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~第二十章~ - (2007/01/27 (土) 18:21:38) のソース

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~第二十章~<br>
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――めぐを助けたい。その想いは、今も変わらない。<br>
これからも、変わることは無い。<br>
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けれど、蒼星石を護りたいという気持ちもまた強く、大きく……。<br>
水銀燈は懊悩し、自縄自縛の状態に陥っていた。<br>
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片や、本当の姉妹のように付き合ってきた幼馴染み。<br>
片や、御魂によって結び付いた、かけがえのない姉妹。<br>
どちらが大切かなんて、比べようもない。<br>
天涯孤独の水銀燈にとっては、二人とも、命の次に大切な姉妹だった。<br>
<br>
今、その二人が、目の前で死闘を繰り広げている。<br>
一人の刀匠が鍛えた、二振りの剣を手に、刃に生命を乗せて鬩ぎ合っている。<br>
それは到底、見るに堪えない光景だった。<br>
<br>
止めなければならない。こんな事は、やめさせなければ!<br>
薔薇水晶を振り払おうとして、水銀燈は右肩の激痛に端整な顔を顰め、呻き声を上げた。<br>
悔しくて噛み締めた奥歯が、ギシリ……と軋んだ。<br>
<br>
「放してぇっ! 私は、あの二人をっ」<br>
「ダメ! いま銀ちゃんが割って入れば、蒼ちゃんが負けちゃう!」<br>
「だ、だけど――このままじゃあ」<br>
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薔薇水晶の言うように、利き腕が使えない水銀燈が仲裁に入ったところで、<br>
蒼星石の邪魔になるだけだ。<br>
攻撃を躊躇った蒼星石を、めぐは微塵も罪悪感を抱かずに斬り伏せるだろう。<br>
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しかし、めぐと、蒼星石……両者の技量は伯仲している。<br>
このまま続けさせたら、刺し違えて共倒れという、最悪の結果も考えられた。<br>
<br>
やるせない胸の想いに哀哭する水銀燈を気にも留めず、二人は刃を交え続けた。<br>
無視していた訳ではない。<br>
そもそも、彼女たちの耳に、水銀燈の声は届いていなかったのだ。<br>
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「はぁっ!」<br>
「消えろぉっ!」<br>
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短い気迫を吐いて、妖刀『國久』と『月華豹神』が、ぶつかり合う。<br>
めぐは蒼星石の方に刃を押し込んで、口の端をつり上げた。<br>
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「もう諦めたら? 苦しまずに死ねるように、頸を斬り落としてあげるわ」<br>
「まだ……ボクは負けないっ!」<br>
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蒼星石は剣の峰に左手を副えて、頸動脈の側まで接近していた刃を押し返した。<br>
ここで敗れるわけには、いかない。柴崎老人と交わした約束を果たす為にも。<br>
蒼星石の執念に眉を顰めて、めぐは一旦、飛び退いた。<br>
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「思ったより、しぶといのね。正直、意外だったわよ」<br>
「相手を侮っていると、手痛いしっぺ返しを食らうってコトさ」<br>
「……らしいわね。ご忠告、感謝するわ」<br>
<br>
言って、めぐは精霊を起動した。妖刀『國久』が、煉獄の炎に包まれる。<br>
そして更に睡鳥夢も重ねて起動して、蒼星石や水銀燈たちの視界を遮り、<br>
身動きをも妨げた。<br>
次は、全力の一撃が来る。<br>
睡鳥夢によって繁茂した植物を斬り払いながら、蒼星石は身構えていた。<br>
受け止められなければ、両断され、地獄の炎に焼き尽くされるだけだ。<br>
自分の精霊で火葬にされるなんて、洒落にならない。<br>
<br>
夜風がざわめき、蒼星石の背後から、紅蓮の刃が迫る。<br>
煉飛火の気配に意識を集中していた蒼星石は、全く動じることなく、<br>
めぐの剣撃を受け止めた。<br>
<br>
刃が噛み合った瞬間、月華豹神の刀身に文様が浮かび上がり、眩い光を放つ。<br>
めぐは左腕を目元に翳し、夜闇を切り裂いて溢れ出した光芒を忌々しげに避けた。<br>
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「なっ! なんなの、これはっ?!」<br>
「これが……お爺さんが構築した呪符の力……」<br>
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瞼を細め、茫然と呟く蒼星石の目の前で、月華豹神は煉飛火の炎を纏う。<br>
対して、めぐは驚愕に双眸を見開いていた。<br>
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「そんな馬鹿なっ! どうして……煉飛火が?」<br>
