*9が指定したカプ・シチュに*0が萌えるスレまとめ@ ウィキ内検索 / 「5-819」で検索した結果

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  • 5-819
    新たな職場で、懐かしい出会い 「……たっちゃん?」 えらく懐かしい呼び方に振り返ると、眼鏡をかけた気の弱そうな男が、胸に抱えた図面ケースの後ろからこちらをうかがうように見つめていた。 「たっちゃん、だよね?」 細い首になで肩。 眼鏡の奥の澄んだ瞳。 細い顎に小さなホクロ。 俺の脳裏にピカッと何かが閃いた。 「……ピカソ?」 ここ十数年の間口にしなかったあだ名を言うと、相手の顔がぱあっと輝いた。 「たっちゃん! 何そのヒゲ!!」 ピカソは笑顔で俺に向かって手を伸ばし、俺たちは自然と握手を交わした。 「じゅうご……十六年ぶり?」 「小学校卒業したっきりだから、そのくらいか」 「びっくりしたなぁ、まさか同じ会社なんて」 「俺も驚いた。世間って狭いな」 屋上の手すりに寄りかかり、灰色に霞む都会のビル街を眺めながら、俺達はパンとコーヒー牛乳という昼飯をお...
  • 12.5-819
    来るの遅過ぎだよ 黒く縁どられた彼の顔は見たこともないほどの満面の笑みを浮かべていた。 陸上部のユニフォームを着てるから、きっと大会かなんかのとき撮ったんだろう。 ああ、そういえば。あいつは陸上部だったっけ。 友達と知り合いの中間、俺達の関係を言葉にするとしたらそんな感じで 話したことはあってもアドレスなんて知らないし、ふたりきりになったらまず間違いなく沈黙。 だから昨日急に俺んちにやってきた時だって冷静に考えてみればなんで場所知ってんだよ て感じなんだけど、とにかくそのときはうわ、なに話そう…そればっかり考えてて。 だから宿題のことだのクラスの女子のことだの色々頭をめぐらせている俺の腕を掴んで スキって言ったかと思えばたちまちキスしてくるなんてことはまったくの予想外な上に そんな状況で俺の身体は拒否するどころか縋るようにあいつに抱きついて、俺も。 なんて...
  • 15-819
    海の底 遠くで鳥が鳴いている。僕は、静かに潮風を吸い込んだ。 君と僕が駆け落ち同然に将来を誓い合ったのはずっとずっと昔の事で、 君が病に倒れたのもまた、ずっと昔の事だ。 血族も知り合いも居ないこの土地で日ごと癌に体を蝕まれていった君は、どれだけ心細かったろう。 僕は、少しでも君の支えになれていただろうか。今では知る術も無い。 それでもあの時、僕らは二人で病気に立ち向かっていた。 君を取られぬ様、僕は必死だった。 だが、忘れもしない十年前の今日、君は僕を遺し逝ってしまった。 『君を遺して先に逝ってしまう僕を許して欲しい。』 そんな書き出しで始まった遺書には、墓は要らない、灰は海に撒いてほしい、といった要望が簡潔に書かれていて、最後に、 『君は生きてくれ。生きて、恋人をつくり、幸せな家庭を築いて、僕の事など忘れてくれ。』 と...
  • 25-819
    必死過ぎた告白 「こーや!かえろう!」 「うん。まって、道具箱てさげに入んなくて」 「はーやーくー!」 「ちょっと待ってね、あ、入った」 「よっしゃ!サッカーゴール確保するぞ!ダッシュ!」 「ダッシュ!」 「え、もう5時!?嘘だ!」 「おなかすいたしねぇ」 「嘘だ!」 「鐘なったよ、かえらなきゃ」 「嫌だ!」 「だめだよ暗くなっちゃうよ」 「だめ!こーやもかえっちゃだめ!」 「だってごはんたべないとしんじゃうよ?なんで?」 「だってあしたから夏休みだし!こーやとあそべないし! おれこーや好きだからずっとこーやと学校にいる!だからかえっちゃだめ!」 「はは、けんくんないてる。おもしろい」 「おもしろくない!ふざけんな!ばか!あほ!」 「だってもうにどと会えないみたいなんだもん。夏休みでも学校きてあそべばいいじゃん」 「あ...」 「ぼく...
  • 15-819-1
    海の底 ひい爺さんが死んで3ヶ月。 俺はチャーターしたクルーザーで沖縄の海にいた。 ひい爺さんは、白内障の手術もしたし、補聴器も手放せなくなり もしたし、足腰も弱くなったけれど、80歳を越えてもボケたり せずに新聞を毎朝隅々まで読むしっかりした老人だった。 ゲイカップルの俺と淳司にひい爺さんは最後まで味方をしてくれた。 カミングアウトして親父に勘当されそうになった時、「ワシの所有 株は全部正樹に生前贈与する。それでも勘当できるもんならして みろ」と言い放って親父を黙らせた。 言った通りに生前贈与の手続きをすことになった時ひい爺さんは、 「正樹と二人きりで話がしたい」と言い出した。 親父も弁護士も部屋から追い出すと、ひい爺さんはセピア色の ボロボロの写真を出した。 それは男たちの集合写真だった。 皆、そろいのつなぎ姿だ。襟元に白いマフラー、頭...
  • 4-819
    リロミス 「うわーしまった、リロードし忘れてた!」 「こいつバッカでー!とっくに俺がレスしたっつの」 「「26分もたってケコーンとかありえねー!!」」 「…………え?」 「えーと、これってもしかして、お前?」 あるインターネット喫茶での出会いのひとこま。 隣り合った見知らぬ二人が現実のケコーン(もどき)に至るまで、あと三ヵ月弱。 お前の小さな台所で寝かしてくれ
  • 1-819
    若頭x組長 深夜の繁華街。悪趣味でド派手なネオンと虚ろに歩く人間達の群れ。 俺は冷えた地面に重い腰を下ろして、膝に顔を埋めた。 軽蔑した様な視線が、時折俺のボロボロな肉体に刺さるのを感じる。 馬鹿にしてんのか?そうだな、お前らは家に帰れば温かい家族と食事が 待ってるんだもんな。それとも、他人の不幸は蜜の味って? …ああ、もう何も見たくない、何も聴きたくない。 「…おいガキ、ここで死ぬつもりか?」 何時間そうしていたんだろう。頭の上で低い声がして、俺は顔を上げた。 サングラス越しでもはっきり分かる、鋭い眼光。 黒いスーツの下にはきっと逞しい身体が隠されているんだろう。 …モノホンか?俺、殺されるのかな。そんな事をぼんやり考えていると、 「来い。せっかく貰った命、粗末にするモンじゃねぇ。」 「…!?」 ぐいっと腕を掴まれて、乱暴に引き摺られる。 ...
