*9が指定したカプ・シチュに*0が萌えるスレまとめ@ ウィキ内検索 / 「8-929」で検索した結果

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  • 8-929
    ホットカーペット 「おい、なんでカーペットのスイッチ『半面』にしちゃうんだよ。電気代対策か?」 「『全面』にするとお前が離れるから」 悪いことしよう
  • 18-929
    甥っ子と、おじさんと、おじさんの後輩と 「おじゃましまーす。叔父さん? いないの、……」 「あ、ちょ、こら、」  叔父さんがソファに押し倒されていたので、とっさに持っていた酒瓶を振り上げました。 「おおっと危ないなァーあははは」 「ぎゃー!? 違うからタロちゃんこいつ暴漢とかじゃないから!」    *** 「えー、僕の後輩の新藤です」 「しんちゃんって呼んでね☆」 「はあ……」  白々しく先輩後輩の関係を装う二人に、俺はとりあえずしんちゃんが無事受け止めた日 本酒を差し出した。 「金貸した親戚だかに貰ったらしいんだけど、うち誰も飲めないから持ってけって」 「僕も飲めないよ。織賀家の下戸遺伝子をしっかり継いでるよ」 「園先輩はコップ一杯でふらっふらになっちゃってオレにむぐ」 「黙れ」  何でこの人これで隠せてると...
  • 28-929
    泣いてるときにいきなりキス 「あのさ、」 「なんですか」 「俺、なんでキスされたわけ」 「泣いていたので慰めないと、って思ったんです」 「それでキスなわけか、ませ過ぎだろ」 「でも、涙止まりましたよね」 「…男にキスしてもいいのかよ」 「あなたが嫌でないなら、僕は別に」 「…嫌、じゃないけどさ」 「ならよかった」 「よかったってなんだよ」 「僕があなたの恋人になれる可能性が見えたので」 僕じゃ、だめですか?なんて聞いてきたあいつは、俺に屈んで視線を合わす。 人生で3本の指に入るぐらい、こっぴどい振られ方をした日のこと。 いくら寂しくてもすぐに切り替えられるわけがない。 「すぐには、ムリだ」 「もう何年も待っているんですから、あと数年位待てますよ」 涙を止めるから、もうキスをしないでくれよ。 不覚にも、頷いてしまいそうだ。 ...
  • 18-929-2
    甥っ子と、おじさんと、おじさんの後輩と 今の10代の男の子ってのは何が欲しいんだろうな」 仕事も終わり駅へとむかう途中、隣を歩く先輩に聞かれた。 急に何を聞いてくるのかと驚いたが、すぐにピンときた。 「甥ごさんにですか?」 「ああ。この歳になるとさっぱり分からなくて困ってる」 先輩が、甥ごさんと一緒に暮らしてから半年が経つ。 先輩の兄である父親と二人暮らしだったそうだが、 そのお兄さんが急に海外へ行くことになり、甥ごさんは先輩と同居することになった。 慌てて部屋の片付けや掃除をする先輩を手伝ったので、俺も良く憶えている。 「俺も先輩と3歳しか違わないので、あまり分かりませんが。  好きなもの買いなさいって、お小遣いをあげるのはどうですか?」 「何度か渡そうとしたんだ。けれど『お父さんからお小遣い貰っているからいいです』って どうしても受け取ってくれなくてな...
  • 18-929-1
    甥っ子と、おじさんと、おじさんの後輩と 「信じられないな……崎山さんとこうしているなんて」 「それは俺もだよ、そもそも男の子とつきあうことになるとはね」 「ジョシコーセーだったらよかった?これでもピチピチなんだけど」 「誘惑だなぁ、高校生とは清い交際を心がけるつもりだよ、前田さんと約束したしね」 崎山さんは叔父の会社の人だ。 半年前に家族会だとかに無理矢理引っ張り出されて、そこで運命の出会いを果たした。 初恋と気づくまでに一ヶ月、男性相手に悩むことさらに一ヶ月、叔父に相談するまで悩みに悩んでまた一ヶ月。 叔父はさすがにひどく驚いて「何かの勘違いだ」と頭ごなしに決めつけた。 胃を悪くするような思いで、夜もよく眠れなくて、やっと勇気を出して話したのに。 逆上した俺を見て、叔父は考え直してくれたらしい。 それからしばらくたった週末に、叔父は崎山さんとのアポを取ってくれ...
  • 7-929
    ラブホテル相手が目の前にいるのに自家発電 どうしてこんないかがわしい内装の部屋で、そんなにすっきりした顔で眠れるんだよ…。 心の中でそう呟いて、俺は何度目かのため息を吐いた。 二人で旅行しようと計画を立てたのは昨日。 月曜日が祝日だからと、三連休を一緒に過ごそうと話し合った。 けれど、それは単なる話のネタだったはずなのに、 今日になって杉浦は俺の家を訪ねてきた。 「旅行に行くんだろ?」 不思議そうにそう言った杉浦の顔を、俺は決して忘れない。 いい思い出にしようなと言い合いながら、二人で自転車に乗って家を出発したのはいいものの、 何の準備もしていなかったからこんなホテルに泊まるしかなかったのだ。 つまりは、ラブホテル。 金欠の高校生が入るには敷居が高かったけれど、杉浦は何の抵抗もなく入っていった。 もしかして彼女と来たことがあるのかもしれないとか、 も...
  • 2-929
    慇懃無礼部下×短気真面目上司 「なぁー飯いこ、飯ー」 「‥‥昼休みまで後1時間あるだろ?仕事しろ、仕事」 「腹減ったぞー、カレー食べにいくぞ、カレー。あ、お前の奢りな」 「聞いてるのか!?仕事しろと言っただろ!」 「カツ丼でもいいぞ」 「だからまだ早い!そして何で私がおまえと昼食を食べないといけないんだ!」 「恋人同士だから当然だろ?」 「誰がだ!ふざけるな!!!」 「あ、なんなら昼にお前を食べるというお約束でも…」 「仕事場で変な事するな!」 「仕事場じゃなかったらいいんだな?」 「…は?」 「よし、じゃあ晩飯一緒な。で、晩飯がお前」 「は!?お、おい、こら、ふざけるな!」 「お、真っ赤だな、まんざらでもないって事か、よしよし」 「うるさい!」 「じゃあまず、昼飯な」 「人の話を聞けーーー!」 夏祭り、花火を見つつさりげなく…(告白、キ...
