夢追人の妄想庭園内検索 / 「『約束の場所へ』」で検索した結果

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  • 『約束の場所へ』
    ・50スレ到達記念   『約束の場所へ』 第一話  契機  -Das Moment- 第二話  恐怖  -Die Furcht- 第三話  運命  -Das Schicksal- 第四話  約束  -Das Versprechen-第五話  動揺  -Das Schwanken- 第六話  夢想  -Der Traum- 第七話  襲撃  -Der Angriff- 第八話  喪失  -Der Verlust- 第九話  希望  -Der Hoffnung- 使用したスレタイ 【もしもシリーズ?】 【私の夢は☆】 【花言葉は乙女の真心】 【明日は晴れ】 【私が誰より1番】 【夢は何色?】 【僕の右手に君の左手】 【儚い願い】 【乙女の涙は乙女色】 【ずっと一緒に…】 【君が好き】 【花より団子?】 【いつでも微笑みを】 【さよならは突然に】 【悲劇は繰り返される】 【春の陽...
  • 『約束の場所へ』 第九話
    あの日から二ヶ月が過ぎた。 七月は、何の余韻も残さず……幾ばくもなく去ってしまった。 八月は、けたたましい蝉時雨と一緒に、忘却の彼方へ流されつつある。 夏を謳歌していた、ニイニイゼミも、クマゼミもヒグラシも、今は昔。 アブラゼミと、ミンミンゼミと、ツクツクホウシが、差し迫る秋の訪れを、気怠そうに告げるだけだった。 あれから、私の病状は著しい快復を見せ、今や、すっかり健康を取り戻している。 病を患っていたことがウソみたい。誰もが――主治医ですら――驚き、目を丸くした。 でも、私は忘れない。病気が治った、本当の理由を。 九月の、第二土曜日。 私は、数々の思い出と夏の色を胸に、この病院を去る。 門出に相応しく、残暑の厳しい空は、青く晴れわたっていた。 身の回りの物を詰め込んだバッグを肩に掛けて、お世話になった看護士さん達に挨拶して回る。 みんな、笑っていた。良かったね、おめでとうって。 そし...
  • 『約束の場所へ』 第六話
    ...、二人で行く筈だった『約束の場所へ』想いを馳せながら、心の奥で、ひっそりと泣き濡れた。
  • 『約束の場所へ』 第七話
        夢の内容について、水銀燈と話を付き合わせてみると、同じ場面を見ていたことが明らかになった。 唯一の違いは、視点。私と、彼女は、別個の視点で、あの状況を観察していたの。 私の夢が、指輪を介して水銀燈に流れ込んでいるのだとしたら、私の視点を共有している筈なのにね。 別個の視点の存在とは即ち、彼女もまた別の人物として、私の夢に登場していた事を意味した。 水銀の君として――――ね。 「どうやら……めぐと私には、浅からぬ縁があるみたいねぇ」 「夢の導くままに見た光景が、本当に、私の前世の記憶だとしたらだけど」 あまりにも突飛な発想だから、俄には信じがたい。たま~に、そんな話を聞くけれど、ホントかしら。 前世の記憶って、身体が失われた時点で、消えちゃうモノなんじゃないの? 私なりの考えを伝えると、水銀燈は、 「柩は書庫に成り得ない。その逆ならば、あり得るけどぉ」 と、目を細めた。いきな...
  • 『約束の場所へ』 第三話
    金縛りのせいで、瞼が開かなかった。見えないことで、恐怖がいや増す。 ぐい……と、足を引っ張られる感覚。 何者かが私の足に掴まって、ぶら下がっている。 程なく、私の両脚は、闖入者の両腕に掴まれてしまった。 しかも、フリークライミングでも楽しむかの様に、登ってくるではないか。 右手、左手、右手、左手……交互に繰り返しながら。 素足の爪先を、さらりと撫でていく謎の物体。 感触からして、髪の毛だと見当が付いた。 足首から脹ら脛、次は、膝、太股……と、冷たい手が掴みかかってくる。 ああ……来る。 どんどん、どんどん…………登ってくる。 ぞくぞくと背中を震わせる快感が、甘美な死を携えて、私の頭に駆け上がってくる。 闖入者の腕に力が込められる度に、引きずり下ろされそうな感覚。 実際、私の身体は少しずつズレていって、今や、頭が枕から落っこちていた。 でもね、そのままズレて、ベッドからずり落ちたりはし...
  • 保管場所 その2
    ...た恋より 熱い恋』 『約束の場所へ』    (※百合) 『家政婦 募集中』 『山桜の下で』 『ひょひょいの憑依っ!』 『ある休日のこと』 『Panzer Garten』 †アリスの胎動† 『冬と姉妹とクロスワード』 『メビウス・クライン』 『孤独の中の神の祝福』    (※百合) 『誰より好きなのに』『パステル』『カムフラージュ』【愛か】【夢か】『歪みの国の少女』 ~繋げる希望~【雨の】【歌声】『七夕の季節に君を想うということ』【みっちゃんの野望 覇王伝】 ・短編『夢うつつ』 『春の夜は……』 『理想郷 ~イーハトーブ~』 『川の流れは絶えずして』 『Working girls』 『古ぼけた雑貨店』 『いつわり』 『スタンド・バイ・ミー』『星合にて』『雨降る夜に』『巴チャンバラ』    ・連続短編翠×雛の『マターリ歳時記』   (※百合) 『お茶目だね、きらきーさん』 『Just b...
  • 『色褪せない思い出を』
      『色褪せない思い出を』 朝の登校時間が、薔薇水晶の気に入りだった。 銀色の髪を風に靡かせて歩く彼女と、一緒に居られるから。 ――二人だけの時間。二人だけの世界。 隣に並んで歩いているだけでも充分に楽しい。時が経つのも忘れるくらいに。 まして、言葉を交わそうものなら、天にも昇る心地になるのだった。 どうして、こんなにも水銀燈の事が愛おしいのだろう。 記憶を辿っても、これほどに他人を好きになった事は、生まれて始めてだった。  「ねえ……銀ちゃん。今日、帰りがけにケーキ食べて行かない?」  「また『えんじゅ』のケーキバイキング? 薔薇しぃも好きねぇ」  「育ち盛りだから…………えっへん」 悪戯っぽく胸を反らす。制服が押し上げられ、ふくよかな双丘が強調された。 水銀燈には及ばなくとも、薔薇水晶だって日に日に大人へ近付いている。 背の伸びは流石に止まったけれど、ボディラインはなだらか...