  • 3-819
    太陽×ひまわり 言葉の通り眩し過ぎるその姿をひまわりは見上げる。 「やあ、ひまわり」 はにかんだ表情は優しかった。ひまわりも彼に微笑み返す。 こんなことがどれだけ続いただろう。 ひまわりが物心ついたころから、太陽は彼の前にいつも姿を現した。 毎日とはいかなくとも、いつもその柔らかい笑顔でひまわりの様子を見てくれていた。 ひまわりはすぐに彼に惹かれて行った。 夕方になると必ずどこかへ帰ってしまう太陽を、追いかけたい気持ちが空回りする。 「何故僕はここから一歩も動くことができないんだろう?」 幼かった頃のひまわりの無知な問いに、太陽は困ったように優しく笑った。 やがて自分の幹がしっかりしてきた頃になると、 ひまわりは自分が植物であるということをようやく認識した。 マンションの屋上で、どこかの部屋の子供が夏休みの宿題に育てたひまわり。 眼下に揺れる街路樹やベラ...
  • 7-819
    成就しない片想い 「秋斗」 俺は話しかけた。秋斗は俺の気持。よるが、しっている 秋斗は怒ってた。俺の告白を怒ったのが理由 恋人になるのが怒ってるなら… 寒かった 「秋斗怒らないで」 5分後 「二度と俺に顔見せるな拓夫」 俺にとって死刑にされたのとおなじみだった。何故! 「秋斗!」 秋斗は見なかった。「秋斗… たが拓也涙した。 もし明日死んでしまうとして
  • 6-819
    よりによってなぜこの上司 よりによってなぜこの部下  昔の友人達との集まりの帰り、何となく車に乗る気分にならずに久しぶりに電車で帰る事にした。 終電間際の慌ただしい駅の構内をほろ酔いで呑気に歩いていたら、ふと背後から近寄ってきた人物に肩を組まれた。 顔を見合わせたが、知らない男だ…酔っぱらいか?それともやはり知り合い…などと混乱しているうちに、 いつの間にか後ろにも二人、あっさりと人目に付かない場所に誘導されてしまった。 「…おっさん何やってんの?つかマジ何したらこんないいスーツ着れんの。」 「すっげー、俺らどんなに頑張ってもこんなカード一生持てねぇー」 無精髭をはやし目立つアクセサリーを身に付けて体格もそれなりにいい彼らは、 私の鞄を物色しながら些細な事でいちいち笑い声を上げる。 私は…情けない事にただそれを見ていただけだった。私が呆然としていたのは、 もち...
  • 9-819
    遊び人×まじめっこ 「嫌だ」 「え。何で?」 「こんな昼間から」 「いいじゃねーか。今日休みだし」 「ここは居間だ」 「布団は外に干してるじゃん。ソファのが楽だろ」 「その前提が既におかしい」 「カーテン閉めてるし外からは見えないって」 「絶、対、に、嫌だ」 「じゃあ布団取り込んでベッド行く?」 「そういう問題じゃない」 「じゃあどういう問題だよ……ちぇー、キスはさせといて、おあずけかよー」 「……お前って」 「ん?」 「日曜の昼間にキスしたらそのまま最後までいくのが当たり前なのか」 「当たり前っつーか、好きな相手といちゃいちゃしたいのは当然だろ?」 「……へえ」 「何だよその間。……ったく、お前ってたまに妙なところで頑固だよな」 「……」 「昔もそうだったけどさ。頭良くて真面目だけど融通が利かなくて一本道歩いてるっつーか」 「……」 ...
  • 8-819
    ハリネズミのジレンマ  あるとき、ぼくは――恋をした。  寒い寒い冬の風が吹く頃だ。  背の高い草を掻き分けてご飯をさがしてた僕は、大きな広場に出ていた。  金属の冷たい木がところどころに立つ、大きな広場だ。  ひくひく鼻を動かして広場を歩いていると、ふと僕の耳に大きな大きな声の波が押し寄せてきた。  驚いてぱちんと目を瞬かせる。よくよく見れば、広場の中央に大きな生物が座り込んでいた。  ――ぼくはちゃんと勉強していたから、それがなんなのか直ぐに分かったんだ。  ふわふわの毛を頭の上だけに生やし、不思議な布で体を覆う白い肌の動物。それは、人間、って言うんだ。  人間はね、皮の靴でぼくたちを踏み潰そうとする――って先生は言ってた。だから、ぼくも先生のいいつけどおりに逃げ出そうと思ったんだ。  だけどね、その人間は全く動かない。  あれ、と思ってじいと目を凝ら...
  • 2-819
    telinkoもみもみ もーみもみー telinkoもみもみ もーみもみー そして、姐さん方の心のtelinkoが喜ぶリクどうぞ。↓ 「やめろ!触るな、偽者め!」 「・・・少し静かにしろ。」 「黙れ、偽者・・!!  お前は本当は存在しないんだ・・  シナプスの片隅の欲望が生んだ、妄想に過ぎないんだ・・・!  お前、なんて・・存在しないくせに・・・っあ・・・!」 「ここに俺はいるだろう。じゃあお前の目の前にいる俺はなんだ?」 「違う、違う・・っあ、やめろ、や、やめ・・いやだっ   お前なんて・・・いない・・・いない・・・!!」 「・・・いないと言い張るのなら・・・それでもいいさ」 「あっうぁ、ああ、嫌だ、嫌、だ、ああ、・・・お前、なんて、」 (本当は存在しないことなんて) (俺がいちばんよく知ってる) ...
