*9が指定したカプ・シチュに*0が萌えるスレまとめ@ ウィキ内検索 / 「3-769」で検索した結果

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  • 3-769
    またもう一本煙草に火をつけるのは、忘れることを習う為 暗闇の中にあってなお浮き上がるような黒髪。 淡い茶色の瞳。薄い唇。 「愛してるよ…」 耳朶に唇を寄せて囁くと、受はふと息を呑み、俺の肩に手を這わせた。 やがて訪れる開放感。 呼吸を整える暇さえ惜しんで深い口付けを交わす。 「僕もあいしてるよ…」 離れた唇がその言葉を紡いだ瞬間、俺の世界が壊れる音がした。 闇に慣れた目に映るのは、褐色の髪。 淡い緑の瞳。淫乱さをかもし出す小さく厚めの唇だ。 「…ひどいや。殴ることないのに」 恨みがましい、癇に障る声。 「あいつはそんな事言わねえんだよ。そんな目はしねえんだよ。 おまえは違いすぎんだよ!!」 もう一発殴って、ベッドから転がり落ちた淫売の腹を蹴る。 ベッドに腰掛けた体勢からとはいえ、腹に入ったその蹴りは相当効いたろうに 淫売野郎はゲタゲタと狂った...
  • 3-769-1
    またもう一本煙草に火をつけるのは、忘れることを習う為 唐突に目覚めたばかりのような奇妙な感覚のまま呆然と立ち尽くしていた僕は、今 何をしようとしていたのだろうかという疑問からとりあえず片付けることに決めた。 ぼんやり立っている周辺を眺めてみるが、どうも見覚えがない。生活感がないを通り越して 廃墟のような多分部屋らしき場所に僕は今いる。どうしてこのような場所に立っているのか。 一歩足を踏み出してみると、剥き出しになった配線やパイプやらに躓きそうになったので 必死に体勢を立て直す。床とはもう呼べない地面に鋭い硝子の破片が無数に散らばっており、 それが薄汚いこの部屋で妙に煌いていた。その硝子の一つが光を反射するのを目撃した瞬間、 僕の首から吊り下げられた、今にも擦り切れそうな太いロープの先に紙の束が通されていることに ようやく気が付いた。目を通してみると表には見知らぬ人...
  • 3-769-2
    またもう一本煙草に火をつけるのは、忘れることを習う為 酒の呑み方を教えてくれたのはあなたでしたね。 ビール、日本酒、焼酎に限らず、いろんな国の酒とともに、 それに合うつまみや料理の選び方。 それらは仕事の接待の席でとても役立っていますよ。 あなたがときどき買ってきてくれた白ワイン、 この間酒屋で見かけましたがあんなに高いものだとは思いませんでした。 一人暮らしで必要な生活術を教えてくれたのもあなたでした。 上京して間もない僕に、光熱費の節約方法から 効率が良い掃除や洗濯のやり方、果てはゴミの出し方に至るまで。 アパートに引っ越してきたその日にあなたが 「部屋の中に1つぐらい植物を置くと気持ちが落ち着くから」と プレゼントしてくれたサボテン、昨日1輪だけ花が開きましたよ。 ──雲の隙間から時々顔を出す太陽の光が、部屋の中をちらちらと照らす。 眩...
  • 13-769
    地球×冥王星 貴方の中でエリスの存在が大きすぎる。 そう言って君は、僕との関係性を断ち切った。 今はただ、カロンと踊る君を遠くから眺めるだけ。 最も遠い君。最も愛おしい存在。 (でも知っている、本当は君が太陽に惹かれていたってことを) (どうしてどうしてあの人ばかり) (ああでも僕も あの人からは逃げられない) 包容力のある28歳×背伸びしたい盛りの18歳
  • 8-769
    冷たい手 「ぎゃあっ!」 「うわ、色気ねー」  急に俺に触れた手の冷たいことといったらない。何つーの? 女なら確実にああコイツは雪女なんだなぁとか思っちゃう 冷たさ。……男は何だろう。雪男……だとただのオッサンだし。  まあなんだ、そういった冷たい手が急に、しかも首筋に押し 当てられた俺の気持ちになってください。寿命縮むから。 「当てるんなら自分の首にしやがれこの野郎」 「やだよ。寒いじゃん」  俺の体温は奪っても構わねーっていうのかこの外道。 「そんだけ冷たいんだもんな。心の底から冷たいんじゃないの お前」 「そんな今更なこと言うなよ。黙って体温奪われてなさい」 「文字通りヒトデナシだなお前……」  けれどその後俺をすっぽり包んだ身体は、まんべんなく 温かかった。  そういえば雪女が迷い込んだ男に出す料理は温かかった っけと思いながら、俺は...
  • 7-769
    受で夫・攻で妻 剣道2段、弓道5段、柔道3段、合気道免許皆伝のこの俺は、 ずっと怖いものなんてないと思っていた。 そりゃ苦手なものはあったさ。 香水くさい女だのちゃらちゃらした男だの、 それでも怖いと思ったことはない。 あいつに出会うまでは。 「あっなったァ~!お帰りなさーい!」 寮に帰ると野太い声で色めいた声をあげ エプロン姿のガタイのいい男が突進してきた。 それをさっと交わし、首根っこに一撃を与える。 「いったぁい!なにすんのよダーリン!」 ダーリンという単語に不快感を覚え、 眉間に皺を寄せて睨みつける。 そんなことは全く気にしてない様子で腕を組んできた。 「ご飯にする?お風呂にする?それとも」 「風呂」 最後まで言わせるものか、と遮った。 たまたま不運にも同じ寮の部屋になったこいつは女装癖の持ち主で、 それを俺が偶然、女にしてはずいぶ...
