かなり真面目にFFをノベライズしてみる@ まとめウィキ内検索 / 「四節 これから24」で検索した結果

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  • 四節 これから24
    3人がかりの治療が功を奏し、無事ヤンの傷はふさがった。とはいえ、既に流れた血まで消えるわけではないので、一見すると相変わらず深手を負っているように見える。 だからだろうか、なおも懸命にケアルラを唱え続けるつづけるポロムの肩に、テラが皺深い手をおいた。 「もうよい」 「私ならば大丈夫だ。ほら、この通り……」 テラの、そしてヤン自身の制止も無視して、ポロムの呪文が完成する。 「ケアルラ!」 小さな掌から光の粒があふれ出る。だが、無残に裂け乾いた血の色に染まった道着の下に、もはや癒すべき傷はない。 無意味に放出された魔力が宙に掻き消え、くにゃり、とポロムが膝を崩す。精神力を使い果たしたのだ。テラの顔にも疲労が浮かんでいた。セシルも同様だろう。 ぐったりと目を閉じた幼い白魔道士を、ヤンが抱え上げた。 ほんの数歩先では、トルネドの魔法が生み出した竜巻が未だ猛威を振...
  • FF4 四章
    ...山間66 299 四節 これから1 ◆HHOM0Pr/qI 四節 これから2 ◆HHOM0Pr/qI 四節 これから3 ◆HHOM0Pr/qI 四節 これから4 ◆HHOM0Pr/qI 四節 これから5 ◆HHOM0Pr/qI 四節 これから6 299 四節 これから7 299 四節 これから8 299 四節 これから9 299 四節 これから10 299 四節 これから11 299 四節 これから12 299 四節 これから13 299 四節 これから14 299 四節 これから15 299 四節 これから16 297 四節 これから17 297 四節 これから18 297 四節 これから19 297 四節 これから20 ◆HHOM0Pr/qI 四節 これから21 ◆HHOM0Pr/qI 四節 これから22 ◆HHOM0Pr/qI 四節 これから23 ◆HHOM0Pr/...
  • 四節 これから2
    太陽は、東から西へと動きながら、世界を順繰りに照らしていく。その光の当たり始めると朝が訪れ、光が去って再び当たるまでの間が夜と呼ばれる。デビルロードで海を渡るついでに、セシルたちはその境目──すなわち夜明けを追い越してしまったのだ。 とはいえ実のところ、はっきりと時間を遡るのはセシルにとっても初めての経験だ。言葉だけではどうにも伝えづらかったのだが、地面に図を描くと、双子はたちまち理解した。 「おもしれ~!  兄ちゃん、色んな事知ってるんだな!」 「本当です。おどろきました!」 「まあ、受け売りだけどね。  ある人から教えてもらったんだ」 赤い翼が設立される前のことだ。飛空挺で遠出をすると、出発前に考えていたよりも日暮れまでの間隔が長い、あるいは短いような気がすると多くの者が気付き出した。古い文献をひっくり返し、このなんとも不思議な、時差という現象の存在を突き止...
  • 四節 これから28
    街の西北から北側にかけて広がる地下水路は、バロンで最も古い建築のひとつだ。北の河から引いてきた濠の水が、街で使われる地下水と混じらず海へ出るように流れを制御している。 それと同時に、城にかかる跳ね橋や門などを動かす仕掛けの大部分が集中している場所でもあった。 何頭もの馬に引かせてようやく動く重い扉を、レバーひとつで操作できるのはそういう理由だ。水の流れる勢いや、”時の歯車”と呼ばれる特別な品を利用しているらしい。 それらの機械を整備する役目を担ってきたのが、代々のシドの祖先だ。彼らが行き来する為に、水路の周辺には人が歩くための通路が設けられている。 そして賊に利用されぬ用心として、放水や可動式の壁、落とし穴といった罠が各所に仕掛けられていた。 「この線をたどれば、罠にかからず城まで行き着けるということか……  なかなかに周到な人物のようだな」 赤い色で強調された...
  • 四節 これから23
    前触れもなく風が湧き出す。セシルらに群がる近衛兵たちの後方、かたく絞った布のようにきつく渦を巻き、捩れながら伸び上がる。 近衛兵が2、3人、甲冑ごと持ちあげられ悲鳴と共に上空へ消えた。地上に残った者も、横殴りの風に姿勢を崩され、地面にはりつくはめになる。 例外はただひとり、階段の半ばに陣取る老賢者。かざした杖の先端に灯る光を見るまでもなく、彼の魔法がこの竜巻を生み出したことは疑いなかった。 「うひゃぁぁぁ……」 パロムの悲鳴を風が引き千切る。武装した大の男がこの様なのだから、子供の体重でこらえきれる訳がない。ヤンの道着にかじりついていなければ、止める間もなく空に吸い込まれていっただろう。 セシルは手を伸ばし、荒れ狂う風の牙先から小さな体をもぎとった。ポロムと2人、体の下に庇い入れ、セシル自身を重石にする。 「ヤン! 動けるか!?」 返答の代わりにモンク僧の腕が持...
  • 四節 これから27
    カイン、そしてゴルベーザの不在が事実だったとしても。シドの居場所がわからない以上、彼ひとりを助け出してそのまま脱出するなど無理な話である。 王との対決はもはや避けられない。その点で、3人の意見は一致していた。 「問題は、どうやって陛下の……  すまない、バロン王のところまで行き着くか、だね」 バロンの城は濠と城壁で二重に囲まれ、唯一の門は近衛兵が守りを固めている。城の内部にも、親衛隊を初めとする警護の目が光っていることだろう。 王の元に行き着くまでに、セシルたちのほうが消耗しきってしまう。 「抜け道でもあれば話が早いんじゃがの。  セシル、お主、何ぞ聞いたことはないか?」 「あるにはあるけど、テラが期待しているようなものじゃないよ」 万が一の事態に備え、様々な仕掛けや秘密が城に隠されていることまでは、テラが指摘する通りだった。 しかしバロンの王は、統...