  • 第17話  『風が通り抜ける街へ』
    あの男の人は、何の目的があって、この丘の頂きに近付いてくるのだろう。 分からない。解らないから、怖くなる。 もしかしたら、ただの散歩かも知れない。 でも、もしかしたら蒼星石の姿を認めて、危害を加える腹づもりなのかも。 (どうしよう……もしも) 後者だったら――と思うと、足が竦んで、膝がカクカクと震えだした。 住み慣れた世界ならば気丈に振る舞えるけれど、今の蒼星石は、迷子の仔猫。 あらゆる物事に怯えながら、少しずつ知識を蓄え、自分の世界を広げていくしかない。 「こんな時、姉さんが居てくれたら」 蒼星石は、そう思わずにいられなかった。 知らず、挫けそうなココロが、弱音を吐き出させていた。 彼女だったら、どうするだろう? なんと言うだろう? 止まらない身体の震えを抑えつけるように、ギュッと両腕を掻き抱いて、考える。 答えは、拍子抜けするほど呆気なく、蒼星石の胸に当たった。 もし彼女だっ...
  • 『山桜の下で…』
        その山桜は一本だけ、周囲の緑に溶け込みながら、ひっそりと咲き誇っていた。 満開の白い花と赤褐色の新芽に染まる枝を、私はただ、茫然と見上げているだけ。 時折、思い出したように花弁が降ってくる。青空との色合いが、とっても良い。 いつもなら、衝動的にスケッチブックを開いて、ペンを走らせているところだ。 でも、今は何も持っていない。持っていたとしても、描く気が湧かなかった。   そのときの私は、小学校低学年くらいの小さな女の子で―― どうしてなのか思い出せないけれど、泣いていた。   『…………』   ふと、誰かが私の名前を呼んだ。男の子と、女の子の声。 二人の声が重なって、なんだか奇妙な余韻を、私の胸に刻みつけた。 だぁれ? 止まっていた私のココロが、静かに動きだす。 身体を揺さぶられる感覚。そして――         気付けば、レールの継ぎ目を踏む車輪の音が、規則正しく私の耳を叩いてい...
  • ―睦月の頃 その1―
      ―睦月の頃 その1―  【1月1日  元日】 一年の計は元旦にあり。 物事は出だしこそ肝心だから、しっかり計画を定めてから事に当たれという訓戒だ。 ――しかぁし。 柴崎夫妻が台所で、おせち料理や雑煮の準備をしていたところに、 寝癖だらけの髪を振り乱した翠星石が、どたどたと踏み込んできた。 「し、しし……しまったですっ! 寝坊したですぅ!」 「あらまあ、大変。ヒナちゃんとは、何時の約束だったの?」 「……五時半ですぅ」 初日の出を見に行こうと、待ち合わせの時間を事前に決めていた訳だが、 時計は既に、六時近くなっている。年明け早々、とんでもない大失態だ。 こんな事では、今年一年が思いやられる。 取り敢えず、自室に戻って、雛苺に電話で謝りつつ、素早く身支度を整える。 部屋の中はかなり寒いが、構ってなどいられない。 パジャマを乱雑に脱ぎ捨て、下着姿で震えながら、適当な服を見繕った...
  • ここだけの話
         もうお気づきとは思いますが、予告の一行目は、実際の歌詞を用いています。  (綴りや区切りは変えてますが)   P 出会いはいつでも、偶然の風の中   「天までとどけ」 さだまさし     (ずっと以前に、学校の合唱コンクールで歌った憶えが……) 1 迷子の迷子の仔猫ちゃん。貴女のおうちは、どこですか   「いぬのおまわりさん」     (くんくん探偵から、安易に連想)   2 名前……それは、燃える命   「ビューティフル・ネーム」 ゴダイゴ       (生命という当て字が正解。最近では、エグザイルが999をカバーしてますな、ゴダイゴ)   3 この世でたった一度、巡り会える明日。それを信じて   「涙をこえて」     (心の中で明日が、明るく光る――これも、やっぱり合唱コンクールで歌ったっけ)   4 きっと、何年たっても……こうして、変わらぬ気持ちで   「未来予想図Ⅱ」...
  • ―卯月の頃 その3―
          ―卯月の頃 その3―  【4月20日  穀雨】 パフェの食べ過ぎで、お腹を壊してから三日後のこと。 今日は、木曜日。明日を乗り切れば、やっと待ちわびた週末である。 だが、もっと待ち遠しかったのは、五月の大型連休の方だった。 就職組は着慣れないリクルートスーツに身を包み、ゴールデンウィークも関係なく、 会社回りにてんてこ舞いの日々を送っている。 真紅や、巴は、目下のところ就職活動中だった。 景気が上向いてきたとは言え、女子大生の就職は、なかなか大変らしい。 一方、翠星石と雛苺は大学院への進学を決意して、鋭意勉強中である。 試験の実施は、今月末。もう一週間も猶予が無い。 二人は朝から研究室に籠もり、机に向かって、最後の追い込みをかけていた。 そんな、ちょっとピリピリした空気が漂うなか―― ふと、教科書と睨めっこしていた雛苺が、顔を上げて翠星石に話しかけた。 「……翠...
  • 第十五話  『負けないで』
    かさかさに乾いた肌に引っかかりながら流れ落ちてゆく、紅い糸。 心臓の鼓動に合わせて、それは太くなり……細くなる。 けれど、決して途切れることはなくて―― 「……ああ」 蒼星石は、うっとりと恍惚の表情を浮かべながら、歓喜に喘いだ。 これは、姉と自分を繋ぐ、たった一本の絆。 クノッソスの迷宮で、テセウスが糸を辿って出口を見出したように、 この絆を手繰っていけば、きっと翠星石に出会える。 そう信じて、疑いもしなかった。 命を育む神秘の液体は、緩く曲げた肘に辿り着いて、雫へと姿を変える。 そして、大地を潤す恵みの雨のごとく、降り注ぎ…… カーペットの上に、色鮮やかな彼岸花を開かせていった。 「そうだ…………姉さんの部屋に……行かなきゃ」 足元に広がっていく緋の花園を、ぼんやりと眺めながら、蒼星石は呟いた。 自分が足踏みしていた間に、翠星石はもう、かなり先に行ってしまっている。 だから、...