  • 9-769
    昼行灯 気持ちばっかり先行して、うまく言葉にできない……だが語る 昼行灯萌えは、奥が深いというより根が深い。 いったん嵌ってしまうとずぶずぶいっちゃって、なかなか抜けられない感がある。 やはり基本は熱血や生真面目さんとの組み合わせだろうか。 普段は「この人、大丈夫かな?」「頼りないなー」と思わせておいて、いざという時のみ本気をみせる。 マジ役立たず系なら、勇気を振り絞って火事場の馬鹿力にすがり、 能ある鷹は爪を隠す系なら、ここぞとばかりに活躍。定番だが、間違いのないカタルシス。 あくまで、いざというとき、だ。 飄々としていても、力をひけらかしたり、有能さを発散させていてはいけない。 爪は周到に隠していただきたい。 爪や感情の棘を隠すということは、周りを威圧したり不用意に傷つけないための 配慮であったり、単なる照れであったり、 過去に出る杭...
  • 1-769
    シンガーとピアニスト あなたは自分を未熟者だと言います。 私はその弱さを叱ります。 そしてあなたの声を褒めるのです。 あなたのその声。甘く低く、よく響く声は素晴らしい。 あなたからそれを引き出す道具が、私の手元にある、このピアノです。 古いイタリア歌曲。意味も知らぬまま、あなたは歌います。    私の想いを縛り付けた    いとしい絆、やさしい結び目よ、    私は、自分が苦しみながらも楽しんでおり、    捕われの身に満足していることを知っている。 あなたは歌うたびに私に告白し、私は歓喜しつつキーを叩く。 ふだんの生活では許されぬ想いですが。 しかし舞台の上で、稽古場で、音の世界でだけならば、相思相愛でいられます。 そのくらい良いでしょう?  もうすぐ最後の小節を弾き終えれば、それで恋歌はおしまいですから。 卵とさいばしとフ...
  • 4-769
    コスモスなど優しく吹けば死ねないよ その場所で、その子は花を持って立っていた。 僕はかける言葉も無く、ただ後ろに立っている。 この場所で、彼は死んだ。ある朝、複数の人間に殴られ、裸にむかれ、冷え込む秋の朝、 この裏路地に放置されて、暴行と凍死で死んだ。犯人は、捕まっていない。 この前まで、僕と仲良く喋っていた、自分で自分のことを「チンピラ」と呼んでいた彼に、 花をたむけるのは、その子がはじめてだった。 僕は情報屋だった。 この前、刑事に、僕はある情報を流した。それは、麻薬取引について。 チンピラが漏らした情報だった。 その情報の結果、ある麻薬ルートが消滅した。 僕は、その情報を流す時、それでチンピラがどうなるかなんて、考えもしていなかった。 ただ無邪気に、この大きな情報を、お金に変えた。 だから…、目の前の子は、こんなに悲しんでいる。 目の前の...
  • 6-769
    思い出になった恋 「よう」  と肩を叩かれた。会社帰りにバス停でバスを待っているときのことだ。  振り返ると中学校の同級生だった川辺が立っていた。勤め帰りらしきスーツ姿で、あのころよりずっと背も高く大人っぽくなってはいたけれど、笑ったとき片頬に浮かぶえくぼがあのころのままだった。 「びっくりした。久しぶり」 「おまえ、変わってないな。通りの向こうからでもすぐ分かった」  走ってきたのだろうか、少し息を弾ませている。 「おまえも、変わらないよ」  肩に置かれたままの手がくすぐったい。  時間があるなら飲みにでも行こうという話になって、二人並んで歩き出す。  俺はふと思う。あのころ、こいつのことをずいぶんと好きだったな。  今はもう、声を聴くだけで胸が弾むことも肘がぶつかっただけで動悸が激しくなることもない。  寂しいような面映いような気持ちだ。 思い出...
  • 2-769
    レッカー車と、引っ張られてった車 広い通りを繋がったままの二つの車が走る。いかついレッカー車に引かれながら後ろから連行される車は言う。 「お前、俺をどこに連れて行く気なんだ!」 「ぎゃんぎゃん喚くなようるせえなあ」 「ご主人が、ご主人を俺は待たなきゃいけないんだ!」 「そのご主人様が戻ってこないから俺が今お前を連行してるんだが」 「俺たちがいったい何をしたってんだ!」 「さあな。お前のご主人様はそこんとこ、分かってるんじゃないかな」 「……まさか俺、捨てられたってことなのか」 赤信号を前に繋がったままの二つの車は止まる。 「もう俺は、要らない身なのかな」 目の前のバイパスに多くの車両が激しく行き交う。 「俺もう新車じゃないし、傷だって随分ついてるし」 横切る通りの信号が黄色に変わる。 「それでも今まで仲良くやってきたけど、もうおし...
  • 5-769
    政治家と役人 「さぁ、これで話はおしまいだ。いいね?」 「……」 「こんな報告書は存在しなかった。なぁに、簡単なことだろう。  君はただ私の言うとおりにしていればいいんだ…これからもな。」 「…そんなの……です…」 「何?」 「そんなの、でも…裏切りです」 「裏切り…」 「国民の、信頼に対する…裏切りです…」 「…かわいいことを言うね。」 そう言うと、男は目の前の青年の額に指を触れた。 青年は少し顔を伏せただけで、振り払おうとはしない。 「しかしね、そんな甘いことを言っていては…勝ち残れないんだよ?」 「…甘い…こと……」 「…ん…?」 弱々しくつぶやかれた言葉を確かめようと、男は青年の顔に、自分の顔を近づけた。 そのとき、男の耳は青年がこう言ったのをはっきりと聴き取った。 「でも、貴方のほうが、ずっと甘くておいしそうですよね」 「...
  • 19-769
    犬と猫  いつも彼の接触は唐突で、そして気紛れだ。  例えば昼休憩、手洗い場にでも行こうかと席を立ったその時。突然がしっと背後から右肩に腕を回される。  そして左の耳元に響く、囁くような恋人の笑い声。 「どうした、辛気臭い顔して」  君のことを考えてたんだ。そう言えたらどれだけいいか。 「……この分だと今日も残業になりそうで。今夜こそ早く帰れると思ってたのにな」 「え、お前残業なのかよ。なんだ、今夜は飲みに誘うつもりだったのに」  意外にも、とっさに取り繕った別の理由に大きな反応が返ってきた。  頸を曲げて見上げた彼の表情は心から残念そうにしゅんと沈んでいて、まるで散歩に連れて行ってもらえないと 知ってしょげる犬のよう。  可愛い。  どくんと心臓が跳ねた瞬間、密着した彼の体温と匂いを一層強く意識する。こんなのいつものことなのに。 「今から昼食なんだ...
