夢追人の妄想庭園内検索 / 「『モノクローム』」で検索した結果

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  • 『モノクローム』
       ◆プロローグ 『愛のカケラ』  ◆第一話 『Face the change』  ◆第二話 『Graceful World』  ◆第三話 『For the moment』  ◆第四話 『NECESSARY』  ◆幕間1 『恋文』  ◆第五話 『Dear My Friend』  ◆第六話 『Shapes Of Love』  ◆第七話 『今でも…あなたが好きだから』  ◆第八話 『Feel My Heart』  ◆幕間2 『azure moon』  ◆第九話 『キヲク』  ◆第十話 『fragile』  ◆第十一話 『Rescue me』  ◆第十二話 『Pray』  ◆幕間3 『True colors』  ◆第十三話 『Time goes by』  ◆第十四話 『Someday,someplace』  ◆第十五話 『All along』  ◆第十六話 『出逢った頃のように』  ◆幕間4 ...
  • 保管場所 その2
    ...』   (※百合) 『モノクローム』    (※百合)    
  • 第七話 『今でも・・・あなたが好きだから』
        ピアノが、好き? 訊ねられて、雪華綺晶は間を置かず、好きと答えた。 特に、コリンヌが奏でるピアノの音色は、大好きだった。   鍵盤を叩けば、誰でも音は出せる。老人でも、生まれたての赤ん坊でも。 けれど、僅かな間や力加減は、人それぞれに違う。音色の質も、そこで変わる。 本当に艶のある和音を引き出せる人間は、ほんのひと握りに過ぎない。 そして、コリンヌはその数少ない者の一人だと、雪華綺晶は常々、感じていた。   「マスター……あ、いえ……コリンヌの弾く旋律は、特に心地よいですわ。  まるで、上質の羽根箒で、素肌をくすぐられているような――  得も言えない恍惚に、私を誘ってくれるんですもの」   思いがけず賛辞を呈されて、コリンヌは「そんな大袈裟な」と、はにかんだ。   「その心地よさは、演奏者の手柄ではなく、旋律を生み出した人たちの功績よ。  いま弾いていたのは、ラヴェルの『亡き王女の...
  • エピローグ 『ささやかな祈り』 2
        彼女と手を繋ぎ、雑踏を縫うように、長い橋を歩いていたら、ふと―― 昨夜、夢うつつに浮かんだ疑問が、頭に甦ってきた。   「あのさ、ちょっと気になってたんだけど」 「……なんでしょう?」 「結菱グループと言えば、国内でも屈指の巨大資本なんだよ。その影響力は、計り知れない。  そのトップに位置する人物なら……二葉氏ならば、大概のことは可能だったはず。  君のお祖母さんを探し、連絡をとることだって、できたはずなんだ。  それなのに、なぜ、彼は――それを、しなかったんだろう?」   そう訊いた僕を、彼女はまじまじと見上げて、やおら、口元を綻ばせた。   「してましたよ」 「えっ?」 「二葉さまは、お祖母様の安否を、ずっと気に掛けてくださってました。  だから、消息が掴めるなり、幾日と置かず、お手紙を出してくれたんです。  お互いの無事を喜ぶ内容と……近く再会して、フランスで一緒に暮らそう、...
  • 気ままにヘタレ日記 1
    折を見ては、ちょこちょこと庭いじり。だんだんと庭園っぽく体裁が整ってきたかなぁ?とりあえず、今は『その他』の充実を検討中。元々はオリジナル創作がメインだったハズが、気付けば、こんなにも二次創作に本腰を入れていたり……。ま、気ままに行きまっしょい。 -- ヘタレ庭師 (2007-05-14 23 44 45) オリジナルの方も、だいぶ設定・内容が練れてきた。あとは、いつくらいから書き始めるか……ですが。書き出しさえスルリと進めば、勢いに乗れるんですけどね。まずは未掲載分の加筆修正か――それと、途中で止めっぱなしのモノを完結させないとね。アレとか、アレとか、アレも。それにしても……人間のカラダというものは、想像以上に頑丈なモノのようです。衰弱していくのが自覚できたのに、くたばるどころか、驚異の回復をみせてしまいました。いや~、健康ってホンっトに、いいもんですねぇ~。 -- ヘタレ庭師 ...
  • 第十九話  『きっと忘れない』
    射し込む朝日を瞼に浴びせられて、蒼星石を包んでいた眠りの膜は、穏やかに取り払われた。 なんだか無理のある姿勢で寝ていたらしく、身体が疲労を訴えている。 ベッドが、いつもより手狭な気がした。それに、とても温かい。 まるで……もう一人、収まっているみたい。 もう一人? 朦朧とする頭にポッと浮かんだ取り留めない感想を、胸裡で反芻する。 ――なんとなく、ぽかぽか陽気の縁側に布団を敷いて昼寝した、子供の頃が思い出された。 あの時、背中に感じた姉の温もりと、今の温かさは、どこか似ている。 ココロのどこかで、まだ、翠星石を求め続けている証なのだろう。 (夢でもいい。姉さんに逢えるなら) もう少し、夢に浸ろう。蒼星石は目を閉じたまま、もそりと寝返りを打ち、朝日に背を向けた。 途端、そよ……と、微風に頬をくすぐられた。 それは一定の間隔で、蒼星石の細かな産毛を揺らしていく。 次第に、こそばゆさが募って...
  • プロローグ
         プロローグ   ―師走の頃―  【12月22日  冬至】 クリスマスも差し迫った年の瀬に、夜更けの街を歩く、独りの影。 その周囲を、疲れた顔のサラリーマンや、OL、若いカップルが流れていく。 彼等の間を縫うようにして、翠星石は背中を丸めながら、歩いていた。 特別、行きたい場所があった訳ではない。 と言って、なんとなく、まだ家に帰る気にもなれずにブラついていた。 凍てつく真冬の風に吹き曝されて、ぶるっと身震い。 翠星石は歩きながら、羽織ったコートの襟元を掻き寄せて、重い溜息を吐いた。 吐息は白い霞となって棚引き、夜の闇の中に流されていく。 冬という季節は、どうにも陰気なイメージで、昔から好きになれない。 とりわけ、今年の冬は憂鬱だった。 「蒼星石……」 俯きながら、ポツリと妹の名を呼ぶ。彼女の呼びかけに応える者は、居ない。 去年の今頃は、隣を歩いていた蒼星石。 ...
