*9が指定したカプ・シチュに*0が萌えるスレまとめ@ ウィキ内検索 / 「20-619」で検索した結果

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  • 20-619
    慣らす キャベツの味噌汁に文句を言わなくなった。 炒り卵なら自分で作れるようになった。 焼酎を飲むようになった。 肘をついて食べるのをやめた。 俺が納豆を食っても顔をしかめなくなった。 おでんの汁は飯にかける派だとカミングアウトした。 やっと自分の歯ブラシを覚えた。 パジャマを買った。 たまに連れだって外出しても、スパイみたいな挙動不審をしなくなった。 一駅くらいなら歩けるようになった。 そんで次の日筋肉痛を起こさないでいられる体力がついた。 俺の好きなガムを覚えた。 読んだ新聞をたたむようになった。 熱帯魚にやる餌の適量を覚えた。 俺がすすめた本をやっと読んだ。 俺の煙草をやめさせた。 見つめても、すぐには視線をそらさなくなった。 電気さえ消していれば、体を強ばらせなくなった。 好きだと言ってもう...
  • 20-619-1
    慣らす 「ここが今日からお前の部屋だ」 背負ったままのリュックをぽんと軽く叩くと、細い身体が大袈裟に跳ね上がった。 直接触れたわけでもないのにこれほど大きな反応を示すのは、親戚中をことごとくたらい回しに されたその過程で何度か虐待を受けたからだろう。目で確認したわけではないが、季節外れの 長袖の下にはいくつも痣が隠れていると聞いている。 俺は気づかれないようにため息をついて、小さな部屋を見回した。 簡素なベッド、勉強机、押し入れにすっぽりはまっている小さな箪笥。それがこの部屋の家具の 全てだ。 「悪ぃな、テレビも本棚もなくて。必要なら揃えてやるから、しばらくはこれで我慢してくれ。 押し入れに箪笥が入ってるから、好きなように自分で収納しな。荷物はそれで全部か?」 リュックを指し示すと、ゆらりと頭が前後する。頷いたのか揺れただけなのか、判別が難しい。 無言で半歩身...
  • 10-619
    受の命令(お願い)で女装させられて、更に白昼堂々デートさせられる攻 「巧ィー。ネズミーランド行こうぜネズミーランド~」 俺は、もう買ってしまった前売り入場券二枚で巧の頬をぺしぺし叩いた。 巧は鬱陶しそうに眉間に皺を寄せる。 可愛い顔が台無しなどと口に出したらまた怒られそうなことを考えつつ、 その眉間の皺すら扇情的に感じる俺は相当ヤバいとも思う。 巧が心底嫌そうにチケットを振り払った。 「嫌だ。何が悲しくて男二人でそんなとこ行かなくちゃいけないんだ」 彼は最高に険悪な表情だったがこれくらいでめげる俺ではない。 地道な努力を重ねに重ねて、漸く部屋の中まであげて貰えるような仲になった俺だ。 「でもさ、もうチケット買っちゃったんだよ。 お前ネズミーランド行きたいって言ってたじゃん、 お前の誕生日も近いしさ、 プレゼントだってことで俺と一緒にネズミーランド行って...
  • 10-619-1
    受の命令(お願い)で女装させられて、更に白昼堂々デートさせられる攻 「ねえお願い。女の子になって?」 「は?」 いきなりの言葉に耳を疑った。 「だから、女装して」 そういいながら差し出される服はヒラヒラだ。 「こんなもんいつの間に用意したんだ!」 「今日。さっき買ってきた」 「無駄使いすんな!」 いやまて、そういう問題じゃない。 「……女装したオレにヤられてみたいとか?」 「バカか。デートすんだよ、外で」 「羞恥プレイかよ!」 「まだ恥ずかしいと思うだけの理性はあったのか」 「普段理性飛ばしっぱなしですいませんね」 「悪いと思うなら言うこと聞けよ」 「それは嫌」 キラキラと見つめてくる目は期待に満ちている。 ……諦める気はないらしい。 「そもそもどっから出てきた思いつきだよ」 そう言うと目を反らして口ごもってしまう。 言えないような理由でもあ...
  • 3-619
    タバコ喫み×嫌煙家(リバ可) 「お疲れさまー。もう遅いし晩飯食っていこうよ」 「寄らないで下さい」 必死のアプローチにもかかわらず冷たい声で一言。 「なんでー。なんでー。俺お前のことがこんなに死ぬほど大好きなのにー」 「タバコの匂い嫌いなんです。何度も言ってますよね?いちいち忘れるんですか?馬鹿ですか?」 ああ、禁煙できない俺にいつもの台詞。 「死ぬほど大好きなら禁煙してから出直してくださいね。じゃあお疲れ様」 「いやいやいや、タバコはやめるとほんとに死んじゃうし…」 「じゃあその死ぬほど大好きなタバコ様と結婚でも心中でもしてください」 ……禁煙セラピー、買って帰ろうかなあ。 生徒会長な優等生×不良生徒
  • 7-619
    ヒトメボレ×ヒトデナシ この部屋に入居してまだ二週間ほどのことだ。 カタン、と物音がした。振り返ったけれど、誰もいない。 (気のせいかな。) そう思っていると、また、カタンと物音がした。 不動産屋が破格の値段で持ってきた物件だけに、なにか周囲に問題でもあるのかと思っていたけれど、 今のところそれはない。むしろ、周囲はとてもよくしてくれる。 「わざわざこんなところに来なくたってよかったんじゃないの?」 そういう声もあったけれど、気にしていなかった。そう、……その日までは。 〔カタン。〕 ぼくは振り返る。不自然な物音は少しずつ近づいている。 〔カタン、カタカタ。〕 ぼくはばっと振り返った。すぐ後ろに聞こえる物音に、心臓をびくつかせながら。 と、出し抜けに、 『ここ、ぼくの部屋です』 そんな声がした。か細い、ボーイソプラノのような声。 ぼくはがた...
