夢追人の妄想庭園内検索 / 「『君と、いつまでも』」で検索した結果

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  • 『君と、いつまでも』
      『君と、いつまでも』 柔らかな春の日射し。 桜舞う校庭を吹き抜ける風は、まだ冷たい。 今日から三年生。薔薇学園で過ごす最後の一年。 玄関前に、新しいクラス編成が貼り出されていた。 それを食い入るように見詰める私と、ジュン。 お互いの名前を見付けて、ほぼ同時に、吐息する。 僅かに白くなった息が、春風に流されて、消えた。 「また、貴方と同じクラスになったのだわ」 「本当に、ここまで来ると腐れ縁だよな」 まさか、三年連続で同級生になるなんて、思ってもみなかった。 腐れ縁……か。せめて『運命の悪戯』とかロマンチックなことを言って欲しい。 そういうところで、ジュンはデリカシーと言うものが無かった。 下駄箱に続く階段を登りかけて、ジュンは立ち止まり、振り返った。 「――いつまでも、一緒に居られるといいな」 よく見なければ気付かないほど小さな微笑み。 私は小走りに彼を追い掛けて、耳...
  • 保管場所 その2
    ...』 『秘密の庭園』 『君と、いつまでも』 『退魔八紋乙女・狼漸命伝』~御魂の絆~ 『愛って、なんですか?』    (※百合) 『貴女のとりこ』    (※百合) 『甘い恋より 苦い恋』 『寝かせた恋は 甘い恋』 『褪めた恋より 熱い恋』 『約束の場所へ』    (※百合) 『家政婦 募集中』 『山桜の下で』 『ひょひょいの憑依っ!』 『ある休日のこと』 『Panzer Garten』 †アリスの胎動† 『冬と姉妹とクロスワード』 『メビウス・クライン』 『孤独の中の神の祝福』    (※百合) 『誰より好きなのに』『パステル』『カムフラージュ』【愛か】【夢か】『歪みの国の少女』 ~繋げる希望~【雨の】【歌声】『七夕の季節に君を想うということ』【みっちゃんの野望 覇王伝】 ・短編『夢うつつ』 『春の夜は……』 『理想郷 ~イーハトーブ~』 『川の流れは絶えずして』 『Working g...
  • ―弥生の頃 その4―
          ―弥生の頃 その4―  【3月18日  彼岸】 穏やかに晴れた、土曜日の朝。 翠星石は、ベッドに横たわったまま両手を天に突き出し、大きな欠伸をした。 ひんやりとした空気に触れても、眠気はなかなか引かない。 普段の週末ならば、ここで二度寝モードに突入するところだ。 しかし、今日は、そうも行かなかった。 毎年、彼岸の入りに墓参りをすることは、柴崎家の恒例行事である。 墓前で、亡き祖先や両親を偲ぶ日だった。 彼岸――とは、春分・秋分の日の、前後三日を含めた七日間を言う。 気候の変わり目とされ、仏教で言うところの『さとりの世界』でもある事から、 多くの寺で法会が催される。 柴崎家の檀那寺でも、春と秋の彼岸には法会が執り行われ、多くの人が訪れていた。 「さぁて……そろそろ、起きるですぅ」 枕元の時計を手にして、ディジタル表示の時刻を見ると、既に八時を回っていた。 昨夜、十時...
  • エピローグ 『ささやかな祈り』 3
        鐘の櫓を『コ』の字に囲むフェンスには、夥しい数の南京錠が、くくりつけてあった。 結ばれるための、おまじない。女の子の心情としては、こういうの、嫌いじゃない。   「ね、ね。折角ですから、私たちも、記念に鳴らしましょうよ。それから、アレも!」 「えぇ? アレって……南京錠なんか持ってきてないよ」 「ここの入り口にあった売店に、売ってましたよ」 「そうだった? 気づかなかったな……。よし、ちょっと待ってて。買ってくるから」   彼を待つ間、私は案内板の『天女と五頭龍』伝説でも読むことにした。 この地に棲みついて悪事を働いていた五頭龍が、江ノ島に降り立った天女に恋をして、 更生することを誓い、天女と結ばれた――という。いつの時代も、こういったロマンスは好まれるものね。 さしずめ、私は悪い龍かしら。そして彼は、私の前に、突如として降り立った天女の役で……。   「やあ、お待たせ! 買ってき...
  • 最終話  『永遠』 -後編-
    蒼星石の問いを、澄ました顔で受け止め、二葉は言った。 「ラベンダーの花言葉を、知っているかね?」 訊ねる声に、少しだけ含まれている、気恥ずかしそうな響き。 花言葉という単語は、男がみだりに使うべきものではないと…… 女々しいことだと、思っているのだろうか。 いつまでも黙っている蒼星石の様子を、返答に窮したものと見たらしく、 翠星石が助け船を出すように、口を挟んだ。 「あなたを待っています……ですぅ」 二葉は満足げに頷いて、まるでラベンダーの庭園がそこにあるかの如く、 ティーカップを並べたテーブルに、優しい眼差しを落とした。 「中庭のラベンダー。実を言うと、あれは僕が育てたものだ」 「結菱さんが? と言うか、よくラベンダーの種を持ってましたね」 「まったくです。用意がいいヤツですぅ」 「……ふむ。君たちは、まだ来たばかりだから、そう思うのも仕方ないか」 なんだか言葉が噛み合っ...
  • 『パステル』 -4-
       ◆   ◇ 「あはははっ! ねえ、見て! 真紅ぅ!」 アタマの芯にまで響いてくる、うら若い娘の、無邪気で嬉々とした声。 「みんな元気に……いい感じに育ってくれてるわぁ」 ――ここは? はたと我に返って、真紅は静かに、ぐるり見回す。 目に飛び込んできたのは、猫の額ほどの畑と、灌木の列―― 忘れるはずもない。水銀燈と2人で、山の中腹に拓いた、最初の茶畑だった。 「もう。どぉしたのよぉ、ボ~っとしちゃってぇ」 のんびりとした、それでいて気遣わしげな声に誘われ、ゆるゆると顎を引くと…… 「大丈夫?」と言わんばかりの顔をした銀髪の幼なじみと、視線がぶつかった。 彼女は茶樹のそばに両の手と膝を突いて、茫然と立ち尽くす真紅を見あげていた。 また、なのね。真紅には口の中で、そう呟いていた。 解っている。これは、女々しさというスクリーンに...
