*9が指定したカプ・シチュに*0が萌えるスレまとめ@ ウィキ内検索 / 「4-429」で検索した結果

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  • 4-429
    終わりなき不毛の地  枯れた草色の肌をした男が、日除け布の下から俺を振り返った。  轟。  延々と続く不毛の大地を、乾いた風が吹き抜ける。 「──本当に、良かったのか」  舞い上がる砂埃を吸わないよう、鼻上まで布を引き上げた俺に、微かな低音が届いた。  この大地を吹き抜ける風のような囁き。  眼に強い陽光を背に、佇む男の表情は見え難い。  双眸を薄め、俺はハン、と息を零した。  轟。 「世界の果てを見せてくれるのだろう」  風が吹き抜ける。 「──お前はそう、俺に言った」  日除けの布がはためく。  俺は、少し痩せて、しかし意志を宿した侭の片腕を差し出した。  あの旅立ちの日。眼前の男が俺に対してそうしたように。 『俺と共に来い。お前に、世界の果てを見せてやろう』  俺は、だから。お前と共に来た。  轟。 「──世界の果ては、まだ遠いぞ」 「...
  • 24-429
    満月手前 「足りないなぁ」 車窓の外を見上げて木原がぼやいた。 白けた宵闇に星と月。電信柱の切っ先に、千切れた薄雲が引っかかっている。 下には建造物と人工の光が群をなして、一通り揃ったいつもの夜だ。 「何が」 「月。満月にはまだ少し足りないでしょう。せっかく晴れてるのに」 信号が青に変わって、静かに車が走り出す。 横に首をひねって、ハンドルを握る部下をちらりと見遣った。 鋭角的に整った横顔は成程、いくらか不満げな色を帯びている。 何百年に一度の天体ショーではないのだ。 幾望だろうが満月だろうが、眺める分にはたいした違いもないだろうにと思う。 どうにも不可解な男だというのが、二年半組んできた部下に対する感想だ。 冷静なようで、どこかしらズレている。有能なことは認めるが、時々突飛だ。 この間など、酔っ払った勢いか何かでキスされた。 取り押さえら...
  • 14-429
    犬型獣人 俺が二十歳を過ぎた頃、義父が死んだ。 施設から買い取った俺を押し倒し、好きなだけ弄んだ義父。 笑顔がなくなり、表情は固まり、感情は消え失せ、最後には声も奪われた。俺から全てを奪った義父は金欲にまみれた親戚たちに見送られて地獄へ旅立った。 金目のものは、全て親戚たちが平らげ、俺に残されたのは、片田舎の小さなお寺兼別荘だった。親父の祖父が親父の精神修行のために、この寺を建築したと聞いた時は流石に呆れた。 農業、簡単な修理、炊事等、生活に必要な文献を買いあさり、人目を避けて自給自足の生活を始めた。 寺に住み始めた三年目の秋、野生の柿を発酵させた酒が良い出来になった。 ほんの気まぐれで、寺の前に置かれているお稲荷さんの石像の足下に、赤カブの煮物と飲み口が少し欠けた湯呑みに柿酒を注いで置いた。 その日の晩、柿酒をあおり、胡座をかく。落ち葉の落ちる音が心地よ...
  • 24-429-1
    満月手前 「淳くんはどの月が一番好き?」 授業が終わり、駅へ向かう夜道の上で、横を歩く慧に不意に尋ねられた。 「月?」 「ほら、半月とか新月とか色々あるじゃん」 月の好みなど考えたこともなかった。 慧と知り合ってもうすぐ一年だが、未だに彼の言うことはよくわからない。よくわからないが、面白い。 「んー……三日月?」 「へー、なんで?」 「まあ、なんとなく」 何故かすぐに思い浮かんだのだが、理由までは分からなくて言葉を濁した。 「僕はね、あのくらいが一番好き」 慧が指さした先には、青白い月が冴え冴えと浮かんでいた。 少し歪な輪郭は、満月手前といったところか。 「意外だ」 「なんで?」 「もっとはっきりした、わかりやすい形のが好きだと思った」 俺が言うと、慧は「なにそれ」と少し憤慨してみせた。 「……咲きかけの蕾と一緒だよ。今から満ちてくって希望があっ...
  • 10-429
    うまカップ 「……なに食ってんだ?」 「うどん」 「はぁ?」 「だからさ、レトルトの皿うどん」 「そんなもんがあったのか…」 「今日初めて見つけたから買ってみた」 「ふーん。で、今日の夕飯は?」 「これ」 「ああ?」 「お前の分もあるから。なかなか旨いぜ?」 「……いらね」 「なんで。うどん好きだろ」 「レトルトなのが嫌だ」 「オレがいない時はカップ麺とコンビニ飯で生きてるくせに」 「るせ。お前がいんのになんでレトルト食わなきゃなんねぇんだよ」 431 : 風と木の名無しさん[sage] 投稿日:2007/04/07(土) 01 39 42 ID JxzJ6LroO [2/2回(携帯)] 「コレだってちゃんとオレが用意した食事でーす。だから食え」 「やだ」 「自分で作らねぇくせに文句言うな」 「最近レトルトの飯食って旨いって思ったことない。だか...
  • 7-429
    Mなのに攻×Sなのに受 「お前を見てるとイライラする。俺のことをなんにも分かってないくせに分かった顔をして微笑む顔も  そうやってなだめる声も、俺の加虐心をかきたたせているのはお前であって  俺に手をださせてあるのはお前以外の何者でもない。  俺が悪いわけじゃない。俺のせいじゃない。」 俺が喋った後お前は4秒待ってごめんねと笑った。 ざまあみさらせ、その青タンお前にぴったりだ馬鹿野郎。 馬鹿野郎、今日どこいってなにしてた。誰と会った。誰と話した。 一秒ですら離れたくない俺の気持ちすらわかっちゃあいねえのに そんな顔でそんな声で大丈夫だなんて吐くな。 こんな感情を与えたお前が悪い。その青タンは俺のせいじゃない。 ああ、なのにこの罪悪感はなんだよ。 「僕が好きで好きでだからこそ気に入らないしムカつくのは分かっているから  いくらでも殴ってくれ...