  • 9-619
    記憶の中で苦しめる人 「好きだ」 舞い散る雪のなかでそう告げた。 チラチラと舞う雪の中のアイツは堪らなく美しかった。 雪にさらわれてしまいそうだった。 街灯の光はまるでスポットライト。 一枚の絵画か舞台のワンシーンのように目に焼き付いている。 今も思い出すだけで…… 「うわああああぁぁぁぁぁぁぁ!」 「な、なんだよ」 思い出すだけで恥ずかしい! なんださらわれるって。 スポットライトとか言ってんじゃねえ。 何処の夢見がちな乙女だよ! 「いきなりどうしたんだよ」 「……恥ずかしい過去を思い出した」 恥ずかしい。 なんであんな風に思えたんだ。 コイツが儚げなのは外見だけで中身が全く違う事だって知ってたのに。 「恥ずかしい……ああアレか?告白の時の……」 「思い出すなー!」 「無理。思い出した。いきなり真剣な顔してさぁ」 「止めてくれー!」 ...
  • 4-619
    そろそろ手袋買わなきゃなぁ 「そろそろ手袋買わなきゃなぁ」  色付き始めた、ケヤキの並木道。  そこを幼馴染みの彼と歩いている時に、耳に独り言のような言葉が滑り込んできた。  視線を向けると、彼は寒そうに首を縮め、手に息を吹き掛けている。それに微笑ましいものを覚える。 「お前って、手冷たいもんな」 「だから、冬って嫌いなんだよ‥‥‥。霜焼けとかなるしさ」  寒さで赤くなった頬とか、鼻をすする仕種とか、そんなのを可愛いって思ってるなんて、お前は知らないんだろうな。  息を吹き掛けつつこすり合わされる手を掴み、ダッフルコートのポケットの中に引き込む。 「こうすれば、暖かいだろ」  びっくりしたようにこちらを見ていた彼は、はにかんだように微笑み 「うん」 と、短い返事を返してくる。  そうして半ば強引に、家に帰るまでポケットの中で手を繋ぎ続けた。色付いた葉より...
  • 2-619
    穏やかな優等生×やんちゃな熱血バカ 彼のどこが嫌いかって? そうだな、あの押し付けがましいところが苦手だ。独善的というか。 結局は一人で突っ走るくせに、チームワークが大好きだから何でも一緒にやりたがるんだ。 僕は一人で計画して実行する方が性に合ってるって、何度言っても聞かない。 口論になることもしょっちゅうだね。…仲直り?まったく問題ないよ。 なにせあの性格だろ?厭なことを後に引きずらないんだ。 喧嘩しても一晩寝れば忘れる。馬鹿だからな。 僕ら相性は最悪だと思ってるんだけど、何故か離れられないんだよなぁ。 あいつ無茶を無茶とも思っていないから、危なっかしくて目が離せないし。 勝手に暴走した挙句顔に傷なんかつくって帰ってきて心底頭にきてても、 あのしゅんとした犬ころみたいな顔見るとつい許しちゃうんだ。 悪かった、これっきりにするから...
  • 5-619
    ひろゆき@どうやら管理人 創立者であり、神でもあるあの人。 周囲の奴らは「ひろゆき」なんて呼んでいる。 勝手に呼び捨てにするなよ、と何度愚痴ったことだろう。 俺は、あの人と呼ぶのが精一杯なのに。 俺と彼とは……きっと、絶対に結ばれないのだろう。 ある意味、親子みたいなものだから。 だけど、どうしても諦めることが出来なくて、 俺はそっと呟いているんだ。 ひろゆき ラブ。 俺がその気になれば1000回も言える。 場所を変えて、何度だって言いなおせる。 あの人の為なら、自分の体を捧げることなんて何とも思わない。 好きだ、あの人……いや、ひろゆき。 ……届いてくれ、この思い!! 削除人「……たまに2ちゃんが自動的に書き込みを始めるんだよな。     何だろこれ、ウイルスか?」 あぼーん。 ………そして、2ちゃんの思...
  • 6-619
    伝わらない 愛してるよ。 君を愛している。 「『愛してる』って分かんない。 父さんは大勢に言った。 母さんは僕を殴った。 姉さんは大金を使った。 でも、貴方の『愛してる』は僕の知るどれとも違う。 だから、僕は『愛してる』が分からないし、貴方に『愛してる』って言ってあげられない」 それでいいよ。 ここに私がいて、君がいて、そして私が君を愛している、そのことが重要なんだ。 それだけなんだよ。 「やっぱり分かんない」 分からなくていい。 伝わらなくていい。 ただ知っていればいい。 私は君を愛している。 愛してるよ。 伝わらない
  • 1-619
    あう×ボーダフォソ まぁ、噂を聞く限りではあいつ自分を安売りして夜な夜な若い奴らと…その、なんだ、 いろいろやってるらしいからな。オレに目を向けるなんてことが有るわけないのさ。 昔はオレの方が人気者だったのにな…それに昔はあいつとも仲が良かったよ。 アレだよな、傲慢だけど、人気があったから周りに優しくできたのかもしれないな。 あいつと会う約束をしていたあの夜に出会った外国の奴に、ホイホイついていったオレがバカだったよ。 あの間違えさえなければなぁ。今はもっとあいつと仲良く出来たかもしれない。 今いつでもオレの隣にいるのはあの夜を共にした外国の奴さ。 今日も一日が終わりそうだ。いつも隣にいる奴は国に遠征しに行ってる。 そんなとき誰かがやってきた。こんな夜中に来る奴にろくな奴はいない。 追い返そうと思って窓を開けたら、あいつがいるじゃないか。 「…テレビ見せ...
  • 19-619
    ちょ、痛いって たとえば部屋で寛いでいるとき、二人で眠る前、情事の後なんか。そんなときにあいつは俺の体に噛みついてくる。コンプレックスだった白い肌に目立つ赤い歯形が独占欲の証のように増えていく。 俺はいつも、かすかな痛みと心地良さ、あいつに愛されているだろう事実がもたらす優越感に溺れてしまう。被虐嗜好があるわけでもないけれど、ほんの僅かな間残る跡は見るたび痛みと快感がつのった。 今日もあいつは俺を噛んだ。痛みと歯形が残る程度に、しかし傷にはならない強さで。 「ちょ、痛いって」 「いいじゃん。血だって出てないし、すぐ消えるよ」 そう言ってまた、肩やうなじや指や脇腹に噛み付くのだ。その控えめな歯形が消えるのを、どこか惜しく思いながら見ていた。 いっそ一生ものの跡がついてしまえば、あいつは俺から離れがたくなるんじゃないかなんて、浅ましいけれど、思わずにはいられなかった。 ...