  • 四節 これから21
    「先に行け!」 テラと双子を目前の階段に押しやり、セシルは門扉の前に陣取った。隣に立ったヤンと二人で壁を作り、魔道士たちへの追撃を断つとともに、背後からの攻撃を未然に防ぐ。 相対した兵たちも隊列を組んだ。互い違いに前6人、後ろ5人のやや変則的な陣形でセシルたちを半包囲する。 素早く統制の取れた動きは、彼らが軍の精鋭として鍛錬を怠っていないことを証明していた。だが突きつけられた剣先から、王の盾たる誇りを感じ取ることは出来ない。 「愚かな……せっかく拾った命を」 「馬鹿を言え!  この様を王に知られたら、どんな目にあわされるか……」 「西隊の二の舞は御免だ!」 ヤンと、彼の先程までの配下のやりとりが、いま兵たちを動かしている力の正体をセシルに教えた。王への忠義や報復心ではなく、懲罰に対する怯えが、執拗な追撃へと彼らを駆り立てたのだ。 セシルたちの実力を思い知...
  • 四節 これから25
    ぷつぷつ泡立つ表面に砂糖をふたかけ放り込む。手鍋を火から下ろし、軽くかき混ぜると、柔らかい匂いが鼻先をくすぐった。甘味の塊が溶け込んだのを確かめて、脇に並べた木彫りのマグに手早く中身を注ぎ分ける。 2人分のホットミルクを手に、レッシィは食卓へ向かった。このところずっと一人で使っていたテーブルが、今日は埋まっている。 鏡に移したようにそっくりな二人の客の前に、レッシィはそっとマグを置いた。 「あんがと」 「ありがとうございます」 容器を通して伝わる暖かさを確かめるように、しばらく手を添えたあと。熱々の液体に男の子が果敢に挑み、敗退する一方で、慎重派の女の子はふうふうと息を吐きかける。 パロムとポロム。ちゃんと名前は覚えたが、どちらがどっちか自信がない。 この家を訪れた時は、二人ともひどい有様だった。男の子は涙と鼻水で顔中ぐしゃぐしゃ、女の子は逆に血の気血の気が引い...
  • 四節 これから26
    「よもや、技師殿が捕らえられていようとは……」 壁を背に直立したヤンが、重い息を吐き出した。 赤い翼を手にしたゴルペーザに対抗するには、飛空挺がどうしても必要だ。 シドの協力を得ることは、それはまだセシルが暗黒剣を振るっていた頃、ヤンらと共にファブールを出港した時からの、一貫した目的である。 それだけに、彼が捕まったと聞いた時の落胆は大きかった。 「だからといって、引き下がる訳にもいくまい。  なんとしてもワシらの手で救い出すんじゃ」 「場所がわかればいいんだけれど……  ヤン、思い出せないか?」 シドの人相風体を伝え、ヤンの記憶を引き出そうと試みるセシル。実直なモンク僧は両目を閉ざし、こめかみを揉み解して期待に添うべく努力したが、結果は芳しくなかった。 「済まぬが、そのような御仁を見かけた覚えはない。  ……いや、それどころか。  私はあの...
  • 四節 これから29
    「入れ……」 控えめなノックの音が部屋に響き渡る。 昼下がり、扉とは反対側にある窓から差し込む光にやや陰鬱な気分を抱いていたベイガンは外を眺めつつ 指示を下す。 窓からは町は見渡せない。広がるのはミストとバロンを仕切るように連なる山脈である。 「失礼します!」 声とともに扉はゆっくりと、それでいて慎重に開かれる。 勢い勇んで入室してきたのはバロンでも最強との噂の近衛兵団の団員であった。だが、今は 普段の勇猛果敢な姿はすっかりなりを潜めている。 それどころか、がちがちに固まり直立するその姿勢は怯えの姿勢である。 「何用かな?」 ベイガンは部下の労いの言葉も無しにいきなり切り出す。 「はっ! はい……」 その無情ともとれる態度に兵士はさらにだじろぎ、語気は萎んでいく。 もはや平静を保つのがやっとであった。 「ヤン様が……私たちに反旗を...
  • 四節 これから20
    シドの家の門は変わっている。閂がないかわり、歯車と楔をいくつも組み合わせたからくりが、二枚の扉をぴったりとつなぎ合わせているのだ。 すぐ後ろは切り立った崖になっていて、その中を、石で補強された幅の狭い階段がまっすぐに切り込んでいく。飛空挺の生みの親は、生まれた落ちたその瞬間から空に近いところにいた。 「やれやれ、街の中でこんな苦労をするはめになるとはの」 天まで届こうかという急な階段を見上げて、テラが渋面を作った。試練の山の急斜面に比べれば可愛いものだが、人の手で造られた道に苦労させられるのは御免らしい。 対照的に、目を輝かせて風変わりな錠に取り付くパロム。見た目ほど複雑ではないので、時間をかければ外せるだろうが、セシルはそれを待たず少年の頭越しに手を伸ばした。 「なんだよ、邪魔しないでくれよ!」 「バカっ、あの音が聞こえないの!?」 ふくれるパロムの頭をポロム...
  • 四節 これから22
    「かかれっ!」 小隊長の号令にあわせ、近衛兵が一斉に剣を突き出す。無言のままセシルはそれらを迎え撃った。 試練の山で授かった剣が、暗黒の力を帯びた甲冑を易々と切り裂く。血飛沫と絶叫をあげて、兵のひとりが武器を取り落とした。 背後でか細い悲鳴が上がる。ポロムの声だ、と判断するその間に、いくつか攻撃をセシルは体で受けるはめになった。しかしダメージはほとんどない。防具に込められた光の力の祝福が、闇に染まった刃の威力を大幅に削いでいる。 「はっ!」 傍らのヤンが武神に舞を奉げ、2人の兵がほとんど同時に倒れ伏した。その穴を埋めるように、後列の兵が進み出る。 それでもバロン兵は攻撃の手を緩めなかった。倒れた仲間を踏み越え、互いの身すら傷つけかねない勢いで第二波を繰り出してくる。軸足の位置をわずかにずらし、セシルが備えようとした瞬間。 「だめ~~~~~っ!!」 「うわぁぁ...