  • 2-429
    マイペースなS気質×短気なM気質 「カレー食べたい」 「はぁ?」 「カレー。今日の晩ご飯はカレーがいいな。ね、決定」 「決定って、俺の目の前にある鍋の中身を言ってみて下さい」 「おーでーんー」 「わかりますよね」 「タマネギとジャガイモはあるからニンジンと肉買ってきて。うしがいいな」 「わかりますよね!?」 「プリンも食べたいプリンー」 「おでん食いたかったんでしょ!? それで俺を呼んだんでしょ!?」 「あと二時間くらいだったら待てるから焦らなくてもいいよ?」 「ねえ、聞いてるんですか? バ カ な ん で す か !?」 「うん、わざとに決まってるじゃん」 「……なんで」 「あ、涙ぐんでやんの。泣いてる顔かわいいなー泣いてるところが一番かわいい」 「っ、普通、笑ってる顔って言うんじゃないんですか、こういうときは!」 ...
  • 6-429
    vvvlove(ノ^^)八(^^ )ノlovevvv 「受け、愛してる」 攻めがいきなりそんな事を言うもんだから、俺は思わずタコさんウィンナーを地面に落としてしまった。 ああ、最後の一個だったのに勿体ない。 「……聞いてんのか?」 「えっ?あ、聞いてる!すっげぇ聞きまくってる!」 そうは言うものの、地面に転がっているタコさんが気になって仕方が無い。 恐らく攻めも気付いてるだろう。俺の目が泳ぎまくってることに。 「もう一回言うぞ」 「いやいや!いいって。遠慮しとくよ」 タコさんが気になるのも確かだが、「愛してる」なんてこそばゆい事をリピートされるのもなぁ…。 いきなり何をトチ狂ってるんだろう、攻めは。 「…だってさ。俺たち恋人同士なのに全然それっぽくないじゃん?」 俺の冷たい視線に気付いたのか、気まずそうに攻めが言った。 「まあ、確かにそうだけど…。でもい...
  • 8-429
    年上ドジっ子 茶筒を開ければ茶葉をぶちまけ、 急須の蓋は閉めたままでお湯を注ぎ、 跳ねたお湯の熱さに驚いて急須を落す。 あまりに期待を裏切らない行為の数々に、俺は笑いを堪えることができなかった。 背後から突然聞こえた笑い声に、部長が振り向く。 「…黙ってみてるなんて人が悪いな」 ばつが悪そうにちょっと頬を赤らめて、俺を睨みつけた。 「すみません、部長がご自分でお茶を淹れるなんてあんまり珍しかったので」 「どうせお茶ひとつまともに淹れられない不器用者ですよ、俺は。お前代わりにやれ、笑った罰」 そう言って不貞腐れた顔をした部長は半歩身をずらして俺を呼び込んだ。 「はいはい、よろこんで」 「…みんなとメシ行かなかったのか?」 「給料日前の節約生活中でして…部長は弁当ですか」 「いや、俺もカップ麺」 珍しい、と思ったが何となく口には出さなかった。 ガサ...
  • 5-429
    隠せなくなった気持ち 「ずっと好きでした」 そういう風に中学校の頃に女の子に告白された事がある。 俺はその子の事なんか全然知らなくて、制服のリボンの色で同じ学年 だと分かったくらいだった。 真剣な瞳を向けるその子を見ながら(「ずっと」っていつからだろう)と 思った。 十数年たって今更そんな昔の告白を思い出したのは理由があって。 俺が彼に会うのは今日で三回目で、まだ名前と役職と、あとは煙草を 吸う事と野球が好きな事以外知らない。 そんな彼が好き、で。 どうしようもなく焦がれてる自分に気づいたから。 何かを渡すとき、少し彼に触れる。話をするとき、彼と目が合う。仕 事とはいえ、彼と同じ事を考える作業が楽しい。彼の声が直接胸に飛 び込んでくる。 身体中が彼からの刺激を待っていて、俺はその状態が苦しくて嬉しい。 いつから好きなら「ずっと好き」でいつ...
  • 3-429
    慇懃攻め×俺様受け 慇懃攻めに俺様受け。 この組み合わせを生かす萌えは数多あれど、 ここは主従関係をプッシュしたいね。 王族と騎士、悪の大魔王と参謀、長官と次官、社長に秘書…(*´∀`*)モエー いつも強気でワガママで自信満々な俺様受けは、 慇懃攻めが自分のモノだと公言して憚らないんだよね。 上から見下ろす立場で、一見無茶苦茶な、 慇懃攻めの命を削りそうな命令を簡単そうな態度で出したりして。 「私を何だとお考えですか」とか冷静に言う慇懃攻めに、 鼻で笑って目を薄めたりしてさ。 「何か問題でも?」とか居丈高にサラリと言って。 結局、その一言だけで慇懃攻めは言う通りに動いちゃうんだよね。 一見がとても無茶苦茶な命令故に、 周りの臣下が「あまりにも…」とか少し言いかけたらさ、 欠伸する俺様受けの代わりに、自然に慇懃攻めが臣下Aを押し留めたりでさ。...
  • 1-429
    ショートケーキ×ガトーショコラ あれだ、ショートって事は真っ白にポツンと苺があるわけだ。 それに対してガトーショコラはまっ茶色に上にぽふーって粉砂糖粉が乗ってるんだよな。 それを踏まえて萌えてみる! 「今月の売上も、お前が一位かよ。……売れてるやつはいいよなー?」 「……どうして君はいつも僕に突っかかるのかな。」 やたらに喧嘩腰なガトーショコラに、長年みんな愛され続けている人気ナンバーワンのショート君が困るわけ。 ショートに比べると人気の落ちるガトー君はヤケになっちゃってさ。 「うるせぇ!お前みたいな真っ白のヤツに、俺の…この汚れた俺の気持ちなんか分かるかよ…!」 汚れてんのはチョコの所為なんだけど、本人はそれが劣等感でさ。ジロリ、って心底憎憎しげにショート君を睨むのね。 でも実はガトーショコラは、ちょっとしたショートへの憧れから頭の上に砂糖の白い粉と...
