*9が指定したカプ・シチュに*0が萌えるスレまとめ@ ウィキ内検索 / 「26-949-2」で検索した結果

検索 :
  • 26-949-2
    セクサロイドとインキュバス 彼は寂しそうに見えた。少なくとも、そのような外的特徴を備えていた。 伏せた目。物憂げな眉。血色の悪い頬。丸めた背。 目があったので話しかけると、しばらくして「ああ」と得心の声をあげた。 よくある反応だ。そして、その次の反応は大抵、私に用がある場合とない場合で大きく異なるのだが、 彼の場合は前者であったらしかった。 私は需要があったものと判断し、彼と共にしかるべき場所に赴いたのだった。 「ばっか、ばっか、馬鹿じゃねーの!? なんで俺がやられる方だと思うのさ、それも男とかねーし!」 挿入の直前で拒否され、私はその機能を一時停止した。 「誘ったのはお前の方だろ? 俺のセックスに興味があるって言ったじゃないか」 「そのしゃべり方もやめろ!気色悪い」 「……そういうご要望でしたので。男らしくやってみろ、と最初に」 「できるのか、って言...
  • 26-949-1
    セクサロイドとインキュバス 何かなァ、と彼はベッドにうつ伏せて呟いた。横たわった僕のすぐ横に、端麗な横顔が来る。 色の薄い髪の先が滑り落ちて、尖り気味の耳が露わになる。剥き出しの背には蝙蝠のそれに良く似た翼がぱたついて、いかにも退屈そうだった。 「オマエとしても、あんまりキモチヨくないんだよなァ」 そう言われると、僕としてはどうすればいいか分からなくなる。 黙り込む僕の方に顔を向けて、彼は悪戯っぽく笑った。僕が惑うのを楽しむように。 「オマエ夢見ないだろ。オレとしてはソッチがフィールドだからさ? 生身ってナンか変なんだよ」 「……そうでしたか」 「ま、しょげんなよ。へばンない相手は久しぶりだったしさァ」 伸ばされた手に頭をぐしゃぐしゃされながら、伝えられた不満を解析して、どうにかできることがないか考えてみる。 暫しの沈黙の後、やがて一つ、いいことを思いついた。 ...
  • 26-949
    セクサロイドとインキュバス また、夜が変わった。 ほんの一眠りしてる間、加速度的に世界は人工の光で満たされていく。 以前は赤や緑など雑然とした色にまみれていたが、今はただ青く白く統一され、どこか病的な印象を受ける。 あれからどれほどの時間が流れただろう。なんにせよ、目覚めたということは餌が必要になっているということだ。 感覚を広げ、ややあって一つの魂を見つける。好都合にも近くに他の反応はない。 さっそくその場に跳躍すれば、瓦礫とともに一人の若い男が横たわっていた。 浮浪者だろうか、酔いどれだろうか。そういう類の者にしては身なりは整っているように思える。 しかし、そんなことは久々の食事にあっては瑣末なことにすぎない。端正な上物とあってはなおのことだ。 「さあ、お前はどんな夢を望むんだろうな……?」 女か、それとも男か。無意識に潜む理想の姿を探ろうとする。 しかし...
  • 8-949-2
    ジャイアニズム 分からないのか? 分からなかったよ。 気付かなかったのか? 気付かなかったとも。 君が名残惜しそうに語りかける。その声は弱弱しく、全てを悟り、諦め きったように奥底に響くので、小心者は居た堪れなくなり、傲慢だった 君の昔の面影を、ついどこかに探してしまう。 そもそも君は、僕から分捕った本をまだ返してくれてはいないんだ。 あの時のゲームソフトはどこへやった。壊したプラモは壊れたままか。 君の前で、僕はてんで意気地の無い子供だった。粗暴で凶暴、恐怖 政治の暴君に、逆らえる奴などいなかった。君の素顔に、君の心に 近付ける者はいなかったのだ。少年時代は取り返せない。それは きっと、かけがえのない時間だったに違いない。 僕の体をどうどうと、潮騒のように血液が巡る。繰り返されるその流れ を支配するのは、中央付近に宿るこぶしほどの塊だ。どくり...
  • 4-949-2
    籠の鳥 「逃がしてあげるよ」 彼はそう言って、ふわりと笑った。 弟が生まれたのは俺が5歳のときのこと。 初めて弟を見たのは病院の厚いガラス越しだった。 透明な箱の中の沢山のコードが繋がった小さな赤い体。 「優しくしてあげてね。守ってあげてね。」 大好きな母の擦れた涙声。 弟は、心臓に欠陥を持って誕生した。 医者は弟が生まれたその日に、弟の余命を告げる。 「お子さんは、成人を迎えることはできないでしょう」と―――。 母が退院して家に戻ってきても、弟が家に帰ってくることはなかった。 母は毎日病院に通い、俺も週に何度かは付いて行く。 自分一人で通える様になった小学校高学年には、学校の後に病院へ行くことは日課になっていたが、中学へ入ると同時に母の薦めで塾へ行き始め、会いに行く頻度はまたすくなくなった。 「お兄ちゃん、最近来てくれる回数減ったね。...
  • 6-949
    自覚なしストーカー 「あいつまたコンビニ弁当」 心配だ 「おいコンビニ弁当食ってるのか」 すると驚く男 「何で知ってる」 「そ、それは・・・」 ダッシュで逃げる、俺は怪しいと思われた? 怪しくないからむかつく 家に先回り。すると男が来る 「俺は怪しくない」 「何で家知ってるの」 えっ・・・そういえばなんでだ・・・? 俺様受の告白
  • 16-949
    魔王に育てられた勇者 彼は世界の運命を変える力そのもの。 彼の背中に印が浮かび上がる時、彼は闇を滅ぼす強大な存在となる。 だが、闇の生け贄になれば最後、逆に闇の力を増大させてしまう。 生まれた日に両親は闇の王に殺され、赤ん坊の彼は簡単に奪い取られてしまう。 王は印が浮かび上がる時まで、よけいな考えをうえつけられぬよう、 彼を隠して大切に育てた。 人々は、彼は両親と共に殺されたものと諦めていた。 彼は何も知らぬまま、いつしか精悍な顔だちのの青年になる。 そして人の姿に化けた王だけが彼の全てだった。 「僕はとうとうあなたの背を越えました。でもあなたは昔と全く変わりませんね」 「私は歳をとらない生き物だからね」 「僕は違うんですか? あなたと僕は違うんですか?」 「お前は最近、何でも不思議がるな。これだから人間は」 王は困ったように彼の頭を撫でる。本当に...