  • 16-619
    閉じこめる 現実か、あるいは長い夢か、僕の妄想なのか。 僕はあの男に閉じ込められている。それもかなり長い間。 あの男は僕のことが好きなんだろうか。だから閉じ込めているんだろうか。 あの男のことを考える。不思議と憎しみはない。 それどころか、あれが時おり見せる笑顔を思い出すと、胸が温かくなる。 けれど同時に切なくなる。どうしてだろう。 ふいに呻き声がして、そっと後ろを振り返る。あの男が小さな檻の中で蹲っていた。 足首に鎖が巻きつけられて、動けない状態だった。 「おかしい、これじゃあまるで、お前が僕に閉じ込められているみたいじゃないか」 そう呟くと、男は僕の方を睨みつけて、ああまさしくその通りだよ、と唾を吐きかけた。 何はともあれ、僕はこの男に閉じ込められている。それもかなり長い間。 現実か、あるいは長い夢か、それとも。 閉じこめる
  • 22-619
    うたた寝 最悪だ、と田中は唇だけをその発音どおりに動かし、なんとか声は出さずに押し留めた。 目の前にはソファで眠りこける男が一人。 女性的な顔立ちをしてはいたが、その人物が男であることは間違いなかった。 なにせ鈴木は田中の幼馴染だ。彼が田中と同じくXYの染色体を有することは、子どもの頃から知っている。 「おい」田中はうたた寝をする鈴木を小突いた。 田中の住むアパートを、夕食時を狙って鈴木が訪れることは少なくなかった。 今日も今日で、食べるものを食べたら後片付けもせずにこのとおりである。 メグミはこんな男のどこがいいのか、と田中は考えた。メグミとは田中の妹で、どういうわけか このだらしがない男に思いを寄せている。なんでも鈴木には好きな奴がいるとかで、 彼女は可哀想なことに、もう二度も振られていた。 尤も、メグミのことをとやかく言えないのは田中も同じだ。 自分の感...
  • 28-619
    10年以上の片想い 二度目の高校の同窓会で、懐かしい奴に逢った。 二次会に盛り上がる連中を尻目に抜け出して居酒屋に入る。日本酒をちびちびと飲みながら話を聞いた。 あの先生まだ生きてたんだな、二組のあいつ結婚してたんだな、○○は老けたよな、親御さんは元気か… 「しかしもう三十手前か…早いねぇ」 二杯を空にした辺りでどちらからともなく溜息を吐く。 「でも皆元気みたいで安心したわ」 その笑顔と言葉に、泣きたくなった。 変わっていない、“変われない”俺の親友。 今でも忘れられない二年の夏。あの日からこいつの時は止まったままだ。 「部屋、来いよ」 アパートへの道をゆるゆる歩きながら考える。傍には親友がゆらゆら漂っている。 果たして、俺はこいつに言えるだろうか。 あの時からずっと胸に押し込んでいた想いを。あの時言えなかった言葉の続きを。 果たして、俺は聞けるだ...
  • 23-619
    大好きだからさようなら 「おい、石川のちっちゃいの。酒」 「小石川です教授。お酒はもうダメです」 「ダメってなんで。俺の家だ、腐るほどある筈だろ。持ってきて」 「ダメです」 「いいだろもう日本には帰ってこないんだ、最後をお前と飲もうっていうのに」 「友達がいないだけでしょう。大体アメリカ行きだって自分で勝手に決めたくせに。最後を一緒になんて都合が良すぎます」 「………石川(小)」 「小石川です」 「俺だって別に行きたかないよ」 「じゃあどうして、行っちゃうんですか」 「逃げるためさ」 「どうして、最後の夜なのに酔おうとするんですか」 「それも逃げるため」 「根性無し」 「なんとでも言え。…なぁヒロキ」 「小石川です」 「愛してるよ。でもお前を見てると頭が狂っちまう、ごめんな」 「……もう二度と、あなたの様な意気地の無い意固地な人を好きにはならない...
  • 17-619
    花にたとえるなら あなたは 花にたとえるなら あなたはソメイヨシノ あれほど美しいのに 決して結実することの無い 花を咲かせはしても 子孫を残すことの無い徒花 通り過ぎる強い風が枝を揺らし 花びらを震わせ あられもなく乱し 身も世もなく舞い散らせても 次の年にはまた 何もなかったかのように 静謐に美しく咲く そんなところも似ている ソメイヨシノは傷に弱いのに 手折るとできた傷から 腐敗して 死んでしまうのに それがわかっていても 手折りたくなってしまうほどに 自分のものにしたくなってしまう そんなところも似ている 花にたとえるなら あなたはソメイヨシノ ただ 風にかき乱され悶え 狂ったように舞い散る様を私に見せ付ける 触れることを禁じられた花 結婚指輪のかわりに
  • 14-619
    冷たい人が好きなタイプだったのに何で? 彼がそっとさりげなく接近して来るようになったのはいつの頃か。 嬉しくてつい、はしゃいでしまう。 多分、気まぐれだと分かってる。 彼が好む相手と自分は、あまりにも違い過ぎだから。 手に入らないものを欲しがるばかりの人が、 こんな容易い僕に価値を見出すとは思えない。 ゲームでいえばレベル1で出て来るザコキャラみたく、 僕は落とし甲斐の無い代物だろうから。 そう考えると、酷く切ない。 自分は、目一杯弄ばれてるんだ。 柔いところを目一杯突かれて、優しくされて舞い上がって。 そして僕は、彼と寝てしまった。 嬉しくて嬉しくて、泣いて喜んで 馬鹿みたいだ。 遊びでもいいから離さないでと、切に願ってしまった。 何故自分と、問う訳でもなく。 深夜の車が行き交う喧騒の中で、聞こえた呟き。 ...
