*9が指定したカプ・シチュに*0が萌えるスレまとめ@ ウィキ内検索 / 「9-969」で検索した結果

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  • 9-969
    犬の散歩に行こうよ 雪が降った。 暖冬、なんて言われてるだけあって、こんな山奥の田舎でも雪が降らなかったのに。 今日になって、いきなり雪が降った。 「降ってるねぇ」 コタツにあたりながら、田中が呟く。 「降ってるねぇ」 俺も。 「除雪してもらわなくちゃね」 「そうだな」 雪はどんどん積もり、さっきまで土が見えていた地面は真っ白になって行く。 「嫌だなあ、雪なんて」 俺が呟くと、田中はどうして?と尋ねた。 「だって、雪降ると不便だろ?買い物とか」 山奥の田舎だから、買い物は下の街に行かなくてはいけないから。 それに、 「デートだって出来なくなる」 俺の言葉に、田中が目を丸くした。 そして、いきなり笑い出し、 「ははっ…そうだね」 そう言った。 そして、...
  • 19-969
    インテリと不良の攻防 踏み出すたびに深く沈み込む、絨毯の感触に閉口する。 最上階が奴のオフィスだ。馬鹿と成金は高いところを好むらしい。 入口に背を向け、硝子越しに夜景を眺める人影に声を掛ける。 「相変わらず羽振りはよさそうだな。ヤクザな商売だ」 人影は特に驚いた様子もなく、ゆっくりとこちらを振り向く。 「どういたしまして。社会正義のために粉骨砕身働いているよ」 奴は備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを二瓶取り出し、一瓶を勧めてきた。 「済まないが、仕事場にアルコールは置かない主義でね」 「…………」 「ああ、別に何も入ってないよ。神に誓ってただの水だ」 ほら、と開封して一口飲んだそれを、押しつけるように手渡される。 少なくとも無害ではあるらしいが、飲みたい気はしなかった。 ただ、ひんやりとした感触が火照った掌に心地いい。 「聞いたぞ。最近黒いお...
  • 8-969-1
    震える肩 沈黙は時として何よりも雄弁である。アルバイト先の上司、桂木は正に沈黙を武器として備えた男だった。声を荒げて叱責するという事が無い。 急須をはたき落として冷めた湯を被った時も、観葉樹の鉢に足の小指をぶつけてそこらじゅうを飛び跳ねた時も、間抜けなバイトの様子を冷ややかに眺めて桂木は沈黙し、ただ肩を震わせては眉間に皺を寄せ、静かな怒りに耐えているようだった。怒られる自覚のある者としては、それが怒号よりも堪える。最近では視線すら合わせてくれなくなった。 「そりゃ、軽蔑されてもおかしくないですよね」 昼の休憩時にまで近くの公園で泣きを入れる不甲斐なさである。 大学OBにして桂木とは同期に当たる三谷はモンシロチョウチョを眺めるのに夢中で話を聞いているのかどうかも分からなかったが、不意に立ち上がり出店の方へノコノコ向かうと、たこ焼きパックを買って帰ってきた。真っ先に自分が頬張り...
  • 1-969
    「誕生日おめでとう」という言葉からあなたの連想する話を 「誕生日、おめでとう」 毎年、耳元で囁くように唱えられていた言葉。 それは まるで魔法をかけたように 私の心を癒してくれた。 今年も いつもと同じ様に誕生日の用意をして彼を待つ。 花屋から買ってきた綺麗な花を花瓶に移して 普段より少し贅沢な料理を二人分作って 小さなケーキと共にテーブルの真ん中へと並べる。 ロウソクは年齢の分だけ刺すと形が崩れちゃうね と彼が言っていたから1本だけ中心へ。 準備は、出来た。 後は彼が来るのを待つだけ。 二人で笑い合ってロウソクを吹き消すだけ。 たった、それだけ。 温かな湯気を立てていた料理は段々と冷たくなって 時だけが刻々と過ぎてゆく。 時計の音がやけに響いた。 「貴方が食べてくれていたから…‥こんなケーキを買ったのに」 ...
