうちに、リディアは彼の胸に抱きついていた。  よほど心配したのだ...
  • 三節 Two of us27
    「セシル!」 「やあ、意識が戻られたか!」  まもなくリディアに連れられて、嬉しそうな顔の二人があらわれた。他にも何人か、 話を聞きつけた者達がかわるがわるやってきては部屋を覗き込み、セシルの無事を 確認するとほっとした様子で顔を引っ込めた。 「一時はどうなることかと思いましたぞ」 「これもリディアのおかげだね」  ギルバートの賞賛にリディアがまた顔を赤く染めて、照れくさそうに笑った。 「なにしろ昨日からずっと看病し通しだったんだから、感謝しておきなよセシル」 「ありがとうリディア・・そうか、あれからもう丸一日・・」 「まあなんにせよ、無事で良かった」  そういって愉快そうに笑うと、ヤンはふと厳格な表情をつくった。 「・・これでようやく話も出来るというもの」  顔を寄せながら、ギルバートもうなずく。 「ローザを助けなければ・・!」 ...
  • 三節 Two of us32
    「カイン・・」  突然聞こえたその名に、思わず彼女はビクリと震えた。  どうやらセシルの寝言のようだった。 (・・・カイン・・さん)  リディアはあの忌まわしい竜騎士の姿を思い浮かべた。   記憶の中の竜騎士の姿は、兜を深くかぶっており、口元しか見えない。そして・・、 「あの人・・笑ってた」  ふいに先ほど皆の前で口にしかけた言葉がこぼれていた。それこそが、彼女がカインに 対して並々ならぬ恐怖を抱いている理由。だからこそ、セシルやローザがどうして彼を あんなにも信頼できるのか、理解できなかった。そしてあの時も、どうしてもセシル達に ついていく気になれなかった。なぜなら────、  あの人は、笑っていたのだ。  目の前で私の村が燃えさかる様子を見て、笑っていた。  その顔を思い出すと、記憶に深く刻まれた村人達の悲鳴...
  • 三節 Two of us20
     いま、ローザの頭には、かつて自分を取り巻いていた日常がありありと浮かんでいる。  平和だった。安らかだった。ささやかな幸せ、だけどそれだけで十分だった。  そしてある日、粉々に砕かれてしまった。  何もかもが突然だった。いったい自分たちがなにをしたというのか。理不尽にも 彼女の当然は奪い去られ、あとには悲しみだけがのこされた。   けれど、まだ、一番大切な部分は壊されてはいない。誰にも壊せないのだ。 (カインなら、きっと私の力になってくれるはず────!)  ローザは必死だ。なぜなら、カインが自分を裏切れば、彼女がずっと守り続けてきた ものがすべて嘘になってしまう。既に多くを失ってしまった彼女には、それが耐えられない。  だからローザはカインにすがる。自分に残された最後の真実を証明するために。彼女は 気づいていないが、それはもはや...
  • 三節 Two of us26
    「あ、あたしみんなを呼んでくるね」  ようやく泣き止んだリディアは、照れているのか、顔を赤くしながらそういうと 足早に部屋を出て行ってしまった。その後ろ姿を見送ってから、セシルはまた身体を 横たえた。 (本当に・・、ありがとう。リディア)  そしてまた、セシルはそっと目を閉じた。 (・・懐かしい夢だったな)
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