  • 『冬と姉妹とクロスワード』
        『冬と姉妹とクロスワード』     「蒼星石……ちょっと、良いですか」   双子の姉、翠星石は、ノックも無しに開けたドアの陰から、ひょいと顔を覗かせた。 年の瀬も近い、底冷えのする週末の夜のことだ。 ボクは炬燵に足を突っ込んで、時折、お茶とKit Katを口に運びながら、 センター試験に向けて、微分積分の問題集を片っ端から解いているところだった。   「ん? なぁに、姉さん」 「ほんの少しだけ、知恵を貸して欲しいです」   心底、申し訳なさそうな声色―― 悩ましげな彼女の表情は、ボクの胸にも、別の意味での悩ましさを植えつけた。 いったい何が、姉さんをこんな顔にさせているのだろう。 ボクで手伝えることなら、力になってあげることに吝かじゃあない。   「とにかく、入っちゃってよ。ドアを開けっ放しにされてると寒いから」 「じゃあ、お邪魔するですよ」   井ゲタ模様の半纏を引っかけた彼女は...
  • 『パステル』 -5-
    「ふざけないでっ!」 突然の喝破に、雛苺は身体を震わせ、猫のように首を竦めた。 不思議な『パステル』の効能について、洗いざらいを話し終えたときのことだ。 あのパステルを使えば、良かれ悪しかれ、真紅の人生を狂わすことになる。 下手をすれば、一生の恨みを買うことにさえも。 だからこそ、隠し事なんて、したくなかったのだ。 いい返事を得たいがためと邪推されるのは、雛苺の本意ではなかったから。 半身を起こした真紅が、脚に落ちたタオルを掴み、雛苺に投げつけようと腕を振り上げる。 その瞬間、夢で見た病室でのシーンが、脳裏に甦って―― 雛苺の怯えた瞳が、水銀燈の悲しげな眼差しと重なり、真紅の激情は急速に冷めていった。 「――ごめんなさい。お客さまに対して、声を荒げてしまうなんて……  ダメね、私。腕を失くしてから、たまに、自分を抑えられなくなるの」 「風が...
  • エピローグ
     「もう、朝……」 よく眠った。夢さえ見ないほどに深く。 そもそも、いつ床に就いたっけ? 書き物をしていた記憶は、漠然と浮かぶけれど。それから後のことは……。 ……まあ、いい。 これから紡がれる、新たな思い出に比べたら――すべて瑣末なこと。 私はベッドを抜け出して、勢いよく、カーテンを開いた。 窓辺にたむろしていたスズメたちが、驚いて、一斉に飛び立った。 よく晴れてる。防波堤の向こう、遙かな沖合まで、すっかり見渡せる。 1日の始まりとしては、申し分ない。 顔を洗い、着替えてから、お母さまの人形に、朝の挨拶をする。 端から見たら、アタマの弱い子だって思われるだろうが、別に構わない。 そうすることで、私は少なからず、安らぎを覚えているのだから。 お父さまが、どういう意図で、この人形を作ったのかは判らないけど……今では感謝していた。 ...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』エピローグ
        『ひょひょいの憑依っ!』エピローグ 春一番かと思えるほど強い風に四苦八苦しながら、私は懸命に羽ばたいて、 この辺りで最も高いマンションの屋上で待つ彼女の元へと、辿り着きました。 「ただいま、薔薇水晶」 カナリアの姿から、人の姿に戻って話しかけましたが、 薔薇水晶は機嫌が悪いのか、私に背を向けたまま、ウンともスンとも言いません。 居眠りしてるのかと思うほど、静かなものです。 「なぁに? シカトだなんて、感じ悪いのね。  言いつけどおり、彼の手にマスターキーを付与しに行った私に、  労いの言葉ひとつ無いの?」 春風に乱された金髪を撫で付けながら、文句ひとつを浴びせて歩み寄った私は、 そこでやっと、彼女の傍らに置かれているモノに気付きました。 普段から、滅多に外されることのない眼帯に。 「薔薇水晶…………貴女、まさか泣い――」 「ふふ……まさか」 彼女は眼帯を鷲掴みにする...
  • プロローグ  『愛のカケラ』
        彼女を見かけたのは、夏の暑さも真っ盛り、八月初旬の昼下がりだった。   焼けたアスファルトから、もやもやと立ちのぼる陽炎を抜けて、歩いてくる乙女。 つばの広い麦わら帽子で強い日射しを避けつつ、鮮やかなブロンドを揺らめかせていた。 右肩から吊したハンドバッグの白が、やたらと眩しい。   僕は、彼女を目にしたとき、一瞬だけれど、幻かナニかだと思ってしまった。 ――何故って? そのくらい、彼女は人間ばなれした美貌を、兼ね備えていたからさ。 陳腐だけど、もしかしたら本当に美の女神なんじゃないかと、思えるほどにね。     さて……男だったら誰しも、こんな美人とお近づきになりたいと思うはずだ。 かく言う僕のココロも、その意味では健全な男子として、素直に反応してしまう。 日常会話でもいい。ほんの挨拶だって構わない。 とにかく、なんでもいいから、彼女と言葉を交わす方便を探した。 目を皿にして、お...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』
      『ひょひょいの憑依っ!』     就職を機に、ジュンは故郷を離れ、独り暮らしを始めました。 ところが…… 破格の値段で借りた事故物件には、金糸雀という娘の幽霊が住み着いていたのです。  『ひょひょいの憑依っ!』Act.1  『ひょひょいの憑依っ!』Act.2  『ひょひょいの憑依っ!』Act.3  『ひょひょいの憑依っ!』Act.4  『ひょひょいの憑依っ!』Act.5  『ひょひょいの憑依っ!』Act.6  『ひょひょいの憑依っ!』Act.7  『ひょひょいの憑依っ!』Act.8  『ひょひょいの憑依っ!』Act.9  『ひょひょいの憑依っ!』Act.10  『ひょひょいの憑依っ!』Act.11  『ひょひょいの憑依っ!』Act.12  『ひょひょいの憑依っ!』Act.13  『ひょひょいの憑依っ!』エピローグ          次回から、第二部。 はいはーい。私、柿崎めぐ...
