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18-449-1 - (2010/03/09 (火) 16:53:28) の編集履歴(バックアップ)


照れ隠しで抱きしめる

あまりに関谷が俺を褒めるものだから、照れ隠しに抱きしめてみた。
関谷はぎゅむ、と声ともつかないうめき声をあげ、じたばたしている。
参ったか、これで黙らざるを得まい、どうだ俺の嫌がらせは。言葉にすればそんな気持ち。
とにかく、いつも生意気な後輩に一矢報いたつもりだった。

実のところ、逆襲の必要はもうなかった。
真面目だが一本気すぎて扱いにくいと評判だった関谷は、
一緒に担当した今回のプロジェクトを通じて、徐々に素直になっていたから。
鼻っ柱の強い後輩に認めさせる……先輩としての勝利だ。
だからもう気は済んでいた。まさか薬が効きすぎているとは思いも寄らなかった。
「いい仕事でした……加納さんの企画は的確だった。
 客も予測以上に入ったし……内容もよかった。ゲストも受けた。
 地味なテーマなのに満足度高かったですよ。取材も結構来ましたしね。
 加納さんの人脈があってこそでした。いや良かったです。本当にいいイベントになりました、大成功でした。
 加納さんは……すごい人だと、僕は思います」
饒舌というよりは訥々と、それでも心から思っているのだろう、何度も同じ事を繰り返す。
酒に弱い関谷は、褒め上戸だったのだ。
先輩冥利に尽きる。こんなに心酔されることなんてなかったと思う。
大げさに持ち上げられるよりじんわり気持ちが伝わってきて、嬉しいと同時にすごく照れた。
酒が入る直前まではいつもの落ち着いた関谷だったので、面はゆさに拍車がかかる。
最初は驚き、次第に苦笑い、ついには恥ずかしくていたたまれなくなった。
俺も酔っていた。冗談に紛らせて関谷を黙らせるつもりだった。
「お前の気持ちは分かった。俺も、お前がいたから今回頑張れたと思うよ!」
オーバーに叫んで、力一杯抱きしめた。

締め上げた、といった方が良いベアハッグだったから、息が詰まって関谷はあえいだ。
パッと離すと、顔が赤い。耳も、首筋まで真っ赤だ。
「感謝、感謝。もう、あんまりお前が褒めてくれるから感謝の気持ちね。
 関谷のこと俺、本当、愛してるから!」
テンション高くうそぶくと、火傷したように関谷の体がはねた。
……予想した罵詈雑言が返ってこない。急速に酒の力が抜けてくる。
黙ってしまった関谷に、俺はようやく何かいけないことをしたと……悟った。