  • 9-949-1
    妻子持ち×変態 散る火花、電動ドリルの回転音、荷を積載して行き交うトラックの軋み、砂埃、 天を突く事を恐れず真っ直ぐ伸びていくクレーン車の腕が、白日の空には余りに 不調和に過ぎる黒い鉄骨を高々と吊り下げる下で、労働者達の怒号が交差する。 決して気短な人間ばかりではないのだが、種々の工程に付随した騒音が 鼓膜を刺激しない建設現場など未だ有り得ず、スピード、効率を高めることに腐心する 人々は拡声器を握り締め、腹の底から大いに声を張り上げる一方で、かつ瓢箪型を した小さな耳栓に世話になりもした。 作業音に限らず、どんな職場にも耳を塞いでしまいたくなるような害音は存在 するもので、特にそれが人の喉から発された聞くにも耐えない言葉であり、己が身を おびやかす予感すら匂わせていた場合、鉄拳の一つも見舞いたくなるのが 人情というものだ。決して、自分は気短な性質ではなかったは...
  • 8-949-1
    ジャイアニズム 「お前のものは俺のもの」 とか言って上に乗っかって咥え込んでくれるのは大変うれしいんですがね? 俺もお前のを触ったりとか、イタズラしたいわけですよ。 なのになんで 「俺のものは俺のもの」 って怒るわけですか?とろけそうな可愛い顔してるくせに。 自分で弄ってないで俺にも触らせろ。 抗議の言葉に返ってきたのは、キッツイ締め付け。 「だ~め。今日は俺が王サマなの」なんて、すっげ色っぽい目をして言うな。 俺様の超我がままジャイアンに、うまうまと翻弄させてる自分が情けない。 ジャイアニズム
  • 2-949-1
    アナログ×デジタル 「お前もこだわるね」 「気持ちの問題だ」 その冷たい口調のどこに気持ちがこもってるんだか。 ひっそりとそう思ったものの、口に出せば間違いなく怒られるから、 デジタルはそれ以上の言及をやめ、アナログに背を向けて画面に向き直った。 まだ自分の作業も終わってはいない。 ふたりがやっているのは、暑中見舞いの作成だった。 年齢と共に付き合いも、住所や名字の変わる相手も増えたせいで、 デジタルなどは面倒でパソコンでの作業に移行してしまったのだが、 アナログはいつまで経っても手書きにこだわる。 年賀状も同様で、葉書の売り出しと同時にコツコツと書き始めるのだ。 仕事では使ってるんだから、パソコンの使い方が分からない訳でもないのに。 住所録のチェックを終えたデジタルは、ひょいとアナログの手元をのぞき込む。 ...
  • 4-949-1
    籠の鳥 今日こそは、と意を決して誘った居酒屋。 酒の勢いを借りなきゃ告白ひとつできねぇ俺は最低だが、この際しょうがない。なるようになれ、だ。 だけどなぁ、おい。 隣でこいつは浴びるように酒を呑んでばくばく食って、楽しそうにしてやがる。 甘さはかけらもありゃしねぇ。俺の一大決心は木っ端みじんだ。 選択ミスなのはわかってるがなぁ、だって俺らに、バーだのフレンチだのは似合わねぇだろ? でもなぁ、これは。 「あれ?おまえ全然飲んでねーじゃん。ワリカンなんだからさ、イけよ」 「……あぁ。」 「なぁなぁ、これ気にならね?『籠の鳥』だってよ。オシャレだなぁ」 「……どーせ焼鳥かなんかだろ。虫籠とかに入った」 「ぷっ、なんだよそれムードねぇ」 お前にゃ言われたくねぇよ、と心で毒づく俺を無視して、奴は声を張り上げる。 「おねーさーん。『籠の鳥』で!お願いします!」 おい...
  • 27-949-1
    年下×年上 ケンおにいちゃん、おてがみかいたよ。 ひらがな、もうぜんぶかけるから。よみます。 おにいちゃん、いつもあそんでくれてありがとう。だいすきです。 これからもずっとおともだちでいてください。 え、まちがえてないって。どこ。 ……あ、ほんとうだ。「ち」が「さ」だね。あはは。 ※ あ、ケン君。 中学校どう? やっぱいそがしい? ……そっか。いいなー、おれも早く部活したい。 なんだよ、おれが小学生だからってバカにしてるだろ! どんなんかくらい分かるよ、姉ちゃんだっているんだし。 じゃ、頑張ってね、応援してるから。 ……時間、あったらでいいから、おれともまた遊んでよ。 ※ ケン先輩。 あ、えーと、うん。はい。 おれもサッカーやりたかったんです。いいじゃないっすか。 ちゃんと真面目に練習するんで、教えてください。よろしくお願いします。 ……そ...
  • 20-949-1
    そんなつもりじゃ無いんだけど 「だから、そんなつもりじゃ無かったんだってば」 さっき二人で歩いている時、不意に女の子を目で追った。追ってしまった。 何も意識は無かった。多分。 「……お前さあ」 つりあがった目をさらにつってギロリと俺を睨む 「お前さあ、俺に無いモノ求めるのやめてくれる。じゃあ、女にすればいいじゃんってさあ」 思うじゃん。 バツが悪いのか、はたまた俺の目もつりあがったのが判ったのか、 うつむいたまま絞るように付け足した 「だから、そんなつもりじゃなかったって言ってるだろ。町中の人間誰も見ちゃいけねーのかよ」 「そんな事……」 大きな声で半ば逆ギレみたいになった自分をひそかに反省する。 判っている。俺は男も女もいけるクチだから、俺もこいつも何か焦ってるんだ。 二人とも黙ってしまう。 何て言えば、ナカヨ...
