*9が指定したカプ・シチュに*0が萌えるスレまとめ@ ウィキ内検索 / 「6-119-1」で検索した結果

検索 :
  • 6-119-1
    貴方を愛していた  養父の葬儀が終わったあと晩餐に顔を出したくなくて、屋根裏部屋にこもってずっと窓から外を見ていた。この家に初めて連れてこられた日の事なんかを思い出しながら。あれからもう15年も経つ。 「電気も付けないで、何やってるんだ。」 声をかけられて振り返ると、扉の傍らに兄が立っていた。 「お疲れ。…もう全部終わった?」 「当たり前だろ、何時だと思ってる。泊まり客もとっくに部屋に引き上げた。」 そう言うと兄は埃のつもった家具の間を通って、窓際の壊れたベッドに座っている俺の隣に腰掛けた。 窓から入る明かりで、兄の顔がよく見える。 「…昔よく二人でここに隠れたな。台所からくすねた菓子持ち込んで。」 「兄貴この箱とか、ふつうに入ってたよな?小ちゃかったなぁ。」 「お前なんか、つい最近までちいさかった。」 大きくなって、とからかうように俺の頭をなでる。子供みたい...
  • 19-119-1
    「ん?」 「なーなー、聞いてんのかよ」 「ん?」 「だから!明日の最終の夜行列車!発車時刻はわかってるよな?」 「ん」 「なにその適当な返事。ホントにわかってる?」 「最終」 「そうだよ最終列車だよ!でもなんか今の言い方ですげー不安が増した!逆に!」 「ん?」 「今の、耳に入ってきた単語を適当に繰り返しただけだろ?アンタやる気あんの!?」 「ああ」 「その『ああ』はどっちへの『ああ』だよ!」 「後者」 「本から目ぇ離さずに言われても、全然説得力ねーんですけど!?」 「ああ」 「だから『ああ…』じゃねえっつーの!自覚してるんなら改善しようぜ改善!」 「ん」 「心こもってねえ……いいやもう。とにかく!明日の最終の夜行列車だからな!」 「ん」 「発車時刻は二十二時、五十三分!脳髄に刻み込めよ!?」 「ん」 「あーもー…知ってるけどな!アンタの性格...
  • 9-119-1
    dat落ち 「それじゃ!名無しにもどるよ」 そう書き込んだ君は、それを最後に本当に現れなくなった。 見慣れたトリップはもう使われないんだろう。 『ボロ原付で日本を一周するスレ』 そんなスレがたったのは、一ヶ月くらい前だったか。 「スペック 男 18歳 童貞 原付歴1年半 相棒もうpしとく」 お決まりの文句とともに書き込まれていたURLをクリックすると、 そこにはホントにボロとしか言いようがないカブが どこか頼りない後姿の君とともに写真でうpされていた。 君は左手を細い腰に当てて、右手は人差し指を伸ばしたポーズで立っている。 その指先をたどると『名古屋駅』の文字が見えた。 細い体の君と、ボロボロのカブ。 「無理だってwwwwwもう止めとけwwww」 そう煽られる事もあった。 でも君は気にする様子も無く、旅を続けた。 そしてその...
  • 19-119
    「ん?」  詩人でもないのに、そんな柄じゃないのに、時折、ひどく感傷的になることがおれにはあるのだ。  例えば今夜みたいな、月が半分しか姿を見せていなくて、やけに静かで、呼吸を邪魔するような ものが何も無い帰り道。おれの履き古したサンダルがアスファルトにこすられて、ざり、と立てる音が、 こいつの履いている黒くなめらかに光る革靴の規則正しいリズムが、誰も居ない街外れの道路に 響くから、おれはおれ一人ではどうしようもなくなってしまう位に、ああ、こんな夜のせいで、 涼しい夜風のせいで、寂しいなどと。つい、思ってしまう。  さりげなくちらりと盗み見たこいつの顔は、憎らしいほどいつも通りで、多分、頭の中で 先ほど寄ったコンビニのドアの効果音なんかを流してそれにあわせて歩いていたりするのだろう。  余裕が無いのはいつだっておれのほうだ。コンビニ袋を持った手が軽...
  • 2-119-1
    慇懃攻め 「紅茶を」と言われれば紅茶を。 「ケーキを」と言われればケーキを。 それが私の仕事。 しかし彼の望むことならなんでも叶えてあげたいと思うのは、 それが仕事だからだけではない。 幼い頃からずっとお世話をしてきて、それが今も当たり前の ように続いている。 そしてこれからもそれがずっと続けばいいと、それだけが私の願い。 私の想いを知ったらきっと彼は困るだろうから。 天才×秀才
  • 3-119-1
    本当は両思いなんだけどお互いに片思いだと思っている(鈍いから両思いだということに気づいていない) 大好きなヤツがいる。 でも、あいつが俺のことを好きなわけがない。 あいつにとって俺はただの先輩。 ポジションが同じだから、他の後輩よりは少し仲がいい。 でも、それだけ。それだけのはずなのに。 ときどき勘違いしそうになる。 あいつがあんな目で俺を見るから悪い。 きっとあいつにとっては、スタープレイヤーを見る目と変わらないはずなのに。 俺は期待してしまう。 あいつが俺に惚れてるわけがないのに。 大好きな人がいる。 でも、あの人が俺のコトを好きなはずがない。 あの人から見たら、俺なんかただの後輩。 ポジションが同じだから、そばにいる時間が少し長いだけ。 それだけ、ただそれだけのはずなのに。 ときどき勘違いしてしまいそうになる。 だ...
  • 7-119-1
    また、明日 夕日が遠くて、朱すぎて目が痛くなった。 沈む太陽を背に、もう一度奴は投球フォームに入る。スローなその動作の最中、ズバンと音を立ててボールが俺のミットに納まった。 慣れてるとは言え、もう何時間。いい加減手が痛い。 目が痛いのも、見えにくくなったボールのために目を凝らしたせいだと気がついた。 俺の返したボールを受けて、奴がまたフォームに入る。もうちょと、か。 腰を落として構えた俺に、奴は少し妙な顔をした。振り上げた腕を下ろす。 「?どうした?」 「いや、いい。・・・今日はもう止めとこう」 「何言ってんだ。夏のレギュラーの発表までそんなに間はないぞ。 ベンチ、入りたいんだろ?」 「いいんだ、今日は。もう帰ろう」 言いながら、奴は俺の横をすり抜け、フェンスの後ろのバッグを手に取った。 「待てよ」 俺は慌てた。置いていかれるのが嫌だったんじゃない。 「...