  • 9-429
    おあいこな喧嘩 「早い!」 互いに果てた直後、まだそこから抜いてもいないうちにそう怒鳴りつけられ、鷹野は一瞬きょとんとした。 「え、はや、て」 「イくのが早ぇっつってんの!」 広瀬はいらいらと吐き、いまだのし掛かる鷹野を押し退ける。 勢いで、秘所から鷹野のモノがずるりと抜け落ちた。 「なっ、なに言ってんだよ。ヒロセだって一緒にイったじゃん」 「そりゃお前がガツガツ追い上げるからだろ! 俺はもっとゆっくり感じたいの!」 「追い上げるったって、俺ヒロセの前はほとんどさわってないよ。てか、ヒロセ自分で扱いてたし」 「だから! タカノががんがん突き上げて来るから!」 「だいたい、ヒロセは挿れる前に一回出してんじゃん。俺が一回イくまでに二回イってんだから、  早いってんならヒロセの方だよ」 「バカ、挿れてからの話だよ!」 「じゃあなに、ヒロセは俺とヤってて気持ち...
  • 19-429
    くっついたりはなれたりくっついたりはなれたり 「もーやだ!絶対別れる!あんな馬鹿女しらねえ!」 「そっすかー」 「なんだよおまえ!先輩に対して冷たくね!?冷たくね!?」 「ンな事言われても、その喧嘩何回目っすか」 「忘れた!」 「彼女が他の男と遊びに行ったら別れて、三日もしたらよりもどして。 先輩が記念日忘れたら別れて、その日のうちに電話で仲直りして」 いい加減、別れてしまえばいいのに。 別れたって俺にチャンスなんか無いのは知っているけど… 「先輩らが別れる度に泣き付かれる俺は迷惑っす」 「う…それは悪いと思ってるけど…」 別れてしまえばいいのに 何度も飲み込んだ言葉 「もう別れたらいいのに」 不意に口をついてしまった言葉に、先輩が驚いたように目を見開く 一度口にしてしまえばとまらない 「そんなに些細な事で...
  • 11-429
    悪の組織の幹部×同組織の最下層 哀れな存在が、私の前に転がされていた…何時もの事だ。年は18~20か。 上物、とまでは行かないがそこそこには見られる若者だ。今は薬で蕩けているが、 普段はいかにも意志が強いであろう黒い瞳も、肩まで伸びた、染めていない濃い栗色の柔らかそうな髪も、良い。 「名前は?」私は目の前の贄に、何時ものように訊ねた。 「なまえ…ない…れふ…ここにくる…とき…すて…まひた」 私は密かに心底驚いた。…1mg錠で媚薬、10mg錠は自白剤、原末1gなら一包で廃人。 私の相手をさせるべく、手錠足錠をかけこの部屋に通す時には、10mg錠2つで処置させておく。 …元々、戸籍上の名前が無いような存在でも、必ず「通り名」程度は吐くはずなのだ。 「…そうか、まぁよい」 私は驚きを隠しながらもそう言うと、彼の双丘を開かせる。 そしてその奥の小さな腔に、麻酔薬...
  • 23-429
    なんちゃってSF 簡単ワープ装置が一家に一台。 気がつけば隣に居る友人は宇宙人だし、飼ってるペットは絶滅したはずの日本狼。 子供も、どちらかといえば優秀な人物のクローンを作る方に切り替わっている、そんな未来。 勿論アンドロイドは闊歩してるし、月まで行くのに、一日もかからない。 宇宙船も、頑張れば車と同じ値段で変えて、某ロボットアニメのような改造が出来る。 テレビや映画は、ホログラムでより立体的な映像で見れる。 そんな、昔俺がノートに書きなぐった黒歴史そのものな世界が、目の前にあった。 「何が、どうなって……?」 呆然とする俺の肩を、宇宙人(見た目はただのイケメン)が爽やかな表情で叩いてきた。 「よくわかったね、僕が宇宙人だって」 差し出された黒歴史ノートに驚いていると、更に宇宙人な友人は続けた。 「面白そうな設定だったから、ちょっとだけ世界をいじらせて...
  • 21-429
    真の勝者 「いいから行けよ、バカ幸人。」 「え?でも大和!お前怪我が…。」 「そんなのアイツも同じだろ、いいから行けっつの。」 「で、でも、そしたらお前一人n「あ゛~~~!!」 「譲ってやるって言ってんの! てめえ を アイツ に!  俺だって、こんな台詞臭くて恥ずかしいんだよ!  ホント早く行けバカ!」 「……ごめん大和、行ってくる。」 …フー、やっと行ったか。無駄に渋りやがって。 本当に俺を看病すんのかと思って若干焦ったじゃねーか! お見舞い&看病なんて美味しいシチュ、逃したら堪ったもんじゃねえ。 ふふふ、でもこれで俺の「幸人×京矢BLアルバム」が一歩完成に近づくな。 リアルBLの為なら、骨の一本や二本安いもんだぜ。 ああ!ホント腐男子で良かったぁ! 破れ鍋に閉じ蓋
  • 18-429
    どう見ても中学生です。本当にありがとうございまs(ry 「初体験かー……ミチノリ君はいつ?」 何の気なしに投げた言葉で、彼の動きはぴたりと止まった。 居酒屋の貸し切り一部屋。すっかり出来上がった一角では、サークルの同期と先輩達が下ネタで盛り上がっている。 「あ、ありますよ……初体験ぐらい」 あるなしじゃなくて時期を聞いたんだけどなぁ、とは言えなかった。かわいそうに、彼はもう氷しか入ってないグラスに口をつけたまま、気まずそうに俯いている。 これから先輩になる自分にぐらい、正直に本当のことを言えばいいのに。いや、まだ心を開いてないうちに突っ込みすぎてしまった自分の失敗か? 下ネタは万国共通のATフィールド中和ツールだと思っていたのだが、そんなこともないらしい。人間色々だ。そこんとこ、ちゃんと見極めようよ俺。何やってるんだ俺。何やってるんだ、新歓隊長。 ささいな自己嫌悪に...
