「割れる円卓」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
割れる円卓 - (2013/05/08 (水) 16:04:26) のソース
*割れる円卓 深山町の一角にある交番で、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアはギアスを使う。 強面の警官が奥に消えて、戻ったときには二挺の拳銃を手にしていた。 その拳銃は当然のようにルルーシュに差し出される。 (やはり、ギアスの力は依然として俺の中にある。誤作動、あるいは不発という可能性は消えたか) 拳銃を受け取り、ルルーシュは悠然と交番を出た。警官は止めもしない。 遠からず彼らは拳銃の紛失に気付くだろうが、「いつ」「誰が」拳銃を持ち去ったかを知ることはない。 ギアスが脳に干渉した作用により、効果発動の前後数十秒の記憶は失われるからだ。 外で待っていたセイバーと合流し、十分ほど歩いて同行者が待つ公園へと入っていく。 拳銃と予備の弾丸を携えて戻ってきたルルーシュを、天海陸、泉こなたはそれぞれ複雑な面持ちで迎えた。 「便利なものだね、君の力は。その力があれば思いどおりにならないことなんてないだろう」 そして最悪なのが、天海陸のセイバーだ。 先刻のファーストコンタクトより以降、セイバーはずっとこの調子だった。 (当然だな。目の前でマスターを操られたのだから、奴は俺に気を許しはしないだろうな) 天海陸にギアスを使用したのは痛恨だったと言わざるを得ない。 自分では冷静なつもりだったが、スザクがいるかもしれないという可能性に浮き足立ったようだ。 こちら側の、衛宮士郎のセイバーのおかげで戦闘こそ避けられたものの、彼らに与えた心象は最悪と言っていいだろう。 正直なところ、ルルーシュとしては未だに彼らへの疑念を払拭できてはいない。 が、陸から伝えられた遠坂凜のサーヴァント情報が、セイバーの知っているそれと同一だったというのが痛い。 ギアスの強制力は絶対であるがゆえに、天海陸の無実をこれ以上なく強い形で証明してしまった。 (現状、俺に彼らを糾弾する手はない。これ以上の専行はセイバーからの不興も招く) 当面は陸とそのセイバーを信用した体で行動し、同行する中で彼らの真偽を見極めるしかない。 そして、信頼の意思表明として、武器の確保を選択した。 天海陸と泉こなたは(彼らの言葉を信じるのならば)双方ただの民間人であり、さしたる武力を持たない。 肉体労働には向かないルルーシュはギアスでそこを補い、衛宮士郎などは文字通りの武力を保持している。 弱者が強くなる最も容易で確実な方法は武装することだ。 ルルーシュ自身にも銃の心得はあり、ギアス以外にも打つ手を得るためにも銃は必要だった。 「天海、一つはお前が持っていろ。使い方は分かるか?」 セイバーには構わず、銃を陸へと手渡した。 今度のギアスはかける相手がNPCであること、また陸とこなたに持たせるために使うと事前に説明していたので、表立っての反論はない。 信頼を得られるかは微妙だが、少なくとも一つ貸しができることになる。 素人に銃を持たせるのが危険という危惧はあるが、そもそもにしてルルーシュは陸が何らかの能力を隠していると疑っている。 それが戦いに適した能力である場合、ルルーシュに抗する術はない。銃があってもなくても脅威度はさほど変わらない。 こなたに渡さなかったのは、さすがに小学生にしか見えない少女に銃を持たせるのは倫理的に躊躇われたからだ。 FPSは得意と本人は言ったが、それで人が撃てるのかと問えば、やはり沈黙が帰ってくるだろう。 「そんなこと言われても、銃なんて触るのも初めてだよ」 「実際に撃つ必要はない。構えるだけで威嚇になるからな」 ルルーシュの目から見ても、陸の表情に『作っている』感はない。 本当に嘘などついていないのか、あるいはルルーシュと同じくらいの『嘘つき』なのか―― 「……ルルーシュ!」 警官たちが騒ぎ出す前にそそくさとその場を離れ、駐車していた車に乗り込もうとした時、セイバーが動いた。 ルルーシュの方を掴んで後方へ押しやり、途中で調達したキャディバッグから取り出したカリバーンを一閃する。 その刀身は不可視。すでにセイバーの宝具である風王結界を纏っている。 透明な刃が宙を駆け、何かが叩き落される甲高い音がした。 「敵か!?」 「そのようです……ライダー! 私が相手をします。ルルーシュたちを頼みます」 セイバーの指示に従い、ルルーシュはこなたのライダーの後ろへと下がる。 集団先頭ならともかく白兵戦、しかも人外のサーヴァント同士の戦いでは、セイバーの正当なマスターではないルルーシュが指揮をするよりは彼女自身に任せた方がいい。 「わかった、セイバーさんも気をつけて」 戦闘形態へ姿を変えたライダーが全員を守れる位置へ。 陸のセイバーが無言でそのカバーに――ルルーシュの背後に立った。 「一、二、三……大漁だな」 戦える陣形に移行した彼らの前に現れたのは、こなたのライダーとよく似た容姿のサーヴァントだった。 こなたのライダーが赤、黄色、緑の三色ならば、現れたライダーと思しきサーヴァントは白、黒、マゼンタの三色の装甲を身に纏っている。 「君は……ディケイドか!?」 「ほう、俺を知っているのか。あいにく俺はお前を知らないが……まあ、なら話は早いな」 こなたのライダーがディケイドと呼んだそのサーヴァントは、手にした銃をルルーシュらへと向け、無造作に銃爪を引いた。 セイバーが縦横に剣を振るい、弾幕を全て叩き落とす。 「ライダー、あのサーヴァントを知っているのか?」 「ディケイド……仮面ライダーディケイド。俺と同じ、『仮面ライダー』だよ」 「敵もライダー、か」 こなたのライダーと同じくステータス隠蔽のスキルを備えているのか、ルルーシュの目ではその強さは測れない。 しかし、 「こちらにはセイバーとライダーがいる。押し切るぞ!」 陸のセイバーがマスターの護衛に回るとしても、それでもまだ二対一だ。 このアドバンテージを活かし、警察や他のマスターが殺到する前に勝負を決める――それが、ルルーシュの目論見。 セイバーが奔る。ルルーシュの目ではとても捉えられない速さ。 手にするは黄金の、しかし風を纏い不可視となったカリバーン。剣戟戦で間合いを計らせないことは凄まじいメリットになる。 しかし、ディケイドは動じない。バックステップを繰り返し、大きく距離を開ける。 カードをベルトに装填し、回す。すると虚空にもう一人の人影――彼らの言葉を借りるなら『仮面ライダー』が現れる。 トランプのスペードのような意匠の仮面。名を、仮面ライダー剣。 「セイバーとやりあうんなら、やっぱこいつだな」 仮面ライダー剣が、明らかに人体の可動域を超えた複雑な変形を経て、ディケイドの身の丈以上の大剣へと変化した。 この状態の名をブレイドブレードという。 「さあ、来いよ」 「そんなもので私と打ち合えると思うか、ライダー!」 いかに強力な武装があったとしても、接近戦でライダーがセイバーに敵う道理などない。 不可視の剣が幾度も疾走し、ディケイドはブレイドブレードを時に剣として、時に盾として扱いなんとか凌ぐ。 ブレイドブレードは威力こそ優れているが、取り回しは悪い。その巨大さ故盾としても使えないことはないが、セイバーの素早い連撃には防戦一方になる。 数合の打ち合いを経て、ディケイドが突然ブレイドブレードを解除。 「なるほど、大体わかった。お次はこいつだ」 今度はディケイド自身が姿を変えた。 機械的なディケイドの装甲とは似ても似つかない、筋肉のような甲殻を纏うライダーに。 「姿を変えた所で!」 「能力も変わるんだな、これが」 ディケイド――ディケイドアギト・ストームフォームが、薙刀・ストームハルバードを構えた。 構わずカリバーンを薙ぎ払ったセイバーだが、ディケイドの身体を斬り裂く寸前、剣を覆っていた風の断層が爆発した。 「風王結界が!?」 「風を操れるのはお前だけじゃないんだぜ!」 至近で吹き荒れる暴風を制御できず、セイバーの態勢が崩れる。 ストームフォームは風を操る戦士。セイバーの風王結界に干渉し、風の制御を失わせるのは容易なことだ。 セイバーにストームハルバードが叩き込まれる寸前、銀光がディケイドへと襲いかかる。 「ライダー!?」 「セイバーさん、彼が相手なら俺も行きます。仮面ライダーなら、俺が止めなきゃ!」 ディケイドの攻撃からセイバーを救い、メダルを装填した剣――メダジャリバーを一閃。 ディケイドはなんとか受け止めたが、即座に続いたセイバーの攻撃までは防げなかった。 装甲から火花を散らし、ディケイドが後退していく。 「やるな! さすがはセイバーと……おい、お前はなんて『仮面ライダー』なんだ? それくらい教えろよ」 「オーズだ! 俺は、仮面ライダーオーズ!」 「オーズ、ね。何にしろ、認めてやるさ。お前らは強い。だが……こうでなければ、俺も仕掛けた意味が無いんでな」 「ディケイド。君はやっぱり、全てのライダーを破壊するために戦っているのか?」 