  • 5-119-1
    トーテムポール 『土産はトーテムポールでいいか?』 電話で何の前触れもなくそう言われたとき、俺は大笑いしながらも確かに断った、はずなのだが。 「なんで本当に送ってくるかなぁ…」 激しく場所をとる得体の知れない物体を眺めながら、俺は小さくため息をついた。 旅に生きる彼は、一年の半分以上を海外で過ごす。語学力も冒険心もない俺はいつも置いてけぼりだ。 ひょっとしたら英語さえも通じないような国から、彼は土産と称して訳のわからないものを送ってくる。 ギョロ目の木の人形。まじないに使うらしい仮面。時代を間違えたような石器。何かの動物の骨。 ちぐはぐなラインナップは単純に彼のセンスが悪いだけだ。理解するのに三年かかったが。 そのコレクションに、やたら背の高い置物が加わった。 あまり大きすぎるものでなくて良かった。庭しか置き場所がなかったりしたら、近所の目が痛い。 縦に...
  • 14-119-1
    タイムリミット 駅までチャリで15分。 時計は午後6時48分。 <今日午後7時の新幹線。> メールが届いたのが、今朝。 無視するつもりだった。 行かないつもりだった。 『忘れてやるよ、お前のことなんて』 心にもない言葉が、ずっと枷だった。 よりによって最後の日に喧嘩した。 理由は忘れた。たぶん些細なこと。 苛立っていた俺は、酷い言葉ばかり吐いた。 苛立っていたわけは、子供のような独占欲。 …離れたくない。 ただ、それだけ。 『忘れてやる』と言ったくせに、ちっとも忘れられなかった。 嘘。あいつの笑顔やふざけた顔が、全然浮かんでこなかった。 最後に見た泣きそうな顔だけが、脳裏に焼き付いたまま離れなかった。 …俺の記憶の中のあいつは、ずっと泣きそうな顔のままかもしれない。 絶対、嫌だ。 遠くで列車到着のアナウンスが鳴る。 階...
  • 27-119-1
    攻めが受けを語る 投下しようと思ったのに躊躇してたら寝ちゃってた 攻めが受けの家族長期不在の実家に帰えるところから始まります ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 攻「あれ?お兄さん帰ってたんですか」 受兄「おう!お前さあ…昨日のまんまだったぞ、ベット」 攻「はい?あ!すみません!昨日、その…そのまま寝ちゃって…」 受兄「いやいや弟を(性的に)可愛がってくれてどうも。で、あのツンツン弟ってどんななの?」 攻「そっそんなこといったら怒られます!」 受兄「いいじゃんここだけの話だからさあ~」 攻「言いませんよ!」 受兄「実は俺、彼氏が出来てさ、どんなことしたら喜んでくれるか知りたいんだよね」 攻「え?そうなんですか?…絶対内緒ですよ?」 受兄「うんうん俺のために人肌脱いで!ぁ」 攻「まあ僕が一番嬉しいのは受のおねだりですね。ちょっと焦らしただ...
  • 10-119-1
    ピロートーク 睦言に憧れていた。 子供の頃からの夢だった。いつか好きな人が出来て、その人と結ばれることが叶ったら。 情熱的な告白とかじゃなくてもいい、映画に出るような洒落た言葉じゃなくたって。 ただ朝ごはんは何にしようかとか、ドアちゃんと閉めた?とか、そんな他愛のないことを確認し合いながら、 おやすみ、とどちらともなく穏やかに眠りに落ちるのだ。それで十分甘いはずだ、そんな些細なやりとりさえも。 だけどぼくはゲイだったし、だから好きになったのも当然男のひとで、厳しい目をしたそのひとは その上妻子持ちと来た。諦めるべきだと思った。初めての恋も、子供の頃からの夢も。 未だにぼくはあなたが何故ぼくを抱いたのか分からずにいる。 ぼくは自分が思ったより遥かに諦めが悪かった。言ってみればそれだけのことだ。 潔く身を引くことも出来ずぼくはあなたとのことを引...
  • 17-119-1
    下着の上から 酒の後の喉の渇きで目が覚めた。 室内が暑くて、エアコンの設定温度を一気に3度下げる。 すぐ横に横たわる大きな寝姿。同僚の鈴木が飲んだ後で泊まっていったのだ。 着替えたTシャツと、トランクスから伸びる重たそうな足。 鈴木と組んで2年目になる。長くとも1年でチームが代わるうちの職場では異例のことだ。 仕方がないだろうと自他共に認める。 「何しろベストコンビだからね、俺と上川先輩は」 自信満々に鈴木が笑う。何言ってるんだ、去年はあんなに不安そうな顔してたくせに。 無理もない、転属してきて、まったく経験のない部署に来て、 面識もなかった俺と組んで、それが噂になるほどの愛想無しと来ては不安にもなるだろう。 うち解けるのに、さほど時間はかからなかった。 人間、相性というものがある。俺と鈴木はよく合った。 人柄が軽快で愛想の良い鈴木と、堅苦しく押しの強...