  • 第十九話  『きっと忘れない』
    射し込む朝日を瞼に浴びせられて、蒼星石を包んでいた眠りの膜は、穏やかに取り払われた。 なんだか無理のある姿勢で寝ていたらしく、身体が疲労を訴えている。 ベッドが、いつもより手狭な気がした。それに、とても温かい。 まるで……もう一人、収まっているみたい。 もう一人? 朦朧とする頭にポッと浮かんだ取り留めない感想を、胸裡で反芻する。 ――なんとなく、ぽかぽか陽気の縁側に布団を敷いて昼寝した、子供の頃が思い出された。 あの時、背中に感じた姉の温もりと、今の温かさは、どこか似ている。 ココロのどこかで、まだ、翠星石を求め続けている証なのだろう。 (夢でもいい。姉さんに逢えるなら) もう少し、夢に浸ろう。蒼星石は目を閉じたまま、もそりと寝返りを打ち、朝日に背を向けた。 途端、そよ……と、微風に頬をくすぐられた。 それは一定の間隔で、蒼星石の細かな産毛を揺らしていく。 次第に、こそばゆさが募って...
  • 第16話  『この愛に泳ぎ疲れても』
    どちらかを、選べ―― そう言われたところで、蒼星石の答えは、既に決まっていた。 こんな場所まで歩いてきた今更になって……躊躇いなど、あろうハズがない。 二つの目的を果たすためならば、地獄にすら、進んで足を踏み入れただろう。 ただ夢中で、翠星石の背中を追い続け、捕まえること。 そして、夜空に瞬く月と星のように、いつでも一緒に居ること。 たとえ、それが生まれ変わった先の世界であっても――ずっと変わらずに。 蒼星石は無言で、右腕を上げた。そして……偶像の手を、しっかりと握った。 置き去りにする人たちへの後ろめたさは、ある。 けれど、今の蒼星石のココロは、出航を待つ船に等しい。 姉を求める気持ちの前では、現世への未練など、アンカーに成り得なかった。 過ちを繰り返すなと諫めた声など、桟橋に係留するロープですらない。 「いいのですね?」 こくりと頷きながら、なんとは無しに、蒼星石は思ってい...
  • 『煌めく時にとらわれ・・・』
      はじめに これはJKスレ最終回に、間に合わせで書き上げたSSです。 最後でしたから、スレタイ物として完成させました。 それがケジメかな……と、勝手な解釈をして。  《使用しているスレタイ》 【寒い季節 二人で・・・・】  【春は もうすぐ♪】 【さよならは 言わないよ】 【花咲く頃は 貴方といたい】 【ねぇ 手、つなご?】    【笑顔が咲く季節】 【この気持ち 忘れない☆】   『煌めく時にとらわれ・・・』 ――春先にありがちな強い風が吹く、小雨降る一日だった。 舞い落ちた桜の花びらは濡れた地面に貼り付き、踏みしだかれていく。 沈鬱な空模様と相俟って、校門をくぐる誰の足取りも、重い……。   今日、私立薔薇学園高等学校は、卒業式を迎える。 整然と椅子が並べられた体育館に、穏やかな曲が流れ続ける。  「意外に、あっけないもんだな」 在学中は、あんなに早...
  • ―葉月の頃 その8―
          ―葉月の頃 その8―  【8月24日  湯屋】②     朝―― まさにペールギュント第一組曲の『朝』が、どこかから聞こえてきそうな、 とても清々しい山の朝を迎えた、午前八時のこと。 朝餉の席を囲む誰もが、質素ながら「これぞ純和風!」と言わしめる朝食を前に、 目を輝かせる。ご当地ならではの食事を楽しむのも、旅の醍醐味なのである。 ところが…… 大広間に顔を揃えているのは、7人。 そのため、美味しそうな山の幸を前にしていながら、誰ひとりとして、 料理に箸をつけられずにいた。 やっと身体も目覚め始めて、お腹が空いてきた頃合いだけに、これは拷問に近い。 雪華綺晶に至っては、じぃーっと料理を凝視して、ソワソワ肩を揺すっていた。 ここで膳を片づけようものなら、誰彼かまわず、痛快まるかじりしそうな雰囲気である。 ……と、徐に大広間のふすまが横すべりして、翠星石が仏頂面を覗かせた...
  • 『メビウス・クライン』
      何年かぶりで部屋の掃除をしていたとき、奇妙なモノを見つけた。   押入の隅に眠っていた、うっすらと埃の積もった菓子の化粧箱。 持ってみると、ズッシリ重い。 なにが入ってるんだ、これ? 窓の外で埃を払って、箱を開いてみた。   収められていたのは、どこにでも売っているB5版50枚つづりの大学ノート。 それが、実に8冊も収められていた。こんなもの、しまった憶えはない。 釈然としないまま、僕は①と番号を振られたノートを開いてみた。       200▲年2月26日   『はい、おーしまい』     日付は、4年前の今日だ。 1ページ目に、女の子らしい丸っこい文字で書かれているのは、それだけ。 あまりにも唐突な書き出しに、失笑を禁じ得なかった。   「なんだ、こりゃ?」   そんなセリフが、口を衝いて出る。それしか言いようがなかった。 一体全体、どうして、こんなものが僕の部屋にあるんだろう。 ...
  • 『約束の場所へ』 第三話
    金縛りのせいで、瞼が開かなかった。見えないことで、恐怖がいや増す。 ぐい……と、足を引っ張られる感覚。 何者かが私の足に掴まって、ぶら下がっている。 程なく、私の両脚は、闖入者の両腕に掴まれてしまった。 しかも、フリークライミングでも楽しむかの様に、登ってくるではないか。 右手、左手、右手、左手……交互に繰り返しながら。 素足の爪先を、さらりと撫でていく謎の物体。 感触からして、髪の毛だと見当が付いた。 足首から脹ら脛、次は、膝、太股……と、冷たい手が掴みかかってくる。 ああ……来る。 どんどん、どんどん…………登ってくる。 ぞくぞくと背中を震わせる快感が、甘美な死を携えて、私の頭に駆け上がってくる。 闖入者の腕に力が込められる度に、引きずり下ろされそうな感覚。 実際、私の身体は少しずつズレていって、今や、頭が枕から落っこちていた。 でもね、そのままズレて、ベッドからずり落ちたりはし...
  • 第十六話  『出逢った頃のように』
        なんとしても、喉から手が出るほどに、この身体が欲しい。 それも、なるべく綺麗な状態で。 故に、『彼女』は、このまま喉を噛み続けて、縊る手段を選んだ。   ナイフで急所を突いたり、喉笛を斬るなんて、まったくもって問題外。 手や荊で絞め殺すのも、頸に一生モノの痣が残ってしまうかもしれない。 その点、ちょっとくらいの噛み傷なら、数日もすれば癒えて、目立たなくなろう。 喉元なら、チョーカーなどのアクセサリで隠すことも可能だ。   程なく、コリンヌが痙攣を始めた。 肌に食い込ませた歯に、なにかが喉を駆け上がってゆく蠕動が伝わってくる。 密着させた下腹部にも、温かい湿気が、じわり……。 嘔吐と失禁――窒息から死に至る際の、典型的な兆候だった。 ここまでくると酸欠で脳が麻痺するので、苦しみはもう感じず、むしろ気持ちいいのだとか。   実に上々。もうすぐ、コリンヌの息吹は永久に絶えて、理想の器が手...