  • 四節 これから7
    「では……」 それを返答と受け取ったのか、攻撃は再開される。 今度はセシルとて万全の覚悟を持っての攻勢である、事前のようなスキをみせるまでもない。 だが、それでもファブールのモンク僧の中でも屈指の実力と断言できるこの男の技とぶつかりあうのは 一筋縄ではいかぬ事であった。 次々と技と技を組み合わせ、それを断続的にうちつつける。 それでいて単調でなく、複雑化したそれは大きなダメージを与えはしなくとも、受け手の体力を確実に 削ぎ落としていく。一連の行動にはスキというものが全く存在しない。 モンク僧は速さを活かし、己の肉体を武器に戦う者である。 鎧を着込み、剣を手にし、それらの武器を最大限に使用して敵を退けるセシルのような重騎士のような者 にとって相性の悪い相手なのかもしれない。 実力が同じ程度であるのなら尚更だ。 一進一退の攻防であるが、性質上ヤン...
  • 四節 これから6
    堅牢な鎧を纏った兵士が一気に距離を詰めて、後方のテラ達に襲いかかろうとする。その様子は 正に、蹂躙するかのような勢いだ。 「みんな! 今助ける――」 遅れて加勢しようと踵を返し、歩を進めようとするセシルであったが、後方つまり先程までセシル 向き合っていた相手はそれを許すほど迂闊ではない。 すぐさま、振り返りヤンの攻撃に備えようとするがその時には既に寸前まで迫っている。 しまった――! 咄嗟に回避行動に移るが、あまりにも急すぎるため、セシルは大幅に体制を崩し、地面に腰をつく。 だが、予期していた追撃がこない。 「何故だ!」 スキとみなし、すぐに立ち上がり剣を握り直すが、疑問が潰える事はない。 「このまま倒してはつまらぬからな……だが、次はこうはいかんぞ」 理由はどうあれ、命拾いをしたということか。要は情けをかけられたというべきか。 「安心し...
  • 四節 これから1
    一瞬の空白を挟んで、歪んでいた視界に秩序が戻る。石造りの古びた壁と、閉ざされた質素な扉。厚く積もった埃、黴臭い澱んだ空気も含め、周りの様子に大きな違いはない。 だが扉を押し開けると同時に、懐かしい風がセシルの頬を打った。 ミシディアの潮風とは明らかに違う、ほどよい水気をはらんだ空気。 カインとローザと3人で町を歩いた時も、飛空挺の甲板で間近に雲を見上げた時も。常に彼の隣で舞っていたバロンの風が、パラディンとして戻ったセシルを迎え入れた。 「……大丈夫。誰もいない」 ミシディアのそれと同様、バロン側のデビルロードも人々から忘れられて久しい。質素な小屋から現れた4人の姿を見咎める者はいなかった。 いま騒ぎをおこして得る物はない。ゴルベーザを討つまで、なるべく目立たないよう行動すると昨夜のうちに決めてあった。 が、それはセシルとテラ、二人の間のことである。 「すげ...
  • 四節 これから9
    「ヤンとはやり合いたくはないが……迷うだけではだめだ」 「そうでなくてはな」 理由はどうであれ、親愛なる友と剣を交えるのは誰にとっても耐えきれない事である。 カインの時も相当の決心をしたが、まだ万全でなかったのかもしれない。 だが、あれからの短期間の間、自分には目まぐるしいことの連続であった。 その中でセシルの想いも数多くの交錯を経て、変化があった。 迷うならば戦うな。それが、どんな相手でも。以前の様な負け方は決してしてはならない。 だが、目前の敵を単純に退けてはだめだ。 試練を乗り越えた自分にならあるいは…… 攻撃は相変わらず厳しかったが、迷いを忘れ全力で立ち向かうセシルには不足はなかった。。 連撃には堅固な守りで対応し、一撃の重さに賭ける。実直な一撃は迷いの太刀とは違い、正確さがある。 「さっきとは別人のようだな!」 攻撃をやり過ごしなが...
  • 四節 これから4
    「セシル様……」 年齢は四十近くだろうか、呆然と彼の名を呼んだ女性の顔を、セシルはまじまじと見つめた。小豆色のエプロンドレスと、愛嬌のある丸い輪郭にはぼんやりとだが覚えがある。 「もしかして、ファレルの……?」 「ああ、やはり、お戻りになられたんですね……!」 セシルの返答に、女性は目尻に涙を浮かべ、何度もうなずいた。 「セシル様が旅立たれてからというもの、陛下はますます厳しくなられて……  少しでも逆らった人は、片っ端から捕えられてしまうのです。  奥様は一日中バラの手入ればかりなされて、本当に、もう、どうしていいか……」 「シャーロット」 数年ぶりの再会だったが、ひとたび記憶が刺激されれば、女性の名前を思い出すのは簡単だった。ただセシルが覚えている彼女はいつも陽気で、こんな弱音など吐いたことはない。 ……主人が招いた客を相手に、愚痴を聞かせる使用...
  • 四節 これから8
    「じゃあ、この場を引いてくれるだけで良い」 「ふざけたことを!」 セシルの説得を弾くかの様に脚からの技が旋回する。 その攻撃はセシルの顔をかすめる。 「!」 それだけでも外れたとは思えないほどの威力だ。セシルは小さな悲鳴を漏らす。 「ならば!」 太刀を横に薙ぎ、何とかヤンを後退させる。 同時に自分も後方へと下がる。距離ができた。 接近戦に持ち込まれなければ多少の余裕は生まれるであろう。その間に体力を回復しつつ、策を練ろうという 企てであった。 しかし、セシルは誤算をしていた。モンク僧は遠距離に於いても攻撃の手段を持っていることを…… ヤンは地面を蹴り、勢いをつけ脚を前面にして飛びかかってくる。 威力こそ通常の蹴りに比べると落ちるが、加速をつけたその攻撃の効果範囲は広い。 生半可な回避行動では逃げ切れないであろう。 迷っていては駄目...