  • 6-929
    ツンデレ攻め×素直クール受け 「全く……どいつもこいつも使えない馬鹿ばっかりだ!」 俺達以外誰もいない、しんと静まり返ったオフィスに怒号が響く。 会議から戻ったあいつは盛大に毒付きながら、資料を机に叩き付け、 苛立ったように椅子を蹴飛ばした。 どうもまた部下達の成績が思わしくなく、上にチクチク嫌みを言われたらしい。 机から滑り落ちた書類を丁寧に拾い上げながら俺は溜息を吐いた。 「お前やり過ぎ。あんなに年中頭ごなしに怒鳴りつけてたら、連中だって萎縮して当然だろ。 俺にしてくれるみたいに、他の奴にも少しは優しくすればいいのに」 「ハ!真っ平だね。あれ位で音を上げるようならサッサと辞めちまえばいいんだ。 大体俺が誰に優しくしようと俺の勝手だろう。お前が口を出すな!」 「まあ、お前が俺だけに優しいのは嬉しいけど」 ほらよ、と拾い集めた書類を差し出せば、あ...
  • 5-929
    酔った勢い 「俺はホモじゃない」 素面の彼は少し困ったような、そして何か忌まわしいものを見るような表情で俺を見た。 分かっていたはずなのに。思春期になって初めて好きな女の子ができたとき、彼が真っ先に向かったのは俺の所だったのだから。 それ以来彼は無類の女好きで、俺が自分のセクシャリティーについて悩んだ時も彼は女性を目で追っていたのを覚えている。 なのにどうして告白なんか…。言ってしまってから気が付いた。 もう友達には戻れない。「お酒の所為で…」なんて言い訳、通じない。 下唇を噛み締めて、震える身体を彼から隠した。 酔った勢い
  • 4-929
    キセキ 「復学おめでとう」 十二分考えて出た台詞を口にすると、ようやく俺の存在に気付いた南野は振り向いた。 「ありがとう」と短く答えて微笑む頬は、痛ましいほど痩せている。 久しく無人だった研究室の中は、たった半日でずいぶんと片付いていた。 珪酸塩鉱物の結晶の成り立ちにしか興味なかったはずの教授が、息子の年のような舞台役者と一緒に冷たい滝壺に飛び込んだ一年前。教授を文字通り敬愛していた南野は壊れた。 教授の死の話題が出た時、得たりとばかりに老いらくの青年愛について下世話な一説をぶち上げた助教授の顔面に拳を叩き込んだ南野は、明らかに助教授を殺す気だった。 俺は人生で、あそこまで殺気に満ちた人間を見たことはない。 退学になった後、南野は故郷に戻ったという話を聞いたが、俺はそこを訪ねることはしなかった。 そもそも一高時代の同級生という縁だけで、深い交流があったわけで...
  • 9-929
    アフロ受け 「鬼はー外!福はー内!」 田中さんは4~5歳の子供たちに紛れて無表情で俺に豆をぶつけてくる。 しかも本気だ。俺を鬼だと思ってるとしか思えない。 これでも園児から絶大の人気を誇っている保育士だ。 俺はと言えば、このアフロのせいで豆まきの鬼をやらされる始末。 「やめ、やーめーてくだっ、ちょ!」 「鬼のくせに口ごたえか。むかつく。ユウヤ、行け」 田中さんの命令は絶対であるらしく、もも組のユウヤは何の疑問ももたずに深く頷いた。 目がマジだ。 「オニはーそと!ふくはーうち!オニはーそと!ふくはーうちっ!」 ユウヤ近っ!至近距離はずるいだろ!アフロに豆を絡ませるのをやめろ! 「よーし、これくらいで許してやるか。もう来るなよ、鬼」 もっと初期の段階で出るはずであった台詞のお出ましだ。 「『く、くっそー、おぼえてろー』」 古典的な捨て台詞を吐いてお遊戯室か...
  • 3-929
    色黒攻めと色白受け 事を終えてぼんやりとする頭の中ガウンを羽織ろうとした俺に、奴が後ろからがばりと抱き付いてきた。 三度もイかせてやったのに何でこんなに元気なんだと思いながら向き直ると、相手は子供のようにぷぅっと頬を膨らませている。 「ずるいと思う」 「何が」 「だって、お前の肌だとキスマーク目立たないじゃん。不公平だ」 どうやら、首筋に点々と付けた口付けの痕に対して不平を言っているらしい。 今までそんな文句を吹っ掛けてきたのは皆無だったのでよくよく話を聞いてみれば、 なんでも仕事場の同僚に襟から覗いたそれを見咎められてしまったそうだ。 「すっげからかわれたんだ、俺は」 「あ、そう」 「だから今日は、無理やりにでもそっちの肌に痕を残してやろうと思います」 ぐっと拳を硬く握って宣言する奴に、俺は少々うんざりとした顔で尋ねる。 「……いや、お前俺の仕事知ってて...
  • 1-929
    壁一枚の隔たり カタカタカタ、とタイプ音が狭い部屋に響く。 部屋の電気は切れかけているから、 ライトスタンドとディスプレイの青白い光だけが部屋を照らす主な光源。 いつものようにパソコンを立ち上げる、いつもと同じ午後十時。 そろそろだ。 ディスプレイから目を離して軽く伸びをした。 マグカップに手を伸ばしたとき、望んだその音を耳がしっかりと捕らえる。 ガチャリと響く音も、聞き慣れたいつものもの。 「…………」 息を殺して軽く耳をそばだてる。薄い壁の向こうでキッと椅子が鳴り、 すぐにブウ…ゥンとパソコンの起動音が聞こえてきた。 家賃が安いだけが取り柄のマンションだ。 プライバシーなんてあるようでないのかもしれない。 「……っと、やべ」 ほの青く光るディスプレイに目を戻す。キーボードに指を滑らせて、 またいつものスレッドを開く。カタカタ、カタカタ、微かに重なる...