  • 『真夜中の告白』
          『真夜中の告白』 明日はテスト。 水銀燈は深夜まで、苦手科目の一夜漬けをしていた。 しかぁし――  「あ~ぁ、もぉ……集中力が続かないってばぁ」 見事に証明される『苦手 =キライ×メンドい』の黄金定理。勉強は一向に捗らない。 成果のないまま、時間ばかりが過ぎていく。 今日は切り上げて、明日の朝、早起きして続きをやろう。 普段なら、そう考えるのだが……今回は少し、状況が逼迫していた。 赤ザブトン――すなわち、モンダイ大有りの落第点。 一学期の通信簿を渡されて後、学園から自宅へ、ありがた~い手紙が届いた。 もう、両親には怒られた怒られた。 次も赤点を取ったら、小遣い減らすと脅されていた。 そんなのは、冗談じゃない。 女子高生には誘惑がいっぱい。 学校の帰り道に、みんなと喫茶店に寄ってお喋りしたいし、新しい服だって欲しい。 気になる化粧品もあるし、夏には水着だって新着しな...
  • 『メタモルフォーゼ』
      『メタモルフォーゼ』 窓から射し込む朝日に照らされ、私は徐に瞼を開いた。 昨夜、寝る前にカーテンを開け放っておいたのだ。 真紅が言うには、そうするとスッキリ目が覚めるんだってぇ……。 瞼をこすりこすり、枕元の時計を一瞥する。 ――六時五十分 目覚まし時計が喧しく騒ぐ時間より、十分も早い。 なるほど。確かに、効果は有るみたいねぇ。 昨夜は英文訳の宿題に手こずって夜更かししたので、正直、まだ眠い。 でも、二度寝してアラームに叩き起こされるのも癪に触るわぁ。 私は思いっきり両腕と背筋を伸ばして、ひとつ、あくびをした。 惰眠の誘惑を振り切って、ベッドを出る。 窓辺に歩み寄って、レースのカーテン越しに外の様子を窺った。 わぁ……今日は快晴ねぇ。しかも、今日は私の誕生日! 朝から気分良い。 窓を開けて早朝の澄んだ空気を吸い込むと、五感は完全に覚醒した。 動き始めた日常。背を丸めて歩いて...
  • 『家政婦 募集中』 後編
    こよみは梅雨に入り、各地で例年にない雨量が記録され、少なからぬ被害が出ていた。 地球温暖化の影響だろうか。ここ数年、世界各地で異常気象が目立つ。 今日も朝から土砂降りで、さすがに仕事に行けず、私はテレビで天気予報を眺めていた。 彼から電話が入ったのは、そんな時だった。 『ドレスが完成したんだ。雨足も弱まったし、これから見せに行くよ』 「え? いいわよ、明日で」 『1秒でも早く、由奈に着て欲しいんだよ』 「でも、危ないわ。ドレスだって、びしょ濡れになっちゃう」 渋る私に「大丈夫だって」と安請け合いして、ジュンは通話を切った。 まったく、変なところで強情なんだから。 とは言うものの、正直なところ、すごく楽しみだった。 イラストを見て、完成イメージは分かっている。早く、袖を通してみたい。 私は、緩む頬をピシャピシャ叩いて、彼が来たときのために、タオルなどの用意を始めた。 ポットのお湯を沸か...
  • ~第十五章~
        ~第十五章~ 山道を彷徨い歩くこと半日、漸くにして辿り着いてみれば、真夜中だった。 夜更けの町は、ひっそりと寝静まっている。 そんな中、他人の迷惑を省みない怒声が、閑散とした路地に反響していた。  「まったく……金糸雀なんかを信じた私が、バカだったですぅ」  「そう言わないで欲しいかしら。まさか、崖崩れが起きてたなんて思わなかったから」  「不可抗力なのは、しゃ~ねえです。問題は、その後ですっ!」  「でも、あなただって同意したかしら」 崖崩れで回り道を余儀なくされた二人は、よせばいいのに、山を登って最短距離を行こうとした。 実際、その時は、なんでもない道のりに思えたのだ。 しかし、理論と実践は違う。 散々に山中を歩き回った末に、元の場所に出たときは、徒労感で全身の力が抜けた。 それから暫くの間、取っ組み合いの喧嘩をして更に体力を失い、疲労のため仲直り。 素直に迂回路を通...
  • エピローグ 『ささやかな祈り』 1
        「わざわざ調べていただいて、ありがとうございました。本当に、助かりましたわ。  ……ええ、はい。では、また明日に。それじゃあ……おやすみなさい」   通話を切るが早いか、ベッドの端に座り、耳をそばだてていた彼女が、聞こえよがしに鼻を鳴らした。   「バっカみたい。フランスに居た頃に、もう全ての調べがついてたでしょうに……  なんだって今更、あーんな冴えない男の助力を頼んだわけぇ?」 「好きになってしまったから、お近づきのキッカケに」   「ぅえっ?!」首を絞められたような声を出して、彼女が凍りついた気配。 私は振り返って「――って答えたら満足?」と、微笑んだ唇から、舌を出して見せた。 プライドが高く激情家なこの子は、からかわれると、すぐに柳眉を逆立てる。   「くだらなすぎて苛つくわ、そういうの。黒焦げのシシャモなみに嫌いよ」 「ふふ……ごめんなさい。そんなに、怒らないで」   言...