  • 『巴チャンバラ』
      こんな夢を見た。 夏目漱石の小説みたいな台詞を枕に、黒髪の娘は、まじめな顔で語りだした。 その声が向けられた先には、カフェのテーブルを挟んで座る少年が、ひとり。 「決して夜が明けない世界。わたしは闇の中を独り、走り続けているわ」 「ただ走ってるだけ?」 ふるふる。彼女――柏葉巴は、青ざめた顔を、力なく横に振った。 少年、桜田ジュンの表情も、それを受けて曇る。 けれど、彼から訊ねようとはせず、巴が続けるのを辛抱づよく待っていた。 「わたしは巫女服を着て、二振りの刀を携えているのよ。いわゆる二刀流ね」 「……なんか、物騒な夢だな」 刀を持って走り回るだなんて、通り魔とか辻斬りみたいじゃないか。 そんなジュンの軽口に、巴は愛想笑うどころか、困惑が綯い交ぜになった顔をした。 仕切りなおしとばかりに、メロンソーダをストローで吸い上げるも、表...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』Act.12
        『ひょひょいの憑依っ!』Act.12 玄関に立つ眼帯娘を目にするなり、金糸雀は凍りついてしまいました。 そんな彼女に、「おいすー」と気の抜けた挨拶をして、右手を挙げる眼帯娘。 ですが、暢気な口調に反して、彼女の隻眼は冷たく金糸雀を射竦めています。 「あ、貴女……どうし……て」 辛うじて訊ねた金糸雀に、眼帯娘は嘲笑を返して、土足で廊下に上がりました。 ヒールの高いブーツが、どかり! と、フローリングを踏み鳴らす。 その重々しい音は、ピリピリした威圧感を、金糸雀にもたらしました。 「……お久しぶり。元気そう……ね?」 どかり……どかり……。 眼帯娘は、一歩、また一歩と、竦み上がったままの金糸雀に近づきます。 妖しい笑みを湛えた唇を、ちろりと舌で舐める仕種が、艶めかしい。 その眼差しは、小さな鳥を狙うネコのように、爛々と輝いて―― 「……イヤ。こ、こないで……かしら」 ...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』Act.11
      『ひょひょいの憑依っ!』Act.11 白銀のステージライトを浴びて、ゆるゆると路上に佇む、眼帯娘。 だらりと肩を下げ、今にも大きな欠伸をしそうな、さも怠そうな様子は、 立ちはだかるというより寧ろ、寝惚けてフラフラ彷徨っていた感が強い。 冷えてきた夜風を、緩くウェーブのかかった長い髪に纏わせ、遊ばせて…… 水晶を模した髪飾りが、風に揺れる度に、鋭い煌めきを投げかけてきます。 でも、人畜無害に思えるのは、パッと見の印象だけ。 めぐと水銀燈の位置からでは逆光気味でしたが、夜闇に目が慣れた彼女たちには、 ハッキリと見えていたのです。 眼帯娘の面差し、金色に光る瞳、口の端を吊り上げた冷笑さえも。 「貴女……どっかで見た顔ねぇ」 水銀燈は、一歩、めぐを庇うように脚を踏み出します。 午前一時を回った深夜まで、独りでほっつき歩いている娘―― しかも、出会い頭に妙なコトを口走ったとあれば、胡乱...
  • エピローグ 『ささやかな祈り』 4
        オディールさんは、揺れる瞳で、僕を見つめていた。 情けない話だけれど、その目に射竦められて、僕は声も出せなくなっていた。 彼女が、掠れた声を絞り出すまでは――   「どうして……二年なの?」 「――実は、僕の受け持つクラスに、素晴らしい才能を持った生徒が居るんだけどね……  ある時、彼のココロを、深く傷つけてしまったんだ。僕の軽挙妄動によって。  良かれと思ってたんだ。こんなにも優秀な才能は、もっと広く評価されるべきだ、と」 「……けれど、彼は注目され、批評されることを望んでいなかった?」 「そうだね。彼は同年代の子たちより、感受性が研ぎ澄まされ過ぎてたんだと思う。  誰よりも純粋に物事を捉え、誰よりも繊細な方法で表現できた――  だからこそ、彼の造る物はどこか儚げで、それゆえにピュアな輝きを放っていたんだ」 「純粋にして繊細……針の上に置かれたコインみたいに、絶妙のバランスですわ...
  • エピローグ 『ささやかな祈り』 1
        「わざわざ調べていただいて、ありがとうございました。本当に、助かりましたわ。  ……ええ、はい。では、また明日に。それじゃあ……おやすみなさい」   通話を切るが早いか、ベッドの端に座り、耳をそばだてていた彼女が、聞こえよがしに鼻を鳴らした。   「バっカみたい。フランスに居た頃に、もう全ての調べがついてたでしょうに……  なんだって今更、あーんな冴えない男の助力を頼んだわけぇ?」 「好きになってしまったから、お近づきのキッカケに」   「ぅえっ?!」首を絞められたような声を出して、彼女が凍りついた気配。 私は振り返って「――って答えたら満足?」と、微笑んだ唇から、舌を出して見せた。 プライドが高く激情家なこの子は、からかわれると、すぐに柳眉を逆立てる。   「くだらなすぎて苛つくわ、そういうの。黒焦げのシシャモなみに嫌いよ」 「ふふ……ごめんなさい。そんなに、怒らないで」   言...
  • 気ままにヘタレ日記 6
    いつの間にか6月も半ばでした。 自他共に認めるモノグサ人間の私からすると、 毎日ブログ更新している方は、ホント尊敬してしまいます。 尊敬するだけですけどね。見習おうなんて気概なし! それじゃダメじゃん、春風(ry 衣替えシーズンというコトで、ここも改ページ。 それにつけても、ここ最近は大きなニュースが続きますね。 ガソリン値上げに始まり、アキバの一件、水野晴郎さん死去、 昨日も岩手・宮城内陸地震で……。 なにやら暗い話題ばかりでは、気も滅入ってしまうというもの。 そろそろ、パッと明るいニュースに来てもらいたいものです。 私的な明るいニュース……は、ボーナス出たくらいですかね。 -- ヘタレ庭師 (2008-06-16 00 51 50) もう6月も終わりかと思うと、月日の経つのは早いもので。 そろそろ、お盆休みの旅行計画も立て始めようか――という頃ですね。 まあ、釣り関連になるのは確...