  • 17-819
    絶叫系男子 「今日は平日だし、そこそこに空いているのも当然だろうな」 「そうですね!」 「タモさんを目の前にした観客になるな。で、俺をここに連れてきてどうするつもりだ」 「普通、遊園地って行ったら遊ぶもんだと思うよ」 「そりゃそうだけど、男二人で仲良く遊ぶってのもどうなんだ」 「馬鹿だな、女の子と来たらジェットコースター三昧なんて出来ないだろ。お前も嫌いじゃないよな?」 「そりゃ嫌いじゃない。別に特別好きでもないけど」 「またまたー。ほらほらさっさと行くぞ。丁度時間になるっぽいし」 「もう勝手にしろ……」 「あードキドキする!すっげードキドキする!でもこのドキドキがいい!」 「変態か」 「おっ、出発するって。ほんの数分だけどドキドキだね!!」 「ちょっと静かにしろよ……うおっ」 「出発ー!」 「すげえ!こええーー!」 「……っうわ…...
  • 16-819
    おしゃべりワンコ系×無口素直クール 「ね、ね、ね。アイス、スイカとメロンがあるんだけどどっちがいい?オレはねースイカがいいかなぁ、いや今日はあえてメロンかな?うーん迷う。どっちにしよう!ね、シュウは?」 「・・・・・・どっちでもいい」 「えええ。あ、じゃあオレはスイカにするから、シュウはメロン食べて。でさ、一口ちょうだい?」 「ん・・・」 シュウの綺麗な瞳が、今はその前髪に邪魔されて見えない。つまらない。 手元の本に夢中なシュウはこっちを見てくれない。つまらない。 ねぇ、つまんないよ、シュウ。 「オレの話聞いてる?シュウ」 「聞いてるよ」 「その本おもしろい?」 「まあまあ・・・」 「オレとその本とどっちの方が好き?」 そう言うと、ようやくシュウが顔を上げてくれた。 黒曜石みたいな瞳には少しだけ驚きの色が浮かんでいる。 いつもほとんど無...
  • 24-819
    女みたいに可愛い攻め 「涼さんって、優しいよね」  俺の目を覗き込むようにして、ヒカルは言う。その距離があまりに近いせいで、さらりとした前髪の先が額に触れてくすぐったい。  瞳に映った俺の表情さえ見て取れそうな近距離で、彼はにんまり笑って見せた。 「こんなんしても怒んないし。優しいなー惚れ直しちゃうなー」 「お前が可愛いからな」 「え、それって顔の方のこと?」  形のいい大きな目が、ぱちくりと悪戯っぽく瞬く。  俺の視界の九割以上を占めるヒカルの顔は、ああ、可愛いよ。顔は小さいわ、睫なんて俺の倍はありそうだわ、色は白いわ。手足も華奢で、背も俺とは頭一つ分違う。  だから本当は四肢に乗る体重なんて軽いくらいで、押し退けるのも逆に押し倒すのも、俺次第じゃいくらでもできるんだと――俺もヒカルも解っている。はずだ。  だから俺は首を少し持ち上げて、やつの...
  • 10-819
    お互いに向ける感情が恋だと気付いていない二人で 「なあ、俺病気かもしれない。さっきからやたら動悸がして顔が熱い」 「麻疹じゃねえの」 「違うって!ここ何ヶ月、時々こうなるんだよ。もしかしたら何かヤバい発作かもしれん」 「ちょっと額かしてみ。……熱は無いな。気のせいだろ」 「嘘だ。絶対ある。お前の体温が高いんだ、きっと」 「――そういえば、心なしかさっきから動悸が……てめぇ、移しやがったな!?」 「まさか、空気感染……?なんという強力なウイルス。これは間違いなく新種」 「えんがちょ。これ以上近付くな汚染物質め」 「ひでぇ。親友に向かって何という暴言を」 「あー、なんか本当に熱っぽいから帰って寝るわ」 「この上シカトかよ」 『もしもし、俺。今どこだ?』 「さっき駅に着いたとこ。何かあったのか?」 『あのさ。お前が帰った途端に治ったんだけど、これってお前...
  • 28-819
    豆×さや この場合豆は究極のヒモ、さやは何人かの男を抱え込む寂しがり屋のビッチだと言えるでしょう。 豆達は一様にさやに向かって「テメェの価値なんて俺がいてこそのもんだろうが」と言い放ち、 あくまで“自分がお前といてやってるんだ”というスタンスを崩しません。 さやは自身の価値を悟っているし豆達のことを心から愛しているので何も言い返さず、 言われるままに豆達を優しく保護し続けています。 豆達の気まぐれの優しさがあるだけで、さやは寂しさが満たされ生きていけるのです。 豆達はお互いにさやが他の男を抱えているのを知っていますが、さやのことが満更でもないので仕方ないと思っています。 食卓に並ぶ日、さやは豆達と離れたくない思いでいっぱいですが、豆達は最後まで冷たく「じゃあな」と軽く去っていきます。 けれども豆達は人間に喰われるのがどれだけ辛く苦しいものか知っていました。 「俺...
  • 18-819
    雨でシャツが透ける  近頃暑い日が続いていたが、今日は昼前から降り出した雨のせいで寒いくらいだった。  赤井が部活の練習を終え、着替えて帰ろうとした時も、随分と弱まってはいたが、まだ 止む気配がない。汗をかいた体に外の空気は冷たくて、赤井は身震いした。傘を持ってき ていない赤井が体育倉庫に投げ込まれたボロ傘の存在を思い出し、取りに行くと、倉庫の そばの木で雨宿りをする少年がいた。  友人ではない。しかし赤井は彼を知っている。 「えーと、黒部?」 「……赤井。同じ、クラスの」  俺のことなんか知ってたのか、と少し驚いた。去年、今年と続けて同じクラスだったの に、授業以外でこいつがしゃべる所を見たことがない。虐められているわけではなさそう だが、彼は孤立していた。 「何してんの、お前」 「待ち、合わせ」  傘もささずにどれだけここにい...