「ハッ、当然だろ。それが俺の、ディケイドの使命だからな」 セイバーとオーズに圧倒されながらも、ディケイドは不敵に笑う。 「しかし、たしかにこれじゃあ分が悪いな。そろそろ本気でやらせてもらおうか」 ディケイドが新たな宝具を顕現させた。 携帯電話と見紛う形だが、発する魔力は並大抵のものではない。 「ディケイド、その宝具は!?」 「オーズ、お前ならわかるだろう。俺が何をするのかを、な!」 ディケイドが宝具をベルトに接続する。 ベルトが爆発的な光を放ち、収まった時、ディケイドは新たな姿へと変貌を遂げていた。 「コンプリートフォーム……さあ、行くぜ!」 九つの仮面ライダーの肖像を装甲として纏う、仮面ライダーディケイドの最強形態、コンプリートフォーム。 隠蔽効果の消失と引き換えに、ステータス値は全て一段階アップする。 「受けて立つぞ、ライダー!」 ディケイドが格段に戦力を増したとしても、セイバーは臆することなく彼に向かっていく。 不可視のカリバーンが唸りを上げてディケイドに迫る。 スペック上ではほぼセイバーと拮抗しても、純粋な剣の腕ではディケイドはとてもセイバーには敵わない。 「おっと、もうお前とチャンバラをする気はないぜ!」 セイバーとの接近戦を嫌い、ディケイドが能力を発動し、ファイズ・アクセルフォームへと変身する。 十秒間だけあらゆる動作を千倍の速度で行えるこの形態なら、セイバーの剣が不可視であっても対応できる。 踏み込んできたセイバーの正面から背後へと回り、斬撃。超人的な反応を見せたセイバーが前転して回避。 加速したディケイドの蹴りをなんとかカリバーンで受け止めるも、なおも大きく吹き飛ばされる。 余裕を持って追撃しようとしたディケイドを、 「うおおおおおおっ!」 「これはっ……!?」 サゴーゾコンボへと変身したオーズの、超重力の檻が捕らえる。 超加速形態であっても重力からは逃れられない。ディケイドの足が止まる。止められる。その間にセイバーが態勢を立て直す。 ディケイドへと踏み込めばセイバーも重力の影響を受けるため、オーズは重力波を解除。 すぐさま斬りかかったセイバーから逃れ、そこで十秒が過ぎディケイドのアクセルフォームが解除された。 「やるな……!」 「感謝します、ライダー。いえ、オーズと呼んでも?」 「いいですよ、セイバーさん。向こうもライダーだからややこしいですしね!」 即席のコンビだが、ディケイドの能力に同じ仮面ライダーであるオーズなら十分対応できる。 能力を打ち消せるのなら、後はセイバーがディケイドの首を獲ればいい。 「調子に乗るなよ……ッ!」 攻め切れないことに業を煮やし、ディケイドが新たなカードを切る。 先ほどの仮面ライダー剣と同じく、虚空から新たな仮面ライダーが現れた。 華美なマントと黄金の装甲に身を包む、皇帝の名を冠する仮面ライダー、 「キバか!」 仮面ライダーキバ・エンペラーフォーム。 ファイナルアタックライド、そのライダー固有の必殺技を発動させる切り札を、ディケイドは続けて発動させた。 ディケイドの横に並び立つキバ・エンペラーフォームが魔皇剣ザンバットソードへと力を注ぎ込み、ディケイドと同じ構えを取る。 ディケイドもまた剣を手にし、膨大な魔力を刀身に漲らせた。 この力が放たれれば、かなり距離をとったとはいえ生身のマスターたちに影響があるかも知れない。 「そんなこと、させない……せいやあああああッ!」 一対の仮面ライダーが剣を振り下ろす寸前、オーズが跳躍し、サゴーゾの脚部を地面へと打ち付けた。 大地が大きく揺れる。サゴーゾの持つ重力制御能力を活かした足場崩しだ。 剣へと力を割いていたディケイドはその揺れに対応できず、一歩二歩たたらを踏む。 そこへ飛び込んだセイバーの剣が一閃。 一瞬早く察知してチャージを中断、跳び離れたディケイドは難を逃れたものの。自意識のないキバはそうは行かない。 カリバーンに叩き斬られ、よろめいたところを追撃のサゴーゾのパンチが炸裂。キバは空中へと高く弾き飛ばされ、やがて爆発した。 「キバ……!」 「まだやるのか、ディケイド? 君一人じゃ俺達には勝てないってわかっただろう」 かつての戦友でもあるため、オーズはディケイドに対し非情になりきれない。 一人なら危ういが、今のオーズの隣にはセイバーがいる。このまま戦えば、ディケイドの敗北・消滅は必至だ。 セイバーは油断なく身構え、ディケイドの一挙手一投足を見逃さない構えだ。 劣勢であると見たディケイドは、 「……そうだな。時間稼ぎもここらでいいだろう」 と、焦る様子もなく言った。 どういうことだ、と返そうとしたオーズの声は、ルルーシュ達がいる後方から聞こえてきた爆音にかき消される。 振り返れば凄まじい爆風が吹き荒れ、彼らの仲間を呑み込もうとしている。 「あれは!?」 「みんな……!」 セイバーとオーズが振り向いたその一瞬の隙に、ディケイドは最後の変身を終えていた。 セイバー達の間を、空気を切り裂く音が一直線に駆け抜ける。 先にセイバーを行かせ、振り向いたオーズの前には、 「ディケイド、その姿は……!」 「クウガ・ライジングペガサス。オーズ、お前は知っているか? この形態がどんな力を持っているか」 超古代の戦士、仮面ライダークウガが立っていた。 かつて多くの仮面ライダーと一緒に戦ったオーズは、ディケイドの今の姿も覚えがある。 クウガの数多ある形態の一つ、風を司る緑の戦士。 視覚、聴覚といった感覚を極限まで研ぎ澄ませた、天空の狙撃手だ。 「誰を……誰を撃った!」 「さあ、誰に当たったかな。自分の目で確かめてみたらどうだ」 遮二無二セイバー達を足止めしていた先ほどまでと違う。 ディケイドは猛然と攻め込むオーズに取り合わず、カブトへと姿を変えてクロックアップを発動、自らもセイバーの後を追った。 「待て、ディケイドォッ!」 「これで俺の仕事は大体終わった。後は仕上げだ」 ◆ セイバーとオーズがディケイドを追い詰めていく。 遠ざかっていく彼らを眺めながら、ルルーシュはふと悲鳴を聞いた。 そちらへ目を向ければ、日中の公園、そこかしこにいるNPCを撥ね飛ばしながら一台の軽トラックがルルーシュたちに向かって迫ってくるところだった。 その軽トラックに、運転手はいない。 「あれは……!」 ルルーシュは直感する。あれは危険だ、と。 「天海!」 「わかってる、セイバー!」 引き離されたセイバーとオーズでは間に合わない。 信用ならずともここにいる天海陸のセイバーに頼る他なく、また陸を護るためならばいかに不仲のセイバーとて動かざるをえない。 「やれやれ。まあ仕方ないね、この場合はさ」 陸のセイバーが紅い剣を振り上げると、その切っ先に光が渦を巻く。 剣が振り下ろされ、同時に光の中から何本もの黒剣が出現し、軽トラックへと殺到する。 漆黒の刃によって無理矢理地面へと縫い止められた軽トラックは、次の瞬間大爆発を起こした。 軽トラックの荷台には、ガソリンが山ほど積載されていたのだ。 「くっ……!」 「わあっ!?」 体重の軽いこなたは衝撃で転倒し、ルルーシュや陸も踏ん張るので精一杯だ。 吹き付ける爆風は陸のセイバーが突き出した剣がせき止める。 「みんな、無事か?」 爆風が収まって、立ち上がったルルーシュは皆の安否を確認する。 そのルルーシュの眼前で、 「参ったね……これは、してやられたな……」 陸のセイバーが、ゆっくりと崩れ落ちていく。その腹部は真っ赤な鮮血で染まっていた。 「セイバー!?」 「あのライダーに、狙撃された……気をつけろ、リク! まだ終わってない……!」 剣で防御することはおそらく可能だっただろう。 だが、爆風からマスターたちを護るために、セイバーはあえてその一撃を己の身で受け止めるしかなかった。 陸とこなたはセイバーを支えようと彼に駆け寄った。 だがルルーシュが見ていたのは、噴煙を突っ切ってきた一台のバイクだ。 そのバイクに乗っていた男はヘルメットをかぶっていない。 「お前は、」 誰だ、と言う前に、ルルーシュはその男に飛びかかられ、地面に叩き付けられた。 「がっ……!」 男はルルーシュに馬乗りになり、頭を押さえつけ、手を振り上げる。 その手には大振りの鉈がある。ルルーシュの頭など柘榴のようにかち割れそうな、厚く、重い、凶器が 視線が合った。 (――――――!) 考えている暇などなかった。 最接近した死の気配を振り払うため、ルルーシュの生存本能が一つの選択をする。 銃を構える時間は無い。 令呪でガウェインを呼ぶにも、一瞬の集中と魔力が必要だ。 ならば残る選択肢はただ一つ。 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアが最も使い慣れた力――ギアスにて、障害を排除する。 「……動くな!」 命じたのは、あらゆる動作の停止。 男の排除よりもまず、男の行動を停止させるための命令。 「――――――――」 ギアスを受け、棒立ちとなる襲撃者。 遅まきながらセイバーがルルーシュたちの元へと駆け付けた。 「……あなたは、切嗣!?」 襲撃者の正体は、セイバーのかつてのマスターである衛宮切嗣。 