  • 6-119
    貴方を愛していた 「…で?」 「え?」 「いや、だからさ。いきなり呼び出されて、大切な話があるっていわれて  それで…そんなこと言われたって、困るだけだし」 「そう、ですよね…」 「………」 「ごめんなさい。貴方のこととか全然考えないで…変なこと言って…」 「……は?」 「あ、あの。忘れてください。このことは、綺麗さっぱり」 「おい、ちょっと待てよ!」 「本当にすみません。もう、忘れてくださ…」 「あ、こら泣くな!」 「手…離して…っ」 「離せるわけないだろ、このバカ!  お前が俺を愛していましたっとか言われたって、お前をまだ好きな俺はどうすればいいんだよ!」 「………え?」 「だーかーらー、告白するときに過去形にするバカがどこにいるんだって!!」 貴方を愛していた
  • 9-119
    dat落ち 失くしてみて初めてその大切さに気付く。 何とも愚かなことですが、人生はその繰り返しですね。僕は駄目な人間です。 あなたが居なくなって早一週間が経ちました。 あなたの不在を思うと、毎日の生活も色が失せたように味気なく、 僕にとってこれほど大きな存在であったのかと、その都度打ちのめされる思いです。 思えば、半年前にあなたと出逢ったときから、 命尽きるまで僕の傍らに在るものと、露ほどの疑いもなくそう信じていました。 しかしあなたは突然、手の届かないところへいってしまい、 僕はその思い出ばかりを眺めて過ごす日々です。 仕事が忙しくて、あなたのことがおざなりになってしまった時期もありましたね。 こんな別れになるなら、もっともっと構ってあげればよかった。 今更のように、そんなことばかりを思います。 しかし、在りし日のあなたの姿は、僕の中から消...
  • 26-119
    いたずら電話 ここ最近、シュウがワン切りを仕掛けてくる。元々悪戯好きで、ターゲットになることは多かった。 多かったけれど、10回連続ワン切りのみという馬鹿みたいなことはしたことはなかった。 もしかしたら何か聞いて欲しいことがあるのか、と尋ねてみたが、「そんなのねーよ死ね」と散々なことを言われてしまった。 「(何もない、わけじゃ、ないと思うんだけど)」 夕食を終えて、食器を洗いながら思う。いつも俺を見かけるたび、くすぐるなり突然大声を近くで発してみたりするのに、それもなし。 講義の途中で隣に来て、何かしかけてくるかと思いきやまじめにノートを取るか眠るだけ。 最初は何をたくらんでいるんだ、と思ったけれど、だんだんとそれが心配に変わってきた。 悪戯されないならされないなりに喜べばいいのに、心配になってしまうあたり、俺がお人よしと呼ばれるゆえんなんだろうか。 次はワン切りを...
  • 16-119
    愛してはいけない人 「ご結婚、決まったそうですね。おめでとうございます」 仕事終わりの合図であるコーヒーに砂糖を2杯溶かし、社長室のシンプルな椅子に座るまだ年若い幼馴染に差し出す。 「それ、本気で言ってるのか」 いつもより低い声がかすかに震えているのが分かる。 「ええ、秘書として社長の幸せを喜ばしく思っていますよ」 「そうじゃない!」 縋るような目で見上げられる。 若くして父親の会社を継ぎ、毎日それなりの人数を動かしている男のものとは到底思えない情けない表情。 「好きだって、言っただろう」 「何のことです?」 「俺がずっと、学生の頃からお前が好きだと言ったとき、お前も俺が好きだと言ったはずだ」 「はい、言いましたね」 じゃあなんで、というような表情で僕を見上げる。なんて情けない。 そうか、僕の前では貴方の弱い部分も全部見せてください、なんてくだらない台詞を...
  • 14-119-3
    タイムリミット 俺の命にはタイムリミットがあった。 小さい頃に心臓疾患が見つかって、俺の両親は『成人式を迎えられたら神様に感謝してください』と言われていた。でも奇跡は起きて、とりあえず俺は成人式を迎えられる。 そしてもうひとつタイムリミットがある。これは自分で自分に決めた時間制限。 「はい、じゃあ胸見せて」 聴診器があたる瞬間はいつも体がこわばる。聴診器が冷たいせいもあるけれど、心臓の音がいつもより早くて緊張するからだ。 「今度、成人式だって? 良かったね。ドーム行くの?」 目の前の人のいつもよりしわくちゃの白衣が気になる。また病院で寝たのかな。 「行かないよ。友達と麻雀大会する」 「何、それ。もったいないな。一生に一度だよ?」 髪もボサボサ。でも暇な先生よりいいけどね。 「一生に一度だから、つまらない話を聞くのに時間を使う方がもったいないじゃん」 「こ...
  • 10-119-3
    ピロートーク (…妹はいつもこんな風に抱かれているのだろうか…?)  悠樹は気だるさの残る身体でぼんやり考えた。 その隣で煙草を吹かしている『悠樹の妹の彼氏』、迅は相変わらずの 余裕たっぷりな態度で悠樹にニッと笑いかけた。 「ちゃんとイけたか? ゲイの悠樹君?」  もはや彼に反発する気も起こらない悠樹は、 「…ああ、イった、…良かった。もの凄く…」  と、答えた。 「今日はエラく素直なんだな」  迅はそう言ってククッと笑い、 煙草を灰皿に押し付けて、布団を捲って再び悠樹の隣に寝転がった。 悠樹の瞳を覗き込む様な彼の仕草に、悠樹の心臓の鼓動が高鳴った。 「…俺は素直だよ。あんたがわざわざ怒らせなければ」  悠樹は迅の事が好きで好きで堪らなかった。 妹より自分を愛して欲しいと願う様になっていた。 「…迅…、俺ってキモいだろ?」 「…まぁな。キモいよ」 ...
  • 17-119-2
    下着の上から ──あと7ヶ月もある。本当にうんざりだ。 「木島は夏は嫌いかー」 相変わらずのほほんとした口調で先生が話しかけてくる。 放課後の教室はそれなりに暑い。 先生がおごったって言うのは内緒にしとけよ、と言って先生は 俺の額に冷たい缶ジュースを押し付けてきた。 自分でも缶のお茶を飲みながら、先生は俺の机に腰を下ろす。 礼を言って缶を受け取り、一気に飲み干した。 「夏は別に嫌いじゃないんですけど。早く時間たたないかなーって思って」 「早く時間がたったらやばいんじゃないのかー?お前今年受験生だろう」 「受験とかどうでもいい。早く卒業したい」 俺がそう言うと、先生は飲んでいたお茶から口を離して少し笑った。 俺の好きな笑い方。我慢が出来なくなって、先生の隣に座る。 「せんせー…」 「何ー?」 先生は俺の方を見ずに、窓の方を見てる。 「こっ...