  • ―弥生の頃 その1―
          ―弥生の頃―  【3月3日  上巳】 前編 世間一般に、雛祭りと呼ばれる日の朝。 翠星石はパジャマの上にカーディガンを引っかけ、PCを起動していた。 今日は金曜日。大学は春休みでも、バイトに行かなければならない時間だ。 にも拘わらず、翠星石は落ち着き払って、電子メールの確認などしている。 階下から、祖母の「起きなさ~い、翠ちゃ~ん」という声が届いた。 そう言えば……と思い出して、翠星石は席を立ち、ドアを開ける。 ひょこんと顔を覗かせると、階段の下で、祖母が見上げていた。 「何してるの? お仕事に、遅れるわよ?」 「言い忘れてたです。今日は、バイトが振り替え休暇になったですぅ」 「振り替え?」 「先週の土曜日に、休日出勤したですよね」 「ああ! そうだったわね。じゃあ、今日はお休みなのね?」 「だ~から、そう言ってるですぅ~」 若者と老人の会話は、少しばかり、時間と意志...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』Act.7
      『ひょひょいの憑依っ!』Act.7 大笑いしている水銀燈は放っておいて、めぐは再び、襟元を広げました。 そして、ふくよかな双丘の上端を指さしながら、ジュンに語りかけたのです。 「ほら、ここ。私の左胸に、黒い痣があるでしょ」 「なるほど……勾玉というか、人魂みたいなカタチの痣がありますね、確かに」 確認を済ませたジュンは、気恥ずかしさから、すぐに目を逸らしました。 ジロジロ見て、懲りずに水銀燈のまさかりチョップを食らうのも馬鹿げています。 めぐの方も、水銀燈の手前とあってか、すぐに襟を閉じました。 「つまり、水銀燈さんは禍魂っていう存在で、柿崎さんに取り憑いてるってワケか」 「うん。きっと……これは報いなのよ。命を粗末にした、傲慢に対する罰ね」 つ――と、めぐは悲しげな眼差しを空に向けましたが、すぐに表情を切り替え、 顎のラインをするりと指でなぞりつつ、ジュンを見つめました。...
  • 『堂々巡り』
      『堂々巡り』 それは、下校していた途中のことだった。 夕食前の買い物客で賑わう商店街は、ひどく混んでいる。 それでも普段なら、何も気にせず突っ切っていくのだが、今日はそんな気分になれなかった。   彼にフラれた―――― そのショックが、今も心の底に鉛のごとく沈み込んで、足取りまで重くしている。 告白すると決めてから一週間……思い詰めるあまり寝不足にすらなって、漸く決心したのに! 放課後の、誰もいなくなった教室で告白したとき彼の口から発せられたのは、 最も聞きたくなかった返事だった。   ごめん。そんな気にはなれないんだ。 冗談じゃない。こんな言葉を聞くために、一週間も悩み続けた訳じゃないのに。 自分に魅力が無いことぐらい分かってる。だけど、僅かな可能性に賭けたって良いじゃない? なのに……おそらくは今までの人生において最も大きかった決断が、 こんなにもアッサリ砕かれ...
  • 『パステル』 -2-
    ――どこかで、カラスの群れが騒いでいる。 いつ聴いても、不安を掻き立てられる声だ。 近い。耳を澄ますまでもなく、気づいた。窓のすぐ外で啼いているのだ、と。 いつ籠もったのか記憶にないが、雛苺はベッドの中に居た。渇ききった喉が痛い。 腫れぼったい瞼を押し上げて、枕元の時計に目を遣れば、午前八時を少し回ったところ。 普段より30分ほど早い目覚めだった。カーテンの隙間から、眩い朝日が射し込んでいる。 まだ眠い――が、喧しいカラスを散らさないことには、二度寝もできそうにない。 指先で、目元を、こすりこすり……欠伸を、ひとつ。 その直後だった。なにか重たい物が、ドサッ! と、彼女の上に落ちてきたのは。 「ぴゃっ?! 痛ぁ……ぃ。もぉ、なんなの~?」 呂律の回らない口振りで、雛苺は頭を浮かせて、重みを感じる腹部を見遣った。 布団の上に、なにやら見慣れないモ...
  • 気ままにヘタレ日記 5
    明けてました、よいお年を。orz 最近の寒さに負けないくらい、寒い挨拶で幕開けでございます。 本年、初更新! やっとこ、去年から引きずっていた長編を〆られました。 締め切りのない小説は完成しない――と、どこかで読んだ記憶が甦ります。 そもそもがチャランポランな性格の私には、耳の痛い言葉でございます。 自分なりに期限を切って、しっかり厳守できれば良いのですが…… ほら、人間って、どうしても自分に甘くなってしまうでしょう? まあ、とにかく。 次に書くものは、ある程度書き上げてから順次投下のカタチにするつもりです。 1話ずつの逐次投下は、まぁた投下間隔がまちまちになりそうなので。 ……さて、心機一転、頑張るですよー。 この頃は寒さでテンション下がらないように、 ちょっとノリのいい曲をききつつタイピングしております。 こんな感じの。 -- ヘタレ庭師 (2008-02-10 23 36 48...
  • ―葉月の頃 その5―
          ―葉月の頃 その5―  【8月23日  処暑】② 高速道路で二度目のサービスエリアに入るや否や、 弾かれたように車を飛び出した翠星石は、タオル片手にトイレへと駆け込み、 ぽぉ~っと熱を帯びた顔をすぐにも冷やしたくて、ざぶざぶ洗った。 なんだか、まだ身体中がムズムズして、気分が落ち着かない。 それもそのハズ。『もふテク』108式すべてを体験してしまったのだから。 思い返すだけで、翠星石の背筋に悪寒が走り、顔から火が出そうだった。 「あー、ヤバかったですぅ。危なく溺れ乱――」 「なにで溺れそうになったのですか?」 タオルで顔を拭いながらの独り言に、背後からタイミング良く問い返されて、 翠星石は、わたわたと両腕をバタつかせた。一瞬にして、総毛立っていた。 ぎしぎしと頸椎を軋ませながら、翠星石が顔を向けた先には…… 「?」顔の雪華綺晶が、翠星石のことを見つめていた。 彼女...