  • 23-949-1
    炎使い×風使い やあみんな!部長だよ!趣味はサークルで女の子と遊んだり女の子と遊んだり女の子と遊んだりすることだよ!それともう一つ、おれのマイブームをご紹介するぜ! 我が愛しい部室に入ると、火村が退屈そうにスマホをいじっているぞ!風谷と一緒じゃないとは珍しいな!こいつらこの間の焼肉でやっとくっついたっぽいからな!おれが気を利かせて2人にしてやっただけあるぜ。 「おーす!風谷は?」 「買い出し行ったよー…あーヒマだわー、部長面白い事言ってー」 おぉーっとネタ振りだ!これは期待に応えなきゃな!それでは渾身のネタを一発! 「お前と風谷ってもうセックスした?」 「っ⁉ぶほ‼ゲホッ‼」 おお、むせてるむせてる☆ 「いやー!まぁお前ら2人が仲いいのは全然良いけどね?サークルの企画もお前らのおかげで最近充実してるし」 「げほ…部長には関係ないだろ…ほっとけよ」...
  • 9-949
    妻子持ち×変態 通話を終了して携帯電話をテーブルに置く。と、ベッドの方からくぐもった声がした。 「奥さん?」 「……起きてたのか」 「気ィ失ったままだと思ってた? あ、だから普通に喋ってたんだ」 毛布にくるまったまま、にやにや笑っている。 「なんでこの時間に電話……ああ、今の時間って会社の昼休みか」 「……」 「奥さん何の用だった?今日は早く帰ってきてね、ってラブコール?」 「お前には関係無い」 「まさか旦那が仕事抜け出して昼間から男を抱いてるとは思ってないだろうなぁ」 睨みつける。 しかし悪びれた様子もなく「俺なら夢にも思わない」と頷いている。 「ねえ、奥さんからの電話が十二時過ぎにかかってきてたらどうしてた?」 「知らん」 「ヤってる最中でも誰からかは分かるよね、着メロ違うから」 「……いつから起きてた」 「もし今度そういうシチュエーションにな...
  • 19-949
    剣の刃を渡る 「今度はスパイだって?随分と無茶をするんだな」 部屋から出た瞬間、そう話しかけられた。 「ええ、まあ任務ですから」 にこやかに答えると、目の前の男は大きく肩をすくめる。 「いくら百の顔を持つあんたと言えど、さすがに内部調査は危険だろう」 「そうですね…もちろん覚悟の上です」 「これはこれは。素晴らしい忠誠心だ、尊敬するよ」 まるでお手上げだ、とでも言うように男は笑う。 「当然のことですよ」 自分も笑いながら対応する。 「では、私は準備がありますので」 そう言いながら背を向けると、トン、と背中に硬い物が当たる感覚がした。 「…なんの真似です?」 後ろを振り返らず、冷静な声のまま尋ねる。 「はは、流石だな。もうとっくにスパイのあんたがこんな物にビビるわけねえか」 先程と変わらないトーンのまま男も続ける。 「分かってるだろ?俺はあんたの正体...
  • 7-949
    「お腹すいた」 三日連続で水のみの生活だ。 よくテレビ番組で「一ヶ月で一万円生活!」なんてやってるけど、 俺のように水道代だけかけて、一週間に四日(それも一食ペース)食えるか食えないかの生活をしていれば 余裕で達成できるのではないだろうか。 すぐ近くで列車の走る音が響き渡る。 家賃一月三万のアパートはその大きい音に驚いたかのようにがたがた揺れた。 田舎にはもう二年くらい帰っていないし、親と連絡を取ったのも半年前になる。 身体を汚い畳の上に転ばせ、天井を睨んだ。 故郷には何があったっけ? 青くて澄んだ空と静かな夜と、この季節になるとそこらじゅうの農家の畑に野菜が実った。 子供の頃はよく近所のおっさんにトマトをおやつ代わりとして一つ貰った。 そのトマトは村でも一番と言われたくらい、真っ赤でつややかで、熟れていて、かじると大量の汁が顎を伝って落ちた。 また暑...
  • 2-949
    アナログ×デジタル 「……あ」 騒がしい教室ン中であいつの小さな呟きが妙に大きく聞こえた。 普段話すこともない、でも妙に目を引くあいつ。 困ったような諦めたような表情で懐中時計の文字盤を眺めている。 懐中時計って時点でまずありえない。 おまけにケータイも持ってないらしい。 パソコンももちろんないらしい。 たまに休み時間に万年筆で手紙を書いていたりする。 聞いた話によるとメールの代わりなんだとか。ありえなさすぎ。 「どした?」 声をかけると驚いたような表情で振り返った。そりゃあ驚くかもな。 多分同じクラスになってから初めてだ、話すの。 「ねじを巻いておくのを忘れて、今見たら時計が止まってた」 こいつの時計は電池式ですらないらしい。 とりあえず腕に巻いていた時計をはずして渡した。 ...
  • 1-949
    ヘタレ攻めと健気受け 触れたいと思いつつ、触れられない攻め。 お互いの気持ちは分かってるつもりなのに、 『何か』が怖い。 それは変化か、更なる思慕か、未来か。 けれど、その瞬間を長い間待っている受け。 でも、その瞬間が来なくとも 恋しく思うだけで幸せだと思う。 お古のディスクトップパソコン×最新式ノートパソコン
  • 8-949
    ジャイアニズム 友達は選べという言葉があるが、俺は思う。それができれば苦労はしないと。 「とにかく、今度という今度は絶対に別れてやる。もちろんこの公演を俺の実力で  大成功させてから、だ」 「…ああ、うん。」 気のない返事がお気に召さなかったのか、目の前の美青年は蹴るように席を立って 恐ろしい形相で俺を睨み降ろした。俺は怒号を覚悟し無意識に眼鏡を押さえたが 予想に反し、テーブルの上に大量の紙資料がぶちまけられただけだった。 「わかったら、お前はさっさとこれを翻訳しろ。今夜中に」 「ええ…!?い、いや、いくらなんでも今夜中は…これから打ち合わせもあるし」 「てめぇの仕事は何だ?言ってみろ」 「え、あの、音響監督……」 「舞台の成功のために全能力をフル活用して献身することだろ!?主演俳優様が  演技のために必要な資料を用意しろっつってんだよ、最優先事項だろう...
