*9が指定したカプ・シチュに*0が萌えるスレまとめ@ ウィキ内検索 / 「5-719」で検索した結果

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  • 5-719
    記憶喪失 怪我「自体」は大した事はないと言われ、急いで向かった入院先。怪我以外の問題を告げられた診察室。 そっと入った薄暗い個室。眠っているのを確認して触れた髪の毛の柔らかさ。静かに、起こさないよう にと、声を押し殺して泣いた。彼のぼんやりとした瞳に俺が呆然とした朝を過ごした後、初めて会った 日の感覚を懸命に思い出して、やり直そうと誓った。見てろよ運命、と神に喧嘩を売って自分に発破をかけた。 そして、退院日。 病院を後にして桜の咲き始めた帰り道を歩きながら、肩のスポーツバッグをかけ直して彼が喋りだした。 「お前さ…俺が入院した日の夜、隣で泣いてただろ」 「え…」 ばれてたのかと、うろたえる俺を彼は鼻で笑った。 「アレだけ泣かれりゃ起きるって。ヒックヒックうるさかったし」 「ゔ」 「でも、まぁ…」 久し振りに直接肌に注ぐ太陽が眩しいのかすっと目...
  • 12.5-719
    青春真っ只中な二人 手を握れ。 そのまま家まで送れ。 方向間逆?だったら最初に言え。 離れたくないなら抱き締めろ。 そんな目で見るな。 だからそんな目で見るな。 なんでお前が泣きそうなんだバカ。 顔が赤いのはトマト食べ過ぎたんだ。 ミニトマト一個でも食べすぎなんだ。 お前少しかがめ。 何もしないから早くかがめ。 いいから早く。 ――バカ、早く目を瞑れ。 空気よめ。 早く帰れ。 いつまでそうしてんだ。 俺は帰る。 またな。 ……5メートル離れてないのに、メール送んな。アホ。 青春真っ只中な二人
  • 12.5-719-1
    青春真っ只中な二人 青春18きっぷって年齢制限無いのは有名だけど、乗車期間限定なの知ってた? 新宿から山形まで8時間かかるなんて事聞いてない。しかも全部各駅停車と来たもんだ。 反対側の座席の窓からは、梅雨真っ只中のどんよりした暗い空しか見えない。今どの辺だろう。 今年の夏切符は7月から使えるんだけど、さくらんぼ食べれるの10日くらいまでなんだよね。 さくらんぼと聞くとドキッとする俺は変なんだろうか。 一年でこの時期しか味わえない果実。とろけるほど甘くて酸っぱくて、すぐに傷ついて膿んで腐って。 茎を結べるとキスが上手。2個くっついて描かれる。どう考えてもレモンより青春ぽくて恥ずかしい。 よりによってそんな物、今じゃないと駄目だから一緒に腹いっぱい食おうぜなんて熱心に誘うなんてさ。 冬は毛蟹となまこ、あと明石焼きを食べにいったんだ。うまかったよ~と思い...
  • 15-719
    元ヤン はじめて担当を任されたタレントは、信じられないくらい綺麗で、信じられないほど俺様な元ヤンのアイドルだった。 「野村あ、タバコ切れんぞタバコ」 「あ、またそんな…!一応平成生まれの未成年アイドルなんですから、喫煙してるとこなんか撮られたら…」 「とっくに成人した昭和生まれだっつーの。ガタガタぬかしてねーで、火」 クイッと上向きにくわえられた最後の一本に、胸がドキリと高鳴る。 白いフィルターのすぐ先には、薄く色づいた唇と陶磁のような白い肌。 見上げているのに高見から見下されてるような威圧感をもった鋭い視線。 この目に睨みつけられて、逆らえる人間がいるのだろうかと、思ってしまうくらい俺は目の前の彼に骨抜きにされてしまっている。 「しゃ、社長がご覧になったらなんて仰るか…」 「その社長命令。お前と2人の時は羽伸ばしていーってよ」 喫煙者でもな...
  • 25-719
    雨の日の告白 仕事で知り合ったアイツは、整った外見だけでなくクールになんでも隙なくこなすいかにもデキる奴だった。 そんなアイツが幼馴染にだけは甘く、仕事中だろうと会食中だろうと電話一本で呼び出されていく。 どんな相手なのか気になって、一度後を付けて見にいったことがある。 幼馴染は、身なりに気を使わないガキみたいな冴えないドンクサそうな奴だった。 歩いているだけで何かへましてアイツは怒っているのに、その表情は俺が見たことのない優しい色を浮かべていた。 敵わない。 絶対にオレの想いは報われないと気付かされた。 このまま知らなかったフリで仕事仲間として側にいる事は出来るが、それじゃオレは先に進めない。 アイツに告白して、キッパリ振られる覚悟を決める。 思い立ったら即実行だとばかりに、雨が降っているのに傘も差さず奴の住まいに向かいながら「話したいことがある」とメールをする...
  • 6-719
    冒険家仲間 「昔誰かの対談で読んだんだけど…あ、片方はシーナマコトだったはず」 「え?なに?」 「冒険家って、単に想像力が乏しい人種なんじゃないかって…自分達が困っている状況が  想像できないだけなんじゃないかって」  その顔は笑っているけれど、声はすこし強張っている。自分達は明日から冬山に 登る。付き合いだしてから、関係が仲間から恋人に変化して初めて。 準備は遺漏なく整えているはずだが、いつだって万一はある。 …そしてその可能性がなければ登山なんてしない。 「ああ、俺には想像力がないな、確かに。だからお前と付き合うのも想像だけじゃ  我慢できなかったんだ」  そして彼を組み伏せる。湯を贅沢に使った入浴直後の彼の身体を抱きしめるのは しばらくお預けとなるだろう。  玉砕を覚悟したあの告白の時に比べたら、正直なところどんな冒険もスリルに欠ける。 ...
