夢追人の妄想庭園内検索 / 「『夢うつつ』」で検索した結果

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  • 『夢うつつ』
          『夢うつつ』    穏やかに晴れ渡る、春の空の下……。 薔薇水晶は自宅の窓辺に敷き詰めた布団の上で、黒猫と共に昼寝をしていた。 閉め切った窓から射し込む温かな陽光が、微睡みを深い眠りへと誘う。 なんて心地いいんだろう。 眠気に誘われるまま、薔薇水晶の意識は薄れていった。  「まったくぅ……待ち合わせの時間になっても来ないと思ったら」 その幸せそうな寝顔を眺めながら、水銀燈は微笑んだ。 春休みも今日で終わり。 みんなと待ち合わせて、目一杯、羽を伸ばす予定だったのに。 もう、間に合わないなぁ―― 水銀燈は携帯を取り出すと、真紅に電話をかけた。  「あ、真紅ぅ……ええ……それが、お昼寝中なのよぅ。そう……ごめんねぇ」 通話を切って、水銀燈は薔薇水晶の隣に、腰を降ろした。 降り注ぐ日射しを浴びていると、なるほど、確かに心地よい。  「ふぅん? ちょっと、横になってみよ...
  • 保管場所 その2
    ...望 覇王伝】 ・短編『夢うつつ』 『春の夜は……』 『理想郷 ~イーハトーブ~』 『川の流れは絶えずして』 『Working girls』 『古ぼけた雑貨店』 『いつわり』 『スタンド・バイ・ミー』『星合にて』『雨降る夜に』『巴チャンバラ』    ・連続短編翠×雛の『マターリ歳時記』   (※百合) 『お茶目だね、きらきーさん』 『Just believe in love』   (※百合) 『モノクローム』    (※百合)    
  • 第十五話  『負けないで』
    かさかさに乾いた肌に引っかかりながら流れ落ちてゆく、紅い糸。 心臓の鼓動に合わせて、それは太くなり……細くなる。 けれど、決して途切れることはなくて―― 「……ああ」 蒼星石は、うっとりと恍惚の表情を浮かべながら、歓喜に喘いだ。 これは、姉と自分を繋ぐ、たった一本の絆。 クノッソスの迷宮で、テセウスが糸を辿って出口を見出したように、 この絆を手繰っていけば、きっと翠星石に出会える。 そう信じて、疑いもしなかった。 命を育む神秘の液体は、緩く曲げた肘に辿り着いて、雫へと姿を変える。 そして、大地を潤す恵みの雨のごとく、降り注ぎ…… カーペットの上に、色鮮やかな彼岸花を開かせていった。 「そうだ…………姉さんの部屋に……行かなきゃ」 足元に広がっていく緋の花園を、ぼんやりと眺めながら、蒼星石は呟いた。 自分が足踏みしていた間に、翠星石はもう、かなり先に行ってしまっている。 だから、...
  • エピローグ
     「もう、朝……」 よく眠った。夢さえ見ないほどに深く。 そもそも、いつ床に就いたっけ? 書き物をしていた記憶は、漠然と浮かぶけれど。それから後のことは……。 ……まあ、いい。 これから紡がれる、新たな思い出に比べたら――すべて瑣末なこと。 私はベッドを抜け出して、勢いよく、カーテンを開いた。 窓辺にたむろしていたスズメたちが、驚いて、一斉に飛び立った。 よく晴れてる。防波堤の向こう、遙かな沖合まで、すっかり見渡せる。 1日の始まりとしては、申し分ない。 顔を洗い、着替えてから、お母さまの人形に、朝の挨拶をする。 端から見たら、アタマの弱い子だって思われるだろうが、別に構わない。 そうすることで、私は少なからず、安らぎを覚えているのだから。 お父さまが、どういう意図で、この人形を作ったのかは判らないけど……今では感謝していた。 ...
  • 気ままにヘタレ日記 1
    折を見ては、ちょこちょこと庭いじり。だんだんと庭園っぽく体裁が整ってきたかなぁ?とりあえず、今は『その他』の充実を検討中。元々はオリジナル創作がメインだったハズが、気付けば、こんなにも二次創作に本腰を入れていたり……。ま、気ままに行きまっしょい。 -- ヘタレ庭師 (2007-05-14 23 44 45) オリジナルの方も、だいぶ設定・内容が練れてきた。あとは、いつくらいから書き始めるか……ですが。書き出しさえスルリと進めば、勢いに乗れるんですけどね。まずは未掲載分の加筆修正か――それと、途中で止めっぱなしのモノを完結させないとね。アレとか、アレとか、アレも。それにしても……人間のカラダというものは、想像以上に頑丈なモノのようです。衰弱していくのが自覚できたのに、くたばるどころか、驚異の回復をみせてしまいました。いや~、健康ってホンっトに、いいもんですねぇ~。 -- ヘタレ庭師 ...
  • エピローグ 『ささやかな祈り』 2
        彼女と手を繋ぎ、雑踏を縫うように、長い橋を歩いていたら、ふと―― 昨夜、夢うつつに浮かんだ疑問が、頭に甦ってきた。   「あのさ、ちょっと気になってたんだけど」 「……なんでしょう?」 「結菱グループと言えば、国内でも屈指の巨大資本なんだよ。その影響力は、計り知れない。  そのトップに位置する人物なら……二葉氏ならば、大概のことは可能だったはず。  君のお祖母さんを探し、連絡をとることだって、できたはずなんだ。  それなのに、なぜ、彼は――それを、しなかったんだろう?」   そう訊いた僕を、彼女はまじまじと見上げて、やおら、口元を綻ばせた。   「してましたよ」 「えっ?」 「二葉さまは、お祖母様の安否を、ずっと気に掛けてくださってました。  だから、消息が掴めるなり、幾日と置かず、お手紙を出してくれたんです。  お互いの無事を喜ぶ内容と……近く再会して、フランスで一緒に暮らそう、...
  • ―葉月の頃 その7―
          ―葉月の頃 その7―  【8月24日  湯屋】① 闇と虫の声に包まれていた山の夜が、ひっそりと明けゆく頃―― 翠星石もまた、夢を見た憶えのないまま、浅い眠りから覚めた。 開け放した障子の向こう、窓越しに仰ぎ見る東の空は、仄白い。 まだ未練がましく居残っている夜の部分さえも、もう淡い紫に色づいていた。 夏の夜明けは早いものながら、こんなに早起きしたのは、久しぶりだった。 空気のニオイとか、マクラや布団が違ったせいかも知れない。 ここ最近、翠星石がベッドを起き出すのは、午前8時を過ぎたくらい。 気温が上がって、暑苦しさに耐えかねた挙げ句に、仕方なく起きるのである。 (ん……いま、何時ですかぁ?) 時間を気にしながらも、翠星石は既に、二度寝モードに突入しかけていた。 抜けきらない眠気に一寸すら抗おうともせず、腫れぼったくて重たい瞼を瞑る。 いつもの調子で、ふぁ――と、大...