  • 4-949
    籠の鳥 「よくいらっしゃいますねえ」 苦笑いをしながら彼が紅茶を持ってくる。 盆の上には二つのカップと砂糖の瓶と、俺の手みやげの小さいケーキが二つ。 「こんなに『息抜き』ばかりされていては、おしごと進まないでしょう」 ふふ、と笑う。カップと砂糖瓶とケーキの皿を俺の前と自分のソファの前に置き、ぽふんとそのソファに彼は座った。 上等なソファ。ソファだけでなくこの家、部屋の中にある調度品はみな一級で品がよくどことなく古びている。 「いいえ、進んでおりますよ。出来上がったらまずあなたにお見せします」 「はは。先生を抜かして僕ですか」 彼の柔らかい質の髪が午後の光で透けるように光っている。 「それは、怒られてしまうな。先生に」 彼は俺と目を合わせないように、けれど俺の方を見ながら言った。 彼は上等な、仕立てのよい、地味なシャツを着ている。 地味だけれど値のはる、おそ...
  • 5-949
    萌えながら踏まれます…いやん、もっと強く踏んでぇ・・・_| ̄|○ 「踏んでください」 人並み外れたイイ面(こういうのを美貌っていうんだろう)したコイツに こんな真っ直ぐ見つめられたら、 女なら誰だって顔を赤くするだろう。 そうさ、例え平々凡々なヤツでも、そんでもって男でも、 絶対見とれるに違いない。 ……だから、オレがちょっとぐらいウッと詰まるのは、当然なんだ。 しかもヤツはあれだ、いわゆる土下座というやつをして、 マヌケ面で突っ立ってるオレを、じっと見上げてくる。 まるでおあづけを食らってる犬だ。実家のポチにそっくりじゃねぇか。 だけどオレは、ヤツを笑えなかった。 おかしなシチュエーションだってことはオレにだってよく分かってる。 どうせそんな目でオレを見てるお前だって、 オレのこと、バカ面さげたアホなヤツだなんて思ってんだろ? 「俺のこ...
  • 26-749-1
    難聴(ラノベ主人公的意味で)攻め すきだ、って南が言った時聴き間違いだと思った。「酢来た」とか「鍬だ」とかの。 日常生活でまぁ仮に今と同じ月9に出てきそうなこじゃれた夜景の見えるバーかなんかでなんで男2人でいるかっていうともちろんナンパなんだけど、例えば食事と一緒に酢が来て「酢来たよ」とか言うシチュエーションは日本中どこかにもしかしたらあるかもしんないけど「鍬だ」っていつ言うかな。 中学生が日本史の資料集開いて先生が日本の稲作の歴史を紐解きながらこれが「鍬だ」とかはあるだろうけど、鍬かついだ農民がバーになだれこんできたり、 実は今食ってる野菜スティックはバーテンダーが家庭農園で精魂こめて作ったもので、俺がバーテンダーにこの野菜スティツクうまいっすねって言ったらカウンターの下から鍬を出してこれで週末耕してるんですよーって言って南が「鍬だ!」って言っていや俺は何考えてるんだろう...
  • 6-909-2
    今日で五年目 朝起きて、何も変わらない部屋を見渡して、ああすっかり慣れたんだな、と思った。 相変らず散らかっていて汚い部屋だな、としか感じなくなってからもう大分経つ。 妙に広くて寂しいとかそういうことを考えなくなって、もう大分経つ。 顔を洗って、ひげをそって、食パンをかじって、歯を磨いて、寝間着から外に出られるだけの格好に着替える。 今日もバイトだ。未だに僕はフリーターだ。 夢なんか追いかけて馬鹿みたいだと母は言う。僕もそう思う。そう思うけど、まだ踏ん切りがつかない。 あの頃、僕たちはふたりで夢を追いかけてた。目指す方向は違ったけど。 あいつのCDジャケットは僕がデザインするんだとかぬかして、そりゃお前ミュージシャンとデザイナーが 恋人だったら一大スキャンダルだとか冗談を言って笑い合った。 そのあと僕を置いてかれは夢を掴み取った。このおんぼろアパ...
  • 6-549-2
    君の背中で眠らせて 意外にガッシリとした背中。 最近ジム通ってるんだって?周りから聞いたよ。 少し痩せたと思っていたのは絞ったせいなんだ・・・ そんなことすら知らなくて・・・ごめん。 ここのところの俺たちは、なんだか会話がないね。 俺もお前も元々おしゃべりじゃなかったもんね。 それでも・・・それでもどこかで繋がってると・・・ だから眠るとき、お前の背中におでこを寄せる俺に何も言わないでいるんだよね。 お前の心音が聞こえて俺は目を瞑る。 やがて俺の心音も重なって・・・ こうしてひとつに繋がっていたいよ・・・ ここのところ会話もない俺たちだけど、 今はまだその背中で眠らせてほしい・・・ サディズム
  • 6-849-2
    ドアをはさんで背中合わせ 「迷惑だ」 強く言い切った瞬間、彼の目が凍りついた。 「そんな戯言、二度と口にするな。不愉快だ」 向かい合えば少し見上げる彼の顔。 紅潮していた頬が蒼褪めていくのを睨むように見つめる。 「今の言葉は忘れてやる。明日までに頭を冷してこい」 言外にチームを辞めることは許さない、と告げると彼の凍り付いていた瞳がひび割れた。 裂け目から溢れてくるのは苦しみ、怒り、絶望。そして悲しみ。 かすかに震えだした彼のふっくらとした唇から目を逸らし、背を向けた。 そのまま部屋を出て、ただ一人、彼を置き去りにする。 後ろ手にドアを閉めてはじめて、身体が震えだした。 だいじょうぶ。彼の前では冷徹さを保てていたはずだ。 口調も表情も、眼差しさえも揺るぎはさせなかった。 かみ締めた奥歯が、今ごろのようにカチカチ鳴る。 目の奥が刺すように熱く痛む。だが泣くこ...