  • 7-969
    お菓子作り 「なぁなぁ、お菓子の作り方教えて」 「お菓子?食いたいなら買ってこい」 「買ってもいいんだけどさー。ほら明日バレンタインデーじゃん?手作りのが心がこもってて良い感じだと思うんだよねー」 「………… なに、お前。あげる方?」 「そうそう。で、一番料理美味いのお前だから。な、頼むよ」 「…………」 「どした?怖い顔して」 「………… 俺、甘いもの嫌いだから菓子は作らないんだ」 「え、マジで?そうだっけ?」 「…そうだよ。だからどっか行け」 「なんだよー。怒るなよー。作れない物があるからって馬鹿にしないってば」 「うるさいどっか行け。死ね」 「うーん、困ったなぁ。そしたら買うわけにもいかないじゃんか」 「勝手に困ってろ」 「じゃあさ、お前の好きな物何?」 「…は?」 「甘いの嫌いなんだろ?しょっぱい物ならOK?」 「……え?」 「お前の好き...
  • 2-969
    アホ×クール アホ「うわわ、待って待って。いろんな準備が……」 クール「したいって言い出したのお前だろう。いいから早く服脱げ」 アホ「言ったけど、でもローション切らしてた!」 クール「ばか、いいよ。せっかく俺がその気になったんだから」 アホ「よよよくないよ。気持ちは嬉しいけど!    初めてなんだったら、切れてしまう可能性がないわけないような気がしないでも」 クール「落ち着け。」 アホ「ちょっと、待ってて!」 クール「おい、全裸でどこいく!」 (10秒後) アホ「よし、代わりになりそうなもの持ってきた!」 クール「サラダ油…牛乳…納豆……おい、納豆賞味期限きれてるぞ!」 アホ「ぬるぬるするものっていったら、やっぱり……」 クール「だからそれ賞味期限切れてるっていってるだろ!」 アホ「どどどどうしたら……」 ク...
  • 5-969
    桜 ―――君の肌が桜色だ――― 熱を帯びた指先は、一度もがく様に夜空を掴み、俺の背中に爪を立てる 花見の季節、たまには外でって言うのもいいもんだ 散る桜の花弁が 君の桜色の頬へ溶ける ヘタレ従と天然主
  • 8-969
    震える肩 ソファの隅っこで小さくなったまま動かない背中。 背もたれを掴んだ指先が白くなっている。 「なぁ……無理しなくていいんだぞ」 「うるさい!だ、大丈夫だって言ってるだろっ」 声も全く説得力がない。 「そう言うセリフはせめてこっちを向いてからにしろ」 「今向くよ!だから、待ってろ」 待って向いてくれるならいくらでも待つ。 だけどそれはいつになる事か。 ……まいったな。 こんな風に困らせるつもりなんてなかったのに。 隣にゆっくりと座ると、ビクリと反応する。 震えている背中。 そこに感じるのは怯え。 そんなにも、怖いのだろうか。 ……怖がらせるつもりなんてなかった。 自分の浅はかな行動に情けなくなる。 コイツより大切なものなんてないってわかっていたはずなのに。 それでも、聞いてしまった。 「……ごめん。諦めるから、無理すんなよ」 ...
  • 4-969
    別れのあいさつ ぐすぐすと泣きじゃくるアキをなだめるのは、これで何度目だろう。 「泣くなよ、アキ」 「シュウちゃぁん」 あぁ、本当に昔から変わらない。図体ばかり大きくなっても、中身はいつまでも泣き虫のままだ。 のしかかるように抱き着いてくるアキの背を、ぽんぽんと叩いてあやす。 「泣くなって。もう十七だろう?」 「だって、だってシュウちゃん。もう、会えないなんて、やだぁ」 既視感を覚えるのは、これが二度目の別れだから。だけど今度のはあの時と違って、もう二度と会うことはない。 鼻の奥がつんと痺れて、俺はアキの背をぎゅっと掴んだ。 「アキ。あの時俺が言ったこと、覚えてる?」 「え…?」 身体を軽く離して、アキの顔を覗き込む。 「今生の別れの時ですら、別れの言葉は再会を約束している。そう言ったよね」 アキ、俺はね。十年前のお別れの時、またお前に会えるなんて、思い...
