*9が指定したカプ・シチュに*0が萌えるスレまとめ@ ウィキ内検索 / 「16-569」で検索した結果

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  • 16-569
    君が好きだ 「卒業おめでとう」 「…あー、先生。…ありがとうございます。 」 「思い出すね。君とはじめて会ったのも、この桜の樹の下だった。」 「…そうっすね。」 「入学式に遅刻して、自分のクラスさえわからなくて、オロオロしていた。」 「…。」 「初々しくて、かわいらしい新入生だった。」 「…はぁ。」 「あれから君は、なぜか僕になついてしまって、何かにつけ職員室へ通って来ていたね。  学年が上がって、君の背がずいぶん伸びてからもずっと。」 「…あの、先生。  さっきから…何が言いたいんすか?」 「一年前。  君がこの場所で告げてくれた気持ちに、ずっと答えられなくて、すまなかった。」 「!?」 「あの日から、君は僕の元に姿をみせなくなったね。  他の先生方が、ずいぶん不思議がっていたよ。」 「…だって、…」 「大人というのは複雑で厄介なものなんだ。...
  • 16-569-1
    君が好きだ 雨がざぁざぁと降っていた。 僕はそれを教室の窓から憂鬱な眼差しで眺めている。 ――傘がない。 今朝は寝坊をして天気予報がチェック出来ていなかった。 朝、家を出るときには晴れていたから、まさか夕方になって急激に天気が悪くなるだなんて思ってもみなかった。 そうして大降りの雨を見ながら溜め息をついていると、後ろで教室のドアの開く音がした。 「どうして、まだ残っているの」 「あぁ、君か」 振り向けばそこにはクラスメートの鈴木がいた。 少し大人しいけれども明るくてとても良い奴だ。 僕はあまりクラスメートのことに興味など持ったりしない、所謂『変わった奴』だ。 そんな僕が何故彼の印象だけは覚えているかといえば、単純な話、彼に好意を持っているからだ。 他のただ馬鹿騒ぎをしているだけの奴らと違って、彼は明るいのに控えめで空気の読めるお人よしだ。 だから僕がクラ...
  • 16-569-2
    君が好きだ 「君が好きだ」 「へえ、俺は白身も好きだけどな」 朝食のサラダをフォークでつつきながら、彼は答えた。 頬杖をつき、かき回すだけで一向に食べる様子はないサラダに視線を据えて。 僕はもう一度繰り返す。 「君が好きだ」 「そんなに好きなら、俺のやるよ」 ぐちゃぐちゃになったサラダから、スライスされたタマゴを探し出し、僕の皿へと移す。 タマゴが形を崩してテーブルにいくつも落ちたが、彼は気に留めはしないようだ。 白い輪になった白身だけが、僕のサラダの上に積まれていく。 「君が」 「ああ、白身ばっかりになっちゃったな」 彼はそう言って、僕の言葉を遮った。 「悪い悪い。白身は嫌いなんだっけ?俺が食ってやろうか」 気怠く笑うその時の目も、僕に向けられはしない。 「ふざけないで聞いてくれ」 「ふざけてんのはお前だろ」 小さく吐き捨てるように彼は呟...
  • 16-569-3
    君が好きだ あまりにも時間の過ぎ去るのが早くて付いていくのが精一杯で、とうとう走るのをやめてみたら周りに誰もいなくなっていた。 そこでようやく、本当は走りきらなければいけなかったのだと、初めて気付いた。 中途半端な場所に止まって息を整えてみても、もう何の意味もない。時間は私を置いてどんどんと前へ進んでしまった。 私は、取り残されたのだ。 「君が好きだ」 そう言ってくれたあの人は、空で火となったと聞いた。 優しかったあの人が敵とは言え誰かを犠牲にしようとするだなんて到底信じられないが、戦争とはそういうものだ。 「お国のためという大義名分を掲げているが、僕はね、ただ君に生きていてもらいたいだけなんだ。君を生かすために僕は行くんだ」 あの人はそう言った。 馬鹿馬鹿しい、女子供じゃあるまいし、私だって男です。戦地に出るんですよ、生きていられる保証は何処にもない。 ...
  • 6-569
    勘違い 会社のレセプションが終わった後、捨てられようとしていた花。 もったいないな、と思っていたら、「もし良かったら、花束にしましょうか」なんて 部下の女の子が言ってくれたため、ついつい貰ってしまった。 もちろん、あげる人間なんて、いやしない。 しょうがないから、家に持って帰るしかない。 もう日付も変わりそうな時間だから、家族は寝ているだろうが…。 バケツにでもつけておいたら、明日の朝には、母親が食卓にでも飾っていてくれるだろう。 そんなことを思いながら家に帰ったら、意外にもダイニングの明かりがついていた。 ダイニングの中心には、食卓でつっぷして寝ている兄貴がいる。 「兄貴、こんなところで寝てると、風邪ひくぞ」 花束を抱えたまま、兄貴を足で蹴り起こす。 兄貴は、むにゃむにゃと、漫画のような声をあげながら目を覚ます。目をこする。 しばらく観察していると、だいぶ...
  • 26-569
    今日から両思い 両思いになったら、色々変わるのかと思った。 主に、相手が。 「なあ、お前さっきの授業、ノート取ったか?」 「また寝てたのか、お前」 「てへぺろ☆」 「可愛くねーし、むしろうぜー」 結局、何かいつも通りのバカな会話をしてる。 告白は俺。 キスは向こう。 恥ずかしくて恥ずかしくて、昨日は全然寝れなかった。 なのに、今日学校に来てみれば、俺もアイツも普通に喋っていたりする。 こんなものなのか? 両思いって、ここまで何も変わらないものか? 「圭」 突然名前を呼ばれ、顔を上げると、俺のノートで顔を隠す元友人の姿が。 「何だよ」 軽く手招きされ、顔を寄せれば、軽く触れるだけのキスをされた。 慌てて仰け反ると、アイツは友人から恋人の顔になっていた。 「ヤバい、俺今凄く浮かれてる。なあ圭、もっかいしていいか?」 「ふざけんな...