  • 21-819
    夏祭りの思い出 綿菓子でベタベタになって かき氷で舌を虹色にして 一番の思い出は、神社裏で、ひとつの大きな林檎飴を二人でかじったことだ。 その流れで初めてのキスをされた。よく覚えている。 「甘酸っぱい思い出だー」 仕事帰りに浴衣を纏った女の子たちが、下駄を軽やかに鳴らしながら歩いているのを見て、今日が地域の夏祭りなのだと知った。 高校2年、彼と結ばれて初めて行った夏祭り。その思い出を逡巡しながらひとりごちる。 「夏祭り」 連絡はない。というか、一人でだってここ何年も夏祭りなんて行っていない。 どうせ今年もいつも通りだ。自分に言い聞かせながら帰路を辿る足を速めた。 「うわ、なにこの匂い。」 安いアパートはドアを開ければすぐにキッチンだ。外から明かりが見えたから、彼が来ていることは分かっていた。 それにしてもこの甘いにおいは… ...
  • 20-819
    さよならの季節 もう少しで4月になる。 卒業生は新入生や新入社員となり、 彼らはさよならの言葉を残して新たな旅立ちを迎える。 丁度12年前の今日、卒業式の日、私は大切な友人と別れを迎えた。 高校時代の3年間、初対面から、ひたすら眩しい彼の笑顔に惹かれ続けていた。 地味な私と違って彼は明るく賑やかで、友人も多く、私の記憶の中では彼の周りにはいつも側に誰かがいた。 それなのに、何処が良かったのか彼は私をいたく気に入り、私にだけ、やけにくっついて回った。 彼は私を純粋に、本当の親友のように扱ってくれた、そう思う。 そして、私は親友という文字通りのその関係が心底から、辛かった。 「ずっと好きだった」「もう親友では居られない」 私は彼に想いを告げた。もうそれ以上行き場のない想いを抱えては居られなかった。 「知って欲しかっただけだから」 ...
  • 14-819
    無意識誘い受け 「間にっ合っ…たっ!?」 「ギリギリ。ちなみに一限目は自習」 「まじでぇ!?なんだよも~…だったらメールしろよ、凄い頑張って走ったし!というか起こしに来ないお前が悪い」 「委員会だっての。昨日言ったろ?」 「…そうだっけ?うんまぁいいや、それよりぎぶみー水分」 「ほら。全力疾走する労力とあと5分早く起きる労力、どっちが大きいか身に染みただろ」 「あふぁほぶぉふんふぁ、にひようひふふぁふぁひふぉ、ひふふぇいひひふぁんにひっふぇきふふほふぁ!」 「朝の5分は日曜昼下がりの昼寝一時間に匹敵するよな」 「ぷはー生き返るー。ほら朝から運動なんて健康的だし水は美味いし」 「じゃあ明日からは自力で起きるという事で」 「それはまた別という事で」 「もちろん明日までのレポートも別で」 「そ、それはもっと別で…」 「…あと何枚だ?」 「…………………7枚?」...
  • 22-819
    こんなお姿になって 「ああ、なぜこのようなお姿に…!姫、愛しの我が君よ!願わくばこの口づけに、黒き魔法が消え去らんことを…!」 「……」 「…はいオッケー!いやー、いいよ谷口!完璧!最高!」 「そうか?」 「おう、文句なし!オスカーも真っ青!本番もこの調子で頼むわ!」 「ん、わかった」 「長谷、お前は鏡見て来い」 「う…」 「あのな、お前がひ弱で大道具できないわ不器用で小道具やれないわドンくさいわセリフは棒だわっつーから一番セリフの少ない姫役にしたんだぞ! ただ呪い殺されてるだけの役なんだぞ!発表時間の3分の2以上は棺桶ん中で寝てるだけだぞ! それがなんでまともにできないんだよ死んでる姫がそんなに顔赤くなるわけねえだろ顔洗って来い!」 「わ、悪い…」 「はぁー…」 「長谷!」 「谷口…」 「ごめんな俺、顔近かった?」 「いやいいよ、キスシ...
  • 13-819
    自称親分×無理矢理子分 「ねえ、今日もやるんでしょ親分! 連れてってくださいよ」  金曜日、仕事を切り上げてロッカールームに向かう俺に、後輩がすりよってきた。  ないはずの尻尾をびちびちと振り回しているのが見えるようだ。 「だめ。お前弱いもん」 「えー! それじゃ永遠に加われないじゃないですか! やらなきゃ上達しませんて!」 「うるせ。よそで修行してこいよ」 「オレはもう親分を心の師匠と定めたんすよ!」  親分なんだか師匠なんだかはっきりしろよ、と俺はジャケットに袖を通しながら後輩をにらんだ。 「だいたい、お前顔に出すぎんだよ色々と。おまけに戦略もなにもあったもんじゃねえ。  俺らのやってるチップの天井で、30分もたないだろ。向いてねえよポーカー」 「そんなあ」  じゃあ、見てるだけでいいですから連れてってくださいよう、と彼は訴える目つ...
  • 3-819-1
    太陽×ひまわり 太陽とひまわり― 神々しい貴方。 貴方は呆れていらっしゃるでしょうね。 僕の思いはあまりに開けっ広げで、人にはからかわれ、花たちからは非難すらされますが、憐れな捕われ人のように僕は自分をどうする事も出来ないのです。 いっそ、イカロスの様に翔んで貴方の炎に焼かれたい。 でも、大地の囚人でもある身ではそれも叶わず貴方への想いは募るばかり。 どうか、地上にあるこの身をそこから、貴方の熱で溶かしてくださいませんでしょうか。 貴方は何も仰らない。貴方はいつもあらゆる者に光を注いでいる。 ――晩夏――― 僕は今、死体のように無様に横たわる。 夏中、貴方への恋慕でこの身を焼き付くした焦げた死体のような僕の種は、貴方の憐れみの具象化なんですね。 ついばまれるこの身。ついばむのは、鳥でも獣でも、人間でもない、貴方。 貴方の逞しい手が...