「キミは、精霊と契約した訳じゃない。<br>
妖刀『國久』の能力で、縛り付けていたに過ぎないんだよ」<br>
「くっ! まさか……こんな小癪な真似を、用意してたとはね」<br>
「先に小賢しい真似をしてきたのは、キミたちの方さ」<br>
<br>
蒼星石は、燃え盛る月華豹神の切っ先を、めぐの眼前に突き付けた。<br>
悔しそうに歯噛みするめぐの顔が、炎の揺らめきに照らし出される。<br>
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「睡鳥夢も、返してもらうよ。そして――」<br>
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そう告げた蒼星石の声は、普段の彼女から想像が付かないほど冷淡だった。<br>
めぐを見据える緋翠の瞳に、慈悲の心は一切ない。<br>
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「姉さんを傷つけ、多くの人々を悲しませた罪を償ってもらおうか」<br>
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蒼星石の言葉は、水銀燈と薔薇水晶の耳にも届いていた。<br>
水銀燈は、薔薇水晶の腕から逃れるべく必死で暴れながら、蒼星石に懇願した。<br>
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「そんなっ! ダメよ! めぐを殺さないでぇっ!」<br>
「水銀燈……キミはまだ、そんなコトを言っているの?」<br>
「いい加減にしないと……本気で怒るよ、銀ちゃん」<br>
「ダメ! 絶対にダメぇっ!」<br>
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――だって、まだ全ての可能性を試した訳じゃないんだから。<br>
激しく頭を横に振りながら、水銀燈は我が侭な子供の様に、反対し続けた。<br>
めぐは翠星石と同様に、穢れに取り憑かれ、操られているだけかも知れない。<br>
金糸雀だったら、めぐの病気を治せるかも知れない。<br>
それなのに、問答無用で斬り捨てるなんて蛮行は、絶対に看過できなかった。<br>
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けれど、水銀燈の想いを踏みにじる台詞が、めぐの唇から紡ぎ出される。<br>
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「……ふん。甘いわね、水銀燈。闘わなければ死ぬだけよ。それが世の常」<br>
「だ、そうだよ。水銀燈には悪いけど、この戦闘は避けられないんだ」<br>
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すげない返事を残して、闘志を滾らせた二人は、激しく衝突を繰り返す。<br>
だが、先程と違って、精霊を擁する蒼星石の方が僅かに優勢だった。<br>
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「ちっ! 睡鳥――」<br>
「させないっ!」<br>
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精霊の力で再び形勢を拮抗させようと目論むめぐに、蒼星石の一閃が襲いかかる。<br>
めぐは両手で妖刀『國久』の柄を握って、蒼星石の薙ぎを受け止めようとした。<br>
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凄まじい衝突音と同時に、ぴぃん! と高周波の音が響き渡った。<br>
それは、妖刀『國久』が上げた、断末魔の叫びだった。<br>
ほぼ中央から両断された刀身から、封じ込められていた睡鳥夢が躍り出る。<br>
睡鳥夢は少しの間、宙を彷徨い、翠星石の元へと飛び去った。<br>
<br>
「こ……こんな……ことが?!」<br>
<br>
めぐは動揺しつつも飛び退き、蒼星石に向けて、召還した巨大ムカデを嗾けた。<br>
けれど、所詮は大きいだけのムカデ。<br>
心理的な嫌悪感を煽りはしても、然したる脅威にはならない。<br>
大ムカデは忽ちの内に切り裂かれて、飛び散り、篝火と化した。<br>
<br>
めぐの元に突進する蒼星石を見て、水銀燈は矢も楯もたまらず、身悶えした。<br>
<br>
「放しなさい、薔薇しぃ! これ以上はっ!」<br>
「ヤダ! 絶対に放さないっ!」<br>
「――っ! 放してぇっ!」<br>
<br>
もう、右肩の痛みなど、気にもならなかった。<br>
水銀燈は薔薇水晶の腕を振り解いて、蒼星石の側に疾駆した。<br>
<br>
――やめてっ! やめてっ! やめてっ!<br>
<br>
心の中で連呼するのは、その一言だけ。<br>
蒼星石の月華豹神が、いま正に、めぐの身体を刺し貫こうとしている。<br>
それだけは、させたくない!<br>
感情に衝き動かされるままに、水銀燈は、蒼星石に体当たりした。<br>
<br>
連なって倒れる、蒼星石と水銀燈。<br>
めぐの心臓を貫く筈だった月華豹神の切っ先は、甲冑を僅かに焼いただけだった。<br>
<br>
「す、水銀燈っ!?」<br>
「めぐを殺さないでっ!」<br>
「くっ! なんて馬鹿な真似をっ」<br>
<br>
蒼星石は慌てた。<br>
殺意を抱いた敵を前にして、無防備な姿を晒すなんて、正気の沙汰ではない。<br>
けれども、水銀燈は蒼星石にしがみついて、離れようとしなかった。<br>
いま襲われたら、二人とも纏めて殺されてしまう。<br>