  • 18-949
    嫌いだったハズのアイツ 角張ったあごにくちづける。髭が伸びてきていて唇を刺す。 この口が嫌みな台詞を吐くたびに苛々させられたことを思い出す。 カンに触ったのは、それが正論だったせい。むかついたのは鋭すぎたから。 「お前が担当だろう」と言ったのは、逃げたわけじゃなく俺の仕事を尊重しただけ。 残業するたびに眉をひそめたのは、安請け合いする俺を気遣ったせい。 わかりにくいんだよ、おかげで異動してきて半年も、お前のことが嫌いだった。 かつての職場は、能率が悪くて馴れ合いがはびこる吹きだまりだった。 お前が新しい風を入れた。能力と、誠実さで。 皆が変わった。最後まで残ったのは俺だった。 おかげで、上にまで火の粉がかかるようなヘマをするはめになった。 すんでのところでお前に救われ、かろうじて事を納めた。 お前は相当のとばっちりだったけど。 屈辱だった。嫌みだと思った。...
  • 10-949
    オンリーワン×ナンバーワン  まるでそれは崇拝のように。  その造形もきわめて美しく、ひととなりは貴く、知性のかがやくあなたは常に 遠い星ぼしのように輝いていた。  私はただ地にあり、それをみあげるだけの存在。  その影に触れるだけでも出来ればと、力を尽くしたところで、ただひとつの才 のみを育てる事も満足に出来ず。しかしそれをうち捨てる事も出来ず。  長く長く、ただひたすら、思いの丈をぶつけるように私は励んだ。やがてそれ は形となり、人の知るところとなり。……それでも私は、満足のいく唯一つを、 見つけられずに。  苦渋と研鑽のさなか、思い悩む私のもとに、あるときあなたはやって来た。  君のその素晴らしい情熱に惹かれました、と。  あなたは、そう言った。  溢れる才気にひとつに留まる事のできぬあなたは、ひとつの事に打ち込み、そ れを創り上げる私こ...
  • 22-949
    女だと思ったら男だった。でもそんなこと知るか! 海岸に多くの群集が集まっていた。群集の視線の先には身分の高そうな若い男性がいた 小さな島が大きな島から攻められた。族長一族はことごとく戦死を遂げた 唯一人の生残りが族長の末の息子の十七歳の少年だった その容姿が島に群生する白ハイビスカスに例えられるような美貌を誇った 少年には手足に枷をはめられている。そして、そばに居た兵士に樽の中へと押し込められた 群集から悲鳴に近い叫び声があがった。樽は封印され、そのまま海に流された 若い二人の男が砂浜を歩いていた焼けた肌にふんどし状の下着一枚 動物の牙をつなぎ合わせた首飾りをし、耳にも大きな飾りを付けている 「ふふん♪ ふんふんふーん♪ 今日もオレ様は元気いっぱいだぜー♪」 「・・・」 「あばんばんばんばんばーん♪ 大好物はイナゴでーす♪ ネズミ肉も大好きー♪」 「見回...
  • 20-949
    そんなつもりじゃ無いんだけど 「まいったなぁ、そんなつもりじゃ無いんだけど…」 ああ、やっぱりそうだ。 普段はバカみたいにニコニコ笑ってばかりいるこいつが 眉毛をハの字みたいにして苦笑いしてるとこなんて、今まで見たことがなかった。 こいつとは2年で同じクラスになってから、本当にいつも一緒にいた。 いや、1年の冬に転校してきて学校に馴染めず、一人でいる方が気楽だったおれを、こいつは独りにしてくれなかったんだ。 たまたま同じクラスってだけなのに、休み時間毎に隣にやってきては話し掛けられ 何を聞かれても的外れな言葉を吃音りながら返すことしかできないおれに、こいつは言った。 「おもしれー!井野ちゃんみたいな奴、俺大好き!」 それ以来こいつは事あるごとにおれに絡んできては、背筋が寒くなるような好意の言葉を浴びせてきた。 「可愛い」、...
  • 23-949
    炎使い×風使い 火村のいつもの突発的思いつきで、サークルの皆で川原に焼肉をしにやってきた。 部長が「火村と風谷は炎使いと風使いにぴったりだな!よし!お前ら2人に火おこしは任せた!」などとほざきやがって女子たちを連れて川遊びに行ってしまったため、火村が炭を組んで火をつけ、俺がこうしてうちわであおいでいるところだ。 火村が隣で「ほら頑張れナウ○カ!風使いの本気を見せろ!」と騒いでいる。 誰がナウ○カじゃボケ。お前火をつけただけじゃねぇか、俺ばっかり疲れる事させやがって…。 こいつはいつもこうだ。火種だけつけてあとは俺に任せ、俺がその火種を大きくする。おかげでサークルの企画も人気が出て、今年は後輩も沢山増えた。 「でもさー、オレがこうしてフワフワしてるお前を連れ出してるおかげで、お前今結構楽しいだろ?」 ニシシ。と、火村が笑う。 そうさ、お前の隣は明るくてあった...
  • 14-949
    耳元でささやかれる 耳元でささやく。 何と多くの可能性を秘めたすばらしいシチュだろう。 王道では恋人同士、図書館とか静かな場所で 「…ねぇ、今日どうする?」 「何、聞こえなかった」 (近づいて)「今日、どこか寄って帰る?」 (くすくす笑いながら)「聞こえないって」 (耳に唇が触れるほど近づいて)「……嘘吐き」 (今度は聞いていた方が耳元に顔を寄せて)「好きだよ」 最後の”好き”以外はごく普通の会話なのに顔を寄せてこしょこしょやってると 萌え度がぐんとアップする!不思議! 次は友達同士。いつもくっついているお調子者たちが A(息を吹き掛ける様に)「なあ…」 B「ひゃ!」 A「ひゃって何だよwひゃってww」 B「Aが変なことするからだろ!」 A「変なのはBだろ!かっわいい声出してさ~」 B「かわいいなんて言ってるAが変だ!」 A「いやB...
