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こたうじ14 「すっかり冬じゃのう」 春には薄紅に色づく小田原城は枯れ木ばかりとなって、何ともうら寂しい。雪が降ればそれもそれで美観となるだろうが、固い樹皮と枝が眼下に広がる光景は物足りなかった。 「いつまでも花があって欲しいと思うが、それも酷じゃな。もう次の春を見越して力を蓄えておるのじゃから」 人よりもずっと先を見据えているのかと呟く氏政の背が丸い。戦装束を纏わず、羽織の老人の姿は小田原城下の木々に似ている。だが春を待ちわびる氏政の顔には、桜のような内に秘めたる勢いがなかった。 「……っ」 不吉な思いを振り払うべく、小太郎は奥からもう一枚、上掛を持ってこようと立ちあがる。寒風は体によくない。 「よいよい、小太郎」 氏政がそれを制す。 「春の華やぎも冬の訪れも、我らが北条家の主が受けてきたものじゃて。ご先祖様が身にうけた風が寒かろうか」 「……」 渋々、足を戻す。氏政は決めたことはけして覆さない。だが後であたたかいものを出すよう誰かに頼もうとは思った。 「小太郎、次の桜も見たいか」 「!」 言うまでもなく。 「そうか。儂も見たいぞ」 次の春も、そのまた次の春も。 幾度先の桜でも見たい。 氏政が治めるこの城で。

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