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同期の出世頭(生真面目・純朴)と、最近急に評判が上がった男(顔は良いが見た目チャラ男) ---- 「いやあ、お前のこと見直したよ。俺は嬉しい!なあ、お前もそう思うだろう?」 すっかり出来上がった上司が、彼を褒めちぎりながら私に呼びかけた。 「そうですね。今度の契約は彼がいなかったら無理でした」 私がそう返すと、上司に肩を叩かれ続けている彼は、何時も通りの皮肉げな笑みを浮かべた。 他の連中から褒められると気安く笑うのに、私にだけはいつもそうだ。私はこっそりとため息をついた。 実現不可能かと思われていた他社との契約を、見事勝ち取った彼のための祝いの席。 普段から盛り上げることに長ける彼の実力なのか、、皆興奮しすぎ、次々と床に倒れていく。 気がつけば意識があるのは、酒を飲まない私と、うわばみの彼だけになっていた。 彼と目が合う。私の隣まで近づいてきた。彼は私を敵視しているのに、何故かこうして接近することが多い。 「おめでとう」 他の面々に囲まれている間は言えなかった言葉が口をついた。 彼の表情が、どういうわけか険しくなる。 「それ、本心?」 「――当然だが」 彼の顔が益々険しくなってくる。顔が赤いのは酒のせいではなさそうだった。 「俺みたいなチャラい男がアンタのお株奪って、ムカついたりしねえの?」 「大切なのは全体の業績が上がることだ。誰がどうしようと、結果が出ればそれでいい」 それは私の本心で、だからこそ心の底から彼の成功を喜ぶことが出来る。 けれど、何故か彼にはその思いが通じていないようだった。 怒っていた彼が、今度は泣きそうな顔になった。 「結局アンタってそうなんだよな……俺がどうしようと、他の連中と同じようにしか見ない。視界にすら入らない」 「そんなことは――」 「そうだよ!アンタは本心なんて見せない。俺のこと馬鹿にして、同じレベルで見ようともしない!」 私はどうしていいか分からなくなってしまい、彼を見つめることしか出来なかった。 何を言っても彼には届かないような気がした。彼と私は、あまりにも違う。 不意に、彼の手が私のシャツの裾を掴んだ。普段の彼からは想像もできないくらい、遠慮深く。 「……ムカついたって、なんだっていいんだ……何にも思われないよりずっといい……」 か細く届く声が、私の鼓膜を震わせた。 ――皮肉げに見つめられるよりも、怒りの表情が睨まれるよりも、悲壮な顔で縋られるよりも、 他の人間に対するように、明るく笑って欲しい。 彼と違い、無骨でつまらない人間の私に、そんな言葉は紡げない。 それに、例えそう言ったとしても、彼には社交辞令にしか聞こえないのだろう。 私は無性に悲しくなり、ただじっと、シャツから届く彼の熱を感じていた。 ----   [[作曲家×歌い手>3-569]] ----

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