  • 13-619
    メガネとワイシャツと私 メガネもYシャツもあんたに触れられるのにネクタイの私は触れられない・・・ 「あんたにこんなに触れたいと思ってんのに・・・そんなに私は必要無いのか?」 「ご主人にはお前も俺もメガネだって必要だろ。ってか、お前俺じゃ足りないのかよ。」 ・・・Yシャツのことも好きだけど肉体をつなげてわかった。好きの違い。だから・・・ 「・・・・・・たりっ・・・ない・・・」 小さな声でボソリとつぶやくように言う。 「ああ、そうかよ!!じゃあ、もう俺を抱くのは止めろ!!」 あ・・・また捨てられる・・・嫌だ・・・ 「足りないから・・・埋めさせて・・・」 咄嗟についた嘘。 あれから、何ヶ月たっただろう・・・あの時体をつなげたYシャツ達はご主人にボロボロになるまで扱われ、捨てられた。もうすぐ私も捨てられるだろう。あんたにこの空白を埋められることのないまま。 ...
  • 24-619
    自転車二人乗り 「……違う。確かに俺は自転車で二人乗りがしてみたいといったが、これは違う」 「何が違うんだ、立派に二人乗りしてるだろ」  そう、確かに今俺が乗っているこれは自転車に分類される乗り物で、そして二人乗りだ。  だから決して間違っているとは言えない。けれど、それでもこれは違うと叫んで許されると思う。 「普通、二人乗りがしたいってリクエストに対して『二人乗り用自転車』を持ちだしてくるか!?」  普通の自転車より長い全長。小さめの車輪。縦に2つ並んだサドルとペダル。  休日に突然呼び出された俺の前にこいつが嬉々として出してきたのがこの面白自転車だった。  こんな漫画でしか見たことのない自転車が普通に存在するということにまず驚いたが、 自分が発した「二人乗りをしてみたい」という発言に対する答えがこれだということに更に驚いた。 ...
  • 26-619
    狼男と吸血鬼 「んで、旦那。これからどうします?」  日の当たらない深い森の中、青白い肌をした少年が立っていた。周りには動物の屍が 散乱し、血液が全て抜き取られていた。少年は口の周りを無表情で拭いながら、ゆっく りと近づく男に目を向ける。 「お食事も済んだことですし、そろそろ俺の方も何か頂けないでしょうか?」  飄々とした口調で少年にせがみながら、背後から白い首筋に手を優しく当てた。男の 目はギラギラと光らせ、鋭い舌と歯を覗かせていた。 「気安く触るな」  少年は男の意図が分かると、抑揚の無い言葉でそれを拒むが、男はお構いなしに首筋 に唇を近づけていた。 「もう一度言う、俺に気安く触るな」 「旦那は半分人間の血入ってますから俺のことを完全には支配出来ない……なんなら今 ここで」  そういいかけた瞬間、男は殺気を感じ、後ろに退く。向かい合った少年の手には短剣...
  • 18-619
    相容れない敵同士が一時的に手を組む 窓のない小部屋に、男が二人座り込んでいる。一種異様な光景である。 部屋と呼ぶのも憚られる殺風景な空間には調度品の一つもなく、 重厚な金属製の扉は頑なに閉ざされている。静かな午後だった。 その静けさに抗うように、男の片割れが絶え間なく喋り続けている。 「よく喋る男だ。すこし口を閉じていろ」 それまで無視を決め込んでいたもう片方の男が、とうとう耐えかねて声を上げた。 やけに剣呑な目つきをしたこの中年男、正体は私服警官である。 元より愛想の良いタイプではないが、ここまで不機嫌なのには理由がある。 一つには、敵意ある組織に監禁されているというこの状況。 もう一つには、武器を没収された上に怪我を負い、これという打開策も浮かばない己の状態。 そして何より神経を逆撫でるのは、同室に閉じ込められているのが名うての詐欺師という事実である。 ...
  • 21-619
    愛さないでください ああ、まだ玄関付近をうろついてる…。 窓からこっそり覗き見て、俺は酷く後悔した。 今、俺ん家の玄関付近をフラフラしている彼は部活の後輩。 明るくて親切で男なのに超綺麗。そんな後輩に懐かれて、俺も最初は悪い気はしていなかった。 けど仲良くなるにつれて、どんどんスキンシップが過激になって 抱きつかれたり、キスされたり、「抱かせて下さい!」とまさかのお願いをされたり 花束を手渡されたり、毎日弁当を作って来てくれたり、誕生日に指輪をプレゼントされたり 最近ではなぜか原点復帰して「手…繋いでもいいですか?」と不安げに聞かれたり 「俺の事嫌いですか?先輩が嫌ならもう二度と近づきません。」って気を使かってくれたり その事で考悩みすぎて知恵熱出した俺のお見舞いにわざわざ来てくれたのに 何故かチャイムを押さずに玄関前で考え込んでたり。 いくら鈍感...
  • 25-619
    爪を切る ヒリつく背中に眉を寄せて、気の抜けた声で騒ぐ頭をはたく。一通りの作業を終えた右手を解放し、緩慢にパタパタと動く左手を取っ捕まえて、爪切りをあてがう。 「いっ、ひっ」 「……………」 「きょっ」 「……いい加減面白い声出すのやめてくんないか」 「だってなんか人に爪切られんのって思ってたよりくすぐった……いひっ」 パチンパチンと小気味良い音を立てて爪が切れる度に、短く意味の分からない悲鳴をあげてはプルプルと震える。 「あーもうやすりはやめてー」 「丸くしなきゃ意味ねえだろ、爪痕から血ぃ滲むとか尋常じゃねえぞ」 「あっちょっ、あーあーもうやっぱりゾワゾワするし…!」 「自業自得だ、我慢しろ。……ほら終わったぞ。」 「あ゙ーー…」 唸りながら枕に顔を埋めるのアホを横目に、ついでに俺も切ってしまおうかと思い爪を見る。が、すぐにそんな必要は無いと知る...