  • 8-819-1
    ハリネズミのジレンマ 知ってるか否かの前に 間違えてるよ、ソレ。 と、小さく肩を竦めると 「んん?」 間抜けな声を上げて、ヤツがきょとんとした表情を浮かべた。 「…それ、ハリネズミじゃねーって」 「え?え?」 溜息が出る。 「ヤマアラシだよ…」 「ええっ!ハリネズミじゃねーの?」 …夜中なんですが。 リアクションでけーよ。煩い。 「うん。ハリネズミじゃねーの…」 だから俺はごく静か小さく応える。眠い。 「ヤマアラシ?」 「…ヤマアラシ」 まだ疑わしそうな声に、厳かに言い返せば ちぇ、なんて ヤツは似合うような似合わないような、少し拗ねた顔をして 「おまえは何でも知ってんだなぁ」と、次の瞬間には笑顔。 なのに。 「そーでも無い…」 気恥ずかしくなって、さり気なく視線を逸らし目を閉じかけた俺に 「あぁ、そういやそーか。ふはははっ...
  • 23-819-1
    朴訥無口×わかりにくくデレる俺様 「この小説って実体験が元になってんの?」 「あ、いや、違う・・・」 「ふーん。お前も兄貴亡くしてるだろ?この辺のカズヒコの喪失感って自分で感じたことじゃねーんだ」 「違うけど、その時の担当さんも少し私小説ぽいって・・・」 「やっぱ言われたのか。つか私小説でよく賞もらえたな」 「その後の展開、俺と全然違うから…」 「確かに、年齢誤魔化して夜働くタイプじゃないもんな。じゃあそんな見当違い言われてムカつかなかったのか?」 「・・・少し、似せた自覚あったし」 「兄貴のことくらいだろ?今の編集の・・・児島さん?お前の意向とかちゃんと汲めてんの?てかお前そんな言葉ったらずで  よく小説家なんてなれたと思うわ。賞までもらってそこそこ売れて、この度めでたく処女作が映画になって、幸運残ってんの?」 「どうだろう・・・」 「まあ、俺と付き合ってる...
  • 26-819-1
    旅行先で出会った運命の人  あいつとは沖縄を旅行中に知り合った。今から六年前で、あいつは卒業旅行中の大学生。  馴れ馴れしく写真撮影を頼まれて、成り行きで会話をしていたらお互い近くに住んでいることが判明し、  微妙に付き合いが始まって、いつの間にか恋人になっていた。  俺はその頃から、男の癖に占いに凝っていた(性差別的な文言だが)。  当たると噂の占い番組で、「今週の天秤座は旅行が吉。運命の相手に会えるでしょう」といわれたことが、  旅行の一つのきっかけだったほどだ。  両思いになってからそれを思い出し、俺は他愛もなく、そして年甲斐もなく浮かれた。三十前の男がである。  男同士であることも、年が八つほど離れていることも、その時は大したことには思えなかった。まあ、若かったのだ。  付き合って三ヶ月くらいした頃だったか、俺は、酔った勢いで、その占いのことを喋ってしまった...
  • 15-809
    嵐の大麻くん 天地万物に意思は宿るという。 遥か南の海の彼方、いつ生まれたとも分からぬ彼も、先代からの記憶を確かに受け継いでいた。 片目に思い描くは北を統べる一族。彼の勢力を弱め、やがては滅びへと追い込む因縁の存在である。 暖かな海の懐に抱かれ成長した彼も、やがて極寒の地へと向かい、ひとり、旅立つのであった。 それはもう、本能とでも言うべきものなのかもしれなかった。 吹き荒れながら彼は考える。経験なき記憶の中に浮かぶ奴の姿を。それに抗う己の姿を。 奴に力を吸われ、今の姿を保てなくなった同志の姿を。 彼はなおも考える。何故に我は奴へと進むのか。 何か強く導かれる心がある。それは果たして何なのか。 本能のままに突き進むのみであった彼に、初めて思考というものが生まれた瞬間であった。 しかし幼き彼は、まだその心を理解する言葉を持たなかった。 ...
  • 5-859
    馬鹿×嫉妬深いクール 「まった小難しい本読んでんのか~」 成司は夏樹の手にしていた文庫本をひょいと取り上げると 無造作に放り投げた 「なにをするんだ」 いつもは無表情とさえいわれる、夏樹の目が苛立ったように細められた 幼馴染の落ち着きのなさは夏樹にとっては時々腹立だしくさえある。 こんな男にファンクラブなどと、うちの学校の女子たちはどうかしている。 今日も成司は、グラウンドでサッカーの部活の練習中に、女の子の黄色い声援を 浴びていた。それを、放課後の教室で、夏樹はぼんやりと眺めていたのだった 「まったく、たまには外に出て、太陽の光でもあびろっつーの! いくら親父さんの後つぐために医大受験するっていってもなぁ、 オトコは体鍛えてナンボなんだぜ!」 成司は夏樹が完全無視を決め込んで文庫本を拾い上げるのをみて 舌打ちをすると、しなやかな長身を傾けどっとベッド...
  • 5-849
    これは夢だ 夢だ。 これは夢だ。 お前が、いつも女のケツを追っかけまわしてばかりのお前が俺の前に立っているなんて。 ましてや俺の手を握ったまま顔を赤くして立ち尽くしているなんて。 おいおいお前自称ヒャクセンレンマっつってたじゃねーか(どう考えてもカタカナ発音だったが)。 どこの純情少年だその反応は。 いや、そうじゃなくてな。 俺はお前の好きなオンナノコじゃないぞ。 俺はお前の親友で幼馴染でお前の女癖の悪さを口うるさく注意する男だぞ。 ・・・お前を、ずっと前から好きだった男だぞ。 驚いた顔してんな。まあそりゃそうだ。顔に出したことねーからな。 でも、本当の話だ。 お前は俺が友人の悪癖を心配してくれていると思ってたんだろうけどよ、俺はいつもお前の口説く女の子達に嫉妬していたよ。 俺は、いつでも振られて俺の所へ飲みに来るお前を見て安心していたんだよ。・・・良い...