驚愕したセイバーだが、迂闊に動けない。切嗣とルルーシュとの距離が近すぎる。 状況からルルーシュが切嗣にギアスを使ったのだと推察したが、どのようなギアスを使ったのか。 セイバーを支える陸とこなたも凍りついたように固まっている。 やがて、動き出したのは―― 「……ふう。肝が冷えたな」 衛宮、切嗣。 至近距離でギアスを叩きこまれたはずの男は、何の変化もなく立ち上がり、ルルーシュの手を取って引っ張り立たせた。 その傍らへ、全身に傷を追いながらもまだまだ戦力を残しているディケイドが並んだ。 「ルルーシュ!?」 「ギアスが……効かなかったのか!?」 「おっと、動くなよ。こいつの命が惜しいのならな」 ディケイドが、ルルーシュの頭へ銃を突きつける。セイバーとオーズは動けない。 自身、身を持ってギアスの効果を体験した陸だからこそ、わかる。 切嗣は全くギアスの効果を受けていない。陸のように魔術的に耐えたのではなく、効果そのものをキャンセルさせられている。 切嗣が軽く袖を振る。そこから滑り落ちてきたのは、カットされた長方形の板――磨き上げられた鏡だ。 「強力な魔眼らしいがね。タネが割れていれば対策は立てられるよ」 切嗣はつまらなそうに言う。 彼は先だっての柳洞寺における戦闘をライダーに監視させていた。 つまりルルーシュがランサーに放ったギアスも、超視力・超感覚を有するライダーに認識されていたのだ。 効果範囲外であったためその威力こそわからなかったものの、『光情報を投射する』というギアスの骨子だけは看破できた。 同時に放たれたルルーシュの『やめろ』という言葉と、それに対するランサーの反応。 確度こそ低かったが、これによりルルーシュが有する魔眼は『眼球内に光情報を投射し受けた者の精神を操る』類のものだというところまで絞り込めた。 それが魔力的なものではなく、単純な光情報であるなら話は簡単だ。 ただ、鏡を用意すればいい。光は鏡によって反射する。 ルルーシュが放ったギアスは、ルルーシュ自身に跳ね返ってきたのである。 「……、……」 「ルルーシュ!? しっかりして下さい、ルルーシュ!」 『動くな』という命令は、ルルーシュ自身に作用した。 脳内シナプスに直に干渉するギアスは受けた者の記憶を数秒保てなくさせる効果もある。 その僅かな隙間が、ルルーシュの思考をストップさせていた。 「さあ、利用させてもらうよ――ルルーシュ」 そして、その隙間に漬け込むのが衛宮切嗣。『魔術師殺し』の手管である。 切嗣が隙を見せれば、ルルーシュがギアスを使うのは容易に誘導できる。 いける、やれると判断すれば、あとは全速で綱を渡り切るだけだ。 ルルーシュと視線を合わせ、切嗣が囁く。 「『俺』は衛宮切嗣だ。衛宮切嗣は『俺』だ」 衛宮切嗣は、魔術師としては三流だ。 それでも簡単な暗示くらいならこなせる。 かつてケイネス・エルメロイ・アーチボルトが篭る冬木ハイアットホテルを爆破した際、ホテル職員に『自身はケイネスである』と錯覚させたように。 強制力などたかが知れている、一般人ならともかく魔術師にはとても通じない、児戯のようなもの。 数分もしない内に破られる、そんなものでも――ギアスのショックにより前後不覚となったルルーシュには、十分すぎるほどの威力だった。 「『俺』……は、『衛宮……切嗣』」 「そうだ。そして、『衛宮切嗣』はこうする」 切嗣はルルーシュの手を取る。そこにある令呪をなぞり、 「『令呪を以って命じる。最も近くにいるライダーを殺せ。令呪を重ねて命じる。セイバーよ、ライダーを殺せ』」 ここだけは大きい、切嗣の言葉。 聴いていた陸たちには理解できない。令呪を以ってライダーを殺せというその真意を。 彼らはオーズを、こちら側のライダーをセイバーに襲わせるのかと金髪の少女へと身構えたが、当のセイバーは違った。 ルルーシュの『セイバー』は彼女ではなく、彼の本当の『セイバー』は今―― 「……っ、きっ、切嗣、貴方は――――ッ!」 ただ一人、切嗣の目論見を看破したセイバーがなりふり構わず阻止に奔る。 当然、その前に立ちはだかるのは切嗣のライダー、ディケイド。 激情に任せた一刀は仮面の騎手に防がれ、届かない。 「令呪を以って命じる。最も近くにいるライダーを殺せ。令呪を重ねて命じる。セイバーよ、ライダーを殺せ」 そして――ルルーシュは、自分を『衛宮切嗣』だと錯覚したルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは、令呪を発動させた。 暗示とは洗脳、記憶の強制ではない。意思を望む方向に誘導するだけだ。 つまり、令呪はルルーシュ自身の意志によって開封され、滞り無くその役目を果たす。 ルルーシュの手から、二画の令呪が解け消える。 それが示すものは、つまり―― ◆ 「見つけた」 「こっちもだ」 軽トラックのシートに身を預けていた衛宮切嗣が呟いた。 ライダーはペガサスフォームで、切嗣は鳩との視界共有で、それぞれ索敵を行なっていた。 そして今、敵を発見したのだ。 「数は?」 「三組。知った顔もいるな。ライダー、君も確認してくれ」 切嗣はライダーに魔力のラインを繋ぎ、視界を共有させる。 黒髪の少年、金髪の少女、眼鏡の少年、痩せた青年、小柄な少女、青年。 この内、切嗣にとっての知った顔というのは金髪の少女――すなわち、彼が前に契約していたセイバー、アルトリア・ペンドラゴンである。 すでにその存在は柳洞寺の戦闘にて確認していたので驚きはない。 どうやって打倒するか。切嗣の脳裏にはかつての従者に対する親愛の情など一欠片もない。 「……ほう。なるほど、確かに俺の知った顔がいるな」 ライダーの声は、抑えているが隠し切れない闘志が滲み出ていた。 そのニュアンスにわずか疑問を感じ、問う。 「君が柳洞寺で確認したセイバーだろう?」 「いや、そいつじゃない。一番年嵩の男がいるだろう。こいつは『仮面ライダー』だ」 仮面ライダー。 このライダーと同質の、そして彼にとっての倒すべき仇敵。 「会ったことがあるのか?」 「ない。いや、未来ではあるのかもしれないな。少なくとも今の俺はこいつを知らん。 だがわかる。こいつは仮面ライダーだと。理屈じゃない、そう感じるんだ。俺の……ディケイドとしての本能が、こいつを破壊せよと喚き立てるのさ」 青年は間違いなくサーヴァントであるのだが、ステータスは隠蔽されているらしく読み取れない。 隣のライダーもそうしたスキルを備えている。同じ性質を持ち合わせるからこそ、直感的に理解できるのだろう。 「仕掛けるぞ、マスター。悪いが今回ばかりは俺の意思を通させてもらう」 「待て、ライダー。この痩せた男もサーヴァントだ。都合三騎のサーヴァントと戦うことになるぞ」 「構わない。この仮面ライダーを破壊すれば俺の力はさらに増す。全力でコイツを破壊し、取り込めば残り二騎もどうにかするさ」 勝てる、とは言わない。そこまでライダーは楽観主義者ではない。 逃げるだけならどうとでもなる。いかにセイバーが強力でも、機動戦においてライダーが劣る要素は皆無だ。 もし誰かに先を越されてこの仮面ライダーが消滅すれば意味が無い。 「気が進まないなら俺だけで行く。最初に言っておいたはずだな? 『他のライダーは俺が全て破壊する』と。 余計なライダーは妥協したが、仮面ライダーだけは別だ。止めたいなら令呪を使うことだな」 無論、令呪を使うようなら関係はここまでだと、ライダーは言外に匂わせる。 切嗣はやや沈思し、 「……仕掛けるのは構わない。だがライダー、その前に君が見つけた敵のことを教えてくれ。近場で始めて乱入されてはたまらない」 「柳洞寺だ。さっきあの青いランサーが戦っていた、白いセイバーだよ。門を護っているようだ」 と、今度はライダーの視界が切嗣とリンクする。 山門に一人佇むセイバー、マスターの姿は見えない。 特筆すべきはそのステータスだ。 「これはまた……全ステータスがEXランクとは。規格外という他ないな」 「だが、このスペックであのランサーと戦って敗北するとは考えにくい。おそらく何らかのスキルか、宝具の恩恵だろうな」 「このセイバーのマスターはガウェインと呼んでいたな。円卓の騎士の一人、サー・ガウェインと見て間違いない」 そこで言葉を切り、切嗣は空を見上げる。 頭上には、燦々と輝く太陽が在った。 「ガウェイン……太陽の騎士か。たしかガウェイン卿には太陽が出ている朝から正午までの間、力が三倍に増すという逸話があった。 このスキルの高さはその逸話を再現したものだろうな」 「こんな奴が護ってたんじゃ、柳洞寺にはしばらく手は出せないな」 やはり俺は仮面ライダーを狙う、と言い置いて踵を返したライダーを呼び止め、 「……いや、ここは一つ僕の策を聞いてからにしてくれないか?」 「策?」 「ああ。うまくいけば『ライダー』は倒せるかもしれない。そうでなくても、このセイバーを排除する。まずは……」 そうして、切嗣は思いついた作戦を開陳する。 戦闘能力では他の追随を許さないセイバーというクラスは、その分索敵能力や感知能力はさほどでもない。 