  • 10-929
    ttp //www.post.japanpost.jp/navi/r-133.htmの **くん×書き手 俺宛てにあいつから相談メールがきた。 連絡なんて卒業してから今の今まで一本も寄越さなかったのに 突然すぎる。 結構びっくりはしたが、あいつらしい 慎ましい文章に懐かしさを感じ、同時に少しだけ胸の奥が痛んだ。 この気持ちが恋だと気付いたのは出会って3年目、高校最後の春。 ん、告白さ、したかったんだけど…俺には無理だった。 仕方ない、せめて少しでも一緒にいられるように俺は積極的に話し相手兼相談相手役になった。 なんだかんだであいつといるのは楽しかった。どんな些細なことでもあいつが話すことなら何でも聞いた。 いつの間にかこんなに月日が経ってたんだな、とメールを見て改めて思い知らされた。 彼女についての相談を、俺はあの頃と同じように聞くことができるだ...
  • 14-929
    犬猿の仲 「ようガリ勉メガネ」 「どうした筋肉バカ」 「おまえマラソン大会でゲロ吐いたらしいじゃん?」 「君はついに偏差値一桁に突入したと聞いたよ」 「情報はえーな、射精すんのもそんな早いの?」 「君が算数ドリルを解き終わるのよりは早いかもしれないね」 「はは、ファック」 「綴りを教えといてやるよ。f・a・k・u じゃなくてf・u・c・kだ」 「なあ、あの曲覚えたか」 「大体は」 「じゃあ放課後合わせようぜ」 「君は部活があるだろう」 「あれ知らなかったのか、一昨日の試合負けたから俺らもう引退」 「……初耳だ」 「慰めろよ」 「8組の女子を紹介しようか?」 「可愛くて巨乳の子なんて受験クラスにはいねーだろ」 「ひどい偏見だな、そういった考えが差別を生むんだ」 「差別じゃねえ、区別だ」 「あぁそうだ、コードを少し変更したい」 「はあ? 前も散...
  • 17-929
    世界の終わりの高校生 もうずっとここに座って海を見ている。 色々考えたけれど、もう立ち上がるのさえめんどくさい。 誰かが呼んでいる気がする。何を言っているかは分からない。 もう誰もいないはずなのに。 地平線から人の影が出てきて、形をなしたと思ったらこっちに向かってきた。 ここは僕しかいないはずなのに。 不安になって、思わず立ち上がる。どことなく見覚えのある男が、手を伸ばした。 「お前を迎えにきた。こっちへおいで」 いやだ。あんたは、僕を海へ引きずり込む気だろう? そばに来るな。 「ここにいたって意味がない。助けにきたんだ」 その声は暖かく、優しかった。彼が僕を呼んでいたんだろうか?  でも、そこは深く暗い海じゃないか。 「この世界にはお前しかいない。独りぼっちだ。何も始まりゃしない。分かってるんだろう?」 それでいいじゃないか。ここは安心だ。そっちはいやだ...
  • 25-929
    大学生どうし ※会話のみ 「ただいまー!ゆっちーん!メシー!」 「ただいまじゃねぇここはお前んちじゃねぇ」 「いいじゃんほらちゃんと鍋材料買ってきてやったから!」 「ちなみにいくら?」 「白菜88円!ブラジル産鶏肉グラム78円!」 「おーえらいえらい。良いよなーキヨんち。商店街近くて」 「俺自炊しないからあんま興味ないけどなー。ゆっちん俺の部屋住んじゃう?」 「あんなGとお友達になってる部屋はイヤです。 てかメシくらい自分で作れ。いちいちたかるな」 「またまたー。二人で鍋食べられるようにカセットコンロ買ってくれたじゃーん。ゆっちんツンデレ!」 「これは電熱器じゃ火力が足りなかったから仕方なくですー」 「ところで明日ゆっちん3限終わったらなんもないよな? 服買いに行かね?俺バイト代入ったし新しいジャケット欲しい!」 「とか言ってまた俺に変なもん着せ...
  • 21-929
    女王様攻め×大型番犬受け女王様攻め×大型番犬受け 君は本当に嫌らしい男だな。 僕の前ではまるで犬のように涎を垂らし、こんなにも淫らな格好で欲しがっているのに 彼の前では別人のようじゃないか。 彼の前で君があんな風に振る舞うのはどうしてなのかな? 男としてのちっぽけなプライド? それとも僕のようになりたいのか? どちらにしても滑稽だな。 君には僕の足を舐めるみじめな姿がお似合いだし、 どう頑張っても僕のようにはなれやしないよ。 いくら僕と同じように振舞ったって、君は男に抱かれずにはいられない体なんだから。 大きな体で女みたいな声をあげて男を欲しがる変態なんだから。 彼が君のこんな姿を見たらどう思うかな? そう、さっきから君の痴態を写してるのは 彼に君の本当の姿を見せてやる為だ。 泣くほど嬉しいのか? 最初からこうなる事を期待してた...
  • 23-929
    いっしょにごはんをたべよう 長いことひとりで生きてきたわりに、桝田は料理がまるで駄目だ。 不器用なのではなく、単に食という行為に対する関心が希薄なのだろう。 おかずが塩だろうが、100グラム7000円のブランド牛だろうがノーリアクションだ。 冷や飯は温めずに保存容器から直接食べる。 黙々と栄養を補給する姿はいかにも作業的だった。 だからというわけではないが、仕事帰りにやつの家に寄って夕飯を食わせることにした。 連載を抱えて多忙なせいか、桝田は近頃またすこし痩せ細ってきた。 たいそう好評らしい恋愛小説の進捗状況よりも、友人の健康状態の方が気に掛かる。 予想はしていたが、やつの冷蔵庫はほぼ空に近い状態だった。 結局あり合わせで作った献立が、白いご飯と豆腐の味噌汁。 こんなこともあろうかとスーパーで買ってきた納豆を出し、ほっけを焼いた。 「どうだ」...