  • 6-619-1
    伝わらない いやいやいやいや、ありえないから。 絶対ないね。まじでない。 伝わってるわけねーじゃん。 だってほら、今だってすごい目で睨まれてるわけで。 はい、すいません。静かにしますよ。 俺なんかちょっとうるさいクラスメイトくらいの存在です。 いいのいいの伝わらなくても。 俺、今のままで充分天国。 大体、引っ込み思案な俺っちは、伝えられるようなことを何にもしてないからね。 精々できてるのは、授業中にじっっっっっと背中を見つめるとか、 プリント渡すときにそっと手を握るとか、 体育の授業のときにさりげなく身体をすり寄せてみるとか、 登下校のとき、10メートル後からついてってるとか、 あいつのバイトしてるコンビニの周りを、2~3時間うろうろするのが日課とか、 そんな程度ですから。 「立派なストーカーだな」 ストーカーとは失礼な! 失礼...
  • 8-619-1
    さあ踏んでくれ ……え?ホントにいいの? いつもパリッとしたスーツを着て、颯爽とビジネス街を歩く一流企業のサラリーマンが 僕の前に素肌を晒している。 「……でも……」 「いいんだ。思い切り踏んでくれ……それが快感なんだ」 高校時代、ラグビーで鍛えた体はうっすらと日に焼けて、逞しくて。 綺麗な逆三角形を描く、胸から腰のライン、引き締まった太腿。まるで彫刻のような体。 あぁ、どうしよう。 身長も体格も、体重だって完全に負けている僕なんかが、この人を踏みつけにするなんて。 いつもなら、乗っかられるのは僕の方なのに。 「なぁ、頼む。我慢できないんだ。酷くしていいから」 そんなに、切なそうに切れ長の目を潤ませないで。 あなたの望むように、僕は何でもするから。 「あっ……あぁ、イイ……」 僕の体の下から、快楽の声が聞こえる。...
  • 2-619-1
    穏やかな優等生×やんちゃな熱血バカ キャンキャン吠える仕草は、仔犬に似ている。 「だーかーらー、この公式が分かんねぇと俺、留年するかもしれねーんだよ!」 「…お前は、野球のルールを分かっても、数学の公式は解けないんだもんなぁ…」 期末試験前夜、隣に住む俺の部屋に来て、真っ先に教科書を広げて言う様は、 受験生のようだ。明日受験する訳でもないのに、一年先だろ?…少しは落ち着けよ。 他の連中ならまかり通る冗談もこいつにとっては、何の役にも立たない。 少し気を抜けばいいと思って、言った俺の言葉は奴のカンに触ったらしい。 あ、また吠える。きた。ワンワンワン。仔犬のような叫び。 「…っ…俺が、留年してもいいってのかよ?きちんと一緒に高校卒業してっ、  お前と一緒の大学行こうと思ってっ!ど、どーせっ、俺みたいなスポーツ馬鹿は、  お前の...
  • 20-699
    3対3 3対3というと、最初に思いつくのは ストリートバスケットのスリー・オン・スリーでしょう。 公園で遊んでいた3人が、知らない3人組に 「ここは俺達の場所なんだよ」とイチャモンつけられて、 対決するのがベタ。 相手チームにそれまで自分の気になっていた超上手い男がいたら尚良し。 対決後に仲良くなるのが鉄板。 運動系じゃなくて、頭脳で争うのもいい。 高校生クイズで、名門高校同士が知識で争う。 同じチーム内で恋のさや当てもいいけれど、 やっぱり相手チームに好きな相手がいるというのが良い。 ロミオとジュリエット形式は萌える。 途中で相手チームが不正していたのがわかるのも タイムリーな話題でいいのかも。 個人的には、7人で3対3に分かれるのも好み。 残り一人の争奪戦になるのがいい。 小さい会社のチームで今後の方針で意見が分か...
  • 20-629
    約束を破って 「今後絶対に俺に告白なんてすんな、バカ!約束だからな!それが出来なきゃ死ね!」 高二のころだった。何をトチ狂ったか、幼馴染の幸生は俺に告白をしてきた。 今も今までもこれからも、ずっとずっとみっちゃんが好きだよ、と帰り道でコンビニの肉まんを食いながら、あいつは言った。 男の幼馴染にまさかそんなことを言われると思っていなかった俺は、そんなことを幸生に言ってしまった。 幸生は見たこともないような悲しそうな表情を浮かべたあと、変な顔で「ごめんね、みっちゃん」と言った。 本当は、好きだと言われて嫌だったわけではない。いや、本当はすごく嬉しかった。俺は素直になれなかった。 俺だって幸生が好きだった。幸生以外と過ごすのなんて退屈で仕方なかった。 でもあの時の俺は、幸生の思いを受け入れられるほど大人じゃなかったし、好きの意味がわからないほど子供でもなかった...
  • 20-689
    兜合わせ 「それではお二人に兜を合わせていただきましょうか」 チェリー商事の薄田課長が下衆な笑みを浮かべる。 僕の会社801デザイン(株)にとってチェリー商事は大切なお得意様であり生命線。 彼らの命令は絶対と言っても過言では無い。 絶対に逆らえない事を知っていながら薄田は僕と係長に「兜合わせをしろ」と要求している。 なんて卑劣で品性の欠片も無い行為なんだ。 「お言葉ですが薄田課長」 主任が立ち上がって薄田を見据える。 801デザイン(株)きってのキレ者、身長185センチ、鋭く研ぎ澄まされた端正なマスク、 時折見せる優しい笑顔に、女子社員だけでは無く男性社員までもが憧れる存在。 そんな主任といえど、このピンチを乗り切れる術は無いだろう。 主任は薄田のいやらしい視線を挑発するようにベルトを外し下半身を露にした。 僕...
  • 20-609
    怖い顔×怖い顔 「笑う子も泣かす花屋のゴルゴ」とは、母が俺に付けたあだ名だった。 確かに俺は背は高い、眉は太いがそりゃないだろ…と思った。 が、近所の小学生にはすっかりお馴染みになってしまったようで、 悪戯っぽく「ゴルゴ~!」と叫んでは逃げていく。 背中から撃ったろかクソガキ。 そんなある日、最近転校してきたらしい小学生がひとり、花を買いに来た。 入院中の姉に小さな花束をあげたい、と話すそいつの やけに長い前髪の隙間から、生々しい傷痕が覗いていて思わず手が止まった。 傷ついた子供は敏感だった。 「これ、怖いでしょ?へへ…」と弱々しく笑う彼に、 何も言えず、ただ花束を造ることしか出来なかった。 その後もそいつは、ウチの店に寄っては、花を買ったり鉢を見たりしていた。 植物が好きらしい、話をしてやれば興味深そうに聞くので、...