  • 1-719
    夏ミケ×冬ミケ 「さむい」 「・・・・俺はあつい」 「温めろ」 「これ以上あつくなりたくない・・臭いだろうし」 「僕は君の匂いも好きだ」 「やめろ、これ以上あつくなったら死ぬ。」 「僕は今日という日に結構なウェイトを割いているんだ。温めろ」 「肉体労働で熱射病になってこの世とオサラバか。悪くないかもな」 「僕は冷え切っている。逆に君が涼しくなるだろう」 「温めるんじゃなかったのか?あつくなりたいんだろ?」 「どうかな。君の頑張り次第だ」 「肉体的に?金銭的に?それとも、精神的に?」 「三択というのはいけない。何事もバランスが肝要だ」 「へぇ、じゃぁ今日のバランスはどうなの?」 「決まっている。どれも95%ずつだ。」 「残りの5%は?」 「君の頑張り次第だと言っている」 「仕方ねぇな。何事も積み重ねだしな。よし、死ぬ気で温めてやる」 ………ま...
  • 9-719
    移籍 最後の練習を終えた後、ひとり残って荷物の整理をしていたら、もうとっくに帰って行ったはずのあいつが、足音も荒く ロッカールームへと戻ってきた。肩で激しく息をして、シャワーを浴びた髪もまだ生乾きのまま。 「今、フロントから聞かされて───本当なのか。あんた、移籍の件了承したって」 「早耳だな」 ロッカーにそんなに荷物を溜め込んでいたつもりはなかったのだが、足許に置いたスポーツバッグは許容量いっぱいだ。 このチームに在籍して3年、物理的な荷物の他にも色んな思いが交差して、俺は持ち上げたバッグを殊の外重く感じた。 「随分あっさりしてるんですね。チームに愛着がないわけじゃないでしょう?───あんたがいなくなったら、誰が俺に シュートを決めさせてくれるんですか。あんな鮮やかなパスを、一体他の誰が俺に寄越すって言うんだよ」 「…上が決めたことだろう。チー...
  • 4-719
    ノンケに告り罵倒される攻め (携帯電話で告るシチュで) 『もしもーし。誰ー?』 「おれおれ! 俺だよ!」 『…俺には事故る息子はいないから詐欺なら他当たってくれ』 「ちょ、まっ…! さ、詐欺じゃないって! 俺。攻男」 『ああ、攻男? わっり、登録してなかったからわかんなかった。で?』 「唐突ですが…俺、お前が好きなんです!」 『………はあ? 何そのバツゲーム』 「罰ゲームじゃなくて…ま、まじで」 『ちょ、ヤバいってお前。ホモとかデラキモいって』 「…」 『お前俺のことそんな目で見てたの?』 「…ええ、まあ」 『きんもー!! つか電話で告とかどうなのお前! いや、これバラしてい!?  マジさあ、「攻男注意報」とか出そうよ! やばいって!  皆ケツの穴にガムテしてくるって! やっべマジうける!!』 「…あ、あの、俺別にだれかれ構わずケツ狙ってる訳じゃなく...
  • 3-719
    一晩限りの関係 彼のことを、何も知らない。名前すらも。 いつもと同じ、行きずりの関係となるはずだった。 誘い、誘われ、駆け引きを楽しんでから肌を重ねる。 いつもと違ったのは、別れる時。 連絡先を訊こうとし、何度もためらい、結局何も訊かなかった。 その気になれば探し出せると思っていたから。 あの時は、まだわからなかった。 どれほど彼に心を奪われているのかなど。 そのことに気付いた時、全ては遅かった。 名前すら知らず、手がかりもなく、写真もなく。 そのバーの常連だと思っていた彼は、実はその日限りの客で。 彼の声も、彼の匂いも、彼の仕草も、鮮やかに思い出せるのに、 まるで存在しない、彼の痕跡。 二度と会えない彼を想い、何度も記憶を再生する。 一夜限りの関係だった。 想いは千夜続くだろう。 光源氏計画
  • 8-719
    あぁ勘違い 俺、初めて気づいたんだけど 「え、ちょっと何?え、待って?!」 「?どしたの?」 「え、だってさ…」 彼と付き合い始めて約3ヶ月。 お互い男と付き合うのは初めてだったせいか、 部屋に行き来するのに一線を越えさせてくれない彼。 もともとエッチ大好きの俺としては有り得ないほど待ちに待ったこの時が今日来たのだ。 彼を部屋に呼んで、酒を飲ませていい雰囲気に持ち込んだ。 そのまま勢いでキスしたら彼も満更でもない顔。 酒で赤くなった肌、ちょっと潤んだ目。 やばいよな。 狭い部屋は少し移動すれば、すぐベッドだ。 お互いキスしながら、服を脱ぎながらベッドに腰を下ろす。 彼は脱ぐと意外に華奢だった。 その薄い肩口に唇を落とす。 彼の手が俺の後頭部に廻って、その指で髪を梳いてくる。 そのまま唇を胸の方へ下ろしていく。 と、彼が声を上げた。 ...
  • 7-719
    今夜すべてがパーに 「オーケー、俺深呼吸。俺今夜超頑張っちゃう。」 そういいながら彼は愛しい彼のために 今まで培ってきた全てをぶち壊しても構わないと決意を決め 身を乗り出しベランダからその隣のベランダへ まるで羽ばたく鷹のように飛ぼうとしたが しかしそれはペンギンのごとく落下し べりゃりという間抜けな音と共に落下したのであった。 事の発端は三日前。 愛しい彼と落下した彼は無二の親友であり 古き我が家を隣り合わせにした幼馴染であり、 なんでも話せてしまう兄弟のようなものであり、 ということを、お互いに自覚し認めあっていたのであったが 落下し今にも泣きそうな彼の持っている一物は どうしても学校のどんな才色兼備の乙女達を見ても反応せず こともあろうに親友で幼馴染で兄弟のような彼の夢を見た瞬間に 初めて自分が男になったという事件からだった。 今にも泣...