  • 13-429
    気づくのが遅すぎた 「ボールに卵を二つ割ってください。」 「……ん、こうか?」 「はい。殻が入ってますが、まあ取ればOKですね。」 「はっはー!俺様すげー!よし、次だ。」 「次に塩と旨み調味料を入れて泡立て器でよく混ぜてください。」 「おう!えーと、塩をパパッ、味の○をササッ。で、行くぜ!」 「ちょ、待ちなさい!ゆっくりでいいんですよ。ほら飛び散ってるじゃないですか。」 「こ、こうか?こうでいいのか?」 「はい、OKです。あ、そのくらいでいいですよ。じゃあ次は醤油を回す程度に。」 「ん?ん?まわす程度ってなんだ?どんくらいだよ、それ。」 「そうですね。卵液に直径3センチほどの円を二秒で描くようにイメージしてみてください。」 「……わかんねー。まあこんな感じでいいか。」 「少し入れすぎな気もしますが、まあいいでしょう。では箸で軽く混ぜてください。」 「軽く...
  • 27-429
    新婚旅行 私が彼に出会ったのは、『元妻』との新婚旅行の時だった。 泊まったホテルのドアボーイに、私は一目で心を奪われたのだ。 妻との関係は一瞬で冷めた。新婚旅行からひと月も経たない内に私達は離婚した。 妻は私が他所の誰かに心惹かれていることを薄々気づいていたらしい。私が離婚を切り出しても 彼女は何も言わず、ただ全てを諦めたような顔で離婚届けに印を押した。 彼女との離婚が済んですぐに私は彼のいる地へと足を運んだ。 一刻も早く彼の顔が見たかった。 彼が私のことを覚えているとは到底思えなかったが、それでもいい。 私は彼をずっと見ていたい。彼の美しい顔、柔らかい微笑み、精錬された言動。 その全てを始終目に焼き付けておきたかった。 「お忘れ物ですか?」 私の予想に反して、彼は私のことを覚えていた。 なんて素晴らしいことだ。私...
  • 20-429
    独り言から始まる恋 おれとおーたが友達かっていうと、多分ちがう。 おれは友達だと思ってるけど、おーた的にはちょっと話すクラスメイトって感じ。だと思う。 おーたは根暗っぽい外見で、見たまんま大人しいけど、おもしろいこと言うし、色々ヘンなこと知ってる。 だからおれはおーたに話しかける。おーたはウザそうにしてるけど、無視しないで相手してくれる。 何でかなーって思って訊いてみたら、今のクラスになってすぐ、イジメの一歩手前みたいな嫌がらせがあったんだけど、 おれがおーたと仲良くなったらなくなったから、おれはイジメっ子避けらしい。 おーたが仲いいっていったのが嬉しかったから、くわしい内容は覚えてない。 二月に入るとみんながバレンタインの話をしだした。 おれは女子の友達がけっこう多い方だと思う。生チョコねだってみたらめんどいからヤダって言われた。 や、板...
  • 15-429
    親友だった2人が恋人になる瞬間 「ひどいよな、『実験、実験って、ちっとも会ってくれない!』って、電話でいきなりだもん」 「まあねぇ、4年生のこの時期、理学部なら誰でも卒論の追い込みだわな」 「でしょ!? 今も日付も変わろうかってのに、研究室に缶詰だよ?」 「森本んとこ、先生厳しいもんな」 「もう必要ないと思うんだけどな、この検証はさ。……ああ、ごめん、安田、それ5mlずつ分注な」 「ラジャ。優美ちゃんもな……美人だったんだけどな」 「わがままだよな……せめて、こうして安田みたいに実験を手伝ってくれればさ」 「そりゃ無理でしょう、学部が違う」 「気持ちの問題だよ。俺に会いたいって言うんならさ」 「つきあいたいって言い出したの、優美ちゃんからだもんな」 「3ヵ月か……初詣デートくらいしかやらなかったな」 「クリスマスはドタキャンだったな、そ...
  • 26-429
    存在を刻む 例えば、携帯の着信に残るお前の名前とか。 例えば、ずぼらな俺に代わってお前が直していったスリッパの並びとか。 例えば、いつの間にか本棚に入ってる俺のじゃない漫画とか。 例えば、洗面所の一角を占めるお前の石鹸類とか。 例えば、前よりも消費が著しくなった調味料とか。 例えば、お前があちこちつけていったキスマークとか。 例えば、お前が泊って行った翌日の身体のだるさとか。 例えば、ベッドに残るお前の整髪剤の香りとか。 日々の生活の中に、お前の存在を刻んでいくのが幸せでしょうがない。 なかなか好きといえない
  • 25-429
    薄くなったカレンダー 別れの時間が、近づいている。  野江が今月末に転校するんだ、といったあの日からもう2週間が経つ。 祖母の家の日めくりカレンダーはどんどんと薄くなっていって、 それは同時に彼との別れが近づいていることを示していた。  2週間前のあの日から、俺と野江は口をきいていない。 もっともっと最初のほうに教えてくれるべきだったんじゃなかったのか、とか、 ……俺っていう存在があるのに、するりと消えることに抵抗はなかったのかな、とか。  わかっている。彼が、そんな簡単な想いで俺に告げたわけではない、ということ。 でもやっぱりくるしくて、つらいのは、……俺がどうしようもなく野江が好きだから、ってだけで。 「はあ」 五度目、かな。それくらいになるため息がつくと同時に、携帯電話が震える。画面を見る。 野江祐介。意地でも話してこなかったのに、限界だったのか...
  • 16-429
    いつも貧乏くじを引く人 いつも欲しいものは手に入らない。 サンタクロースに1000ピースのジグソーパズルを頼んだときは当時の最新ゲーム機が送られてきた。 小学校の時に好きだった大人しめの女の子に告白しようとしたら、その前にクラスで一番人気の女の子に告白された。 商店街の福引で3等のカップめん3ダースを狙ったときは特賞のハワイ旅行が当たった。 就職活動で第一志望の中小企業からお祈りメールを貰い、記念で受けた誰もが知ってる大企業から内定を貰った。 人からは贅沢だとか勝ち組だと言われるが、本当に欲しいものが手に入らなければ意味がない。 どんなに周りが羨んでも、自分にとってはただの貧乏くじ。 楽しくないゲームよりも、好きでもない女の子よりも、行きもしない旅行よりも、興味のない職よりも、自分が望むことが欲しいのに。 いつからか、何も欲しがらなくなった。 ...