  • 5-889
    誰もがそれを笑ったとしても 「笑えよ」 そう言って、向かい合う俺の幼馴染氏は、ぶすくれた顔でそっぽを向いた。 「そんなに笑って欲しいかよ」 「当たり前だろ! こんなカッコしてまでウケ取ってんだよ! 笑えよ!  終いにゃくすぐり倒すぞ!」 アイツ笑わないよな。気味悪ィ。だの何だのと俺が噂されてるのは知って た。こいつがムキになってそれを否定してたのも。 『ちげーよ! あいつは気ィ許した奴にしか笑わねぇだけだよ!』 って。お前、それフォローになってないのに気付かないのはおかしいぞ。 俺が手酷い振られ方をして以降、誰の前でも笑わないの、随分気にして くれるんだな。ありがとう。でも、よせよ。そんなことされたら、笑うどころか 泣いちまいそうだから。だから、もういいよ。 俺の目の前で、真っ赤な顔をしたセーラー服のお前。 うん。すごく変だ。ていうか誰...
  • 5-899
    医師×リハビリ中の怪我人 売店の入り口ですれ違ったのは、外科病棟に入院してる高校生の男の子だ。 担当医の先輩が、無口で食が細くてリハビリにも上の空だとぼやいていた。 しかしなかなか美形で、女性陣にはストイックでかわいいと評判、その彼だが、 …一瞬でよくわからなかったけど、今泣いてなかったか? おれはレジ台に豆乳を置いて、おばさんに聞いてみた。 「今出てった患者さん、どうかしたの?」 「あら先生。いえ、それがねぇ…」 次の日、おれは朝食の時間帯に彼の病室を訪ねた。 「あら、森下先生…」 「やぁ、ちょっと彼に用があって。いいかな?」 「そうなんですか?…じゃあ菊川君、私またあとで来るけど、少しでもいいから食べてね。」 そう言って看護士が病室をあとにすると、菊川君は無言でおれを見た。 机の上には、手の付けられていない病院食。 思わず口元に笑みがうかんだお...
  • 5-829
    俺の生死を握る人 「…攻めがいなくなったら、生きていけないかもしれない。」 信号待ちの間、ポツリと受けが呟いた 「らしくないこと、言うな?」 そんなキャラじゃないくせに、と攻めが肩を竦めると 冗談じゃないよ、とハンドルを握っている受けの手に力が込もった 「…じゃあ、俺が死んだらオマエも死ぬのか?」 「……あぁ。」 青に変わった信号に気を取られたのか、一瞬遅れた答え。 受けはアクセルを深く踏み込んだ 出逢った時から。 攻めの命は受けのものだった 受けがいたからこそ、生きてこれた 「…事故りそうなスピードだな」 微笑しながら オマエが決めたらいい、と攻めは静かに目を閉じた 行ってくんなきゃわかんねーよ言ってくれよ×言わなくてもわかれよ馬鹿
  • 5-809
    収録後 楽屋に入ると、彼は、グッタリと部屋の中央で寝転がっていた。 僕が「お疲れ様です」と挨拶して入ってきても、起き上がろうともしない。 まぁしょうがないか。2時間半の長い時間、一人で舞台の端から端まで 走り回って、頑張ったんだ。あんなにたくさんマスコミやお客さんを 集めて、力も入っていたのだろう。DVD収録もしていたから、ミスを してはいけない、と自分に言い聞かせていたのかもしれない。 僕はイスに座って、この後の予定をチェックした。頭に一応入っては いるが、あと何分間、彼を休ませてあげられるか、もう一度確認したい。 しかし、何度も確認した通り、あと15分後に、雑誌のインタビューが 入っていた。このまま5分寝かせて、その後、シャワー浴びて準備させて…。 そう考えた時、後ろでくぐもった声が響いた。 「なぁ…今日、どうやった…?」 畳にうつぶせになったま...
  • 5-869
    涙と頭痛 朝から頭痛が治まらない。 「大丈夫…?」 そんな事聞かれても大丈夫じゃないに決まってるだろ。 「ごめん…」 ああもう、なんで謝るんだよ。 「…これ」 薬はあまり好きじゃないって知ってるだろ? 「…」 …? 「…っ…う」 …いい年した男が泣くなよな…。 前にコイツの口から聞いた話が痛む頭をかすめる。 何年も前に兄貴を亡くしたって。 『頭が痛い』と言い残していきなり倒れて そのまま会えなくなったって。 だから泣いてるのかよ。 アンタの目の前にいるのは兄貴じゃないのに。 こんなにイラつくのは頭痛のせいだと自分に言い聞かせて 苦手な薬を無理に飲み下した。 絶対優勝するんだ
  • 5-839
    行ってくんなきゃわかんねーよ言ってくれよ×言わなくてもわかれよ馬鹿 前々から、自分の体がヤバいことになっている、とは感じていた。 体がだるく、微熱がずっと続いている。食欲も無く、のどや胃の粘膜が荒れ、吐き気が 常におさまらない。はじめは風邪だと思っていたが、鼻血がなかなか止まらないあたりで、 死んだ母親と同じ病気ではないか、と気づいた。 それでも、俺は馬鹿だから、もう少し市販の薬で様子を見てみよう、とか、この痛みは 昨日よりも良くなっている、とか、自分をだまして、その日を先延ばしにしていた。 お金がもったいない、という気持ちもあったが、それよりも大事な理由があった。 母親がこの病気にかかった時は、入院したが最後、病院から一歩も出られずに死んだのだ。 俺は、死ぬよりも、それが怖かった。 しかし、そんなやせ我慢も、長く続けることはできなかった。 アツシに、気...
