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異世界とリップした三十路サラリーマン ---- ほんの気まぐれだったんだ。 会社に戻るのに近道かな、と思ったからいつもの道から1本それた小道に入った。それだけ。 ほんとそれだけだったんだけど、なんか道を抜けた先が微妙に違和感。 とりあえず僕の30年の人生の中でピンクの葉っぱがついた樹なんて見たことないわけだな、うん。 建物とか微妙に変だし。どこが変とか説明できないけど。 道行く人は一応僕と同じような人間っぽいけど油断は出来ない。 ああ、本当に僕はどうしちゃったんだろう。 もしかして営業サボって入った漫画喫茶で居眠りの最中なんじゃないかな? 目が覚めたら全部夢でしたって落ちじゃないかな? そうは思っているものの手の甲つねったら痛いし。 会社に帰れないな。 たまにはサボったりしてたけど一生懸命勤めてたんだけどな。 このまま失踪者扱いにされちゃうのかな。頑張ってたんだけどな。 そんなことを考えていたら涙がこみ上げてきた。壁にもたれてうなだれたまま何とか涙をやり過ごす。 そんなことしてたらいきなり声が聞こえた。 「あんた、ここの人じゃないね」 いつの間に立っていたのか、目の前に人がいる。 ぐすっと鼻をすするとその人が頭を撫でてくれた。 僕より年下か、同い年ぐらい。話しかけられて気が緩んだのかまた涙がこみ上げてくる。 「ああ、大丈夫。ちゃんと帰り道は教えてあげるから」 泣くな、と言うように手をひらひら振って、それから僕の手をとった。 手を引かれるままに彼の後についていく。 「たまにいるんだよね。うっかりこっちに迷い込んじゃう人」 「ここはどこなんですか?」 「秘密」 しばらく歩いて、細い道に入る。 「ここからまっすぐだから。もう大丈夫だよね?」 そういわれて背中を押された。道を抜けた先はいつも時間をつぶしている会社の近くの公園。 お礼を言おうと振り返ったら、彼はもういなかった。道もなかった。 さっきまで繋がれていた手の温もりはまだ確かに残っているのに。 あの日からずっと考えているんだ。もう一度あそこに行くにはどうすればいいんだろうって。 失踪者扱いでもいいんだ。もう一度会いたいんだ。 ----   [[異世界とリップした三十路サラリーマン>4-309-1]] ----

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