ルルーシュ自身が令呪で呼ばない限り、ガウェインがこの戦いに介入することは不可能だ。 黙して聴いていたライダーは、憮然とした鼻息を一つ漏らし、 「フン。なるほど、確かにうまくいけば『ライダー』は倒せるかもしれないな。忌々しいが、俺の言葉に反してはいない」 「全てのライダーを倒すという君の意思は理解している。だがこのセイバー、放置しておけば柳洞寺は完全な安全地帯となるだろう。 彼のマスターが別行動をしているのが仲間を集めるためだとしたら、この集団はいずれ手がつけられないほど強力になる。叩くなら、今しかない」 長い、長い沈黙。 全てのライダーを倒す、というのはあくまで通過点に過ぎない。 最終的に勝ち残れないのならば、何人のライダーを屠ろうとも意味は無いのだ。 あらゆるステータスが規格外のセイバーと、あらゆる宝具を無効化するライダー。 どちらがより手強い相手なのか、容易に結論は下せない。 あくまで我を通すか、それともマスターに従い優勝への一手を打つか――ライダーは決断した。 「……いいだろう。乗ってやるさマスター。お前は確かにこの俺の、『ディケイド』のマスターに相応しい、クソッタレなド外道だよ」 あらん限りの皮肉と、少しばかりの感嘆を込めて。 ライダーは切嗣の『作戦』に同意した。 数刻前の、出来事である―― ◆ 「――――」 音もなく。 白銀のセイバーが抜き放った太陽の剣が、金田一一のライダーを刺し貫いていた。 反応できる者は誰もいない。 士郎も、金田一も、太公望も――そして当のガウェインすらも。 「が……ふっ! せ、セイバー……!?」 「ご主人!?」 「ライダー!?」 「が、ガウェイン! あんた、何してるんだよ!」 「あらぁ……?」 誰もが驚き、瞠目する。 山門を守っていたはずのガウェインが、一瞬で境内に転移してきて聖剣を太公望に突き立てている。 太公望がガウェインと眼を合わせた。そこにあるべき意思の輝きがない――瞬間、理解する。 「このっ……!」 衛宮士郎が双剣を投影し、ガウェインへと斬りかかる。 士郎は決して、ガウェインに勝てるとは思っていなかった。戦うという気すらない。 とりあえずガウェインを太公望から引き離す。考えたのはただそれだけだ。 双剣が伸ばされた瞬間――あまりにも軽い手応え。一瞬にして砕かれた。いや、砕かれたという実感すらない。消しゴムをかけられたような、消失。 眩い光が視界を灼く。その輝きが全身を覆う刹那、荘厳な布が士郎を覆い隠した。 なんだこれ、と思う間もなく士郎の身体はふわっと宙に浮き、後方へと引っ張られる。 「無茶するわねぇ、士郎ちゃん。わらわに跪いて感謝してもいいわよぉん」 顔を上げると、キャスター。 どうやらガウェインに斬りかかったつもりが、返す刀で殺されかけたらしい。 投影した干将莫耶は一合打ち合うことすら出来ず、 「でも、まさか一発で『傾世元禳』を壊しちゃうなんて……これはちょっと洒落にならないわねぇん」 言葉こそ軽いが、キャスターの頬に一筋汗が流れているのを見る。 ガウェインの足元には、今まさに消えゆこうとしている両断された布があった。 キャスター、蘇妲己が有するランクA++の宝具、『傾世元禳』は、Aランク以下の攻撃をすべて遮断する。 生半可な攻撃では傷一つつかないその宝具が、ただの一撃で破壊された―― 「そりゃちゃんとしたマスターがいないからいつも通りの性能ってわけじゃなかったけどぉ、にしてもこれは反則よねぇん……!」 「……士郎よ! ガウェインは令呪で支配されておる! こやつに近づくでない!」 もう一度ガウェインの前に立ち塞がろうとした士郎を、太公望が押し留めた。 自由意志を奪われているのならば、今のガウェインに正常な判断力は望めない。 太公望らは知る由もないが、ルルーシュの放った令呪はガウェインの意識を起点として発動された。 だからこそ、ルルーシュの眼の前にいる二人のライダーではなく、ガウェインの至近にいるこのライダー、つまり太公望が目標として認識されたのだ。 今のガウェインに無闇に近づけば、命令を妨げるものとして排除されかねない。 今は令呪に縛られた妲己が何とか割り込んだものの、あのスーパー宝貝すら一撃で破壊したガウェインの破壊力は尋常ではない。 士郎の目が捉えているガウェインのステータスは、破格のオールEXランク。 たとえA++ランクの宝具であろうと、全力を出せない妲己の出力ではガウェインに及ばない。 サーヴァントですらない士郎が挑むのは無謀を通り越して自殺そのものだ。 「スープー! ……すまん、頼む!」 「ご、ご主人……! わかったッス!」 再び向かってこようとするガウェインを、形態変化した四不象が捕らえ飛翔、柳洞寺の天井を突き破って遠く空へと連れ去って行った。 太公望が、ぞっとするくらい大量の血を、吐き出した。 「ライダー! さっきの……ええと、太極図! あれを使えば!」 「いや……そうもいかん、のう。あのガウェインめの……一撃は、わしには重すぎた。もう……間に合わん」 「もう、駄目なのか? ライダー……」 「すまんのう……一。これはもう……どうしようも、あるまいよ」 「そうか……そう、か」 ライダーが掲げた腕はすでに半ばまで黒い影に包まれていた。 士郎の記憶とは違う、ムーンセルにおける聖杯戦争で敗者に与えられる罰――構成データの消去だ。 ガウェインの一撃は、正確に、精密に、太公望の心臓を貫いていた。 太極図を使う魔力ももはや足りない、致命傷だった。 「どうやら、狙われたようだのう……ご丁寧に令呪まで……使いおって」 「令呪って……ルルーシュがやったっていうのか!?」 「いや、そばにお前のセイバーがいるのにライダーを襲わせるのはリスクが高すぎる」 「うむ……あの小癪な……知恵の回る坊主の本意では……あるまいよ」 士郎に答えたのは太公望――だけでなく、そのマスターである金田一一もだ。 ライダーの消滅が必至となったため、そのマスターである金田一もまた遠からず同じ運命を辿るだろう。 「き、金田一?」 「衛宮さん、時間がない。よく聞いてくれ。多分、ルルーシュさんたちは敵に遭遇したんだと思う。 その敵が、あいつのギアスかそれに近い力を持っていて、ルルーシュさんに令呪を使うことを強制したのかもしれない」 「ルルーシュじゃ、ない?」 「もしルルーシュさんが俺たちを裏切るつもりだったとしても、このタイミングは絶対にありえない。 あいつの傍にはあんたのセイバーがいる。サーヴァントにギアスが通用しない以上、セイバーの反撃を防ぐ手段がないからだ」 今まさに死が自分を侵していくのを理解していないはずはないのに、金田一は構わず士郎へと推論を語る。 キャスターは、太公望と最も縁深き妖狐は――しかし、この場面では口を開かない。 黙して、ただじっと見詰めている。 死にゆく太公望と、彼の哀れなマスターを。 「仮に誰かと結託して彼女を排除していたとしても、今度はその誰かの前にあいつはサーヴァントなしで一人取り残されることになる。 ガウェインを令呪で呼び戻すにしても、消費する令呪は二画。いくらなんでもリスクに結果が釣り合わなさすぎる」 金田一の顔色は蒼白、全身は震え、汗に濡れている。 太公望は少しでも長くガウェインを抑えるために、残った僅かな魔力を四不象へと注ぎ込んでいる。 喋るのも辛い太公望に代わり、士郎に伝えるのは自分の役目だと。 強く決意した金田一は、必死に恐怖と戦いながら、それでも何かを残そうとしていた。 「衛宮さん、すぐに山を降りてセイバーと合流するんだ」 「じゃ、じゃあ令呪でセイバーを呼び戻して!」 「それは駄目だ。もしルルーシュさんが操られているなら、セイバーを呼び戻すとあいつが一人で取り残される。自分が危険なとき以外は令呪は使わないほうがいい」 「……ッ、金田一! お前、なんでそんなに……! わかってるのか!? 今、お前は!」 「わかってるよ! 俺、このままじゃ死んじまうんだろ!? わかってる、わかってるよ……! 怖い、死にたくない、嫌だ、死にたくない、死にたくない……でも今、あんたに伝えなきゃいけないことがある! それを伝えずに死ねない! 死ねないんだ! 俺は……俺は!」 じっちゃんの名にかけて、とは言えなかった。 それでも、金田一は涙を流し、血走った目で士郎へと掴みかかる。その形相、その迫力に士郎は息を呑む。 次の瞬間、頭上で太陽が輝いた。 思わず天を仰いだ士郎の視界に、両断され消えていく四不象の僅かな残照が見えた。 太公望からの魔力が供給が途絶え、形態変化が解除されたのだ。 ガウェインの宝具――転輪する勝利の剣から漏れ出た擬似太陽の炎が、余波でありながら柳洞寺を灼き払っていく。 「スープー……ご苦労じゃったのう。先に、休んでおれ」 「いいか、誰も死なせちゃ駄目だ! 俺は死ぬかもしれないけど、絶対に復讐とかしちゃ駄目なんだ! ルルーシュさんだって、なにか事情があるんだ。だからあの人を憎まないでやってくれ! 人を殺したやつだって、罪を償うことはできる! でも死んじまったら、何もできないんだ! だから……だからさ! 衛宮さん! 頼むよ……」 解放されたガウェインが、落下してくる。 