  • 6-569-1
    勘違い 佐倉は俺を選んだわけじゃない。 男が切れて寂しかったから。 ルームメイトが俺だったから。 俺が佐倉の性癖を嫌悪しなかったから。 ほら、理由はいくらでもある。 だから、「もしかして佐倉も俺のことを……」なんて勘違いしちゃ駄目だ。 佐倉の好みは年上の渋いパパ。 間違っても俺みたいな青臭い同級生じゃない。 佐倉の基準はお金持ち。 自立もできていない俺なんて問題外だ。 佐倉が俺に目を向けるはずがないんだ。 勘違いしちゃいけない。 いくら俺が佐倉を好きでも、アイツにとって俺はセフレなんだ。 あぁだけど、分かってはいるけれど。 隣で眠る佐倉のあどけない顔を見ながら、思わずにはいられない。 大丈夫。分かってる。 梅宮は、ただ同情してくれてるだけ。 男が切れたなんて嘘。 誰かと付き合ったことすら、一度もない。 年上の...
  • 26-569-1
    今日から両思い 「――今日から、両思いだね」 フ、と唇の端で気障な笑いをして、奴は手の中のグラスを揺らした。氷が涼し気な音を立てる。 窓の外の三日月と同じ形に細められた流し目から、俺は顔を背けた。 「言葉は正確に使え。お前の今の台詞は明らかに間違っている」 「え? ……え? うそ? 違うの!?」 裏返った声と、グラスが乱暴にテーブルに触れる音が絶妙な不調和を生む。騒々しい。 「だって! 俺さっきお前が好きだって言って、お前だって頷いてくれたのに!」 「声の大きさを考えろ。個室とは言えこの店は貸切ではない」 「あ、はい」  大げさに肩を落としてしょぼくれたような顔をしてみせる、その様に少しだけ苛立った。 「……やっと言えたのに」 小さな子供がいじけるように口を尖らせて呟く。声は少し震えているようだった。 「ずっとずっと好きで、やっと両思いだと思ったのに……」...
  • 5-569
    60円のコロッケ 「コロッケ売ってる!」 俺の手を引いたまま突然てくてくと走り出した健一が、小さな店の前で足を止めた。 「俺、匂い嗅いだら腹減っちゃったよ。一個買ってこ」 言われてみれば確かに、店の奥からぷんと揚げ物の香りが漂っている。 先ほどフレンチレストランでフルコースを食わせてやったばかりだというのに、 一体この小さな身体のどこから、これほど無尽蔵な食欲が沸いて出ているのだろうか。 「おばちゃん、コロッケ一つ」 店員にそう告げてから、健一は後ろに居た俺に振り返って尋ねた。 「お前さ、こういうとこで買い食いとかしたことある?」 「当たり前だ。立ち食いだなんて、見っとも無い上に不衛生だ」 「ふーん」 健一が、珍種の生き物でも見るかのように奇異な目つきで俺を見つめた。 その手には、今しがた買ったばかりのコロッケがしっかり握られている。 「つまんないの。こ...
  • 3-569
    作曲家×歌い手 「先生、今回の歌も凄く良い曲ですね。 まだ歌詞もないのに曲を聴いただけで僕、歌い出しそうになっちゃった」 向日葵の様な笑顔をふわりと浮かべて、今までじっと目を瞑って私のピアノに耳を傾けていた彼がそう言った。 「君にそう言って貰えると嬉しいよ。私も作った甲斐がある」 鍵盤から手を離して、私も彼に向かって微笑み返す。 「…ふふ」 すると彼は、綺麗な足取りでこちらに向かって歩いて来ると、 おもむろに私の手に掌を重ねた。 「どうしたんだい?急に」 「…先生の曲って、いつも痛い位誰かの事を想ってるよね。 すごく優しい旋律なのに…歌ってて、時々泣き出しそうになる」 「え…」 透き通る様な瞳が、真っ直ぐに私を見つめる。 何処か哀しそうな、切ない様な…その瞳。 私は、内心の動揺を隠す事が出来なかった。 ―――――――そう、いつからだろうか。 こ...
  • 1-569
    サックス×クラリネット サックスはアメリカンな、どこかクールでカコイイ雰囲気だが クラリネットといわれると、音楽に疎い場合最初に浮かぶのはあの童謡だろう そんなイメージがクラリネットは嫌いで、カコイイサックスに憧れ以上の感情を抱いている 最初弟分としてクラリネットを見ていたサックスも、だんだんとクラリネットの視線の意味に気付いてくる だが、サックスとクラリネットの大きさの差は歴然である クラリネットを愛そうとしても、それはクラリネットを傷つける結果になるのだ、とサックスは考え 一人寂しく致す(音合わせをする)のだ サックスはクラリネットに触れようとするたび、あの曲を吹き自分を戒める 壊れちゃって音(喘ぎ声)が出なーい 落語家×銀行員
  • 4-569
    朝飯はご飯と味噌汁だろ?パンなんか食えるかよ! 仕事を持つ人間にとって、朝は戦争だ。 素早く身支度を終え、朝食の準備を整えてから一度寝室へ戻る。 ダブルベッドを独り占めして、尚も惰眠を貪る恋人を揺すって起こす。 一向に覚醒する気配がない。仕方が無いので蹴りを入れる。 毛布の下からくぐもったうめき声が上がるのを確認してキッチンへ向かう。 チン、絶妙のタイミングでトースターが軽快な音を立て、焼き上がりを知らせた。 「朝飯はご飯と味噌汁だろ?パンなんか食え…」 いつものようにごねるヒロアキの大口にトーストを突っ込み、グレープフルーツジュースの入ったコップを手渡す。 毎日同じことを言っていてよく飽きないものだと少し感心する。 それ程までにあのミソスープが恋しいのか。……それとも、日本が恋しいのだろうか。 「じゃあ、俺はもう行くから。ちゃんと鍵が掛かったか確認し...