  • 20-669
    哀愁漂う背中 「娘さんご結婚、おめでとうございます」 「ああ…」 「寂しくなりますね」 「ああ…」 晴れやかな式のはずなのに、貴方の顔色は優れない。 まあ、死んだ奥さんの忘れ形見を、何処の馬の骨とも知れない男にもってかれちゃぁな。 丸まった背中が、貴方の姿を実年齢よりより老けたように見せる。 寂しい…そんな言葉が背中から聞こえてきた。 「君みたいな好青年だったら、娘を安心して嫁に出せたんだがな…」 「そうですか?案外ああいうチャラけた奴のほうが、純粋で真面目だったりするんですよ?」 「あはは…」 力なく笑った目じりの皺が、愛らしい。 「第二の人生スタートですね」 「もう、そんな気力ないよ」 「何言ってんですか、今時のアラフィフなんて俺たちの世代より元気じゃないですか」 「そうかい?」 「ええ、だから」 骨ばっ...
  • 20-679
    彼のことも彼女のことも好きだ 拳が震えている。 男らしい無骨な指がぎゅっと丸まっては時折思いあぐねたように緩んで、ジーンズを爪の先で引っ掻くのは彼が何かを我慢している時の癖なのだ。 「……もう限界だ。」 ……あ、やっぱし。ついに決壊か、そうか。 「あのな、俺はお前の優しいところを尊敬してるんだ。」 ふむ。上げてから落とす作戦か。 「……だが、これだけは言わせてくれ。いや、言わせろ。恋人とのセックスの最中に!実の妹の自慢をするバカがどこに居るか!いや居ないね!お前はデリカシーを母親の腹の中に落としてきたのか!?」 エクスクラメーションマークだらけの威勢の良い啖呵とは裏腹に、彼の視線は落ち着きなく宙を泳いで俺と目を合わせてくれない。 きっとヨソの女でも男でもない、ただの妹に嫉妬するような自分が後ろめたいのだ。あなたはそういう人だ。 だが待...
  • 20-649
    いまさら言えない 「好きだ」 何度口に出そうと思ったか。 でも、お前の想いは知っていたから、言えなかった。 言ってしまえば、優しいお前の事だ…真剣に悩んでくれただろうな。 もしかしたら、身分違いの恋なんて諦めて、俺の傍に居てくれたのかもしれない。 でも、もう遅い。 お前がこの国から居なくなって10年。今日、この国に新たな法律が加わった。 同性同士の婚姻の自由。 記念すべき同性婚第一号はこの国の元王子と、その側近の騎士。 正直、まだ世間の風当たりは厳しい。 心無い言葉で彼らを罵倒する民衆も少なくない。 それでも幸せそうな二人の姿を見て、逆風は収まりつつあった。 ああ、本当に幸せそうで、涙が出る。 悔しいのか?悲しいのか?…分からない。 一つだけ分かるのは、素直に祝福できないという事実だった。 休日、街の市場で最悪...
  • 21-619-2
    愛さないでください 「……そんなに嫌われることもないのに」 「え?俺?」 「あ、いえ、えっと」 ぼそっと口をついて出た言葉だったが、黒川さんにはしっかりと聞こえてしまったようだった。 黒川さんのスーツにピンマイクを付ける俺をじっと見つめる黒川さん。 テレビ画面の中からでも鋭いとわかる視線が直接俺に向けられているものだから沈黙など十秒ともたず、仕方なく俺は続きを話し始めた。 「いえ、あの、黒川さんてその、番組の中じゃ悪役、っていうかどうしても嫌われる……あ、すみません失礼ですよねすみません!」 「いいよ別に。そういう風に見られてるのは知ってるし、愛されキャラとか似合わないだろ」 「……そんなこともないと思いますけど」 お世辞でなく、そう思う。きつい感じの顔立ちだけれどその辺の俳優に負けないくらい整ってはいるし、こうして俺と普通に喋る分には優しい声をしてい...
  • 12.5-619
    最後に伝えたい言葉 「十中八九脳漿ブチ撒けて御陀仏、やな」 ヒュゥ、と場違いな口笛の音。こんなときでも口許には狂犬じみた笑み。 ――嗚呼、神様仏様。 この人のこのカオが見れなくなることだけが心残りです。 つい先刻まで縛られていた手首をさすりながら窓を覗き込む。 ここから飛んで助かる可能性は五分…というのはあまりに楽天的過ぎる数字だろう。 まぁ、どちらにしろ連中はおれ達を生かして帰すつもりはあるまい。 それならいっそ今ここでこの人と一緒に死ぬ方のも悪くない。 想い人と共に死ぬ。なかなか甘美な響きじゃないか。ああ、ますます悪くない。 死の間際の感傷か、押し殺してきた言葉が自然に口をついて出る。 「神崎さん、最後に聞いて欲しいことがあるんですわ」 「ぁア? なんや改まって」 「――おれ、ずっとあんたのこと愛してました」 「へッ! 寝言ぬかしよる。お...
  • 22-619-1
    うたた寝 あぁ、腰が怠ぃ…。 よっこらしょ、と声を出した自分に苦笑しながら、縁側に腰を下ろす。 三十路の身体に一晩に3回はさすがにキツいか。 小春日和の日差しの中で中で、昨夜のことを振り返る。 「慎二さん、ね、もう一回だけ、いいでしょ?」 年下の恋人はとてもねだり上手だ。 可愛さにほだされてつい3回目もつき合ってしまった。 だって、しょうがねーよなあ。可愛いものは可愛いんだから。 「慎二さん、大好き!」 嬉しそうに抱きついてきた翔太の笑顔を思い出すと自然と頬が緩む。 今の俺、デレデレと締まりのない顔してんだろうな…。 そんなことを思いながら、日だまりの温もりに眠気を誘われて、 いつのまにかうとうとしはじめた。 バイトを終えて、弾む足取りで家へと急ぐ。 慎二さんは今日は仕事が休みで家にいるはずだ。 ただいまー!と元気よく玄関の扉を開ける。 「慎...