太公望はもはやこれまでと、最後にマスターの姿を目に焼き付ける。 「この聖杯戦争を、終わらせてくれ! 誰も悲しむことがないように! 誰も死なないで済むように! みんな……ちゃんと帰るべきところに帰って、これから先を生きていけるように!」 「……うむ。それでこそわしのマスター。金田一一よ……おぬしと契約できて、よかった」 金田一一は、死を前にしても変わらず金田一一で在り続けた。 その事実に満足し、太公望は目を閉じる。 同時、着地したガウェインが振りかぶった剣を太公望へと振り下ろし―― 「……ッ、ライダーッ!」 「……ばいばい、太公望ちゃん。今度は短いお付き合いだったわねぇん」 剣先が届く寸前、太公望は消滅した。 キャスターが、初めて聞くくらいの沈んだ声で、太公望へと別れを告げた。 対象が消えたことで令呪の強制もまた解除され、ガウェインが自由意志を取り戻す。 騎士は呆然と、血に濡れた己が手を震わせる。 「何故です……何故なのです、ルルーシュ……ッ!」 「が、ガウェインさん?」 「金田一殿、私は貴方になんと言って詫びればよいか……!」 「良かった……正気に戻ったんだな。ガウェインさん、すぐにルルーシュさんのところに行くんだ。 今、何か良くないことが起きてる。手遅れにならない内に、早く……!」 「……金田一、殿」 ライダーを、ひいては自分を殺した相手であるガウェインに、金田一はなんら咎めはしなかった。 彼が自分の意志でそうしたのではないことはわかっている。 ならば、金田一一がやるべきは罪の糾弾ではなく、ガウェインを必要としている者のところへ彼を行かせることだ。 「ガウェインさん、もし、あんたが申し訳ないって思ってるなら。一つだけ、俺のお願いを聞いてくれよ」 「……なんなりと、金田一殿。私にできることであれば、謹んで承りましょう」 慰めにもなりはしないが、せめてその罪悪感が、少しでも軽くなるように。 金田一はガウェインに、命を対価にした『お願い』をする。 「衛宮さんを、セイバーのところに連れて行ってやってくれ。ここに残ってるよりそっちの方がいい」 「待てよ、金田一! お前を残して行けない!」 「行ってくれ、ガウェインさんッ! 頼むよ、もう……!」 「……ッ!」 ガウェインは抵抗する士郎を抱え上げると、高く高く跳躍した。 見る間にその姿は豆粒ほどになり――消えた。 彼らがいなくなると、金田一は腰が抜けたように地面へと座り込み、 「ぁ……うう、うあああっ! 嫌だ、死にたくない、死にたくない……!」 「あららぁ。士郎ちゃんの前では我慢してたのかしらぁん」 「美幸、剣持のオッサン、明智、玲香、佐木、二三! 母さん、父さん、じっちゃん……! うう、ううううう……うああああああ、あああああああああっ!」 泣き叫ぶ。 虚勢を張っていられたのは、仲間が――士郎が目の間にいた間だけだった。 一人になれば、どうしようもない死の恐怖が金田一一の全身を飲み込んでしまう。 太公望を覆っていた黒い影は、金田一の足から腰へと這い上がり、彼を消滅させようと侵攻し続ける。 「でもぉ、すごいわぁん。怖いのをぐっと堪えて士郎ちゃんを先に進ませる……わらわ、かなりグッと来ちゃったのねぇん」 太公望が消えた時には何も言わなかったキャスター、蘇妲己。 しかし今、新しいおもちゃを見つけた子供のように目を輝かせて、金田一へと迫る。 「ねえ、一ちゃん」 震える金田一の頬を両手でそっと包んで、ひどく優しげな声音で、妲己は言う。 「……わらわが助けてあげてもいいわよぉ?」 ◆ ルルーシュはかつて、もう一人のギアス能力者であるマオとの戦いの際、自らにギアスをかけた。 心を読むマオに、スザクとの共同戦線を知られないために、己の記憶を封じたのだ。 ルルーシュのギアスは、同じ人間には二度使えない。 これは一度ギアスを受けたものには脳内に何らかの抗体ができるのではないか、とルルーシュは推測したが、詳しいことは判明していない。 かつて、ルルーシュの部下にジェレミア・ゴットバルトという男がいた。 最初は敵として出会ったものの、紆余曲折を経てルルーシュに身命を捧げる忠義の騎士となった男だ。 彼はある特異な能力を有していた。あらゆるギアスを打ち消す力を持つ、ギアスキャンセラーという能力を。 その力を駆使し、彼はルルーシュの世界統一に多大なる貢献をした。 この三つの要素から、ある一つの推測が導き出される。 それは―― 『ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアはギアスキャンセラーを受けている』 と、いうこと。 ジェレミアのギアスキャンセラーは、彼の義眼を起点に球状に展開する。 その球の範囲内で起こったすべてのギアスを区別なく解除する、それがギアスキャンセラー。 ルルーシュのように視線を合わせる必要はないため、多数の対象を巻き込めるし、自身を狙って使用されたギアスも発生点が自身である故に自動でキャンセルされる。 しかし、ここで一つ疑問が生まれる。 『ルルーシュにかけられたギアスはギアスキャンセラーによって解除されていたのか?』 ルルーシュが自身にかけたギアスは、スザクにかけたそれと違い効果はただ一度きり、対マオに特化したものだ。 当然マオとの戦いが終われば用を成さなくなる。 自身にギアスを掛ける場面などそうそうない。故に、わざわざギアスキャンセラーを受ける必要性は薄いと言える。 だが、だからといって、ギアスキャンセラーを避ける理由は、ルルーシュには『ない』。 これがスザクであったなら話は別だ。 『生きろ』というギアスの強制力を逆手に取り、自身の潜在能力を極限まで引き出すスザクの闘法は、ギアスキャンセラーを受けては瓦解する。 当然、ルルーシュはスザクとジェレミアを同時に運用するにあたって、決してスザクをキャンセラーの効果範囲内に近づけさせはしなかっただろう。 しかしルルーシュにはそんな制約はない。 プラスかマイナスで言うなら、『自身にギアスを掛けられる機会』をもう一度得られるため明らかなプラスだ。実際にそんな場面が来るかは別として。 つまり――ルルーシュが敢えてギアスキャンセラーを『避けた』かというと、その可能性は限りなく低いと言える。 肉体に害を及ぼす物でもなし、手札を増やせるなら好機を逃すほど間抜けではない。 結論。 ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアはギアスキャンセラーを受け、ギアスを解除されていた。 だからこそ、もう一度ギアスを受ければその効果は問題なく機能する。 機能、してしまった。 ルルーシュが我に返った時――すべてはもう、終わっていたのだ。 「……っ、俺は……!?」 カメラのシャッターを切り替えたかのように唐突に、ルルーシュの意識は意識が復旧した。 いつの間にかへたり込んでいたルルーシュの前には、初めて見るほどに険しい形相で聖剣を構えるセイバーがいる。 その視線の先に、依然変わりなく、衛宮切嗣と彼のライダー。 状況は変わっていない。 (いや……待て。俺はたしか……衛宮切嗣にギアスを使ったはずだ。なら何故……俺の記憶が途切れている!?) ふと視線を落とす。 そこにあるべきものがない。 サーヴァントに、セイバーに、ガウェインに繋がる絶対命令権――令呪が二画、消失していた。 ぞくり、と悪寒が背筋を駆け登る。 何があったかなど分からない。 だが推測してしまった。 欠けた記憶、失われた令呪、怒りに震えるセイバー、虚無の塊のような切嗣。 ピースは揃っている。 導き出されるパズルの完成図は。 「まさ、か……」 「礼を言うよ、ルルーシュ。おかげで最も厄介なサーヴァントを、労せずして撃破できた」 想像と寸分違わぬ最悪の結末が、切嗣の口から突き付けられる。 反射的に遥か彼方の柳洞寺を振り返る。 火の手が上がっている。 「切嗣……あなたは、あなたという人はッ! どこまで非道なのだッ……!」 「……舐められたものだ。自身のサーヴァントでもないモノを連れ回して、本当に勝てると思っていたか?」 「な……あ、」 「君のサーヴァントはよほど優秀なんだろうな。なにせ、マスターと離れていても柳洞寺を守護できるくらいなのだから。 だが聖杯戦争において、過信ほど崩し易いものはない」 「過信……?」 「もし君が自分のサーヴァントを連れていたら、こうはならなかっただろうね」 『ルルーシュとそのセイバー』ならまだしも、『ルルーシュと騎士王』ならば脅威になどなりはしない――切嗣は、こう言っているのだ。 本来、対魔力Bを誇るガウェインならば令呪の強制にも耐えたことだろう。 それを見越しての、二画使用。二重制約による強制で確実にガウェインの自由意志を奪う。 もしガウェインがこの場にいれば、あるいは二画を使用されたとはいえマスターとの魔力パスが存在するため多少の抵抗は出来たはず。 いや、そもそもルルーシュを危険に晒すことすら許さなかったはずだ。 ライダーの偵察により、ルルーシュのサーヴァントが決して騎士王などではないことを知っていた切嗣の狙いは、ここにあった。 