  • 保管場所
     【ローゼンメイデンが女子高生だったら】編   ・長編 『粉雪舞う、この空の下で……』『メタモルフォーゼ』 『絆をください』   『堂々巡り』 『昼下がりの邂逅』 『迷いなき剣』 『教師たちの臨海学校』 『終わらないストーリー』 『奔流の果てに』 『心の扉を開けて……』 『黄昏と、夜明けの記憶』 『色褪せない思い出を』 『水銀燈員の懊悩』 『超時空妄想メイデン ~スレタイ憶えていますか~』 ・短編『思い出を花束にして』 『橋の端に立てる箸』 『空と風と』 『祭りの余韻』 『アヤシイウワサ』 『煌めく時にとらわれ・・・』
  • 『Just believe in love』
      『 Just believe in love 』  第一話  『揺れる想い』  第二話  『眠れない夜を抱いて』  第三話  『運命のルーレット廻して』  第四話  『今日はゆっくり話そう』  第五話  『もう少し あと少し…』  第六話  『心を開いて』  第七話  『ハートに火をつけて』  第八話  『愛が見えない』  第九話  『もっと近くで君の横顔見ていたい』  第十話  『こんなにそばに居るのに』  第十一話 『かけがえのないもの』  第十二話 『君がいない』  第十三話 『痛いくらい君があふれているよ』  第十四話 『君に逢いたくなったら…』  第十五話 『負けないで』 ・ある乙女の愛の雫  第十六話 『サヨナラは今もこの胸に居ます』  第十七話 『明日を夢見て』  第十八話 『さわやかな君の気持ち』  第十九話 『き...
  • 『ひょひょいの憑依っ!』Act.5
      『ひょひょいの憑依っ!』Act.5 夕闇が迫る下町の風景は、どうして、奇妙な胸騒ぎを運んでくるのでしょう? どこからか漂ってくる、夕飯の匂い。お風呂で遊ぶ子供の、はしゃぎ声。 車のエンジン音と、クラクション。遠く聞こえる電車の警笛。その他、様々な雑音―― 闇が世界を塗りつぶしていく中、人影の群は黒い川となって、足早に流れてゆきます。 毎日、繰り返される平穏な日常の、何の変哲もないワンシーン。 なのに、ジュンはそれらを見る度に、家路を急ぎたい衝動に駆られるのでした。 黄昏時は、逢魔が刻。 そんな迷信じみた畏れが、連綿と魂に受け継がれているのかも知れません。 ――などと、しっとりとした雰囲気に包まれながら、ジュンは、ある場所を目指していました。 それは……ズバリ、近所の銭湯です。 タオルやボディソープ、シャンプーなど、入浴に必要な物はバッグに詰めて、背負っています。 にしても、自...
  • 『パステル』 -7-
    「まったく、おめーらときたら!」 早朝の静けさを引き裂いて、応接間に轟く、ヒステリックなキンキン声。 遠慮会釈もない衝撃波が、酒気の抜けきらない4人娘の脳天を突き抜ける。 酔っていようが素面だろうが、むりやり眠りを破られるのは、不快なもの。 真紅たちは顔を顰め、しょぼしょぼと恨みがましい双眸で、声の主を睨みつけた。 「騒がしいわ、翠星石……静かにしてちょうだい」 「まぁだ寝言ほざいてやがりますか、真紅っ!  朝っぱらに呼びつけといて、酔いつぶれてるなんて、以ての外ですよ。  ほんっとに、もう――呆れ果てて、言葉もないですぅ」 「ウルサイなぁ、翠星石は。だったら、黙ってればいいのに」とサラ。 「……気が利かない……かしら~。うぅっ……アタマ痛ぃ」そこに金糸雀も続いた。 「きぃ――っ! 口の減らねえサラ金コンビですね。ムカツクですぅ!」 翠星石と...
  • 『君と、いつまでも』
      『君と、いつまでも』 柔らかな春の日射し。 桜舞う校庭を吹き抜ける風は、まだ冷たい。 今日から三年生。薔薇学園で過ごす最後の一年。 玄関前に、新しいクラス編成が貼り出されていた。 それを食い入るように見詰める私と、ジュン。 お互いの名前を見付けて、ほぼ同時に、吐息する。 僅かに白くなった息が、春風に流されて、消えた。 「また、貴方と同じクラスになったのだわ」 「本当に、ここまで来ると腐れ縁だよな」 まさか、三年連続で同級生になるなんて、思ってもみなかった。 腐れ縁……か。せめて『運命の悪戯』とかロマンチックなことを言って欲しい。 そういうところで、ジュンはデリカシーと言うものが無かった。 下駄箱に続く階段を登りかけて、ジュンは立ち止まり、振り返った。 「――いつまでも、一緒に居られるといいな」 よく見なければ気付かないほど小さな微笑み。 私は小走りに彼を追い掛けて、耳...
  • ―弥生の頃 その2―
          ―弥生の頃 その2―  【3月3日  上巳】 後編 真紅、金糸雀と相次いで轟沈する中、三番手に名乗りを上げたのは、水銀燈。 「それじゃあ、口直しに、私の甘酒を召し上がれぇ」 「あぁ、助かったです。これは、まともそうですぅ」 「本当ですわね。良い香りですわ」 「うっふふふふ……当然よぉ。私の辞書に、不可能の文字なんてないわぁ」 ちらり……。萎れている真紅と金糸雀を横目に見遣って、 水銀燈はニタァ……と、口の端を吊り上げた。 「真紅や金糸雀みたいな、薔薇乙女ならぬバカ乙女なんかとじゃあ、  端っから勝負になるワケないじゃなぁい♪」 「……き、聞き捨てならないのだわ」 「でも、反論できないかしらー」 「二人とも、そう落ち込まないでなの。とにかく、飲んでみるのよー」 雛苺のフォローで、全員が「では――」とコップを手に取り、口元に運ぶ。 見た目、良し。匂い、良し。あとは、口に...
  • 保管場所 その3
     【その他の創作】 オリジナルSSなどの置き場   ・長編 ・短編  
  • 『風と空と』
          『風と空と』 ねえ――空を飛びに行かない? 唐突な台詞を蒼星石が口にしたのは、遅刻確定の通学路での事だった。 藪から棒に、なにを言い出すんだろう。 そもそも、近くにバンジージャンプが出来る遊園地なんか有ったっけ? 訳が解らず茫然とする僕の手を、彼女は強引に引っ張った。 電車とモノレールを乗り継いで着いたのは、港を見下ろす高台の公園だった。 平日の昼間とあって、人は殆ど居ない。貸し切りみたいで気分が良かった。 でも、こんな所で、どうやって空を飛ぶんだろう?  「あ! 来たよ、ジュン君」 不意に、蒼星石が空を指差した。その先には、今まさに着陸しようという旅客機。 尾翼にANAのロゴが見えた。 こんな間近でジャンボジェットを見たのは初めてだった。  「うわぁ! 凄ぇ! でかいよ、蒼星石」  「ホント、凄いよねぇ。あんな大きなのが、空を飛ぶんだからさ」  「うん……...