  • 2-719
    THE・修羅場☆ワロス でも萌えあがったよ…坊ちゃん 「お前、ちゃんとリロードしたのか?」 「大丈夫、分かってるって」 「お前はいつもそうだ、大丈夫大丈夫って、いっつもリロードし忘れるじゃないか」 「そんなにカリカリしなさんなって。ほんと神経質なんだからお前は」 「俺が神経質なんじゃない、お前がのんびりで構わなすぎるんだ」 「そうかぁ?まあ気にすんなよ。大したことじゃねえじゃん」 「これでいったい何回目だ。何回繰り返せば気が済むんだ」 「なんだ?牛乳でも飲んでカルシウム摂れよ。ちっとは落ち着くぞ」 「お前がそんなだから皆困るんだよ」 「皆って誰だよ」 「誰って……誰でもいいだろ」 「おい、教えろよ」 「お前には教えねえ」 「なんだと?俺以外の誰のことを考えてんだ?」 「お前には関係ないだろ」 「いいや、この口割ってそい...
  • 19-719
    でかいチワワ フウ…と溜め息を付きながら 体育祭の喧噪を逃れオレはひと気のない校舎裏へ来た。 原因はさっきの仮装リレー。 受け狙いの競技のくせに、以外と得点が高いこの競技。 秘密兵器のアンカーとして送り込まれたアイツは凄かった。 なにせ可愛らしいぶかぶかのチワワの着ぐるみが 他のクラスの特撮ヒーローやら忍者やら海賊やらをごぼう抜きにして ぶっちぎりの1位でゴールしたんだから。 そのあと、着ぐるみの頭の部分をハズして「やったぜっ!」って手を振ったアイツの笑顔。 クラスの皆でそれを喜びながらも、オレは複雑だった。 そんな笑顔を、他の奴らに見せてほしくない。 これ以上、注目されてほしくない。 なんだかいたたまれなくなったオレは、逃げるように校舎裏へとやってきた。 ようやく少し落ち着いたとき、いきなり後ろからどつかれた。 「…ってぇ、何だよっ!」 ...
  • 23-719
    異端審問官 「違うんです!抵抗したのに彼が力ずくで唇を重ねて!」 「それで?」 「そしたら舌が入ってきて……」 「ディープキスをしたと」 「でも僕は『こんなの駄目だ』って逃げようとしたんです……そうしたら彼が僕の……その……」 「んん~僕の何?言ってごらん」 「僕の、アソコをですね……」 「アソコってどこ?ちゃんと言わないとわからないなぁ」 「ですから僕のおちんちんを……」 「んんん~君のおちんちん?それはどんなおちんちん?ハァハァ」 「それは関係あるんですか!」 「あるかどうかは私が決める事だ、さあ恥ずかしがらないで言ってごらん、君のどんなおちんちん?ハァハァ」 「普通のおちんちんを」 「普通?普通って何だろうね、こりゃもう実際に見ないとわからないね?」 「はあ?」 「さあ!おちんちんを見せて!」 「嫌です」 「君に断る権利なんて無いんだよ?さあ...
  • 27-719
    何でも屋 近所に何でも屋ができた。 「何でも屋ですか」 「ああ」 店にいるのは髪の短い店主のみ、普段の仕事は何をしているんだろう? 何でも屋って言うからにはなんでもするんだろうし……エロイこともしてもらえるんだろうか。ちょっとだけ想像してのどをごくりと鳴らした。 「気になったんで普段どんな仕事してるのか教えてください」 店主に声をかけた。すると店主は掌を上にして軽く揺らした。 「小依頼1つで5000円だ。うちは前払いオンリーなもので」 金の要求……ちょっとした質問ですら金が必要なのか。 「はい、5000円」 しかし知的好奇心は収まらなかった。財布の紐の硬さよりも、好奇心は大きい。 「ん、たしかに」 「基本的になんでもする。多いのは小依頼で一つ5000円。その次に多いのが中依頼で30000円、それ以上の大依頼はものによる。 そうだな、今やってるような小依頼...
  • 16-719
    女好きのノーマルが男にハマる瞬間 女の子はかわいい。 ふわふわしてて、まるくって柔らかくて、なのに細くて ぎゅってしたら壊れそうで、それなのに芯は強い。 理想の女の子ならたくさんいる。 茶髪のくるくるパーマの子も好きだし、黒髪ストレートの子も好きだ。 一重の切れ長な目も、二重のくりっとした目も好きだ。 キツイ性格の子も、甘えんぼの子も好きだ。 どの子にも共通して抱く感情は、「守ってあげたい」。 それに尽きる。 「それってなんか、不純だよな」 そう言って日本酒を一気に呷る、嫌味なほどにオトコマエな、俺の幼馴染。 こいつの家には大量の酒と大量の本しかない。 この安アパートの狭い一室が図書館になる日も遠くないんじゃないだろうか。 「どこが」 「女の子を守ってあげたい、ってエゴじゃん」 「悪いか?」 ぐっと俺が飲み干すのは、アルコール度数の低い缶チュ...
  • 14-719
    追い掛けられる悪夢 義也はいつも困ったような顔をして笑う。 「夜ね、よく眠れないんだ」 授業中、豪快に舟をこいでいた彼を起こしてやった時も そんな顔をしていた。 それがきっかけでよく話すようになり 彼はちょくちょく俺の部屋に遊びに来るようになった。 俺は一人暮らしだったし、自宅にいるより気楽だったのだと思う。 彼の家が複雑な事情の下、父子家庭であり しかも父親と折り合いが悪いらしいのは会話の端々から読み取れた。 眠れない、というのは本当のようだった。 初めて泊まりに来た夜、義也は酷くうなされた。 肩をゆすって起すと、息が荒く、体が激しく震えていた。 昔母親がしてくれたように、 やさしく腕を叩いて「大丈夫、夢だよ」と言うとわずかに震えが収まった。 「起きるにはまだ早いから、もう一回寝な」 すがるような瞳が揺れる。 「怖い夢見てたらまた起し...