  • 27-769
    もう会えないと思っていた 岐路に立つ看板の前にて。ある男たちの会話。 「何年ぶりかな」 「何年ぶりだろうね。君は変わらないな」 「そっちこそ」 「面白くない冗談だ。もうよぼよぼの爺さんだよ」 「外見じゃない。中身が変わらないんだ。僕を守ってくれようとしたあの時からずっと、君は変わらない」 「あれから何年経ったかな」 「何年だろう。君を待ってる間、10数えてやめちゃったんだ。ここは風景が変わらない場所だからね」 「そうか。俺もよくわからないな。何しろ必死だったからな」 「エヌ…」 「お前が理不尽な理由で命を奪われて」 「エヌ」 「多くの仲間やたった一人の愛する人、愛する星を失って、正気を保つのなんか無理だったよ」 「もういいんだ」 「だから俺は俺と同じ思いがする奴が出ないようにすべてを壊したんだ。草の根ひとつ残らなかったはずさ」 「エヌ、泣かないで」 ...
  • 17-769
    思われニキビ 昔の相方をなくした芸人は、どれぐらいかわいそうなんだろうか。 親兄弟をなくすぐらいなんだろうか。それとも、親友ぐらい? 「つらいでしょ?」とか、「しんどいだろうね」とか、訳知り顔で言ってくる人間や、 俺を痛々しそうに見てくる人間は、どれぐらいだと思っているんだろうか。 というか、何を理解しているんだろうか。 俺とアイツが、どんな関係だったかなんて、知らないくせに。 語るつもりもなければ、分かってもらうつもりもないけど。 それを口に出すと仕事がなくなるから、あいつに関しての質問は、全て曖昧な 笑みでかわしている。 新幹線でため息をつくと、今の相方が俺を見た。 「ため息ついたら、幸せが逃げますよ」 俺は彼の言うことを、無視する。しかし、それでへこむことはない。 「もー、新堂さんは、いつもそうですよ。ひどい」 ふてくされたように言う相...
  • 25-769
    ギャル男受け 勉強が好きか?と嗤われながら問われたので、僕は勉強が好きだ、そう答えた。すると、天才は違うなとかガリ勉とか、そんな言葉を掛けてくる。 勉強に勤しんでいる訳でもない。ただ、楽しいだけなのに。 しかし、周囲は嗤う。 そんな中で、1人だけ、周囲とは違う言葉を掛けてきた奴がいた。 奴とは今年から同じクラスになり、教師も手を焼いている。主に校則違反の髪型と、崩した服装、アクセサリー等において。 しかし、愛想が良くリーダーシップもとっていて、憎めない生徒とみなされている。 僕とは反対の奴と思っていた。 「いいんちょーって、勉強好きなんだ」 「ああ」 「オレもさ、服とか髪いじんの超好きなんだ!」 Mの字の前髪を触りながら満面の笑みで告げると、奴は手を差し伸べてきた。かと思えば、ぶんぶんと僕の手を握っては振る。 「おい、佐伯ー...
  • 18-769
    言いなりわんこ×女王様  これが今回の報酬、との言葉と共にテーブルに置かれた布袋は重たい音をたてた。 「いつもありがとうございます」  袋の中身を確認し、懐に納める。  一連の動作を眺めていた青年は、ほう、と優雅に溜め息をついてグラスに口をつけた。 「それで」  今彼が飲むトカイワインのように甘ったるい声に呼ばれ、男は身を固くした。 「…もう、必要ないんじゃありませんか?」 「だめだ」  即座に返される否定に身をすくめる。 「だってあなた…もう充分に楽しまれたでしょう…それに私だって…」 「君だって?」  射すくめるような視線に言葉がつまる。 「…あんまり危ない橋は渡りたくありませんし」  からからと彼が声をあげる。 「君とても楽しんでいたではないか。ずいぶんといい思いをしたのだろう?」  ぐ、と言い淀むのを、楽しげに見遣ってグラスを煽った。 「です...
  • 22-769
    泥酔者とお巡りさん 「すらすらすいすいすいーっと♪」 「きみきみ!ちょっと!」 「ええ?はあ、はい」 「どこ行くの?家は?危ないよこんな夜中に」 「なんです?いきなり、子供じゃないんですけど」 「顔真っ赤にして、酔っ払いか?」 「酔ってる?俺が?酔ってなんかいませんよー、寒いだけです」 「いいからこっちきて、派出所で保護しますから」 「はーなーせ!」 「コンビニ袋にスウェットに、この寒いのにサンダル…風邪ひきたくなかったらお巡りさんと一緒にきて、ほらほら」 「お巡りさんはこっちだっつーの、へべれけリーマンめ」 「はいぃ?」 「ああもうせっかくの非番前夜なのに!こっちこい!」 「うひ、ほんものwwおつとめ、ご苦労さんでありまし!」 「黙ってろ酔っ払い!」 「おまわりしゃんそれスーパードゥラァイ?」 「発音うぜぇ!」 「おじさんはプレモリ派でしww」 ...
  • 24-769
    片想いの連鎖 【鉛筆】  これまで鉛筆削りしか知らなかったが、あるときカッターナイフにその身を削られてからというもの  その鋭さに心を奪われてしまった。削り終わったらさっさと離れていった冷たささえも鉛筆の心をかき乱す。  しかし一方で鉛筆削りへの後ろめたさもある。不安定な心を反映してか、最近は仕事中に芯がよく折れている。  「あんなにされたの初めてで……痛かったけど、でも……また彼に会えたら僕はどうなるんだろう」 【カッターナイフ】  最近はよく組んで仕事をしているプラスチック定規のことが気にかかってしかたない。  なぜなら、自分のミスで彼の身を僅かに削ってしまうことがあるのだが、  その自分のつけた傷を見ながら、定規が微かに笑っているところを目撃してしまったから。  上記の理由から他の仕事は若干上の空だが、刃のキレは衰えていない。  ...
