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『真夜中の告白』 - (2007/01/12 (金) 10:24:13) のソース
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『真夜中の告白』<br>
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明日はテスト。<br>
水銀燈は深夜まで、苦手科目の一夜漬けをしていた。<br>
しかぁし――<br>
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「あ～ぁ、もぉ……集中力が続かないってばぁ」<br>
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見事に証明される『苦手 ＝キライ×メンドい』の黄金定理。勉強は一向に捗らない。<br>
成果のないまま、時間ばかりが過ぎていく。<br>
今日は切り上げて、明日の朝、早起きして続きをやろう。<br>
普段なら、そう考えるのだが……今回は少し、状況が逼迫していた。<br>
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赤ザブトン――すなわち、モンダイ大有りの落第点。<br>
一学期の通信簿を渡されて後、学園から自宅へ、ありがた～い手紙が届いた。<br>
もう、両親には怒られた怒られた。<br>
次も赤点を取ったら、小遣い減らすと脅されていた。<br>
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そんなのは、冗談じゃない。<br>
女子高生には誘惑がいっぱい。<br>
学校の帰り道に、みんなと喫茶店に寄ってお喋りしたいし、新しい服だって欲しい。<br>
気になる化粧品もあるし、夏には水着だって新着しなくっちゃ……。<br>
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「頑張らないとぉ。ファイトよ、水銀燈！」<br>
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静かすぎるから、逆に、集中できないのかも知れない。<br>
気を取り直して、もう一度チャレンジ！<br>
今度は、ＢＧＭでも聞きながら、気楽にいこう。<br>
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「……♪ ……Z……zz」<br>
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気楽にいき過ぎた。意志に関係なく、瞼は鉛のように重くなっていく。<br>
これは、もうダメかもわからんね。<br>
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今夜はもう寝よう。明日の朝に目覚ましをセットして……。<br>
準備万端ととのえ電光石火の早業で、おやすみなさい。<br>
なんて思った矢先――<br>
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パチッ！<br>
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ラップ現象ではない。窓ガラスに何かが当たる音だ。<br>
しかし、一体……何が当たったのだろう？<br>
ここは二階。<br>
近くに木の枝が伸びている訳でもないので、風に揺れた木の葉が当たったとは考えられない。<br>
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風が強い日には、木の枝やゴミが飛んできて、音を立てる事がある。<br>
今度のも、それだったのかも知れない。<br>
気にせず寝ようとすると、再び、パチンと音がした。<br>
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「もしかしてぇ……誰かの悪戯ぁ？」<br>
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酔っ払いだったら、ハッ倒して簀巻きにして、どぶ川一直線にしてやる。<br>
カーテンを開き、窓の外を窺う。<br>
すると、そこには一台のバイクが停まっていた。跨っているのは、ジュン。<br>
「よおっ！」と片手を挙げてくる。<br>
水銀燈も、思わず「はぁ～い」と手を振って、ハッと我に返った。<br>
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「ちょっとぉ……こんな夜中に、何の用なのよぅ？」<br>
「テスト勉強で、アタマ煮詰まっちゃってさ。これからツーリング行かないか？」<br>
「い、今からぁ？」<br>
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時計を一瞥。現在、午前二時ちょっと前……真夜中じゃん。<br>
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「幾ら何でも、遅すぎなぁい？」<br>
「だから良いんだよ。道も空いてるし」<br>
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なんだか釈然としなかったが、水銀燈は「待ってて」と答えた。<br>
どうせ、勉強が手に着かなくて不貞寝するところだったし、気分転換には丁度いい。<br>
現実逃避と言われようとも、今はテストの事を忘れたかった。<br>
着替えて、音を立てないように玄関を閉めると、水銀燈はジュンの元へと走った。<br>
ジュンが、フルフェイスのヘルメットを投げて寄越す。<br>
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「その恰好じゃ寒いぞ。これも上に着ておけよ」<br>
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と、レザージャケットを差し出すジュン。<br>
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「なんだか……用意が良いのねぇ」<br>