  • 四節 これから3
    「なにをつまらん話をしておる!  特にセシル、おぬしは今の状況がわかっておらんのか!!」 がつがつ、がづっ。 憤怒に顔を染めたテラが、杖で三人を打ち据える。 「なるべく目立たぬようにすると、申し合わせておったではないか!  こんなところで下らぬことをダラダラと……少しは頭をつかわんか!」 「テラ様、どうか落ち着いて!」 「じいちゃんの怒鳴り声のほうがまずいって!」 言っていることはもっともなのだが、自分はともかく、双子まで本気で殴るのはやりすぎだ。なるべく子供たちに打撃が行かないよう体で庇いながら、嵐の通過を待つ。 長く耐える必要はなかった。いくら頑健であろうとも、老人であることに変わりはない。デビルロードの影響もあってか、すぐにテラは息を切らし、その場にすわり込んだ。 いくら理由を尋ねても口を利かず、息を整え立ち上がってもまだ無言を通すテラに、セシ...
  • 四節 これから5
    「お前は!」 「パラディンになったからわからないのか?  僕だ、セシルだ!」 パロム、ポロムはもちろんだが、テラとヤンの間にも面識はない。彼が見知っている相手はセシルだけだ。 もしかしたら。祈るような気持ちでセシルは名乗りをあげた。 「わからいでか! 探したぞセシル!  バロン王に逆らう犬め!」 「なんだよ、そっちこそバロンの犬じゃ……」 「パロム!!」 予期した通りの返答に落胆する暇もなかった。悪態の途中で尻餅をついたパロムの頭上を、黒い疾風が薙ぎ払う。ヤンが繰り出した蹴りの鋭さは、以前と比べて些かの遜色もない。それどころか、力強さを増してさえいた。 カインがそうであったように。 「ふん、それなりに骨はあるようだ」 「ヤン、君まで……」 以前に見せた、流れるような連撃を繰り出そうとはせず、再びセシルたちと距離をあけて構えを取るヤン。全身...
  • 四節 これから14
    「礼を言っておかねばなるまいな……」 「え?」 お互い大分の体力が戻ってきたときヤンが突然切り出す。 「私は操られていたのかもしれん……ゴルベーザという者に」 あのカインという者の様になと付け加える。 「だが、確かにいえるのは私は記憶喪失の所を利用されたのだ……」 セシルは黙ってそれに聞き入った。 「今になって言うことができるが、私はゴルベーザという者にもの凄い憎しみを持っていた。祖国の者を 無惨に殺し、クリスタルを奪っていったあの男に。そして王もあのような有様に……」 「ヤン……」 「私怨に支配されていた。今ではそう思っている。あの時、王にセシル殿との同行を進言したのも、あいつを この手で倒したいと思っていたからなのだ。記憶を失ってもその怒りは消えていなかったのかもしれない…… そこにゴルベーザはつけ込んだのであろう。あろうことか私は憎むべ...
  • 四節 これから31
    「その者はどんな奴であった?」 「白き鎧を纏っていました。名前は……」 すぐには出てこなかったが、二度目の襲撃の時の叫びが思い出される。 「そうだ! 確か、セシルと名乗ってました!」 そこまで言って彼は自分の言葉に驚く事となった。 「セシルって……ひょっとして」 思い出した。それにあの時彼は自分の事を……どういった? 僕は赤い翼のセシル無駄な抵抗はやめろっ! そして王に会わせろ。 あの時はセシルを倒す事に必死で特に意識せずに聞き流した言葉であった。 「赤い翼のセシル……」 その名を知らぬ者はバロンにはいないであろう。 王の元で暗黒剣を志した者、現在は反逆者としておたずね者になっている人物。 「何!」 ベイガンも驚いたのか、初めて振り返り、近衛兵の方を見た。 「確かにそう名乗ったんだな?」 驚きを隠さず、激しく問いつめるベイガンの姿...
  • 四節 これから43
    先程の悩み、つまりは顔を洗うか、外の風に当たるかの悩みをセシルは少し考えた後、 その両方を実行に移すことにした。 そして最初に選らんだ顔を洗う事を済ました。 外へ出ようと、廊下を歩いていると、更に記憶が蘇ってくる。 顔を洗った事で最前までぼやけていた意識が鮮明になったからだろう。 自分達はあの後、つまりはシドがレッシィに託した図案が城への潜入を可能にした事。 さらにはその道を開くために鍵を運良くヤンが所持していた事。 二つの幸運に恵まれ、進路に光明が見えた時である。 だが、直ぐに行かずに此処で一泊する事にした。 理由は色々あった。一つはパロムとポロム。二人の子供達の事。 近衛兵を倒した時。二人は初めて人間相手に戦った。 それが直接手を下さなかったにしろ随分と衝撃な事であったろう。 そして城に行けば必然的に兵士と再び激突する。万一、体よく忍び込...
  • 四節 これから42
    「ろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーー!!!!!」 セシルははね起きた。 「え……」 そして自分でも分かるくらいに間の抜けた声を上げる。 「何だったんだろう……」 見ると辺りは暗く、近くの窓から僅かな明かりが漏れていた。 此処は……と自問した所で、気づく。 布団を遠くへ投げ捨て……立ちつくしている己の姿に。 「ははは……ははは……」 近くの明かりを付けて今の場所を確認しようとする。 薄明かりに照らされた部屋は随分と散らかった部屋であったが、意外と広かった。 そして、自分の隣にも眠りに付く人物を発見した。 「ヤンか……」 ヤンは巨体にしては小さな寝息を規則正しくたてていた。 「…………」 其処まで回りの景色が明らかになり、自分がとんだ間の抜けた人間だと気づいた。 そして、記憶も鮮明に蘇ってきた。 ...
