身長差 ---- 「背が高いんですね」 そう後ろから声をかけられたのは、俺が新入生に部活の案内をしていた時だった。 「バスケ部に興味あるのか?」 そう勧誘したものの、彼の身長は俺よりも頭一つ低かったので、正直戦力として期待できず、 俺はそれほど熱心ではなかった。 だが彼は嬉しそうに俺から入部用紙を受け取り、そのままその日に入部した。 今は俺の隣でバスケットボールを磨いている。 「先輩、あの上の荷物とってもらえませんか?」 実は俺がいない時に、自分で台に乗って荷物を降ろしているのを知っているのだが、 なんとなくこいつには弱くて言うことを聞いてしまう。 「ありがとうございます」 こういう笑顔をもらえるのは悪くないし。 「先輩、こっちに来てください」 「何だ?」 「はい、ここ立って」 俺は柱の前にたたされた。 「オレの身長がここなんですけど、先輩はここだから…。15cm差かな」 そう言われて俺は言葉につまった。 こいつは選手としては身長が低いので、いつもベンチに座っている。 背はそのうち伸びるなんて、気休めは言いたくなかった。 彼の家族は身長の低い人ばかりだと言っていたし、今伸びていないならこの先も見込みは薄いだろう。 きっと永久にレギュラーにはなれない。 彼がうつむくと俺にはまったく顔が見えないので、いつも慌てる。 「落ち込むなよ。好きなんだろ? それでいいんだよ」 「いいと思います?」 「そうだよ。好きだって気持ちが大事なんだからさ」 「先輩も?」 「おう、大好きだ」 「オレこんなに身長低いのに」 「関係ないって」 「嬉しいです」 「そうだよな。同じ思いのやつがいると嬉しいよな」 「でも不便ですよ」 「何が?」 「ちょっと下向いて下さい」 「ん?」 チュッと音がした。あれ?と思っていたら、あっという間に机の上に体を押し倒された。 「こういう時。でも身長なんて関係ないですもんね」 あれ? なんかおかしい。 「先輩の試合の邪魔はしないようにしますから。ああ、やっぱり同じ部活に入って良かったなあ。 スケジュールがばっちりわかるから」 試合の邪魔って? その答えは数日後に充分すぎるほどわかった。 とてもじゃないが、試合どころではなかったが。 ---- [[ここぞという時>15-689]] ----