  • 18-719
    少しだけカニバリズム 俺の好きな男は痛覚が鈍い。 先週は電柱にぶつかって額から血を流しながら平然と歩いていた。 先月は車に轢かれ腕を骨折したのに一日気付かず仕事を続けていた。 「考えてみれば、痛覚だけが鈍いというより、全体的に鈍いんですね。  それでよく怪我をするから少しくらいでは気にも留めない」 「そうとも言えるかもな」 俺は男の上にまたがり、シャツのボタンを一つずつ外していく。古い傷跡を少しずつ露出させながら笑うと、男は蛇のようだと揶揄した。 「好きなんですよ」 「俺が?俺の体が?俺の体についた傷が?」 「さて…難しいですね」 すべてのボタンをはずし終えた後で胸にそっと唇を寄せる。 そして、心臓の上のあたりの皮膚を、噛んだ。犬歯を食いこませ、引っ張りあげるようにして噛みついていると、やがて皮膚がぷつりと切れて口の中に血の味がしみ込んでくる。 そっと口を...
  • 17-719
    詐欺師 その人が亡くなったと知ったのは、バイトを終えて帰宅した夜の十一時頃だった。 首都圏から大きく離れた山間にある俺の町では、日に一度の新聞も大きな娯楽のひとつであるから、日中はそれはもう大騒ぎだったらしい。 母に投げつけられた地方紙の一面には「凶悪詐欺事件多発」の文字。右下に目を向けると小さな枠に、地元の権力者の名前と通夜の場所が簡潔に書かれていた。 (…アドレス、消さなきゃな) 住所は三軒先の大きな家だった。 *************** 町外れの工場で火葬をした。このあたりでは、土に埋めるのが当たり前だったけれど、故人の意思を尊重して、とのことらしい。 列席はしていない。 というのも、俺のバイトというのは、お金の余ってそうなおじさんに甘えて、カードの番号やらブラックな資産を聞き出すちょっと後ろめたいものだったから。 そのささやかな詐欺の、3番...
  • 24-719
    負けるわけにはいかない勝負 幼なじみのあいつと再会したのは、なんの変哲もない、家具もない、監視カメラが四方にあるだけの、のっぺらぼうみたいな部屋の中だった。 一瞬で息が止まる。そんな再会。 負けるわけにはいかない勝負だった。負けた方には死が、生き延びた方には生が与えられる。それもまた、次の勝負へと送り込まれるだけの 生なのだけれども。だがそこでまた勝利を得られれば、その命は生き延びる。果ての無い次の勝負の時へと。 俺はもう、その繰り返しに疲れていた。気が狂いそうだった。涙だけはどうしても流れなかったけれど。 監視カメラの向こうには、この勝負の行く末に金を賭け、上質の酒を飲みながら愉しんでいる奴らがいる。 反吐が出そうだ。 わざと負けたなんて、ばれるわけにはいかない勝負だった。俺はうまくこなしたと思う。 床に膝を折った俺を見降ろして、...
  • 28-719
    桜の木の下で泥酔した二人。 「だからよぉ、俺はこのままじゃダメなんだよぉ」 「んなこと言ったって、お前元々ダメ人間じゃねーかァ」 見えるのは、提灯に照らされて暗闇に浮かぶ春の花だけ。 聞こえるのは、酒に呑まれたバカ二人、つまりオレとあいつの管巻く声だけ。 いつの間にか他の奴らはどこかに行ってしまって、オレたちだけが地面に寝そべっている。 「なぁ、桜の木の下には死体が埋まってんだってよ」 それまで自分がいかにダメかを熱弁していたあいつが、ふと声を落とした。 「何だよォそれ、どの漫画に出てきたネタだ?」 あいつはオタクだから、時々変なことを言う。茶化すつもりであいつの方に顔を向けると、 「……俺さぁ、お前と一緒に埋まりてぇや」 目が合った、と思ったら、手首を掴まれていた。 「このまま桜が散ってよぉ、花吹雪がどんどん積もってよぉ、なぁんにも見えなくなんだよ。...
  • 10-719
    チャリで2ケツ 背中に感じる相手の体温とか 肩から胴へとおずおずと回した腕とか いつもより重たいペダルが、幸せの重みなのだとか 横座りなんか女の子みたいで嫌だとか けど股関節が痛いとか からかったらぶつけられた、華奢だけど逞しい拳の固さとか 腰やらあらぬ辺りの鈍いだるさとか 仲良いなぁ、と冷やかされたり 普段、思っているより広く感じる背中とか ふざけてて、チャリごと河原へと滑り転がっていった事とか パンクしたチャリを、 ジャンケンで交代でひいて歩いた事とか コラ!二人乗り止めなさい!とお巡りさんに怒られた事とか 喧嘩して無言で、それでも二人乗りの帰り道とか 声が聞こえなくても、触れ合った場所の振動で 笑った事が分かったり。 向き合って、お互いの顔が見れない事はもどかしかった でも二人、頬にうける風は気持ち良かった 見つめ合わなくても、心が通...
  • 13-719
    比べっこ(性的な意味で) 「比べっこしよう」 「だが断る」 「えーいいじゃんほらほら柱~のき~ず~はおとと~し~の~しようぜー」 「最近急激に頭と首と背中が大きくなってきた野郎と背の比べっこなんぞ したくはない。おととい来やがって下さい」 「何で足を抜かすんだよ!ちゃんと足も伸びてるよ!」 「でもこの間身長が8cm伸びたけど座高も8cm伸びたって聞いたよ」 「うっせー座高が伸びたのは6cmだ!」 「あんまり変わりはありません本当にありがとうございました」 「ちくしょー!こうなったら意地でも比べっこしてやる!」 「うおっとおいこら重いぞ手前自分の縦幅と共に増えた横幅を自覚しろ!」 「何でそう頑なに背が伸びたって言わないんだよ!そーれ大人しくせんかい!」 「あーれーお代官様おやめくださいー」 「よいではないかよいではないか~」 ...