  • 14-769
    野 『野』(や)という言葉には「官職につかないこと、民間」という意味があります。 対義語は『朝』(ちょう)。朝廷の『朝』です。 『朝』と『野』は、光と影のような存在です。 『朝』があるからこそ『野』という言葉が意味を持ちます。 反対に『野』が存在せず『朝』のみがあったとしたら その『朝』の存在はとてつもなく無意味なものとなるでしょう。 多くの場合、『朝』は大変に支配欲が旺盛です。 そのため常に『野』を支配したいと思っています。 『野』はただ自分に奉仕するために存在すればいい とすら考えているかもしれません。 『野』は『朝』にどれだけ虐げられても、最後まで『朝』に寄り添おうとします。 たとえ重税を課せられても、理不尽な法令がしかれても 文句を言いつつ結局は『朝』に従ってしまいます。 それは罰則に対する恐怖ゆえではありますが 自分には『朝』...
  • 21-769
    二人きりの同窓会 二拝二拍手一拝。 形式通りのそれを行って次の参拝者に譲ろうとしたらふいに肩を叩かれた。 「やあ、山本」 「え? ……おまえ、武内?」 無遠慮にまじまじと眺めると、声をかけてきた男の顔はおよそ一年前まで寝起きを共にしていた友人のものだった。 驚く俺に、奴は泣き笑いのような笑みを浮かべている。 きっといまは俺も似たような顔をしているはずだ。 そうして俺たちは、どちらともなく抱擁を交わした。 積もる話はたくさんあった。 だが互いに近況を二三言報告しあった後は、ただ静寂だけが続いていた。 「もう、部隊の生き残りは僕らだけになってしまったね」 唐突に沈黙を破ってぽつりと呟かれた言葉は、まだ痛みを伴っていた。 いまでも克明に思い出せる。火薬のはぜる音、血と硝煙の臭い。 「まさか、死んでないのに靖国で会うとは思わなかったけど」 「……そりゃ、仲...
  • 16-769
    教会の息子と寺の息子が付き合ってる 「ちはー、三河屋でーす」 「またあなたですか!まったく毎日毎日!なにが三河屋なもんですか!」 「おう、お前も毎日こんなとこでお仕事ご苦労さん。 ところでお布施くれよ、腹へってんだよ」 「あげませんよ!毎日言ってるでしょう! 私の父なる神はイエスキリストだけなんです、 異教徒の台所事情なんて知りません」 「なんだよー、今日も駄目か。 じゃあワインとパン頂戴、あとできたらナッツとかも」 「昼間っから何言ってるんですか!まったくあなたは! 本当にしょうがない!あなたみたいな人が跡取りになれるようじゃあ、 日本の仏教に未来はありませんね」 「なんだよ、怒ってんなよ。お前、そんなに寺嫌いかよ?」 「嫌いですよ!」 「そっか。残念だな」 「え、な、何がです」 「できたらさ、今日あたりうち案内してえなーと思ってたんだ。 兄ち...
  • 4-769-1
    コスモスなど優しく吹けば死ねないよ 「君はコスモスのような人だ」 会うたび彼は俺に言う。 厳つい男だ。堅気とは思えないような顔をしているくせに、武骨なその手で花を愛でる。 そして同じ手で、まるで大切な宝であるかのように、俺の頬に触れるのだ。 「僕のかわいいコスモス」 「やめろよ」 そのたび俺はいたたまれない。 だって、男娼の俺にコスモスだなんて似合わない。 知らないと思ったのか。あんたが花屋だと聞いた時に、コスモスの花言葉なんてすぐ調べたさ。 「俺はコスモスじゃない」 「君はきれいだよ」 「どこが」 彼の言葉はまるで本心のような声音で、だからこそ泣きたいくらい信じられない。 ばかげている。 金で縁取られた時間と空間の内側で、吐き出されるのは熱だけでいい。 「あぁ、いっそ手折ってしまおうか。僕だけのものにならないのなら...
  • 8-769-1
    冷たい手 大きな手が汗ばんだ頬を撫でる。 ゆっくり、ゆっくりとあやされるような赤ん坊の気分になったので、どういうつもりだと熱にかすんだ目で問いかけたら、大きな手の持ち主の、黒く澄みきった夜の葡萄みたいな瞳が、こちらの様子を案じて見守っているのが滲んだ視界にぼやけて見えた。 「僕の手は冷えているので、あなたの頬を撫でています」 その通りだ。確かにそうだ。男の手は大抵いつも冷えている。 そうして俺は、そのことを知っている。 「あなたが言ったんです。お前の手の冷たさには意味があると。手が冷たい奴は、その分心が温かいんだ、心配するなと」 確かにそうだ。その通りだ。いつかの日に、何かの拍子に俺が言った。どっかのドラマで使い捨てのセリフだったが。 「僕のことを。僕自身を、そんな風に肯定的に捉えてくれた人は、いなかったから」 だからこうして、あなたの頬を撫でていますと、大きな手で...
  • 7-769-1
    受で夫・攻で妻 「お前…アレだな、パ○パタ○マ。」 ガーガー掃除機を掛けていた僕は思わず手を止めた。 「は?」 何?なんか言った?と、問い返すと少し大きな声で、 「お前、パ○パタ○マみたいだな。」 と言った。 僕は掃除機を掛けるポーズのままフリーズし、 ベランダで喫煙中の彼を目を丸くしてまじまじと見つめた。 そのときの僕の頭には昔よく見聞きしたあの歌と映像がこれでもかと流れていて… (パー○パタ○マー パー○パタ○マー) 「…ぅ、ウソだっ!!な、なんでっ?!」 ガシャッと掃除機から手を放して、動揺しまくりカミまくりで彼を問い詰めた。 肩を掴まれた彼ときたら、大げさな…という顔で片眉を上げ、服に灰が落ちないよう 煙草を遠ざける。 「ね…なん、なんで?」 もう一度聞いた。 「なんかねえ…今お前見ててふと思ったの。」 「…………」 そりゃ僕は元々...