  • 5-879
    絶対優勝するんだ 「絶対に優勝するんだ」 そう言って前を見据えていたお前の横顔を俺は忘れない 三年間、駆けずり回ってたフィールド、追い掛け続けたボール 俺には解らない世界 だけど、お前が1番だ それだけはわかるよ でも… でも、頼むから俺の手の届かない所へ行かないでくれ これからも、俺の側で向日葵みたいに笑っててくれ お前には太陽がよく似合うよ 日影から出ることのない俺にこれからも光を届けてくれ ……これが俺からの応援メッセージだ お前が負ける訳無いさ、行ってこい 勝って、俺の所へ帰ってきてくれ… 誰もがそれを笑ったとしても
  • 25-849
    恋のライバル同士だったのに 849 「なあ、聞けよって」 「だから聞いてんじゃん、そんで」 見るともなく眺めているだけの雑誌から視線を上げずに答えると、○○はめげた様子もなく再び口を開いた。 窓の外では重く垂れこめた雲が日の光を遮って、辺り一面に夜の気配が漂っている。 凍った天から吹き降ろす寒風がフローリングの床に滲み渡っている所為で何時まで経ってもヒーターの電源を落とせない。 最後に頭痛薬を飲んで何時間になるだろうか。 痛み出した米神に手をやりながらローテーブルに置いた目覚まし時計を横目に見た。 「マジうけるよな、ホント訳分かんねー」 「…お前ホント、最近アイツの話ばっかりね」 「はは、妬いてんの」 妬いてんだよ、と勢いそう返しかけて、すっかり冷えたコーヒーと共に言葉を飲み込む。 人の気も知らずに全く能天気なものだ。 呆れて出た溜息をどう...
  • 25-839
    窓越しに見える人  その人はいつだって、窓の向うに居た。  明治帝の御代に建てられたのだという格式高い洋館の、美しく磨かれた硝子窓に、白い顔がすいと映る。  高い窓の向うのことだから、年の頃はまるで解らぬ。年若い少年のようでもあるし、幼な顔の三十路なのだと説かれれば、そんな気もしてこようかと思う。  何時もほんの少し斜め下を俯いて、額に濡れ羽の髪をかけ物憂げにしている。  果たして彼の人は、黒檀の机に日がな古今の書物でも広げているのか。それとも絹の寝具に半身を起こし、儚くなる日を待つ身であるのかと、私の想像は勝手なままに膨らむばかりであった。  その洋館の傍を走る道は、私のよく通る野道である。  私は山の手で、磁器などを焼く工房に師事していたが、まだとても使い物になる腕ではなかったから、やれ使いだの買物だので、事あるごとに街へ下らされるのは私であった。  その...
  • 15-889
    パートナーに望むこと 「こっち持って」 そう言って制服のポケットから差し出されたのは、一本の赤い毛糸。 その、三十センチほどの紐の一端をこちらに向けて、諒はにこりと笑う。 「…なんだこれ」 夕暮れの帰り道、天下の公道。 燃えるように赤い光の中にあってなお浮き立つ毛糸を摘み上げ、俺は不信感たっぷりに言った。 「まぁいいじゃん。ちょっとしたお遊びだと思ってさ」 「なんの遊びだよ」 いいからいいから、とのらりくらりとかわされて、腑に落ちないながらも俺は渋々それを握る。 右の掌に馴れない手触りを確かめていると、反対側の端を諒が左手で握った。 「…なんなんだよ」 「まーまー」 何がまーまーだ、と苦々しく思ったけれど、一度握ってしまった毛糸は何となく離しがたくて、仕方なくそのままで歩き出す。 二人並んで、さりげなく歩幅を合わせて、ただ黙々と...
  • 15-879
    ハンター  家業を継ぐことになった。  そう言って、沢崎さんはコップに半分ほど残っていた安酒を飲み干した。  あまりに唐突な発言に、僕は一瞬目の前が白くなった。 「いつ、実家に戻るんですか」 「今夜の夜行。11時」  バスターミナルは、店をでてすぐのところにある。  要するに、バスの発車までの時間をもてあまして僕を呼び出したのだろう。  足元には、ドラム型のスポーツバッグ。 「荷物、それだけなんですか?」 「もともと、大したもんはないから、あとは処分する。  ごみ屋に連絡しておいたから、明日の昼前にはきれいさっぱり片付いてるだろ」  枝豆とコップ酒のおかわりを注文すると、「ちょっとションベン」と彼は店の奥に消えた。  こんなにあっけなくいなくなるなんて、想像もできなかった。  ふだんはぐうたらなくせに、本気になった彼には手に入れら...
  • 15-859
    年下純情攻め×年上淫乱受け 真夜中に携帯の液晶が青白く光って、あの人からの着信を知らせる。 僕はわざと、今起きましたよという声を作って、電話に出る。 もちろん、僕は、この電話が来るのをじっと待っていた。 「――よう、今来れる?」 酒焼けと、その他僕の知りたくないいろんな理由で、かすれた声が僕の名前を呼んだ。 電話の向こうはひどく静かだ。 「どこにいるんですか」 「青山の、いつものホテル」 ああ、俺の家に寄って着替え持ってきて。お前もちゃんとした格好で来いよ。 それからシャーベット食べたい。 「何味が良いんですか」 僕は少しあきれながら、でも子供をなだめすかす様にやさしく、尋ねる。 「びわのシャーベット、なんてね」 彼のためだったら、存在するのかどうかも怪しいびわのシャーベットを、夜が明けるまで探し続ける。 そんな僕の性格を...
  • 25-859
    有能だけど扱いづらい男 「有能だが扱いづらい男」はとてもおいしいと思う。自分の萌えツボジャストである。よって語る。 黙って動かなければ普通に見えるのに勿体ない、しかし動かねば有能の意味が無い、という周囲のジレンマ。 このキャラはいろいろパターンが考えられるが、ある側面から大別するならば 『それらの希望失望絶望に対してどのようなスタンスであるか』が一手法ではと考える。 ■A■全く気づいてない 周囲の希望失望絶望をまったく意に介してないマイペース型。 有能なのにそれを生かそうという気があまりなく、自分の興味のままに行動する。興味なければ動かない。 一般人にはまったく理解できないポリシーを持っていたりする。 周囲との衝突はあまりないが、ただ言動が稀に(あるいは頻繁に)電波っぽいので 遠巻きに見られていることが多い。周囲と自分の認識差にあまり関心がない。 そのた...