  • ―葉月の頃 その7―
          ―葉月の頃 その7―  【8月24日  湯屋】① 闇と虫の声に包まれていた山の夜が、ひっそりと明けゆく頃―― 翠星石もまた、夢を見た憶えのないまま、浅い眠りから覚めた。 開け放した障子の向こう、窓越しに仰ぎ見る東の空は、仄白い。 まだ未練がましく居残っている夜の部分さえも、もう淡い紫に色づいていた。 夏の夜明けは早いものながら、こんなに早起きしたのは、久しぶりだった。 空気のニオイとか、マクラや布団が違ったせいかも知れない。 ここ最近、翠星石がベッドを起き出すのは、午前8時を過ぎたくらい。 気温が上がって、暑苦しさに耐えかねた挙げ句に、仕方なく起きるのである。 (ん……いま、何時ですかぁ?) 時間を気にしながらも、翠星石は既に、二度寝モードに突入しかけていた。 抜けきらない眠気に一寸すら抗おうともせず、腫れぼったくて重たい瞼を瞑る。 いつもの調子で、ふぁ――と、大...
  • ~第五章~
        ~第五章~ かつて激戦の末に陥落した安房津城は、誰にも省みられることなく風雨に曝され、 荒れるに任せていた。門や壁の殆どが崩落し、僅かに残る屋根瓦の間から、 雑草が好き放題に生い茂っている。 焼け跡の残る柱も徐々に傾ぎ始めており、いつ潰れてもおかしくはなかった。 無論、そんな物騒な場所に寝起きする者など居ない。 人が寄りつかないことで、廃墟には一層おどろおどろしい雰囲気が漂いだして、 それが更に、人々の脚を遠のける原因になっていた。 そんな廃墟の中を、滑るが如く移動する影がひとつ。 鬼祖軍団・四天王の一人、笹塚だった。 彼は謁見の間に踏み込むと、ささくれ立った畳の上に、どっかと胡座を掻いて頭を垂れた。  「御前様、おはようございます」  「……笹塚か。このような朝早くから、何用か?」  「ははっ。実は、よい報せを三つばかり、お耳に入れたくて足を運んだ次第で」  「ほぅ。よき...
  • 『いつわり』
      鏡に映る、若い娘。 ――それは、私。他の誰でもない、自分自身。 湯上がりの、薄桃色に染まった肌から幽かに立ちのぼる淡い色香は、 いくらも保たずに、濡れたままの洗い髪へと溶けてゆく。 なにも……変わらない。変わってなどいない。 瑞々しく細い喉、胸元を点々と飾るホクロ、薄蒼く血管の浮いた白い肌。 全ては、いつもどおりの、見慣れた景色。 「ステキな身体……私のカラダ……」 鏡の中の自分に見とれながら、そんな戯れ言を、口にしてみた。 夢の中で、いつも逢う彼女が、熱っぽい吐息と共に囁く言葉を。 だけど、彼女の姿は、ハッキリと思い出せない。 白いモヤモヤしたイメージしか、残っていない。 ここ最近、毎晩のように、同じ夢を見ているというのに。 そのくせ、彼女の声だけ、不思議と明瞭に憶えているのは、何故? 実際に、鼓膜が震わされた感覚が、刻み込まれているのは、何故? 「どうして、あんなワケの...
  • 橋の端に立てる箸
          『橋の端に立てる箸』 老善渓谷には、縁結びの吊り橋というのがある。 二人で一緒に渡ると、永久に結ばれるんだそうだ。 なんともまあ、下らない言い伝えだけど――  「ほら、ジュン。早く行くですよ」 嬉々として、気乗りしない僕を引き摺っていく翠星石。 女の子というのは、どうしてこう占いやら、おまじないが好きなんだろう。  「解ったから、そんなに引っ張るなよ」  「ジュンがグズグズしてるからです。   男のクセに、しゃきっとしやがれです」  「はいはい……」 『日曜日、一緒に遊びにいくです』と誘われて、喜び勇んで出発したのに、 まさか……目的地が、こんな場所とはなぁ。 でもまあ、翠星石と二人きりで遊ぶのも珍しいから、今は楽しんでおこう。  「ここかぁ……って、うへぇ高い」 吊り橋の袂から下を覗くと、遙か下方に、渓流の白い筋が見えた。 あそこから、ここまで、一体どれくらい...
  • 第十二話  『君がいない』
    始業のチャイムが、校舎に静寂をもたらす。 医薬品のニオイが仄かに香る部屋に、翠星石は独り、取り残されていた。 保健室の周囲には、教室がない。 さっきまで居た保健医も、今は所用で出かけたきり。 固いベッドに横たわり、青空を眺める翠星石の耳に届くのは、風の声だけだった。 「蒼星石――」 青く澄みきった高い空を横切っていく飛行機雲を、ガラス越しに眺めながら、呟く。 胸裏を占めるのは、妹のことばかりだった。 「あの夜……蒼星石の気持ちを受け止めていれば、良かったですか?」 でも、それは同情しているだけではないのか。 可哀相だからと哀れみ、抱き寄せて、よしよしと頭を撫でてあげるのは容易い。 今までだって、ずっと……蒼星石が泣いていれば、そうしてきた。 しかし――ふと、自分の内に潜んでいる冷淡な翠星石が、疑問を投げかける。 お姉さんぶって、妹を慰めながら、優越感に浸っていたのではないか? ...
  • ―水無月の頃 その2―
          ―水無月の頃 その2―  【6月6日  芒種】後編 みんながまだ、幼稚園児だった頃、記念に埋めたタイムカプセル。 まさか、こんなカタチで掘り返すことになるなんて、誰が予想しただろうか。 「何を入れたのか、もう自分でも忘れちまったですよ」 ベタベタと絡み付くガムテープに閉口しつつも開封を諦めない真紅の手元を、 翠星石はジッと見守りつつ、暢気に独りごちた。 真紅を手伝おうなんて気持ちは、端っから無い。 それ以前に、幼い頃、自分が納めた物が何なのかが気懸かりで仕方なかった。 他人への配慮など、二の次になっていたのだ。 ねちゃぁ……と、いやらしく糸を引いて、最後のガムテープが引き剥がされた。 「……ふぅ。やっと開いたのだわ」 真紅は詰めていた息を吐き出して、額に浮かんだ汗を、手の甲で拭った。 その拍子に、偶然、指にこびり付いていたガムテープが、真紅の前髪に絡み付く。 「...