「そりゃあ、誘いにくる以上はね。もう寝てたら無駄足だったけど」<br>
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軽口を叩きながらも、身支度はバッチリ済ませる。<br>
水銀燈はジュンの後ろに陣取って、彼の腹に腕を回し、グッと力を込めた。<br>
身体を密着させる。ジュンは、興奮してるかしら？<br>
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水銀燈の期待を余所に、ジュンは何も反応を示さず愛車を発進させた。<br>
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夜の闇を斬り裂くように、二人を乗せたバイクは疾駆する。<br>
黄色点滅の信号を、徐行もせずに走り抜けるスリル。<br>
寝静まった街が、どんどん後方へと流れ去っていく。<br>
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実に爽快な気分だった。<br>
テスト勉強のことなど、すっかり記憶の彼方へ飛ばされていた。<br>
このまま朝まで走り続けたって構わない。ううん……寧ろ、そうしたい。<br>
水銀燈には、テストの点なんかより、今この瞬間の方が大切だった。<br>
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――ジュンと一緒に紡ぐ、青春の１ページ。<br>
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バイクは、やがて峠道に入った。<br>
鬱蒼と茂る木々の陰が、夜闇と相まって不気味さをいや増している。<br>
イグゾーストノートだけが、森の中に木霊する。<br>
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少しだけ、怖い。それに寒かった。<br>
水銀燈は、ジュンの身体を抱き締め、少しでも彼の温もりを得ようとした。<br>
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突然、頭上を覆っていた森がパッと途切れて、満天の星空が眼前に広がった。<br>
水銀燈はヘルメットの中で感嘆した。なんて、綺麗……。<br>
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「さあ、着いたぞ」<br>
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ジュンがバイクを停めた場所は、小高い丘の上だった。<br>
頭上には、空を埋め尽くさんばかりの星、星、星……。<br>
西に傾いた月は、十五夜の美しい姿を見せている。二人の足元に、月影が落ちていた。<br>
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「素敵ねぇ……」<br>
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ヘルメットを脱ぐなり、水銀燈は魅せられたように、茫然と呟いた。<br>
こういう場面に憧れたことは有ったけれど、想像と、実際に来るのでは大違いだ。<br>
まるで、夢を見ているような気分だった。<br>
水銀燈はバイクを降りて、草むらの中に踏み込んだ。枯れ草が、さくさくと音を立てる。<br>
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「ここって、僕のお気に入りの場所なんだ」<br>
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水銀燈の隣に並んで、ジュンが囁く。<br>
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「一度、水銀燈を連れてきたかったんだよ」<br>
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水銀燈は、ありがとう……と微笑んだ。<br>
ジュンが、自分に特別な感情を抱いてくれているのには気付いていた。<br>
でも、日常は忙しすぎて、なかなか二人きりになれるチャンスがない。<br>
お互いの気持ちを確かめ合うだけの会話を、交わす機会が無かった。<br>
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でも、今は違う。素直に気持ちを伝える事ができる。<br>
けれど、水銀燈の唇から放たれたのは、少しだけ意地の悪い質問だった。<br>
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「ねえ、ジュン。ここへは、真紅も連れて来たでしょぉ？」<br>
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ジュンは、ふっ……と鼻で笑って、頭を掻いた。<br>
女って生き物は、どうしてこうも勘がいいんだろう。<br>
彼の心の声が、水銀燈には聞こえた。<br>
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「あるよ。但し、真っ昼間だったけどな」<br>
「やっぱりねぇ。そうじゃないかと思ったわぁ。ジュンと真紅は、本当に仲がいいもの」 <br>
「それは、僕と水銀燈だって同じだろ」<br>
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幼馴染みで、仲良しな三人。<br>
それが僕らの、微妙な三角関係。<br>
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だけどね……と、ジュンは続けた。<br>
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「この星空だけは、水銀燈に見て欲しかったんだ」<br>
「……どうしてぇ？」<br>
「僕にとって、水銀燈は月の様な存在だったから」<br>
「そう……じゃあ、太陽の役は真紅なのねぇ。ちょっと残念だわぁ」<br>