  • 6-969
    オカマに惚れると言うことは女に惚れていると言うことなのか男に惚れていると言うことなのか。 今野におかしな質問をされて、アタシは少し苦笑する。 「わかんないわよぉ、そんなこと。あたしは惚れられる側にいるわけなんだからねぇ?」 「でも俺、お前を見るたびに思うんだよな」  今野はアタシの家の向かいに住んでいるヤツで、長い付き合い。 小学校、中学校と仲良く同じ学校で過ごし、遂に高校まで同じになってしまった。 要は生まれてからずっと一緒にいるの。 そして18年の時はアタシをオカマに成長させ、今野を普通の男子高校生に成長させたわ。 「でもぉ、やっぱオカマを好きになるってことは、つまり女じゃダメってことじゃないのー?」 「そうかぁ、駄目なのか…」  最近アタシは、どうやらこの平均的な男子高校生である今野に夢中。 何の個性もないこのオトコの何がそんなに素敵な...
  • 21-969-1
    花火大会 今夜の花火大会にアイツを誘った。 他の奴と行くって言われたら諦めようと思ったけど二つ返事でOKもらえて、俺は花火の下での告白も決心する。 夜空に輝く花火に映し出されながら、好きだって言ってやる。 のはずか、何でオレラ人混みの屋台に並んでんの? アイツいわく、「先に買っとかないと売り切れる。この屋台の粉は他と違ってメチャうまで。揚げ物はやっぱり揚げた手が一番」とのこと。 お前は何処の食いしん坊だ! 両手に食い物の袋ぶら下げて、やっと土手に上がった。 ちょっと計画はズレたが、クライマックスの連発に間に合ったぜ。 色とりどりの花火が開く中アイツの前に回って、真っ正面から見つめて告白するぞ! 意気込んでたらポツポツと雨が・・・・。 あれ?と思う間もなく、土砂降りで2人ともずぶ濡れだ。 「天気予報で所により雨って言ってたけど、すごかったな」 のんきに言うアイ...
  • 25-969-1
    お隣さん 「あ」 「……はようございます」 玄関のドアを開けると、ちょうど隣に住む男が部屋の鍵を閉めているところだった。 俺と目が合った瞬間、彼がぺこりと頭を下げた。 寝起きなのか、最初の方があくび交じりだった。 「おはようございます」 挨拶をされたので俺も頭を下げる。 今日の彼はスーツだ。 彼と鉢合わせするときは大体私服だったが、ここ数日スーツ姿の彼と会うことが多い。 ……もしかすると、就活か?なんて推測してみる。 大体仕事に出かける時間に彼と出くわすので顔は知っているけれど 俺は彼がどんな人間なのか、仕事は、趣味は、その他もろもろ何も知らない。 思えば彼が引っ越してきて1年あまり。 今の若者にしては珍しく、タオルを持って引っ越しのあいさつに来た彼。 「隣に越してきた田賀っす。よろしくお願いします」 と、どこか間延...
  • 17-969-1
    極悪人と偽善者 「……ですから、彼のことは見逃して頂きたいのです」 ひとしきり語った後、真摯な口調で神父服の男は言った。 「貴方に僅かでも慈悲の心があるのなら、どうか」 「俺にそんなモンが欠片でも残っていると本気で思ってんのか?」 嘲笑ってやると、相手は困ったような表情を浮かべた。 「あの野郎の人柄だの哀れな境遇だの、俺には関係ない。奴は俺のシマを荒らした、それだけだ」 「彼本人が意図したことではありません。ただ単に利用されて…」 「うるせえよ」 言い募ろうとするのを切り捨てる。さっきまでの長々とした演説を再び繰り返されてはたまらない。 すると、男は小さくため息をついた。 「……議会の方々は、今だって貴方を十二分に恐れていますよ」 「あ?」 「無意味、ということです」 それは先程『彼の哀れな身の上話』を語ってみせたのとまったく変わらない口調だった。 「...
