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敵兵をお持ち帰り
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燃えるような瞳が男を睨みつけている。
激情に揺れる、その両の目は、見慣れない色をしていた。男の故国で見かけることはほとんどない。異国の目だ。
黒曜石のような、漆黒の瞳を、男は美しいと思った。
美しい目が、憤怒と憎悪に激しく燃え盛っている。
「俺を殺したいか?それとも、死にたいか?」
視線の先の青年が、男の問いに答えることはない。青年の口には猿轡が回されている。手足を拘束された彼は舌を噛み切ろうとした。
言葉の代わりに、情念の灯った眼差しを向けられる。青年の瞳が何よりも雄弁に彼の心情を語っていた。
己が一方的に話し掛けるだけのやりとりに、いい加減飽きた男は、青年の口を塞ぐ轡に手を遣った。
「馬鹿なことはしないな?」
青年は返事のつもりか、ゆっくりと一度瞬きをする。
そのまま戒めを解いてやれば、猿轡の外れた口で、大きく息を吸い込んだ。
「殺せ」
烈火のごとき感情を孕む瞳とは裏腹に、小さく洩らされた声音は酷く静かなものだった。
青年の言葉に、男は芝居がかった仕草で片眉を跳ね上げる。
「敵に捕らえられることほど屈辱的なことはない。今すぐ殺してくれ」
振り絞るように吐き出した青年を、男は鼻を鳴らして一笑に付した。
男は酷薄な笑みを浮かべて、青年に顔を近づける。
「状況を理解していないようだな。捕虜の願いを聞き入れるヤツがどこに居る?」
「私は何も話さないし、交渉の切り札に使えるほどの価値もない。生かしておく必要などないだろう」
「浅薄だな。捕虜の役割は何もそれだけじゃない」
男は、青年の背後に敷設されたベッドに視線を移した。
男の意図を理解したらしく、青年が顔色を変える。
「戦地に女は居ないからな。いくさばでの高揚は性欲に似てると思わないか?」
激情に満ちた瞳に、絶望の色が滲む。
漸く己の置かれた状況を把握したらしい青年の顔からは、血の気が失せている。
男は口角を持ち上げて、青年の口に指をねじ込んだ。
「馬鹿な真似はするなと言ったはずだが」
青年が、また舌を噛み切ろうとしているのに男は気づいていた。
ザラついた触感の肉厚を指で挟んで、咥内から引き摺り出す。
赤く熟れた舌を、男は唇で食んだ。逃げようとする舌に、己のそれを絡ませる。
治り切っていない傷口を、尖らせた舌先で抉れば、咥内で鉄臭さが膨らんで弾けた。
口付けとは呼び難い、戯れを交わしながら、視線を絡み合わせる。
男は小さく笑んだ。
絶望と怒りが綯い交ぜになりながらも、射殺さんばかりに見つめてくる青年の瞳が、どうしようもなく美しい。
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[[童顔の上司>20-329]]
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