  • 四節 これから30
    「では……失礼します」 思ったよりも、ベイガンの反応が穏やかなものであったのに安心したのか近衛兵の声はやや 柔らかくなっていた。 そして重い使命感から解き放たれた、軽い足取りで部屋を退出しようとする。 「待て」 「はい……?」 だが、質問はまだ終わっていなかった。 「あのモンク僧への術は完璧ではなかったが、奴が平静を取り戻したのには何か理由があるだろう。 原因は何だ?」 無回答を許さない。質問にはそう察せる覇気があった。 「は、それが今朝の警備中にヤン様を見知った者と偶然に接触しまして……その時に正気を取り返したようです」 近衛兵の男は簡潔に述べた。 もう一度、シドの家前で攻撃を仕掛けにいった事を話しても良いと思ったが、口外しないほうがいいと思い、 そこまでにとどめた。
  • 四節 これから34
    直後、彼の体を締め付けるものが一つ。 「!」 そして締め付けられた本人は声にならない悲鳴を上げる。 何とか脱出して体の自由を確保しようと悪戦苦闘するも束縛の力はなおも勢いを増していく。 その間に、この締め付けの正体を探ろうと、そぎ落とされる体力を振り絞り視線を巡らす。 体に巻き付いた長く太いもの、そしてそれの終着点には今の彼の最も恐怖する存在が。 ではこれは…… 結論を導き出した時、彼と向き合うように顔を見せるものが一つ。 恐怖の対象その左腕から伸び、彼の動きを封じる先端部分。 彼をあざ笑うかのように見据える顔は絶望しきった心を打ち砕くには充分すぎる程の効果があった。 「あああああああああああああああっっっっっーーーーーーーーーーーーーー」 絶叫。 直後、彼は気を失った。 だが、これはむしろ幸運な事だったのかもしれない。 これから先、...
  • 四節 これから19
     遠く彼女の様子を振り返りながら、テラが口を開く。 「セシルよ。ローザというのは、確かそなたの…」 「まだ話していなかったね、テラ。そういえばお礼もまだだった」 「あの病人の娘だったな?」 「そうだ。あなたとギルバートのおかげで、彼女の命を救うことが出来たよ」 「しかし、その娘はどこに…?」  テラの問いかけに、セシルは目を細めて口を閉ざす。  苦しげな彼を見かねて、ヤンが言葉を返した。 「ローザ殿は、ゴルベーザの元に連れていかれて………」 「……なんということじゃ、…するとあの女性は」  再びシャーロットの姿を顧みるテラに、セシルが付け加えた。 「ファレル家の、ローザの屋敷に仕えている女中だよ」  言いながら、セシルも振り返り、こちらを見つめる優しげな中年の女性でを見た。  懐かしさに胸が溢れた。幼い日々の想いが駆け巡る。だが彼はすぐさ...
  • 四節 これから45
    「レッシィか」 扉を覗く前から確信が持てた。 そしてやはり、その部屋にはセシルの予期した通りの人物が 中央の机に備え付けの椅子に座っていた。 「起きてたのか……」 わざわざ、話しかけなくてもいいと思ったが、もう一度寝直すのはできないと思った。 皆が起きるまでもう少しだけ時間がかかりそうでもあるし、時間を持てあますよりはいいと 判断し、部屋に入室した。 「あら……でも、もう早朝といってもいいでしょうし……」 よく見ると、窓から見渡せる風景は既に暗闇が薄くなりつつある。 しばらくせぬ内に静まりかえった町に活気が返ってくるであろう。 「いつもこんなに朝が早いのかい……?」 何気なく聞いてみる。するとレッシィは少し考える仕草をした。 「う~ん……こんなに早起きするようになったのは極最近になってからです。とは言っても 今までも、お父さんと二人で...
  • 四節 これから13
    ヤンはすかさず兵士達の中心に着地、未だ空を見上げる兵士達に一気に接近し、一撃を繰り出す。 大盾の内側から放たれた攻撃は鎧越しに、大きな打撃を与える。 一人が倒れるのを確認するとヤンはすぐさま次の対象に移る。 そうしてまた同じ攻撃を繰り出す。 「く……離れろ!」 開幕後、あっという間に半分の兵士を倒されたの兵士は咄嗟にそんあ命を出すが、彼らは一つ重大な事を 失念していた。 「かかったな」 見ると、セシルが兵士の一人の目前まで迫っていた。 たちまちの内にセシルは剣を振るい、兵士の剣を遥か彼方へはじき飛ばす。 キィインと金属のぶつかり会う音と共に、剣は弧を描き、飛んでいく。 拾いに行くにはかなりのスキになるだろう。 「これで戦えるのは一人だけだ。どうする……?」 「くっ!」 勝ち目がないと思ったのだろう。一人が踵を返すと、次々と身を翻してい...
  • 四節 これから16
    「ところでセシル殿、その姿は?」 「あぁ、これは……」  セシルはちょっと苦笑した。確かに、彼と別れたときはまだ自分は暗黒騎士の甲冑に身を包んで いたわけだから、今のパラディンの姿を見て彼が首を傾げるのも当然のことだろう。パラディンに なったのはほんの数日前なのに、もう昔を忘れかけているとは、我ながら都合のいいことだ。  その考えとともに、ひとつの利点が浮かびあがった。つまり、セシル自身は忘れかけていたが、 人々の記憶の中にあるセシルの姿は、先程のヤン同様、暗黒騎士のセシルのままだということだ。 それならば、シャーロットやヤンのようによほど親しい間柄の人間でもない限りは、今のセシルを あの暗黒騎士と結びつける者はいないはずだ。素性が知れていなければ、今後のバロンでの行動が だいぶ自由になる。  ふと肩を叩く手に考え事を中断して振り返ると、いつのまにや...
  • 四節 これから36
    実のところ、今の悲鳴と似たような声は以前にも何度か聞こえたような気がしたのだ。 だが、今ひとつ確証がもてなかった上、その時、一緒にいた同僚に確認をとっても聞いてないという一転ばりで あった。 そして、何度か別の近くにいた人間にも訪ねた事があった。しかし、結果は彼女の同僚と同じであった。 それどころか中には質問されると怯えて逃げ出す者もいた。 そのような状況が続く中、彼女も自分の聞き間違いかと思い込むようになっていた。 だが、今回はよりはっきり聞こえた。 もしかすると音を辿っていくと、今の豹変の片鱗でも知る事ができるのでないか。 淡い期待を抱きつつ彼女は目的地へと着実に向かう。 「確か、この辺りから……」 大体の位置は悲鳴から察せたものの、その場所を具体的に見つけ出すのは困難を要した。 悲鳴の聞こえた先の廊下には沢山の扉があった。 この中から目...