  • 7-429-1
    Mなのに攻×Sなのに受 「公の場で糞の匂い振りまいてんじゃねぇ。おとなしく下水を流れてろよ糞は」 初めて彼に出会ったとき、彼は俺(とその他数人)を睨みつけて、そう言った。 小柄でまるで地上に舞い降りた天使のようなその容貌と裏腹のクールな低音ボイス。 俺たちは、そう、確か4~5人いて、それなりにそれぞれ刃物などを隠し持っていて ちょうどその時小金を持ってそうなカモを路地裏に連れ込んで、圧倒的に優位な立場から 「交渉」を行っている最中だった。 にもかかわらず。 わけのわからぬ威圧感、有無を言わせぬ命令口調。…何よりそのあまりにも冷ややかな眼。 「本当に自分が糞であるかのような心地になった…」 と、後にその場にいた一人が語っていたが 俺はと言うと、まるで聖なる雷に心臓を貫かれたかのように…生まれて初めて味わう 甘美な痺れに、頬を染め、呼吸が浅く速く...
  • 6-429-2
    vvvlove(ノ^^)八(^^ )ノlovevvv 『☆* ・°★ * ・°やっほ~シマちゃん\(^O^)人(^O^)/起きてるー?(ρ.-) 俺は大学に遅刻しそう~ε=┌(; _ )┘ヒー いやー、昨日は飲み会★⌒(*^^)d_||_b(^^*)⌒☆が長引いちゃって(^_^;ゞナハハ おかげで二日酔い…{{{{(+_+)}}}}ズキズキ 寝起きにシマちゃんの顔を見たら♪( ^o^)\(^-^ )♪一発で治るo(゚ぺ)○☆んだけどなぁ|_・)チラッ うーん、早く会いたいよ~v⌒ヽ(^ε^*)チュッ(*^3^)ノ⌒vチュッ シマちゃーん、(^O^)ア(^o^)イ(^o^)シ(^o^)テ(^o^)ル(^O^)よーVvV vvvlove(ノ^^)八(^^ )ノlovevvv(*ノノ)キャーテレチャウ/// シマちゃん、今夜はうち来る?.....((((*^o^)...
  • 6-429-1
    vvvlove(ノ^^)八(^^ )ノlovevvv 「矢追君、この文字列の意味がわかるかね?」 教授が振りむいて言った。手には、今日回収した学部生の課題論文。 その一本の末尾にさりげなく印字されている絵文字に、僕は平静を装いながら説明した。 「ふむ、記号を組みあわせて絵に見立てているのだね」 成程、若者はいつも面白いことを考えるものだねえ。 そう言って屈託なく笑う教授に、僕も思わず頬が綻む。 しかし、内心はそんなに穏やかではない。 一緒に研究をつづけられるだけで、幸せ。 教授への、崇拝にも似た感情を見透かされつつ、 僕は彼の手管にいつしか溺れてしまっている。 彼の若い滑らかな肌が、瑞々しい指が、僕を優しく凶悪に捉えて離さない。 挙句、僕が指導した、教授が採点するこの論文にこの絵文字……。 「おや、矢追君、首筋は毒虫にでも刺されたの...
  • 22-429-2
    紳士攻め×流され受け 「で、どう?」  急に話が核心に飛んで、きた、と内心胃が縮んだ。  今日は久々の同乗だったから、危ないとは思っていた。  一日店で疲れ、ようやく帰宅となったらまた難題をつきつけられる。  ハンドルに集中しながらでは、とても対応できそうにない。  うちみたいな地方の大型スーパーは、不規則な業務のせいで社員の離婚率が高い。  店長も俺もそのくちで、今はふたりとも社借り上げの同じアパートに入ってる。  自家用車に同乗して通勤するのは、店の駐車場が少ないという事情のため。  社員がまず率先してパートやアルバイトに示しをつけてるわけだから、簡単にやめられない。  ……たとえ、同乗相手が俺のことが好きだなんて言い出したとしてもだ。 「しばらく考えてみてよ、柔軟な思考の訓練だと思って、ね」  店長はいつぞやの社員研修を引き合いに出して笑った。 ...
  • 11-429-1
    悪の組織の幹部×同組織の最下層 「大体いつもさ、作戦が悪いんだよ作戦が」 「はあ…」 「あと一歩って所で秘密兵器が出てくるのなんて分かりきった事だろ?  なに、それとも今回は出てこないとでも思ったわけ?  まさか出てこないといいな~とか希望的観測で作戦を進めたとかじゃないよな?」 「いや、そんなことは、…ないと思うんだが…」 「思うんっだがってなんだよハッキリしろよ!いつも現場で動くのは  俺たちなんだよ俺たち。それわかってんのか?」 「それは、申し訳ないと思っている」 もう小一時間説教を食らっている。その間正座させられっぱなしの私は しびれが足全体に渡ってすでに感覚はなかった。 おそるおそる手を挙げて提案してみる。 「すまない、次は善処したいと思うので、もうそろそろ、その…」 「お・ま・え・が言うなお・ま・え・が!」 ピシピシとプラス...
  • 12.5-429
    二十年後 「あなたとこうしてると、幸せってこういうことだって思うよ」 一つ年下の彼は、コーヒーカップを口元に運びながら笑顔を見せた。 厳しい寒さもようやく和らいで、暖かい日差しが極上の毛布のようにオレたちを包んでいる。 こうやって彼とゆっくりできるようになったのは、ごく最近のことだった。 くり返される謀略。強制的に連れ出される戦場。殺さなければ、殺されていた。 その間も彼とは、ずっと一緒にいた。 「この幸せが二十年後も続いてたらいいな」 なんてね、と冗談めかして彼が笑う。 「……バーカ。二十年なんて、甘いこと言ってんじゃねーよ」 顔が赤くなるのを見られたくなくて、そっぽを向いたオレを、しなやかな腕が抱きしめる。 それから、初めてのキスをした。 人一倍寂しがりの癖に他人と関わりを持とうとしない受け
  • 22-429-1
    紳士攻め×流され受け 初めは彼女に連れられてやってきた。 あまりにも俺の服装がダサイといって、オーダーメイドの紳士服屋。 そうしてあれよあれよという間に仕立てることになったスーツは、 俺の手持ちで一番高い勝負服となり、彼女と別れた今も捨てられない。 「ネクタイですか」 そう言って声をかけてくれたのは、スーツの採寸もしてくれた檜山さんだった。 今の給料じゃとても二着目は仕立てられないが、檜山さんに会いたくて、 俺はちょくちょくこの店に小物を買いに来るようになっていた。 「今日のお召し物はとても良くお似合いですね。今日のものに合わせるタイなら、こちらの臙脂も宜しいかと」 「じゃぁ、それを」 褒めてもらったスーツも、実は檜山さんの見立て。 この店に通うようになっても一向にセンスが磨かれない俺を見かねたのか、 檜山さんが「買い物につき合って頂けませんか」と言...