  • 24-929
    猫なで声 「ね~ぇ、宗吾ちゃ~ん」 わざとらしい声が上がったのはソファの上からだ。 足を投げ出して背もたれに寄りかかり、手にした文庫本から視線を外さずに秀二は続ける。 「冷た~い牛乳とか飲みたくならん?」 「…ならん」 俺は濡れた頭をタオルで乱暴に拭きながら答える。 シャワーを浴び終わり自然と足が冷蔵庫に向かう瞬間だったから、少し悔しくて珍しく拒む回答をしてみた。 「そっか~。そんなら、オランジーナ冷えとるよ」 相変わらず視線は文庫本に固定されたままだ。 なぜ読みながら会話が成り立つのか、不器用な俺には全く理解不能だが、秀二に言わせると俺のほうが理解不能だと。 冷蔵庫を開け、最近お気に入りのジュースを探すと、ドアの裏、牛乳の隣にそれはあった。 …反対側には、秀二の好きな銘柄のビールと、重ねられて冷やされているビール用のコップ。 「…………」 ほかには...
  • 16-929
    年の差主従 ベッドの上に体を起こして本を読んでいると、執事がうやうやしく ワゴンを押してやってきた。 「旦那様、ホットミルクをお持ちいたしました」 「ミルク?」 「このところ、あまり眠れてらっしゃらないようでしたので...」 「私を子ども扱いするのか?」 「ホットミルクの効果は科学的に証明されているのですよ? 牛乳に含まれるトリプトファンという物質は脳内でセロトニンという物質を 作る材料になります。セロトニンは睡眠を誘うメラトニンというホルモンを 分泌させるのです。 また、ホットミルクの温かさは体の中から体温を上げてくれます。一旦、 上がった体内の温度がゆっくり下がる時、人間は眠気に誘われ...」 「わかったよ、わかった。もういい。飲もう」 私は老眼鏡を外して、まだ青い、その青さを努力と情熱でどうにか しようと奮闘するほほえましいくらい頭でっかちな若い執...
  • 15-929
    私を許さないで 彼に告げていないことがある。 私が彼を養子として引き取ったときから、私はできる限り彼に隠し事をしないようつとめてきた。 彼の父親の古くからの知人を名乗る私に、 身寄りのなくなった彼は文句もいわずについてきてくれた。 当時の私はとにかく彼に信頼される養父であろうと努力したし、 彼もまたそんな私を父と呼んでくれるようになった。 あのときから私の胸には言い表せないほどのあたたかな温もりと、 どうしようもないほどの罪悪感を感じるようになったのだ。 年を経て、彼が彼の父親に酷似してくるにつれて、その気持ちは強くなる。 思えば、彼の父親との関係を詳しくたずねられたことはなかった。 それは見知らぬ男を養父とした彼なりの遠慮だったのかもしれないが、 私も自らすすんで話すことはなく、結局何も告げないまま月日が経ってしまったのだ。 もし...
  • 27-929
    一目でいいから 意地悪な恋人をもつと、大変だ。 何考えてるか分かんないし。いっつも僕だけがベクトルを向けてる気がする。 恥ずかしいの我慢してキスなんかねだっても「んー?」ってイイ笑顔。しかも口にはしてくれない。 好きって言ってくれる回数はとても少ない。かと思ったらいきなり唇を奪われたり。 本気なのかお遊びで付き合ってくれてるのか、時々不安になる始末。 神様どうか、一目でいいから彼の心を覗かせてはくれないでしょうか。 二人の覚悟
  • 19-929
    二人がかりで 何事も二人がかりで取り組めば、完璧に近い形を作り上げられた。 例えば、夏休みの宿題。 例えば、文化祭での二人司会。 例えば、大学での卒業研究。 一人では不可能に感じることも、二人がかりだと些細な事のように思えてくる。 俺らは自他共に認める最強のコンビで、行く先に怖いものなどない。…はずなのだが。 はぁ、と溜め息を漏らした俺を見て、相棒が困ったように笑った。 「そんなに緊張しないでよ。俺にまで伝わってくるじゃない」 ほら、幸せ逃げちゃうよ? と続けた相棒は、いつも通りへにゃりと表情を崩した。 「この状況で緊張しない方がおかしいんだよ。あー、汗かいてきた」 俺はそう言いながら、黒いスーツに両手を拭いつける。 落ち着かず、ソワソワと体を動かし続ける俺に呆れたのか何なのか。 急に相棒は俺に手を差し出した。 意図を掴めず、呆けた顔を上げた俺に、...
  • 5-929-1
    酔った勢い 酔った勢いだった。 おととい、俺は友人である男と寝てしまった。 酒を飲んで、調子に乗って、あろうことか自分から誘ってしまった。 行為がどんなものだったかは覚えていない。 (まあ、昨日はろくにバイトも出来ないほどずっと腰が痛かったから、 激しいものであったのは確かだとは思う) だけどただひとつ、俺に誘われたあいつが一瞬妙な表情で固まったあと、 赤かった頬を更に真っ赤に染めたことだけは鮮明に覚えている。 そして、その顔を思い出すたびに、ひとつの疑念が俺の中に浮かぶ。 今日もバイトが終わった。 コンビニで酒を大量に買い込んで、また、あいつの部屋に行く。 「お前さー、もしかして俺のこと好きなの?」 きっと、酔った勢いでなら、打ち明けてくれる。 酔った勢い
  • 5-929-2
    酔った勢い 明日は結納だと言うのにこんな遅くまでいいのかと言ったら、飲みたいのだと奴が駄々をこねた。 男にも結婚前になんちゃらブルーとかいうのがあるんだろうか。 深酒になった。 「本当はさァ、結婚なんかしたくねぇのよ、俺は」 終電も逃して、飲み代で大枚はたいた後だけにタクシー代は二人合わせても俺の部屋まででギリギリで、いいよ泊まれよ、と久し振りに切り出した。 まだ入社間もない頃は良く終電が無くなるまで飲み歩いた。 こんな風にタクシー代を折半して俺の部屋へ雪崩れ込み、人肌が恋しくて、戯れに抱き合ったこともある。 唇を重ねたのは一度だけ。互いに我に帰り、『酔った勢い』だと笑い合い、それ以降、どちらからか飲みに行っても終電を逃す前にお開きにするようにしていた。 …今日までは。 「結婚したくねぇんだよ」 台所で水をコップに汲んでいる最中も、その声は繰り返した。 それ...