  • 21-719
    慣れていく自分が怖い なぁ、どうすりゃいいと思う?お、俺…こんなになっちまって 分かってんだよ、これは…こんなのは絶対ヤバイって なのに、今だって頭ん中はあいつで…あいつがやったことで一杯だ 俺が埋め尽くされてく…全部…ああ畜生、ぜんぶだ あいつの手管に…あいつのすべてに慣れていく自分が、怖い 慣れていく自分が怖い
  • 8-719-1
    あぁ勘違い 「目が覚めたか?」 耳元から聞こえる声に覚醒しきらぬ頭は事態を把握できない。 「あぁ悪いな、客布団ねぇんだよ。狭苦しかったか」 …えっと…そうだ、昨日は商談成立させた祝杯をってTさんのマンションで飲んだんだっけ。 「スーツ皺になるから掛けといたぞ」 あぁどうも。。 …って俺いつパジャマに着替えたんだ!? つーか客布団ないからってなんで一緒に寝てるんだよ! うぁああぁぁ~!ヤバいよ、ヤバい!どうしよう。 「くくっ…覚えてないのか?気持ちよさそうに寝てたもんなぁ。 着替えさせんのも大変だったぞ。」 ぇえーっ!じゃあ、あんなとこやこんなとこも見られちゃたわけ? 慌てる俺を見て事もなげに笑ってくれちゃってさ。 いつもと変わらぬ大人な余裕で…いつもと変わらぬちょっと悪ぶった態度で…。 マンションにまで誘ってくれて嬉しくて嬉しく...
  • 1-719-1
    夏ミケ×冬ミケ 「ちょっと君、寄らないでくれなよ。汗臭いじゃないか。汚いなあ」 「オマエが寒そうだから暖めてやろうと思ってたんだよ」 「大きなお世話だ。ホッカイロも持ってるし野外ストーブも持ち込んである。  いくら薄着で来ても暑さに勝てない君とは違うんだ。おかげで会場は快適だよ」 「おい、そういうのは負け犬の遠吠えっていうんだぞ?  結局のところ俺の方が入場者数多いんだからな。日数も多いし」 「し、仕方が無いじゃないか!年末だから皆忙しいんだよ!  最近じゃm-1グランプリなんてのまで近くでやるし…そもそも君が夏にやるから僕が冬になったんじゃないか!」 「オイオイ逆ギレかよ……しかも泣いてるし。ま、そういうとこが可愛いんだけどな」 「ちょ、なんでそうな……やめっ…は、半ソデの腕が張り付いて気持ち悪い……っ!」 「オマエの胸が汗ばんでるから張り付くんだよ。寒いから...
  • 7-719-2
    今夜すべてがパーに 外は嵐だった。 実を言うと、中も嵐だった。分厚い唇が唇にあたる。 湿り気を帯びた大胸筋同士を、肌と肌とで擦り 合わせる。ぐしゃぐしゃになったシーツの上で、 ずぶ濡れになったスラックスの足を絡めれば、 革のベルトが軋んで鳴いた。 こいつはこんなに鼻息の荒い奴だったんだろうか。 オレの頬やら首筋やらにキスの雨を降らせながら、 葛西は喉から声を絞り出した。 「三年だ。三年間黙ってた。ずっと目を閉じて、おまえの 側で、一日一日をやり過ごしてきたんだ」 雨に打たれて脱ぎ捨てられたワイシャツが雑巾のようだ。 二人分、まとめてベッドの下に丸まっている。 「なのに、今夜、全部パーになっちまった。どうしてくれる」 葛西の腕がオレをまさぐる。 どうしてだと、そいつはおまえだけのセリフではない。 そうだ、今日という日がなければ、一生気付かぬ ...
  • 7-719-1
    今夜すべてがパーに もともと酔った勢いで体から始まった関係だし。 しかもそれを脅しにして、半ば強引に続けてきた関係だし。 もともとノーマルなあんたにゃ、荷が重かったのもわかってたし。 「ま、今夜は盛大に飲むか」 わざと明るい声を出して、煙草を灰皿に押し付ける。 改札口からあふれ出す人波。 みんな似たようなスーツ姿だってのに、なんであんただけすぐに見つけられるんだか。 「早かったね、待たせちゃったかな」 「おー、遅かったじゃねーか。残業?」 「うん。ごめんね」 そんな顔して笑うなよ。こっちまでしんどくなっちまう。 「ハラ減った。今日はあんたの奢りな」 「はいはい」 不毛な関係は今夜で終わり。 優しいあんたに甘えてきた関係も、 それ以前に数年かけて築いた友情さえこれでパーだ。 別れてやりましょ。 可愛い奥さんと産まれてくる子供の為に。 ...
  • 23-719-1
    異端審問官 個人的萌えワードだったので妄想を語る。 (※注意:宗教的な知識は殆どありません。非常に偏った・間違ったイメージです) 「教会」「信仰」「司教」「異教徒」「異端」「狂信者」が出てくるような世界観が好きだ。 また「諮問機関」「懲罰委員会」などの集団が出てきた日には単語だけでwktkする。 だから、「異端審問官」はそのどっちも兼ね備えている存在であると言える。 もうその響きからしてかっこいいよ!(※個人的に) 「異端審問」とは、異端者(異教徒)の疑いのある者と裁判にかけるシステムらしい。(wikiより) よって、それを執り行う「異端審問官」をキャラクターとして考えると次のようなポイントがある。  ---------- 1.信仰心  信仰の代理人として異端を取り締まる職に就いているのだから、勿論、自身の信仰は疑うべくも無い。  よく言えば「信心...
  • 21-719-2
    慣れていく自分が怖い シラフでも酔ってても欲情しててもとにかく祥吾さんは俺の体に触りたがる。 伸ばされた細い指先が俺の顎を。 「伸びたねえ、髭。」 手のひらで、肩を。 「お前、分厚いよこれ、どうすんの?格闘家にでもなんの?」 腕が体ごと俺を引き寄せて。 「お前可愛いねえ、ちっさいねえ。でもなんかすごいでかくなった?」 ……どっちだよ、と。 いくら俺が髭を伸ばそうが筋肉つけようが、祥吾さんにとって俺は可愛い存在らしい。 どんなに仏頂面して払いのけてみても、というか逆にそうすると祥吾さんは何だよお前つれないなあとか何とか言って余計に手を伸ばしてくるのだった。 俺は自分のテリトリーに人が入るのも、俺自身に触れてくるのもあまり好きではないから正直な所初めはかなり閉口したんだこの人には。 祥吾さんは、するりと人の懐に入ろうとする...