  • ―如月の頃 その1―
          ―如月の頃―  【2月3日  節分】 二月――後期の期末考査が無事に終わると、学生たちの長い春休みも幕を開ける。 受験シーズンと重なるため、二月初頭から四月の中頃まで、休暇となるのだ。 補習やら卒論研究などの理由で、他の学生より少しだけ長く大学に通う者も居るが、 殆どの学生は、この長い休暇を思い思いに過ごす。 ある者は交遊にうつつを抜かし、また、ある者はアルバイトに精を出した。 翠星石はと言うと、専ら後者の方だった。 祖父母の家は自営業で、世間のお父さん方のように、定年退職があるワケではない。 けれど、時計屋という職業柄、安定した収入が望めないのも、厳然たる事実だ。 そこで、彼女は自発的にアルバイトをして、教科書代や交通費を稼ぐばかりか、 学費の補助として、月々五万円を家に納めていた。 そのくらいで事足りているのは、国立大に進んだからである。 私立大の学費となると、と...
  • 気ままにヘタレ日記 8
      -09’8.11   今年も半分が過ぎたので、後半分として日記も改ページ。   このところ、めっきり諸事に忙殺されてばかりですが、そこは要領よく進めていけばいいワケで。   普通の女の子スレ以外でも、なんやかや手慰みに書いてたりします。      さておき。かねてからの予定どおり、8/9の日曜日に、台場まで足を運んできました。   お目当ては無論、ようつべやdannychooのブログでも話題となった実物大ガンダムですがな。   今回は折角なので、JR田町駅から歩いてレインボーブリッジを渡り、台場入りを果たした!   画像は▼のとおり。(クリックで元画像サイズ)                    アンカレイジと呼ばれる、この建物から      お分かり頂けただろうか?   エレベーターで7階まで登ります。         なんて言われても、サムネじゃムリポ。   向かって右側となるサ...
  • 『ある休日のこと』
      『ある休日のこと』 なんとなーく気怠い、五月の日曜日の、午後のこと。 庭木の手入れを終えた翠星石は、髪を纏めているバンダナもそのままに、 リビングのソファに身体を横たえ、マターリとくつろいでいた。 穏やかな陽気と、休日の解放感。それに、庭いじりの軽い疲労も相俟って、 じっとしていると、なんだか……アタマが、ポ~ッと白く―― 昨夜は、小説を読む手が止まらなくて、ほんの小一時間くらいだけれど、 いつもより夜更かしした。それも、原因かも知れない。 ソロリ忍び足で近づいてきた睡魔が、妖しく腕を伸ばしてきて…… 翠星石の意識を、どこかに連れ去ってしまおうとする。 「……ぁふ……」 ちょっと気を許せば、ほら、お行儀悪く大欠伸。 翠星石は瞼を閉じたまま、もそもそと背中に当たるクッションを手探りして、 それをアタマの下に敷いた。たまには、睡魔に攫われてみよう。 数秒、据わりのいい位置を探し...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』Act.2
      『ひょひょいの憑依っ!』Act.2 ――チュンチュン……チュン カーテンを取り付けていない窓辺から、朝の光が射し込んできます。 遠くに、早起きなスズメたちの囀りを聞きながら、ジュンは布団の中で身を捩りました。 春は間近と言っても、朝晩はまだまだ冷え込むのです。 「……うぁ~」 もうすぐ会社の新人研修が始まるので、規則正しい生活を習慣づけないと―― そうは思うのですが、4年間の学生生活で、すっかりグータラが染みついてるようです。 結局、ぬくぬくと二度寝モードに入ってしまいました。 すると、その時です。 「一羽でチュン!」 ジュンの耳元で、聞き慣れない声が囁きました。若い女の声です。 寝惚けた頭が、少しだけ目覚めます。 「二羽でチュチュン!!」 小学校に通学する子供たちの騒ぎ声が、近く聞こえるのかも知れません。 うるさいなぁ。人の迷惑も考えろよ。胸の内で、大人げなく...
  • ―文月の頃 その4―
          ―文月の頃 その4―  【7月23日  大暑】 今日は大暑。一年で最も暑さの厳しい時期とされる、日曜日。 大学が夏期休暇に入るまで、残すは一週間となっていた。 明日の試験に備えて、机に向かっていた翠星石だが、勉強など手に着かなかった。 窓の外に眼を向ければ、カラリと晴れ渡った空の青さが目に滲みる。 気も漫ろで、胸が騒ぐ。ココロがざわめいて、仕方がない。 身体がウズウズして、ギラギラ照りつける日射しの下に、飛び出したい気分だった。 「あうぅ……あ、あと少し……我慢……するです」 なんて言いつつ、机の下では、そわそわと足踏みしている。 事情を知らない他人が見たら、トイレでも我慢しているのかと思っただろう。 だが、違う。待ちわびた至福の瞬間を目前にひかえて、落ち着けなかったのだ。 しかし……足踏み程度では、却って、気忙しさが募る感じだった。 時計を見遣ると、現在、午前10...
  • ―文月の頃 その2―
          ―文月の頃 その2―  【7月7日  小暑】 暦の上で小暑を迎えて、本格的な暑さに見舞われる時期が訪れたものの、 今年の梅雨は未だに明けず、連日、曇天が続いていた。 世間では小暑よりも、五節句のひとつ、七夕と呼ぶ方が一般的である。 駅構内や、駅ビルの地下街、ショッピング・モールも、七夕一色。 金曜日ということもあって、道行く人の足取りは軽く、どこか楽しげだ。 それも、そのはず。 駅前の商店街では毎年、市の協賛で、七夕祭りが盛大に開催されるのである。 しかも、今日は午後から雲が切れ始めて、久しぶりに陽が降り注いでいた。 案外、2、3日の後には、梅雨明けなのかも知れない。 翠星石と雛苺も、午後三時には大学の研究室を後にして、街に繰り出していた。 正しくは、人混みが苦手だからと渋る翠星石を、お祭り大好き娘の雛苺が、 有無を言わせず引っ張ってきたワケだが―― 二人が到着し...
