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20-589 - (2011/09/30 (金) 22:26:34) のソース

盲目な受け
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君は国王直属の騎士になる予定だった。 
私が流行り病で視力を失うまでは…。 

「王子…時間です」 
「あ、はい」 
城の外から、民衆たちの歓喜の声が聞こえる。 
今日、この国には新しい王が誕生する。 
玉座に座るのはもちろん私…ではない。 
君が私の手を取る。 
いつも剣を振り回している、ゴツゴツとした手。 
少し指先が冷たい、大好きな手。 
「王子の手を取れるのは自分だけの特権だ」と、君は笑った。 
朗らかな声で笑った。 
扉が開くと、強い風が私と君の髪を靡かせる。 
君の髪が、私の頬をくすぐった。 
私が光を失った日から、君は髪を伸ばしていると言ったね。 
「王子の瞳に、光が戻ったとき、びっくりさせたくて」 
やっぱり君は朗らかに笑った。 
肩ぐらいだった君の黒髪…今は、背中を覆うほど伸びているんだ。 

石畳が続く廊下を、着慣れない服で歩く。 
王家代々に続く、式典の為の礼服は足にまとわり付くような長い裾が特徴だ。 
女性ならまだしも、男性までこんな服着るの?…とは思ったけれど、礼服だから仕方ない。 
恐る恐る、裾を踏まないように、ゆっくりと歩く。 
窓の向こうからは、弟の名を叫ぶ民衆の声が聞こえる。 
本当ならば、私の名が叫ばれていたはずだった。 
微笑む私の隣で、君は誇らしげに胸を張っているはずだった。 
そんなことをぼんやりと考えていると、案の定、長い裾を踏みつけ、前に体勢が崩れる。 
「あ!」 
石畳に叩きつけられそうになる体。
かし、その体は、強い力で抱きとめられる。 
君の、逞しい腕が、私の体を後ろから抱きしめていた。 
「王子…ご無礼をお許しください」 
力強く抱きしめられた体が痛い。 
抱きしめられた腕は、緩まる気配がなかった。 
「シオ…着慣れない服は危なくていけないな…」 
「はい…」 
「シオ…抱き上げてくれるか?」 
「っ!はい、仰せのままに」 
私は手探りで君の首筋を探すと、手を回す。 
君は下から私の体をすくい上げるように抱きかかえてくれた。 
さっきの何倍ものスピードで、風が去っていくのを感じる。 

ああ、やっぱり私は…。 

民衆の歓声がすぐ近くまで聞こえる。 
「シオ、ここでいい」 
「はい」 
下ろされた場所は柔らかい絨毯の上だった。 
「シオ、今までご苦労だったね」 
「は?」 
「今日からお前は、私の世話役から外れてもらう」 
「なっ!」 
「その代わり…今日からお前は新国王の傍にあれ! 
王直属の特級騎士だ!」
私は晴れやかに、笑って見せた。 
いや、自分では分からない。 
鏡が見れない私には、分からない。 
もしかしたら、すごく醜い顔をしてるかもな…。 
「王位継承式が終わったらすぐ任命式だからね。着替えてきなさい」 
急にそれが恐ろしくなって、シオから顔を背ける。 
これでいい。 
これが、シオのための最良の選択。 
私はシオの、足枷にしかならない、疫病神なんだ。 
「王子…」 
「………。」 
「ああ、確かに、俺は世話役失格だな。 
それどころかお前を泣かすなんて、処刑モンだ。 
んー…じゃあ、どうせ処刑になるなら最後に…」 

強い力で私の腕が引かれる。 
次の瞬間、私の唇に初めての感触が触れた。 
柔らかい…もしかして…シオの唇? 

「おわっ!!」 
突然聞こえた、私でもシオでもない声。 
この声は… 
「新…国王さま…」 
シオの引きつった声が聞こえる。
「兄様…シオ…」 
「ちっ!違うんだ!これは!私が命令したことであって!!」 
「いや!俺が無理やり!!」 
「えっと…」 
流れる、気まずい沈黙。 
「シオ…君は兄様の事…」 
「申し訳…ありません…不敬なことを申し上げますが…」 
息を短く吸う音。 
   
「愛しています。心から」 

彼の、葉が耳に届いた瞬間、私の瞳から驚くほどの雫がこぼれ始めた。 
「兄様は…聞かなくても、分かりますね」 
苦笑い交じりで、弟は囁いた。 
「とりあえず、新国王としての一番初めの仕事は、王族としてあるまじき行為をとった兄様と、 
世話役として不敬を働いた、シオの国外追放だな」 
「弟者!待ってくれ!処罰するなら私だけで!!」 
必死になって叫ぶ私に、弟は人差し指を立てて言う。 
「ただし、期限付き!同性婚に関する法律が整備されるまで…ね。 
確か隣の国は同性恋愛には優しかった気がするから、話つけておきます」 
「国王…さま…」 
「さあ、いってらっしゃい!次に会うときには、僕も素敵な伴侶を見つけておきます!」 
「ありがとう!」 
私は、シオの手をとりまっすぐ門へと走り出す。 
シオも、しっかりと手を握り返し、走り出す。 
「シオ…」 
「ん?」 
「驚いたよ、君の髪、思った以上に伸びてた」
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[[まるで妖精のような君>20-599-1]]
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