  • 21-719-1
    慣れていく自分が怖い 「面白いものを撮りに行く」 とかバカなことを言って、お前が日本を発ってから5年。 「友達できた!」 って現地の子供達とお前の、すごい笑顔の写真が届いてから3年。 何の連絡もないってのは、どういう了見だ? 「待ってて欲しい」 出発の日にお前はそう言って俺に土下座したよな? 勝手なこと言うなって怒り狂う俺に、 「絶対に帰ってくるから」 って約束したよな。 遠いどっかの国で紛争が始まってから3年。 お前の携帯が、ずっと圏外になってから3年。 連絡がない腹いせに、お前の置いていった歯ブラシ、トイレ掃除に使って捨ててやった。 帰ってきたら一緒に買いに行こうと思ってたのに、俺の歯ブラシの隣は今も空いたまま。 ベッドももう右半分空けずに、ど真ん中に寝てるからな。 帰ってきたら、俺に蹴落とされるのは覚悟しとけよ。 ...
  • 5-709
    じゃぁおでんでも食うか (やっと、終わった……)   あと少しで完成するはずだった企画書に致命的なミスを見つけた。  慌てて直しにかかったものの、もともと俺はあまり要領のいい方じゃない。  なんとか修正を終えてプリントアウトまでこぎつけた頃にはすでに終電もない時間になっていた。  当然、社内には俺一人だ。この妙に静まり返った空気はそんなに嫌いじゃない。 (駅前のカプセルにでも泊まるか……いや、それより先に飯だな)  ほっとした途端、猛烈な空腹感に襲われる。昼食の後はおやつに小さなマドレーヌをひとつ食べたきりだ。  何を食べようか、この辺りでまだ開いてる店はいくつあっただろう。  そんなことを考えていると、廊下の方で小さな物音がした。 「お、やっぱりまだいたか」 「先輩!」  入ってきたのは同じ部署の先輩だった。  俺より2歳上で実は出身校も同じだが、あっち...
  • 5-779
    見た目怖面中身わんこ×見た目クール中身天然小悪魔 「電車の中でいちゃいちゃするのはどうかなぁ」とか。 「お姉さん、足開きすぎてスゴイ色のパンツが見えてるよ……」とか。 「もう日本はヤバイなぁ」とか。 「それにしても昨日の飲み会でくじいた足首、まだ痛むなぁ」とか。 そのくらいの事しか考えてなかったのに、目が合ったカップルは顔色を変えて席を立ち、隣の車両へと逃げて行った。 それに気付いた周囲の乗客も、自分の顔を見るなり同じように逃げるか、もしくはいきなり寝たフリを始めた。 こんな外見でもハタチ前。柴田は深く傷ついた。 電車が駅で停車すると、ノートパソコンを手にした氷室がせかせかと乗り込み、柴田の姿を認めるやその隣の空き席にどっかと腰を下ろした。 膝に乗せられたノートパソコンの画面には、文書作成ソフトがいっぱいに開いている。 柴田が朝の挨拶をする前に、氷室は「現...
  • 5-759
    僕の叔父さん 「ねーねー叔父さん、起きてよー」 「……うるさい…」 「ハラ減ったよー朝ご飯ー…」 「………」 もう七時なのに。こんなにいい天気なのに。 一人暮らしの独身男は休みの日は夕方まで布団から出ないって本当らしい。 おれがいきおいよくカーテンを開けると、 叔父さんは本当に迷惑そうに頭を布団につっこんで動かなくなった。 しかたない。おれがおいしい朝ご飯を作って、この不健全なおじさんに さわやかな目覚めをプレゼントしてあげるか。 「ねーねー叔父さん、ちょっといい?」 「……なんなんだよ…うるせーな…」 「ごめんね。あのさ、消化器ってどこにあるの。」 「………何?」 「あのね、冷蔵庫にメンチカツがあったからカツサンド作ろうと思ったんだ。  そんでメンチをオーブントースターであっためようとしたら、なんか…」 「うぉおー!?トースターが、燃えてい...
  • 5-739
    いじめられっ子×いじめっ子 「もうほんとわかんない、なんでいじめられてんのかさっぱりわかんない  なんで俺のこといじめんの?サドなの?サドなんだろ?」 「サドじゃなくてもお前がきもいからいじめてんだよ!」 「俺のせいなの?じゃあ俺がサドになればいいの?」 「マジきもい、水でもかぶってろ!」 「ちょ・・冷たい・・ひどい・・・ひどいけど・・水も滴るいい男ってかんじする?」 「しねーよ!少し黙れよ、もっとひどいことしていじめるぞ」 「まさか・・・!俺のことが好きだからついいじめちゃうのか・・・!?」 「(こいつとうとう頭おかしくなったか?)」 「俺、お前のこと好きだから何されたって構わない!お前のことをはなさない! これからも一生いじめてくれ!俺だけを!」 「お前マゾなんだな」 もう一人でかがやけな...
  • 5-769
    政治家と役人 「さぁ、これで話はおしまいだ。いいね?」 「……」 「こんな報告書は存在しなかった。なぁに、簡単なことだろう。  君はただ私の言うとおりにしていればいいんだ…これからもな。」 「…そんなの……です…」 「何?」 「そんなの、でも…裏切りです」 「裏切り…」 「国民の、信頼に対する…裏切りです…」 「…かわいいことを言うね。」 そう言うと、男は目の前の青年の額に指を触れた。 青年は少し顔を伏せただけで、振り払おうとはしない。 「しかしね、そんな甘いことを言っていては…勝ち残れないんだよ?」 「…甘い…こと……」 「…ん…?」 弱々しくつぶやかれた言葉を確かめようと、男は青年の顔に、自分の顔を近づけた。 そのとき、男の耳は青年がこう言ったのをはっきりと聴き取った。 「でも、貴方のほうが、ずっと甘くておいしそうですよね」 「...