  • 6-769-1
    思い出になった恋 別れを告げたあの日がよみがえる。 彼と、それまでの総てを思い出に変えてしまったあの日。 彼はいつもどこか線を引いていて、 俺がそれを踏み越えることを許してはくれなかった。 でも向こうが線を越えたときは、俺に思う存分甘えてきたりして。 そんな風に付いたり離れたりしながら俺達は過ごしていた。 出会って別れがくるまで、 俺が彼について知っていることが減ることは無く、また増えることも無かった。 彼は自分のことをあまり話さなかった。 それが表面化したとき俺達は衝突した。 彼は俺だけの彼ではなかった。 「俺以外の奴と…」 彼を責めたが彼は潔白を主張した。 その目に涙が浮かんで、静かに落ちた。 俺は彼が泣くのを初めて見た。 あのときの俺は経験も浅くて、若くて、子供だった。 ただ…許せなかった。 独占欲や未熟さを抱えながら...
  • 12.5-769
    無意識な惚気 例えばそれは、彼にとっては昨日の晩飯の話をする位の感覚なんだろう、と思う。 「昨日さー、先輩とゲーセン行ったんだけどー。あの人ガンゲーめっちゃ上手くて」 コイツとその先輩がデキてるってのを、俺は知っている。 たまたま、本当にたまたま、公園でキスしてるのを見ちまったから。 「何か俺が3倍くらいお金使っちゃったんだけどさー」 「お前が下手なんじゃね?」 「ちげーって」 脚を広げて逆向きに椅子に座り、だらりと俺の机に上半身を預けて愚痴る相手をからかってみる。 するとコイツは、目線だけをこっちに寄越しながら、頬を膨らませて反論してきた。 高校生にもなって、ガキかっつーの。 「でもさー、ガンゲーやってる時の先輩って、むちゃくちゃかっこいいんだわ」 頬の膨らみを吐き出して、今度はだらしなく笑いながら、コイツは言う。 「何かさー、年上の迫力っての?目とか鋭い...
  • 17-769-1
    思われニキビ 「あー、思われニキビ!」 「はあ?何言ってやがる」 頬杖をつく右顎にポツリとできた吹き出物を指差して言えば、彼は面倒臭そうに視線だけをこちらへ寄越した。 朝日が射す教室でキラキラと照らされた彼の顔に、不似合いな赤い印。 プクリと腫れたそれはいやに性的で、硬派な彼の整った顔を、自分の劣情が汚しているんじゃないかなんて、自惚れた幻想がちらりと頭を過る。 自分のことながら朝っぱらからおめでたい頭だ。 思い思われ、振り振られってね、顔にできたニキビの場所で占いができるんだって そう説明すれば、一段と呆れたような顔をして、ナンパなテメーが女相手に話すネタだな、なんて嫌味を吐かれた。 「もー、こんなの女の子じゃなくたって誰でも知ってるでしょーよ」 「俺はそういう占い事にも、色恋沙汰にも興味ねえよ」 第一こんなの、テメエに言われるまで気...
  • 20-769-1
    空振りだけどそこがいい 彼の姿勢はあまりよくない。 後ろから見るとその背には緩やかな山ができている。肩を起点にして肩甲骨が峰。 肩をつかみ、その峰を両手の親指で押してやる。分厚い肩だがあっさり動き、山は谷になる。 でも手を離せばぐにゃりと元通り。くらげのようだ。 「何だ、どうした」 彼が微笑む。雑誌からは目を離さず、顔を俯けて。 眉の上、短い前髪がぱさりぱさりと揺れる。低い笑い声が耳に心地好い。 俺は答えず、もう一度彼の肩を開いた。 どうせなら肩を揉んでくれよ、と彼は身をよじったが、やがて気にしないことに決めたらしい。また黙々とページを繰りはじめた。 彼の部屋に来たときは大体いつもこんな感じだ。ふらっと立ち寄る俺に、気にせず自分の時間を過ごす彼。 大学の講義さえなければこうして二人で過ごすのは最早習慣になっていた。 だが、毎回俺が行こうか行くまいか散々悩み、彼...
  • 10-769-2
    オカマ受け 僕が『彼女』と出会ったのは、南へ向かう汽車の中だ。 僕は出発間際のデッキ、煙草をふかす彼女の足元に転がりこんだのだった。 目の周りに痣をこさえ、ちゃちな鞄ひとつを抱えたぼろぼろの僕を、 彼女は暫くぽかんと眺め下ろしてから 「こんにちは、家出少年」と言った。 汽車が南端の街に着くまでは、二日かかった。 その間僕は暇をもてあます彼女と、とりとめもなく話をしたり、 呆れるほどヒールの尖ったブーツを磨いて駄賃を貰ったりした。 「どうせ行く宛なんかないんでしょう」 「とりあえず南だ。友達がいる」 「そんなもん、あてにしない方が身のためよ」 「そういうあんたはどうなのさ」 「私はね、生まれ変わりに行くのよ」 「生まれ変わり?」 「医者がいるのよ、そういう…。体を思う通りにしてくれるの。性別だってね」 馬鹿な!そんなことってあるだろうか。担が...
  • 10-769-1
    オカマ受け 「な?一度だけだから。本当にこれっきりって約束するから」 懇願するヤツの右手にあるゴムが、生々しいほどのリアルを見せている。 スカートの裾を押し上げようとするヤツの左手から、どうにか逃げられないだろうか。 「止めてください!ココはそういう店じゃないんですよっ!」 小さく叫んでもヤツの手は止まらない。 片手で押さえているが、体格の違いは力の違いを見せ付ける。 「イイじゃん。どうせ誰かにヤられちゃうんでしょ?ヤられたいんでしょ?」 口調はふざけているように聞こえるのに、ヤツの目は笑っていない。 手に入った力が強くて、すごく怒っているのだとわかる。 好きでこんなカッコしたり、店に出たりしているわけじゃない。 何の資格も持っていないオレにとっては、コレが一番金になっただけだ。 おまえと離れたくないから、どうしても金が欲し...