  • エピローグ
     「もう、朝……」 よく眠った。夢さえ見ないほどに深く。 そもそも、いつ床に就いたっけ? 書き物をしていた記憶は、漠然と浮かぶけれど。それから後のことは……。 ……まあ、いい。 これから紡がれる、新たな思い出に比べたら――すべて瑣末なこと。 私はベッドを抜け出して、勢いよく、カーテンを開いた。 窓辺にたむろしていたスズメたちが、驚いて、一斉に飛び立った。 よく晴れてる。防波堤の向こう、遙かな沖合まで、すっかり見渡せる。 1日の始まりとしては、申し分ない。 顔を洗い、着替えてから、お母さまの人形に、朝の挨拶をする。 端から見たら、アタマの弱い子だって思われるだろうが、別に構わない。 そうすることで、私は少なからず、安らぎを覚えているのだから。 お父さまが、どういう意図で、この人形を作ったのかは判らないけど……今では感謝していた。 ...
  • 『奔流の果てに』
      『奔流の果てに』 老善渓谷は折からの集中豪雨で増水していた。 降りしきる雨の中、激流に浚われまいと必死で岩にしがみつく人影が二つ。  「おい! 絶対に諦めんじゃねぇぞ!」  「あ? なんだって? 聞こえないよ!」 轟々と落ちる水の音が、二人の会話を完全に遮る。 これでは意志の疎通もままならない。 ジュンも頭と腕に負傷しているし、いつまでもこうしている訳にはいかなかった。  (この天候じゃあヘリも飛ぶまい。どこか、休めそうな場所はないのか――) 先行するベジータは、顔を打つ雨と水飛沫に目を顰めつつ、周囲を見渡した。 岩の、ちょっとした窪みでも良い。奔流に滑落する畏れがなくなるならば。  (俺ひとりなら、麓まで飛んで行けば良いだけなんだがな) 自分の素性を知られる訳にはいかなかった。 だからこそ、今まで馬鹿なフリをしてでも、周囲の目を誤魔化し続けてきたのだ。 たとえジュンが...
  • 最終話  『Good-bye My Loneliness』
    1日が10日になり、1ヶ月が経ち、いつの間にか4年という歳月が過ぎて―― 翠星石の居ない日々が、当たり前の日常となりつつあった。 祖父母や、巴や水銀燈や、かつての級友たち…… 双子の妹として、誰よりも長い時間を一緒に過ごしてきた蒼星石ですらも、 彼女の存在を、だんだんと遠く感じ始めていた。 ――薄情だろうか。 そう。とても、酷薄なことかも知れない。 ただ会えないというだけで、どんどん記憶の片隅に追いやってしまうのだから。 でも……それは、ある意味、仕方のないこと。 生きている者たちをマラソン選手に喩えるならば、 翠星石はもう、道端で旗を振って声援を送る観客の一人に過ぎない。 それぞれのゴールを目指して走り続けなければならない選手たちは、 いつまでも、たった一人の観客を憶えてなどいられないのだ。 それほどまでに、現代社会は目まぐるしく、忙しない。 高校卒業。大学入試、入学。成人式。...
  • 最終話  『永遠』 -前編-
    ――眩しい。 蒼星石が最初に感じたのは、瞼をオレンジ色に染める明るさだった。 だんだんと意識が覚醒するに従って、単調な潮騒と、ジリジリと肌を焼く熱さ、 全身の気怠さなどが、感じられるようになった。 (? あぁ…………そうか) のたくたと回転の鈍いアタマが、やっと状況を理解し始める。 昨夜、いつまで起きていた? 憶えてない。だいぶ夜更かししたのは確かだ。 二人とも疲れ切って、そのまま眠り込んでしまったらしい。 「ぁふ……もう朝なんだ?」 重い瞼を、こすりこすり。 うっすらと開いた目の隙間から、強烈な光が飛び込んできて、アタマが痛くなった。 顔の前に腕を翳して日陰をつくり、徐々に、目を慣らしてゆく。 どこまでも高く蒼い空と、絵の具を溶いたような白い雲が、そこにあった。 ――が、次の瞬間、蒼星石は目を見開いて、黄色い悲鳴をあげていた。 その声を聞きつけて、隣で寝転がっていた翠星石も、...
  • 1947.4.19 未明
          1947.4.19 未明   “兎の砦”     LM計画――それは、真紅が初めて耳にする言葉だった。 それも、当然のことだ。国家的な極秘プロジェクトを、一個人が知る術はない。 たとえRM計画の主任だった男の娘であっても、例外ではなかった。   「槐さん……その、LM計画って、なんなの?」 「LMとは――」   槐は、まるで禁忌の呪詛の詠唱を躊躇うかのように、暫し、口を噤んだ。 室内が静寂で満たされ、僅かな仕種の衣擦れでさえ、ハッキリ聞こえる。 真紅は、逸る気持ちを抑えながら、槐の言葉を待ち続けていた。     「LMとは『Laplace Material』の頭文字なのだよ」 「ラプラス……素材?」 「真紅。君は、ラプラスの悪魔という言葉を、聞いたことがあるかい?」   彼の問いに、真紅は首を横に振る。だいたい、悪魔だなんて縁起でもない。 それが当然の反応と言わんばかりに、槐は...
  • 『黄昏と、夜明けの記憶』
      『黄昏と、夜明けの記憶』  【――ダメって言われたら、どうすればいい?】 放課後の教室。二人だけの世界。 今日……勇気を振り絞って、ジュンは何年間も胸に秘め続けた想いを伝えた。  「これからも、ずぅっと……一緒に居てね」 不安に押し潰されかけていた臆病な少年の胸に、彼女の言葉が届く。 夕日射す窓辺で、彼女は柔らかく微笑み、ジュンの想いに応えてくれた。  「もちろんさ。僕は、ずっとキミの側に居るよ。約束する」 そして、ジュンも誓いの言葉を口にする。 それだけの事でしかないのに、心が幸福に満たされていくのが分かった。 一歩、二歩……。なんだか、踏み出す足下がおぼつかない。 高熱に浮かされているみたいだと、ジュンは思った。 体育で使う安全マットの上を歩いているかの様な、心許ない浮遊感。 やっとの想いで、腕を伸ばせば触れ合える距離に辿り着いたジュンは、 華奢な彼女の肩に手を遣っ...