  • 14-119-2
    タイムリミット 「おい吉井、話は聞いたぞ!何でもっと早く言ってくれなかったんだよ!」 「……は?」 昼休みが始まるや否や、目を輝かせながら僕に寄ってきた坂下の唐突な台詞に、僕は大層間抜けな声を出してしまった。 「そうかそうか、吉井がなあ。うん、あんな奴だけど俺協力するからさ!何でも言ってくれよ!」 「ちょ、ちょっと待って。話が見えない、何のことだよ?」 すると坂下は、またまたー、とぼけるなって!と僕の背中をバシバシ叩いた後、 「お前、俺の妹に惚れてるんだろ?」 実に楽しそうに笑いながらそう言い切るものだから、 「…………へ?」 僕は更に間抜けな声を発しながら、坂下の言葉を脳内リピートしていた。 惚れている?僕が、坂下の妹に? 「待っ…何でそんな話になってるんだよ」 平素を装って尋ねる。坂下の回答は、至極単純な物だった。 「ほら、俺が弁当とか忘れ...
  • 10-119-2
    ピロートーク おかしい。 いわゆるピロートークってもんはもっとうこう、甘いもんじゃないのか。 普段は恥ずかしくて言えないこととか、他愛のないこととか、 とにかく二人で余韻に浸りながらイチャイチャと話をするもんじゃないのか。 なのに、どうしてこいつは俺の隣に寝そべったままノートパソコンのキーボードを叩いてるんだ。 「いける!これでいけるぞ!なんで今まで思いつかなかったんだ俺!」 なんだその生き生きした目は。なんだその溌溂とした表情は。 『いける』じゃねーよアホ。今しがた俺にイカされたばっかだろお前。 「……楽しそうだな」 「楽しいというか嬉しいというか、俺って天才?みたいな」 テンション最高の満面の笑顔でこっちを見るな。 ついさっき涙目で俺を見上げて言った「もう駄目」「もう限界」っつー言葉は嘘か。 まさか「早く」とねだったのは早く終わらせたか...
  • 6-199-1
    午前二時 「もー1回だけ!もー1回だけだから!」 「お前なぁ、さっきからそう言ってもう何回目だよ…。」 「んー?何回目だっけー?」 無邪気な笑顔でそう答えられて、疲れが倍増した気がする。 時計を見るともう午前二時。 いい加減もう眠い。 「なーやろうよー、オレ1人でやってもつまんないよー。」 肩を揺するな。 上目遣いでこっちを見るな。 「これで最後だから!ゼッタイおまえ置いて先にいったりしないからさー。」 「…本当にこれで最後だぞ?」 「やったーサンキュー!」 嬉しそうにコンティニューを選択して自機を選ぶのを横目で見つつ、寝るのはまだ先になりそうだとため息をついた。 あつくなったりさむくなったり
  • 6-619-1
    伝わらない いやいやいやいや、ありえないから。 絶対ないね。まじでない。 伝わってるわけねーじゃん。 だってほら、今だってすごい目で睨まれてるわけで。 はい、すいません。静かにしますよ。 俺なんかちょっとうるさいクラスメイトくらいの存在です。 いいのいいの伝わらなくても。 俺、今のままで充分天国。 大体、引っ込み思案な俺っちは、伝えられるようなことを何にもしてないからね。 精々できてるのは、授業中にじっっっっっと背中を見つめるとか、 プリント渡すときにそっと手を握るとか、 体育の授業のときにさりげなく身体をすり寄せてみるとか、 登下校のとき、10メートル後からついてってるとか、 あいつのバイトしてるコンビニの周りを、2~3時間うろうろするのが日課とか、 そんな程度ですから。 「立派なストーカーだな」 ストーカーとは失礼な! 失礼...
  • 6-319-1
    バッドエンドフラグ成立の瞬間 「でも俺、お前の絵は本気ですごいと思うんだよ!なんつーか…本物って感じ。」 俺の熱意に一瞬たじろいで、そのあと、初めてお前は笑顔を見せてくれた。 …あの時だっていうのか、お前の中で何かが蠢きだしたのが。 体が痺れて、触れられても感じ取れない。優しく掴まれたのか、乱暴に捻り上げられたのか。深皿にぽたりぽたりと溜まっていく赤い液体を見ても、それが自分の体から出ている感覚がない。 「だって…もう君しか残ってないんだよ。僕の大切なもの。」 お前の声が、やけにでっかく、頭に響いて聞こえる。 俺に褒められて、本当に嬉しかった。あの絵は自分の血を使って描いた初めての大事な絵だったから。でも、それからもさらに「本物」の絵を描き続けるためには、材料を追求し続けなければならなかった。… 「『痛み』を伴う材料じゃないと、本物にはならないんだ、どうしても。...
  • 19-139-1
    好きな人に似た人 「そういえばさー」 ようやく書き終わったレポートやその他諸々をバッグに入れて席を立とうとしたとき、 向かい側に座っていた雪也が口を開いた。 「ここのところ、先輩に似た人をよく見かけるんだよね」 『マックにでも寄って帰るか。レポートの面倒みてもらったし、今日は奢ってやるよ』 そう声をかけるつもりでいた俺は、不意をつかれて眉を寄せた。 「なんだよ、急に」 「最近、近藤先輩に似た人を見かけるって話」 雪也から『近藤先輩』の名前を聞くのは久しぶりだった。 久しぶりと言っても、雪也がその名前を口にすることを避けていたわけではない。 単に、俺が聞くのを避けていただけだ。 「……先輩に似た人?なんだそりゃ」 「なにって、まんまだよ。先輩によく似た人」 あの先輩のことを話す雪也はいつも嬉しそうで楽しそうで、俺はその度に複雑な気持ちになっていた。 今も...
  • 19-169-1
    あなたの子供が欲しいのに 「貴仁義兄さん。いきなりですが、今日は折り入って義兄さんにご相談が」 「まあ茶飲めや。しかしお前が俺に相談なんて珍しいなあ」 「あなたのお子さんを俺に下さい」 無情にも彼の率直な願いは、彼の義理の兄によるアッパーフックではね除けられた。 「義雄よ、俺は残念だよ。非常に残念だ」 「クッ……義兄さん、危うく脳震盪起こしかけるほど見事な攻撃でした……」 「誉めんなよ。照れんだろ?」 「誉めて無いですよ!」 「で、なんの話だったっけか」 「だからあなたの子供が欲しいからおくれって話……や、ちょっ構えを取らないで構え」 「ああ、スマンいつもの癖でイラッと来るとつい。……えっと何?お前ってホモだったの?」 「ええ。姉は知ってますよ。ちなみに俺の初恋兼恋人は義兄さんの同僚の義純さんです」 「マジでっ!?あ、あーでも確かにアイツボディ...