  • 『パステル』 -11-
    「ごめんなさいね。急いでいるのに」 騒音と熱気を吐き出すドライヤーに負けまいと、有栖川が心持ち、声を大きくする。 彼女は今、三面鏡のついた年代物のドレッサーに向かって、洗い髪を乾かしていた。 「すぐに済ませるから、あと少しだけ待っててちょうだい」 「気にしないでいいのよー。それほど、急いでないから」 気忙しげにドライヤーとブラシを揺らす有栖川に、雛苺は悠々と応じる。 そうするように勧めたのは、雛苺だった。 3月の夜は、まだまだ冷える。湯冷めをされては困るから――と。 「お友だちの家で、夕飯ご馳走になるから遅くなるって、メールしておいたし。  学生になってからは、門限とかね、かなり大目に見てくれるようになったのよ」 「でもねぇ。女の子が夜遅くに帰宅するなんて、ご両親はいい顔しないでしょ」 「平気平気っ。終電にさえ間に合えば、ヒナは困らないんだもの...
  • ~第十八章~
        ~第十八章~ 初夏の風に揺れる木立のざわめきに、小鳥の囀りが混ざり合う。 長閑な雰囲気の中で、雛苺は竹箒を手に、境内の掃除をしていた。 この季節は、まだ掃除も楽だ。 秋ともなると落ち葉が酷くて、掃き集める側から、落ち葉が積もる有様だった。 もっとも、焚き火で作る焼き芋は、とても愉しみだったけれど。  「雛苺、ちょっと来なさい」  「うよ? はいなのー、お父さま」 竹箒を放り出すと、雛苺は小首を傾げながら、ペタペタと草履を鳴らして社殿に向かった。 どうしたのだろう? なんとなく、声の質が硬かったけれど……。 怒られるようなコト、したっけ?  「お父さま~、何のご用なのー?」  「おお、来たか。雛苺」 育ての父、結菱一葉は一通の書状を手に、硬い表情をしていた。 そう言えば、ついさっき……お城から早馬が来てたっけ。 雛苺の視線は、書状に釘付けとなった。  「お手紙なのね...
  • ―弥生の頃 その5―
          ―弥生の頃 その5―  【3月21日  春分】 日本全国、津々浦々。今日、春分の日は、休日に定められていた。 春分とは二十四節気のひとつ。昼と夜の長さが等しくなる日である。 しかし、バイトに精出す翠星石と雛苺にとっては、関係が無かった。 勤務先の食品工場が定めているカレンダーでは、通常の火曜日扱いなのだ。 当然、時給も通常どおり。休日出勤手当などは付くハズもない。 翠星石は、普段どおりに起きて、祖父母とチビ猫に朝の挨拶をすると、 朝食を済ませ、身支度を整えて、いつもより空いている道を通勤してゆく。 「この頃は、だいぶ温かくなって来たですぅ~」 食品製造工場の柵伝いに植えられた桜も、五分咲きと言ったところだ。 そろそろ、あちこちの公園が花見客で賑わう季節を迎える。 開花の早い場所では、今週末がピークになるだろう。 何を隠そう、翠星石は、夜桜見物が好きだった。 けれ...
  • 『カムフラージュ』 4
     5. ラストオーダーは、最初と同じカクテルを注文した。 これで、楽しかった宴も、おしまい。 消えゆく幸せな時間を名残り惜しむように……僕らはゆっくりと、それを飲み干した。 たおやかに奏でられる旋律に、耳を傾けながら―― その曲がドビュッシー作の『夢』だと知ったのは、この数日後だった。 「だいぶ、酔ったな」 「……ですねぇ」 来たとき同様、足どりの怪しい薔薇水晶を支えつつ、控え室まで戻る。 彼女が、「どうしても着替えて帰る」と言い張ったから、仕方なくだ。 「そのドレス、着たままタクシーで帰ってもいいよ」 クリスマスだし、プレゼントすると言ったけれど、聞き入れられなかった。 薔薇水晶は頑として、首を縦に振ろうとしない。 僕のデザインしたドレスなんか、どうせ、もらったって嬉しくないよな…… なんて、ヘソを曲げたフリで困らせてみよ...
  • 気ままにヘタレ日記 2
    春一番が 小さな過去へと 遠くなる六月――このフレーズでピン! ときた人は、TUBEのファンかも知れない。――とまあ、心待ちにしていたGWも呆気なく過ぎてしまいまして。気付けば6月と相成っておりました。連休中の豪遊に加えて、自動車税やら、値上がりしたガソリン代やら……だいぶ出費が嵩みましたね、ええ。賞与待ちの日々です。まあ、どんなコトにも対価はつきもの。便利さの代償ですな。ひとまず気を取り直して、月が変わったついでに、ここも2ページ目に突入。さてさて、月のアタマから、終わりについて語るのもどうかと思いつつ、ローゼンメイデン最終回について。まあ、詳しくは書きません。コミックス発売を待って、読む人も居ますからね。――ただ、私見を言うと、アレはあれで、ありだな……と。言うなれば 『不完全な完成品』 ってトコです。B級映画チックな。不完全だと、その不完全さ故に、補完したいという欲求を引き出すのです...
  • 『パステル』 -10-
    家人と客人、4人で囲む、和やかで温かい食卓。 それは、どこにでもありがちな、ささやかで飾らない宴だった。 話題にのぼるのは、もっぱら、雛苺のこと。 友人を家に招くのが、よほど珍しいと見えて、家人たちは彼女を質問ぜめにした。 口達者ではない雛苺は、終始、会話のイニシアティブを掴めずじまいだった。 客間のソファに場所を移しても、語らいのペースは、相も変わらず。 有栖川の煎れてくれた紅茶、ローザミスティカの3番をチビチビと嗜みつつ、 雛苺はただ、問われることに答えるばかりで……。 (うー。2人っきりで、お話したいのにー) 薔薇水晶や、彼女の父――槐に、さも屈託なさげな笑顔を振りまく反面、 キッチンで洗い物をしている有栖川の背中へと、雛苺の意識は向けられていた。 それを具現したならば、鋭利な棘となって突き刺さっただろうほど一心に。 ――夜の更...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』Act.4
      『ひょひょいの憑依っ!』Act.4 ちゃぶ台に置かれた料理の数々が、ジュンの目を惹きつけます。 驚くべきコトに、それらは全て、金糸雀のお手製と言うではあーりませんか。 玄関を開けたときに、鼻腔をくすぐった美味しそうな匂いは、気のせいではなかったのです。 「ジュンの帰りを待ち侘びながら、あの女が持ってきた食材を使って、  お昼ご飯を作っちゃったかしら~」 金糸雀は、ニコニコと満面の笑みを浮かべながら、幸せそうに話します。 もし、ジュンが帰ってこなかったら、無駄になってしまうと考えなかったのでしょうか。 おっちょこちょいな、彼女のことです。そんな仮定など、していたかどうか……。 「ホントに、お前が作ったのか? 近所の食卓から、かっぱらって来たんじゃあ――」 「むぅ~。侮辱かしら。失礼しちゃうかしらっ!  この部屋から出られないカナが、そんなこと出来っこないじゃない」 「ああ、それ...