  • 3-759
    自分を攻だと思いこんでる受 大学の図書館の並びにある教授棟から出てきたT・Aの端正な顔立ちと、深みのある落ち着いた眼差しに、俺は忽ち惹き付けられた。 今まで俺が組み敷く事を夢想してきたどの青年をも凌ぐ魅力。 彼を抱き締めて、思うさま愛撫し、焦らし、俺を求めて泣かせたい。 いや、彼は既にもうあの冷たい眼をした年若い刑法の教授に抱かれているのかもしれない。 暴走する想いに苦しめられて、俺の眼は何時も彼の姿を追った。 「何時も熱心ですね。」 閉館時間まで図書館の脇のベンチで参考書を開いていた俺に、彼が話し掛けてきた。 分厚い資料の束を下ろして、俺の横に腰掛けた彼は、そっと指を俺の手に絡めてきた。 (なんてカワイイ) 余りに出来すぎた展開にも、夢にまで見た彼が自分から指を絡めている、それだけで俺の心臓は踊り、人影の途絶えた夜のベンチで、どちらかともなく互いに唇を重...
  • 3-779
    寡黙な攻×おしゃべりな受 攻めが苦手だ。 別に性格が悪いとかじゃない。 頭が悪いわけでもないし、顔だって悪くない。 ただやつは無口なのだ。 だからおれは攻めが苦手だ。 ふたりきりでいると、息苦しくて仕方ない。 終始息つぐ暇なく喋り続けなきゃなんないからだ。 耳に入ってくる一人分の声は、馬鹿みたいに上擦っていて、われながら痛々しいと思うよ。 こいつじゃなければこんなふうになってない。 だからおれは攻めが苦手だ。 攻めはほんとに喋らない。だけど、だからその分、他の部分が発達して、おれに語りかけてくる。 たとえば、目線とか、息とか、皮膚とか。 表情とか、けして豊かなわけじゃないけど、ふと緩んだりしたら、たまんないし。 声とか、どこから出してんのかわかんないような低音、肌を這ってくるから、びびる。 喋らないくせに。 そういうので...
  • 3-749
    ぬいぐるみ ある日友達のAの家に遊びに行ったんだ。行くの久しぶりだった。 Aは結構サバサバしてて男っぽいタイプだった。 服とかもシンプルなのが好きで、爽やかなコイツには似合ってた。 部屋もスッキリと相変わらずまとまっていて余計なものとか置いてない感じだった。 だからソレを発見したときビックリした。 猫のぬいぐるみ。 なんでこんなのがコイツの部屋に?妹の?姉ちゃんの?いやコイツ弟しかいないはずだ。 でもなんか見覚えあるなあ。 キッチンに行ってたAがお茶持って戻って来た。 「あ!!!!!ちょ、お前それどこから!!!」 ドア開けるなり俺の手から猫をひったくって後ろ手に隠した。 あまりの剣幕にビックリしたが、なんか顔赤くしてるコイツ見たら追求したくなった。 「それ、お前の?」 俺は笑いこらえながら聞いた。 「…悪いかよ」 「いや…悪いっていうか…意外っていう...
  • 3-709
    小学生からの幼馴染、27歳同士 「あれ?A? どうしたんだよ。連絡もなしにいきなり。」 「やっ、久しぶりだね。」 久しぶり、どころか高卒以来、大学の時に一度会ったきりだ。それが、何の音沙汰もなく、ふらっとやって来て泊めてくれと当たり前のように言う。 小学校から高校までの幼馴染み。親友とまではいかないが、仲の良い普通の友達だと思っていた。 だが、七年前最後に会ったあの日は。 卒業以来の懐かしさに二人で酒を飲み夜中まで語り合い、ふっと訪れた数分の沈黙。 あれは特別な数分だった。なぜか、Aの存在が堪らなく愛しくなり、見つめ会う内に、ごく自然に口付けを交していた。慌てて酒のせいにしてそれだけに終わったのだが。 まだ独身だろ? と、突っ込まれ、断る理由も見付からぬままAを家に入れた俺は、あの日ような沈黙が怖くてとりとめもなく喋り続けた。 そんな俺をし...
  • 3-739
    眼鏡 「お前の眼鏡じゃま」 深いキスをする時には、こいつはいつもこうだ。 ふくれっつらになると手を伸ばし、眼鏡を外しソファへと投げつける。 バスケで鍛えた実力からか、幸い床に落ちたりすることは無いが、思わず文句がこぼれる。 「投げるなよ……壊れたらどうする気だ」 「いいよ。だってその時はオレがお前の目になるから。一番近くのオレだけ見ててよ」 「……馬鹿かお前」 呆れた声をものともせずに、大型犬は軽く目に口付け、いそいそと行為を始めた。 ―滅多に外さない眼鏡を外すのはこいつに抱かれる合図。 体に熱がともるのを感じながら、レンズの無いぼやけた視界で、馬鹿犬の体に手を回した。 ぬいぐるみ
  • 3-789
    同行営業 「少しは勝手が解ってきたか?」 先輩がオレに向かって缶コーヒーを投げてよこす。 「はい。大体は・・・」 って、ウソだけどな。 初めっから終りまで、あんたのことばかり見てた。 あんたの声ばかり聞いてた。 ハウツーも担当者の顔も全然頭に入っちゃいない。 あんたはそんなおれの心中を知るはずもなく勝手に続ける。 「このルート、おまえに任すんだからしっかり頼むぞ」 「任すって・・・」 なんだって? 聞いてないぞ、そんなこと。 「おれな、郷里に帰るんだ」 「親父が脳梗塞で倒れちまってさ、家業継ぐんだ」 「課長には言ってあるけど、まだみんなには内緒だ」 そんな困ったように笑って言う事がそれかよ。 初対面から気になってて、やっと一緒に仕事できて。 「おれにだけ」って打ち明ける言葉がそれなのかよ。あんまりだろ。 「おまえの仕事振り見ててさ、後釜に...
  • 3-729
    光源氏計画 深夜零時を回った頃、俺はやっと帰宅する。 玄関の開く音を聞いて、タタタと寄ってくるまだ幼い体。 俺がどこで何をしてたかなんて絶対に聞けない、ただ従順な犬みたいな奴。 俺の愛したあの人は天国から見ているのだろうか?哀れな俺と、こいつを。 つやのある漆黒の髪にすっと通った鼻筋。そして俺を呼ぶ声。 こいつは俺の愛した貴方に、目も鼻も口も髪も声も...全てそっくりなんです。 あの頃幼すぎた俺は貴方を手に入れる事ができなかった。 でも今は.... 「ぅ....ん、ぁ...」 「もっと腰を使って...そういい子だな」 俺の腹の上で息を荒げてよがる淫猥な少年の姿を見て、俺は貴方を思い出す。 今は目も大きく手足は細い、子供特有のそれだが後数年すればもっと貴方に似るだろう。 「あ、ぁ、もう....」 限界も間近なのか整った顔を涙や涎でぐしょぐしょに...