  • 19-149-1
    俺の方が好きだよ! 「あ、猫!」  俺の隣を歩いていたツレが、突然足を止めて声を上げた。  振り返ると、道の隅に丸くなってまどろむキジトラの猫。  ツレは猫から1m程離れたところにしゃがみこむと、猫に向かって手を伸ばし、ちちち、と舌を鳴らした。  それに気付いた猫が目を開け、億劫そうにツレを見上げる。 「エサもねぇのに、野良猫が寄ってくるわけ……」  言いかけた俺の言葉が、途中で切れた。  のっそりと起き上がった猫がツレに歩み寄り、ふんふんと手の匂いを嗅いだ後、その掌に顔を擦り寄せる。 「うわー、かわいい。人に慣れてるんだね」  満面の笑みを浮かべるツレと、その手に撫でられて満足そうに目を閉じている猫を見て、ただ呆然。  いやいやいや、ねぇから。  学校の行き帰りに何度も見かけたその猫を、俺が何回撫でようとしてシカトこかれたと思ってんだよ。  最後の手段と...
  • 19-109-1
    ウザカワ受け 幼馴染でクラスメイトの巧は相手の迷惑というものをまず考えない 今日も突然家に訪ねてきたと思ったら、シャツを2着突きだして聴いてきた 「将志はどっちがいいと思う?」 「は?」 俺は勉強の手を休めて巧が持ってきたシャツを見比べた。どちらがいいと聞かれたって 俺にはファッションの知識もセンスも全くない。 普段着ている服だって、マネキンが着てるやつを丸ごと買ってるからそれなりになってる だけであって、趣味もこだわりも何も無いのだ。それは巧もよく知っている筈なのだが… 「どちらでも同じじゃねーの?」 「全然違うよ!どこに目を付けてるのかなぁ?」 巧はさも信じられない!と言いたげに語気を強めたが、俺にはどちらもヒラヒラしていて 女が着るような服だとしか思えない。 だがそんな服でも巧は似合ってしまうのだ。 小柄で細身、睫毛の長い大きな目、ふんわりした栗色の...
  • 19-159-1
    優しい手 「ちょっと二人で話がしたいので席を外してくれないか?」 久しぶりに遊びにきた友人が彼に言った。ドアのしまる音がする。彼の気配がなくなる。 「最近誰もこの館に来ない理由を知っているかい?」 「忙しいんじゃないのかな」 「違うな。君に愛想を尽かしたんだ」 「そりゃあ、僕といてもつまらないだろうね」 「君が事故で視力を失ってもう10年経つ。いい加減ある程度のことは自分でできるようになっているはずだ。なのに君は未だに彼がいないと何もできない」 「彼の仕事は僕の世話をすることだ。彼は僕の目になってくれる」 「食事くらい一人でできるだろう? 階段を下りるくらい抱えられなくてもできるだろう? シャワーを浴びる時でさえ彼はそばにいるらしいじゃないか」 「君は目が見えるからそう言えるんだ」 「彼がわざと皆と君を遠ざけているという話も聞く。僕は友人のひとりとして心...
  • 6-159-1
    最後のキスと押し倒しにうほっwwとなりつつ踏まれます  寝転がってテレビを見ていると、先輩は必ず俺のことを踏み付ける。  先輩はいつもの無表情で淡々と「お前の前世が玄関マットなのが悪い」なんてわけのわからない理屈を言って煙に撒こうとするが、わざわざ進路を曲げてまで人のことを踏みつけていくその行動は、自分に注意を向けたくてわざわざ人を踏んでいく俺の実家のネコの行動とそっくりだったりする。  ……なんて言うと切れ長の目を細めて「それで?」なんて冷たく言われて、以後最低三日はご機嫌ナナメ・下手をすれば料理ボイコットにより毎食うまい棒(たこやき味)が出されかねないことは目に見えているので、とりあえず今日も黙っておとなしく踏まれている俺なのだった。 「お前が見てる話って、いつもワンパターンだな」  踏まれることにスルーを徹底する俺の反応がお気に召さなかったのか、先輩は俺の腰に乗せた...
  • 6-169-1
    笑わない人 「なあ、俺そんっなにつまんないオトコ?」 「…は?」 自分で言うのもナンだけど、今言ったの俺の十八番のギャグ、伝家の宝刀よ?自信無くしちゃうなー。 おどけた口調で言うと、アイツはいつものしかめっ面を更に歪め「馬鹿」と一言で切り捨てた。 最初はただの興味。 校長のヅラが風に舞った時も体育教師のジャージのゴムが切れてズリ落ちたときも クスリともしなかったアイツは何をどうすれば笑うのかって。 顔面の筋肉おかしいんじゃないかと思って顔グリグリしたら殴られたこともあった。 ここ1年とちょっと、少なくとも学校にいる間は一緒に行動するようになって、 色々と知らなかった部分も見た。全く無表情ってわけじゃないんだよ、絶望的にわかり辛いだけで。 怒るし、睨むし、驚くし。悔し泣き寸前の顔も見た。 ―――でも、笑わないんだ。笑わないんだよ。 どんなに自...
  • 6-179-1
    殺して? 「やっぱりどうやって死ぬかってのはさー、人生の中で一番重要な事項だと思うんだよ」 酒が入ると彼は饒舌になる。 一緒に飲むのは久々だが、それは変わっていなかった。 今日のテーマは『死に方』。 俺が提案したテーマだ。 昔から、彼とは酒の席で「他人に言っても絶対引かれるような独自の理想」を良く話した。 まあ、彼の講釈を頷きながら聞いていられるのは、俺だけだったからかもしれないが。 「俺は病院のベッドの上で死ぬなんて御免だね!美しくない!」 今日は特に舌が回っている。 酒量も多目みたいだから仕方が無いかな。 こうなると彼は止まらない。 今の彼になにか意見をしても、翌日には忘れているはずだ。 「俺はさぁ、余命宣告とかされたら愛する人に殺してもらいたいねぇ」 「それだと相手に迷惑掛かるじゃないか」 「いやいやいや、あくまで理想!理想だか...