  • ~序章~
        ~序章~     暗い闇の中で、彼女は目を覚ました。 一体、どれほど眠っていたのか……。 そもそも、此処は、どこなのか……。 起き抜けの呆然とした頭では、思考が纏まらない。     ひどく寒い。 身を起こそうと力を込めると、身体中の関節が軋んで、思わず呻き声が漏れた。      ――わたしの身体は、まだ……壊れたまま。     何気なく呟いた自らの言葉に、彼女の意識が呼び覚まされた。      ――まだ? 壊れたまま? わたしの身体が?     徐々に、思考が覚醒してゆく。 そして、完全に思い出した。     そうだ……わたしは、あやつと戦い、封印されたのだ。 あと少しで、息の根を止めてやる事が出来たのに。 あやつが命を賭して成就させた術によって――わたしは闇に閉じ込められた。     以来、こうして闇の中で眠ることを強要され続けてきた。 瞼を開いても、永続する漆黒。 いつしか眠...
  • 気ままにヘタレ日記 4
    日記3が長くなったので改ページ。 とにもかくにも、滞っているものを更新していかないとなぁ。 ここで、不定期に行われる一念発起! 時間を見つけては、ちまちまと書き進めております。 しか~し。 一日一行しか書けない日もあるので、次はいつのことやら……。orz 生暖かーく見守っていただけたら幸いです。 今回のニコニコは懐かしソング2曲で。(またもやアイマス系ですが) 【水の星に愛をこめて】 カラオケでも歌いやすい曲ではないかと。森口博子は歌がうまいのう。 ダンスはアニメ版めぐだと脳内変換しなされ。  【BELIEVE IN LOVE】 おなじみ、リンドバーグの有名な曲。カラオケの定番となっておりますぅ。 ダンスの振り付けもタイミング合ってて、PV感覚で見られる(と思う)。  -- ヘタレ庭師 (2007-10-14 02 03 56) とりあえず、ここだけでも更新して生存報告を。 「...
  • 『もしも・・・』
      『もしも・・・』 【――もしも、貴方と出会えなかったら】 きっと、私はまだ本気の恋をしていなかったと思う。 貴方という人に想いを馳せ、ちょっとした仕種を思い浮かべるとき……。 私は、とても満ち足りた気分になる。 そして、もっともっと親密になりたいと思ってしまう。  「ジュン。今日……一緒に帰ろ?」 六限目は別の教室で行われる。移動中、薔薇水晶は廊下でジュンに話しかけた。 別に、放課後に何か用事がある訳じゃない。 少しでも長い間、ジュンと一緒に過ごしたかったからだ。 そんな薔薇水晶の思惑を気にする風もなく、ジュンは気軽に応じた。  「ああ、いいよ」  「ホント? じゃあ……あの、下駄箱のところで待っててくれる?   私……今週は掃除当番だから」  「ん、解った。そんじゃ、待ってるからな」 お願いね、と返事をしながら、薔薇水晶は心の中で「よしっ!」と歓声を上げていた。 こ...
  • 『メタモルフォーゼ』
      『メタモルフォーゼ』 窓から射し込む朝日に照らされ、私は徐に瞼を開いた。 昨夜、寝る前にカーテンを開け放っておいたのだ。 真紅が言うには、そうするとスッキリ目が覚めるんだってぇ……。 瞼をこすりこすり、枕元の時計を一瞥する。 ――六時五十分 目覚まし時計が喧しく騒ぐ時間より、十分も早い。 なるほど。確かに、効果は有るみたいねぇ。 昨夜は英文訳の宿題に手こずって夜更かししたので、正直、まだ眠い。 でも、二度寝してアラームに叩き起こされるのも癪に触るわぁ。 私は思いっきり両腕と背筋を伸ばして、ひとつ、あくびをした。 惰眠の誘惑を振り切って、ベッドを出る。 窓辺に歩み寄って、レースのカーテン越しに外の様子を窺った。 わぁ……今日は快晴ねぇ。しかも、今日は私の誕生日! 朝から気分良い。 窓を開けて早朝の澄んだ空気を吸い込むと、五感は完全に覚醒した。 動き始めた日常。背を丸めて歩いて...
  • 【みっちゃんの野望 覇王伝】 -2-
    会場ホールの壁際に近づくにつれ、人混みも稀薄になってゆく。 ようやく過度の緊張状態から解放されそうな予感に、ボクの足取りも軽くなった。 ――と、なにげなく眼を向けた壁際に、意味不明な机の列が……。 そこは閑散としていて、休憩スペースか資材置き場の様相を呈していたが、どうも違うようだ。 なんだろう? 首を捻ったところで、ふと、みっちゃんの声が脳裏に甦った。 「そうそう。『壁』と呼ばれる、特別な売場があるって言ってたっけ」 なんでも、ここに配置されるのが、超人気サークルのステイタスなのだとか。 真偽のほどは確かでないけれど、一日で百万円以上も売り上げがあったり、開場して二時間と経たない間に、完売御礼となったりするらしい。 「これ……どこも、もうみんな完売したってコト? すごい勢いだなあ」 どのサークルのスタッフも、既に撤収した後みたいだ。 よく...
  • ~第七章~
        ~第七章~ 渓流の冷たい水の中を、翠星石は漂っていた。 呼吸が出来なくても苦しくなかったし、もう痛みも感じない。 なんとも安らかな気持ちだった。  (死ぬって、こんなに楽なことだったですね……) 今まで、がむしゃらに生きてきたのが、馬鹿らしく思えた。 こうと解っていたなら、辛い目に遭ったり、苦しい思いをすることもなく、死を選んでいたのに。 蒼星石と、一緒に―― 多分、蒼星石は必死になって引き留めるだろう。 そして、姉の気持ちが揺るがないと確信したとき、笑いながら共に逝ってくれる筈だ。  ――しょうがないな、姉さんは。 最愛の妹の顔を思い浮かべた時、翠星石の胸が、ちくりと痛んだ。 死の間際に、なんて下らない事を考えているのだろう。 蒼星石はジュンと幸せに暮らしていけば良い。そう言ったのは、他ならぬ自分自身ではないか。  (私は、最後まで蒼星石を守り通したです。だから…...
