**第十話 斬られた! あたしはそう覚悟して、ぎゅっと目を閉じた。 実際、斬られたと思ったのだ。もちろん、二人組みの男たちもそう思っただろう。だが、それに伴うはずの痛みが、いつまでたってもやってこない。 恐る恐る目を開くと、目の前には、見慣れた背中があった。 宮内だ。 あっさり吹っ飛ばされた後、どうやら全速力で起き上がり、あたしと大男の間に入り込んだらしい。 「琥珀!ぼっとしてんな、どけ!」 大男の振り下ろした刀を、自分の木刀で受け止めながら、必死の声で宮内が叫ぶ。 それを受けて、座り込んでしまっていたあたしは、体勢を立て直して大男と宮内から少し距離をとる。 宮内は視界の隅にあたしがどいたのを確認したのか、半歩後ろに下がりながら…右肩を後ろに退きながら、大男の斬撃を受け流した。 うん、あたしが後ろにいる状態であれやったら、確実にあたしは切れてたね(いろんな意味で) 。 刀を全力で振り下ろしていた大男は、急に標的が…つまり宮内がいなくなったことで、力の行き場を失って体勢を崩す。 その間に、宮内はあたしの傍まで退いた。 「…琥珀」 「うん?」 「木刀で勝てる相手じゃねーな」 「…うん」 真剣なしで、試験を突破しようとしていたあたしたちは、ちょっと甘かったらしい。 「…でも、俺今ので腕痺れた。まかす」 「……しょーがないな」 あたしは、腰に下げていたもう一本の刀…『玉凛』を抜いた。 今度こそ、真剣だ。 他の人はどうか知らないが、あたしにとっては木刀は。 いくら、使い慣れた『凪』であっても、軽すぎるのだ。 実力の半分も出せないと言ってもいい。 それは、物理的な重量が軽すぎるのか。 それとも、『命のやり取りをする』という覚悟が軽すぎるのか。 どっちにしても、あたしにとって『玉凛』を抜くということは、つまり相手の命を取る覚悟を決める、ということだ。 さっき、斬られたと思った一撃で、相手の実力はわかった。 もともと、真剣で向かってくる相手に木刀で相手をしようと思ったのが間違いだったのだ。 大男が、体勢を立て直してあたしに向かってくる。 …あ、宮内のやつ、本当に何歩かひきやがった。 まぁ、いいか。 大男が繰り出す斬撃の軌道は、真剣モードのあたしにとっては、単調なものだった。 その巨躯と、力に任せて刀を振り回すだけの、単調な。 「…おいおい、これに斬られてたら、一生もんの恥だったよ」 そっとひとりごちて、大男の隙を探る。 いや、探るもなにも、隙だらけだった。 「さっきのはまぐれ…かな?」 大男が大きく剣を振り下ろした瞬間。 あたしは、その斬撃を避けた上で、大男の首元に、刀を当てた。 「動けば、斬る」 「………」 あたしが避けるばかりだったからだろう、調子よく刀を振り回していた大男は、初めて動きを止めた。 ---- **作者コメント 作者コメント無し [[第九話へ>第九話]] [[第十一話へ>第十一話]]