踏めやゴラァ ---- 講義を終えて食堂へ向かう途中で気がついた。 周りのみんなが俺をちらちら見ては、くすくす笑っている…ような気がする。 なんだろう、俺そんなに可笑しな格好してるかな…あ、寝癖でもついてるとか? 髪を撫でつけてはみたけれど、梅雨も間近の湿気を含んだ猫っ毛が指に絡むばかりで、真相は判明しない。 あ、また。後ろから俺を追い抜いていった二人連れの女の子が、何か言いたげに俺を見ながら足早に去ってゆく。 ちぇ、と小さく舌打ちしてみたのと同時に、何かを踏んで前につんのめる。見下ろすと、靴紐がほどけていた。 ほどけたのが右なら××左なら○○ってジンクスがあったよな確か。などと思いながらしゃがんで結びなおしていたら、背中にどかっと衝撃がきた。 「ぐぁ……!」 反動で地面にしたたか膝をぶつけてしまい、俺は思わず涙目になる。 「あ、すまん、ちょい勢い余った」 まるですまなさそうでない口調で言いながら覗きこんできたのは、同じクラスの斉藤だ。 「おま…! 何すんだよ!!」 「や、だって、ほら…」 斉藤が俺の背中に手をやる。何か剥がす気配がする。目の前に掲げられた紙切れを見て、俺は脱力した。 笑われていた理由といきなり蹴り飛ばされた理由はこれか… 誰だ、人が寝ている間に背中にこんなものを貼った奴は―― 『踏めやゴラァ』 ---- [[伝わらない>6-619]] ----