  • 2-569
    攻めより体格がいい受けのカップル あれですね。 攻めさんは、受けさんを押し倒したいけれど、 自分より明らかに体格のいい受けさんにコンプレックスとか 覚えちゃって、行動に踏み切れないのですね。 いざ勇気を出してその気になっても、服を脱いだ受けさんの たくましさに、なんだかorzとなっちゃうのですね。 受けさんは、そんな攻めさんの気持ちがわからなくて、 何で抱いてくれないんだろう?とか、嫌いなのかな?とか 悶々としちゃうのですねっ! で、攻めさんがその気満々になっても、受けさんがイヤ!となると、 無理やりガッチュンできなくてまたorz となるわけですね。 なんだか攻めさんを押し倒したいですね(マテ のほほん社員×やる気が空回りバイトの子
  • 8-569
    懐いてる×懐かれてる 「何でここで寝てるんだ」  俺のとなりに転がっているものを蹴り落としたい衝動に駆られながら ベッドを抜け出し、冷えた缶ビールを空ける。  事の始まりは昨日。レイトショーを見た後、独りで楽しく飲んでいた帰り。  ストーカーのように追いかけてくる足音を撒こうとして約三十分。  ひたすら逃げ続けたが根気に負け、奴を連れて帰宅したのは 空が明るみ始めたころだった。 「お前のせいで、終電のがしちまったじゃねーか……」  ビールを少しづのどに流しながら、顔を睨みつける。 「わざわざ寝床を用意してやったのに、どうしてわざわざ潜り込んで来るんだ?」  お前が今寝てるところは俺専用だ。相手に聞こえないとわかっているけれど、 言わずにはいられない。 「答えねぇよなぁ、お前寝てるもんなぁ……。でも答えろよ聞いてるんだから」  返事は無い。とろけ...
  • 9-569
    アニオタ×ゲーオタ 「オイィィィィイイイ!!!俺のNAGATOたんフィギャーに何さらすんじゃこのヲタ男!略してヲタオ!」 「そんな大事なフィギュアなのにテレビの上に置いとくのが悪いんだよ!そのまま死ね!このアニヲタ風情が」 「うっせ!俺の部屋なんだからどうしようが勝手だろうがこのゲーム廃人がっ」 「ちげーだろ!ここは俺の領域だ!お前の領域はあの線の向こうだろ!」 「テレビを買ったのは俺だあああああ!!」 まったく、これだからゲヲタは困る 奴はスコアにしか興味がないのがまったくいかん。 新記録を出すことを目指すより 俺と一緒にト●ロでも見てネコバス乗りてー!ってはしゃぐほうが 絶対楽しいのになあ 「うっし!最短クリア完了」 「…これってすごいのか?」 「多分ファ●通でもまだ出てないタイムだと思う…あ、デジカメデジカメ」 ...
  • 7-569
    受をいじめるのが大好きな攻と、同性愛に抵抗もっているけれど攻のことが好きな受? A君はB君を見てるとどうしてもいじめたくて仕方なくなるんです。 B君はちょっと鈍臭くて、他人の言うことをすぐ真に受けてしまうお人よし。 俗に言う「いじられキャラ」というやつです。 そしてその「イジリ担当」が自他共に認めるA君なわけです。 ある日、A君はB君に「ちょっと話がある」と神妙な顔をして呼び出しました。 そこで「お前のことが好きだ」と告白をするのです。 驚いて言葉も出ないB君。 ぽかんと口を開けたまま息をするのも忘れてA君を見ています。 驚くのも無理はありません。 実はB君、最近自分のA君への想いが只ならぬものと気付き、ずっと悩んでいたのです。 意地悪をされても、その意地悪に悪意はなく、むしろ「いじる」ことによって、 人と付き合うのが下手なB君が、うまく周囲に溶...
  • 27-569
    夢見る人 「起きろ!」  頭をぽこんと叩かれて俺は楽しい夢から引きずり戻された。  寝起きの目をしばたたいて見上げれば、仁王立ちの飯島が丸めた教科書を握りしめて俺を睨んでいる。  突っ伏していた机にはヨダレの小さな水たまりが出来ていた。「汚ねえなあ」という罵声を聞き流しながら袖で拭く。さてと。 「おはよ」 「おはよーじゃねえから。お前ずっと寝てたろ午後の授業中。ふざけてんの?」 「ふざけてはいないんだけどさ、夢見があんまりよかったから、つい」 「先生に当てられても起きねえし。怒るの通り越して諦められてたぞ」  顔に似合わず優等生な飯島は、まるでその先生の代理にでもなったかのようにぷりぷり怒っている。  もしかしたら授業中、後ろの席から居眠りをする俺をずーっと睨みながらイライラし続けていたのかと思えば、ちょっと嬉しい。 「そんなに見つめられたら照れるじゃん」 ...
  • 17-569
    ピエロとブランコ乗り ピエロの頬には涙。 ドーランで描いたこの模様だけが、僕が流せる涙なのです。 素敵なブランコ乗り、長いしなやかな体と明るい目を持つ、 次から次へとブランコを飛び渡る彼の芸のように遊び上手なあの男と、 実のない関係を結んでからずっと、僕はちぎれてしまいそう。 笑っていただけるならそれもよし。 綺麗なダンサー達や、艶めかしいライオン使いの娘を横目に、 彼の後ろをおろおろ、ヨロヨロするもんだから、 テーブルから落とした酒瓶とグラスを3つずつ放り投げ、 蹴つまずいてボールに乗っかって、 哀れなピエロは恋しい相手と逆方向へ転がり落ちていくのです。 不実な、とは申しません。これでも僕はピエロです。 捨てられて女のように泣くばかりじゃ、仕込まれた芸が泣くってもんです。 男が男に遊ばれて、尻を抱えて這々の体。 美しい一夜の思い出でございます。 あ...
  • 28-569
    目と目で通じ合える 通じ合えるといっても色々パターンがあると思うのです。 ?幼馴染み 共に過ごした時間の分お互い相手の事をよく理解しているでしょう。 ちょっとやんちゃな子達の場合、近所で悪戯をしでかし 「チラッ(おい、逃げんぞ!)」「チラッ(了解!)」みたいなアイコンタクトを行うのも青春ですね。 また「見つめあってお互いの思ってることを当てるゲーム」といったフラグを建築することも可能でしょうか。 ?上司と部下 会社では単なる上司と部下でも、社外に出ればその関係は様変わり。 しかしどうしても周りには大っぴらにできない関係な二人は最初はメモや合図などを使いますが、いつしか 「チラッ(夜、いつもの店で)」「チラッ(分かりました)」と目と目で通じ合えるようになるのです。 ?軍の中で 隊長と部下でも同期同士でも構いません。チームプレイにはお互いの信頼度が非常に大...