  • ここだけの話
         もうお気づきとは思いますが、予告の一行目は、実際の歌詞を用いています。  (綴りや区切りは変えてますが)   P 出会いはいつでも、偶然の風の中   「天までとどけ」 さだまさし     (ずっと以前に、学校の合唱コンクールで歌った憶えが……) 1 迷子の迷子の仔猫ちゃん。貴女のおうちは、どこですか   「いぬのおまわりさん」     (くんくん探偵から、安易に連想)   2 名前……それは、燃える命   「ビューティフル・ネーム」 ゴダイゴ       (生命という当て字が正解。最近では、エグザイルが999をカバーしてますな、ゴダイゴ)   3 この世でたった一度、巡り会える明日。それを信じて   「涙をこえて」     (心の中で明日が、明るく光る――これも、やっぱり合唱コンクールで歌ったっけ)   4 きっと、何年たっても……こうして、変わらぬ気持ちで   「未来予想図Ⅱ」...
  • ―水無月の頃 その2―
          ―水無月の頃 その2―  【6月6日  芒種】後編 みんながまだ、幼稚園児だった頃、記念に埋めたタイムカプセル。 まさか、こんなカタチで掘り返すことになるなんて、誰が予想しただろうか。 「何を入れたのか、もう自分でも忘れちまったですよ」 ベタベタと絡み付くガムテープに閉口しつつも開封を諦めない真紅の手元を、 翠星石はジッと見守りつつ、暢気に独りごちた。 真紅を手伝おうなんて気持ちは、端っから無い。 それ以前に、幼い頃、自分が納めた物が何なのかが気懸かりで仕方なかった。 他人への配慮など、二の次になっていたのだ。 ねちゃぁ……と、いやらしく糸を引いて、最後のガムテープが引き剥がされた。 「……ふぅ。やっと開いたのだわ」 真紅は詰めていた息を吐き出して、額に浮かんだ汗を、手の甲で拭った。 その拍子に、偶然、指にこびり付いていたガムテープが、真紅の前髪に絡み付く。 「...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』Act.8
      『ひょひょいの憑依っ!』Act.8 カナ縛りに捕縛された真紅は、声ひとつ出せず、指の一本すら動かせず…… 出来ることと言えば、にじり寄るビスクドールに、恐怖の眼差しを向けることだけ。 「来たわ来たわ来たわ。ついに、この時が来ちゃったかしらー!」 人形に取り憑いた金糸雀が、嬉々として、言葉を紡ぎだします。 地縛霊として、ずっとアパートの一室に閉じこめられていた彼女にしてみれば、 自分の意志で思いどおりに歩き回れることは、この上ない喜びでした。 でも、所詮は人形の身。まだまだ、不便なことが多々あります。 「苦節5年――やっと手に入れた自由だもの。これを活用しない手はないかしら」 わけても『死』という烙印は、とてつもなく重い枷でした。 自由になりたい。胸を焦がす渇望を潤したいのに……独りでは、何もできなかった日々。 でも、自由への扉を開く鍵――真紅の身体――は、今、目の前に転がっ...
  • 気ままにヘタレ日記 3
    さてさてさて……8月に入って、街中にも夏休みムードが色づいてきましたね。朝の電車も、少しだけ空いているカンジぃ?今年は久々に、ちゃんとお盆の時期に休みを頂けそうなので、ちょっと嬉しいですね。夏コミにも行けそうですし。まぁ、遊びに行くなら、お盆休みを外した方が良いんですけどね。東北道で100km以上の渋滞とか、マジ有り得ないのよー。さておき、7月最後の週末は、近所のお祭りでした。お祭り大好き人間としては、放っておけんです。日中は渓流で釣り。日が暮れてから祭り見物。うーん、いよいよ夏本番って感じですかね。しかーし……タコ焼きで舌を火傷し、じゃがバターを食べては胃もたれ。あんまり良いコトありませんでした。orz良いコトない、と言えば――私、手に入れてしまったんです。ある筋では(つまらない事で)有名な、アレを。その名も『アーリャマーン EPISODEⅠ:帝国の勇者』。インド映画のDVDですがな。早...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』Act.13
        『ひょひょいの憑依っ!』Act.13 ――こんなに、広かったんだな。 リビングの真ん中で胡座をかいて、掌の中でアメジストの欠片を転がしながら、 ぐるり見回したジュンは、思いました。 間取りが変わるハズはない。それは解っているのに…… なぜか、この狭い部屋が、茫洋たる空虚な世界に感じられたのです。 一時は、本気で追い祓おうと思った、地縛霊の彼女。 だのに……居なくなった途端、こんなにも大きな喪失感に、翻弄されている。 彼のココロに訪れた変化――それは、ひとつの事実を肯定していました。 はぁ……。 もう何度目か分からない溜息を吐いたジュンの右肩に、とん、と軽い衝撃。 それは、あの人慣れしたカナリアでした。 左肩に止まらなかったのは、彼のケガを気遣ってのこと? それとも、ただ単に、医薬品の臭いを忌避しただけなのか。 後者に違いない。すぐに、その結論に至りました。 意志の疎通...
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    ようこそ。あるいは、初めまして。 ここは2ちゃんねる(ニュー速VIP)のローゼンメイデン関連スレッドに投下した、管理人個人のSSをまとめた場所です。 閲覧に際しては、文字サイズ(中~小)が適当かもしれません。 今日 - 昨日 - 合計 -  SS保管庫  メニュー  リンク 誤字・脱字、その他ご意見など、以下のフォームでお知らせくださると嬉しいです。(名前・メアド省略可) 名前 メールアドレス 内容
  • 雑記メモ
    JKスレが終わるにあたって、Wikiの練習用として借りたけど……ここ、どうしよう。 -- (´゚ ω 。`) (2006-02-26 10 15 42) ま、放置でいっか。返すのもメンドクサイしぃ~。取り敢えずは、女の子スレの繁栄を願って。 -- (´゚ ω 。`) (2006-02-27 01 22 58) ……とりあえず、自分のSS保管庫にしようかな。何事も、有効活用ってことで。 -- (´゚ ω 。`) (2006-10-25 00 37 32) まいった……。ここにきて、多忙+気力どん底まで低下。しばらく映画と読書で、気力の回復を待ちますかねぇ。 -- (´゚ ω 。`) (2007-02-20 01 37 32) 不定期更新のブログみたいに使うのも、良いかもワカランね。激しく、グチの掃き溜めになりそな悪寒?! -- (´゚ ω 。`) (2007-02...