  • 3-799
    僕のお姫様 「ただいま、ゆみ」 「お帰りなさい、パパ!」 扉を開けて放った私の第一声に、とてとてと大慌てで走ってくる音がする。 ああ、そんなに急ぐとまた転んでしまうよ。 そう注意する暇もなく、僕の予想通りに彼女は玄関前でばたんと転倒した。 「いったぁ……失敗失敗。で、パパ、おみやげは? 買ってきてくれた!?」 そう言って上目遣いににこりと笑いかける仕草に、見ていたこちらがどきりと胸を揺さぶられる。 屈託のないその表情は、僕が忘れることなど出来ない人のそれと酷似していた。 ……君は見てくれているだろうか? 君達が亡くなってからの僕と彼女の生活を。 そう胸中で呟いて、もう何千回繰り返したか分からないあの雪の日の光景を脳裏によぎらせる。 ――あの時、僕はきっと世界中の誰よりも幸せそうな君達に嫉妬していたのだ。 病院からの帰り道、私が運転する車の後部座席...
  • 3-719
    一晩限りの関係 彼のことを、何も知らない。名前すらも。 いつもと同じ、行きずりの関係となるはずだった。 誘い、誘われ、駆け引きを楽しんでから肌を重ねる。 いつもと違ったのは、別れる時。 連絡先を訊こうとし、何度もためらい、結局何も訊かなかった。 その気になれば探し出せると思っていたから。 あの時は、まだわからなかった。 どれほど彼に心を奪われているのかなど。 そのことに気付いた時、全ては遅かった。 名前すら知らず、手がかりもなく、写真もなく。 そのバーの常連だと思っていた彼は、実はその日限りの客で。 彼の声も、彼の匂いも、彼の仕草も、鮮やかに思い出せるのに、 まるで存在しない、彼の痕跡。 二度と会えない彼を想い、何度も記憶を再生する。 一夜限りの関係だった。 想いは千夜続くだろう。 光源氏計画
  • 23-759
    犬と猫 「飼うなら猫。ホラ見てあの、挑発的な顔が」 「犬いぬイヌ!ぜーったい犬がいい。大型犬がいい、この子大きくなりそう」 「なんでだよ、猫かわいいだろ?あの子とかあの子とか」 「どこがぁ、あんな気まぐれなの。亮ちゃんお人よしの振り回されたい系男子だからだよ。猫とかマジ性悪だから、小悪魔とかじゃないからあれ」 「そういうところがかわいいんだろ、たまーに甘えてきたりさ…あ、なにどこ行くの?もう見ないの?」 「ノドかわいた」 「俺お茶持ってるけど、はい」 「ん。大体さ、猫なんてあれだよ?毛とか抜けるんだよ?服とかすごいことになるんだよ?お前は家庭を壊したい愛人かっつーぐらい毛が付くんだよ?」 「猫っ毛ふわふわで気持ちいいのに。犬はまっしぐらすぎて、ちょっと重いよ、なんとなく」 「重くないよ、いいじゃないこっちがご主人様なんだから。猫なんて寝てばっかでさぁ、なんにもしな...
  • 13-759
    天使と悪魔 どう贔屓目に見ても消し炭にしか見えない黒い塊を前に、俺は本気で困惑していた。 バレンタインという名目のもと、奴が小さな包みをぶっきらぼうに突き出してきたのは今朝のこと。 何コレ?と聞けば「見てわかんねーのか、マフィンだ」と返されたけれど…正直、分かるか。「捨てる…わけにはいかないか…」 それはいくらなんでも忍びない。似合わないエプロンなんかして、いそいそとキッチンに向かう奴を想像するのは容易すぎた。 人にやるのはもっての他で、だから、結局は。 「…腹をくくろう」 息を止めて消し炭、もといマフィンを口に放ると、ざらざらした食感と焦げた匂いがいっぱいに広がった。…うん、これはいつにも増して手厳しい。 なんとか水で流し込み、俺は盛大にため息を吐いた。 全くあいつは。笑顔も泣き顔も寝顔も天使のようなのに、味覚と料理は悪魔のそれなんだから。...
  • 23-719
    異端審問官 「違うんです!抵抗したのに彼が力ずくで唇を重ねて!」 「それで?」 「そしたら舌が入ってきて……」 「ディープキスをしたと」 「でも僕は『こんなの駄目だ』って逃げようとしたんです……そうしたら彼が僕の……その……」 「んん~僕の何?言ってごらん」 「僕の、アソコをですね……」 「アソコってどこ?ちゃんと言わないとわからないなぁ」 「ですから僕のおちんちんを……」 「んんん~君のおちんちん?それはどんなおちんちん?ハァハァ」 「それは関係あるんですか!」 「あるかどうかは私が決める事だ、さあ恥ずかしがらないで言ってごらん、君のどんなおちんちん?ハァハァ」 「普通のおちんちんを」 「普通?普通って何だろうね、こりゃもう実際に見ないとわからないね?」 「はあ?」 「さあ!おちんちんを見せて!」 「嫌です」 「君に断る権利なんて無いんだよ?さあ...
  • 23-799
    腰が痛い 『痛い』 『あははは佐伯アホすぎだろ』 『うっせー笑うな!』 『だって椅子ごと引っくり返るとか漫画かよ!』 『笑いすぎだ!それでも友達か!』 『帰るぞ、佐伯ってどうしたんだ?』 『おぉ!鈴木!』 『佐伯?何ひっくり返ってんだ?』 『あーもう!笑いたきゃわらえよ!』 『あはははははははは!』 『おまえは笑うな!』 『ほらっ手かしてやるから立てよ』 『鈴木ぃ!お前は優しいなぁ!笑い泣きしてるこいつとは大違いだぁ』 『あははは悪かったって!ひぃひぃ』 『まじ許さんっていってえええ!!』 『どうした?』 『腰が痛すぎて…』 『ぎゃはははははは!』 『わ~ら~う~なぁ!!』 『ったくしょうがないなっよっと』 『おわっ…おい。鈴木』 『なんだ?佐伯』 『これって…』 『お姫さまだっこじゃんあはははははははは!』 『おまえはだまれよぉ!っつ...