  • 4-499
    ttp //www.excite.co.jp/News/bit/00091129788010.html「抱擁売ります」 「やあ…君が?」 「ええ。お届けにきました」 早速金を払おうとする客に、刃ミッシュは手で制す。 「後でいいですよ」 客はゆっくり首を振った。 「…幸せな気分を残したまま、かえって欲しいんだ。  素敵な送りものを受け取った後に、こんな生臭いことなんか」 肩をすくめて言った客に刃ミッシュは笑って金を受け取った。 そして、腕を回す。 優しく、壊さないように、そっと。 相手が首に顔を埋めたと判ると、ゆっくり腕に力をこめはじめる。 客は目を閉じて数を数えた。 1,2,3。 ああ、懐かしくて気持ちがいい。 刃ミッシュは年下なのに、まるで父親に抱かれているような。 5,6,7。 じっと二人は抱き合った。 会話はない。ただ、二人で...
  • 4-469
    ttp //grm.cdn.hinet.net/xuite/a9/42/11018309/blog_65709/dv/3811374/3811374.wmvの、ベンチの前と後ろに座っている、左端2人に萌えてください。  高々とセンターの奥へと打ち上げられたフライを捕球したのを確認してタッチアップ。 滑り込むことなく、悠々とホームベースを走り抜けた俺の目に、一人ベンチの隅へと座る姿が映る。 俺をホームベースに帰してくれた犠打を放った張本人。 仲間や観客に手を振って、一通り笑顔を向けて応えた後、いつも通りに相手へ近づく。 「よくやったじゃん。やっぱ、俺とは違ってお前には華がある」 派手な一発や印象に残るプレイはないかも知れないけど、この人がいるからホームへ帰ってこられる。 絶妙な場所へ狙ったように打ち上げる犠牲フライ。 もしかしたらヒットを打つよりも難しいかも知れないバ...
  • 4-459
    叔父×甥 「馬鹿か、おい!」 焦った俺の声に良夫がニヤリと口元を歪める笑いを浮べる。 「だって、叔父さん言ったじゃん、俺が18になったら…って」 ベットの上に寝転んだ俺。 俺の上に重なる良夫。 確かに言った覚えのある台詞に俺はぐうの音も出ない。 あれは、まだ幼稚園の可愛い「よっちゃん」良い子の「よっちゃん」だった時代の話。 「俺を、貰ってくれるんだろ?」 夕焼け空の下、帰ってこない俺の兄貴を待つ間に交わした約束。 寂しい子供が零す、うちの子になりたい、の台詞に 18歳になったらうちにおいで、と答えた。 お前をうちの子にしてあげるから、と。 …確かに答えたけど。 「叔父さん、言ったろう?男は約束を守るもんだって」 耳元に熱く、吐息と共に注がれる言葉に、腰が浮き立つように熱を持つ。 そう、俺が言った。 俺が、兄...
  • 4-489
    こんびにおでん 「寒くなってきたね~」 学校からの帰り道、ゆっくりと駅まで歩きながら俺の隣で智樹が呟く。 「そりゃあ冬だからな」 「なんだよ~、和哉は冷たいな~」 そんなやりとりすら楽しい、付き合い始めて一月目。 ここ一ヵ月は智樹と一緒に帰るのが日課になっていた。 といっても駅まで徒歩十分の短い道のり。駅につけば家が逆方向なのでサヨナラだ。 駅の手前のコンビニの前で智樹が止まった。 「ちょっとコンビニ寄っていい?」 「別にいいけど」 コンビニに入ると店内の熱で凍えていた体から力が抜ける。 智樹が買い物をしている間、週刊誌をパラパラ捲る。 特に面白そうな記事はなく、レジを見ると智樹が会計をしている最中だった。 買い物を終えた智樹と一緒に店を出る。 「で、何買ったんだよ」 「へへー、これ!」 じゃじゃーんと口で効果音を出し、ビニール袋から買ったば...
  • 4-449
    クリスマスまであと1ヶ月 「うわっ、なんすか、これ。12月24日の晩がなんで俺と店長だけなんすか」 クリスマスまであと一ヵ月。店長からバイトのシフト表を渡され、俺はへこんだ。 「だってさ、カノジョいないのって、僕と山田くんしかいないんだよー。それにサンタ姿はベテランの山田くんじゃないと似合わないんだよ」 わけのわからない理由で泣き付く店長は俺より3歳年上。本社からコンビニ店長として出向してまだ3ヵ月、自然と俺が仕事を教えるはめになり、他のバイトの子より店長と話をする機会が多くなった。 「たーのーむーよぉー」涙目で俺の袖をつかんで甘えないでくれ、店長。その目に弱いんだから… 「あーもう、わかりましたよっ。そのかわり、店長はトナカイになってくださいよ」 クリスマスまであと1ヶ月
  • 4-439
    「一生あなただけを愛しています」 どうしてこんなことになってしまったんだろう。 「ハムレット様……」 ぐったりと横たわったこの人の体は、徐々に熱を失っていく。 心優しく、使命のために生きたこの人を、どうして助けることが出来なかったんだろう。 いつのまにか頬を涙が伝っていた。 なぜ、どうして。 この人の最後の言葉は、私の心を締め付ける。 ――このハムレットの物語を…… 私は、あなた無しでは生きていけない。 だが、生きねばならぬ。 「安らかにお眠りください……」 静かに、しばし平和の時を楽しんで。 そうして私があなたのもとに行くのを待っていてください。 私はあなたのために、生きます。 「私は一生、あなただけを愛しています」 クリスマスまであと1ヶ月
  • 4-479
    刑事 車内はまるでコントのように沈黙でぱんぱんだった。 辺りは暗く、車内も暗い。柔らかい黒い闇が、眠気を誘っているような気もする。 僕は缶紅茶をすすった。ぬるい。 「……キタさん」 「おう」 運転席の西がやったらめったら澄んだ声で呼びかけてきた。 涼しげーな本人の容貌にぴったり過ぎるいい声だと密かに僕は思っている。 「………」 西の気配が急に緊張しだした。何だ?めずらしいな、と思い促す気持ちで顔を見る。 西は数メートル先のマンションの玄関を、じっと見つめていた。 絵になるなあーとうっかり思ってしまうが、まあいいだろう。絵に描いたように誠実な刑事の横顔をぼんやり見る。 「…気づかれてますかね?」 「ああ、まあな」 僕たちはつまり牽制に過ぎない。あいつらはどうせ黒だ。 「ホントですか」 西が少しショックを受けたような声を出した。 「最初から分かっ...