  • ―葉月の頃 その1―
          ―葉月の頃―  【8月8日  立秋】 蒼星石がオディールを連れて帰宅してからは、あっと言う間の14日間だった。 祖父は、もうずっと浮かれ気味で、はっちゃけた日々を送っている。 三人の娘たちと一緒に料理をする祖母の顔にも、幸せそうな笑みが浮かぶ。 今まで口にしなかっただけで、本当は、祖父母も寂しかったのだろう。 「若い娘たちと一緒に暮らしていると、ついハッスルしてしまうのう」 「あらあら、お祖父さんたら……ほどほどしませんと」 朝食の席で、今日も張り切りモード全開の祖父、元治。 穏やかな口調で窘める祖母の額に、ビキビキと筋が浮かんだのを、 翠星石は見逃さなかった。 隣に座るオディールが、祖父母の会話に耳を傾けながら、 翠星石に小声で話しかけてくる。 「楽しいお祖父様たちね。とても賑やかで、素敵な家族だわ」 「……年甲斐もなく、はしゃいでるだけです。  今夜あたり、血の...
  • 『パステル』 -11-
    「ごめんなさいね。急いでいるのに」 騒音と熱気を吐き出すドライヤーに負けまいと、有栖川が心持ち、声を大きくする。 彼女は今、三面鏡のついた年代物のドレッサーに向かって、洗い髪を乾かしていた。 「すぐに済ませるから、あと少しだけ待っててちょうだい」 「気にしないでいいのよー。それほど、急いでないから」 気忙しげにドライヤーとブラシを揺らす有栖川に、雛苺は悠々と応じる。 そうするように勧めたのは、雛苺だった。 3月の夜は、まだまだ冷える。湯冷めをされては困るから――と。 「お友だちの家で、夕飯ご馳走になるから遅くなるって、メールしておいたし。  学生になってからは、門限とかね、かなり大目に見てくれるようになったのよ」 「でもねぇ。女の子が夜遅くに帰宅するなんて、ご両親はいい顔しないでしょ」 「平気平気っ。終電にさえ間に合えば、ヒナは困らないんだもの...
  • ~第十六章~
        ~第十六章~ 翌日の朝は、町中が騒然としていた。 昨夜、あれだけ大立ち回りをすれば、住民たちを叩き起こしていたのも当然だろう。 もっとも、誰もが恐怖のあまり家に閉じこもっていたから、真紅たちの姿は見られていない。 六人の娘たちは咎められる事もなく、柴崎老人を埋葬した後、 柴崎家の母屋で暫しの休息を取らせてもらったのである。  「まさか、貴女が【智】の御魂を宿す犬士だったとはね」 翠星石を始め、昨晩の戦闘で負傷した乙女たちの治療をしていた金糸雀に、 真紅は穏やかな眼差しを向けた。 これからの闘いは、より厳しさを増していく。 その時に、腕のいい医者が常に居てくれれば、どれだけ心強いことか。 勿論、金糸雀を頼もしく思っていたのは、真紅だけに留まらない。 他の四人もまた、翠星石の命を救ってくれた名医として、何かと頼りにしていた。 金糸雀の鮮やかな手捌きは、一切の迷いを感じさせない...
  • ―如月の頃 その4―
          ―如月の頃 その4―  【2月19日  雨水】 入院騒動があってから、早、半月が過ぎようとしていた。 結局、検査入院では何も異常が見られず、翌日の日曜日には退院できたのだ。 そして、月曜日からは通常どおり、バイトに勤しむ日々が訪れていた。 今日は日曜日だけれど、早起きをして通院し、経過を診てもらった。 問診だけで、もう精密検査などは行わない。お陰で、用件は直ぐに済んだ。 もう心配ないだろうと、医師の太鼓判(或いは、お墨付き)を頂けたので、 翠星石の気分は、頗る良かった。 取り敢えず、家に帰って祖父母に診察の結果を知らせてこよう。 それから、蒼星石にメールを送って―― そんなコトを考えながら、独り歩いていると、やや前方に見知った姿を認めた。 声を掛けようとして、思い留まる。相手はまだ、こっちに気付いていない。 翠星石は足音を忍ばせつつ、小走りに近付いて、バシン! と...
  • 『アヤシイウワサ』
      『アヤシイウワサ』 「あそこ、出るんだってよ? 実際に、見た生徒が居るらしい」 「やっぱり? なんだか気持ち悪いもんね、あの場所」 「しょーもない話だって、笑うかも知れないけどさ」 「いやいや……マジやばいんだって」   ウソの様な、ホントの様な―――― 「わたしも友達と、一緒に見たんだから。木から木へ飛び移る、黒い影を……」 「サルか何かを見間違えたんじゃないの?」 この薔薇学園には、最近になって怪しい噂が流布し始めていた。 レリーフの顔が笑ったとか、土の中からゾンビが出たとか。他にも、プールで……。 はっきり言えば、学校の怪談チックな馬鹿馬鹿しい内容だが、やけに真実味を帯びていた。  「最近、学園内で持ちきりの噂話を知ってる?」 蒼星石が徐に語りだしたのは、翠星石と二人で中庭のガーデニングをしていた時の事だった。 ともすればスキャンダラスな印象を与えかねない言い...
  • 『秘密の庭園』
      『秘密の庭園』 緑濃い峠の上に建てられた、その大きな屋敷には、小さな花園がありました。 カタカナの『ロ』の字型をした建て屋の、中庭に、それは存在しています。 家人以外は、決して、見る事を許されない場所―― やがて、それは都市伝説と化していき、誰が呼ぶともなく――   【秘密の花園】 ――と、人口に膾炙することとなるのです。 ある日、秘密の花園の噂を聞きつけた二人の人物が、面白半分に屋敷を訪れました。 夏が本番を迎える少し前の、蒸し暑い時期のことです。 しかも、もうすぐ西の空に陽が沈もうかという時刻でした。 にも拘わらず、屋敷の窓には、明かり一つ点いていません。 誰も…………住んでいないのでしょうか? けれど、全ての窓は割れずに残っていますし、庭木も綺麗に刈り揃えられています。 暴走族によるスプレー缶による落書きも、見当たりませんでした。 無人の廃屋とは思えません。 誰...