  • 四節 これから44
    「それにしても……」 どうかしてるなと自分にため息を一つつく。 そんなに休養をとっていないわけではない。ミシディアを旅立つ前日にはゆっくりと休んだ。 あれからまだ二日。それも時差の関係上自分にとって時間は一日しかたっていない。 それなのに変な、といったら失礼かもしれないが奇妙な夢をみるなどとは。 本来セシルは夢をあまり見ないのであった。 いつも寝床に伏し、気づいたら朝になっている。いつもそんな目覚めであった。 だが、バロンを離れてから、時々だが夢を見るようになった。 それでもこんな夢は見たことがなかった。 そして今まで見たことの無い夢を見てしまった事がセシルに妙な不安を抱かせていた。 「取りあえずは外に出よう……風にでもあたろう」 そう思い、外へ出ようと歩きだす。が、途中僅かに開いた扉から明かりが漏れているのを発見した。
  • 四節 これから35
    近衛兵の絶叫。 それは、当然ながら室内だけでは収まりきるものではなかった。 近衛兵長ベイガンの部屋。 そこから少しばかり離れたところにいる者の耳にも聞こえたのであった。 「今のは……」 廊下を歩いていた一人の女性は疑問を口にした。 空耳だったのか。一度は自分の耳を疑ったりもした。 そして気にせずに自分の仕事に戻ろうと足を進めようともしたが、彼女は向きを変え、意を決し声の方向へと 歩き出す。 ここ最近の王、そして国全体が異常な状態だというのは一介のメイドである彼女から見ても明らかなものであった。 用の為、何度か町に出向いた時には民衆は怯えきっていた。 そして城に勤める者たちもやはり町衆達と同じようなものであった。 当然彼女の職場自体にも変化があった。同僚達も無口になり、仕事に専念するようになった。 彼女もそのような変化を疑問に感じつつも、日...
  • 四節 これから47
    「ごめん、思い出せないや……」 不思議であった。自分の中では今でもその夢を見たという事は恐怖に感じているのに。 全く内容を思い出せないのだ。もしかしたら思い出したくないのかもしれない。 「でも……いやな夢を見たって気持ちはあるのね。もしかすると正夢になったりして」 「やめてよ! そんなこと」 思わず声をセシルは荒げた。 詳細こそ忘れたものの、その夢が悪い夢だという確信は未だセシルに心を支配していた。 本当は、あれは誰かの悪戯であった。自分は何か妖しい術によって、みたくもないものを見さされていた だけだ。自分の見た夢だとも認めたくはなかった。 「冗談よ冗談」 本当に冗談だったつもりなのだろう。過剰気味のセシルの反応にレッシィはたじろいだ。 「ごめん……」 「いえ、私もちょっといたずらがすぎたわ。後、一つ忠告しとくわ」 拒否を許可せぬ意気にセ...
  • 四節 これから10
    「は!」 何度目かの攻撃を受け止めヤンの声は曇りの無き明確なものであった。そう、直前までとは違う。 「セシル……殿か……?」 「気づいたのか!」 「ああ……自分が何処にいるのか、何をしていたのかは……あの時以降の記憶がまるで思い出せないが…… 邪悪なる気配が私に何かを囁きかけていたような気がする」 あの時とはファブールを出航した時の事を指しているのだろう。 「記憶喪失だったのか?」 「おそらくはな。だが、今のセシル殿からは以前、行動を共にした時とは違う事は分かる。どうやら 迷いを克服できたようですな……」 「ヤン……」 穏やかな口調に思わず自分の声も震える。 「前にも言ったと思うが私は剣術の疎い、だが、セシル殿は間違いなく強くなられた。肉体的にも精神的にもな 良い太刀筋でいらっしゃる……」 評する声を聞きつつセシルは剣を収めようとする...
  • 四節 これから46
    「それでもやっぱり、心配でね。なかなか寝付けなかったりするの。もし眠れたとしてもね こうやってすぐに目が覚めちゃったりして……」 そこまで言って、彼女はあっと声を潜めた。 「なんだか、愚痴みたいになっちゃたわ……ごめんなさいね」 「いや、むしろ安心したよ。相変わらずみたいでさ。此処に通してももらったばかりの時は 正直、お父さんがいなくなって消沈してんじゃないかと思って……」 「はは、私がそんな性格じゃないってのはあなたも良く知ってるでしょ」 そうなのだ。 彼女――レッシィ・ポレンディーナはシドとその妻から生まれた子供であった。 女性ながらも父親ゆずりの性格は昔ながらのものであり、年下であるセシルも過去、学校時代周囲から 浮き出したセシル自身をとても親身になって接してくれた数少ない人物であった。 彼がここまで気を許している相手はカインとローザに続く...
  • 四節 これから32
    「王に会わせろと言ってました……」 「そうか。ふふふふ……ははははは……!」 近衛兵とベイガンの言葉には少しの沈黙があった。 その後、何が可笑しいのか急にベイガンは不気味に笑い始めた。 目前の近衛兵がその姿を異形の者を見る目つきで見るのにも気づかない程に高らかに笑い続ける。 「まさか戻ってきたとはな! いいだろう。この私が、自らに葬ってやろう……」 「ですが、奴らが此処まで来るのでしょうか?」 こんな以上なベイガンを目にしてもなおもこのような指摘を言える自分に奇妙な気持ちを抱いていた。 上手くは説明できないが、あまりにも場違いな場面に出くわすと感覚がマヒするのかもしれない。 「来るさ……絶対に。奴の事だからな」 そんな事を考えているとベイガンから答えが返ってきた。 そして、回答する本人の目線はすでに近衛兵の方を向いてはいなかった。 物思いにふ...