  • 19-929-1
    二人がかりで 見た瞬間に「押さえ付けられて」以外思い浮かばなかったことをお許しください。 で、二人がかりで押さえ付けられるシチュエーションなんかもう一つしか思い浮かばないよね。 二人ということで双子設定を受信。 でもってほとんど見分けがつかないほど瓜二つで、しかも小悪魔系の美少年な双子とか。金髪とかもグー。 あとなにか特殊な能力故に他の人たちから、親からも疎んじられてて、 お互いだけが心の拠り所だったみたいな感じ。 そんな中現れる青年。彼は例えば仕事だったり命令だったり 双子の側にいなきゃいけない関係で、彼らの面倒をみる羽目になる。 でも互いしか自分の世界にいらないと思ってる双子は、青年に反発して むちゃくちゃ嫌がらせしてみたりして。 で、青年は「くそガキども!……ったく何で俺が。勘弁してくれよ」とか ブチブチ言いつつ面倒見のいい苦労性タイプ...
  • 16-929-1
    年の差主従 「今日からあなたさまにつかえることになりました、あーさーです!」 目をきらきら輝かせながらそう言ったその子を、僕はひきつりながら見下ろした。 「どうしましたか?あなたさまはこのお城のりょう主さまのこうけい者となったんですよ」 そうだ。僕は本当はしがない農夫だったのだが、 ひょんなことからここら一帯を治める領主様の命を助けて、養子になった。 大怪我をしながらも幸い一命を取り留めた領主様の口から飛び出たそれは夢のようなおいしい話で、 毎日腹の音を子守唄にしていた僕はすぐに飛びついたものだ。 しかし、うっかり口をぽかんと開けてしまったくらい立派で重厚な門をくぐり、 初めて乗った馬車に揺られながら美しい庭園を抜けて、車から降りようとしたとき、 馬車の出口で僕を待ちかまえていたかのように手を差し出してきたのが、この、金髪の男の子だった。 「え、あ、あの...
  • 26-929-1
    憎いはずなのに 俺が殺したかったアイツが切られて、嵐の海に落ちていく。 それを見た瞬間、俺は反射的に荒れた海に飛び込んでいた。 何をやってるんだ……。 嵐の海で意識のない人間を抱えて、岸まで泳げるのか? 第一憎んでいた相手を助けようとするなんて、自分で自分が分からない。 それでも動いちまった以上はやるしかなく、必死で俺は岩場まで泳ぎついた。 息も整わぬまま気を失った奴を引きずり岩場を上へ上へと歩き、波の届かない岩の隙間を見つけて中に入りやっと一息つく。 薄暗い中で奴の上半身から濡れた服を剥ぎ取り、絞ってそれを包帯代わりに腹に巻き付け止血を試みた。 思っていたより傷口は浅く、これで何とかなるかもしれない。 初夏だが濡れて体温を奪われ身震いした俺は、仕方なく意識のない奴を抱きしめる。 いつも余裕の冷笑を浮かべている顔は血の気を失い青ざめていたが、整っていて人間離れし...
  • 23-929-1
    いっしょにごはんをたべよう 人の機嫌を損ねないようにといつも自信なさげに喋る鴨居が、今日はいつにもまして気遣わしげな視線をよこす。 心配ごとでもあるのだろうか。不思議に思いながらも「どうかしたのか」と直接に聞くことはせず、大池は缶の中に僅かに残っていたコーヒーを飲みきって口を開いた。 「休みだよ、そりゃ」 「だよな、土曜日だもんな」 「いや、実際土曜休めるのとか久しぶりだよ」 「そうか」 鴨居が焦った顔になった。失言だった、と早くも後悔しているらしい。また迷ったように視線を泳がせ、右手に持ったままの手帳を開いたり閉じたりしている。 高校時代によくつるんでいた友人たちは、鴨居のこういったのろさを面白がって、ときには少し馬鹿にすることもあり、悪い言い方をすれば笑いもの扱いだった。 彼らの意識としては友達同士ののりでからかっているだけだし、鴨居も一緒になって笑っていた。し...
  • 22-929-1
    鈍感な兄←好意を隠すのが得意な弟 質問者:Toya 質問内容:どうしたらいいんだろう  俺、クラスメイトに無視されてるかもしれないです。  俺高2なんだけど、一週間ぐらい前から避けられてるみたいなんです。  最初は一人だけだったのに、だんだん増えてきてて、  もう普通にしてくれるのは三人ぐらいしかいない。  何かした覚えもないのに、どうしたらいいんだろう。  解決方法知ってる人いたら、お願いします。教えてください。  こういうとこに書くのは初めてなんでヘンな事書いてたらごめんなさい。  お願いします。 回答者:AYA 解答内容:とりあえずさ  まず落ち着こうか。タイトルそれだと何の質問だか分かんないよw  んで質問内容だけど、いじめにあってるかもってことだよね?  いじめって特にきっかけなくっても始まったりするみたいだから、 ...