  • 第16話  『この愛に泳ぎ疲れても』
    どちらかを、選べ―― そう言われたところで、蒼星石の答えは、既に決まっていた。 こんな場所まで歩いてきた今更になって……躊躇いなど、あろうハズがない。 二つの目的を果たすためならば、地獄にすら、進んで足を踏み入れただろう。 ただ夢中で、翠星石の背中を追い続け、捕まえること。 そして、夜空に瞬く月と星のように、いつでも一緒に居ること。 たとえ、それが生まれ変わった先の世界であっても――ずっと変わらずに。 蒼星石は無言で、右腕を上げた。そして……偶像の手を、しっかりと握った。 置き去りにする人たちへの後ろめたさは、ある。 けれど、今の蒼星石のココロは、出航を待つ船に等しい。 姉を求める気持ちの前では、現世への未練など、アンカーに成り得なかった。 過ちを繰り返すなと諫めた声など、桟橋に係留するロープですらない。 「いいのですね?」 こくりと頷きながら、なんとは無しに、蒼星石は思ってい...
  • 『甘い恋より 苦い恋』
     『甘い恋より 苦い恋』   あなたが好きなの。 とある水曜日。彼と彼女は二人っきりで、放課後の教室に居た。 グラウンドで行われている野球部の練習を、彼らは並んで見下ろしていた。 何も話さず、ただ……デッサン用の石膏像みたいに。 長い長い沈黙を破ったのは、彼女の、硬い声。 振り向くと、彼女の銀髪と思い詰めた表情が、黄昏色に染め上げられていた。 昼が終わる寸前。夜が始まる瞬間。 丁度、あの一瞬の美しさを、一点に凝縮したような―― キュッと引き締められていた彼女の唇が、いま一度、言葉を紡ぐ。   私と――――付き合って下さい。 普段の猫撫で声とは打って代わって、決然とした口振り。 彼は眼鏡の奥で、意外そうに瞼を見開いてから、静かにかぶりを振った。 喉にこみ上げてくる苦い汁を、懸命に呑み込みながら。 潤んだ紅い瞳が揺らぎ、どうして……と訴えかけている。肩を戦慄かせ、当惑してい...
  • ~第二十五章~
        ~第二十五章~ 眼帯を外しさえすれば、全てが判る。 この娘が、幼い頃に生き別れになった姉なのか、どうか。 薔薇水晶は幾度も唾を呑み込みながら、震える指を雪華綺晶の眼帯に伸ばした。 けれど、巧く掴めない。 ここまで来て、何をやっているんだろう。ああ、もどかしい。 つい、乱雑に剥ぎ取ろうとして、思わず雪華綺晶の額を引っ掻いてしまった。 途端、カッ! と、雪華綺晶の左眼が見開かれる。 彼女は鋭い眼差しで、薔薇水晶をジロリと睨みつけた。  「ひゃぁっ!」 あまりの気迫に圧されて、薔薇水晶は尻餅を付いて、後ずさった。 何の騒ぎだという風に、みんなの視線が彼女に注がれる。 そして、彼女の隣で目を覚ましている雪華綺晶を目の当たりにして、全員に戦慄が走った。  「これは、なんの真似ですの? 捕虜にしたつもりなのでしょうか?」 手足を縛られた雪華綺晶は、直立姿勢のまま、 見えない糸に吊...
  • 【みっちゃんの野望 覇王伝】 -3-
    ボクと水銀燈が、コミケのコスプレ会場を訪れた理由は、単純にして明快。 この人混みの中から、水銀燈の親友である柿崎めぐさんを探し出し、保護するためだ。 柿崎さんは、『えーりん』とか言う謎のコスプレをしているらしいんだけど……。 どこを見渡しても、人、ヒト、ひとだらけ。 しかも、煌びやかで凝った衣装のコスプレイヤーが、ほとんどだ。 真夏の強烈な日射しに、眩しいコスチューム……なんだか目が痛くなってきたよ。 もう帰りたい。誰でもいいから、ボクを、おうちに連れ戻してよ。 つい、いままで懸命に呑み込んでいた弱音が、だらしなく口から溢れそうになった。 けれども、運命の女神は、そんな甘えさえも許してくれないらしい。 「あぁっ!?」 見つけてしまったよ。間近な人混みに佇む、赤と青のツートンカラーの後ろ姿を。 肩の丸みや腰つきからして、女の子なのは確定的に明ら...
  • 第九話  『もっと近くで君の横顔見ていたい』
    翌日の日曜日、蒼星石は、いつになく早い時間に起床した。正直、まだ眠い。 けれど、昨晩の事を思うと胸が疼いて、とても二度寝する気にはなれなかった。   『私はもう、蒼星石を1番には想えないのです』   『何故なら、今の私にとって1番のヒトは――』 また、ズキズキと胸が痛み出す。嫌だ……。額に手を当てて、蒼星石は嘆息した。 なんだか、底なし沼に踏み込んでしまった気分だった。 足掻けば足掻くほど、ずぶずぶ深みに填っていく。 考えれば考えるほど、どんどん出口が見えなくなってしまう。 きっと、自力では、この悪循環から抜け出せないのだろう。 誰かに引っぱり出してもらわなければ…………ずぅっと、このまま。 洗面所で顔を洗っても、蒼星石の心は晴れない。 鏡に目を転じれば、そこには水滴をちりばめた暗い顔。 瞼を泣き腫らして、憔悴しきった惨めな表情に、姉の泣き顔が重なる。 鏡像の奥には、洗濯機と、洗...
  • 『古ぼけた雑貨店』
      『古ぼけた雑貨店』 午前1時を過ぎる頃、私の足は、いつもの場所に向かう。 持ち物は、財布と携帯電話。それと、マフラー。 私のお目当ては、24時間営業のコンビニではない。 如月の夜風に揺れる、赤提灯でもない。 なにを隠そう、古ぼけた雑貨店なのだ。 その店を見つけたのは、去年の夏ごろ……蒸し暑い夜のことだったと記憶している。 会社の同僚と飲みに行って泥酔した私は、うっかり電車で寝過ごしてしまったのだ。 乗っていたのは終電で、反対方向の電車も既に走っていない。 と言って、乗り越したのは二駅だったから、タクシーを拾うのも馬鹿馬鹿しい。 やや迷った挙げ句、酔いざましも兼ねて、歩いて帰ることにした。 そして、普段は通ることのない路地裏で、件の雑貨店に巡り会ったというワケである。 ――こんな夜遅くまで、営業しているなんて。 我知らず、双眸を見開いていた。 辺り一面の夜闇の中で、明...