  • 26-969
    シャチ×シロナガスクジラ 「きみはほんとうにすごいね」 そう言うと、彼はぎらぎら光る眼で僕を睨みつけた。 「てめえが弱っちいだけだろ、でけえナリして」 今際の際ですらいつもと変わりはしない口調。 「俺らはなんでも食うし、なんでも殺す。知ってただろ、てめえだって」 そうだね、と口に出そうとして掠れた息だけが漏れた。 血という、僕にはあまりなじみのない赤色がそのあたりに広がっている。 この色が赤だということは、彼が教えてくれた。 深い青の中で、僕はぬぼーっとその無駄に大きな体を漂わせつづけ、彼はいつでも悠然とそして俊敏にその黒い姿態を動かしていた。 その姿はまさしく僕の理想で、僕の欲しいもので、暗い世界で唯一の光だ。 いつまでも。 敵だと知っていても、その光に触れていたかった。 「お前の敵は、いつでも俺だけだ」 「うん」 「お前が死ぬのは、お前が弱くて、俺が...
  • 10-969
    ショッ○ーと怪人と人の三角関係 ショッ○ー達は怪人兄さんにあこがれている。 いつかあんな風に改造して貰って、前座みたいにあしらわれるだけでなくラ○ダーと正面切って戦うのが夢。まだまだひよっこだけど、怪人兄さんにように活躍したいなと思ってる。 普段はとりあえずバスジャックしてショタっ子を愛でつつ世間の注目を集めたり、池面を連れてきてお仲間にするものだと思っているようで、ある意味結社に忠実だ。 その中身は、案外どこぞの常春の国のタマネギ部隊のごとく池面揃いだったりするのかも知れない。 対して怪人兄さんは複雑だ。 さまざまな改造を受けて強化されてみたものの、組織の暗部に近付く事で思い悩み、人間に戻りたいと思って逃げ出すラ○ダーの気持ちも分かれば、純粋に結社を信じていられたショッ○ー時代を懐かしんだりもして。 そんな事を押し隠しつつ、ショッ○ー達のあこがれの眼差しを受けてはそれ...
  • 20-969
    忠誠の誓い  そっと手の甲に口づける。  この手の主はなによりも尊いものだ。守るためならばどんな罪も犯してみせよう、そう誓い男は立ち上がった。  辺りはしんとして静かだ。他には、誰もいない。  草木も眠る夜の中、この男だけは起きている。他は皆眠っている。誰も起きては来ないだろう。  なぜならそれが約束だった。  眠る自分に他の誰も近づけるなと、かつて彼はそう言った。そして男は頷いた。  男は窓を見やる。  世界は闇のなかにあって、月も、星さえも眠っているようだった。  だから、朝は未だ遠い。  守るべき主は眠っている。  眠っている。どれほどの時間が経ったか忘れてしまったが、一日二日でない事だけは確かだった。  だから男はずっと、約束を守り続けている。  最初は側付きの従者だった。その次は彼の幼い弟王子を、兵士を、騎士を。そこか...
  • 25-969
    お隣さん 隣にミュージシャン志望の大学生が引っ越してきたのは今年の夏のことだった。 エスニック調の派手なルックスで、引っ越しのあいさつに謎の象かと思われる置物を寄越してきた変わり者だ。 夕方になるとギターを携えて駅前に出かけている。 そこで歌っているところも何度か見た。 歌っているのは決まってラブソング。それも失恋か、悲恋もの。 すこし意外だったのは、その声が甘く抑揚をつけて繊細に響くことだった。 土曜の昼下がり、いつもならひっきりなしに聞こえてくるアコギと甘い歌声が今日はどういうわけか全然聞こえなかった。 いぶかしんでいると、俺の部屋のインターホンがなった。 「狭川さーん」 「あ、お隣の……」 「相川っす、名前そろそろ覚えてくださいね」 何故かお隣のミュージシャン――相川さんがいた。 「何か御用ですか?」 「いや、俺迷惑かなーと...
  • 18-969
    悪事に手を染める主と、心を痛めつつも手伝うことに喜びを感じる執事 旦那さまは近頃本当にお痩せになられた。 「辻野。いたのか」 「先刻から」 「ちょうどいい、コーヒーを」 「只今」 カップを受け取る指は頼りなく、いやに美しい関節の上に青い血管が模様のように走っている。 標本にしてしまいたくなるような、旦那さまの手。 悲しい手だ。 旦那さまの心がいくら拒もうと、この器官ばかりは、背徳の震えに耐えながら与えられた仕事を全うするほかない。 旦那さまはお煙草を嗜まれない。しかし、私は灰皿を片付ける。 「辻野」 「何でございましょう」 「お前は……私を軽蔑するか」 「ご冗談を」 灰皿を使うのは旦那さまの旧いご友人である。 旦那さまが断れないのを知っていて、件の仕事を持ち掛けてきたご友人。 昔から、旦那さまはその名前を至極嬉しそ...