  • 25-949
    従者の秘め事 深夜。 屋敷を見回るのは、老齢の執事。 幼い頃奉公にあがり、今では主も3代目。 よく、勤め上げたと己をほめたくなる。 すきま風に体を震わせ、施錠を確認。 異常は無い。 最後に一度、年若い主の寝顔を見て破顔し、そっと離れる。 一番鮮明に記憶に残る、先代と雰囲気が似るようになってきた。 いや、顔立ち自体は、彼の祖父にそっくりだ。 先代が 「なぜ、私を飛ばして父に似た」 と呟いていたのも、覚えている。 懐かしい。全てが。 屋敷で過ごした日々を思い描きながら、執事はようやく、己の部屋へと戻った。 今日の昼には、ここを去る。 少しの心残りも無いように、全てやり終えた。 彼は、寝台の近くにあるテーブルに飾られた、小さな絵を手に取る。 色あせているが、その人は年もとらず、静かに微笑んでいた。 「これが最後...
  • 24-949
    政治家の息子と政治家を志すその親友 いつだったか伊崎が、「梨原は政治家になりたいんだろ?なら俺のオヤジの秘書になりゃいいよ」と軽々しく言ってきた。 たしか大学受験の頃で、真に受けた僕は伊崎の言うまま彼の父へと挨拶を済ませ、彼はその後「オヤジがうるせーから」と僕と同じ国立を志望した。 ギリギリと締め付けられるような受験を終えて桜の下をくぐってみれば、そこにはなんでもないことのように代表挨拶をする伊崎の姿があった。 僕だって割りに危なげなく合格したはずだ、試験後に彼に自己採点を聞いたときには「わかんねえ、つけてねえから」と言っていた。 来賓席には誇らしげに、彼の父親が座っていた。裏口ではないだろう。伊崎は優秀だ。 だからこそ伊崎の父は、あんなにも誇らしげなのだ。 それからは、なにかと構いつけてくる伊崎をかわしながら、僕はやるべきことをやり、学ぶべきことを学んだ。 酷...
  • 28-949
    真昼の決闘 「今日こそ勝つからな!」 「出来るもんなら」 「今日も始まったかー」 昼休みの教室の後ろでは毎日“決闘”が行われる。決闘と言っても勿論物騒な意味ではない。 事の始まりは共に剣道部に所属するクラス一のチビ、小西がクラス一のノッポ、大東に試合で負けたことからだった。 負けず嫌いな小西はそれから毎日昼休みになると掃除用具入れから箒を取り出し、大東に試合を臨んでいるのである。 それを誰かが「決闘だ」と言いだし、今では“二年八組の決闘”は有名になってしまった。 「頑張れよー小西」 それを俺と一緒に教室の隅で眺める南原も剣道部員で、度々小西にアドバイスをしているらしい。 「小西もよく諦めないよな」 「そこはまあ…色々あるんじゃない?プライドとか、三年になったらこんな事もしてらんないだろうし」 「三年になるまでに、ねぇ」 タイムリミットはすぐにや...
  • 17-949
    場末のカラオケ店、夜勤店員の憂鬱 「暇っすね」 「そうっすね」 「世間じゃクリスマスだ忘年会だって言ってるのに、この店大丈夫なんっすかね」 「さあ、どうせバイトだし」 「あーあ、今年も一人かぁ」 「この分だと来年も一人かもな」 「何かいい事無いかなぁ」 「無いだろうねー」 「世知辛いなぁ」 「世知辛いねぇ、つかマイクの充電終わった?」 「ん?まだみたい」 「っておい!どこ触ってんだよっ!」 「おおっ、こっちのマイクじゃなかったか」 「下ネタかよ」 「意外と大きいね」 「うるせぇ」 「宝の持ち腐れかぁ」 「腐ってねーし、つか揉むな」 「いいじゃん暇だし」 「意味わかんねーよ」 「あ、硬くなってきた」 「やめろよバカw」 「お前のコレあったか~い」 「自販機かよ。つかマジやめろヤバイ」 「えっ嘘?早くね?」 「溜...
  • 21-949
    かみさまに出会った夏 まだ俺が夢見がちなガキだった頃、祖父母の住む田舎で「かみさま」に出会った。 「おや、初めて見る顔だね。他所の子かな?」 人気のない浜辺でぼんやりと潮風に当たっていると、不意に話しかけられた。 強烈な日差しの下にあっても、透き通るように白い肌。スラリとした身体に、海と同じ色の着物。 そして、中性的で整った顔立ち。 その人のあらゆる面で現実離れした出で立ちと、田舎という非日常空間にいることの興奮とが ないまぜになったせいだろうか、俺は一目で信じ込んでいた。 「あんた、神様ってやつだろ?」 思わず口にしていた問い掛けに、その人は一瞬面食らったような顔をしたあと、 「そう見えた?」 そう言って、悪戯っ子のように微笑んでみせた。 それから毎日、朝から浜辺に駆けていった。その人はいつもそこにいて、日が暮れるまで二人で過ごした。 ある時は...
  • 26-929-1
    憎いはずなのに 俺が殺したかったアイツが切られて、嵐の海に落ちていく。 それを見た瞬間、俺は反射的に荒れた海に飛び込んでいた。 何をやってるんだ……。 嵐の海で意識のない人間を抱えて、岸まで泳げるのか? 第一憎んでいた相手を助けようとするなんて、自分で自分が分からない。 それでも動いちまった以上はやるしかなく、必死で俺は岩場まで泳ぎついた。 息も整わぬまま気を失った奴を引きずり岩場を上へ上へと歩き、波の届かない岩の隙間を見つけて中に入りやっと一息つく。 薄暗い中で奴の上半身から濡れた服を剥ぎ取り、絞ってそれを包帯代わりに腹に巻き付け止血を試みた。 思っていたより傷口は浅く、これで何とかなるかもしれない。 初夏だが濡れて体温を奪われ身震いした俺は、仕方なく意識のない奴を抱きしめる。 いつも余裕の冷笑を浮かべている顔は血の気を失い青ざめていたが、整っていて人間離れし...