<br>
だが、蒼星石の懸念に反して、めぐは攻撃を仕掛けてこなかった。<br>
妖刀『國久』を折られていたのも、理由のひとつかも知れない。<br>
めぐは紅い旋風を操って、姿を消そうとしていた。<br>
<br>
「助かったわよ、水銀燈。次に会った時は、お礼をしてあげなきゃね」<br>
「逃がすものか!」<br>
「やめてぇ! もう、やめてよぉ!」<br>
<br>
尚も追撃を試みる蒼星石の脚に、水銀燈が縋り付く。<br>
蒼星石が前のめりに倒れた先で、めぐは旋風と共に消え去っていた。<br>
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蒼星石は口惜しそうに歯軋りをして、縋り付いている水銀燈を引き剥がした。<br>
そして、有無を言わせずに、彼女の頬を思いっきり引っぱたいた。<br>
水銀燈は小さな悲鳴を上げて、地面に倒れ込んだ。<br>
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「水銀燈っ! キミは、自分が何をしたか解ってるの?!」<br>
<br>
撲たれた頬に手を当てながら、水銀燈は緩慢な動作で、半身を起こした。<br>
溢れる涙を拭うこともせず、先に立ち上がった蒼星石を真っ直ぐに見上げる。<br>
彼女の唇から、掠れた声が紡ぎ出された。<br>
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「ごめ…………ん……なさい」<br>
「謝って済む問題じゃないよっ! キミのした事は、利敵行為だよ。<br>
ホントに解ってるの? 立派な裏切り行為なんだよ!」<br>
「だ、だけど……私は……」<br>
「キミを見損なったよ。公私の区別が出来る人だと、思っていたのに」<br>
「でも、私は……貴女たちの、どちらにも死んで欲しくなかったのよぉ」<br>
「……行こう、薔薇しぃ」<br>
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涙ながらに想いを解き放った水銀燈に、蒼星石は冷たく背を向けた。<br>
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「姉さん達が苦戦してる。急いで助けに行かなきゃ」<br>
「う、うん。解った……すぐ行く」<br>
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薔薇水晶は、へたり込んだままの水銀燈に近付くと、徐に声を掛けた。<br>
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「銀ちゃん……さっきの事だけど……」<br>
「……」<br>
「私も……蒼ちゃんと同じ考えだから」<br>
「っ!」<br>
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素っ気なく言って、薔薇水晶は踵を返し、蒼星石の後を追い掛けていった。<br>
独り残された水銀燈は、両手で顔を覆って、泣き崩れた。<br>
たった一人きりで、いつまでも嗚咽し続けていた。<br>
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敵の執拗な攻撃の前に、翠星石と金糸雀は完全に圧されていた。<br>
矢弾も尽きかけて、今はもう物陰に身を潜め、病床の真紅を庇い続けるのみだ。<br>
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「弾が切れたかしら! 翠ちゃんのクナイは?」<br>
「そんな物、とっくに使い切ったですよ。金糸雀の精霊を使うです!」<br>
「えっと、影は……」<br>
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足元には、うっすらとだが、月影が落ちている。<br>
このくらいの濃さが有れば、氷鹿蹟の起動に支障は無い。<br>
しかし、起動の寸前に真紅が苦しげな呻きを上げたので、<br>
金糸雀の意識は、そちらに向けられてしまった。<br>
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「だ、大丈夫、真紅!? しっかりするかしら!」<br>
「あぁもう! しゃ~ねえです。金糸雀は、真紅の看病に専念してやがれですっ」<br>
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こうなれば、蒼星石との約束を違えることになるが、自分が斬り込むしかない。<br>
翠星石は短刀を握り締めて、物陰から飛び出す機会を窺っていた。<br>
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そこへ、光るモノが、ふらふらと宙を飛んで来る。<br>
それを見た途端、翠星石の表情が、緊張から安堵に移り変わり、歓喜の笑みへと変貌した。<br>
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「睡鳥夢! 戻ってきてくれたですかっ!」<br>
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翠星石は嬉々として、懐から玉鋼の呪符を抜き出して、精霊の前に翳した。<br>
それまで頼りなく飛んでいた精霊は、まるで自分の住処を見つけて喜んだかのように、<br>
勢いよく、真っ直ぐに呪符へ飛び込んだ。<br>
やっと会えた。また、帰ってきてくれた。<br>