  • 第16話  『この愛に泳ぎ疲れても』
    どちらかを、選べ―― そう言われたところで、蒼星石の答えは、既に決まっていた。 こんな場所まで歩いてきた今更になって……躊躇いなど、あろうハズがない。 二つの目的を果たすためならば、地獄にすら、進んで足を踏み入れただろう。 ただ夢中で、翠星石の背中を追い続け、捕まえること。 そして、夜空に瞬く月と星のように、いつでも一緒に居ること。 たとえ、それが生まれ変わった先の世界であっても――ずっと変わらずに。 蒼星石は無言で、右腕を上げた。そして……偶像の手を、しっかりと握った。 置き去りにする人たちへの後ろめたさは、ある。 けれど、今の蒼星石のココロは、出航を待つ船に等しい。 姉を求める気持ちの前では、現世への未練など、アンカーに成り得なかった。 過ちを繰り返すなと諫めた声など、桟橋に係留するロープですらない。 「いいのですね?」 こくりと頷きながら、なんとは無しに、蒼星石は思ってい...
  • 『Working girls』
    「どぉしたのぉ、真紅ぅ?」 これが全ての発端だった。 年の瀬も押し迫って、冬休みを目前に控えた、最後のHRが行われている時のこと。 通信簿が配られ、騒がしい教室で、机に頬杖をついてる暗い顔の真紅を見た私は、 「あらぁ、大して可愛くもない貴女の沈んだ顔って、見るに耐えないわねぇ。  さては……散々な成績だったから、首を吊りたくなったとかぁ?」 例によって、幼なじみで小生意気な金髪の娘をからかう。 普段の彼女ならば、すぐに噛み付いてくる筈だけれど―― 真紅は、顔を向けるどころか、チラッと目を動かしもしなかった。 拍子抜けというか、なんとなくシカトされたみたいで癪に障る。 この水銀燈さんを小馬鹿にするなんて、いい度胸してるじゃないの。 背後に回り込んで頸を絞めると、真紅は呻き声を放って、やっと反応を見せた。 「なにするのよ、水銀燈っ!」 「だぁってぇ~、真紅が無視するんだもぉん」 「…...
  • 第一話 『Face the change』
        ――1932年 南フランス。 夜……雲が月を遮って、いつもより暗い夜。煤煙を撒き散らしたような、漆黒。 陰鬱たる森の静寂を、無粋なエンジン音で破りながら疾駆する黒塗りの車が、一台。 1929年のパリ・モーターショーで華麗にデビューした、プジョー201だ。   山間の閑散とした田舎道に立ちこめた夜霧は、いつになく濃い。 それが為だろう。通い慣れた道であるにも拘わらず、薄気味悪くて仕方がなかった。 運転手も不穏な気配を感じているのか、普段より更に、飛ばしている。 いくら煌々とヘッドライトを灯したところで、夜霧を消せる訳もないのに…… こんなに早く走ったりして、危なくはないのかしら? 轍とか、張りだした根に車輪を乗り上げて、横転したりはしない? 僅かでも不安を抱いてしまうと、それが呼び水となって、更なる不安に苛まれる。   「ねえ……霧が深いから、怖いわ。どうせ家に帰るだけだもの。  ゆ...
  • 『風と空と』
          『風と空と』 ねえ――空を飛びに行かない? 唐突な台詞を蒼星石が口にしたのは、遅刻確定の通学路での事だった。 藪から棒に、なにを言い出すんだろう。 そもそも、近くにバンジージャンプが出来る遊園地なんか有ったっけ? 訳が解らず茫然とする僕の手を、彼女は強引に引っ張った。 電車とモノレールを乗り継いで着いたのは、港を見下ろす高台の公園だった。 平日の昼間とあって、人は殆ど居ない。貸し切りみたいで気分が良かった。 でも、こんな所で、どうやって空を飛ぶんだろう?  「あ! 来たよ、ジュン君」 不意に、蒼星石が空を指差した。その先には、今まさに着陸しようという旅客機。 尾翼にANAのロゴが見えた。 こんな間近でジャンボジェットを見たのは初めてだった。  「うわぁ! 凄ぇ! でかいよ、蒼星石」  「ホント、凄いよねぇ。あんな大きなのが、空を飛ぶんだからさ」  「うん……...
  • エピローグ 『ささやかな祈り』 3
        鐘の櫓を『コ』の字に囲むフェンスには、夥しい数の南京錠が、くくりつけてあった。 結ばれるための、おまじない。女の子の心情としては、こういうの、嫌いじゃない。   「ね、ね。折角ですから、私たちも、記念に鳴らしましょうよ。それから、アレも!」 「えぇ? アレって……南京錠なんか持ってきてないよ」 「ここの入り口にあった売店に、売ってましたよ」 「そうだった? 気づかなかったな……。よし、ちょっと待ってて。買ってくるから」   彼を待つ間、私は案内板の『天女と五頭龍』伝説でも読むことにした。 この地に棲みついて悪事を働いていた五頭龍が、江ノ島に降り立った天女に恋をして、 更生することを誓い、天女と結ばれた――という。いつの時代も、こういったロマンスは好まれるものね。 さしずめ、私は悪い龍かしら。そして彼は、私の前に、突如として降り立った天女の役で……。   「やあ、お待たせ! 買ってき...
  • 第十三話  『Time goes by』
        ――温かい。     身体の内――ローザミスティカから、絶えず不可思議な熱と力が湧いてくる。 それは全身へと、彼女を蝕む激痛を駆逐しながら、伝播してゆく。 すごい。他に形容のしようがない。それほどまでに、効果は覿面だった。 指先、爪先、髪の先にさえ火照りを感じながら、雪華綺晶は、ぽぅ……っと。 およそ経験したことのない恍惚に、身もココロも包まれ、溺れきっていた。 「どうだい、気分は?」 「とっても……いい気持ちですわ。あぁ……なんてステキ」 「それは、なによりだ」 短くとも、はち切れんばかりに感情を詰め込んだ槐の声が、真上から降ってくる。 もうすぐ愛しい娘を取り戻せる。その期待が、一言半句にも滲み出していた。 子供のように歓喜を露わにする彼の様子が、なんとも愛おしくて―― 雪華綺晶は微笑みながら、胸に募った想いを、瞳から溢れさせた。 「これで……元に戻れるのね。二年前の、あの...