  • 12.5-929
    出征 俺はもともと虚弱体質だったこともあり、兵役から免れた。 しかし、あいつには容赦なく赤紙が送られてきた。 「行くな」と言いたい・・・・・・しかし、このご時世にそんなことを言えば 非国民とののしられること請け合いだろう。 俺は、せめてあいつに無事で帰ってきてほしくて、千人針を縫った。 出征当日。 「お国のために行ってくる!」 あいつの笑顔はいっそ清清しかった。 俺は千人針を渡す機会をうかがっていたが、 あいつは家族友人に囲まれていてとてもそんな機会は巡ってこなかった。 隅であいつをじっと見つめている俺にあいつが気がついた。 「お前も来てくれたのか」 あいつは穏やかな笑みで俺に駆け寄ってくる。 だめだ、来るな。俺の女々しい心が見透かされそうだ。 「・・・・・・生きて帰ってこいよ」 俺がやっと口にできたのはそれだけ。たったそれだけ。 それが、最後の言葉...
  • 8-909
    一番星 俯いて白い息を吐く。 厚いマフラーに口元を埋め、ポケットに手を入れてもまだ寒い。 周囲は夕焼けで紅に染まり、足元には黒々とした影が長く伸びている。 目を上げれば、空には気の早い一番星。 『一番星って俺に似てるよな』 ふと、いつも傍らにいた男の声を思い出した。 『気が早すぎるところは似てるかもな』 『ひっでー!いいじゃねーか思い出作りにちょこっと手を出すぐらいー』 『…手術は一ヵ月後だな』 『ああ』 『だったら無事完治した後にでも、いくらでも出せばいいだろう。 …縁起でもない』 『うん、でも、何があるか分からないしな。…一番星はさ、満天の星空の 中では光は紛れてしまうけど、少し早く光り始めるからこそ人の目を引くよな。 俺は、お前の心に残れるのなら、そういうのでもいいと思っている』 『…』 『俺がこのまま居なくなったら、俺が残...
  • 8-939
    悪いことしよう 「俺、今日から不良になる」 そう内容とは裏腹の笑顔をそえて宣言されたのが三週間前。 髪を染めたりピアスを開けたりしてくるかとドキドキ過ごした一週目。 タバコ吸ったり酒飲んで騒いだりで補導されやしないかとヒヤヒヤした二週目。 盗んだバイクで走り出すのか校舎の窓ガラスを割ったりするのかと歌いだしそうに悩んだ三週目。 とりあえず見たところ変化はないようだし、不良になるのはやめたのかなと楽観視したのが三十分前。 「先生、悪いことしよう」 そう上目がちで睨みつけるように顔を寄せてきたのが三秒前。 あまりの顔の近さに、思わず顔を退いた拍子に椅子ごと倒れた現在の俺、先生。 といっても大学に通う側バイトでしている家庭教師の先生。 見下ろす彼は、高校受験を間近に控えた悩み多き中学三年生。俺の生徒。 みっともなく倒れた俺を笑うでもなく彼は椅子から立ち上がり、俺に覆...
  • 8-969
    震える肩 ソファの隅っこで小さくなったまま動かない背中。 背もたれを掴んだ指先が白くなっている。 「なぁ……無理しなくていいんだぞ」 「うるさい!だ、大丈夫だって言ってるだろっ」 声も全く説得力がない。 「そう言うセリフはせめてこっちを向いてからにしろ」 「今向くよ!だから、待ってろ」 待って向いてくれるならいくらでも待つ。 だけどそれはいつになる事か。 ……まいったな。 こんな風に困らせるつもりなんてなかったのに。 隣にゆっくりと座ると、ビクリと反応する。 震えている背中。 そこに感じるのは怯え。 そんなにも、怖いのだろうか。 ……怖がらせるつもりなんてなかった。 自分の浅はかな行動に情けなくなる。 コイツより大切なものなんてないってわかっていたはずなのに。 それでも、聞いてしまった。 「……ごめん。諦めるから、無理すんなよ」 ...
  • 8-959
    故郷 「そんな顔しないで。俺、頑張ってくるよ」 そういって君は、真っ白な羽二重のマフラーを巻いて行ってしまった。 もう二度と、故郷の土を踏めないことを知りながら。 君のいない春が来た。 僕は亡国の名を冠した病のおかげでここにいて。 あんなに元気だった君はいなくなった。 ふと目を落とした先に、小さな真っ白い花が咲いていた。 ああ、ここは。 僕が君にマフラーを渡した場所だ。 「…帰ってきて、くれたんだね」 震える肩
  • 8-999
    ありがとうを伝えるために 「どうして帰ってきたんだよ」と中島様は声を震わせました。はてどうして、どうしてこんなに早くばれてしまったのか、私にも分かりません。今の私は中島様より背も高く、波打つ髪の持ち主の、一般的な青年であるはずです。かつての名残は跡形も無く消え去ってしまっているのに、再会した瞬間に、中島様は私の正体を見破ってしまわれました。 出自を述べさせていただきますと、私、元々は東京都は伊豆諸島に連なる小さな無人島、鳥島(とりしま)を出身地といたします、しがない海鳥にございます。 出会いを運命と申しますなら、それは今を去る事二ヶ月前、日差しの眩いある五月晴れの日のことでありました。長々と翼を広げ、若鳥特有の黒い背毛を陽光に照り返しながら、自由に空の散歩を楽しんでおりましたところ、助っ人外人の打ち放った8号場外ホームランが額に直撃し、私は脳天もくらくらと、駐車してあった...
  • 8-989
    さよならは言わない 「俺のどこがダメなんですか?  悪いところは全部直すから、だからそんなこと言わないでください。」 そういうところだよ。 俺の言うことなら何でも聞くところ。 俺のためならどんなことでもするところ。 俺のことを、誰よりも愛してくれているところ。 そんなことは言えなくて。 「もう、苦しいんだよ、おまえといるの。  これ以上いっしょにいたら、きっと俺はおまえの事が嫌いになる。  俺には、おまえみたいな愛し方は出来ないし、それを受け止めることももうできない。  だから、終わりにしよう。  まだ、おまえのことを好きでいられるうちに。」 俺のエゴだってことはわかってる。 でも、おまえと一緒にいて幸せだった時間も確かにあったんだ。 あの日々を、思い出したくはない過去にはしたくないから。 「さよならは言わない。  こんな俺...