懐に呪符を収めると、翠星石は身体の奥底から、力が漲ってくるのを感じた。<br>
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「あ~っはははっ! いよいよ反撃開始ですぅ!」<br>
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やおら物陰から飛び出した翠星石を目掛けて、一斉に矢が放たれる。<br>
しかし、当の本人は、慌てず騒がず――<br>
<br>
「睡鳥夢ぅっ!」<br>
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忽然と現れた植物が、無数の矢を悉く弾き返し、穢れの者どもに迫った。<br>
枝に捕らえられた弓足軽は、締め上げられて、骨を砕かれ消滅していく。<br>
まともな反撃を試みる間もなく、敵は四分五列となって退却した。<br>
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周囲に穢れの気配は無い。注意深く観察したが、狙撃兵も見当たらない。<br>
翠星石は精霊を格納すると、真紅と金糸雀の元に引き返した。<br>
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そこに、蒼星石と、神剣を携えた薔薇水晶が駆け戻ってきた。<br>
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「姉さん! 無事だったんだね。良かった……」<br>
「睡鳥夢が、帰ってきてくれたですよ。それで、助かったです」<br>
「妖刀『國久』を折ったからだよ」<br>
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その報告を受けて、翠星石は表情を綻ばせた。<br>
柴崎老人との約束を、こんなにも早く果たせるとは、思ってもいなかったのだ。<br>
けれど、嬉しいことばかりではない。真紅の事も、早急に手を打たなければ。<br>
その段になって漸く、翠星石は、ひとり足りない事に気付いた。<br>
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「あれ? そう言えば、銀ちゃんは、どこ行ったです?」<br>
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まさか、敵の手に掛かって? <br>
表情を曇らせた翠星石に、蒼星石は訥々と先程の一件を伝えた。<br>
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「喧嘩?! バカですか、蒼星石はっ」<br>
「だけど、姉さん……」<br>
「どんな理由が有ったにしても、銀ちゃんは私たちの同志ですよ。<br>
それなのに、仲間割れなんかして、どうするつもりですかっ!<br>
薔薇しぃも薔薇しぃです。側に居ながら、なぜ仲裁に入らねぇです!」<br>
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翠星石に叱責されて、蒼星石と薔薇水晶は心苦しそうに俯いた。<br>
頭に血が上っていたとは言え、確かに、少し言い過ぎたかも知れない。<br>
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「様子を見てくるです。蒼星石たちは、真紅の世話をしてやがれです!」<br>
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言って、翠星石は燃え落ちたみっちゃんの家へと向かった。<br>
ところが、何処を見回しても、水銀燈の姿が見当たらない。<br>
何度か呼びかけても、返事はなかった。<br>
一体、何処へ行ってしまったのだろう。得物も持たずに、遠くへ行く筈が無い。<br>
なにか、痕跡は無いだろうか?<br>
丹念に地面を調べていた翠星石は、指で地面に書き記された文字を発見した。<br>
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もう、みんなと一緒に居られそうもありません。ごめんなさい。<br>
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さよなら。<br>
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「な……なんですか、これは?! どうして、こうなるですっ!」<br>
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彼女からの伝言を読んで、翠星石は泣き出しそうな声で呟いた。<br>
真紅が大変な時に……。<br>
これから、もっと厳しい闘いが待っていると言うのに……。<br>
翠星石は重い溜息を吐いて、水銀燈の伝言を、爪先で乱暴に掻き消した。<br>
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「どいつもこいつも…………ホントに、大馬鹿ヤローですぅ!」<br>
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焦げ臭い空気が漂う夜闇の中に、翠星石の絶叫が木霊していた。<br>
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=<a href="http://www4.atwiki.jp/3edk07nt/pages/64.html">第二十一章につづく</a>=<br></p>