  • 『パステル』
      『お試しあれ! あなたの描く絵が、現実のものとなります!』 こんな謳い文句のパステルと、真っ新な画用紙が、目の前に置かれていたら―― はてさて。あなたは、どう振る舞うのでしょうね。 無邪気にはしゃいで、その胸に温めている夢を、せっせと描きますか?   それとも――     美味い話には裏があると勘繰って、手に取ることさえ躊躇いますか?       あるいは―― ククッ……。実に興味深い。人の懊悩する姿は、やがて来る劇的な瞬間を、予感させます。 欲望を満たしたくなるのは人の性。素直に従うも、理性に縛られるも、どうぞご随意に。 傾けた情熱が招くのは、束の間の幸福か……はたまた、破滅への堕落か。 イーニー ミーニー マイニー・モー 神様の言うとおり……  -1-  -2-  -3-  -4-  -5-  -...
  • ~第二十八章~
        ~第二十八章~ 朝餉を終えて、旅支度を調える八犬士と、結菱老人。 けれど、向かう先は違った。 真紅たちは、鈴鹿御前の居城へ。そして、老人は自らの住処へと戻る。 穢れの者どもの本拠地に殴り込むに当たって、自分は足手まといになる。 自分が居ることで、愛娘の雛苺や、その姉妹たちに余計な気苦労をかけてしまう。 彼女たちの不利になる事は、是が非でも避けねばならなかった。  (領主の命を受けて神社を発つ際、儂は、何としても雛苺を護ると誓った) その誓いを果たすのは、今を置いて他にない。 絶対に負けられない戦いに赴く娘たちへの協力を惜しんでは、名が廃る。 今こそ個々の力を最大限に発揮できる環境を、用意してやらねばならないのだ。 荷物を背負い、結菱老人は少しも蹌踉めくことなく立ち上がった。  「では、儂はそろそろ……。真紅どの。雛苺のこと、よろしく頼みますぞ」  「勿論よ。雛苺は、私...
  • 『パステル』 -14-
    めぐを救いたい―― 水銀燈の切々たる願いには、まったくもって同情を禁じ得ない。 彼女の境遇に立たされれば、同じことを考えただろうと、雛苺は思った。 だが、しかし、それは子供がオモチャをねだるほどに気安いことではない。 結論を先に言えば、どうしようもない。 外傷ならば、いざ知らず……めぐの病気は、心臓にあるのだ。 しかも、雛苺はこれまで、正常な心臓とやらを見たためしがない。 そんな状況で、どんな絵を描いたら治せるのかなんて、判ろうはずもなかった。 「めぐは、この数年、人並みの生活さえ許されなかった。  その彼女に、やっと、ささやかな幸せが訪れようとしているわ。  だから、お願い。なんとか、善処してあげて」 「そ、そうは言われても……困っちゃうのよ」 できることなど、なにもない。ココロに浮かぶのは、その台詞だけ。 しかし、言葉にはできない。言ってしま...
  • 第一話 『Face the change』
        ――1932年 南フランス。 夜……雲が月を遮って、いつもより暗い夜。煤煙を撒き散らしたような、漆黒。 陰鬱たる森の静寂を、無粋なエンジン音で破りながら疾駆する黒塗りの車が、一台。 1929年のパリ・モーターショーで華麗にデビューした、プジョー201だ。   山間の閑散とした田舎道に立ちこめた夜霧は、いつになく濃い。 それが為だろう。通い慣れた道であるにも拘わらず、薄気味悪くて仕方がなかった。 運転手も不穏な気配を感じているのか、普段より更に、飛ばしている。 いくら煌々とヘッドライトを灯したところで、夜霧を消せる訳もないのに…… こんなに早く走ったりして、危なくはないのかしら? 轍とか、張りだした根に車輪を乗り上げて、横転したりはしない? 僅かでも不安を抱いてしまうと、それが呼び水となって、更なる不安に苛まれる。   「ねえ……霧が深いから、怖いわ。どうせ家に帰るだけだもの。  ゆ...
  • 『煌めく時にとらわれ・・・』
      はじめに これはJKスレ最終回に、間に合わせで書き上げたSSです。 最後でしたから、スレタイ物として完成させました。 それがケジメかな……と、勝手な解釈をして。  《使用しているスレタイ》 【寒い季節 二人で・・・・】  【春は もうすぐ♪】 【さよならは 言わないよ】 【花咲く頃は 貴方といたい】 【ねぇ 手、つなご?】    【笑顔が咲く季節】 【この気持ち 忘れない☆】   『煌めく時にとらわれ・・・』 ――春先にありがちな強い風が吹く、小雨降る一日だった。 舞い落ちた桜の花びらは濡れた地面に貼り付き、踏みしだかれていく。 沈鬱な空模様と相俟って、校門をくぐる誰の足取りも、重い……。   今日、私立薔薇学園高等学校は、卒業式を迎える。 整然と椅子が並べられた体育館に、穏やかな曲が流れ続ける。  「意外に、あっけないもんだな」 在学中は、あんなに早...
  • 『祭りの余韻』
      『祭りの余韻』 薔薇学園三大祭りのひとつ――バレンタインデー だんじり祭りにも例えられる過激なイベントは、さしたる大事故もなく、 終わりを迎えた。 例年、流血の惨事が起きていただけに、教員の安堵もひとしおだろう。 本命から貰えた者。縋り付いて義理チョコを掴んだ者。全く貰えなかった者。 悲喜こもごも織り交ぜ、喧噪に沸いた学園は静寂を取り戻していく。 夕日射す校舎の屋上で、水銀燈は独り、フェンスに背をもたせ掛けていた。 別に、待ち合わせの約束をしていた訳ではない。 正確に言えば、呼び出されたのだ。   『部活が終わったら、屋上に来てください』 玄関で靴を履き替えようとした時、下駄箱から零れ落ちた一通の手紙。 女の子っぽい丸文字の筆跡には、ところどころに堅さが見えた。 よほど緊張して書いたらしい。  (誰かしらぁ? 殆どの人には上げたし、もらってもいるわよねぇ) 面倒見...