  • 気ままにヘタレ日記 3
    さてさてさて……8月に入って、街中にも夏休みムードが色づいてきましたね。朝の電車も、少しだけ空いているカンジぃ?今年は久々に、ちゃんとお盆の時期に休みを頂けそうなので、ちょっと嬉しいですね。夏コミにも行けそうですし。まぁ、遊びに行くなら、お盆休みを外した方が良いんですけどね。東北道で100km以上の渋滞とか、マジ有り得ないのよー。さておき、7月最後の週末は、近所のお祭りでした。お祭り大好き人間としては、放っておけんです。日中は渓流で釣り。日が暮れてから祭り見物。うーん、いよいよ夏本番って感じですかね。しかーし……タコ焼きで舌を火傷し、じゃがバターを食べては胃もたれ。あんまり良いコトありませんでした。orz良いコトない、と言えば――私、手に入れてしまったんです。ある筋では(つまらない事で)有名な、アレを。その名も『アーリャマーン EPISODEⅠ:帝国の勇者』。インド映画のDVDですがな。早...
  • ―皐月の頃 その3―
          ―皐月の頃 その3―  【5月5日  端午】後編 宿泊先のホテルに戻るなり、泣き寝入りして、どれだけ経っただろうか。 翠星石が目を覚ますと、辺りは、すっかり暗くなっていた。 枕元のインテリアスタンドに付属しているディジタル時計を見遣ると、 時刻は既に、20時を過ぎている。中途半端に寝たために、軽く頭痛がした。 (……ちょっと、お腹が空いたですぅ) 頭痛と気怠さを押し切って、翠星石は、むくっと身を起こした。 見れば、窓側のベッドが、こんもりと盛り上がっている。 耳を澄ますと、雛苺の健やかな寝息が聞こえた。 「もう寝てやがるですか。呆れたヤツですぅ」 老人じゃあるまいし、幾らなんでも、午後八時に就寝だなんて早すぎる。 今日日、小学生でも夜更かしするというのに。 とは申せ、雛苺の心理が解らなくもなかった。 海外に来ていながら、テレビばかり見ているのは勿体ないし、 かと...
  • 『奔流の果てに』
      『奔流の果てに』 老善渓谷は折からの集中豪雨で増水していた。 降りしきる雨の中、激流に浚われまいと必死で岩にしがみつく人影が二つ。  「おい! 絶対に諦めんじゃねぇぞ!」  「あ? なんだって? 聞こえないよ!」 轟々と落ちる水の音が、二人の会話を完全に遮る。 これでは意志の疎通もままならない。 ジュンも頭と腕に負傷しているし、いつまでもこうしている訳にはいかなかった。  (この天候じゃあヘリも飛ぶまい。どこか、休めそうな場所はないのか――) 先行するベジータは、顔を打つ雨と水飛沫に目を顰めつつ、周囲を見渡した。 岩の、ちょっとした窪みでも良い。奔流に滑落する畏れがなくなるならば。  (俺ひとりなら、麓まで飛んで行けば良いだけなんだがな) 自分の素性を知られる訳にはいかなかった。 だからこそ、今まで馬鹿なフリをしてでも、周囲の目を誤魔化し続けてきたのだ。 たとえジュンが...
  • ―葉月の頃 その3―
          ―葉月の頃 その3―  【8月13日  混家】後編 作者の名前を、じぃ……っと眺めていた蒼星石の唇が、物思わしげに動く。 「これって――」 そこは、ジュンと巴と、翠星石の時が止まった世界。 三人が三人とも、塑像のように固まったまま、続く蒼星石の言葉を待っていた。 心境は、さながら、裁判長の判決を待つ被告人といったところか。 本心では聞きたくないと思いながらも、 彼らは現実逃避――耳を塞ぎもせず、その場から逃げ出しもしなかった。 カラーコピーの表紙を眺めながら、蒼星石が口にしたのは―― 「外人さんが書いたマンガなんだね」 途端、硬直していた三人が、詰めていた息を吐き捨て肩を落とす。 翠星石は引きつった笑みを貼り付かせつつ、蒼星石の手から冊子をかっさらった。 「そそ、そうですぅ。きっと、ジュンたちは……えぇっと、そう!  雛苺の参考になればと思って、持ってきたですよ...
  • 1947.4.20 払暁
          1947.4.20 払暁   “兎の砦”     薔薇水晶に先導されて、薄暗く、入り組んだ壕内を進む。 天井に設けられた電球の間隔が広くて、隅々まで電灯が届かないのだ。 本当に、ウサギの巣穴みたい。歩きながら、真紅は思った。     「ここが……貴女の部屋」   前を行く薔薇水晶が足を止め、ロングブーツの踵を軸に、くるりと振り返る。 彼女が差し示す先には、物々しい鉄扉が、鈍色の輝きを放っていた。   「部屋数が少ないから……相部屋になる。それでも良い?」 「イヤとは言えないでしょう。寝泊まりできれば構わないわ」   キッパリと言い切ったところで、真紅は泣き腫らした瞼を細めた。   「……と言いたいところだけど、私も一応、女の子なのでね。  同居人は、男? だとしたら、お断りよ。廊下で眠った方がマシなのだわ」 「潔癖……見かけどおりね。安心して……ここは女の子だけの居住区だから」...
  • 気ままにヘタレ日記 7
      -09’1.11   明けてました。おまでとうごぢいます!   今年のワタクシ的目標は、アグレッシブ。いろいろと……ね。 -09’3.1 ほんの気分転換のはずが東方幻想麻雀のネット対戦にハマって、書き物は停滞中。   3周年関連で何か書きたいけれど、その思いだけが空回ってる感じ……。 -09’3.31   編集は週末にまとめてやろう! なんて思っていたら、ずるずると一ヶ月が経過する、と。   『今日の一針、明日の十針』とは、よく言ったものですにゃぁ。     この時期は毎年、あれやこれやと文書を作成しなきゃいけなかったりする関係で、   SS書きも停滞しがち……。しかも、これから釣りシーズン本番だし。   うん。実は、もう土曜日に行ってきた。フライフィッシング楽しいですぅ。   寒くて風邪ひきそうになったけどねっ!      なんだか、あらぬ方向へとアグレッシブに進んじゃってたりします...