  • 四節 これから39
    彼女は走った。 何処へ行くのか。そんな事も考えずに。 だが、今はできるだけ離れたかった。あの光景の場所から。 結局、彼女は逃げるように自室へと駆け込んだ。 一介のメイドである彼女に与えられた部屋は質素であった。 鍵を閉めた後、彼女はすぐにでもその場へとへたり込んだ。 「どうしてこんな事になったのかな……」 それは最前の出来事だけに関した事ではない。 いつからこの国は狂い始めたのだ。 以前は王も優しく、民も皆穏やかな暮らしをしていたはず。 追憶する彼女にとある人物が浮かびあがった。 セシル=ハーヴィ 当の本人は覚えていないかもしれないが、出国する以前にセシルの身の回りの世話を担当していたのが 彼女であった。 彼女がセシルを最後に見たのは部屋に帰ってきた彼と言葉を交わした時だろうか。 ベットのシーツを取り替えたゆっくりお休みくださいと...
  • 四節 これから12
    近衛兵団に所属するその兵士達の主な任は王の護衛である。 国家の中心人物の信頼を全に受けるこの兵士達の選定には厳重な試験が有り、陸軍の中でも屈指の 実力者を中心の組織されている。 単純に剣を交えるのならセシルやカインにも引けを取らない者達ばかりであろう。 その近衛兵が四人。状況は向こうに傾いている。 だが、そんな中でセシルとヤンの表情は比較的穏やかである。 「手伝ってもらえるか、セシル殿?」 「勿論だよ……」 「では行くぞ!」 「くっ……」 その余裕な有り様に少しばかりたじろぎつつも近衛兵の一人は剣を払ってきた。 「!」 だが剣を振るった後、その兵士は驚愕した。 確かに捕らえたと思ったヤンが忽然と姿を消していたからだ。 満身の剣の一撃は石で舗装された道を砕き地面を露出させるだけにとどまった。 慌てて視線をあちこちに巡らした兵士には更...
  • 四節 これから15
    「止めてよ。ヤン」 「セシル殿……」 それが拒絶の言葉に聞こえたのか、ヤンは落胆の表情をする」 「いやっ! そういう事じゃなくて……今更そんなに改まって言われても困るって言いたかっただけだよ……」 慌てて、セシルも訂正する。 「つまりは!」 「うん。これからも宜しく!」 そう言って手を差し伸べる。 「はい!」 ヤンは喜んでセシルの手をがっしりと握る。 「流石はセシル殿! 嬉しいですぞ!」 「だからそんなに固くならないで。君が生きていただけでも僕は嬉しいよ……それにそんなに特別視 なしないでくれ……」 「分かりました」 お手上げだといわんばかりにヤンは顔を赤める。 「それとヤン……」 「はい」 「ギルバートとリディアはどうなったか知らないか?」 これだけはセシルは今でも責任を感じていた事であった。 「リディア殿なら…...
  • 四節 これから48
    「まるで不必要に波風を立てようとしない。どんな相手でも関係をこじらせず、みんなと 仲良くしていたい。そんな風にさえ感じる。欲張りでずるいわよ……」 今まで上手くいっていたのは相手が自分を気にかけていてくれていたからだというのか。 「ごめ……」 何かを口にしようとして、出た言葉がそれであった。 「また! すぐに直すのは無理でしょうけど……」 そう言ってため息を付く。 「努力するよ……」 「実を言うとね、私がその癖を直してほしかったのは……あなたが、この先にどのような事に出くわすか 分からない。でもね、時には何か自分の大切なものの為には何か、もう一つの大切なものを失わなければ ならないかもしれないてこと……それを分かってほしかったの」 まるで何でも見通すかのような口調。過去の彼女がセシルにとってのそうであったように。 やはり自分は望んで此処にきた...
  • 四節 これから40
    「思えば、あの時……セシルさんが国を追われて以降……」 セシルに対する謀反疑惑。立て続けに入ったミストでのセシル死亡報告。 根も葉もない噂であり、確証もない。矛盾しあう二つの事実を特に疑いもせず、それどころか 簡単に信じ、受け入れた王。 逆らう者を次々と処罰していく王。 ゴルベーザという謎の男の重用。進む他国への軍事侵攻。 気づいた頃にはすでに彼女の知っている国とは様相が変わっていた。 ミストへのセシルとカインの出征。 あそこからすべての歯車が狂いだした。 「セシルさん……帰ってきてください……」 別にセシルが帰ってきたからといって現状が覆るとは限らない。 だが、今の彼女は何かにすがる事でしか平静を保っていられなかったのかもしれない。 「今の……今のこの国は何処かおかしいんです。あなたさえ、あなたさえ帰ってきてくれれば」
  • 四節 これから41
    最初に異変に気づいたのは、ヤンだった。かすかな地響き。 その音と振動は徐々に大きくなっていく。不安に駆られる一同。 「見ろ、壁が、壁が迫ってくる!」 シドが叫んだ。地響きの正体、それは迫りくる壁の仕掛けの作動音だったのだ。 「いかん、退け、退くのじゃ!」 一同は通路を引き返した。迫りくる壁のせいで、道幅はどんどん狭くなっていき、 通路の入り口に到着した時には、大人の肩幅程にまでなっていた。 「開かない。まずいぞ!」 入り口の扉をこじ開けようとしたヤンが、切迫した調子で言った。 セシルもシドもヤンに加勢したかったのだが、道幅がそれを許さない。 セシルの脳裏に「万事休す」という言葉が浮かびあがって来た。 その時、セシルは自分の足元を小さな影がすり抜けていくのを感じた。 パロムとポロムだ。二人は互いに背中合わせになって、壁を押す構えをとった。 ...