  • 21-619-1
    愛さないでください  ひとつだけお願いがあるんです、と青年は静かに言った。 ――私を愛さないでください。  烏色の髪が風に撫ぜられて蒼ざめた頬にかかり、ただでさえ感情を内に秘めがちな青年の表情を一層読み辛くしていた。  けれども、日頃から禁欲的な彼が、そうして一陣の風の中に無防備に身を置くさまを見るのが、私は存外に気にいっていた。  だからたびたび夜になると、青年を連れて、この静かな湖畔を訪れた。  ここに吹く風は無粋な障害物に遮られることはなく、ただ穏やかにさざ波の上をやってきた。  そして、私と青年に沈黙が訪れると、その間を優しく風が通り過ぎていくのがわかるのだった。  青年もまた、この時間を好んでいた。  明るい日差しの中では人目を集める彼の容姿は夜の帳にしっくりと溶け、湖畔に吹く水気を含んだ風は彼の故郷の風にどことなく似ているのだと言う。 ――私を愛さない...
  • 16-619-1
    閉じこめる 綾乃と駆け落ちをする、と、透は俺の眼を真っ直ぐに見つめて告げた。 叶わない恋だと嘆く、かつての弱々しい眼差しの面影は既に無く、瞳は強い光を帯びているのに気づいた。 遠くで蜩が鳴き、畳には、ふたつの影が這うように伸びていた。 「家はどうするつもりだ」 尋ねると、透は痛みを堪えるような顔をしたが、それも一瞬のことだった。 「知るものか。あいつらの傀儡にはならない。そんなものはもう御免だ」 「――いつ、発つんだ」 「明日の深夜、綾乃と峠で待ち合わせる。……和志、すまないがおれを助けてくれないか」 瞳の輪郭が和らぎ、幼い頃と変わらない眼差しが俺を捉えた。透が頼みごとをするときの眼だ。 頷くと、食い縛っていた透の唇が綻んだ。 「助かる。おれひとりでは囲いを越えられないんだ」 しばらくの間の後、透は大きく息を吐き、眉根を下げた。 「本当にすまない。…...
  • 14-619-1
    冷たい人が好きなタイプだったのに何で? 「なんでおまえ手袋もしてないんだよ。」 ほら、手貸せ。 一方的に繋がれた手から、相手の体温が流れ込んでくる。 冷てーなおまえの手。昔から、冷え症だっけか。 彼は、優しい苦笑いを潜ませた声でそう言って、歩き出す。 温かすぎるその熱にめまいを感じながら、手を引かれて歩いた。 半ば俯けていた視線を少し上げて、繋いだ手を視界の中心に据えた。 手を引っ込めようとするのに、その度に掴み直されて、指は絡め合ったまま。 その内に互いの温度が混ざり合って、何処から何処までが自分のものなのか、 境界が曖昧になってしまう。 堪えきれなくなって、眼を逸らした。 胸が痛い。悲しさや苦しさでなく、得体の知れない切なさが喉を締め上げる。 辺りはもうすっかり冬景色で、明け方には雪が降った。 時折氷点下の空を過ぎる風は首筋を脅かし、...
  • 20-699-1
    3対3 「推進派の意見は甚だ単純、理性ある人間として耳を傾けることはできません。  そのような本能に基づくだけの拙劣にして愚昧な行動を私は許さない。  そもそも社会的、道徳的にどうなんだ。  友人、それも同性にこのような気持ちを抱くだけでも異常なのに、みだらな行為まで欲するというのは?  社会人として、まともな大人として、軽挙は厳に慎むべきだ」 「なんちゅー頭の固さ! 本能上等じゃねーか。  欲望、イズ、パワー! だ! ゴチャゴチャ言っても結局はこれだよ!  どんなにすましててもちんちんついてるだろ? 男だろ?  やりたいやりたいやりたいやりたい! そう思う何が悪いんだ?  あいつとやれたら死んでもいい! あー舐めたいしゃぶりたい入れたい!  あいつと気持ちよくなりたい! あーもう考えるだけで」 「まあまあ、そうは言ってもさー。  ……まあ、わかるよ? 情熱...
  • 20-659-1
    探偵と○○ 探偵というものは、概ね殺人事件に巻き込まれたりはしない。 旦那の浮気調査が一番多い。探偵にとっても金をよどみなく出してくれる美味しい仕事だ。 今日も俺は男の後をつけ、写真を撮り、報告書を作成する。奥さんが沢山慰謝料をとれるように。 「浮気しているかどうかはわかりません。でも怪しいんです」 その女性はやつれた顔で事務所に来た。おとなしそうな控えめな人だった。 短い爪の少し荒れた手だった。微かに見えたカバンの中身は整理され無駄なものはなかった。家事をきちんとしているタイプだ。 女性としての魅力もないようには思えない。こういう女性でも幸せになれないというのは残酷だなと思った。 「お恥ずかしい話ですが夫婦生活も全然なくて…。このまま私の人生が終わっていくのかと思うと悔しくて…」 「わかりました。全力をつくします。それでご主人の行動で怪しいというのは」 「...
  • 20-419
    あと少しだけ待ってて 2001.3.16 「今日、久しぶりに君に会った。 随分と間が空いてしまって申し訳ない。元気なのは元気なんだが、足の調子が良くなくてね。 君が綺麗だと言ってくれた手も、ほら、こんなにも老いぼれてしまった。 そういえば、今朝、庭の桜が蕾を膨らませていたよ。もうすぐ開花するだろうか。 君に見せられないのが残念だ。」 1953.4.2 「今日は君と桜を見に行った。来年も君と居たい。」 1951.5.10 「お互い皺くちゃの爺さんになるまで一緒に居ようと言われたとき、恥ずかしくて笑い飛ばしたけど、本当は嬉しかった。 ずっとずっと君と居たい。」 1952.6.23 「近頃、君は変な咳が続く。心配だ。」 1961.6.27 「まだ君のところへは行けない。会いたい。」 1974.7.1...
