苦笑しながら「馬鹿じゃないの」 ---- 「馬鹿じゃないの」 目の前でちまちまとした作業を繰り返す男に、俺はそうつぶやいた。 「馬鹿ってなんだよ」 「目の前にそうやって山積みにされてるものを見ると、馬鹿としかいえないんだけど」 ヤツが延々繰り返しているのは、甘栗の皮むき。 剥くだけ剥いて、食べるでもなく、それをティッシュの上に積み上げているのだ。 「放っておけよ」 そう言って、またヤツは無言で作業に戻る。 何で分からないかな。こうして折角二人でいて向き合ってるのにさ。 放って置かれて無言で甘栗の皮むき見つめてるなんて、むなしいだろ。 そんなこと、口が裂けたって言ってやらないけど。 「そんなの、剥いて売ってるやつあるじゃん。何でそっち買わないんだよ」 「それじゃダメなんだよ」 「何が」 そのあとの返事はなく、黙々とその手は動かされる。 こんな状態で、こっちを向いてくれるのをずっと待ってるなんて。 俺のほうが、馬鹿じゃないの、だ。 「終わった!」 ようやく最後の甘栗まで向き終わったヤツが、歓喜の声を上げる。 「よかったねー」 思わず抑揚のない声で応じると、その甘栗の山が俺の前にずい、とさしだされた。 「は? 何、これ?」 「何じゃねーよ、お前が前にいったんじゃん。甘栗結構好きだけど剥くの面倒くさい、って。向いてるやつは味が違う気がするとか我侭言うから、剥いてやったんだぜ?」 「な……」 何でそんな、何気ない、どうでもいい会話を覚えてるんだよ。 放って置かれたわけじゃなくて、俺のためにそんな馬鹿らしいことやってたとか。 「っとに、馬鹿じゃないの!?」 俺は、口の端が上がるのを抑えられなかった。 ---- [[女王様受け>14-109]]