  • 前編 瞳を逸らさないで
     「おとーさま」 ここには、私の欲しかったものが、すべて有った。 ふかふかのベッドも、美味しい食事も、愛情に満ちた温かい両親も。 けれど、育ちがよくない私は貪欲で、満ち足りるということを知らずに…… いつだって、あなたの広く逞しい背中に縋りつくため、なにかしらの口実を探していた。  「どうしたんだい?」 そして、あなたは―― どんな時でも。たとえ仕事中であろうと、家事の途中だろうと。 私の呼びかけに振り返って、柔和に微笑み、膝に抱き上げてくれた。 いかにも職人らしい傷だらけの大きな手で、私の髪や頭を撫でてくれた。 私にとって至福と呼べるのは、お父さまに愛惜されることだけ。 かけがえのない愛情と温もりを独り占めにできる、その瞬間こそが、最高の幸せなのだ。  「寂しそうな顔をしてるね。独りにして、悲しませてしまったのかな。ごめんよ」  「...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』Act.4
      『ひょひょいの憑依っ!』Act.4 ちゃぶ台に置かれた料理の数々が、ジュンの目を惹きつけます。 驚くべきコトに、それらは全て、金糸雀のお手製と言うではあーりませんか。 玄関を開けたときに、鼻腔をくすぐった美味しそうな匂いは、気のせいではなかったのです。 「ジュンの帰りを待ち侘びながら、あの女が持ってきた食材を使って、  お昼ご飯を作っちゃったかしら~」 金糸雀は、ニコニコと満面の笑みを浮かべながら、幸せそうに話します。 もし、ジュンが帰ってこなかったら、無駄になってしまうと考えなかったのでしょうか。 おっちょこちょいな、彼女のことです。そんな仮定など、していたかどうか……。 「ホントに、お前が作ったのか? 近所の食卓から、かっぱらって来たんじゃあ――」 「むぅ~。侮辱かしら。失礼しちゃうかしらっ!  この部屋から出られないカナが、そんなこと出来っこないじゃない」 「ああ、それ...
  • ―睦月の頃 その2―
      ―睦月の頃 その2―  【1月1日  元日】 骨折り損のくたびれもうけだった初日の出見物から戻った翠星石は、 入浴後、おせち料理を少し摘んで、お婆さん特製の雑煮を味わった。 「ふっふっふ……この味、この香りこそ正月よ……ですぅ」 と、独りごちて、やおらキョロキョロと周囲を見回す。 誰にも聞かれていなかったコトを確認して、ホッと安堵の息を吐いた。 醤油仕立ての熱い汁を慎重に啜りながら、翠星石は去年の正月を回想した。   『これを食べないと、年が明けた気がしないんだよね』 そう言って、美味しそうに雑煮を食べる蒼星石。 一緒に雑煮を食べる事は、姉妹が幼い頃から遵守してきた年頭行事である。 それは、今は亡き両親との大切な思い出でもあった。 祖父母に引き取られてからも、絶やすことなく続けていこうと誓い合ったのだ。 それなのに、今年の正月は、蒼星石が居なかった。 寝耳に水も同然の...
  • 幕間1 『恋文』
        ひとりの乙女が綴った、手紙。 想いを包み込んだ、日焼けした封筒は、いま―― 知り合って間もない、純朴そうな男性の手の中に横たわり、眠りに就いている。   遠くて高い青空に、真一文字の白線が、引かれてゆく。 彼は、その飛行機雲を目で追いながら、ふぅん……と、呻るように吐息した。 そんな彼の横顔を見つめながら、私は温いコカ・コーラを口に含む。 ワインのテイスティングをするみたいに、そっと舌先で転がすと、しゅわぁ…… 弾ける泡の音が、耳の奥で、蝉時雨とひとつに溶けあった。     「大きなお屋敷に住んで、お抱えの運転手がいたり、使用人を雇ったり……  話を聞いてる限りじゃあ、君の家は、随分と資産家だったんだね」   やおら口を開いたかと思えば、その三秒後。 彼はいきなり、あっ! と大きな声をあげて、気まずそうに頭を掻いた。 本当に突然だったので、私は危うく、飲みかけのコーラで咽せ返りそう...
  • ―卯月の頃 その2―
          ―卯月の頃 その2―  【4月17日  春の土用入り】 自室のベッドに深々と身を沈めながら、翠星石は、悶々と喘いでいた。 胸の上に重石を載せられているような、鬱陶しくて、異様な息苦しさ。 払い除けようとする右手は、虚しく空を切る。 (……なんなのです、一体) 意識が明瞭になるにつれて、全身に重みを感じるようになっていた。 まるで、誰かに――のし掛かられているみたいに。 だがモチロン、そんなイタズラをする者は、居ない。 この家から蒼星石の姿が消えた日を境に、二度と起こり得なくなったのだ。 ならば、いま感じている、この重みは一体……なに? 圧迫された肺を、風船のように膨らませるべく、翠星石は大きく息を吸い込む。 すると、懐かしい匂いが、彼女の鼻腔をくすぐった。 いつか、どこかで嗅いだ憶えのある匂い。 胸がキュンとなる、愛しい匂い。 (まさか、蒼星石っ!?) ビック...
  • 『甘い恋より 苦い恋』
     『甘い恋より 苦い恋』   あなたが好きなの。 とある水曜日。彼と彼女は二人っきりで、放課後の教室に居た。 グラウンドで行われている野球部の練習を、彼らは並んで見下ろしていた。 何も話さず、ただ……デッサン用の石膏像みたいに。 長い長い沈黙を破ったのは、彼女の、硬い声。 振り向くと、彼女の銀髪と思い詰めた表情が、黄昏色に染め上げられていた。 昼が終わる寸前。夜が始まる瞬間。 丁度、あの一瞬の美しさを、一点に凝縮したような―― キュッと引き締められていた彼女の唇が、いま一度、言葉を紡ぐ。   私と――――付き合って下さい。 普段の猫撫で声とは打って代わって、決然とした口振り。 彼は眼鏡の奥で、意外そうに瞼を見開いてから、静かにかぶりを振った。 喉にこみ上げてくる苦い汁を、懸命に呑み込みながら。 潤んだ紅い瞳が揺らぎ、どうして……と訴えかけている。肩を戦慄かせ、当惑してい...