  • 第十三話  『痛いくらい君があふれているよ』
    「うーん……どれが良いかなぁ」 ケーキが並ぶウィンドウを覗き込みながら、蒼星石の目は、ココロの動きそのままに彷徨う。 どれもこれも、とっても甘くて美味しそう。 だけど、水銀燈の好意に応えるためにも、翠星石に喜んでもらえるケーキを選びたかった。 「……よし、決めたっ。すみません、これと、これと……これを」 選んだのは、苺のショートケーキ。祖父母には、甘さ控えめなベイクド・チーズケーキを。 それと、絶対に外せないのは、姉妹と亡き両親を繋ぐ、思い出のケーキ。 甘~いマロングラッセをトッピングした、モンブランだった。 (これなら姉さんだって、少しくらい具合が悪くても、食べてくれるよね) そうでなければ、苦心して選んだ意味がない。 一緒に、ケーキを食べて……にこにこ微笑みながら、仲直りがしたいから。 いま、たったひとつ蒼星石が望むことは、それだけだった。 会計を済ませて、ケーキ屋のガラス...
  • 第18話  『あなたを感じていたい』
    逸るココロが、自然と足取りを軽くさせる。 募る想いが、蒼星石の背中を、グイグイ押してくる。 あの街に、姉さんが居るかも知れない。 もうすぐ……もう間もなく、大好きな翠星石に会えるかも知れない。 蒼星石の胸に込みあげる喜びは、留まることを知らない。 早く、触れ合いたい。 強く、抱きしめたい。 今の彼女を衝き動かしているのは、その想いだけだった。 「結菱さん! 早く早くっ!」 「気持ちは解るが、少し落ち着きたまえ、蒼星石。  そんなに慌てずとも、この世界は無くなったりしないよ」 苦笑する二葉の口振りは、春の日射しのように温かく、とても優しい。 蒼星石は、先生に叱られた小学生みたいに、ちろっと舌を出して頸を竦めた。 言われれば確かに、はしゃぎすぎだろう。 端から見れば、双子の姉妹が、再会を果たすだけのこと。 でも、逢いたい気持ちは止められない。蒼星石をフワフワとうわつかせる。 無邪気...
  • ~第三十六章~
      ~第三十六章~ 室内に、どぉん! と大音響が轟いた。 誰もが動きを止め、音源の正体を確かめるべく、ちらと目を向ける。 そこには、俯せに倒れている、のりの姿。 もっと卵が潰れるような生々しい音を想像していた金糸雀の予想に反して、 それは意外なほど、おとなしい落着音だった。  「のりさんっ!」 水銀燈と鍔迫り合いを演じていためぐが、悲鳴に似た声で、彼女の名を叫んだ。 のりは二度、三度と痙攣を繰り返していたが、 めぐの呼びかけに応えるかのように正気づいて、微かに呻き声を上げた。 氷鹿蹟の角で穿たれた傷口からは、真っ黒な液体が、勢いよく湧きだしている。 瀕死の重傷である事は、誰の目にも明らかだった。 ぽっかりと開いた傷口から、蛍ほどの小さく赤い瞬きが、ふわり……ふわり……。 それは徐々に数を増して、遂に、のりの体表を仄かに照らし出すまでになった。 赤い群を離れて、金糸雀の方へ飛んで...
  • ~第三十二章~
        ~第三十二章~  「ここは任せるですっ! 真紅たちは、先に行きやがれですぅっ!」 いきなりの台詞に、束の間、誰もが言葉を失った。 睡鳥夢が強大な能力を秘めている事は、目の当たりにしてきたから解っている。 しかし、これだけの敵を前に、たった独りで何が出来るだろう? 蒼星石は穢れの者を両断しつつ、掴みかからんばかりの勢いで、姉の言葉に噛みついた。  「何を言い出すのさ、姉さんっ! 無謀もいいところだよっ!」 彼女の言い分は、翠星石を除いた全員の言葉でもあった。 振り下ろした神剣で、陣笠ごと穢れの頭蓋をかち割った真紅も―― 冥鳴を駆使して櫓を破壊していた水銀燈も―― 高所から狙撃を試みる鉄砲足軽を、精密射撃で撃ち落とした金糸雀も―― 剣舞を演じるように、穢れを斬り祓っていく薔薇水晶も―― 恐怖に打ち震えながらも、懸命に精霊を駆使する雛苺も―― 獄狗に跨り、八面六臂の活躍を見せ...
  • ~第三章~
      ~第三章~ 長旅に必要な物を買い揃えた三人は、再び、旅の途に就いていた。 未だ見ぬ同志たちと、鬼祖軍団についての情報を得るために。 けれど、一つ先、二つ先の町で聞き込みをしても、誰一人として真相を知る者は居なかった。 もしかしたら、また夢の中で、あの声が聞こえるのではないか? そして、残りの同志たちに繋がる情報を、教えて貰えるのでは? そんな期待を胸に、真紅は毎晩、眠りに就く。 しかし、神剣を授かった時に聞こえた声が、再び語りかけてくることは無かった。  「ここも、空振りだったわね」  「元から期待なんてしてねぇです。その日その日を生きるので精一杯の町民が、   鬼祖軍団なんて怪しい連中を知ってる訳がねぇですよ」  「道理だね。手の甲の痣にしても、ボクたちみたいに隠していたら、   そもそも人目に付く筈もないし」  「とりあえず、まだ時間は有るです。隣の村まで行ってみるですか...
  • 最終話  『永遠』 -前編-
    ――眩しい。 蒼星石が最初に感じたのは、瞼をオレンジ色に染める明るさだった。 だんだんと意識が覚醒するに従って、単調な潮騒と、ジリジリと肌を焼く熱さ、 全身の気怠さなどが、感じられるようになった。 (? あぁ…………そうか) のたくたと回転の鈍いアタマが、やっと状況を理解し始める。 昨夜、いつまで起きていた? 憶えてない。だいぶ夜更かししたのは確かだ。 二人とも疲れ切って、そのまま眠り込んでしまったらしい。 「ぁふ……もう朝なんだ?」 重い瞼を、こすりこすり。 うっすらと開いた目の隙間から、強烈な光が飛び込んできて、アタマが痛くなった。 顔の前に腕を翳して日陰をつくり、徐々に、目を慣らしてゆく。 どこまでも高く蒼い空と、絵の具を溶いたような白い雲が、そこにあった。 ――が、次の瞬間、蒼星石は目を見開いて、黄色い悲鳴をあげていた。 その声を聞きつけて、隣で寝転がっていた翠星石も、...