最初から、切嗣とディケイドにはルルーシュたちを全滅させるつもりはなかった。 ルルーシュを殺しガウェインを排除する、あるいはルルーシュににギアスを使わせてガウェインに柳洞寺のライダーを排除させる、結果はそのどちらでもよかった。 もちろん、この結果は最上の結果といっていい。 青いランサーとの戦闘から考えても、白いセイバーのEXで統一されたステータスはおそらく日中、太陽が出ている間だけ。 夜間ならば決して倒せない敵ではない。 切嗣がタバコを取り出し、火を点ける。 深々と煙を吸い込み――言う。 「ありがとう、ルルーシュ。 君の浅はかさが、ライダーとそのマスターを殺したんだ」 ルルーシュをさらに追い込むためのその一言を。 ルルーシュの失策によって、失われた。 ルルーシュの傲慢が、失わせた。 ルルーシュが――殺した。 「俺の……せい、で……ッ!」 悔恨が突き刺さる。 ガウェインの強さは誰より自分がよく知っている。 もしそのガウェインが、一切の情け容赦なく柳洞寺にいる面々に襲いかかったのなら――彼らが無事でいられるはずがない。 「退くぞ、マスター。あのセイバーが近づいてきてる。さすがに今のアレには勝てん」 「ああ、もう用は済んだ」 「逃がすと思うのか、切嗣ッ!!」 叫ぶセイバーに一切の反応を示さず、切嗣はライダーの召喚したバイクへと跨った。 ディケイドが立ち尽くすルルーシュへと銃撃を放ち、それを阻止したセイバーを尻目に、切嗣たちは即座に撤退していく。 エクスカリバーなどで追撃されないよう、空に逃げるのではなくNPCや他のマスターがいるかもしれない地上を走って。 オーズなら追撃もできただろうが、切嗣たちを相手に単騎で挑むのは無謀であるとイスラ、陸のセイバーが止めた。 ならばとセイバーはオーズのバイクを借り受けようとしたが、ガウェインが接近しているとのディケイドの言葉を思い出し、その足は前に出ない。 「……ルルーシュ!」 少しの時間が過ぎ。 到着したガウェインは、項垂れるルルーシュを見て即座に状況を見て取った。 一度固く目を閉じ、開き――ルルーシュを背中に、セイバー達と対峙する格好を取る。 その手にある聖剣は血に濡れていた。問うまでもない、柳洞寺に残ったライダーの血である。 「ガウェイン……あなたは……」 「叔父上、言い訳はしますまい。私はこの手で……ライダーを討ちました」 「それはあなたの責任ではない! ルルーシュに令呪を使わせた切嗣が……!」 「だとしても、私が討ったのです。彼だけではなく、彼のマスターも」 ルルーシュとガウェイン。そして、セイバーと天海陸たち。 両者の間には、絶対的な線があった。 血塗られた聖剣という、越えがたい線が。 「ガウェイン……ッ!」 「許しは請いません、叔父上。私はもう……あなたの騎士ではありませぬ故に」 ガウェインは護っているのだ。 仲間を、かつての主を敵に回してでも、たった一人、今の主を護る。 それが騎士の、かつて道を誤った騎士の、今度こそは見失ってはならない騎士道であるが故。 「……ガウェイン、やめろ。お前のせいではない……俺の責任だ」 自分でも驚くくらいのか細い声で、ルルーシュは言った。 赤く染まったガウェインの剣から目が離せない。太公望と金田一の命を奪った、ルルーシュの『剣』。 「ガウェイン……衛宮はどうした?」 「無事です。ほどなく合流するでしょう」 「そう、か……」 少しだけ、安堵した。 この上、衛宮士郎まで手に掛けたとあっては、今度こそ立ち直れなかったかもしれないから。 セイバーもまた、自身のマスターの存命を聞き頬を緩ませるが、瞬間その笑みは消え、厳しい顔つきになる。 「ルルーシュ、此度の敗戦は貴方一人の責ではありません。切嗣の狙いを見抜けなかった私も同罪だ。だから自分を責めないで下さい」 セイバーの慰めも、今は逆に身を切るように痛く聞こえた。 たしかにルルーシュ自身の意志で行ったことではない。だがそれを言うなら、ギアスとはそもそも他人を支配し思い通りに操るものだ。 今まで散々利用してきたギアスの、溜まりに溜まったツケを払わされた、そんなところか。 陸とこなたもなんと言ったものか、考えあぐねているようだ。 オーズはまるで自分のミスであるかのように沈痛な表情をし、その隣の陸のセイバーは――冷ややかに、笑っていた。 悔やみ、苦しむルルーシュを嘲笑うかのように。 「ルルーシュ、ここは……」 陸のセイバーから目を逸らす。 直接口撃されずとも、あの瞳に見据えられるのは痛みを伴うものだった。 元凶である衛宮切嗣への怒りはもちろんある。だが、今はその怒りもどこか遠いものに感じる。 ルルーシュの胸に生まれた喪失感が、著しく判断力を鈍らせているのだ。 見かねたガウェインがそっとルルーシュの手を取る。 とりあえず今は、少しの時間を開けたほうがいい。サーヴァントはそう言っているのだ。 遠く、衛宮士郎の呼ぶ声がした。 当事者である彼からの糾弾に――今は、応えられる自信がない。 「すまない……少し、考える時間をくれ。すぐに、合流する」 絞り出した囁きは、命令であり懇願でもあった。 一秒でも、一分でも、とにかく頭を整理する時間がほしい。 王の命を受けた騎士は異議を唱えることなく主の傍らへ侍る。 「ガウェイン!」 「叔父上……」 『かつて』の主君が、引き止める しかし、騎士が護るのは『今』の主君だ。 「いずれ、また」 ガウェインが跳んだ。 その跳躍は、ランサーもかくやというほど――陽の昇るこの時間、誰もガウェインに追い縋ることはできない。 瞬きの間にその影は遥か彼方へと消えていく。 騎士王が伸ばした手は顧みられることはなく。 魔術師殺しと仮面の騎手、太陽の騎士と魔眼の王は舞台を去った。 残されたのは敗北に打ちひしがれる騎士王と、遅まきながら状況を理解した同行者たち。 そして―― 「セイバーッ!」 「……シロウ」 最後の役者が、合流する。 ◆ 「さて……色々考えることはあるだろうけど、これからの話をしていいかな」 切り出したのは陸のセイバー、イスラ。 ルルーシュが去り、騎士王が消沈している今が、この集団の主導権を握る絶好の機会だ。 ライダーに射抜かれた傷は忌々しいが、死ぬほどではない。この程度では死ねない。 負傷を理由に戦闘に参加しなかったのは正解だったようだ。 まさかこんな――面白い展開になるとは。 「悪いけど、こうなった以上俺たちは柳洞寺には行けない」 「あの場に残っているのがキャスターだけ、だからか」 「そうさ。今まではさっきのセイバーとライダーがいたからまだ尻尾を出してなかったかもしれないが、これからは違う。 柳洞寺という魔術的な要所に、キャスターが一人。大人しくしているとはとても考えられない」 イスラの意を察した陸も続く。 目下最大の障害だったルルーシュが勝手に離脱してくれたのは僥倖だ。 衛宮切嗣という男は、どうやらルルーシュのギアスを利用して彼らの戦力を切り崩したらしい。 おかげでイスラたちが付け込む隙は広がり、後はキャスターさえ排除すれば自分たちの潔白は磐石となる。 「君たちはどうするんだい? 一緒に来てくれるなら歓迎だけど」 「俺は……爺さんを追いたい」 イスラに答えたのは、後から駆けつけてきた士郎だ。 聞くと、どうやらガウェインが途中まで士郎を運んできたらしい。 途中、視界にルルーシュらを捉えた所で、状況を見て取ったガウェインが士郎を降ろし、単身飛び込んできたのだ。 あるいは――騎士王と刃を交えることになるかもしれない。 その光景を騎士王の若きマスターに見せたくなかったために。 そして士郎は、ルルーシュが令呪によってガウェインにライダー殺害を命じたこと、それをさせたのが切嗣、養父であることを知った。 「……本当に、爺さんなのか?」 「間違いありません、シロウ。あれは……間違いなく、衛宮切嗣。 ただし、あなたの養父の衛宮切嗣ではなく、『魔術師殺し』の衛宮切嗣です」 直面した現実は、ルルーシュだけではなく士郎をも深く傷つけていた。 二度と会えないはずの、死別した養父がいる。 だが養父は士郎を知らず、冷徹な魔術師殺しとして全てのマスターを殺し尽くす気でいる。 養父の手によりルルーシュは操られ、金田一は殺害された。 どんな顔で――衛宮士郎はどんな顔で、言葉で、衛宮切嗣に相対すればよいのか。 「俺は……爺さんを、追いたい……」 「他人ごとだから言わせてもらうけどね。それはやめた方がいい」 士郎の小声を、イスラが切って捨てる。 「あのマスターは、およそサーヴァント以上に危険な相手だ。アレと戦うなら相応の覚悟が必要だろう。見たところ、今の君は……言うまでもないな。殺されに行くようなものだよ」 「私も彼に同意します、シロウ。今の貴方……いいえ、訂正しましょう。 今の『私たち』では切嗣には勝てない。私たちにはイリヤスフィールを救えなかった『傷』がある。切嗣は確実にそこを突いてくる」 養父であり、さらにイリヤの死がある故に、その実父である切嗣を、士郎は敵と割り切れない。 加えて言うならセイバーの能力は全て切嗣に知られている。かつてのマスターなのだから当然だ。 ダメ押しに、士郎は魔術師だ。