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バトルロワイアル狂奏曲 - (2012/01/02 (月) 09:02:39) の編集履歴(バックアップ)



とりあえず。
先に言っておこう。


人ってものは何時でも狂うことが出来る。


いくら正義を貫こうと。
いくら王道を歩もうと。
いくら良心が働こうと。
いくら公正で在ろうと。
いくら正しく、より正しく生きたところで、狂うこと自体は容易いのである。

ただ、ここで狂うという言葉を使うと。
このバトルロワイアル内で「狂う」という単語を使うとどうしても負のイメージが先行してしまうものだが。
ここで言う「狂う」は別に負のイメージとは限らない。

要するに。
今までの「存在証明」という名の志から逸れることを「狂う」と使わせてもらおう。
例えば、今まで軽犯罪を繰り返してきた男が真っ当に生きているのも一つの「狂い」だろう。
例えば、ずっと引き籠って不登校生活していた学生が学校に行こうとするのもまた一つの「狂い」。

ただ一つ。
一つの切っ掛けにおいて、人間は良くも悪くも変わることが出来る。染まることが出来る。
友情。恋愛。使命。責任。勘違い。罠。
種ならば幾らでもある。
だからこそ。
人というものは変わるのだろう。


この「バトルロワイアル」という促進剤を前にして、より健やかに。


まあ。
そしてここに。



どういった意味でかはさて置いて。
この一件を境にしてかはいざ知らず。
それでも「狂った」人間が数人。


そんな人たちの物語を見てゆこう。



 × × ×



「情報統合思念体にこの件についてコンタクト開始――――コンタクト失敗」

長門有希は、言うまでもなく宇宙人だ。
正確には対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイスというのだが、ここは宇宙人と統一させてもらう。
ともあれ彼女は宇宙人というだけあり、人ではない。人に擬態した人外。
何て言い方を言うと害あるものかと思われるとこちらとしては思うことがあるのでここにきっぱりと言っておく。
少なくとも普段の彼女は害あるものではない。

彼女はいわば監査員だ。
対象者は、『神』涼宮ハルヒ。

「………どうして」

涼宮ハルヒは『願望を現実に変える能力』をその身に秘める。
今回の件、「バトルロワイアル」においては尤もな流れとして封印されてはしまったのだが。

ともあれ、その力は言うまでもなく膨大だ。
影響力、強制力ともに使う本人の如く傲慢だ。
その力に、通称キョンを始め彼女も振り回されている。
かつての八月の件なんて最もな例だろう。

それでも。
せめてもの救いを言うのであれば、彼女がその力を存じていないこと。

たとえ唐突に桜が変色しようとラッキーで済ませ、
たとえ突然灰色の空間に招かれ青色の怪人に襲われたのも夢オチで済ませる。
そんなこんなで今までその力を知らずして過ごしてきたのが、救いだ。

そして――――彼女らの成果ともいえる。

人間。
そんな力を自分がもっていると知ったらどう動くか分からない。
信じようにも信じ切れなくなる。
故に彼女らは、その力を隠匿しながら平穏で波瀾なが苦戦生活を今までは送っていたのだ。

「再度情報統合思念体にこの件についてコンタクト開始――――コンタクト失敗」

さて、そんな紹介も程々にしておいて。
今現在の彼女を見ていこうと思う。

彼女が先ほどから行っているのは、言葉通りに情報統合思念体コンタクト―――接触だ。
先ほどから専門用語が多くて困るが、情報統合思念体とはいわば彼女ら宇宙人の元締め。親玉とも言い変えられる。
彼女が文字通り宇宙人並みにいかれた力を使えるのはこの存在あってこそと言い変えても差支えは無い。

まあ、ともあれ。
彼女は先ほどからずっとそのように接触を試みていた。
しかし、結果はことごとく失敗の一路を辿っている。
いや正しく言うならば、接触は出来る。最低限の要請もできる。

だが。
このバトルロワイアルの壊滅を許してはくれない。

許してくれなければ、何もできないのが彼女の能力。
それは彼女としても理解しているし、無論のこと彼女はそれを由としている。
されど、場合が場合。


この場に置いて、情報統合思念体が、要請を拒否する理由などあり得ない仮定の一つを抜きにすると、そもそも皆無なのだ。


朝倉涼子というバックアップといえる存在ならいざ知らず。
この長門有希となればそうはいかない、いかせない。
けれども現実では、接触に滞る。

幾ら相手側に、「朝倉涼子」という存在があろうとも、というよりかは在ること自体がおかしいのだがさておいて。
「朝倉涼子」にはそれだけの力は、情報統合思念体に関する力は先の通り長門有希の方に分がある。

けれども、何故だか。

この「バトルロワイアル」が始まって以降、ずっと不調なのだ。

理由は分からない――――わけでもない。
しかしそれはあり得ない仮定なのだ。


「涼宮ハルヒ――――?」


そう、その一つのあり得ない仮定。
考えるまでもない、一つの可能性。


それは、涼宮ハルヒがこの状況を望んだという可能性。


理由は別に思い返せば幾らでも思いつける。
元々なにかしらに感化されやすい涼宮ハルヒのことだ。
サバイバルゲームをやってのことから発展していったのもかもしれない。
テレビの特集で戦場についてのことをやって何かに期待して胸躍らせていたのかもしれない。
ふとして、唐突に突拍子に思いついただけなのかもしれない。

しかしそれでも。
それだけの切っ掛けにおいても、涼宮ハルヒを前にすれば実現する。

けれど彼女なりにそれは無いと見込んでいた。
普段の彼女の生活を見ると、そんなことはねじ曲がっても考えないだろう。
そういう評価を下し観察していた。
少なからず、昨日までの彼女にはそうした挙動などは見受けられなかったのだから。


ただ。


この、情報統合思念体との滞りを受けると。
彼女の中で、その可能性は徐々に肥大化していった。

元々、情報統合思念体とは、彼女の意思が最優先といえるべき個所が見受けられる。
つまりそれが意味するのは、彼女の意思の尊重。
そんな性質を有する概念。

だから彼女はこう考える。
だから彼女はこう思った。


それが、「バトルロワイアル」を打開できない理由なんじゃないのか、と。
この一件には、涼宮ハルヒの意思が一枚買ってるのではないか、と。


だとすると。
長門有希。彼女が思うことはただ一つ。


ある種の失望。


仲間思いで、それ相応の人格者で、太陽の様な彼女。
そう認識していたのも改めなければなるまい。


かつて誰かは涼宮ハルヒに対しこう言った。


神―――と。


しかし、違ったようだ。

と。

彼女は、ふと呟く。


「悪魔………」


その声は、静かに木霊する。