  • 13-739
    異国人同士、 まったく言葉が通じない二人 「10日間って早ぇな…」 「アー…ンー?」 「カレンダー見ろ。いいか?この日、お前、来た日。分かるか?」 「(頷く)」 「で、明日。えーっと…あ、ほらお前の国の国旗。明日、お前これの国に帰る。分かる?」 「ンー!」 「楽しかったよ。ってのは…握手、しとけば伝わるか?」 「~♪」 「お前、この国旗の国に帰る、と、淋しい、ほらしくしく、分かる?淋しく、なる。」 「ン…」 「俺、お前の国、うんそうこの国旗…の言葉、勉強して、遊びに、行くから。」 「ンーフー?」 「そうだよお前んとこ」 「…!」 「その表情はOKって事で良いんだな? あとごめんな、言葉、分かってやれなくて」 「?」 「言葉。んー…口を指すだけじゃ分かりづらいか?」 「ンー…」 「どうすりゃ分かるかな、...
  • 23-749
    ツンデレの逆襲 おかしい。 気のせいなんかじゃない。 もう2週間…?いや、明日で2週間か。 一緒に暮らし始めて2年近くになるが、こんなにヤってないのは初めてだ。 最近忙しいのは知ってる。 不動産業界でこの時期っつったら誰にでも想像つくよ。つくけどさ。 大学生の春休みの暇っぷりをなめてもらっちゃ困る。 いや、別に体にとっては優しいからいいんだけどさ。 この人の家に転がりこんでしばらくは、まじできつかったな。毎日毎日激しいのなんの。 講義にドーナツクッション持ち込むわけにもいかねーし。よく耐えたね、俺は。 だから、こんな平穏な日々も悪くないかなー、とは思う。 でも、でもだよ。 最近ひとりでするのも飽きてきたっていうか、 だってベッドでするとお前の匂いが鼻に入ってくるからどうしても考えちゃうっていうか、 それにあいつだってそんなにしないのはストレスになって体に...
  • 23-709
    攻め争奪戦 はじまりは小学校の四年生だった。 いかにもネコ科肉食、わがままで奔放、女子が遠巻きに見るタイプの美少年。 そんな転校生に気に入られて、四六時中べったりされた。 そしたら幼馴染、地味だが優しく何事も一生懸命で、内向的な文学少年。 こいつが対抗するかのように、やはり四六時中べったりするようになった。 中学になると、二人のケンカが始まった。 やれ、「引っ込めオタク」だの「あっち行けよ不良」だの、俺を挟んでの口げんかだ。 誕生日のプレゼント、クリスマス、修学旅行の行動班(四人一組だったので、一緒になった奴には非常に申し訳ないことになった)、卒業式。 イベントというイベントが、二人の言い争いやら手作り弁当競争やら椅子取りゲームやらの記憶になっている。 高校に入ると、実力行使が始まった。 俺は疲れてきたので、二人の視線に気付かず告白してきたKYな女子...
  • 23-779
    なんでわかってくれないんだ 入学式で松本くんに一目で惚れて、うっかり入ってしまったサッカー部。 身長活かしてなんとか一年頑張ったけどもう流石に辞めたいな、僕インドア派だしなんて思う日々。 でもやっぱ君が満面の笑みで「ナイスー!」なんて声をかけてくれる度、僕はどんどんと深く恋に落ちてしまったり。 そんなぐるぐるが2年目突入の折の春休み合宿。 男には、戦わなければならないときがある。 なんて汗臭いことを言う訳ではないけれど、人生には一度ぐらい、決死の瞬間ってのがある。 僕にとっては今日がその日、今がその時。君がその相手。 夜になってこっそり外に連れ出したけれど、なにを喋って良いかわからない。だってお風呂あがりとか破壊力高すぎんだもん。 夜風で涼む君に僕は熱くなるばかり。 「あー…ま、松本くん」 やっとかっと絞り出した声は今にも裏返りそうで超カッコ悪かった。 「んー...
  • 13-789
    探偵(義)父×息子 「-…報告は以上です、…て、お義父さん聞いていますか?」 煙を燻らせながら、左右の手でキセルを玩ぶ義父に、あきれたように聞く。 「ホームズさん、と呼んでっていつも言ってるじゃないw」 「…聞いていただきたいのはそこじゃありません。明日の偵察についてです」 「明日は西にある商店街へいって、その帰りに繁華街で、デートをしよう!」 「僕は裏のおばあさんの猫探しの依頼も受けてるのでお断りします。 繁華街へは僕がいってくるので、お義父さんは商店街をお願いします」 「いや、明日は二人でいこう、一人じゃあぶないよー」 とぼけているようでそうじゃない、状況判断も、特に危機状況での行動力はすさまじい。 義父に拾われてから様々な彼を見てきたが、いまだにどれが本当の彼なのか、わからない。 どこからそんな情報を持ってくるのか、彼の網は広く...
  • 13-749
    2人組つくってー 「よっ、今回もペアよろしく」 「またお前か」 「随分な物言いだなあ、何か文句あるのかい?」 「毎回毎回そのふざけた顔を見せられるこっちの身にもなってみろ」 「だって仕方ないじゃないか。余り者同士、さ」 「友人0のお前と一緒にするな。三人組ってのはいつだって一人余りが出るんだ」 「だったらたまには代わってもらえばどうなんだい? そのオトモダチに、僕の相手」 「……お前みたいなひねくれ者を、あいつらみたいな善良な奴らに任せられるか」 「あはは、確かに。……けどさ、僕は嬉しいよ。いつも君と組めて」 「なっ……!? お前何言って――」 「なーんて、ね。ん? その顔は本気にしちゃった系?」 「うるせーよ! ……当分話しかけるな黙ってろ」 「はいはい」 (この馬鹿はどこまで気づいてどこまで考えてるんだ……?) (いつ...
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