  • 5-789
    攻めのピンチに颯爽と現れて助ける受け 大昔から体育館裏への呼び出しといえば告白かリンチのどちらかと相場が決まっているわけで。 できれば前者であって欲しいなぁなんて甘い考えは、目の前に現れた男の巨体によってあっけなく打ち砕かれた。 「……先輩、今時呼び出しとか古いですって。昭和の学園ドラマじゃないんですから」 ふざけて口元を歪める俺には興味なさげに、相手は眼光を鋭くしたまま告げる。 『冗談言うな』とか『最近生意気なんじゃねぇのか』とか。 うわぁすごい、これってマジで昔のベタなドラマのワンシーンみたい。金/八?金/八ですか? 俺は今、古き良きツッパリドラマの一コマに吸い込まれてタイムスリップ中ですか? っつーか、そもそもこの先輩自体天然記念物モンだろ。 今時、まっ茶のリーゼントって、え? ひょっとしてそれはギャグで(ry などとぐだぐだ思っていると、突然目の前に飛ん...
  • 5-799
    3月32日 「春だなあ」 「おー…。あー…ねっみ」 「春だし、朝だからなあ」 「おー…」 「でももう起きなきゃなあ。またハゲ課長にゲンコツとハゲ菌とばされるぞ」 「お前インモーにもらっとけよ…春だからって伸ばしすぎだよお前」 「いらねえよ。つーか伸ばしてねえよ」 「いいよもー…俺眠いから今日会社休む。適当にごまかしといて」 「ドコのガキだよ。ほら、3月も今日で終わりだろ。〆日なんだしシャンとしろ」 「はあ? 昨日で3月終わったよバカ」 「あーあ、普段新聞読まないから一人だけ時代に取り残されてやんの。  今年から3月は32日までだぞ?」 「うっそ」 「マジで」 「…風呂入ってくる」 「…何か色んな意味でヤレヤレだよ」 収録後
  • 5-749
    もう一人でかがやけない 「近づくなよ……。もう放っておいてくれ」 「泣きながらそんな台詞言っても説得力ねえよ」  なんでお前はいつも俺につきまとうんだよ。へらへら笑って散々俺を 振りまわして、だけど最後は「付き合ってくれてサンキュ」なんて、屈託 のない笑顔を浮かべるから、俺は疲労もなにもかも忘れてしまう。  そんで、俺がボロボロになった今も、お前は相変わらず俺につきま とっててさ。マンションまで押しかけてきたかと思うと、なんか食うか、なん てほざいた。勝手に冷蔵庫を物色したかと思うと、具のやたら大きなカレー を用意してきた。 「泣きたいなら、泣け」 「……優しくするな、気持ち悪い」  テーブルの上に乗った、空になったカレー皿。まだスパイスの香りが残る 部屋の中で、お前は俺を抱きしめる。  「……」  「ひとりで生きていける」  小さい頃、...
  • 5-729
    同い年で老け顔×童顔 「はぁ~。俺プチ整形しようかな」 とんでもない事を言い出した親友に、俺は読んでいる本から目を上げた。 何でプチ整形?と問いかけると親友は口を尖らせてこう言った。 「B組の女子で高橋って居るじゃん」 「うん」 「俺昨日告白したんだー」 プチ整形よりも今の発言の方が驚いた。いつの間に… 「それで?」 冷静さを装いながら話を促す。 「そしたらさ、高橋が『大人っぽい人が好きなの』って」 なるほど。 高橋は目の前の親友と同じように小柄で童顔、所謂庇護欲をくすぐるタイプだ。 今までの彼氏は皆、年上か頼りがいのある奴じゃなかったかと記憶している。 それじゃフラれるのは仕方ない、と心で呟きながら俺は親友を見つめた。 すると、こいつの表情がたちまち険しくなる。 「……お前の顔ムカツク」 「はぁ?」 「お前みたいな大人っぽい顔だったら俺だって...
  • 15-709
    嵐 単身者用の引っ越しコンテナを、業者はあっさりとトラックに積んで行ってしまった。 「終わった終わった。すまんな、手伝いまでしてもらって」 先輩が大きくひと伸びして、頭に巻いたタオルを取る。 「いえいえ、俺運んだだけですから。掃除はもう先輩が済ませてましたし」 「バイト終わってからわざわざ来てくれた後輩に、そこまでさせられないよ。  それに俺ももう暇だったしな……あーあ、大学生活もこれで終わりかぁ」 「お疲れ様でした。先輩が残してくれた歴代の過去問とエロDVDは、 しっかり後輩に伝えていきますんで」 「おう、任せたぞ……って、なんかもうちょっとないの、俺の功績」 笑いながら、先輩は 「じゃ、行こうか、もちろんおごるからさ。お世話になります」 と、俺を促した。 鍵と菓子折を1階の大家さんに渡し終わると、この町に先輩の居場所はなくなる。 ...
  • 15-799
    養い親 川を流れる雪解け水に染め上がった反物を晒す。 足元はヒップブーツがかろうじて守ってくれるが、生地を扱う手は厚い手袋など つけるわけにはいかない。 切れるような冷たさに耐えながら、俺は親父の新作を丁寧に広げた。 流れに踊るのは季節外れの百合の花。 古代紫の地に、影に藍をぼかした白百合が配された、古くから伝わる技法を きっちりおさえながら現代的な作品だ。 濃く色をのせ過ぎだろうと思っていた百合の影の藍は、冷水に晒されブラシで 糊を落とされるとほんのりと淡くなり、白い花びらを美しく浮き上がらせた。 それは確かに百合の花の柄なのだが、単に写実的な表現でも、デザイン化 された表現でも、古典的な表現でもない。自然の中に咲く百合からその魂の輪郭を 抽出して絹地に写し取ったかのような、写真以上、絵画以上の百合だ。 ああ、綺麗だ。...
  • 25-759
    北風タイプと太陽タイプ 「北風と太陽」は、「旅人の上着をどちらが脱がせられるか」 という北風と太陽のたわいのない勝負 冷たい北風を浴びせ続けても、旅人はより強く上着を抑えるばかりで 太陽が暖かな光を満たして初めてそのボタンを自ら緩めたのは有名な話 「だからきみは不器用だというんだ。ただ吹き荒れるばかりが手段でもなかろうに」 「うるさい。貴様にとやかく言われる筋合いはない」 その冷たさ、過酷さから恐れられ、疎まれ続けた彼は いつしかその心も同じように凍てついていると思われてしまった。 「俺の仕事はすべてを閉ざすこと、枯れさせること。貴様になぞ理解できるものか」 ぼくは知っている。彼の季節があるからこそ、人はやがて訪れる春の暖かさを尊く感じることを そして冬、雪がすべての命を抱きしめて眠りにつかせる間、それを乱す者がないよう守っていることを ...