  • 『パステル』 -11-
    「ごめんなさいね。急いでいるのに」 騒音と熱気を吐き出すドライヤーに負けまいと、有栖川が心持ち、声を大きくする。 彼女は今、三面鏡のついた年代物のドレッサーに向かって、洗い髪を乾かしていた。 「すぐに済ませるから、あと少しだけ待っててちょうだい」 「気にしないでいいのよー。それほど、急いでないから」 気忙しげにドライヤーとブラシを揺らす有栖川に、雛苺は悠々と応じる。 そうするように勧めたのは、雛苺だった。 3月の夜は、まだまだ冷える。湯冷めをされては困るから――と。 「お友だちの家で、夕飯ご馳走になるから遅くなるって、メールしておいたし。  学生になってからは、門限とかね、かなり大目に見てくれるようになったのよ」 「でもねぇ。女の子が夜遅くに帰宅するなんて、ご両親はいい顔しないでしょ」 「平気平気っ。終電にさえ間に合えば、ヒナは困らないんだもの...
  • ―長月の頃 その2―
          ―長月の頃 その2―  【9月9日  重陽】     相も変わらずの強い日射しが、露わな乙女たちの柔肌を、容赦なく炙る。 その炎天下を、怠そうに並んで歩くのは、翠星石と雛苺。 乾く間もなく汗が滲み、濡れた薄手のシャツが、背中に貼り付いていた。   けれど、彼女たちの一挙一動が精彩を欠く理由は、暑さばかりではない。 なにより大きな影響を及ぼしていたのは、重たく沈んだココロ。     フランスに発つ蒼星石とオディールを見送った、その帰り道―― 翠星石は、足元の濃い影に目を落としつつ、時折、力の抜けきった息を吐く。 祭りの後にも似た空虚と、喪失感。 空元気さえ絞りだせないほど、彼女の気力は萎えていた。   雛苺もまた、そんな翠星石の心境が解ってしまうだけに、胸を痛めていた。 どうにかして元気づけてあげたい。でも、どうすれば喜んでもらえるのか。 乗り継ぐ電車の中でも、あれこれ話題を振っ...
  • 『メビウス・クライン』
      何年かぶりで部屋の掃除をしていたとき、奇妙なモノを見つけた。   押入の隅に眠っていた、うっすらと埃の積もった菓子の化粧箱。 持ってみると、ズッシリ重い。 なにが入ってるんだ、これ? 窓の外で埃を払って、箱を開いてみた。   収められていたのは、どこにでも売っているB5版50枚つづりの大学ノート。 それが、実に8冊も収められていた。こんなもの、しまった憶えはない。 釈然としないまま、僕は①と番号を振られたノートを開いてみた。       200▲年2月26日   『はい、おーしまい』     日付は、4年前の今日だ。 1ページ目に、女の子らしい丸っこい文字で書かれているのは、それだけ。 あまりにも唐突な書き出しに、失笑を禁じ得なかった。   「なんだ、こりゃ?」   そんなセリフが、口を衝いて出る。それしか言いようがなかった。 一体全体、どうして、こんなものが僕の部屋にあるんだろう。 ...
  • 第十六話  『出逢った頃のように』
        なんとしても、喉から手が出るほどに、この身体が欲しい。 それも、なるべく綺麗な状態で。 故に、『彼女』は、このまま喉を噛み続けて、縊る手段を選んだ。   ナイフで急所を突いたり、喉笛を斬るなんて、まったくもって問題外。 手や荊で絞め殺すのも、頸に一生モノの痣が残ってしまうかもしれない。 その点、ちょっとくらいの噛み傷なら、数日もすれば癒えて、目立たなくなろう。 喉元なら、チョーカーなどのアクセサリで隠すことも可能だ。   程なく、コリンヌが痙攣を始めた。 肌に食い込ませた歯に、なにかが喉を駆け上がってゆく蠕動が伝わってくる。 密着させた下腹部にも、温かい湿気が、じわり……。 嘔吐と失禁――窒息から死に至る際の、典型的な兆候だった。 ここまでくると酸欠で脳が麻痺するので、苦しみはもう感じず、むしろ気持ちいいのだとか。   実に上々。もうすぐ、コリンヌの息吹は永久に絶えて、理想の器が手...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』Act.2
      『ひょひょいの憑依っ!』Act.2 ――チュンチュン……チュン カーテンを取り付けていない窓辺から、朝の光が射し込んできます。 遠くに、早起きなスズメたちの囀りを聞きながら、ジュンは布団の中で身を捩りました。 春は間近と言っても、朝晩はまだまだ冷え込むのです。 「……うぁ~」 もうすぐ会社の新人研修が始まるので、規則正しい生活を習慣づけないと―― そうは思うのですが、4年間の学生生活で、すっかりグータラが染みついてるようです。 結局、ぬくぬくと二度寝モードに入ってしまいました。 すると、その時です。 「一羽でチュン!」 ジュンの耳元で、聞き慣れない声が囁きました。若い女の声です。 寝惚けた頭が、少しだけ目覚めます。 「二羽でチュチュン!!」 小学校に通学する子供たちの騒ぎ声が、近く聞こえるのかも知れません。 うるさいなぁ。人の迷惑も考えろよ。胸の内で、大人げなく...
  • 気ままにヘタレ日記 2
    春一番が 小さな過去へと 遠くなる六月――このフレーズでピン! ときた人は、TUBEのファンかも知れない。――とまあ、心待ちにしていたGWも呆気なく過ぎてしまいまして。気付けば6月と相成っておりました。連休中の豪遊に加えて、自動車税やら、値上がりしたガソリン代やら……だいぶ出費が嵩みましたね、ええ。賞与待ちの日々です。まあ、どんなコトにも対価はつきもの。便利さの代償ですな。ひとまず気を取り直して、月が変わったついでに、ここも2ページ目に突入。さてさて、月のアタマから、終わりについて語るのもどうかと思いつつ、ローゼンメイデン最終回について。まあ、詳しくは書きません。コミックス発売を待って、読む人も居ますからね。――ただ、私見を言うと、アレはあれで、ありだな……と。言うなれば 『不完全な完成品』 ってトコです。B級映画チックな。不完全だと、その不完全さ故に、補完したいという欲求を引き出すのです...
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