  • 11-569
    無口で無愛想な受け とても静かだった。 でも、その場が冷え切っているわけでもないし、別に重苦しくも感じない。 ただ、声が聞きたかった。彼の瞳の色を、真正面から見たかった。 「本、面白いかい?」どう話かけようと迷った結果、情けなくも、出遅れた質問をすることにした。 彼の視線はまだ本のページに落ちたままだ。返事もない。 けれども、一瞬 曲げた眉毛が、今 話しかけてくるな、と訴えているように思えた。 僕は彼がこちらを見ていないことを知りつつも、わざとらしく肩をすくめた。 「僕も何か読もうかな」と、どうでもいい独り言をいってから、棚に並んでる本を適当にとる。 彼の前の席に座り、本を読むふりをしながら彼の顔をちらりと見た。 彼は美しい。 白い肌に、落ち着いた茶色い瞳。睫の影が目元に落ちている。 色素の薄い顔色とはうらはらな黒色の髪も、不自然ではない。むしろ、より魅力的に...
  • 25-569
    食えない男受け 付き合ってる女、狙ってる女、知り合った女・・・俺に関わった女は右か ら左で村崎に流れていく。 友人からは「あいつとの付き合い考えろ」と言われていた。 俺も村崎もシモ事情は緩い。だから俺は女を取られたなんて全く思わ いし、向こうも寝取ったとは思ってないだろう。 徹底的に嫌われるタイプではないものの、友人の言うこともわからなく はない。村崎は要領のよさが目に付くところがある。 例えば今夜のように、翌日朝イチで講義がある場合、学校に近い俺のア パートに泊まったりするところとか。 「次は男にすっかな。おまえに手ぇ出されないように」 アパート近くの中華屋で晩飯を食いながら、眺めていたナイター中継が CMに切り替わった時、俺は冗談のつもりでそう言ってみた。 村崎がどんな反応をするか見てみたかったという気持ちもあった。 「じゃあ俺でいい...
  • 10-569
    本当は攻がしたい受と、本当は受がしたい攻のカップルの初逆転 グロいかも 「まさか…そんな、お前が?」 驚愕する小柄な壮年の首を容赦なく青年は鎌でなぎ払う。 頚椎に引っかかった鎌を引き抜くと、鮮血をほとばしらせながら、どう、と壮年は倒れた。 鎌を懐紙で拭き清める青年の周囲には、無残に切り裂かれた死体が十、いや、二十は転がっている。 どれもこれも人相はよくないがどことなく人好きのする顔をしていた。 「これでやっと…」 青年はそうつぶやきながら何の感慨もなく死体を踏み散らかして、どこかへ去っていった。 その日の夜半、とある船宿で青年は宴席の中央にいた。 「初単独仕事完了おめっとさん」 「もうちょっと散らかさないで片付けてほしかったなぁ」 熊のような男や鼠のような男が口々に青年をねぎらったり、頭を乱暴になぜたりしている。 ここは、ただの船宿ではなく...
  • 13-569
    ロボットアニメ 「ね、コレ懐かしくない?」 一本のビデオを鞄から出す。 ほぼ毎日、同じ部屋で同じ顔を見ながら同じ発泡酒を飲む慎ましくも至福の一時。 今日もいつもと変わらない、気の知れた相手とのくだらなくも楽しい時間。 「家のビデオデッキがついに壊れて見れなくなったから  俺のビデオ全部送ってきたんだって。俺の部屋もビデオデッキねーのに。」 「おばさんらしいな。」 「二人で一緒によく見たよなー、ゾイダム。」 「あー。懐かしいな…だけど人気無くてすぐ終わったんだよな。」 そうだった。クラスでも人気が無くて、 熱心に見ていたヤツは俺とお前くらいだった。 「何であんなに人気無かったんだろーな。すっげー面白かったのに。」 昔から二人で連んで、ゾイダムのプラモデルを作ってた。 下手だけど捨てられなくて実家の押入にまだ仕舞ってあるはずだ。 やっぱり昔からコイツとだけ...
  • 14-569
    子羊×狼 ぴょこんと突き出た耳、ぺたんと下がった尻尾。花咲く道に、お腹をすかせた狼が一匹。 「うう、腹減ったあ…」 狼がしょぼんと俯くと、前方においしそうなけものの臭い。そう、狼の大好きな…。 「羊だ!それも子供の羊だー!」 狼はささっと様子を窺って、飛びつこうとしました。しかしその子羊は、よく見れば狼のよく知る羊だったのです。 「ああっ、てめえ!」 そう、この子羊、狼と数年前から因縁があったのです。 そしてとうとう狼がその因縁に決着をつけようと、先日子羊に飛びかかったのですが…。 「ん、狼くんじゃないか。調子はどう?」 「サイッッッアクだ、お前のおかげでな!」 狼が顔面蒼白で叫ぶと、子羊はふん、と鼻を鳴らします。 「しょうがないじゃない。僕だって君に食われそうだったんだから、正当防衛だよ」 「何が正当防衛だ、あれから俺は、俺は…」 そこで、狼の顔は真っ...
  • 19-569
    大好きだけどさようなら 珍しく深く眠っている彼の前髪は、先ほどまでの行為の名残か汗で少し湿っていた。 眉間に皺を寄せた難しい顔で眠っている彼の頬を、起こさないよう、そっと撫でる。 僕より十も年上のくせに、子供のように安心しきった顔で眠る彼を見ていると、自然に顔が綻んだ。と同時に、目尻が濡れる。 喉がひくりと震え、慌てて口元を押さえた。泣いたりなんかしたら、彼を起こしてしまう。 ゆっくり静かに深呼吸をして呼吸を落ち着け、のそりと体を起こして枕元に置いてあった眼鏡を掛ける。 鮮明になった彼の顔をじっと見つめ、溜息を吐いた。 僕がこのひとに告白をしたのは、半年前の事だ。 大学の准教授をしていた彼に一目惚れをして、興味なんかなかった彼の授業を受けては質問をしに通った。 十も年下の学生で、しかも男など相手にされないだろう。 そう思っていても、日に日に募る思いを打ち明...
