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「ったく……何で俺まで来なきゃ無いんだよ」 ぶつぶつと文句を言うと、背中のシャツがぐいと引っ張られた。 俺のシャツにしっかりと掴まっている幼馴染が、上目遣いで俺を見上げる。 「ご、ごめんてば。だって、怖いし……」 プルプルと震えながら体を縮こまらせるその姿は、まるでハムスターのようで、 俺はうっかり可愛いななどと考えた。 あわててその考えを振り払い、俺はあきれたようにため息をついて見せる。 「夜の学校が怖いとかって。お前何歳だよ。本当に俺と同じ歳? 本当に男か?」 「うう~~……」 「一人で取りに来るのが怖いなら、プリント忘れたりするなよ」 「だって、明日が提出だって忘れてたんだもん……」 「せめて暗くなる前に思い出せ」 更に大きくため息をつくと、相手はすっかりしゅんとして俯いてしまった。 そのまま会話が止まってしまって、少し言い過ぎたかな、と俺は僅かに後悔する。 何か声を掛けようと、口を開いた瞬間、足音だけが響いていた夜の学校に、水滴が滴る音が響いた。 「っぎゃーーーーーー!!」 「おわ!? ちょっコラ、しがみつくな!!」 「だってだってだって!!」 「蛇口から水が垂れただけだろ!! 落ち着け!!」 力いっぱい飛びついてきたその体を何とか受け止め、震える背中を落ち着かせるように撫でてやる。 「大丈夫だから……俺がついててやるから」 「ほんと?」 ようやく顔を上げたその瞳にはうっすらと涙が溜まっていて、その表情にどきりと俺の心臓が跳ねた。 ああもう、昔っから、俺はコイツには弱いんだ。 「ああ。何があっても、いつでも俺はお前の傍に居るから」 「……うん。なら、何があっても大丈夫だよなっ」 あっという間に笑顔になったその顔を見て、俺は苦笑するしかできなかった。
見た目チャラ男なのに成績優秀な攻め・見た目ガリ勉なのに学業不振な受け ---- なんなんだ、なんなんだ、なんなんだ!? 何でそんなこと言われなきゃならない? 「お前は本当に見た目はなぁ……」 言葉を濁すなよ。 見た目だけなら成績優秀、はっきりそう言えばいい。 実際はイマイチなのになって、そう言えばいいじゃないか。 俺がそう言われるのは、あいつのせいだ。 明るい色に染めた髪、ピアスやバングルをじゃらじゃら着けて、 制服の着方もだらしない。 リョウタの見た目はどこから見てもチャラ男だ。 なのにあいつはいつも成績トップ。 あいつがいるから、俺がいつも引き合いみたいに貶されるんだ。 悔しくて下唇を噛み締めてたら、背中をポンと叩かれた。 「委員長、今帰るとこ?遅いじゃん」 ジャラリと腕のバングルの鳴る音がする。 「俺、委員長じゃないし」 「いいじゃん、そのメガネ、委員長って感じだし」 「かけたくてかけてるわけじゃない」 苛立ちを隠しきれない声で答えたのに、リョウタは意にも介さず、 「で?」 隣に並んで歩き出す。長い足だ。ムカツク。 「でって何だよ」 「今帰りなの?って聞いてんの」 「見ればわかるだろ」 「ははっ、何か拗ねてんなぁ。どうしたんだよ。 先生に怒られでもした?」 お前のせいだよ。 お前がそんな見た目のくせに成績がいいから、俺が見た目だけ優秀とか 言われるんだよ。 「何でもない」 「ふぅん。まぁ、気にしなくていいんじゃね?」 「何が」 「見た目とかさ」 「お前……聞いてたのか!?」 クソ!!何てやつだ! 恥ずかしい、腹が立つ、俺は……俺にだってプライドがある! 「あのさ」 俺が羞恥と怒りで絶句していると、リョウタがまた口を開いた。 「委員長……今度一緒に勉強しない?」 「は……?」 意外な言葉に面食らう。 「な、なんで俺がお前と! だいたい、俺なんかと勉強しても、お前には何の得もないだろ!」 「それが……あるんだな」 何を言ってるんだ、こいつは。 「まぁいいじゃん。それはおいおいってことで」 「意味がわからない」 「いいからいいから。とにかく一緒に勉強しよ。約束な」 一方的に決めて、リョウタはニカッと笑った。 意味がわからない。 わからないのに、なんとなくその笑顔につられて俺も微妙な笑いを返してしまう。 「ヘヘ」 それを見てまたリョウタが笑う。 嬉しそうな顔だ。変なやつ。 「じゃ、また明日な!」 言ってリョウタがまた俺の肩を叩いた。 また、じゃらり、とバングルの音がした。

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