  • 10-679
    脱糞 「しかし雅之くんも大人になったねえ」  おっとりとしみじみと話し出す恭介さんに、オレはわずかに心の中で身構えた。  この人がこういう話し方をするときには、必ず何かある。 「そうですか?」  素知らぬ顔で応じながら、オレはそっと恭介さんのシャツのボタンに手をかけた。  せっかく隙を見て押し倒したのだ。このまま何もしないわけにはいかないだろう。  笑顔のままだった恭介さんは、その動作にわずかに眉根を寄せた。  同意の上ではないとわかっていても、この欲求は収まらない。  前々から想いを告げていたにも関わらず、のらりくらりと変わらされて、  それならいっそ離れてしまいたいとも思ったほどだが、それを恭一さんは許してくれず。  このまま何もないまま、一緒にいるのが僕の幸せなんだ、と笑った笑顔はとても素敵なものだった。  だが、それではオレが蛇の生殺し状態だ。  ビ...
  • 10-699
    チンポオオソウジ 「昔からコンニャクは男の砂おろしに良いと言ってな」  彼がこんなとき特有の、知ったかぶりの口調で話し出す。その視線は手つかずのままの 箸休めのコンニャクのピリカラ炒めに注がれている。  今夜の夕食担当は彼だった。残されるのがそんなに嫌なのか。  俺がコンニャク嫌いなのを知っての上で出したのだから、この結果はわかっているだろうに。 「男に言及した上でその話って、コンニャクオナニーの話だよね。  コンニャクに突っ込んで、チンポにたまった砂をオオソウジ」 あくまで直接的な表現で返す。 「あれを体験すると、逆にコンニャクは食べられなくなるだろうね」と笑って続ける。  彼が赤面する。 「……お前、やっぱり…やっぱり…なにかに入れたいのか?」 「さあね」  もっと悩めばいい。そしてそのうち、自分の身体を提供すると言い出せばいい。 ...
  • 10-659
    ベビーパウダー ベビーパウダー萌の私が通りますよ。無邪気にはたきあってもいいし、おかあさんとこどもみたいでもいい! 情事のあと、暗闇の中彼の背中を撫でるとザラリとした感触があった 蒸し風呂のようになっている布団の中、汗みずくの二人 私はもう一度だるい腕を動かし彼の背中や肩を探る 「どうした?」 耳許で低い声がする 「背中…、汗疹ですか?」 彼は営業を生業としているから、ここ一月の蒸し暑さで大量の汗をかいたのだろう 掌にわずかに引っ掛かるその感触を何ともなしに楽しんでいると、顔に口づけが降りてくる 「もう…まだですか?」 「お前が触るから」 「また懐かしい物持ってるな」 翌朝、私はシッカロールを用意して彼の入浴が終わるのを待っていた 「汗疹にはこれが気持ちいいんですよ」 さあ背中を向けてくださいと言うと、彼にしては珍しくやや緊張したようにぎこち...
  • 10-689
    かわいいでっかいワンコ受 「せーんぱーい!トーモせーんぱーい!!」 俺を呼ぶ脳天気な声と、いきなり背中に強い衝撃。 図体でかいんだから全力タックルだけはするなと何度言えば解るんだこの馬鹿、と怒鳴り散らしたいところだが、その前に廊下の床へとノーガードで顔面からダイブ。衝撃を受けた肺が潰れ、ぐへ、と妙な声が出た。 「やーっと追い付いたー!何で逃げるんスかトモ先輩ー!」 ぐるん、と視界反転。俯せで倒れたのを仰向けにひっくり返されたと理解できるまでに少々時間がかかった。 あぁこれはアレだ。『ダメ犬しつけ大作戦』とかの特番によく出てくる、人間大好きで落ち着きのない犬。こっちがどんな状況かなんてお構いなしにじゃれついてくるおバカな大型犬。 そんな事を考えていたせいか、目をキラキラさせて心底嬉しそうにこちらを覗き込むバカハルの頭に犬耳(レトリバー風垂れ耳仕様)を幻視した。あぁ衝撃で頭...
  • 10-639
    印象的な人 極寒の地にある統制国家の若き兵隊だった俺は、何も信じちゃいなかった。飢えをしのぐためだけに軍に入ったからだ。 だから、飢えと寒さと貧困に喘ぐ市民が暴動を起こす度、自分の食糧を守るため迷いもなく容赦なく叩き伏せ検挙し統制を守った。 あの日、彼に会うまでは。 暴動の最中に霰混じりの嵐が広場を襲った。 市民も憲兵も混乱し、踏みつぶされる者やトーチで火傷するものの叫び声が響き 寒さで麻痺しかけた嗅覚に蛋白質の焦げる嫌なにおいが僅かに届く。 そのうち視界がホワイトアウトする程の嵐になった。 建物の陰を何とか探り当てた若い憲兵は、そこに先客がいることを認めるや否や銃を構えた。 「動くな!」 叫んだはずの声は嵐の白に吸い込まれ、相手に届かなかったようだが、このまま雪礫に晒されては命の危険すらある。 物影の先客は特に身構えたり銃器を構えてはいないようだったので...
  • 20-919
    守られる男 月のない夜は危ないぞ、と言ったのは父だった。  なぜ、と問う私に、父はただ口元に微笑を刷いて天幕を捲って見せた。  ――月明かりの下、広がり続ける血の海を、立って眺める男がいた。  男の名はイーハといい、父の護衛を務める男だった。  顔こそ品よく美しく整っていたが、実際は手のつけられぬ狂犬で、父以外には決して懐かず、息子の私 にもついに心許すことはなかった。  何かの間違いで人間に生まれたようなイーハを快く思わぬものは、私以外にもいただろう。しかし多く の部族が混在し、小競り合いを繰り返すこの地において族長たる父の命を守り続けたのは、他ならぬスー ハだった。  父はイーハを大層可愛がって常に傍らに置いた。しかし私には気持ち悪いとしか思えぬ男だった。父を 狙う凶手を斬殺したあの夜の光景が脳裏に残っているからかもしれぬ。息子の私...
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