  • 15-569
    数学教師と不良生徒 いや、俺一個人としてはそんなつもりはまったくなく、俺はただのしがない数学教師で、 去年の4月に生徒指導を任されてからというものずっとワタワタしていたわけなのだ。 そして運の悪いことにその年には超ドのつく不良が入学してきて。 えーと、それで俺はその不良に指導しまくって。万引きとかチャチなことばっかりやるもんだから なんだか世話したくなってきて、放課後数学教えてやったり、家に呼んで飯食わせてやったり。 それでその、実はそいつは結構いい奴だとわかって、それで悩みを聞いてやったり。 入学当初は「オメー」だった呼び名が「先生」になって、ついには下の名前になったりして。 俺はそれで喜びを覚えたと同時に、近付きすぎたかもしれないと危機感を覚えた。 俺自身入れ込みすぎていた。生徒にはいつでも平等に。全ての生徒はイコールで結ばれなければならない。こ...
  • 22-569
    彼女持ちクール攻め←ウザ可愛い受け 「あっ先輩! 先輩せんぱいせんぱいうあああ今日も可愛いいぃい!!」 「……わあ、今日も相変わらずキモいねー」 今年ももうぼちぼち終わろうとしている、今日この日。 さすがに四月当初のような不覚は取らなくなった。 踏みとどまってしゃんと立っていられるようになったし、さすがに慣れたもので 冷静な反応が出来るようになったと思う。 自分よりタッパのある後輩に背後から思いっきり抱きつかれるのは、 やはり慣れていないとすぐにバランスを崩してしまうから。 こんな状況に慣れるなんて、甚だ不本意ではあるけれど。 ――我が家を出て高校へ向かう道程、三つ目の曲がり角。 朝この道を通ると、決まって後輩がこうして奇襲をかけてくる。 もはやこれは毎朝の日課と言ってもいい。 「お前さあ、挨拶もなしに『それ』ってどうなん?」 「あー先輩...
  • 24-569
    お題 日本の囲碁の基本は石の形の美しさだ たまに小競り合いも起こるが根本は石の形の美しさを競っているのだ 石の形がより美しい側により多くの地がつく そうして平和的に決着がつく それが歴代の本因坊たちが築き上げてきた日本囲碁の真髄だ それなのにアイツの囲碁は全くおかしくて狂ってて下品だ 子供の頃から碁会所のおっさんが打つような喧嘩碁っぽいところがあった アイツの棋風から決定的に品がなくなったのは離日後だ ソウルと北京に1年ずつ武者修行の旅 大陸式の力戦派の殴り合い碁にすっかり染まりやがった アイツの今の棋風は喧嘩碁どころか戦闘狂だ 石の形の美しさは「そんなカビの生えた古いものは捨てた」とばかりに完全無視 「こんにちは! 死ね!!! 」と言わんばかりに序盤から有無を言わさず相手の石に殴りかかる あんなものは囲碁ではない 囲碁に似...
  • 20-569
    命令違反 血と汗と、硝煙の混じった臭いが体中に纏わりつく。 抱き抱えた彼の服は真っ赤に染まり、流れ続ける血液は、妙に非現実的な物に見えた。 「ああ、ドジったな」 そう笑う彼は、血塗れでなければいつもと変わらない口調いつもと変わらない会話だった。 腕の中の彼の鼓動に合わせ、傷口から血液が溢れ出る。 この戦いの間に嗅ぎ慣れてしまった鉄の臭いに、全ての感覚が麻痺していく。 「お前は、生きろ」 真っ白な顔色。 「生き残って、結婚して、年とって。骨と皮の爺になって」 細い呼吸。 「俺の、最後の命令だ」 「………はい」 冷たい手。 「ひとつ、頼まれてくれるか」 「…はい」 血まみれの手で、軍服の釦を一つ引き千切る。 「もし、俺の故郷に行くことがあれば…これを女房に渡してくれないか」 子供が、生まれてる筈なんだ。 そう言って...
  • 21-569
    穏やか若隠居受け 若隠居には(個人的に観点で)大きく分けて二通りあると思う。 隠居状態が「最初から(タイプA)」なのか「途中から(タイプB)」なのかである。 更に、タイプBは2つに区分できると考える。 隠居が「自分の意思で(-1)」なのか「やむを得ず(-2)」なのか、である。 ◆タイプA『最初から隠居』 生まれつき病弱などの理由で最初から半ば隠居生活を送っている若者がこれにあたる。 若い内から隠居状態で生活できるのだから、家はそれなりに裕福。 世間の荒波に揉まれていないので、いい意味でも悪い意味でも純粋で人を信じやすい。 病弱ゆえに外にもロクに出たことがなく、世間知らずでもある。 反面、ずっと家にいた所為で本をたくさん読んでいて、物知りだと良い。 (「世間知らずだけど物知り」っていうキャラ、いいと思いませんか) 親に迷惑をかけていることの負い目がある一方...
  • 18-569
    副人格×主人格 私の世界を「モノクローム」と呼ぶのだと教えてくれたのは、歳若い赤毛の青年だった。 古風な形のカメラを携え、写真を撮りながら旅をしているのだと言っていた。 赤ならば知っている。だが、彼の髪も、ホテルのベッドに広げられた夕焼けの写真も 私には白と黒の濃淡でしかなかった。 節くれ立った長い指が、印画紙の淡い灰色を指す。「君の髪はこれだね」 どんな色かと訊ねると、秋の麦畑を思い出すと返された。「故郷の秋を」 忘れられない色だと、いつか名を上げて帰るのだと言っていた。だから、君に声を かけたのだろうか? 今となってはわからない。 彼には気の毒なことをした。事の後で胸が痛んだのは、あの時だけだ。 おそらく私は、彼に少しばかり好意を抱いていたのだと思う。 だが、君ほどではなかったのだ。 思い出したのは、目の前の男が君の髪を指で梳きながら、こう囁いたか...