  • 6-189-1
    何度繰り返しても。  誰もいない、いや、正確には俺と先輩しかいない放課後の図書室。 俺は机の上に座って足をぶらつかせながら、本の整理をしている先輩を見つめていた。 「先輩、キスしていいですか?」 そう言って机から降りて先輩に近づく。  先輩は見事なまでに固まり、ギギッと言う効果音が付きそうな動作で俺から顔を背ける。 「キス、していいですよね?」 いつも顔を背けるだけで抵抗しないから、返事は聞かずに抱き寄せる。 短いキスをいくつもすると、強ばっていた体から徐々に力が抜けていくのを感じる。 何度繰り返してもキスに慣れない先輩が可愛くて、俺は抱きしめる腕に力を込めた。 何度繰り返しても。
  • 26-819-1
    旅行先で出会った運命の人  あいつとは沖縄を旅行中に知り合った。今から六年前で、あいつは卒業旅行中の大学生。  馴れ馴れしく写真撮影を頼まれて、成り行きで会話をしていたらお互い近くに住んでいることが判明し、  微妙に付き合いが始まって、いつの間にか恋人になっていた。  俺はその頃から、男の癖に占いに凝っていた(性差別的な文言だが)。  当たると噂の占い番組で、「今週の天秤座は旅行が吉。運命の相手に会えるでしょう」といわれたことが、  旅行の一つのきっかけだったほどだ。  両思いになってからそれを思い出し、俺は他愛もなく、そして年甲斐もなく浮かれた。三十前の男がである。  男同士であることも、年が八つほど離れていることも、その時は大したことには思えなかった。まあ、若かったのだ。  付き合って三ヶ月くらいした頃だったか、俺は、酔った勢いで、その占いのことを喋ってしまった...
  • 26-919-1
    ブルーカラー×ホワイトカラー 蒼、蒼、藍色瑠璃の色。 濃淡様々な青色が、空と海とを描き出す。 一見冷たい印象を抱かせるその色が、暖かみを得るその一瞬が、他の何より好きだった。 「青」 一息ついた背中に声をかける。キャンバスに向かっていた青い瞳がこちらを移し、明らかな喜色を孕んでみせた。 「白」 その笑みに微笑み返し、俺はキャンバスの前まで歩みよる。 「見事なものだな」 巨大なキャンバスを目の前にして、俺は言った。すると青は少し照れたようにしながら、あの人に捧げるものだもの。と胸を張った。 1ヶ月後の今日。俺たち色は、全てを作りだして下さった方に会う。それは一年に一度のお祭りで、その時俺たち色は、全員で協力して描いた一枚の絵を、あの方に捧げる。中心となる絵は毎年変わるが、今年は青が、その大役に就いていた。 「見事なものだな」 空と海をとっくりと眺め、もう一度、俺...
  • 26-019-1
    明るそうにみえて根暗×暗そうにみえて根明 「大丈夫、大丈夫。もう十分練れてるよ、これ以上心配ばっかしてもダメよ?  心配ばっかしてて企画はできないのよー、タメちゃん」 パン、と景気よく手を打って、江島が席を立つ。 俺にはよくわかる。 江島は、言葉とは裏腹にこの企画に納得しきれてないのだ。 会議室のテーブルには、各人三杯ずつのカップラーメン。 若者向けの期間限定企画として、軽いノリで作られた激辛シリーズのキムチ、わさび、黒ゴショウ三種だ。 「さあ、いい加減腹もいっぱい、順番が逆だが食後のビールといこうぜ!」 おごり好きの江島の言葉に、チームメンバーも喜んで立ち上がる。 俺もいい加減口がつらい。辛い物はだいたい好みじゃないのだ。立て続けに三杯は苦行だった。 だからなのか。 ……美味いと思えない。 食ってから一言もしゃべる気になれないのは、ヒリヒリする唇のせいじゃ...
  • 19-019-1
    滅びを予感する軍師 その軍師は、今帝の物心ついた時分より老人であった。 年輪のように刻まれた皺は深く顔に貼り付き、まるで生まれた時から老人であったようでさえある。 その灰色の眼は、今帝、先帝、先々帝と三代に亘る治世を見守ってきた。 実の正体は仙人であると囁かれるのも無理はない。若い姿を知る者は最早この宮廷には居ないのである。 さて幼き頃よりこの軍師に稽古をつけられし帝もちらほらと白髪の混じり始めた初春、 かねてより勢力を増していた西の異国が大陸の向こうより騎馬20万もの大軍で押し寄せてきた。 対する自軍は5万、小国ながら軍師の策により初めは拮抗していたものの、 夏にもなると若き国、若き軍に押され始め、遂に疲弊しきった自軍は僅かに宮廷を守るのみとなってしまった。 かつての美しかった都は焼け、民は南の国へ次々と逃げ落ちた。 今にも帝の玉間に敵軍の蹄の音が聞こえ...
  • 16-619-1
    閉じこめる 綾乃と駆け落ちをする、と、透は俺の眼を真っ直ぐに見つめて告げた。 叶わない恋だと嘆く、かつての弱々しい眼差しの面影は既に無く、瞳は強い光を帯びているのに気づいた。 遠くで蜩が鳴き、畳には、ふたつの影が這うように伸びていた。 「家はどうするつもりだ」 尋ねると、透は痛みを堪えるような顔をしたが、それも一瞬のことだった。 「知るものか。あいつらの傀儡にはならない。そんなものはもう御免だ」 「――いつ、発つんだ」 「明日の深夜、綾乃と峠で待ち合わせる。……和志、すまないがおれを助けてくれないか」 瞳の輪郭が和らぎ、幼い頃と変わらない眼差しが俺を捉えた。透が頼みごとをするときの眼だ。 頷くと、食い縛っていた透の唇が綻んだ。 「助かる。おれひとりでは囲いを越えられないんだ」 しばらくの間の後、透は大きく息を吐き、眉根を下げた。 「本当にすまない。…...