  • 8-949
    ジャイアニズム 友達は選べという言葉があるが、俺は思う。それができれば苦労はしないと。 「とにかく、今度という今度は絶対に別れてやる。もちろんこの公演を俺の実力で  大成功させてから、だ」 「…ああ、うん。」 気のない返事がお気に召さなかったのか、目の前の美青年は蹴るように席を立って 恐ろしい形相で俺を睨み降ろした。俺は怒号を覚悟し無意識に眼鏡を押さえたが 予想に反し、テーブルの上に大量の紙資料がぶちまけられただけだった。 「わかったら、お前はさっさとこれを翻訳しろ。今夜中に」 「ええ…!?い、いや、いくらなんでも今夜中は…これから打ち合わせもあるし」 「てめぇの仕事は何だ?言ってみろ」 「え、あの、音響監督……」 「舞台の成功のために全能力をフル活用して献身することだろ!?主演俳優様が  演技のために必要な資料を用意しろっつってんだよ、最優先事項だろう...
  • 8-919
    小さな死 「ごめん、俺・・・男をそういう風に見れないから。」 今朝の占いは1位だった。 今月のラッキーデーは今日だった。 ラッキーアイテムのシルバーの指輪も、ポケットに入れてきた。 (あーあ、占いなんてやっぱ当たらないな) 自嘲気味に微笑んで目を閉じた・・・不意に頬に涙を感じた。 あいつが目の前で困ってる気配を感じながらも、どうしても笑って立ち去る事が出来なかった。 「失恋と死は似てる。失恋は、自分の一部が死ぬ事だから。」 いつだったか、どこかの作家が言った言葉。 ならば、俺の想いも今、死んでしまったのだろうか。 裂かれるような痛みを伴いながら、だけど苦しむ事も無く一瞬で途絶えた。 いつまで経っても形を失わないこの亡骸。 小さな死を想いながら見上げた空は、暗く滲んでた。 小さな死
  • 8-979
    カンタビレ 「泣くなよ」 「泣いてない」 「ボロ泣きじゃん」 「泣いてねーよ」 「泣き虫けむし~挟んで捨てろ~って言いだしっぺ誰なんだろうな」 「知らねーよ!」 馬鹿な事を言いながら背中を擦ってくる無骨な手。 楽器なんて似合いそうになく見えるのに、その手に触れたピアノはまるで 歌いだすかのように鮮やかに音を生み出していく。 この、指の長い手が、こいつのピアノが、俺は大好きだった。 『別にピアノが弾けなくなった訳じゃないんだよ。でも、音楽家として演奏会に出るための練習には耐えられないだろうと、医者は言っていた』 そう電話越しに聞こえてきた声は、響きは軽いのに色をなくしていたのをよく覚えている。 「馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ何でお前は泣かないんだお前が一番辛くて悲しくて どうしようもないはずなのに!」 「でもお前が俺の代わりに泣いて...
  • 28-979
    優しい復讐 その人の姿を庭先に見つけたとき、僕は自分が幻を見ているのだと思った。 まるでモデルのように均整のとれた体躯を仕立ての良いスーツを包んだその姿は、この田舎町にはあまりにも似つかわしくなくて現実離れしている。 けれどもそれは、6年前までは確かに僕のすぐ側に現実としてあったものだ。 「久しぶりだね」 少し低めの落ち着いた声とともに、その人は6年前と同じように僕の側まで来てしゃがんだ。 6年前はそうしてもらえば僕はその人と目線を合わせることが出来たけれども、 あの頃よりも背が伸びた今ではそうされると僕はその人を見下ろさなければならなかった。 僕と同じことに気が付いたのだろう。 その人は苦笑して立ち上がり、今度は僕が見下ろされることになった。 「……どうして」 どうしてここが分かったのか。 どうして僕がこの人の前から姿を消してから6年も経った今...
  • 18-979
    完璧  斜め前の席に座る奴に目を走らせる。俺が一番嫌いな奴。  不動の学年主席。頭が良いだけじゃなく、運動もできる。品行方正。顔も良い。人当たりも良い。家は医者だとかで、金もある。  つまるところ、完璧。どこのマンガのキャラだ。…いや、マンガなんて読んだことないけど。読んでる暇あるなら勉強する。  コイツのおかげで俺は万年次席。運動はできない。顔は…平凡?敵は山ほど作るけど友達は作らない。面倒なだけ。家も平凡。まあ、勝てることは何もないわけだ。  授業が終わった。机の上を片付けて席を立つ――目の前に、あいつ。 「どこ行くの?」  無視。教えてやる必要はない。よけて教室を出るが、後ろからついてくる気配があった。うっとうしい。  俺が人気のない方へ足を伸ばすとまた声をかけてくる。 「こっち、図書室だよね?昼ごはんは?食べないの?」  さっさと教室戻れ。俺は財布...
  • 18-919
    きれいなお兄さん×大型わんこ 太腿を撫でられるうちに、居ても立ってもいられなくなってきた。 「お、お、お兄さんは」 声がうわずる。そのことが余計に俺を逆上させた。 「……なんで俺なんかを構うんですか」 お兄さんは目を細め、俺の鼻をつまんだ。 「可愛いからさ。見てるとかわいくてかわいくて仕方がないんだよ」 ムガ、と鼻が鳴る。毎度毎度、この人の言っていることがわからない。 剣道、柔道で鍛えられたむくつけき大男である俺の、どこが可愛いというのだろう。 「俺はもう小学生じゃありません」 「知っている。高校生でも大学生でもないね、立派にお勤め人だ。むろん小さい頃も可愛かったが」 そういうお兄さんこそ可愛かったじゃないですか、と言いたいのを堪える。 美少女然とした子供だった3つ上の幼なじみは、いまや美女とも見紛うばかりの美青年とあいなったが、 自分の外面にとんと興味が...