  • 『パステル』 -8-
    双子の姉妹に連れられ、訪れた山腹の茶畑―― そこは、雛苺の予想を遙かに超えて広く、また風光明媚な世界だった。 きりりと澄んだ空気の向こう。 冬晴れの高い空と、山の斜面に広がる茶樹の緑。 その取り合わせは、さぞや写真うつりも良かろう。雛苺の素人目にさえ、そう思わせるものがあった。 彼女たちを乗せてきた軽トラックは、茶畑に横付けされている。 その車内で、雛苺は冷気に指がかじかむのも構わず窓を全開にして、 一心不乱にスケッチをしていた。 「おチビ――っ!」 スケッチブックに走らせていた鉛筆を止めて、雛苺は顔を上げた。 よく通る声で呼んだのは、双子の姉の、翠星石。 この広い茶畑でも、彼女の声量なら、普通に会話ができるに違いない。 見れば、灌木の列を間に挟んで、姉妹がゆっくりと歩いてくる。 蒼星石が手を振っていたから、雛苺もトラックの助手席か...
  • ~第十二章~
        ~第十二章~ ぎゃおぅっ! 身の毛もよだつ絶叫が、部屋の空気を震わせる。 氷鹿蹟の角による直撃を受けた猫又は、戸板をブチ破って、外まで飛ばされた。 金糸雀は素早く廃莢して弾を込め、氷鹿蹟と共に猫又を追う。 鉛の弾が通用しなくても、音で威嚇するくらいは出来るだろう。 戸口で、一旦停止。左右、上下の確認をする。 待ち伏せの無いことを確かめ、外に出た時にはもう、猫又の姿は無かった。 周囲に血痕を探したが、それも無い。どうやら、泡を食って逃げたようだ。 斃せるかどうかも判らなかったから、正直、戦わずに済んでホッとしていた。 そうしている内に、丘の上からベジータが血相を変えて走ってきた。  「おい! 何があった!?」  「あら、ベジータ。今は、お勤め中じゃなかったかしら?」  「そうだがよ、いきなり銃声が連発したから、心配になって来てみたのさ」  「ありがとう、ベジータ。でも、平...
  • ―葉月の頃 その5―
          ―葉月の頃 その5―  【8月23日  処暑】② 高速道路で二度目のサービスエリアに入るや否や、 弾かれたように車を飛び出した翠星石は、タオル片手にトイレへと駆け込み、 ぽぉ~っと熱を帯びた顔をすぐにも冷やしたくて、ざぶざぶ洗った。 なんだか、まだ身体中がムズムズして、気分が落ち着かない。 それもそのハズ。『もふテク』108式すべてを体験してしまったのだから。 思い返すだけで、翠星石の背筋に悪寒が走り、顔から火が出そうだった。 「あー、ヤバかったですぅ。危なく溺れ乱――」 「なにで溺れそうになったのですか?」 タオルで顔を拭いながらの独り言に、背後からタイミング良く問い返されて、 翠星石は、わたわたと両腕をバタつかせた。一瞬にして、総毛立っていた。 ぎしぎしと頸椎を軋ませながら、翠星石が顔を向けた先には…… 「?」顔の雪華綺晶が、翠星石のことを見つめていた。 彼女...
  • ~第四十二章~
        ~第四十二章~ 鈴鹿御前は、白皙の裸体を真紅たちに見せ付けながら、石棺の縁を跨いだ。 そして、一歩一歩……彼女たちの方へと歩み寄ってくる。 鈴鹿御前の素足が、びちゃり、びちゃりと血溜まりを踏みしだく音が、 虚ろな空間に、不気味な反響を生み出していた。  「お前たちには、感謝せねばならぬな。めぐや巴を殺してくれたのだから」 圧倒的な威圧感に竦み上がる三人を一瞥して、鈴鹿御前は嘲笑を浴びせた。  「お陰で、わたしの御魂は再び、ひとつに集まることが出来た。   損壊していた肉体も――ほれ、このとおり、完全に蘇生したわ」  「くっ! どういうつもり?! 私に姿を似せるなんて」  「きっと、私たちの戦意喪失を狙いやがったですよ。あざとい奴ですぅ」  「おやおや……お前は忘れてしまったの、房姫?」  「私は、房姫じゃないわ。私の名は、真紅よ!」  「ふん……名前など」 ――どうでも...
  • 『煌めく時にとらわれ・・・』
      はじめに これはJKスレ最終回に、間に合わせで書き上げたSSです。 最後でしたから、スレタイ物として完成させました。 それがケジメかな……と、勝手な解釈をして。  《使用しているスレタイ》 【寒い季節 二人で・・・・】  【春は もうすぐ♪】 【さよならは 言わないよ】 【花咲く頃は 貴方といたい】 【ねぇ 手、つなご?】    【笑顔が咲く季節】 【この気持ち 忘れない☆】   『煌めく時にとらわれ・・・』 ――春先にありがちな強い風が吹く、小雨降る一日だった。 舞い落ちた桜の花びらは濡れた地面に貼り付き、踏みしだかれていく。 沈鬱な空模様と相俟って、校門をくぐる誰の足取りも、重い……。   今日、私立薔薇学園高等学校は、卒業式を迎える。 整然と椅子が並べられた体育館に、穏やかな曲が流れ続ける。  「意外に、あっけないもんだな」 在学中は、あんなに早...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』Act.6
      『ひょひょいの憑依っ!』Act.6 「あーん、もうっ。カナ、独りぼっちで寂しかったんだからぁ。  ジュンったら、どこ行ってたかしら~」 帰宅早々、熱烈歓迎。 甘えた声色に相反して、金糸雀の腕は、容赦なくジュンの頸を絞めます。 猫のように、頬をスリスリしてくる仕種は『可愛いな』と想わせるのですが、 これではまるで、アナコンダに締め上げられるカピバラ状態。 喜びの抱擁が、悲しみの法要になってしまいます。 無防備に押し当てられる、彼女の柔らかな胸の感触を名残惜しく思いつつ、 ジュンはこみあげてくる鼻血を、理性でググッと我慢するのでした。 「ちょっと、外でメシ食ってきただけだって。  お前に作ってもらおうと思ってたけど、ちっとも風呂から出てこないから」 真紅のところに行ったことは、伏せておくのが吉でしょう。 とかく人間関係には、ヒミツがつきもの。 それがあるから、この世は歪みながら...