  • 第十五話  『負けないで』
    かさかさに乾いた肌に引っかかりながら流れ落ちてゆく、紅い糸。 心臓の鼓動に合わせて、それは太くなり……細くなる。 けれど、決して途切れることはなくて―― 「……ああ」 蒼星石は、うっとりと恍惚の表情を浮かべながら、歓喜に喘いだ。 これは、姉と自分を繋ぐ、たった一本の絆。 クノッソスの迷宮で、テセウスが糸を辿って出口を見出したように、 この絆を手繰っていけば、きっと翠星石に出会える。 そう信じて、疑いもしなかった。 命を育む神秘の液体は、緩く曲げた肘に辿り着いて、雫へと姿を変える。 そして、大地を潤す恵みの雨のごとく、降り注ぎ…… カーペットの上に、色鮮やかな彼岸花を開かせていった。 「そうだ…………姉さんの部屋に……行かなきゃ」 足元に広がっていく緋の花園を、ぼんやりと眺めながら、蒼星石は呟いた。 自分が足踏みしていた間に、翠星石はもう、かなり先に行ってしまっている。 だから、...
  • 第20話  『悲しいほど貴方が好き』
    茨の蔦は、想像していた以上に太く、複雑に入り乱れている。 しかも、異常な早さで再生するから、始末が悪い。 一本の蔦を丹念に切り、取り除いていく間に……ほら、別の蔦が伸びてくる。 その繰り返しで、なかなか前に進めなかった。 すっかり夜の帳も降りて、降り注ぐ月明かりだけが、辺りを青白く照らすだけ。 翠星石は薄暗い茨の茂みに目を遊ばせ、蒼星石の手元を見て、またキョロキョロする。 彼女の落ち着きのなさは、不安のあらわれに違いない。 (早く、こんな茨の園を抜け出して、安心させてあげなきゃ) 焦れて、無理に切ろうとした鋏の刃が滑り、跳ねた茨が蒼星石の肌を傷付けた。 「痛ぃっ!」 しんと静まり返った世界に、蒼星石の小さな悲鳴が、よく響いた。 それを聞きつけて、翠星石は表情を曇らせ、蒼星石の隣に寄り添う。 「大丈夫……です?」 「あ、うん。平気だよ、姉さん。ちょっと、棘が刺さっただけだから」 ...
  • 『カムフラージュ』 2
    てっきり、今日が初対面だとばかり思っていたけれど、彼女は違うと言う。 それは……いつ、どこで? 僕は、何度となく記憶を辿ってみた。 だが、どれだけ脳内検索を繰り返したところで、悉く空振りに終わった。 鳶色のロングヘアー。紺碧の双眸。容姿端麗。 これだけキーワードを並べれば、直撃はせずとも、少しぐらい掠るだろう―― そんな僕の認識は、この会場にあるどんなデザートよりも、甘かったらしい。 眉間に皺を寄せ、ジリジリと回想に耽るも、所詮は悪あがき。 程なく、僕は溜息まじりに両手を肩まで上げて、彼女に掌を見せた。「ごめん。降参だ」 「私のこと、ホントに思い出せないんですか?」 「うん。きみみたいに可愛い女の子を忘れるなんて、考え難いんだけど」 なんて言ってはいるが、あり得ないことでもないと、僕は思っている。 メイク、ヘアスタイル、衣装やアクセサリ、光の加減、そ...
  • 『日常の、非現実』
          『日常の、非現実』     穏やかな日射しが降り注ぐ、春先のこと。 その日も水銀燈は、珍しく独りで下校していた。これで、二日連続だ。 普段なら、大抵、薔薇水晶がくっついているのだが、今日も今日とて彼女は居ない。 なんでも、ジュンと帰りがけに用事があるとか……。  「最近、あの二人って妙に仲が良くなったわよねぇ」 校門で待ち合わせして、親しげに腕を組み、駅前の方角へ去って行く二人。 彼等の背中が頭の中に浮かび、水銀燈は慌てて、妄想を止めた。 ちょっとだけ、嫉妬心が頭をもたげる。 暫く前なら、薔薇水晶は水銀燈にベッタリだった。 まあ、今でも普段の学園生活ではベタベタだけれど、微妙に、以前と違う。 薔薇水晶の雰囲気が、全体的に変わったのだ。 それも、ごく最近になって、特に――  「思えば、バレンタインの頃から予兆みたいなものは、有ったわねぇ」 やたらと気合い入りまくってい...
  • 【愛か】【夢か】
    「おかえりなさい」 夜更けの非常識な来客を、凪いだ海のように穏やかな声が出迎えてくれた。 僕の前に佇む君に、あどけない少女の面影は、もうない。 けれど、満面に浮かぶのは、あの頃と何ひとつ変わらぬ夏日のように眩しい笑顔で。 「疲れたでしょう? さあ、入って身体を休めるかしら」 そんなにも屈託なく笑えるのは、なぜ? 君が見せる優しさは、少なからず、僕を困惑させた。 ――どうして? 僕のわななく唇は、そんな短語さえも、きちんと紡がない。 でも、君は分かってくれた。 そして、躊躇う僕の手を握って、呆気ないほど簡単に答えをくれた。 「あなたを想い続けることが、カナにとっての夢だから」 なんで詰らないんだ? 罵倒してくれないんだ? 僕は君に、それだけのことをした。殴られようが刺されようが、文句も言えない仕打ちを。 ここに生き恥を曝...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』Act.4
      『ひょひょいの憑依っ!』Act.4 ちゃぶ台に置かれた料理の数々が、ジュンの目を惹きつけます。 驚くべきコトに、それらは全て、金糸雀のお手製と言うではあーりませんか。 玄関を開けたときに、鼻腔をくすぐった美味しそうな匂いは、気のせいではなかったのです。 「ジュンの帰りを待ち侘びながら、あの女が持ってきた食材を使って、  お昼ご飯を作っちゃったかしら~」 金糸雀は、ニコニコと満面の笑みを浮かべながら、幸せそうに話します。 もし、ジュンが帰ってこなかったら、無駄になってしまうと考えなかったのでしょうか。 おっちょこちょいな、彼女のことです。そんな仮定など、していたかどうか……。 「ホントに、お前が作ったのか? 近所の食卓から、かっぱらって来たんじゃあ――」 「むぅ~。侮辱かしら。失礼しちゃうかしらっ!  この部屋から出られないカナが、そんなこと出来っこないじゃない」 「ああ、それ...