  • 26-979-1
    ツンケンしてて恋愛にも淡白そうなのに本当はどうしても手を繋ぎたい年下攻め とうに日は落ちて、息が白く煙る冬の夜。 4つ下の幼馴染(男)が黙々と隣を歩いている。 俺は大学帰り、こいつは部活帰り途中の駅でばったりと遭遇した。 別に隣同士なうえ付き合いは長いから、一緒に帰ることに違和感はない。 ただ、この沈黙がひどく痛々しいのは、何の因果かこいつと付き合うことになったからだ。 きっかけは、俺の家でゲームで対戦してた時のことだ。 どうだー高校生活はーとか彼女はできたかーとか、そんな話題をうざがられつつふっていた。 「女とか興味ねーよ。あんたや友達と遊ぶ方がまだ楽しいし」 「そうなの? 俺はおまえくらいのときは結構楽しんでたけどね。  授業抜け出してさ、こっそり屋上とかで……」 言ってから自分の失言に気付いた。 俺はこいつが通ってる学校のOB、そこはれっきとした...
  • 26-919-1
    ブルーカラー×ホワイトカラー 蒼、蒼、藍色瑠璃の色。 濃淡様々な青色が、空と海とを描き出す。 一見冷たい印象を抱かせるその色が、暖かみを得るその一瞬が、他の何より好きだった。 「青」 一息ついた背中に声をかける。キャンバスに向かっていた青い瞳がこちらを移し、明らかな喜色を孕んでみせた。 「白」 その笑みに微笑み返し、俺はキャンバスの前まで歩みよる。 「見事なものだな」 巨大なキャンバスを目の前にして、俺は言った。すると青は少し照れたようにしながら、あの人に捧げるものだもの。と胸を張った。 1ヶ月後の今日。俺たち色は、全てを作りだして下さった方に会う。それは一年に一度のお祭りで、その時俺たち色は、全員で協力して描いた一枚の絵を、あの方に捧げる。中心となる絵は毎年変わるが、今年は青が、その大役に就いていた。 「見事なものだな」 空と海をとっくりと眺め、もう一度、俺...
  • 26-049-1
    いい声の人 「好きだ」というのが、彼の最高の褒め言葉だった。 曰く、他人には文句のつけようのない誉め方、らしい。 す、の時にすぼめる口。き、でこぼれる形の良い歯。 滑らかで心地の良い低音が僅かに上ずる瞬間。 ずっと横で見ていたから、あの満面の笑顔と一緒に覚えてしまった。 旨い料理を、広がる絶景を、美しい音楽を、咲き誇る花を。 最高のものを、彼は「好きだ」と評価する。 上ずった低音の、嬉しそうな声で。 その声が隣の平凡な僕に向くことはない。 そう、思っていた。 「好きだ」 すぼめる口は見えなかった。こぼれた歯も見えなかった。 声の上ずる瞬間なんて、感じている暇もなかった。 耳に湿った温もり。息の音。 背中には僕より少し大きな手。 「な、んて・・・」 ひっくり返りそうな、無様な僕の声。 「好き、って何が、を・・・?」 面食らった僕を抱きしめたま...
  • 26-349-1
    好きになりつつあるけどまだ好きじゃない おはようごさいますと言って入室すればおはようと返ってくる。 それが普通なのだと気付いたのはここに転職して二週間後のことだった。 以前の職場では無視・舌打ちが当たり前で、挨拶は不要なものだと入社三日で理解していた。 他にも特有の社内ルールはいくつかあり、 それに適合できなかったため、追い出されたのだった。 今の職場では正社員ではない。 そのため出勤時間は十時と遅く、社員が全員揃っている中で入室しなければならなかった。 ここに来て半年経つものの、軽く咳払いをして深呼吸をし、 心の準備をしてからでないとドアノブを回せない。 最初は緊張しているからだと思っていた。 しかし、二ヶ月三ヶ月と過ぎ、嘱託職員でありながら 有志飲み会の固定メンバーになってしまうほど周囲と打ち解けた今、緊張はないだろう。 固定メンバーの一人で...
  • 26-849-1
    両片想い 先輩は有能な営業マンで上司にも部下にも厚い信頼を得ている 俺は気さくで仕事にひたむきな先輩にすぐに懐いて…恋情を抱いた そうしてみると途端に真っ直ぐに尊敬の眼差しを向けてきた事が恥ずかしくなった 先輩には奥さんがいる 先輩はあまり話したがらないけれど、絶世の美女とだけ言っていた 「俺の眼鏡どこにある?」 「童顔隠しの伊達なら給湯室にありましたよ」 「…お前生意気だぞ」 大丈夫、先輩の幸せを壊すつもりはない 俺は後輩として先輩を尊敬してるんだ 俺には男前の部下がいる たまに生意気だが素直で仕事の覚えも速いいい部下だ 「甘党な先輩にケーキのストラップ買ってきました」 そういって面白半分に買ってくる乙女チックな物が年々溜まっていく 「あなたって意外と乙女なのね」 そうレズビアンの妻から笑われる 相手はストレート、しかも直属の後輩...
  • 26-939
    陰間の恋 「お前は本当に可愛いね」 初会の時から会うたびに囁かれるその言葉が、今ではもうただの世辞でしかなくなっているのだと分かっている。 この人と出会った頃は顔や体つきにまだ辛うじて残っていた幼さは、今ではもうすっかり消えてしまった。 飯を減らしても背が伸びる。朝晩抜いてもひげが生える。子供から男になってしまった自分が陰間でいられる時は、もう長くはない。 それとも陰間を辞めるよりも、この人に世辞ですら可愛いと言ってもらえなくなる方が早いのだろうか。 「旦那様……」 それでも少しでもその時を遅らせたくて、作った高い声で上目遣いに呼びかければ、その人は苦い顔になった。 「今日も私の名を呼んではくれないのかい?」 申し訳ありませんと謝るのも白々しい気がして、何も言えずにただうつむく。 他の客ならばいくらでも求められるままに名を呼べる。一夜だけの恋を捧げて、朝になれば忘...
