シンガーとピアニスト ---- あなたは自分を未熟者だと言います。 私はその弱さを叱ります。 そしてあなたの声を褒めるのです。 あなたのその声。甘く低く、よく響く声は素晴らしい。 あなたからそれを引き出す道具が、私の手元にある、このピアノです。 古いイタリア歌曲。意味も知らぬまま、あなたは歌います。 私の想いを縛り付けた いとしい絆、やさしい結び目よ、 私は、自分が苦しみながらも楽しんでおり、 捕われの身に満足していることを知っている。 あなたは歌うたびに私に告白し、私は歓喜しつつキーを叩く。 ふだんの生活では許されぬ想いですが。 しかし舞台の上で、稽古場で、音の世界でだけならば、相思相愛でいられます。 そのくらい良いでしょう? もうすぐ最後の小節を弾き終えれば、それで恋歌はおしまいですから。 ---- [[卵とさいばしとフライパンの関係について>1-779]] ----