  • ~第三十一章~
        ~第三十一章~ 一瞬。ほんの一瞬だけ、雷光が夜空と大地を照らし出す。 それを追いかけるように、轟音が空気を震わせた。 木々の枝葉に溜まっていた滴が、一斉に流れ落ちて、泥濘の上で砕け散る。 その中を、泥水を跳ね上げ、疾走する四騎の影。 もうすぐ狼漸藩との國境。この先には、兵が常駐する詰所が必ず在る。 だが、耳を澄ませ、敵の気配を探るものの、激しく笠を叩く大粒の雨に邪魔されて探知できない。 邪気を辿ろうにも、忘れた頃に轟く雷鳴に阻害され、気の集中が巧くいかなかった。 頼れるのは、自分たちの視力と、培ってきた経験のみ。 突然、目も眩むほどの稲妻が空を切って、周囲を真昼のように明るくした。 目と鼻の先に浮かび上がる、國境の高い柵。 詰所の前では、何本もの槍の穂先が、冷たい輝きを放っていた。 やはり――全員の顔に、緊張が走る。 接近する蹄の音を聞きつけた穢れの者どもが、長槍を構えて...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』Act.3
      『ひょひょいの憑依っ!』Act.3 朝方のゴタゴタから心機一転、ジュンは梱包されていた品々の荷ほどきを始めました。 こういう事は、先延ばしにすると絶対に片づかないもの。 研修が始まれば、尚のこと、時間は割きづらくなるでしょう。 独り暮らしの荷物など、それほど多くありませんから、ここは一念発起のしどころです。 「いいか、邪魔すんなよ。ドジなお前が手を出すと、余計に散らかしかねないからな」 『ふーんだ! こっちからお断りかしら』 釘を刺すジュンの身体から、金糸雀はするすると抜け出して、アカンベーをしました。 ちょっと幼さを残す仕種は微笑ましいのですが―― (なんと言っても、天下無敵の自爆霊だもんなぁ) 触らぬカナに祟りなし。素晴らしい格言です。 やれやれ……と頭を掻きながら、服や食器などの日用品から開梱し始めます。 殆どの服は冬物で、夏服は6月のボーナスをもらったら、買い揃える...
  • 『パステル』 -3-
    雛苺は、まるで手品でも見るかのような眼差しを、真紅の所作へと注いでいた。 女主人は、客人の奇異な視線を気にする風もなく、片腕だけで紅茶を注いで見せる。 ひとつひとつの仕種が、無駄のない、習熟した職人の洗練された技を思わせる。 思わず見惚れてしまうほど、優雅だった。 「お待ちどおさま。さあ、どうぞ。冷めないうちに」 ティーカップを載せたソーサーが、ことり……。硬い音を立てて、雛苺の前に置かれた。 深紅の液体からは、温かな湯気と、得も言えぬ薫香が立ちのぼってくる。 ここで生産されている、真紅ご自慢の紅茶『ローザミスティカ』なのだろう。 お茶請けに……と、てんこ盛りの桜餅も供された。 けれど、上質の紅茶も、美味しそうなお菓子でさえ、雛苺の関心を惹ききらない。 無礼と承知しつつも、彼女の眼は、どうしても真紅の右肩へと向いてしまう。 ただならぬ気配を察したらし...
  • 『パステル』 -1-
    運命の巡り合わせ――とは、大概において、妄想。誤った思い込みである。 その場その時の雰囲気によって、偶然の産物でしかないものに、変なロマンを感じたに過ぎない。 しかし……ごく稀にではあるが、本当の必然にぶつかることもある。 たとえば、希有の品と、彼女の出会いのように―― 気紛れな誰かさんの、退屈しのぎの悪戯に、付き合わされた場合だ。 雛苺が、かつての同級生と約2年ぶりの再会を果たしたのは、3月のはじめ。 桃の節句と呼ばれる、麗らかな日のことだった。 美大生となって2度目に迎える、2ヶ月にもわたる長い春休み。 自転車での配達アルバイトに勤しんでいたとき、彼の家の前を通りがかったのだ。 懐かしい風景が、女子高生だった頃の記憶を、ありありと甦らせる。 かつては毎日、通学のために歩いた道も、今となっては随分と久しぶりだった。 いつも、彼の部屋の窓を...
  • 幕間1 『恋文』
        ひとりの乙女が綴った、手紙。 想いを包み込んだ、日焼けした封筒は、いま―― 知り合って間もない、純朴そうな男性の手の中に横たわり、眠りに就いている。   遠くて高い青空に、真一文字の白線が、引かれてゆく。 彼は、その飛行機雲を目で追いながら、ふぅん……と、呻るように吐息した。 そんな彼の横顔を見つめながら、私は温いコカ・コーラを口に含む。 ワインのテイスティングをするみたいに、そっと舌先で転がすと、しゅわぁ…… 弾ける泡の音が、耳の奥で、蝉時雨とひとつに溶けあった。     「大きなお屋敷に住んで、お抱えの運転手がいたり、使用人を雇ったり……  話を聞いてる限りじゃあ、君の家は、随分と資産家だったんだね」   やおら口を開いたかと思えば、その三秒後。 彼はいきなり、あっ! と大きな声をあげて、気まずそうに頭を掻いた。 本当に突然だったので、私は危うく、飲みかけのコーラで咽せ返りそう...
  • ~第四十六章~
          ~第四十六章~ 地底に広がる巨大な鍾乳洞を利用した謁見の間に、続々と穢れの者どもが沸き出してくる。 連中にとっては、複雑に入り組む枝道も、勝手を知りつくした我が家の廊下に等しいのだろう。 ありとあらゆる経路を使って、主君を護るべく殺到する様子は正しく、兵隊アリそのものだった。  「よもや、残滓――壊れた玩具の分際で、神魔覚醒まで行うとは思わなかったわ。   腐っても房姫の生まれ変わり、ということか」 鈴鹿御前は翼を閃かせて天井近くまで垂直上昇すると、陸続と押し寄せる兵士たちに 向かって、声を張り上げた。  「聞け! 我が忠実なる下僕たちよ!   我らを殲滅せんとする最大の宿敵は、今、我らが母の胎内にある。   これは、我らの滅びを意味しているのか?   否! 絶体絶命の危機ではない。寧ろ、最高の好機である!   今こそ、我らの前に立ちはだかる愚鈍な者どもを血祭りに上げ、   そ...
  • ~第四十五章~
          ~第四十五章~      「黙れっ! いい気になるなよ、小娘がっ!」 鈴鹿御前の斬撃が、真紅の身体を真っ二つに引き裂こうと迫る。 いくら潜在能力を覚醒させたと言っても、喩えるなら、産まれたばかりの赤ん坊。 今ならば、両断することなど、文字どおり『赤子の手を捻る』ようなものだった。 事実、鈴鹿御前はまだ、自らの勝利を揺るぎないものと信じていた。 ――その時、空を斬って、一陣の黒い旋風が駆け抜けた。 その気配に気づいたものの、鈴鹿御前は反応できなかった。 なぜなら、彼女が反応するより早く、ソレは到達していたのだから。 真紅を両断すべく振り降ろされる筈だった鈴鹿御前の剣は、 しかし、目的を果たすことなく、彼女の手首ごと吹き飛ばされた。 一瞬、何が起きたのか理解できなかった鈴鹿御前も、右手首から迸る漆黒の血と、 二の腕を駆け上がってくる激痛に、獣のような絶叫を上げた。  「あんまり調子...