  • 4-409
    もう着ない制服。 僕はまだ真新しい、ぴかぴかの制服を時々眺める。 一度も袖を通されていない、この制服の持ち主は僕じゃない。僕の親友の物だ。 いつもへらへらしてたあいつが、入学式の前日やっぱりへらへらしながらうちに来て、 「俺は第2ボタンなんてケチ臭いことは言わない! つうわけだから  まるごとくれてやる! 受け取れ、この俺の素晴らしい愛!」 なんて叫びながら制服押し付けて、バカかお前、入学式どうすんだよって言おうと 口を開く前に「んじゃ、大切にしろよーそれ俺の愛の結晶だから!」なんて 気持ち悪いこと言ってあっというまに消えてしまった。 翌日、入学式にあいつの姿はなく、あいつが住んでいたアパートも空家になっていた。 あれから3年が過ぎ、僕は大学生になって一人暮らしを始めた。 クローゼットには、真新しい制服が吊り下げられている。 もう着ない制...
  • 4-419
    皇帝ペンギン 「ほら、あっちゃん見て、すごいよ!」 頬を上気させた従兄弟が、今にも走り出しそうな勢いで俺の袖を引いている。 従兄弟の目指すガラスの向こうには、寒そうな氷の上でのんきな寝顔を晒す皇帝ペンギン。 あーあー、目ェ輝かせちゃって。 好きだとは知ってたけど、こんなに喜ぶんならもっと早く連れてきてやればよかった。 「かーわいいなぁ。よちよち歩いててさ、赤ちゃんみたいだよね~」 かわいいのはお前の方だよ。ああクソッ、その笑顔、無理して会社休んだ甲斐があったってもんだ。 「…ねぇ、あっちゃん。」 突然、コツンと水槽ガラスに額を当てて。 「転勤しちゃっても、また来ようね」 明るい声とは対照的に、ぎゅっと手のひらを握られた。 「…帰りにぬいぐるみ買っていくか」 明日から居ない俺の代わりに、お前が寂しくないように。 でもな孝平。俺の転勤先にも、お前...
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    ttp //www.excite.co.jp/News/bit/00091129788010.html「抱擁売ります」 「笑うよね。このニュース。抱擁を競売?そんな、たった一度で癒されるんだったら、僕は義兄さんとこんなになってないのに。」 義弟と初めて会った時、俺は17で義弟はまだ15だった。週に一度、訪ねて来てた父親が、お前の義弟だと言って公園で会わせてくれた。 忙しい父親と奔放な義弟の母親のために、幼いころから、孤独に慣らされていた義弟。 「乳母を母親だと勘違いしてたんだ。」 義弟が、ぽつりと話す思い出は、いつも痛い。 義弟が、家政婦とふたりだけで取り残されてた誰も居ない広い家には、無機質で不毛な時間が流れていた。 俺と半分だけ血の繋がった愛情に飢えてた少年。学校の事、友達の事、その日あった些細な話を、聞いてくれる肉親は俺が初めてだったらしい。 本当...
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    ttp //www.excite.co.jp/News/bit/00091129788010.html「抱擁売ります」 マンションのエントランスに足を踏み入れてゾッとした。 下品な安物の香水の匂いを忘れきれていなかった愚かな自分にだ。 畜生。忌々しくてしょうがない。 「おつかれ」 忌々しいといえばこの男じゃないか。よくもこうノコノコと顔を出せたもんだ。 別れ際家にある包丁全部持ち出して散々脅してやったの忘れたのか。 果物ナイフやチーズナイフまで振り回していた自分が、今考えると滑稽でならない。 「おい、だいじょうぶか。自慢のスーツがヨレヨレじゃないか」 そんな顔してそんな声音で、絡めとろうたって無駄なんだよ。僕だって成長したんだ。 しかしいつもながらお前のタイミングの良さは本当に素晴らしいな。弱りきった最高潮の晩に現れやがって。 お前はタイミングの良さと運の良さ...
  • 24-469
    女の子にモテまくってるけど隠れゲイな攻め 「おー、おあよー佐藤に琴ヶ峰さーん。今日も夫婦揃ってご登校か、仲いいねえ」 「はよー田中」 「田中! 夫婦じゃないってば! 私はこいつが家がとなりだから仕方なくー!」 「夫婦じゃねーけど、こいつ、前に田中と先に学校行ったとき、めっちゃ機嫌悪くなって大変だったから」 「あーもうヤメテー佐藤夫妻の夫婦喧嘩に俺を巻き込まないでー」 「はー教室着いた。琴ヶ峰さん、佐藤のことになるとガチ切れすっからこええわー」 「あいつ、ムキになりやすいんだよ昔から。あ、そういやこの間田中が言ってたゲーム、クリアしたから貸すぞ」 「お、マジでマジで、さっすが佐藤さまステキー」 「ちょっと!!! 2-E佐藤!!! いる!!!?」 「びびった。なにあれ、3年の都大路さんじゃん。佐藤知り合い?」 「……? いや、あんな金髪...