  • 四節 これから17
     言いながらセシルはがっかりしていた。先程思いついたばかりの利点が、もう通用しなくなって いることに気付いたからだ。  確かに自分が赤い翼のセシルだということは知られていないだろう。だが先程の騒ぎで、今度は 肝心のパラディンの自分の顔も、衛兵に覚えられてしまった。晴れて正真正銘のお尋ね者である。 こうなってしまっては迂闊に動けない。  とりあえずこの場を離れなくてはならなかったが、どこへ行ったものか。  安易に宿などに泊ればすぐに見つかってしまうだろうし、第一、町人の様子を見る限り、泊めて くれるかどうかすら怪しいものだ。  あれこれ考えを巡らせかけて、セシルはやめた。  考えるまでもない。この街にきて、どのみち自分が頼れる場所など、一つしかなかった。 「行こう、こっちだ」  街の一端を示して、セシルたちは足早に歩き出す。ぼんやりと成り行きを見守...
  • 四節 これから37
    「誰!?」 急な出来事であったので、彼女は思わず厳しい声で問いかけた。 「あなたは……」 扉から出てきた人物を彼女は知っていた。 「ベイガン様……」 ベイガン程の役所であれば、城に勤務するなら、知らぬ者はいないであろう。 「すいません。驚かせてしまったようですね」 見るとベイガンは珍しく本気で驚いた様子であった。 職業柄、人と接する機会の多い彼女はこのような場を取り繕うのは得意な方であった。 「こんなところまで何用かな……」 「あっ! 少し気になった事があったのですが、もういいんです」 無意識の内に口がそう告げる。少しでも速くこの場所から去りたかった。 「では……」 そう言って身を返し、立ち去ろうとする時―― ベイガンの長身の後ろから僅かに見える室内の光景を見てしまった。 石造りのタイルに赤い水溜まり。そして嫌な臭い。 これは...
  • 四節 これから33
    睨むようなその右腕の目つきに耐えられなくなった彼は慌てて視線を反対に向ける。 だが、そこにも同じような光景が待っていた。 つまりはベイガンの左腕。 そこにも何か、今度は最前よりも良く見て取れる。 どす黒い紫色の肌に二つの目、手先に裂けたかのように露出する口 はこちらを静かに見つめている。 「ひっ!」 すでに声を潜めるという考えは彼にはなかった。いや頭の片隅には存在していたのかもしれない。 だが、そんな行動をできるほどの余裕は彼には存在してはいなかった。 左と右にそびえる恐怖に挟まれてはどんな者でも怯えを隠せないであろう。気を失わなかっただけでも賞賛に 値するかもしれない。 腰を地面につき、わなわなと震え、怯えた目つきでベイガンを見上げていた。 「あんたは一体……なんなんだよっ!!」 何とか絞りだしたその声は、目前の隊長――すでにヒトではな...
  • 四節 これから18
    「あの……!」  言いすがる彼女を、セシルはそっけなくあしらう。 「シャーロット、僕らに関わらない方があなた方のためです」 「存じております、ですが……」  関わらない方がいいというより、関わらないでくれ、というのがセシルの本音だった。  なぜなら、彼はシャーロットが何を知りたがっているのかとっくにわかっていたからだ。そんな ことは、初めに再会したときからずっと、彼女の心配そうな表情がもの語っていた。  そしてセシルにとって、それに答えるのはとても辛いことだった。 「お嬢様は……、ローザ様はどちらに?」  ほら、やっぱり。 「ここには連れてきていません、安全な所で身体を休めています」 「そうですか……」  そう聞いて、彼女は少し安堵した様子で胸を抑えた。  嘘を見破られない方法は嘘にならない言葉を選ぶこと。  どこかで聞き...
  • 四節 これから11
    「は?」 片割れの兵士が疑問とも自問ともつかぬ声を上げる。 無理もないであろう。普通は叱りの声が飛んでくると思ったのだろう。しかし、実際は咎めなしどころ か安堵に近い声を漏らしたのだから。 その上、声の調子が急に変わった事も彼を驚かせた要因の一つであった。 疑問の暇も無く、彼にはもう一つの災いが降りかかる。 急に視界が回る。 今まで町を見ていた目が、今は空を見上げている。 「これは……」 自分がヤンの足払いを受けて転ばされたと気付いたのは、地面の体が付いた後であった。 「あぐっ!」 「ヤン……様! これは一体どういうおつもりなのですか!」 痛みに呻く彼の代わりにもう一人の兵士が疑問を代弁する。 「見ての通りだ。今を持って私はバロンから抜けさせてもらう!」 「裏切るというのか!」 「そう取って貰って構わない」 「く……」 し...
  • 四節 これから38
    「さて……」 怯えたように去るメイドを見送ったベイガンは一人呟く。 「生きていたんだな。セシル……」 それに報告にきた近衛兵のある言葉が引っかかっていた。 「白き鎧を纏っていたか……」 ベイガンの知る限り、セシルは暗黒騎士として、バロンで名をはせていた。 そして纏う鎧も血に染まった漆黒の色であった。 「何かが、奴にあったようだな」 だが、そんな事はすでにベイガンにとって重要な事ではなかった。 「早く来るがいい……いや、来てもらわなければ困る……」 おそらく心配しなくてもいいであろう。 セシルは王に会いたがっている。どんな手段を使ってでもこの城にまでやってくるであろう。 「この力さえあれば」 後ろに振り返り、先程の自分の所業を見つめ、不敵に笑う。 その顔には部下を手にかけてしまった後悔というものは感じられない。 「ゴルベーザ様より預...
  • FF4 五章
    ...OM0Pr/qI 四節 Eternal Melody1◆HHOM0Pr/qI 四節 Eternal Melody2◆HHOM0Pr/qI 四節 Eternal Melody3◆HHOM0Pr/qI 四節 Eternal Melody4◆HHOM0Pr/qI 四節 Eternal Melody5◆HHOM0Pr/qI 四節 Eternal Melody6◆HHOM0Pr/qI 四節 Eternal Melody7◆HHOM0Pr/qI 四節 Eternal Melody8◆HHOM0Pr/qI 四節 Eternal Melody9◆HHOM0Pr/qI 四節 Eternal Melody10◆HHOM0Pr/qI 四節 Eternal Melody11◆HHOM0Pr/qI 四節 Eternal Melody12◆HHOM0Pr/qI 四節 Eternal Melody13◆HHOM...
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