  • 19-129
    手が触れた  携帯が鳴ってる。俺のじゃない。こんなセンス悪い着メロ、断じて違う。 「あ、奥さんからだ」  何だっけな、メロディ。聴いたことあるぞ。  ていうかお前、自分の母さんを奥さんって呼んでるのかよ。 「メール?」 「うん。仕事が終わったから帰るよって」 「仲いいな」 「だろう」  ふふん、と得意気に笑う。マザコンか、こいつ。  違うな。多分母親思いなんだろうな。こいつの口から父親の話なんて出てきたことがない。  だから、きっとこいつの家庭は…。いや、やめとこ。  ぱちん、と携帯を閉じる音。返信はえーな、おい。 「お前さん、夏休みに入ったら何をするのかね?」 「何だよ、その口調は」  呆れた。 「いいじゃないの教えなさいよ。母さんとあんたの仲でしょ」 「誰が親子だよ。同い年だろ。電車来るぞ」 「はい、黄色い線...
  • 19-189
    偽装結婚 いわゆる限界集落に住んでいる。 子供の頃からの生家ってだけでこだわりもなかったが、田舎だが市内まで一時間強と不便もないので 一昨年親が死んだ後もそのまま暮らしていた。 集落の人は、みんなそれなりにいい人だ。 不幸が続きひとり暮らしとなった俺に、ぽつりぽつりとやれ野菜だ、それよりおかずだ、 米はあるか、酒を飲むかと世話を焼いてくれた。 正直お節介が過ぎることもあったが、兄弟もいない俺が天涯孤独の寂しさからどうにか立ち直れたのは ひとえにじいさん、ばあさん達のおかげだった。 ……いや、違う。あいつもいた。認めがたいが、ひとりで過ごさずに済んだ、という意味では あいつの世話にもなったのだ。 「集落のタカユキさんからもらった茄子をな、麻婆茄子にしてみた。ビールとあうよ。  それから食っても食ってもなくならないミニトマト、ごまドレで死ぬ気...
  • 16-179-1
    昨日 昨日のことを思い出した。 村上と、夕方まで一緒にいた。 駅で別れる時間まで、駅ビルのでっかい本屋で心ゆくまで新刊漁ったり、専門書パラ見したりした。 本屋に入る前に公園で飲んだ暖かい缶コーヒーのおかげで、実にゆったりした気分で過ごした。 公園の桜はすっかり散ってしまっていたが、枝変わりなのか、 一枝だけ、もうまばらな花を残している木があって、 それが風に吹かれて最後の花びらを散らすのを、ベンチで見ながら飲んだ缶コーヒーだった。 村上が、 「まるで祝福の」 言ったと同時に、自分でも無意識の正拳突きが奴の腹に決まったっけ。 「さっき食べた天津飯がぁ……」 悶えた村上。これ見よがしに大盛りなんか食べたからだ、馬鹿。 あいつのアパート近くの中華料理屋は天津飯が美味いんだ。ラーメンは不味いけど。 俺の方は少々食欲不振だったから、嬉しそうに注文する村上にちょっとむ...
  • 19-109
    ウザカワ受け 「うわーうわー俺はじめて来たよラブホテル!略してラブホ!エロスの宮殿!!」 「よかったな」 「いやあ、男二人でも入れるもんだなあ。ラブホって受付いないもんなの?ぜんぶ機械でピッピッてさ、いや恥ずかしくなくていいけどさ」 「かもな」 「おいあれ見ろよ風呂場!ガラス張りじゃんなにあれなにあれ!覗きプレイか?覗きプレイなのか?この部屋考えたやつスッケベー!」 「そうだな」 「うおおおやべえやべえ普通にテレビでAVやってる!なにこれ高校の修学旅行でゲーセンのコイン必死にねじ込んでエロチャンネル見てた俺たちが馬鹿みてえじゃん!!そんなことしなくてもここならワンボタンでエロスの洪水じゃん!!」 「…………」 「?なあおい聞いてんの?エロスの」 「うるせえちょっと黙ってろ」 腕を掴んで乱暴に押し倒すと、あんなにけたたましかった奴のお喋り...
  • 19-139
    好きな人に似た人 「そういえば大野が全然知らないヤツのことまさきと勘違いして話しかけようとしてたよ。俺が止めてなかったら確実話しかけてた。」 「またかよ!!さっきはるとにも「昨日理学部キャンパスいたよな?」って言われたんだけど。行くわけねーじゃん俺法学部よ。」 「マジでお前に似てる人多いんな。」 「毎日のように「まさきに似てるやついた。」とか「昨日○○で見た。」とか言われる。」 「いいじゃん。変なこと目撃されても「それちげーやつだよ。」っつっとけばお前の場合通じるし。」 「いや別にそこ嬉しくないでしょ。俺ってそんなどこにでもいそうな顔してんの?」 「そうなんじゃないの?」 「マジかよー。俺にも個性ってモンあるでしょーよ。みんなもっと俺を見ろ!そして気付け!!!」 「個性ねぇ…。」 「あ、でもそういえば」 「何。」 「お前は間違えな...
  • 19-149
    俺の方が好きだよ! セフレだったはずだ。 次の恋までの繋ぎ、俺も、向こうも。それがいつからこうなったんだろう。 体をつなげた後の、なんとなく別れがたい気持ち。 ぐずぐずとベッドの上からバスルームへ、体を拭いて着替え、キッチンへ。 今までなら、奴はシャワーを浴びたら、脱ぎ捨てた服をまた身に付け、「じゃあな」と言ってドアの向こうへ消えた。 今はキッチンで俺と一緒に、食事の用意をしている。 和食党の奴に合わせて、米を炊いて、魚を焼き、大根のみそ汁を作る。 奴は時々俺の背後から抱きつき、顎を肩に乗せてただ黙って俺の手を覗き込んだりする。 これではまるで、恋人同士のようだ。俺は少なからず動揺する。 好きという気持ちがあるのかどうかすら覚束ないのに、背中の温かみに胸が締め付けられるような気がする。 「案外手つきいいな」 奴が感心したように、耳元で囁...