  • 8-569-1
    懐いてる×懐かれてる 幽霊ネタ注意 チリ、チリと、夜風に吹かれて風鈴が鳴いている。ヒビでも入っているのか安っぽい無機質な音しか出さないが、ここのところ、そんなものは問題にならないほどの音害に悩まされる日々が続く。日が暮れるまでは蝉の放吟、月が出たなら蛙の合唱。そうして深夜ともなれば、俺の部屋を支配するのは幽霊のラップ音だ。 「騒いでも昼間は誰もいないからつまんなくってさあ。でも夜はあんたが帰ってくるもんね、頑張っちゃうよ、オレシャウトしちゃうよー」 鬱陶しい事この上ない。 背後からべたりと張りついてくる半透明の男を剥がそうという努力は一週間でやめた。俺の背中を特等席と決めたらしく、てこでも離れないのだ。自分の名前すら忘れてしまったというこのおんぶおばけ、俺が家にいる間は逞しくも色のない腕を肩口に回し、首筋にむしゃぶりついてはバキバキと怪音を立てる。郊外の借家で人家...
  • 16-519
    ポケットティッシュ 「何、ポケットティッシュなんて買ってんだよ。駅前でいくらでも配ってる じゃないか」 「駅前で配ってるのは質が悪いんだよ。保湿ティッシュじゃなきゃダメなんだよ」 「貯金したいって言ってたのユタカじゃん。協力してくれなきゃ、金なんか溜まんないぞ」 「それはそうだけど、生活必需品ってのはあるんだよ」 「生活必需品はティッシュであって、保湿ティッシュじゃない」 「お前、今、全国2000万人の花粉症患者を敵に回したぞ!自分が花粉症じゃないから って、人を思いやる気持ちを忘れやがって!」 「大体、なんで急に貯金なんだよ」 「...そりゃ、誰にも頼れないゲイカップルの老後に必要なのは金だから...」 「へ?」 「何?お前、俺と老後を過ごすこと、考えてなかったの?」 「...考えてなかった...」 「......何だよ、真剣だったのは俺だけか?」 ...
  • 16-509
    頭のいいへたれ テスト週間明け初の授業。 俺の手には返ってきた数学のテスト用紙が収まっていた。 (58点・・・まあまあか。) 黒板にでかでかと書き示されているクラス平均点は67点、学年平均点は60点。 特に悔しがるほどの点差でもないだろう、とテスト用紙を机の中へと押し込んだ。 見直しもする気になれず、ぼんやりと周りを見ていると赤点をネタにしている奴や人の点数を聞きまわる奴がいる中、 ある一人の人物に俺の目線はぴたりと留まった。 そいつは不機嫌そうに眉を顰め、口をへの字に結んでいた。目線の先にはテスト用紙。 せっかく俺好みな綺麗な顔してるのに勿体無い。 他の奴ならああ、点数が悪かったんだろう。ドンマイ。程度にしか思わなかっただろうがこいつの場合そうは思えない。 何故ならそいつは定期テストのたびに発表される成績上位者のトップに居座り続けていて、 ありがたく...
  • 16-529
    文系世話焼き×理系ひきこもり カーテンを思い切りシャッと開ける。 「……まぶしい」 かすかな抗議の声が万年床の中から聞こえてくる。布団の中でまぶしいもんか。 「昼なんだよ、起きろ」 この春大学生になったばかりの聡文が引きこもりだしたのは、3週間前からだ。 小中高と、一学年違うだけでずっと後からついてきた聡文は、大学までも同じ所についてきて、 何故かゴールデンウィーク明けから講義に出て来なくなった。 1年先輩で学部も違う俺が、こうして毎日面倒を見ている。 と言っても、コンビニで適当な食べ物を買って食べさせるぐらいだが。 親元を離れるにあたって、幼なじみとして、奴のお母さんにくれぐれも頼まれているのだ。 「もう、来ないで」 聡文は布団から顔も出さない。 「お前ね、俺が来なかったら飢え死にするぞ」 「コンビニくらい自分で行く」 「だからって、1人で生き...
  • 16-549
    へたれ関西弁×クーデレ 「神部さん、いてはります? 大家さんから伝言頼まれましてん。開けてー」  隣の部屋の黒田が今日も私の部屋を訪ねてくる。  毎回毎回、くだらない用事をよく見つけてくるものだと感心する。  無視をしようと思ったが、一向にあきらめる様子がない上、 インターフォンではなく、ドアを叩き始めたので、仕方なくドアを開けた。 「……どうも」 「おるんやったら、さっさと出てくれまへん? 疲れますやん」 「用件は簡潔にお願いします、黒田さん」 「いややわー。いつも簡潔やないみたいな言い方」  簡潔だったことがあるみたいな言い方じゃないか。 「連絡は書面でお願いしますって、何度も申し上げていますけど」 「隣の部屋におるのに、なんでわざわざ紙切れに書かなあきまへんの」 「もう2分たってますよ。用件は」 「2日後に、火災報知器の点検やて」 「そうですか」...
  • 16-589
    君と会うのはいつも真夜中 「働いてくれ」 唐突にそういわれて、金髪の男は呷っていたビールの缶を取り落としそうになる。 いつものようにいとしい恋人より少し前に起きて、ビール片手に朝食と弁当を作っている最中の出来事だった。 「いつもそばにいてお前を愛してんのが俺の仕事だよマイハニー」 「冗談じゃない、真面目に聞け」 思いつめたような目をして、ハニーと呼ばれた眼鏡の青年は低い声を出した。 昨夜のとろけっぷりが嘘のようにハニーの顔に浮かぶのは怒りと哀しみと憤りだけで、愛しい唇からは最ついに終通牒が下された、 「働け、じゃないともう俺はお前と一緒にいられない」 まるで無職の夫と働く妻。いや変わりないか、共に暮らす働く男と無職の男、二人は恋人。 「オーケイわかったよ。働くよ、そうしたら今までどおりだ、別れるなんていわないでくれ」 金髪がそういうと、眼鏡は緊張の糸が切れたよう...