  • 28-949
    真昼の決闘 「今日こそ勝つからな!」 「出来るもんなら」 「今日も始まったかー」 昼休みの教室の後ろでは毎日“決闘”が行われる。決闘と言っても勿論物騒な意味ではない。 事の始まりは共に剣道部に所属するクラス一のチビ、小西がクラス一のノッポ、大東に試合で負けたことからだった。 負けず嫌いな小西はそれから毎日昼休みになると掃除用具入れから箒を取り出し、大東に試合を臨んでいるのである。 それを誰かが「決闘だ」と言いだし、今では“二年八組の決闘”は有名になってしまった。 「頑張れよー小西」 それを俺と一緒に教室の隅で眺める南原も剣道部員で、度々小西にアドバイスをしているらしい。 「小西もよく諦めないよな」 「そこはまあ…色々あるんじゃない?プライドとか、三年になったらこんな事もしてらんないだろうし」 「三年になるまでに、ねぇ」 タイムリミットはすぐにや...
  • 18-909
    探偵(職業探偵でなくても可)と、助手(職業助手でなくても可) 殺人事件現場にて 「だからどうして君はそうわからずやなんだ!」 「君のために言っているんだ」 「そりゃどうも。君からすれば、僕なんて頭ののろい古臭い人間だろうよ!」 「そんなこと言ってないだろう」 「言ってるじゃないか!」  自分と比べて冷静な彼の取り澄ました顔が、こういうときは憎らしい。 「君が素晴らしい頭脳の持ち主だってことは認めるよ。でも僕だって子どもじゃ…」 「シッ」  彼が唇の間から素早く音を発した。  人差し指を唇に当てたポーズに、僕は口をつぐむ。  彼が足下の地面に視線を落としている。  獲物を見つけたアフガンハウンドのように目を輝かせ、きゅっと口を引き結ぶ。  いつもは、蝋人形のほうが血色がいいくらいなのに、こうなった彼の頬は赤みを帯び、生命力に満ちている。  彼がなにかを見...
  • 18-939
    腰まである長髪 今日も俺の幼馴染は煩い。 折角きれいな夕焼けだというのに、それに見とれもせずわめいている。 「奇跡だ! ミラクルだ! マジカルペシャルミラクルだ!」 「はいはいそうかそうか。そりゃ良かったな」 「なんだようーもっと祝えようー俺とお前は十年来の親友だろー?」  まあな。確かに幼稚園からのつきあいだわな。 「そうだな、十年来の親友だ。だからなんでもしってるぞ。お前があきもせず似たようなタイプに告白して付き合ってすぐ振られて泣きついてくるのがもうすぐ累計14回になるってこともな」 「あーなんだよそれ! 今回こそは大丈夫だって!」 「お前俺にもたれかかって泣くだろ。翌日肩が凝って大変なんだ。泣く時間を短くしてくれればまあ祝ってやらんでもないが?  あ、そうか、情がうつらなければいいのか。今回もすぐ別れればいいのに」 「ひでえ!  なんだようひがんでん...
  • 18-959
    殺し愛 ずるり、と腕の中の体から力が抜け、そのまま地面へと崩れ落ちる。 ふう、とため息をつけば今補給した食事の鉄の味が口の中へと広がって、 なかなか甘美だと言えた。 そっとかがんで足元の体を持ち上げる。戯れに襲ったその青年は浅い息を立てていた。 今まで基本的に女を獲物としていたが、男も選べばなかなかのものだ。 しかし満ちる力とは別に、私はまるで凪の中で座るような気分だった。 何が不足か。そう仲間なら聞くだろう。なぜなら私もそうだった。 しかし今は違う。 一ヶ月。 たった一ヶ月で私は変わってしまった。 一ヶ月前の満月の日、あの夜あの場所あの時以来、いくら美女を捕まえれど、いくら 甘美な血を吸えど、私は満たされない。 それは遠大な戯れ。どんなに贅を尽くした晩餐、どんなに清らかな血、穢れた血よりも 甘美なもの。 銀色と青灰色と紅。それが私を支配して、ひととき...
  • 28-959
    にっこり笑顔が二つ あのさ、とか言っているこの人が愛おしかった。 オレの恋人は、高校のころの先輩で今は会社の上司で頼れる人だ。 バリバリ仕事をして、余暇はしっかりと取るし公私混同は絶対にしない。 それにめちゃくちゃ頼りになるし優しい。 たとえば、めちゃくっちゃ困難なことがあってそれで話を振るとする。 そうしたら、この人はどんな相手にだって (どんなにめんどくさい人にだってだ!)手を差し伸べる。 自分の仕事を抱えながらも、そっちの仕事もこなして、さらに周りに気も使える。 女子の同僚からは”高嶺の人”とか言われていて、 上司にしたい人理想の恋人私生活が気になる人ナンバー1。そんな人。 …のはずなんだけど、なぜかオレの前ではそんなそぶりは見せないし、 もっと力が抜けている。Jホラーの予告を見ただけで ぎゃーぎゃー悲鳴を上げるぐらいの怖がりだし、 甘...
  • 18-949
    嫌いだったハズのアイツ 角張ったあごにくちづける。髭が伸びてきていて唇を刺す。 この口が嫌みな台詞を吐くたびに苛々させられたことを思い出す。 カンに触ったのは、それが正論だったせい。むかついたのは鋭すぎたから。 「お前が担当だろう」と言ったのは、逃げたわけじゃなく俺の仕事を尊重しただけ。 残業するたびに眉をひそめたのは、安請け合いする俺を気遣ったせい。 わかりにくいんだよ、おかげで異動してきて半年も、お前のことが嫌いだった。 かつての職場は、能率が悪くて馴れ合いがはびこる吹きだまりだった。 お前が新しい風を入れた。能力と、誠実さで。 皆が変わった。最後まで残ったのは俺だった。 おかげで、上にまで火の粉がかかるようなヘマをするはめになった。 すんでのところでお前に救われ、かろうじて事を納めた。 お前は相当のとばっちりだったけど。 屈辱だった。嫌みだと思った。...
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