  • 26-969
    シャチ×シロナガスクジラ 「きみはほんとうにすごいね」 そう言うと、彼はぎらぎら光る眼で僕を睨みつけた。 「てめえが弱っちいだけだろ、でけえナリして」 今際の際ですらいつもと変わりはしない口調。 「俺らはなんでも食うし、なんでも殺す。知ってただろ、てめえだって」 そうだね、と口に出そうとして掠れた息だけが漏れた。 血という、僕にはあまりなじみのない赤色がそのあたりに広がっている。 この色が赤だということは、彼が教えてくれた。 深い青の中で、僕はぬぼーっとその無駄に大きな体を漂わせつづけ、彼はいつでも悠然とそして俊敏にその黒い姿態を動かしていた。 その姿はまさしく僕の理想で、僕の欲しいもので、暗い世界で唯一の光だ。 いつまでも。 敵だと知っていても、その光に触れていたかった。 「お前の敵は、いつでも俺だけだ」 「うん」 「お前が死ぬのは、お前が弱くて、俺が...
  • 26-959
    泣くなよ ばか、泣くなよ、こっちも悲しくなるだろ。あきらめよう。 いやいや、待てって、そんなに泣くなって、悪かった。 長い人生、こういう日もある。風が吹くと桶屋が儲かる。 桶屋儲かってよかったよね。人生いいこともあるってこと。 え、棺桶?……そうなんだ。悪かった、そうじゃない。 人間万事塞翁が馬。じいさんが馬になることもある、何が起こるかわからない人生。 今日はこんなに最悪でも、明日はいいことがある。 ……だーかーらー。泣くなよ、俺また悪いこと言った?……あ、そう。ごめん。 困った、俺どうしたらいいんだろ。 もう酒は飲まない。飲み過ぎない。 夜は寝る。早寝する。徹夜、アンド、飲み過ぎ。これ最凶だった。まじ覚えてないもん。 ……また。泣くなよ、鼻かむ? これ、ティッシュ。 ちょ、やめろ、それ俺のシャツ! うわ、俺、どうやって帰ればいいの。 痛い、蹴るな、わ...
  • 16-049-2
    夜桜 夜を迎えた桜の庭にふらりと顔を出しても、縁側で手酌する家主は表情を変えることさえしなかった。 勝手に俺は隣に腰を下ろし、家主は徳利と空いた杯を寄こす。それが挨拶の代わりとなった。 そのまま互いに一人酒を続けるようにただ黙々と酒を注いでいたが、 先に一本呑り終えたので、俺の方から口を開くことにした。 「盛りは過ぎた。風も出ている。おそらく桜は今晩で散ってしまうのだろう」 「そうかもな。わざわざ人の家の庭にまで押しかけて呑もうとする酔客も随分と減った。  あとは、もうおまえぐらいのものだ」 もっともおまえは季節を問わず押しかけてくるがな、と淡々とした調子で家主はぼやく。 その物言いの底にあるくすぐったくなるような親しみは、おそらく俺だけが感じとれるものだ。 近所ではこの家の桜は評判で、満開の頃には昼夜問わず花見目当ての客がやってくる。 しかし、少しずつ花が若...
  • 7-149-2
    今年の紫陽花は何故か青い 「これ、一緒の買おうよ」 そう言われたのは確か、大学二年の夏だったと思う。 二人で出掛けた神社の縁日で恵介にそう誘われて買った指輪は、つけるのが恥ずかしいほどチャチな作りだった。 どう贔屓目に見ても子供の玩具にしか見えないそれは、けれど当時の俺たちにとって確かに宝物だった。 安っぽく、下品な輝き方をする、ギラギラしたアルミの指輪。 それを人気のない陰で、結婚指輪か何かのような慎重さで互いの指に嵌めあったのを覚えている。 頬を真っ赤に染める恵介にその場で口付けて、「ずっと一緒にいような」と囁く。 それにこくんと首を頷かせる彼をきつく抱きしめて、もう一度、今度は深いキスをした。 ――大抵のカップルは、自分達に終わりがあるなんて予想していない。 俺たちも当然その例に漏れず、この指輪を外す日が来るなんて事は夢にも思っていなかった。 ...
  • 5-149-2
    会場まで行ったのにキャンセルかよ! 「会場まで行ったのにキャンセルかよ!俺、すげー虚しくねえ?」 『ごめん!本当にごめん!!朝、急にクレーム入っちゃって…午前中に処理出来ると思ったんだけど長引いて。本当にごめん!!』 「あー嘘、嘘。だーいじょうぶだって。映画なんて一人でも見れるしさ。こっちは気にしなくていいから、お前はちゃんと仕事しろ。給料分きっちり働いてこいや」 『ごめん、本当にごめんな、ヒロ。今度絶対埋め合わせするから』 「おう。たっかいもの奢らせてやるから覚悟しとけよー?」 『うん。何でも喜んで奢るよ。……ヒロ、好きだからね』 「……俺も好きだよ、ユキ」 携帯の通話を切ると、つい溜め息を吐いてしまったた。 一体何度目だろう、ユキの仕事でデートがなくなるのは。 目の前にあるのは小さな映画館。 お互い学生の頃は二人でよく来ていたけれど、今年度に入って...
  • 26-249
    月と太陽 「なんで、俺がすると裏目にでるんだろうな。」 月の光は、太陽の光を反射したものだ。 同じ光でも、月を通すと、人々は狂気に走る。 「いいじゃん、月はただ愛でられてれば。」 太陽は やさしく俺を包み込む。凍える肌に彼が触れる朔明けの喜びと虚しさ。 そう、俺は何も生み出さない。 地上の生きとし生けるものを愛し、育む太陽とは違う。 そして、その愛を拒絶することも、叶わないのだ。 人外×人
  • @wiki全体から「26-949-2」で調べる

更新順にページ一覧表示 | 作成順にページ一覧表示 | ページ名順にページ一覧表示 | wiki内検索