  • 25-769
    ギャル男受け 勉強が好きか?と嗤われながら問われたので、僕は勉強が好きだ、そう答えた。すると、天才は違うなとかガリ勉とか、そんな言葉を掛けてくる。 勉強に勤しんでいる訳でもない。ただ、楽しいだけなのに。 しかし、周囲は嗤う。 そんな中で、1人だけ、周囲とは違う言葉を掛けてきた奴がいた。 奴とは今年から同じクラスになり、教師も手を焼いている。主に校則違反の髪型と、崩した服装、アクセサリー等において。 しかし、愛想が良くリーダーシップもとっていて、憎めない生徒とみなされている。 僕とは反対の奴と思っていた。 「いいんちょーって、勉強好きなんだ」 「ああ」 「オレもさ、服とか髪いじんの超好きなんだ!」 Mの字の前髪を触りながら満面の笑みで告げると、奴は手を差し伸べてきた。かと思えば、ぶんぶんと僕の手を握っては振る。 「おい、佐伯ー...
  • 15-729
    はじめてのおつかい はじめて、あの方が一人で買い物へ行きたいと仰った。 幼い頃からボディガード無しには外出できない身分であった彼は、気ままに買い物をするなんて経験は全く無かったのだ。 もっともそんなご身分だからこそ、私が歳近いお目付役としてお近づきになれたのだが。 「欲しい物がおありでしたら、こちらで用意致しますが」 「駄目だ、俺は自分で見て買いたいんだ」 「何故私がお供してはいけないのですか?」 「俺はもう子供じゃない。たまには羽根をのばさせろ。」 結局説得はかなわず、その『はじめてのおつかい』は決行された。 当日は秘密裏に街中にSPが配備される厳戒態勢。 気づかれぬように超小型の隠しカメラ、発信機などが彼の服に仕込まれ、街の防犯カメラなどと連携した監視ルームで、私は彼の動向を見守っていた。 彼と長い時間離れるのはどれ程久々だろうか...
  • 15-739
    何も伝えられないまま 卒業式は粛々と進んでいく。 式典の時の吹奏楽部の定位置である講堂の2階席に座りながら、俺は 居並ぶ卒業生の後頭部の中から、先輩を探すという無謀な試みをして いた。 時間切れを告げる「卒業生退場」という司会の言葉と共に、部員達の 前に指揮者が立つ。 俺は学生向けの安物のトランペットを持上げた。ペットには、不釣合いなバック のマウスピース。 「木田、木田。コレ見ろよ!」 「新しいマウスピースですか?」 「おう。デニス・ウィックだ。オレ好みなんだよ、コレ」 先輩は愛器を構えるとCから半音で滑らかに駆け上がって見せた。 トランペットの開放感のある高音がいつもよりもクリアによく伸びる。 「な!」 瞳をキラキラさせながら言う。 「いいですね」 「だろ?だろ?」 俺の言葉に満足そうに頷く。こういうとこ...
  • 25-779
    一番知られたくないこと 拝啓 中野君、まだまだ寒いですがいかがお過ごしでしょうか。 僕は元気です。いま、北海道にいます。 君は顔もガッカリですが好みもガッカリなので、日本3大ガッカリスポットの時計台の写真を同封します。喜んでくれるかな? さて、僕がなぜ北海道なんかにいるかというと、面と向かって話す事も出来ない話ですし、この手紙を受け取った君がすぐに僕の元へ訪ねてくる事も出来ないように出来るだけ遠くに行こうと思ったからです。 僕はこれから君に一番知られたくなかったことについて、決心を決めて書こうと思います。 君は、顔は本当に地味で、特徴がなくて、身体つきも中肉中背、黒髪短髪という全くといっていい程個性がないヤロウですね。 親近感が湧くのか知りませんが地味なものやガッカリスポットを好み、友人も似たようなヤツばかりですね。僕を除いて。 その点僕はど...
  • 15-749
    ツンツンデレなご主人様×ベタ惚れどMな奴隷 僕はあの方を恨んでなどいません。 あの方は、素晴らしい方です。 いつも堂々とされていて、たくさんの人たちに慕われていました。 学の無い僕にはよくわかりませんが、中央では大事なお役目を任せれていらっしゃったとか。 ……ああ、そうなんですね。取締りの。それは大変なお仕事ですね。 やはり、立派な方なんだ。なんだか嬉しいです。 声が、よく通るんですよ。少し低めの、響くような声。 お聴きになったことがありますか?……そうですか。 厳しい方でもありましたから、叱られるときはそのお声に身が竦んだものです。 他の下男などは「まさに落雷のごとく」と震えていました。 でも僕は、叱られることすら嬉しかった。 そのときばかりは、あの方は僕だけを見てくださっているのですから。 どうかしましたか、そんな顔を...
  • 25-729
    寝正月 ドッという笑い声が聴こえて目が覚めた。 寝起きには見慣れない、しかし馴染みある天井に、ひとつまばたき。 上体を起こす。なるほど居間である。 首をぐるりと回して天板の上の眼鏡を取る。 昨日、僕はどうやらあのまま寝てしまったらしい。 溜め息と共に炬燵の中で無造作に動かした足がふわついた何かに当たって、息も動きも止まる。 布団をめくり、中に向かって声をかける。 「……教授、あけましておめでとう」 "教授"は気を悪くした素振りもなく、僕の脚にいちど頭を擦り付けた。 「お、起きたかー………ってなにやってんのお前」 「新年のご挨拶だ」 襖を開けて入って来たのは、昨夜何の前触れも無しに押し掛けて来たアホである。あー、と生温い合点の声がしたかと思えば、向かいの布団がばさりと開いた。膝をついて炬燵を覗き込む奴が見える。 「ねこすけー、あけましておめ...
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