  • 26-109-1
    紙の花  下校間際になって、ダチにこれからどうすると聞いてみた。 「オレ塾」 「生活指導の呼び出し」 「デート」  珍しく全員が予定を口にしたので、オレは驚きと落胆で大声を出してしまう。 「誰も暇なやついねぇの?」 「みたいだな」 「で、どうした?」 「誕生日だから、何かおごってもらおうと思ったのに」 「ばか!」 「そんなのはちゃんと先に言っとけ!」 「今日は無理だから今度な」 「ちぇっ」  確かに事前アピールしてなかったから仕方ないとすねながらも諦めるオレを残して、ダチはそれぞれに行ってしまった。  仕方ない、家に帰ったら何かあるかもしれないと帰りかけるとアイツと出くわす。 「一人なんて珍しいな」 「皆用があるんだって。オレの誕生日だっていうのに」 「誕生日?今日が?」 「ああ」 「…………」  何か複雑な表情をしたアイツはカバンからノート...
  • 5-119
    トーテムポール 「見て見て!これトーテムポールみたいじゃね?」 お前、大学生にもなってなにやってんの? 正月早々、暇だからって遊びに来てさぁ。 親戚来るって言っといただろ? 1歳の姪を抱っこして、幼稚園の従弟を頭の上に乗せて、中学生の弟肩車してさ。 しかも酔っ払いの親父が姪の下に参加しやがった。 顔縦に並べてんじゃねぇよ。 俺の血縁関係のツラが縦に並んでる中でお前かなり浮いてるし。 つーかトーテムポールって神様だかご先祖様うんぬんじゃなかったっけ? 酒臭そうなオッサンの顔とぐずりかけてる赤ちゃんと鬱陶しい笑顔と俺と激似の馬鹿面でできたトーテムポールとかありがたみもクソもねえ。 あんまりにもバカバカしかったから、吐き捨てるように言ってやった。 「正月につまんねえ事してんじゃねー」 気色悪いトーテムポールに背を向けて、コップに入った酒を舐める。 ...
  • 3-119
    本当は両思いなんだけどお互いに片思いだと思っている (鈍いから両思いだということに気づいていない) 「なぁ、そういえばお前って好きな奴いんの?」 鈍い鈍いあいつが、酒のグラスを片手にそんな事を聞いてきた。 「あ~、……まぁ一応…。気になってる、っていうか、なんかまァそういうのは」 嘘だ、本当は目の前の相手が好きで好きで溜まらない。 そう言った俺に、あいつは驚いたような顔をして。 「マジでー…?!へぇ…知らなかったな。そっかそっか、…ちなみにどんな奴?」 一瞬驚いた眼をしたアイツが、今度は興味深そうに身を乗り出してきた。 この反応で俺は確信した。こいつ、俺ン事何とも思ってねーわ。 …あー畜生。 「まぁ…詳細は秘密だけど。すっげぇ鈍い奴でなー、どうやってアプローチしたもんか責めあぐねてんだよ」 「うっそ。狙った獲物は逃がさない、女殺しのお...
  • 19-159
    優しい手 長男気質で面倒見のいい先輩は普段からスキンシップが多い。 何かと肩や背中を叩いたり、肩を組んだり。 所謂体育会系のノリが苦手な俺も、最初は不快だったそれをいつの間にか受け入れていた。 先輩の大きい手は嫌いじゃない。 なのに、 「お前、運動部のクセに綺麗な髪だよな」 隣に立っていた先輩が何気なく髪に触れて。先輩の指が髪の間を滑り、偶然首筋を撫でた。瞬間。 「っ?!」 背中を走った謎の感覚。 一瞬で顔が赤くなったのが自分で解った。 「え?」 「す、いません…っ ちょっと、俺 顔。洗ってきます」 「…あ、ああ」 頭を撫でたままのポーズのまま固まってしまった先輩を置き去りにして、水飲み場へと逃げる。 「うわ…何でたってんだよ…」 あり得ない。あり得ない。あり得ない。 頭から水を被っても熱い顔と煩い心臓がなおら...
  • 19-169
    あなたの子供が欲しいのに 「だから、別れようか」と言ったら殴られた。 「雄太の言い分だと、子供が出来ないって知りながら結婚した夫婦には未来が無いってことだな」 ズキ、と心臓が痛んだ。そう言う意味じゃない、そう言う意味じゃないんだ。 「…でも、男同士じゃ結婚も出来ないし」 「入籍しないで暮らしてる夫婦なんかいくらでもいる」 「男同士だから、一緒に暮らしたら変な目で見られるよ」 「同棲しないで長年恋人を続けてる関係だって、世の中には山ほどあるよ」 涙が頬を伝って落ちた。 一度落ちると、後から後からぽたぽたと落ちてゆく。 ため息をついて、修介が俺の頬を撫でた。 「…なあ、俺はどんな目で見られてもかまわないよ」 「お、俺は気にするよ。それに、どんなに頑張っても、お前に赤ん坊を抱かせてやれない」 「そりゃ、お前も俺も男だし」 「修介、赤ん...
  • 7-119
    また、明日 ゆっくり歩いて、今日もふたり、並んで自転車を押しながら、帰り道、人気のない河川敷をゆく。 他愛ないくだらない話をしながら、意味もなく笑いあいながら、僕たちはふたり、歩いてゆく。 芹沢が自転車通学だと知ったのは高校に入って一週間が過ぎたころで、 電車通学にあこがれていたはずの僕は、定期が切れるのを三ヶ月待って、その後すぐに 自転車通学に切り替えた。 理由なんて単純だ。ちょっとでもたくさん、こいつと一緒にいる時間が欲しかったから。 そしてこうしてふたりで帰るようになって、もう二年以上が経とうとしていた。 一年生のときにクラスメイトだった僕たちは、何かの縁でもあるんだろうか、二年生のときも、 三年生になった今も、同じ教室で授業を受けている。 それについて僕は「これって運命じゃない?」とことあるごとに茶化し、 芹沢は「んなわけねーよ」とこと...
  • @wiki全体から「6-119-1」で調べる

更新順にページ一覧表示 | 作成順にページ一覧表示 | ページ名順にページ一覧表示 | wiki内検索