  • 『超時空妄想メイデン ~スレタイ憶えていますか~』
      はじめに・・・ 本作は『ローゼンメイデンが女子高生だったら』で実際に使われたスレタイを SSに織り込んであります。お暇なら探してみるのも一興かも。   《キャスト》 うにゅー特戦隊   :水銀燈、真紅、翠星石、蒼星石、雛苺 チャブダイの騎士  :道化ウサギ(友情出演) ミスティカ女王ローザ:薔薇水晶 ミスティカ帝國戦闘員:笹塚、ベジータ 監督・脚本     :桜田ジュン 助監督       :柏葉巴、金糸雀 舞台演出      :金糸雀 衣装デザイン    :桜田ジュン、薔薇水晶、柏葉巴     《使用したスレタイ一覧》 【つかのまの青春】      【僕と君のサクラサク】  【新しい季節へ】  【おとなにはわかんない♪】 【僕は君を離さない】   【乙女の願い…】 【宿題は終わったかしら?】 【ひとときの安らぎを】  【一緒に食べよ?】 【学校が始まったのだわ】  【...
  • 『孤独の中の神の祝福』 中編
    訊けば、雪華綺晶は私と同じ歳だという。 彼女の落ち着いた雰囲気から、てっきり私より上だと思ってたけれど。 それとも、まさか、私が子供っぽいだけとかじゃ……ないわよね。 私たちは木陰の芝生に場所を移して、隣り合わせに腰を降ろした。 ヤブ蚊が出るかと危ぶんだけれど、ここには幸い、いないようね。 よかった。これなら、のんびりと話ができそう。  「あ、そうそう。ねえ、きらきー」  「きらきー?」  「言ってたでしょ、好きに呼んでもいいって。   だから、あなたは『天使きらきー』に決定!」  「……はあ。解りましたわ。よく分かりませんけど」 雪華綺晶は、キョトンとした面持ちのまま、頷いた。 そして、仕切りなおしとばかりに「ところで――」と、切り出す。  「初めに、なにか仰りかけてましたわね」  「あぁ、そうだったわ。ちょっと、教えてもらいたかったの...
  • ~第四十二章~
        ~第四十二章~ 鈴鹿御前は、白皙の裸体を真紅たちに見せ付けながら、石棺の縁を跨いだ。 そして、一歩一歩……彼女たちの方へと歩み寄ってくる。 鈴鹿御前の素足が、びちゃり、びちゃりと血溜まりを踏みしだく音が、 虚ろな空間に、不気味な反響を生み出していた。  「お前たちには、感謝せねばならぬな。めぐや巴を殺してくれたのだから」 圧倒的な威圧感に竦み上がる三人を一瞥して、鈴鹿御前は嘲笑を浴びせた。  「お陰で、わたしの御魂は再び、ひとつに集まることが出来た。   損壊していた肉体も――ほれ、このとおり、完全に蘇生したわ」  「くっ! どういうつもり?! 私に姿を似せるなんて」  「きっと、私たちの戦意喪失を狙いやがったですよ。あざとい奴ですぅ」  「おやおや……お前は忘れてしまったの、房姫?」  「私は、房姫じゃないわ。私の名は、真紅よ!」  「ふん……名前など」 ――どうでも...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』Act.8
      『ひょひょいの憑依っ!』Act.8 カナ縛りに捕縛された真紅は、声ひとつ出せず、指の一本すら動かせず…… 出来ることと言えば、にじり寄るビスクドールに、恐怖の眼差しを向けることだけ。 「来たわ来たわ来たわ。ついに、この時が来ちゃったかしらー!」 人形に取り憑いた金糸雀が、嬉々として、言葉を紡ぎだします。 地縛霊として、ずっとアパートの一室に閉じこめられていた彼女にしてみれば、 自分の意志で思いどおりに歩き回れることは、この上ない喜びでした。 でも、所詮は人形の身。まだまだ、不便なことが多々あります。 「苦節5年――やっと手に入れた自由だもの。これを活用しない手はないかしら」 わけても『死』という烙印は、とてつもなく重い枷でした。 自由になりたい。胸を焦がす渇望を潤したいのに……独りでは、何もできなかった日々。 でも、自由への扉を開く鍵――真紅の身体――は、今、目の前に転がっ...
  • ~第十一章~
        ~第十一章~ 手術は、実に五時間にも及んだ。 それでも、単独で執刀していた事を考えれば、驚異的な早さである。 通常ならば、少なくとも倍以上の時間を要する大手術だった。 この娘にとって幸運だったのは、刺された場所が良くて、臓器の損傷が少なかった事だ。 それに、金糸雀の所に運び込まれた事も――  「流石に、疲れたかしら~」 桶に汲んだ手水で血を流し終えた金糸雀は、棚の上の酒瓶に腕を伸ばした。 くいっ……と、もろみ酒を呷る。  「ふぅ~。甘露甘露……かしら」 酒は百薬の長。 疲れた時は、適度に飲酒して、気分を昂揚させるのが一番だ。 ――今夜は徹夜で、術後の経過を見守らねばならない。 感染症には充分すぎるほど配慮しているが、患者は極度に免疫力が落ちている。 他の患者よりも、細心の注意が必要だった。 金糸雀は、麻酔の効果で眠り続けている娘を見て、ふ……と、微笑した。  「...
  • ~第六章~
        ~第六章~ 巴の案内で訪れた湯治場は、とても小さな、隠し湯と呼ぶべきものだった。 ジュンと巴の他に、湯治客は居ない。 見張りを引き受けてくれた巴に感謝しながら、ジュンが鉱泉に身を沈めていると、 岩影から物静かな声が投げかけられた。  「桜田さま。お湯加減は、いかがですか?」  「少し熱めだけど、このくらいが丁度いいかな。それとさ、僕の事はジュンでいいよ」  「でも、お武家様に、そんな無礼は――」  「今の僕は、武士でもなんでもない。明日の糧にも困る、ただの浪人さ」  「あの……じゃあ、ジュン?」  「なんだい、柏葉さん」  「それだったら、わたしの事も、巴……って、呼んで欲しいな」 命の恩人の頼みだ。聞き入れない訳にはいかない。 ジュンは「わかった」と返事をして、今後の事を思案し始めた。 なんと言っても重要な問題は、路銀である。 幾らかの持ち合わせは有れど、実入りが無ければ...