  • 1947.4.18
          1947.4.18   オルシュティン近郊       真夜中の廃墟に蠢く、何者かの気配―― 雨の後の湿った夜風が、ピリピリした緊迫と、一触即発のニオイを運んでくる。 それを嗅いでしまうと攻撃されそうな気がして、知らず、真紅は息を詰めていた。 注意深く、物陰を見回していく……と、潜んでいる人影が複数、確認した。 服装は統一されておらず、正規軍でないことは明らかだった。 つい最近に、レジスタンスや難民が流れてきて、住み着いたのかも知れない。 「……撃ってこないわねぇ。ホントに囲まれてるのぉ?」 砲塔に設けられたピストルポートで、水銀燈は外の様子を窺いつつ訊いた。 ポートが小さすぎて、全体が見渡せないらしく、声に苛立ちが紛れている。 「ああ、もうっ……あったまくるわねぇ」 焦れた水銀燈は舌打ちすると、真紅の隣に上がって、むりやり頭を並べた。 ただでさえ狭いキューポラは...
  • ―皐月の頃 その2―
          ―皐月の頃 その2―  【5月5日  端午】前編 みっちゃんのお供で、蒼星石の留学先を訪れて、早三日が過ぎ―― 明日には帰国の途に就かねばならないのに、翠星石は依然として、 蒼星石に会えずにいた。 日中は、みっちゃんの手伝いでキャンパスに詰めているから、 昼食時や休み時間などに、ひょいと再会できると思っていたのだが……。 「……どうにも、私の考えが甘かったみてぇです」 雛苺と、みっちゃんに挟まれ、食堂のテーブルに着いていた翠星石が、 白いソーセージの付け合わせであるザワークラウトをフォークで突き突き、 憮然と呟いた。それを聞きつけて、みっちゃんがチラと視線を向ける。 「どうかしたの、翠星石ちゃん? もしかして、ザワークラウト嫌い?  まさか、ヴァイスブルストが苦手ってワケないよね」 「好き嫌いはダメなのー。だから、翠ちゃんはアタマに栄養が回らなくて、  肝心なとこ...
  • ―長月の頃 その2―
          ―長月の頃 その2―  【9月9日  重陽】     相も変わらずの強い日射しが、露わな乙女たちの柔肌を、容赦なく炙る。 その炎天下を、怠そうに並んで歩くのは、翠星石と雛苺。 乾く間もなく汗が滲み、濡れた薄手のシャツが、背中に貼り付いていた。   けれど、彼女たちの一挙一動が精彩を欠く理由は、暑さばかりではない。 なにより大きな影響を及ぼしていたのは、重たく沈んだココロ。     フランスに発つ蒼星石とオディールを見送った、その帰り道―― 翠星石は、足元の濃い影に目を落としつつ、時折、力の抜けきった息を吐く。 祭りの後にも似た空虚と、喪失感。 空元気さえ絞りだせないほど、彼女の気力は萎えていた。   雛苺もまた、そんな翠星石の心境が解ってしまうだけに、胸を痛めていた。 どうにかして元気づけてあげたい。でも、どうすれば喜んでもらえるのか。 乗り継ぐ電車の中でも、あれこれ話題を振っ...
  • 『迷いなき剣』
      『迷いなき剣』 インターハイに向けての強化合宿に入る。 それは夏休みに入って最初の練習を始める前の、ミーティングで伝えられた。 だが、気合いが入っているのは剣道部に限ったことではない。 薔薇学園では来るべき少子化時代を見越して、 長期的な生徒の確保を狙った知名度アップが計られている。 部活動の促進も、その一環だった。 その日の練習を終えて部室で着替えていた巴は、水銀燈に話しかけられて、 ワイシャツのボタンを掛ける指を止めた。  「どうしたの? 銀ちゃん」  「合宿ってぇ、学校に泊まり込んでするって言ってたっけ?」  「また聞き流してたのね。銀ちゃんの悪い癖よ」  「だぁってぇ……退屈なんだものぉ。最初からプリント刷ってくれれば、   長話を聞かずに済むのにねぇ」 「仕方がないなぁ」と吐息して、巴は着替えを再会しつつ、 体育教師にして剣道部顧問の呂布先生が話していた内容を繰り返...
  • 『カムフラージュ』 1
     1. その瞬間、思わず息を呑んでいた。 ありがちなドラマのワンシーンみたいに。 息を弾ませ、控え室であるホテルの一室に飛び込んできた、可憐にして鮮烈な印象の乙女。 予想だにしていなかった衝撃で、言葉は疎か、瞬きさえも忘れてしまった僕は、 ただただマヌケに口を開いたまま、彼女の美しさに見惚れるばかりだった。 足元が覚束ないのは、立ち眩みだろうか。 それとも、この胸に感じる、締めつけるような鈍痛のせい? 「あ……えっと」 泳いでいた彼女の瞳が、僕を捉えた。躊躇いがちに、ぎこちなく笑いかけてくる。 奥ゆかしく、初々しい。けれど、どこか得体の知れなさを感じさせる仕種だ。 「すみません。あの……こちらに行くよう言われて……来ました」 「あ、ああ。待ってたよ。僕は――」 「知ってます」 彼女は、歯切れよく続ける。「現在、注目度ナン...
  • ―皐月の頃 その5―
          ―皐月の頃 その5―  【5月21日  小満】 帰国するなり、アッー! という間に過ぎてしまった二週間。 講義やら、レポートやら、卒論の準備やら……。 目まぐるしい日常に翻弄される翠星石にとって、気の休まる時は、週末しかない。 けれど、辛いとは思わなかった。 だって、蒼星石の写真が、心を奮い立たせ、力を与えてくれるから。 みっちゃんにもらった画像データを、携帯電話の待ち受け画像に設定して、 事ある毎に眺めては、気力を漲らせていたのである。 五月も、あと僅か。もうちょっとの辛抱で、また会える。 間近で言葉を交わし、触れ合う事ができる。 そう考えれば、殆どのことは我慢が出来た。 今日は、日曜日。 ぼけぼけ~っと朝寝坊を楽しんで、遅い朝食とも早い昼食ともつかない食事を摂り、 少しだけチビ猫と遊んでから、翠星石はジャージ姿で、庭の手入れを始めた。 花壇では、五月の誕生花である...
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