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逆なら、良かったのに。<br>
ジュンを、いつも明るく照らしていける太陽になれたら……。<br>
両手でヘルメットを玩びながら、水銀燈は寂しげに吐息した。<br>
白い息が、虚空へと伸びて、消えていく。まるで、私の淡い恋心みたい。<br>
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束の間の沈黙…………先に口を開いたのは、ジュンの方だった。<br>
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「僕には、月の方が大切なんだよ」<br>
「……えっ？」<br>
「太陽は、みんなを照らしてくれる。それはそれで、とっても素晴らしい事だと思う。<br>
だけど……僕が本当に欲しいのは、夜闇の中で、翳った心を照らしてくれる月の光なんだ」<br>
「それが、私？」<br>
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呆然と聞き返す水銀燈に、ジュンは力強く頷いて見せた。<br>
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「水銀燈…………ずっと、僕の側に居てくれ。心の弱い僕には、水銀燈の支えが必要なんだ」<br>
「……大役ね。私に、務まるのかしらぁ？」<br>
「水銀燈でなければ、務まらないよ」<br>
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面と向かって、恥ずかしげもなく言われたら、こっちが照れてしまう。<br>
水銀燈は足元の枯れ草を、爪先で踏みしだいた。<br>
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「そんな事を言われたらぁ、本気にしちゃうわよぅ」<br>
「本気にしてくれて構わないのに。って言うか、してくれ。頼むから」<br>
「ふふ…………解ったわよぅ」<br>
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水銀燈は、満天の星空に負けないくらい、輝く笑顔を浮かべた。<br>
漠然と繋がり掛けていた二本の糸が、やっと結びついて、絆になった瞬間。<br>
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そのとき、水銀燈は初めて知った。<br>
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こんなにも身体を震わせる嬉しさが、この世には存在するのだという事を――<br>
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「少し、冷えてきたわねぇ」<br>
「だから、その格好じゃ寒いって言ったろ。ほら、こっちにきなよ」<br>
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ジュンが、水銀燈の肩を抱き寄せる。<br>
肩に置かれた手の温もりは、レザージャケットに遮られて届かない。<br>
しかし、水銀燈は確かに、ジュンの体温を感じていた。<br>
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身も心も、春の日差しのような温かさに包み込まれる。<br>
――満ち足りた気分。<br>
ジュン……貴方は、私を月の様な存在だと言ってくれた。翳った心を照らす存在だ、と。<br>
でもね、それは……私にとっても同じなの。<br>
貴方は私の暗い心に、希望という温かい光を与えてくれるのだから。<br>
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水銀燈はジュンに体重を預けて、彼の耳元に囁きかけた。<br>
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「ねぇ…………キス……しよ？」<br>
「……ああ」<br>
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ジュンと水銀燈の距離が狭まり、重なる。<br>
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幸せな二人を、皓々たる月の光と、星の煌めきが祝福していた。<br>
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《後日談》<br>
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――翌日<br>
ジュンと水銀燈は、二人そろって風邪をひいて、テストを受けられなかった。<br>
けれど、やむを得ない理由として、再試験を許可されたのである。<br>
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二人は、こっそりと真紅にテスト問題を教えてもらい、<br>
楽してズルして合格点を取れたのだった。<br>
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しかぁし――<br>
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「ジュン、お茶を煎れてちょうだい。水銀燈、肩を揉んでくれない？」<br>
「はいはい、お姫様。ただいま、お持ちしますよ」<br>
「これは、暫くコキ使われるわねぇ」<br>
「お茶菓子は無いの？ 気の利かない下僕ね。水銀燈、力が弱いわよ」<br>
「くっそー、我が侭だなぁ。僕にだって我慢の限界が――」<br>
「私だってぇ、終いには怒るわよぅ」<br>
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「本当のコトを、バラしても良いのよ？」（ニヤリ……）<br>
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不正の代償が、かなり高くついたのは、お約束と言うことで。</p>
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