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4-349 - (2010/03/22 (月) 18:16:19) のソース

兄さん!
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それは、俺が小学校4年生の時だったと思う。
俺は、校内写生大会で、大賞をとった。学年で、たった一人しかもらえない賞だ。
俺は、喜んで母さんや父さんに報告した。もちろんほめられた。
ふと見ると、兄さんが悲しげな顔をしてた。
あとで兄さんの同級生に聞いたら、兄さんは、先生に写生大会の時、「まじめに描け」
って怒られていたらしい。
そんな事情は知らなかったけど、兄さんが悲しそうな顔をしたから、俺は次の日、
誰よりも早く学校に行って、絵をビリビリにやぶいた。

俺にとって、兄さんっていうのは、そういったもんなんだ。

自意識過剰。人間嫌い。孤独主義。でも、さびしがりや。素直じゃないし、物言いも
かわいくないし、プライドも高い。自分のことを知り尽くしているけれど、自分を
嫌いになれない弱さをもっている。何も持っていない自分を、つきはなせない。
「お前は、何でも持っていていいな」と、俺に対して言って、言ったそばから、自分を
責めて暗くなる兄さんが好きだった。だから、兄さんが、家からあまり出なくなった時は、
嬉しかったよ。

母さん。父さん。そして俺。三人で囲む夕食。
全て食べ終わった後、夕食を兄さんに持っていくのは、俺の役目。
「孝に、言っておいて。たまには、母さんや父さんも、孝と一緒にごはん食べたいって」
母さんが、言う。俺は、「分かった」というと、「いっそ、孝の部屋で一家団欒するか」と、
のん気に父親が言う。俺は、笑う。
ごめん。でも、その伝言は伝えられない。


「兄さん」
ちょっと低めの声で呼ぶと、ドアが開いた。
俺は、夕食のお盆を持ったまま部屋にもぐりこむ。
俺は、夕食ののったお盆をテーブルに置くと、スープをスプーンですくって、兄さんにさしだした。
兄さんは、当然のように、そのスプーンにかぶりつく。
またスプーンを口に運ぶと、兄さんはそれを飲み下す。

兄さん!
叫びたいほどの思いを、スプーンにのせて、俺は運ぶ。
一生こうしていたいな。兄さんも、そう思ってくれているといいな。
毎日思っていることを、今日も思った。
俺にとって、兄さんが全てなんだ。本当なんだ。 
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[[布団の中で>4-359]] 
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