  • 『真夏の夜の夢想』
          『真夏の夜の夢想』 ――七月下旬。 今日も、ぎらぎらと照りつける日差しが強い。 焼けたアスファルトから立ち上る熱気で、冷房の効いた講堂から出て三分と経たず、 蒼星石の額に汗が浮かんできた。  「ふわぁ…………暑い」 講堂では、カーディガンを羽織らなければ震えが走るほどだったのに……。 この急激な寒暖の差は、つくづく身体に悪い。 蒼星石は木陰のベンチにバッグを降ろして溜息を吐くと、 脱いだカーディガンを綺麗にたたんで、バッグに放り込んだ。   ♪マダ-イワナ-イデ-♪ その直後、バッグの中で鳴り出す着信音。電話だ。誰からだろう? ごそごそ……手探りで探し当てると、蒼星石はベンチに座って、携帯を耳に当てた。  「はい、もしもし……」  『やあ、蒼星石。僕だけど――いま時間、平気かな?』 受話器から流れ出す聞き慣れた声に、蒼星石の表情がほころんだ。 同じ大学に通...
  • 第十四話  『君に逢いたくなったら…』
    ぽっかりと抜け落ちた、パズルのピース。 過半数に及ぶ空隙に当てはまるスペアは無く、虚ろな世界が口を広げるのみ。 翠星石の部屋で、蒼星石は虚脱感の促すままに、くたりと寝転がって動かない。 目を閉ざせば、瞼の裏に焼き付いた光景が、色鮮やかに蘇ってきた。   息吹を止めた、姉――   すべすべで温かかった柔肌は、時と共に色を失い、冷たく固まってゆく――   まるで、精巧に作られた蝋人形のよう―― 「……イヤだ…………そばに来てよ、姉さん」 思い出すたび、飽くことなく繰り返される、嗚咽。 蒼星石は頭を抱え、身体を丸めて、溢れ出す涙を流れるに任せた。 それは短く切りそろえた髪を濡らし、姉の匂いが染みついたカーペットに馴染んでゆく。 しゃくりあげる蒼星石を、ふわりと包み込んでくれる、翠星石の残り香。 この部屋には、まだ確かに、姉の面影がひっそりと息づいていた。 それは、悲しみに暮れ...
  • 『カムフラージュ』 3
    寄り添いながら、パーティー会場を出て、エレベーターに向かう。 覚束ない足取りの彼女を支えているため、どうしても身体が密着しがちになる。 鼻先を、コロンの甘い薫りにくすぐられて、僕はクシャミをひとつ放った。 「普段から、あんまり飲まない方なのかい?」 「……んふぅ。実は、そうなんでぇ~すぅ」 「だったら、やっぱり、やめておこうか」 「うぅん。構いませんよぉ。今夜は、めいっぱい飲みた~い気分ですからぁ」 とても愉しいから、メチャクチャに酔ってしまいたいの。 じっくり噛みしめるように呟いて、彼女は白い腕を、僕の腰に絡みつかせた。 「連れていって。ね? もう少し、楽しくお喋りしましょぉ」 「――しょうがない娘だな。ま、誘ったのは僕だし、トコトン付き合うよ」 からっぽのエレベーターに乗り込んで、上へのボタンを押す。 僕らの目当ては、ホテルの最上階にある...
  • ―皐月の頃 その3―
          ―皐月の頃 その3―  【5月5日  端午】後編 宿泊先のホテルに戻るなり、泣き寝入りして、どれだけ経っただろうか。 翠星石が目を覚ますと、辺りは、すっかり暗くなっていた。 枕元のインテリアスタンドに付属しているディジタル時計を見遣ると、 時刻は既に、20時を過ぎている。中途半端に寝たために、軽く頭痛がした。 (……ちょっと、お腹が空いたですぅ) 頭痛と気怠さを押し切って、翠星石は、むくっと身を起こした。 見れば、窓側のベッドが、こんもりと盛り上がっている。 耳を澄ますと、雛苺の健やかな寝息が聞こえた。 「もう寝てやがるですか。呆れたヤツですぅ」 老人じゃあるまいし、幾らなんでも、午後八時に就寝だなんて早すぎる。 今日日、小学生でも夜更かしするというのに。 とは申せ、雛苺の心理が解らなくもなかった。 海外に来ていながら、テレビばかり見ているのは勿体ないし、 かと...
  • 『パステル』 -2-
    ――どこかで、カラスの群れが騒いでいる。 いつ聴いても、不安を掻き立てられる声だ。 近い。耳を澄ますまでもなく、気づいた。窓のすぐ外で啼いているのだ、と。 いつ籠もったのか記憶にないが、雛苺はベッドの中に居た。渇ききった喉が痛い。 腫れぼったい瞼を押し上げて、枕元の時計に目を遣れば、午前八時を少し回ったところ。 普段より30分ほど早い目覚めだった。カーテンの隙間から、眩い朝日が射し込んでいる。 まだ眠い――が、喧しいカラスを散らさないことには、二度寝もできそうにない。 指先で、目元を、こすりこすり……欠伸を、ひとつ。 その直後だった。なにか重たい物が、ドサッ! と、彼女の上に落ちてきたのは。 「ぴゃっ?! 痛ぁ……ぃ。もぉ、なんなの~?」 呂律の回らない口振りで、雛苺は頭を浮かせて、重みを感じる腹部を見遣った。 布団の上に、なにやら見慣れないモ...
  • ~終章~
        ~終章~     鈴鹿御前を討ち倒し、祓って凱旋した八犬士たちを、万民が諸手を上げて歓待した。 しかも、桜田藩の次期当主を奪還、救出してきたのだから、尚更のこと。 ジュンの父親は無論のこと、家老たちも、犬士たちの功績を認めた。   最早、蒼星石を平民の娘と蔑む者は、ひとりも居ない。 ジュンと彼女は、凱旋から数日の後に祝言を挙げ、死線をかいくぐってきた仲間たちや、 領民すべてに祝福されながら、晴れて夫婦となったのである。 ジュンは心から蒼星石を愛していたし、 蒼星石もまた、この世に彼を繋ぎ止めてくれた巴も含めて、ジュンを愛していた。 二人は寄り添い、城の天守閣から復旧していく街並みを見下ろしていた。 ちょっとだけ貫禄が増したジュンと、男装の麗人から一躍、美しい姫君となった蒼星石。 若い二人の姿を見て、人々の心には、新しい時代の到来を予感するのだった。  「ふふふっ」  「どうし...
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