『魔術師殺し』衛宮切嗣と相対すれば、確実に士郎は敗北する。 士郎が扱う投影魔術は、特異であれど魔術の範疇を出ない。切嗣が扱う起源弾の、格好の餌食である。 「無念ですが、今の私たちは切嗣に届かない。今は……他に、できることをするべきです」 「他、って言っても、ルルーシュを追うのか?」 「あ、それは止めた方がいいと思う……」 と、やんわり言葉を挟んだのは泉こなた。 「大体事情はわかったけどさ……多分、今は一人にしてあげたほうがいいよ。下手に一緒にいられると余計辛いからさ」 「うん、少なくともルルーシュくんは敵じゃないんだ。あのセイバーさんが一緒なら、しばらくは一人でも大丈夫だと思うよ」 ライダーがこなたに続く。 実際、今のルルーシュは突けばどんな反応をするかわかったものではない。ある程度心の整理がつくまでは干渉しない方がいい。 そして、共にいるのは士郎やこなたらではなく彼のサーヴァントであるガウェインであるべきだろう。 ルルーシュと同じ罪を背負ってしまった、あの騎士にしかできないことだ。 「じゃあ……どうすればいい。あんたたちと行けばいいのか」 「いや、君と君のセイバーにしかできないことをしてほしい」 士郎はよほど動揺しているのだろう。判断力が目に見えて落ちている。他人に自らの舵を預けるほどに。 いい塩梅だ、とイスラは笑う。 「柳洞寺に潜むキャスターを撃破してくれ」 これならば、誘導は容易い。 誰にとってもいい結果へ、その中でも特に陸とイスラが望ましい展開へ。 残された最後の不安要素――キャスターを排除させるのだ。 「さっき話した通り、遠坂凛のサーヴァントはアーチャーだ。士郎、君も知っているそうだけど」 「あ、ああ。アーチャーか、まさかアイツが……いや、でも遠坂ならそうかもしれない……」 「つまり、柳洞寺にいるキャスターは遠坂凜を倒したサーヴァントってことさ。マスターを失ったようだが、令呪を掠め盗って生き延びたらしいね。 僕の想像だが、おそらく……キャスターはリンのサーヴァントを撃破したと同時、自分のマスターを倒されたんだろう。 お互いパートナーを失った者同士、新しく組み直せばそれで解決だが……まあ、寸前まで殺し合ってたんだ。そううまくはいかないだろうね」 キャスターは遠坂凛の仇。 『正義の味方』が打倒するべき、『悪』だ――題目はそんなところ。 そんなわかりやすい敵を示してやる。 「合意の上か無理矢理かはわからないが、キャスターは魔術に秀でたクラスだから、リンのサーヴァントになるまではうまくいっただろう。 でもそこからが問題だった。凛は当然、キャスターを信用しない。かと言って令呪で自害させると自分も死ぬ」 「あ……だから令呪で行動を縛ろうとした?」 「だと思うよ、コナタ。ルルーシュのように自分に従え、じゃなくてまず君を、衛宮士郎を護れと言ったんだろうけどね。 自分の命より君を優先させたのが、僕としてはとても理解できないが……」 これで、キャスターが衛宮士郎を護る理由も説明できた。 かなり穴のある話だが、幸いにもそれを指摘するべき頭脳を持った者はもう誰もいない。 「これ以上そんな命令を下されては堪らないと考えたキャスターは、改めてリンを殺害。ただし、ここで残った令呪を一画奪う。 そしてリンのサーヴァントを装い君たちに接触した……こんなところかな。筋は通っていると思うけど、どうだろう?」 「……反論は、できませんね。私たちはあのキャスターについて知らなさすぎる。 リク、あなたが疑わしいと言ったのはあのキャスターです。その情報を信じて私達はやって来た。 しかしルルーシュのギアスによって、あなたの潔白は逆に証明された……」 なら、何のためにキャスターはルルーシュとセイバーを市街地に向かわせたのか。 戦力を分断するためか、何か目的があるのか。 「あ……」 と、陸が小さく声を上げた。 皆の視線が集まる。陸はやや赤面し、なんでもない、と首を振る。 「陸くん、なにか思いついたの?」 「今はどんなことでもいいから、言ってみてよ」 こなたとライダーに促され、陸はためらいながらも口を開いた。 「あの、さ。思ったんだけど……さっきの切嗣って人、ルルーシュの能力を知ってた感じだったよな。 あれって、どこから手に入れた情報なのかなって……」 早口で紡がれた言葉に、セイバーが目を剥いた。 ナイスだよ、リク――イスラは心中で喝采した。 最高のタイミングで、最高のピースを放り込んでくれた。そうなれば、後は勝手にパズルは組み上がっていく。 「まさか……キャスター!? 切嗣は、あのキャスターと繋がっていたと……!?」 「……ルルーシュはキャスターが合流した後、ギアスの性能把握のためにNPCにギアスを掛けて回っていた。 キャスターがそれを把握できないはずは……していないはずは、ない……?」 呆然と、愕然とする、士郎とセイバー。 ルルーシュのギアスを把握し、対策していた切嗣。 ギアスの情報を知っていたキャスター。 士郎とセイバー、他ならぬ柳洞寺にいたこの二人こそが、切嗣とキャスターの関係を強調する何よりの証人となる。 「これは、決まりだね。計画的な犯行ってことだ」 「切嗣さんにルルーシュくんを操らせて令呪を使わせ、ガウェインさんに仲間を襲わせる……!?」 「そして首尾よく一人になったキャスターは、柳洞寺にある潤沢な魔力で何かしらの悪巧みをする、と。 参ったね……こうまで思惑通りに動かされるとは。さすがキャスター、というべきか」 これは本当に面白くなってきたぞ、とイスラは笑い出しそうになる顔の筋肉を必死で抑制する。 切嗣とキャスターは本当に繋がっているのかもしれない。話をでっち上げたイスラでさえそう信じてしまいそうだ。 「ルルーシュとあのセイバーがいれば楽なものだったんだろうけどね。まあ、今の彼らにそれをさせるのは酷というものだろう。 だがセイバー、君の対魔力だって破格のAクラスだ。キャスターの相手をするにはうってつけだ」 「ええ……わかっています。キャスターを討つのは、我が剣を置いて他にない。そうでもしなければ、ハジメとライダーに申し訳が立たない……!」 「じゃあ、俺たちも一緒に行こう!」 「いや、ライダー。僕らはやめた方がいい。君はともかく僕は完全に足手まといだし、そもそもキャスターには大勢で対するより天敵一人が挑むほうが効率がいい。 なにせ、利用できる手駒もないんだからね。彼女が一人で戦うのが、一番勝率は高いよ」 「セイバーさん、でも……!」 「いいのです、ライダー。あなたにはリクたちを護ってあげて欲しい。あなたまで来れば彼らを守護する者がいなくなる」 二人のセイバーに説得され、しぶしぶライダーは納得した。 イスラとしても彼は未だに生命線だ。名も知れぬ在野のサーヴァントに襲われては、イスラ単騎では抗える訳もない。 「僕らはとりあえず、月海原学園に向かおう。外をうろつくよりは、一箇所に立て籠もったほうが襲撃されても対処しやすい。 衛宮切嗣のライダーについても情報を手に入れたいところだしね」 「ルルーシュには、落ち着いたら学園に来るよう連絡しておくよ」 陸が携帯電話を示す。 相互連絡できれば格段に動きやすくなる。ルルーシュに倣い、陸とこなたも自分用に購入したのだ。 「じゃあ、また後で。死ぬなよ、衛宮」 「ムリしないでね、士郎くん」 「ああ、そっちもな。天海、泉」 衛宮士郎とアルトリア・ペンドラゴンは柳洞寺へキャスターの討伐へ。 天海陸とイスラ・レヴィノス、泉こなたと火野映司は月海原学園で情報の収集を。 失意の内に去ったルルーシュとガウェインは何処かに姿を消し。 『魔術師殺し』に立ち返った衛宮切嗣は遠からず仕掛けてくるだろう。 今はただ、無事の再会を願い――こうして、彼らは別れていった。 ◆ (陸、君が蒔いた嘘の種はこんなにも大きな芽を芽吹かせたよ。これこそが天運というやつかもしれないね) この芽を育て、花開かせる。 キャスターを撃破し、冬木市最大の霊地である柳洞寺の中枢、霊脈に『紅の暴君』を突き立てる。 そうすれば――遠坂凛から奪った魔力とは比べ物にならない、膨大なマナが手に入る。 イスラの、『伐剣者』としてのスペックをほぼ生前通りに引き出すことができるだろう。 そうなればもう、セイバーだろうがライダーだろうが敵ではない。 策になど頼らず、力で全てを制することができる――聖杯に、手が届く。 正直なところ。 イスラ・レヴィノスには、聖杯に掛ける願いなどなかった 陸の召喚に応じたのも、ただの気まぐれ――姉の幻影を求めて嘘を重ねるその姿が、かつての自分を見ているようで興味をそそられたからだ。 別に負けても構わない。最初はそう思っていた。 どうせ何も変わらない。無限の地獄から解放される術などないと、諦めていた。 しかし。 それでも。 この戦いに勝ち残れたのなら。 ただの『嘘つき』が、その『嘘』を本気で貫き通せたのなら。 その『嘘』は――『真実』に勝るのではないか。 贋作は本物に勝てない? そんな道理などない。 嘘は真実より劣るもの? 誰が決めたのだ、そんな真理。 世界の全てが嘘を、天海陸を否定するというのなら。 