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エクセレント下僕 - (2007/08/14 (火) 22:46:52) の編集履歴(バックアップ)


BACK(戻れない)



騒動のあった直後、酒場を後にしたレラ。

彼女はトレマルと別れ、レンガ作りの家屋に挟まれた、せまく細い通りを歩いていた。
人目を避けて歩く、つまりは逃げ出す為である。
騎士による尋問で時間をとられるなどまっぴらだった。


この街に限らず、最近では碁盤目状に家々が建ち並ぶケースが増えている。
家屋の隙間を縫うようにして、大小の通りが広がっているという仕組みだ。

大通りだけを避けるようにして歩くのは容易なことだが、一方で似たような景色ばかりが続き、
位置をよくよく確認していないと単純な街並みとはいえ、迷子になってしまうことも珍しくない。
そのことを心配する意味も含めて、数ブロックおきの十字路に騎士警団の詰め所が存在し、
街の安全と治安とを守っている。

今は、ツヴァルスという名のついた大通りにある詰め所から、大勢の騎士が捕り物に向かったとの事。
夕暮れ通りは、にわかに騒がしくなっている。
どこで騒ぎを聞きつけたのか、市民達が野次馬がてら出かけて行く真っ最中だ。

レラは全てをよく心得ているようで、詰め所と野次馬が群れるところを避け、
何処かへと急いでいる。

せいぜい数人が、うつむき加減に歩くレラとすれ違った。
しかし皆して、やはり騎士の活躍のほうが気になるようで、レラの奇抜な服装にも、
彼女が手にし眺めていた、一枚の写真にも無関心だった。
おかげでレラは一人歩きながら、写真に没頭している。


レラが手にしている写真には、聖職者が身につける群青のローブを身にまとった青年が写っていた。
青年は華奢であり、髪を逆立て、眼鏡をかけているところまでは見て取れる。
遠くからこっそりと撮影したものなのだろう。
被写体はあさっての方向を向いてしまっている。けれどその表情はまるで刃のように引き締まっており、
あとコンマ数秒もあれば、撮影者に向き直り射抜くような視線を浴びせたのではないだろうか。
今にも静止画の青年の眼が、ぎらりと見る者を凝視し返してきそうだった。


レラは先ほどからずっとその写真を、天にも昇る気分で見つめているのだ。
彼女が辿っている道、行き先こそ確かなものかどうか。前方などほとんど見ていない。
満面の笑みで右へふらふら、左へふらふら、
あげく、時折空を仰いでは「お兄様、ステキ・・・」などと呟く。
子連れの母親から『見ちゃ行けません』の烙印を押されること必至の、
危険極まりない生き物である。

しかしレラにしてみれば、その写真は今回の情報屋トレマルとの接触で得た、
唯一にして最高の情報である。実に半年ぶりの有力情報なのだ。
舞い上がるのも無理は無い。


「トレマルってば、やる時はほんとやってくれるんだよなぁ」


毎回、情報屋トレマルは依頼人と落ち合う日時も、場所も指定してこない。
彼は変装の名手であり、依頼人を驚かすことを楽しんでいるフシがある。

例えば、レラがふらりと立ち寄った酒場で、なぜか店員として働いていた。
それが今回であり、前回は演劇ですぐにやられる雑魚怪人、
そのまた前回はレラが船で航海しているときに出会った難破船の乗組員だった。