  • ―葉月の頃 その3―
          ―葉月の頃 その3―  【8月13日  混家】後編 作者の名前を、じぃ……っと眺めていた蒼星石の唇が、物思わしげに動く。 「これって――」 そこは、ジュンと巴と、翠星石の時が止まった世界。 三人が三人とも、塑像のように固まったまま、続く蒼星石の言葉を待っていた。 心境は、さながら、裁判長の判決を待つ被告人といったところか。 本心では聞きたくないと思いながらも、 彼らは現実逃避――耳を塞ぎもせず、その場から逃げ出しもしなかった。 カラーコピーの表紙を眺めながら、蒼星石が口にしたのは―― 「外人さんが書いたマンガなんだね」 途端、硬直していた三人が、詰めていた息を吐き捨て肩を落とす。 翠星石は引きつった笑みを貼り付かせつつ、蒼星石の手から冊子をかっさらった。 「そそ、そうですぅ。きっと、ジュンたちは……えぇっと、そう!  雛苺の参考になればと思って、持ってきたですよ...
  • ―如月の頃 その2―
          ―如月の頃 その2―  【2月4日  立春】 日付が変わり、二月四日を迎えた頃―― 救急病院の、薄暗く、うら寂しいロビーに、二つの人影があった。 どちらの影も、常夜灯が点された真下のソファに腰を降ろし、項垂れている。 「なんという事だ…………まさか、翠星石が……」 両手で頭を抱えて、柴崎元治は嘆息した。 鎮痛剤を飲んで就寝していたところを、事故の知らせに叩き起こされたのだ。 事故を起こしたバイクのライダー共々、救急車で運び込まれた翠星石は、 いま、治療と精密検査を受けていた。 「あの子に、もしもの事があったら、儂は……かずきに合わせる顔が無い」 「お祖父さん――」 彼の妻、柴崎マツは、悲嘆に暮れる亭主の背中に、そっと手を当てて囁いた。 「しっかりして下さい。きっと、大丈夫ですよ」 ついさっき、担当の医師に簡単な説明を受けたばかりだ。 目立った外傷は無く、大きな骨...
  • 第五話  『もう少し あと少し…』
    横に並んで歩き、塀の陰に消える二人の背中が、目の奥に焼き付いている。 校舎と校門は、かなり離れていた筈なのに――彼女たちの笑顔は、ハッキリ見えた。 瞬きをする度に、その光景が頭の中でフラッシュバックする。   どうして、あの二人が? 蒼星石の頭を占めているのは、その疑問だけ。 双子の姉妹という間柄、姉の友好関係は熟知しているつもりだった。 けれど、翠星石と柏葉巴が友人という憶えはない。 彼女たちは、蒼星石の知らないところで交流があったのだろうか? 翠星石ならば、有り得そうだった。可愛らしい姉は、男女を問わず人気者なのだから。 しかし、それなら今日、巴との会話の中で、翠星石の話題が出ても良さそうなものだ。 (それが無かったところから察して、つい最近の付き合いなのかな。  昨日、姉さんが体育館にいたのも、柏葉さんと今日の約束をしてたのかも――) なんだか除け者にされたみたいで、蒼星...
  • ―葉月の頃 その9―
          ―葉月の頃 その9―  【8月24日  怪談】 前編     その報せが伝えられたのは、夕食の席に、みんなが顔を揃えた時だった。 誰もが、料理を食べ終え、どれが美味しかっただの思い思いの感想を述べつつ、 温かいお茶で喉を潤していた頃―― 「みんなー。食べ終わったら、あたしの部屋に集合だからねー」 みっちゃんの呼びかけに、あれ? と、翠星石が首を傾げる。 今夜は、この宿の近くにある山寺で、肝だめしをする予定ではなかったか。 そればかりが憂鬱で、食の進みもイマイチだったというのに…… 復活して間もない真紅や金糸雀を慮って、予定が変更されたのだろうか? 翠星石は、おずおずと右手を挙げてみた。 「あの……みっちゃん。ちょっと訊いてもいいです?」 「ん? なぁにかなぁ、翠星石ちゃん」 「どういうコトです? みんなで部屋に集まって、何するですか」 「あれ、聞いてないんだ? カナ、みん...
  • ―皐月の頃 その4―
          ―皐月の頃 その4―  【5月6日  立夏】 僅かに開いたカーテンの隙間を縫って、眩い光が、暗がりを割って射し込んでくる。 それは太陽の移動と共に位置を変え…… 今や、ベッドで寝息を立てていた翠星石の横顔を炙っていた。 ジリジリと日焼ける頬が熱を帯びて、とても暑い。 今日は立夏。暦の上では夏に入る。いわば季節の変わり目だった。 「…………んぁ? もう、朝……ですぅ?」 重い瞼を、しょぼしょぼと瞬かせ、起き上がった翠星石は、 隣に誰かの気配を感じて、ぎょっと眼を見開いた。 なんと! 自分が寝ていたシングルベッドに、もう一人いるではないか。 その人物は窮屈そうに縮こまって、いかにも寝苦しそうに、眉間に皺を寄せていた。 「み……みみ、み……みっちゃんっ?!  どうして私のベッドに、みっちゃんが居るですかぁっ!」 おまけに、よく見れば翠星石は、一糸纏わぬ姿だった。 「ひえ...
  • ―文月の頃 その1―
          ―文月の頃―  【7月2日  半夏生】 夏至から11日が過ぎても、依然として梅雨が明けない、七月最初の日曜日。 翠星石は、週末恒例ゆるゆる朝寝を楽しんだ後、机上のノートパソコンに向かい、 文月の名に相応しく、蒼星石からの電子メールを確認していた。 この作業も、すっかり日常生活に織り込まれてしまった感がある。 「うふふ……今日も来てるですね。流石は、私の妹。律儀で感心ですぅ」 気忙しく、新着メールを開く。 ここ数日の話題は、専ら、夏休みのことばかりだった。 気が早いとアタマで解っていても、会いたい気持ちは抑えられない。 【おはよ、姉さん。そっちは、もう梅雨明けした?  こっちでは、だいぶ気温が上がって、夏らしくなってきたよ。  昨日は、オディールが――】 そこまで読むと、翠星石は眉間に深い皺を刻んで、メールを閉じてしまった。 昨夜から、心待ちにしていたにも拘わらず、...
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