あらゆる世界でただ一人、このイスラ・レヴィノスこそが。 天海陸という『嘘』を、全力で肯定しよう。 彼の『嘘』をあらゆる力、知恵を以って磨き上げよう。 この『嘘』を、何よりも鋭い、至高の剣へと鍛え上げる。 熾天の玉座へ到達し、更にその先へ進むために。 (天海陸。この僕、イスラ・レヴィノスが誓約するよ。君を、必ず……) 必ず。 全て滅びた後にたった一つ残る、確かなモノ。 真実よりもなお眩く輝く、最強最後の『嘘』にする。 ◆ 「ふんふんふ~ん」 キャスター、蘇妲己は上機嫌で指を繰る。 嫋やかな指が踊るたび、宙に一筋の光が奔る。 点は線、線は面となり、複雑な文様を描いていく。 「はいはい、下準備は完了ねぇん。ん~妲己ちゃんってばセンスあるぅ!」 妲己がいるのは柳洞寺の山門の前。 地下にある大空洞を仮の依代とした妲己は、この柳洞寺から離れられない。 士郎を伴い飛び出していったガウェインを追跡する内、士郎と彼のセイバーだけがこちらに向かってくるのを感知していた。 「あれってぇ、やっぱりぃ。わらわをハントしに来るのよねぇん」 彼らの間でどんな会話が交わされたのかはわからない。 だがセイバーの決然たる表情を見るに、妲己と一戦交えようとしていることは明白だ。 だが今の妲己ではあのセイバーは手に余る。 凛にかけられた最後の令呪は、傾世元禳を使い捨ててまで果たしたのだから、大分効力は薄まっている。 とはいえ、完全に消えたわけではない。衛宮士郎に危害を加える、と自分で認識している行動を取るのはまだ難しいだろう。 「だったらぁ……わらわ以外なら問題ないってことよねぇん」 蘇妲己にとって、この聖杯戦争とてとどのつまりは永劫の時の僅かな暇潰しである。 とはいえ、ただ負けるのはつまらない。 どうせ負けるなら、最後は派手に咲いてから散るのが粋というもの。 言い換えるなら、ただの愉快犯だ。 「え~っと、何だったかしらぁん? あぁ、そうそう。 『閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。 ただ、満たされる刻を破却する』」 それは召喚の呪文。 妲己の手にある、真新しい二つの令呪――金田一一が有していた、三画の内の二画。 「え~っとぉ、以下略! なんでもいいから出てきちゃってねぇん」 その二画と、柳洞寺の山門を媒介に、あるサーヴァントを召喚する。 それは―― 「わぁお! わらわ好みの超イケメンじゃないかしらぁん!」 「……やれやれ。またこの役回りとは……我ながら、生前よほどの業を背負ったと見える。ただ剣を振っていただけであるのにな」 かつて第五次聖杯戦争で冬木の地に現れたアサシン。 佐々木小次郎という記号を与えられた、無名の侍だ。 ここ、ムーンセルは地上の冬木市の全てを『過不足なく再現する』。 それはつまり――『柳洞寺の山門に染み付いたアサシンとの縁』もまた、当時の姿形存在そのままで呼び出しているということでもある。 ムーンセルの構造物に手を加えることは、天海陸のセイバーでは不可能だった。 しかし、キャスター。蘇妲己ならば、話は別だ。 「まあまあ、そう邪険にしないでほしいわぁん。これからすっごく楽しいことが起こるんだからぁん」 「私の楽しみなど決まっている。こうして、この場所で私を呼んだということは」 アサシンは、眼下に続く地上への階段とその先に広がる冬木市を見やる。 思い出す。かつてこの場所で、血沸き肉踊る果たし合いを幾度も重ねたものだ。 Aランクの心眼(偽)スキル――天性の第六感が、彼に告げている。 この場所に、かつて果てたこの地に。 かつてこの身を斬り裂いた剣が、再び近づきつつあると。 「……ふふ。いいだろう、雌狐よ。そなたの思惑など私にはどうでもよきこと。私はただ……」 ふぉん、と風を切るのは、長大な一振りの刀。 佐々木小次郎の得物、物干し竿である。 「この刀と、強き敵だけあればいい」 それきり、アサシンは妲己に興味を失くしたらしく、視線はただ階段を登ってくる者を待ち続ける。 堅物すぎてやや不満はあるが、とにかくこれで、一応の体裁は整えられた。 地下の大空洞とリンクしたことにより、この山門とかつてのアサシンの存在を認識できたことは僥倖である。 妲己の術とここ柳洞寺の潤沢なマナを以ってすれば、『サーヴァントによるサーヴァントの召喚』は不可能ではない。 「まあ、言ったって二番煎じなのねぇん。自慢できることじゃないわぁん」 言葉通り、妲己はかつてあるサーヴァントが行った術をほぼそのまま真似ただけである。 それだけで一つ、祭りに彩りを加える役者を迎えられたのだから万々歳であろう。 アサシンに山門の守りを任せ、妲己はほとんど焼け落ちた柳洞寺へと戻る。 もはや影も痕跡ない、金田一の果てた場所に立ち、 「ごめんねぇ、一ちゃん。助けてあげるって言ったけど、あれ嘘だったのぉ。 でもでも、一ちゃんの一部はこうしてわらわが有効に使ってあげたんだからぁ、許して欲しいのねぇん」 舌を出し、両手を合わせる。 金田一は妲己を信用したのか、それはわからない。 データ消去が首にまで及んだ金田一に選択の余地などなかった。 人間は、極限まで追い詰められれば、悪魔とだって契約する。 だが、往々にして悪魔は裏切る。 善良な悪魔など、いはしないのだ。 「まあ、どっちにしても助からなかったんだからぁ……わらわの役に立っただけ、一ちゃんの命には意味があったのよねぇん」 妲己と契約し、サーヴァントを得ても、一度消えたデータは復旧しない。 金田一はそれを知らず、妲己は知っていた。 そして、令呪を奪われた直後に、金田一の命もまた潰えた。 残ったのは妲己と、そして、金田一の令呪を用いて召喚されたアサシンのみ。 妲己はここにセイバーが向かっているのを知っている。 セイバーが妲己を討ち取るにはまず、アサシンを打倒せねばならない。 来たるべき騒乱を予見し、キャスター、蘇妲己は大いに笑い、大いに楽しむ。 「さあさあ、このお祭りの終着点は一体全体どこになるのか……わらわ、楽しすぎて狂っちまいそうよぉん!」 【柳洞寺/昼】 【キャスター(蘇妲己)@封神演義】 [状態]:健康 [令呪]:1画 ※『傾世元禳』は破壊されました。 ※『衛宮士郎を探し、守りなさい』の令呪は、効力がやや弱まっています。 【アサシン(佐々木小次郎)@Fate/stay night】 [状態]:健康 ※令呪 柳洞寺の山門を憑代とせよ キャスター(蘇妲己)に従え 【深山町・柳洞寺周辺/昼】 【衛宮士郎@Fate/stay night】 [令呪]:3画 [状態]:健康 [装備]:携帯電話 【セイバー(アルトリア・ペンドラゴン)@Fate/stay night】 [状態]:健康 [装備]:勝利すべき黄金の剣(投影)@Fate/stay night 【深山町・月海原学園周辺/昼】 【泉こなた@らき☆すた】 [令呪]:3画 [状態]:健康 [装備]:携帯電話、乗用車 【ライダー(火野映司)@仮面ライダーOOO/オーズ】 [状態]:魔力消費(小) 【天海陸@ワールドエンブリオ】 [令呪]:3画 [状態]:健康 [装備]:携帯電話、ニューナンブ、反魔の水晶@サモンナイト3 【セイバー(イスラ・レヴィノス)@サモンナイト3】 [状態]:ダメージ(中)、魔力200% 【深山町/昼】 【ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア@コードギアス反逆のルルーシュ】 [令呪]:1画 [状態]:精神的に疲労 [装備]:携帯電話、ニューナンブ 【セイバー(ガウェイン)@Fate/extra】 [状態]:健康 【深山町/昼】 【衛宮切嗣@Fate/zero】 [令呪]:2画 [状態]:魔力消費(大) [装備]:ワルサー、トンプソン、コンテンダー 携帯電話、閃光弾、鉈、大きな鏡、その他多数(ホームセンターで購入できるもの) ※携帯電話には枢木スザクの番号が登録されています。 ※深山町内にCCDピンホールカメラ付きの使い魔を放ちました。映像は無線機があれば誰でも受信出来ますが、暗号化されています。 【ライダー(門矢司)@仮面ライダーディケイド】 [状態]:ダメージ(中)、魔力消費(大) ※ライダーカード≪龍騎≫の力を喪失(コンプリートフォームに変身するだけなら影響なし)。 ※ライダーカード≪電王・モモタロス≫破壊(コンプリートフォームに変身するだけなら影響なし)。 ※ライダーカード≪キバ≫の力を喪失(コンプリートフォームに変身するだけなら影響なし)。 &COLOR(#FF2000){【金田一一@金田一少年の事件簿 死亡】} &COLOR(#FF2000){【ライダー(太公望)@封神演義 消滅】} ※太公望の宝具は全て消滅しました。 &bold(){[[アサシン(佐々木小次郎) ステータス>佐々木小次郎]]} ---- |BACK||NEXT| |067:[[消えない想いーLuminis]]|投下順|069:[[忘我郷-さまよえる心]]| |066:[[下準備]]|時系列順|069:[[忘我郷-さまよえる心]]| ----