  • 16-559
    堅物優等生×不真面目チャラ男 「斉藤君。こんなところにいたのか」 「げ……」 「げ、じゃない。また音楽の授業をサボっただろ」 「あー、ほら。午後って眠くなんじゃん」 「音楽と言えど大切な授業だ。ちゃんと受けないといけない」 「頭かったいなー。だいたい委員長には関係ないでしょ」 「毎回先生にプリントを持っていけと言われるのは僕だ。関係なくない」 「そんなのいちいち渡してくれなくていいよ。委員長も大変でしょ」 「ダメだ。プリントには大切な連絡が書いてある。ほら、次回は歌のテストだ」 「そんなのなおさら出ねーよ」 「……斉藤君。少し気付いたんだが」 「なにー?」 「基本的に君がサボる授業は音楽が中心だ」 「あー?だってめんどくせーじゃん」 「次回は歌のテストだと言ったらなおさら授業に出たくないと言った」 「……だから何だよ」 「君は歌が苦手なんじゃないか...
  • 16-579
    その笑顔に心は千々に乱れる 「ん?」 気まぐれに名前を呼んだら、振り向いたその顔はやっぱり笑顔だった。こいつは、いつもいつも笑顔だ。 少しだけ嘘くさい。作ったようにも見える笑顔。 「どうした?」 自分から呼んだ癖に、続く言葉が思い浮かばなくて黙り込む俺にそいつは少しだけ腰を屈めて、視線を合わせてくる。いつもは自分が見上げるだけの笑顔に、ドキリと心臓が跳ねたような気がする。 言葉が喉の奥に引っ掛かったまま、出てこない。「なんでもない。呼んだだけ」と、笑って言えば良いだけなのに。 言葉の代わりに、思わず手を延ばして、頬に触れていた。驚いたように微かに肩を竦めたそいつの髪がさらりと揺れる。 シャンプーとワックスの混じり合った匂いは、女の子の甘いそれとは全然違う。分かっているのにくらくらして、気付いたらそいつを引き寄せて唇を合わせていた。 一瞬だけ触れて、直ぐ...
  • 24-569-1
    平和主義と戦闘狂 なるべく命を奪わなくて済むのならそれに越したことはない? よくも言う。 己が生きるためという名目の下、その手をどれほど血に染めてきたというのか。 それなのによくもそんな寝言をのたまうものだ。 誰より赤い光景を作り上げ、血に濡れぬ日々などなかっただろう? いつぞや集団で襲い掛かられた時など、まさに鬼神と称するに相応しい戦いぶりだったぞ。 そして何よりそういう時のお前は、まるでそれが生き甲斐であるかの如く最も活気に満ち溢れていたではないか。 だというのに、実は誰より殺生を好まぬというのか。 ――いいだろう。 その下らぬ理想を貫くというのなら見せてみるがいい。 どちらに転ぶのか最後まで見届けてやろう。 お前と私は一蓮托生。 結果がどうあれお前の選んだ道に付いて行くのみ。 酒と煙草
  • 15-569-1
    数学教師と不良生徒 【3x²+15x+12=0を因数分解しなさい】 「この問題どうやって解くか知ってるか」 俺は、高校生ならば解けてほしい問題を指さす。 北村はうちの進学校一の問題児だ。進学校には相応しくない不逞な行動・授業妨害・成績の悪さから、教師たちは彼をけむたがっていた。 何故か北村は俺だけにはあまり反抗しない。多分俺が一番生徒教育にやる気がないからだろう。そのためか、俺は北村の専属補習教師という肩書きをつけられてしまっていた。 今日も放課後、誰もいない教室に残り数学を教えてやっていた。 「わかんねぇ」 「こうやるんだ。たすき掛けって知ってるか?組み合わせを考えるんだ」 やり方を説明する。しかし北村は俺の手元など見向きもせずに「知るか」と言った。 「知ろうとしろ」 「俺には数学なんて必要ない」 北村は少し前髪にかかる髪をくるくる手でねじりながら言った。 ...
  • 19-569-1
    大好きだけどさようなら 攻め視点 やけに半身が冷える。 夢うつつの中、隣で眠っている彼が布団を蹴飛ばしでもしたのだろうかと思いながら布団を引き寄せ、随分軽いことに気が付いた。 彼がいない。 はっと体を起こし、隣で眠っていた筈のあの子の姿を探す。 トイレだろうかと考えて、ふと彼が眠っていたところを撫でると既に冷え始めていた。 寝起きの頭が一気に覚める。 慌ててベッドを降りようとして、枕元に彼の物であった筈の携帯電話と鍵がきちんと並べて置かれているのを見つけた。 行為の前、そこには私が外してやったあの子の眼鏡を置いてあった筈だ。 (…………ああ、) ゆるやかに事態を理解する。とうとうこの日が来たのだ。 私は彼に、飽きられてしまった。 いつかこんな日が来るという事は告白されたあの日から分かっていたし、彼の様子がここのところおかしい事にも薄々気付いていた。 必死に...
  • 21-569-1
    穏やか若隠居受け 「あきれたね、本当に隠居しちまうのかい、喜さん」 「いいじゃないか、清さん、これで心おきなく遊べるってもんだ」  喜之助……喜さんは文机の前で泰然としたものだ。 「せっかくだからね、寮のひとつも作ってもらおうと思うんだよ。そこで戯作でもしようか。人情物かな。芝居の台本もいい。  そうだな、寮の名前は喜詩庵、喜文庵、それとも喜雨庵、さて……」  何をのんきな。ぼんやりした人だとは思っていたが。  手前のお店には何の未練もないのか。心配したのがだんだんばからしくなってきた。  喜さんは隠居して、弟にお店を継がせる。  弟と言っても死んだ先代の後添いの子だ。後妻が、後見の伯父に通じてうまいことやりやがった。  もっとも、喜さんも逆らわなかったようだ。  争いは好まない人だし、おもしろく噂にでもなればお店の評判に傷がつくと考えたんだろう。 ...
  • 16-589-1
    君と会うのはいつも真夜中 草木も眠る何とやら、テレビの画面の向こうはやたらと騒がしい。 疲れた目に決して優しくない派手な色合いのセットの中で、あいつは一際大声を上げては周りの共演者にはたかれていた。 「俺、芸人になって、ゴールデンで冠持つのが夢なんだ」 高3の秋、図書館でせっせと勉強する俺の隣で、至って真面目な顔であいつはそう言った。 「東京行ってさ、休みなんてないくらいガンガン売れて、毎日テレビ出てさ、」 その夢物語には俺も登場するらしい。ある日一緒にコンビを組もうと誘われた。 「バカ言ってんなよ、俺は家継がなきゃいけないんだっつってんじゃん」 ひいじいちゃんの代から続いている医院を継ぐ事が、生まれた時から俺ら姉弟に決められた将来だった。 元々両親と反りの会わなかった年の離れた姉貴は、俺が小学生の時に外国人と結婚してそっちに移ってしまい、俺はそれから両...