  • 24-409
    非の打ち所のない人間×底辺であがく男 「頼む!雇ってくれ…!」 目の前で土下座をしているのは、かつて僕を苛めていた元同級生だ。お洒落かどうか分からない派手だった服は、今やボロボロの布を纏うだけ。髪の質は傷みに傷みまくり、手も傷だらけで荒れまくっている。 …何だっけ。澄ました顔がムカつくだっけか。教師に媚び売ってる優等生ちゃんとも言われたか。女はべらかすな…あ、これは別の人に言われたのか。 「…なあ、同級生のよしみじゃねえか。昔は水に流そうぜ、な」 黙っている様子に、怒っているのかと思ったようだ。だが、僕は怒っていない。いや、寧ろいい機会だった。 父親の後を継ぐ為にはエグいことをされるだろうし、するであろう、そういう未来を確信していたから。まさに客観的に辛い苛めという機会は、いい機会だったのだ。 「……お前、何も変わってねえな」 「はい?」 「...
  • 24-439
    いくら俺が鈍くても気づく 好きだと言われるまで、貴方が俺のことを好いているなんて思いもしなかった。 驚きのあまり固まってしまった俺を見て、貴方は言った。 「あんだけモーションかけてたのに気づかないとは、お前は鈍いなぁ」 そう笑いながら抱き締められた貴方の腕のなかで、 俺はようやく自分の中に恋心が芽生えているのを知った。 酷い夕立にあい、駅で立ち往生していると、 のっそりと此方へやってくる貴方の姿が見えた。 そんな筈はないと訝しげに顔を歪めた俺を見て、貴方は言った。 「居るはずがないって思っただろう? 俺がどれだけお前のこと考えているのか気づかないとは、お前は鈍いなぁ」 そう笑いながら俺を傘の中に迎え入れた貴方の体温を感じて、 俺はようやく貴方に思われることの喜びを知った。 熱にうなされ、苦しさのあまり寝るに寝れない状態に陥っていた。 ふと物音が...
  • 24-479
    嬉しい愛しい寂しい 「先輩好きっす!」 「先輩!!世界中の何よりも大好きっす!」 「えるおーぶいいーっす!先輩がラブっす!」 「先輩のホームラン痺れるっす!かっちょいいっす!!いつか、俺の為に打ってほしいっす!」 「先輩!他の奴らのことなんて気にすんなっす!先輩は先輩らしく堂々としてたらいいっす!そんな先輩が俺は大大大好きっす!」 「先輩と、先輩とデート…!」 「大丈夫っす!自惚れはしないっす!」 「先輩!私服もオシャレっす!惚れ直すっす!」 「うわあ、プラネタリウムって綺麗っすね…」 「せ、せ、先輩…て、手繋ぎたいなあ…なんちゃっ……!?あわわわ」 「…やばいっす。お試しって分かってるけど、嬉しくて、泣きそうっす」 「先輩ありがとうございました!今日は、一生の宝の日っす!」 先輩?もしかして泣いてるんすか? ...
  • 14-439
    きみといつまでも 「おーい、瀬!」 いつものように僕は君の名前を呼ぶ。 「・・・何ですか、バカ竜」 いつものように君は返事をする。 「瀬は本当にツンデレだなぁ。デレてよん。」 「嫌です。ていうか本当にうざいです死んでください。」 本当にいつものこと。 でも、前はこれがいつもじゃなかった。 僕は、数年前にこの子と出会った。 瀬は一人だった。家族は軍の奴等に殺されたらしい。 軍の奴等から逃げて倒れている時に、僕が助けた。 もう、最初の頃はとっても無口だったのに、今じゃこうさ。 まぁ、これはこれでいいけど。 「なに考えてるんですか、気持ち悪い。」 「もー、変なことなんて考えてないよ?」 「普段の行いが悪いんですよ。」 むぅ、せっかく助けてあげてるのにぃ! …本当はこんなくだらない事してないで、逃げなきゃなきゃないのにね。 僕らは一応軍に逆らったも...
  • 14-449
    学生やめて久しいので休みなのかどうかもう全然わからん。でも冬休みはクリスマス前後からだよなあ、まわし 「最近制服見ないなあ。もう学生は冬休みか?」 つり革に捕まって電車に揺られていると、どうしても眠気が襲ってくる。 まさか立って寝るわけにもいかない。そう思って隣に立っている同僚の三田に話題をふった。 「……でも、冬休みはクリスマス前後だよなあ?……クリスマスっていえば、お前予定決まった?」 三田は答えなかった。ただこちらを見ている気配だけがする。 かまわず口を動かす。俺は寝たくない。 三田が僅かに身じろぎした。かっちり着込んだコートが俺のよれよれのコートにぶつかる。 「……俺、今年はクリスマスにちゃんと家で過ごせるかも怪しいよ」 そろそろ日付が切り替わる電車の中は人がすし詰め状態なのに、いやに静かだ。 ひそひそ喋る俺の声と、どこかの誰かから音洩れしているらしい流行...
  • 14-489
    傍若無人なくせに天然 「へへへ…観念しろよ。こんなとこに誰か来るとでも思ってるのか?」 「っ…く、……ぐぁ…!」 茶髪の男に容赦なく脇腹を蹴り飛ばされ、床に蹲る俺を見下ろして、他の二人が下卑た笑い声をたてた。 …迂濶だった。次に試合で当たるF高は、退部させられた生徒の中に、教師も手を焼く問題児がいると聞く。 「探り入れると『不慮の事故』が起きる」という噂はこういうことか…。気づいた時にはもう遅い。 「お前、二年の諸井だろ?いろいろ聞いてるぜ、K高の期待の星とかって」 「どんな奴かと思ったら、ヒョロっこくて女みてえじゃねえか。こりゃ別なほう期待したくならねえ?」 「だははは、お前最っ低ー!!俺ぁてっきり、腕捻るくらいでいいかと思ってたのによ」 「優しくしてやろうぜー、アッチのほうも脆そうだしな。モロイだけに」 「さぶっ、笑えねー!!」 などと言うくせに嘲笑する声に...
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