  • 25-889
    本当の顔を知らない 財布を拾ってくれた君は、小さな顔には不似合いな大きなマスクをしていたね。 昔からの気性なのか、不信感を抱かない素直で優しい君は、お礼をしたいと言っても全く受け取ろうとしなかった。 …今思えば、ご飯でもなんてなったらマスクを取らなきゃならないもんね。うん。 それから、連絡先を半ば強引に交換して、根気よく友人関係を紡ぎ続けた。 そんなある日、ポツポツとマスクのお話をしてくれた。 10年前に受けた酷いイジメ。大きな火傷を負わされたという。 「貴方には話したかった。初めて信頼できた貴方には。マスクを取った本当の顔を知ったら、きっと貴方は気味悪がるよ?」 僕は黙って君のマスクを取り、ゆっくりと口付けた。火傷の跡をなぞりながら、それはもう、丁寧に。大切に。 キレイだよ、君の本当の顔は。 そう言うと、君はキレイな涙を流して僕を抱...
  • 25-879
    月と木星とアルデバラン 母が心配している、そう言って帰ろうと、何度も思った。 けれどその言葉は終ぞ僕の口をついて出ることはなく、辺りは夜になっていた。制服とコートだけでは寒い。 僕は冷えた左手をポケットに突っ込みしきりに動かしながら、近江と繋いだ右手を中々動かせずにいた。 横を見ると近江の右手も僕と同じようにコートのポケットに突っ込まれていた。寒さのためか、もぞもぞとポケットが動くのが見えた。 鼻が冷たい。きっと耳も。 近江と繋いだ右手だけが熱い。 「木崎、もう少し遅くなっても大丈夫?」 その時近江の声にこもった、なんとも言えない気持ちを僕は一瞬で理解した。共有した。 そうして僕は、生まれてから今日までと、明日は、今夜は違う。そんなことを確信していた。 「……うん。大丈夫」 近江は僕の手を軽く引いて、青白く光る月の下をぐねぐねと歩いた。 どのぐらい歩いたのか、...
  • 15-849
    ナルシスト攻め苦労人受け ベタな設定というやつが自分は大好きです。 例えばなんですが、逃げた親が作った借金があって、 しかも弟たちを5人くらい抱えて、自分の収入は全部家につぎ込んで、 けなげに学校をやめて働いている青年がいるとします。 彼は若いのでちゃんとした会社に就職も出来ず、 掛け持ちでたくさんのバイトをしています。 その中の会社のひとつに、苦労知らずの勘違い二代目の男がいます。 自分大好き男なので、周りからは煙たがられているのですが、 誰もそれを指摘してくれる人はいません。 苦労青年は真面目で正直なので、ある日、クビになるのを覚悟で 彼をどなりつけます。はじめはびっくりする二代目でしたが、 そんなことを言ってくれた人はいなかったので、彼のことが気にいってしまいます。 最初はからかい半分で青年を口説...
  • 15-869
    攻めに尽くしまくるワンコ受と受けの態度に若干引き気味な攻め 「せんぱーい、ご飯できましたよ」 「……」 「今日はおじやにしてみました。昨日のお粥からレベルアップ!」 「……」 「それに今日は指切らなかったっス!すげーと思いません?」 「……」 「ほらほらほら!昨日と絆創膏の数が変ってない!ほら!」 「……凄いな」 「へっへー。…あっ大丈夫っスか?起きれます?手ぇ貸します?」 「一人で起きられる」 「そうだ、背中冷えたら駄目ですから、はいこれ。着て下さい!」 「……」 「俺のどてらです。ばーちゃんが昔作ってくれたヤツだから超暖かいです!はい!」 「……」 「おおー。やっぱ俺と違って、先輩は何を着ても男前っスね」 「……なあ」 「あっ、大丈夫っすよ!昨日コインランドリーで洗って乾かしましたから汚れてないです!」 「そう...
  • 25-829
    イカ×タコ ※*9から12時間経ったので どちらも優れた擬態能力を持つ海のハンターなんですけど、意外と力強くて小型のサメなら倒してしまうタコにイカは惚れ込んでしまうのです。 惚れ込んだといっても最初は同じ頭足類である親近感と、腕力に対する憧れ。イカはタコは愛嬌ある顔の元気な後輩だなーと思ってる。 でもいつしかイカは知勇兼備なところに惚れ、慕情へと変化していくのですよ。 そして抱きしめたいと思うんだけど、イカの吸盤には棘があって吸い付くと傷ついてしまう。 けれど好きで好きで悶々としているところに、タコが足を一本欠いたままやってきて、 訊いたら大したことないような態度で「ウツボに絡まれたので足を切って逃げてきた」というものだから、 その暢気な物言いにぷつんとキレて思いの丈をぶつけるんですよ。 その思いに絆され、もっと自分を大事にする。でもお前になら傷つけら...
  • 15-899
    背骨 「なー、背骨って触ると歪みがわかるらしいぞ」 「そうなのか?」 「うん。だからさ、ちょっと触ってみて」 そう言ってシャツを脱いだ岸の背中に、躊躇いがちに腕を伸ばした。 この男のあまりの無防備さと信頼に、胸の痛さを覚えるのはいつものことだ。 それでもなお震える指を、そっと背骨に這わせた。 脂肪のない背中に浮き上がった背骨は、少しの歪みもなく整然と並んでいた。 「わっ。なんかその触りかた、ヤバい」 少し上擦った声を聞いて、慌てて指を離す。 「ごめん。くすぐるつもりはなかったんだ」 「いや、くすぐってーっていうか……」 「なんだ。はっきり言え」 「いやー、やっぱいい」 多少気まずくなった空気は、岸の笑顔によって霧散した。 しかしながら、その背骨の整然とした感触は、俺の一生抜けない刺になったのだ。 大麻智くん
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