  • 16-169
    サボテン 春の暖かい日差しがいっぱいの、俺が住むボロアパートのベランダ。 ここのアパートのベランダは隣二部屋ずつで繋がっていて、 俺の部屋は、今年から一緒に上京した幼馴染の蒼の部屋の隣だった。 蒼くん、一緒の大学に行くのならお隣に住んでくれないかしら、ってうちの親が蒼を説得したのだ。 なんでかわかんないけど。 そんな共用のベランダに、あるものを置こうとしていた俺の背中に、鋭い声が突き刺さった。 「おいてめえ、共用のベランダに何置いてんだ」 蒼の声はいつもトゲトゲしている。俺と話すときは特に。いつもバカって言うし。 あーあしかもこの声は怒ってるな。 「え、えっとね、サボテンだよ~ジャーン!」 蒼の方を振り返りながら変なポーズでサボテンを掲げる。あ、さらに怒った。 「誰が育てんだよ」 「俺ががんばる」 「無理だろーが!いつも放り出してあとは俺がやってやってんだ...
  • 16-149
    誇り 「何をする!」 荒っぽくベッドに突き飛ばされ、僕は怒鳴った。 「何をするって、あなたを抱くんですよ、鳳家のおぼっちゃま」 ネクタイを緩めながら、奴は言った。 「さっき、食べるためなら何でもすると言ったでしょう?約束は守っていただかなくては 困ります」 抱く?男の僕を男の奴が? 混乱する僕に構わず、奴は僕の上に覆いかぶさろうとした。 四つんばいになって慌てて逃れようとする僕を、奴は体を使って背中から押し潰すように 押さえつけた。 ベッドカバーと僕の体の間に押し込むように手を入れて、さっき着たばかりの風呂上りに 用意されていた新しいスラックスのベルトを外しにかかる。 「やめろ!やめろよ!!」 「大丈夫、痛くはしませんよ」 「やめろっつってんだろ!東山!!」 かつての学友であり、元・父の秘書、そして、父の死後に会社を乗っ取り、僕を無一文で 路頭に彷徨...
  • 16-969
    ずっとお慕いしていました 今日も良い天気だ。 そんな国民的アニメの主題歌のようなことを考えながら、喪男は公園を歩いていた。 理学療法士である彼の職場は公園の横にあり、昼飯はいつも噴水の前にあるベンチで食べるようにしていたためである。 本当は病院内の休憩室でも食事はできるのだが、女性スタッフといまいちなじめないでいる喪男にはその部屋を利用する勇気が無かった。 「うーい、きょうもごくろうさんっと」 大きな独り言を言い、いつものベンチに腰掛け手製の弁当を取り出す。 平日昼間の公園というものは大体いつもいるメンバーが決まっていて、何とはなしに顔見知りになっていた。 公園内の美術館職員は外のレストランに向かっているし、ホームレスは皺だらけの新聞を読んでいる。 文庫本を読みながらもくもくとパンと缶コーヒーを片手で持ち替えつつ有意義な時を過ごしていると、不意に頭上から影が差した...
  • 16-269
    花嫁の父 今日、娘が嫁いだ。 妻を早くに亡くし、親子二人だけで過してきた家はとうとう私だけの家となってしまった。 小学校の時は真っ暗な家にいたくないと泣きながら会社に来た。 中学校になると部活があると言いながらも、私より早く帰って出迎えてくれた。 高校に入ったときは夕食の支度までして私の帰りを待っていてくれた。 大学は家から通える場所、と主張し、いつまでここにいる気だと笑いながら話した。 長いようで、あっという間だった。 白いドレスを見に纏った娘は美しく、妻の若い頃を彷彿させた。 目を瞑れば幸せになるから、と笑いながら泣いた娘の姿が浮かんでくる。 夫となる男はきっと娘を支えてくれる。 私はここで彼女たちの家庭を見守るだけだ。 もうするべきことはない。 正直、全力疾走でここまで来たことがたたってか、疲れがどっと来た。 このまま、妻の...
  • 16-669
    水中キス 午前零時の校庭に、パシャンと水音が響き渡る。 「また今年もやっちまったなあ」 はは、と笑ってそいつは服を着たまま25mプールを泳ぎ始める。 十年ほど前まで俺たちは同じ中学校に通っており、同じ水泳部だった。 あいつはクロールが得意で、俺は一度も勝てたことがない。 悔しかったが、あいつは鼻にかけるわけでもないので そういうものなのだと思えるようになった。 いつもあっさりとノルマをこなし、練習が終わった後も飄々とした風な 何を考えているのかさっぱり分からない奴で、仲良しだったとは言い難い気がする。 しかし、十年経った今でも夏になるとあいつは連絡を寄越してくる。 最初に夜の中学校のプールで泳がないか、と突然かかってきた電話で言われた時は驚いた。 真意は全く分からなかったが、なんだか行かないといけない気がして 電話で言われた日の零時に中学校のプールに行くと...
  • 16-699
    コーチ・監督 「監督。さっきから言ってますが、あのフォワード変えた方が良いですよ」 「いや、まだだ。シュートは枠には飛んでいる。相手のキーパー次第で奴さんまだやれる」 「監督。そもそも俺たちのサッカーというスポーツではフォワードが一番運動量が多いんです。  これから復調するとは考え難いし、もう彼は疲れきって左足を引き摺っているじゃないですか」 「いや。俺を信じて、俺の信じる選手を信じてろ。まあ見ておけって」 「でももう、ロスタイムの残り時間が!」 そのとき、相手のパスミスから奪ったボールをうちの司令塔が敵陣に向かい蹴り込んでいた。 左足を引き摺り苦しそうにプレーしていたうちの点取り屋が光の速さで前を向いた。 あぁ、そう言えば、あの司令塔と点取り屋も俺達のように高校のころからの名コンビだった。 2人して部員の指導からプレイヤーまでこなし、高校選手権の県代表までにし...
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