  • 27-969
    根暗×リア充 「けーちゃんも飲み会行くだろ?この前うち来たとき、めっちゃビール空けてたし。実はザル?」 人が多いところは嫌いだ。煩いし、余計な奴等が絡んでくるし。 「今日も良い飲みっぷり見せてよ!林とか鈴木に話したらぜってー嘘だって言いやがってさ」 俺は見せもんじゃねぇよ。どうせ俺が帰ったら笑い者にするんだろ? 「けーちゃん来ると、皆のノリが違うんだよ。人気者だから俺嫉妬しちゃう」 誰が人気者だ。お前がいなきゃ誰も集まんない癖に。俺なんかお前の付属品でしかないんだ。 お前がいなきゃ… 「なぁけーちゃん」 「飲み会しない」 誰もいらない。人が多いとうざい。 「…皆と仲良くしたら楽しいぞ?」 「いらない。どうせ笑われて陰口叩かれて終わりだし」 「けーちゃんが嫌なら飲み会、止めよっか。またにしよう」 仕方ない、とスマホを取り出しメールをし出す。じゃあ行くか。 ...
  • 14-969
    歯型 そんなに弱りきるまで根詰めなくってもいいと思う。 1週間ぶりに連絡が取れたと思ったら。 「…ん、あー?」 「もう、何やってんのさ」 締め切りまで何日もコタツで生活してたわけじゃないだろうな。 主人を中心にぐるりとペットボトルや弁当ガラが囲む様は 答えは1つだと言っているようなもの。 「んで、まにあったの?」 「さっき、バイク便たのんだ。ギリセーフ」 天板に頬をくっつけたままめんどくさそうに答える。 「そんなことより、あーねむい。はらへった。のどかわいた。だりぃ」 きっと食料尽きてると思って買い物してきて正解だ。 でも残念ながらお茶系ボトルは買ってない。 コタツといったらミカンが正統派だけど、ここはあるもので我慢してもらおう。 さっぱり使った形跡のない流しに立って買ってきたリンゴを適当に洗う。 「これでも食っとけ。一日一個のリンゴは医...
  • 21-969
    花火大会 窓越しの暗い空を、鮮やかに花火が染め上げる。 月の灯りと、時折差し込む花火の光だけが暗い部屋の中を照らしていた。 「たーまやー っと」 低く、呟いて部屋の隅で酒を飲んでいた影が笑う。 手の中の杯には、上弦の月が細く光っている。 「…祭り、行かなくて良かったのか?」 部屋の反対側。 窓の外の花火を見上げ、もう一つの影が顔を上げた。 「もう、祭りではしゃぐ年じゃねえしなあ」 杯に映った月ごと酒を呑み。ことりと床に置くと窓を見上げる影ににじり寄り、後ろから抱き締めた。 「なあ…雄次」 「サカってんじゃねえ馬鹿」 抱き締めて、胸元に滑り込んでくる手を叩いて、肩越しに睨みつける。 「そう固い事を言うな」 「ふざけんな」 抱いてくる腕が。首にかかる息が 熱い。 「いい加減にしろ・・弘樹」 「俺はいつだって本気だけど」 「余計タチが悪い...
  • 17-969
    極悪人と偽善者 「難しいお顔ね。どうなさったの」 女の声がした。華奢な骨格に似合わぬ艶のあるアルトに、からかうような響きが混じっている。 君か、と男は振り向きもせずに言った。女が近付いてきても、特に関心を払う様子はない。 椅子に掛けて脚を組み、放心したように暖炉の炎を眺めている。 女は男の背後に立ち、両腕を回して甘えるようにしなだれかかった。 「どうせ、あの人のことを考えていらしたのでしょう」 「人畜無害にみえて、したたかな男だ。この私を出し抜くとは」 「ふふ、いい気味ですわ」 「君はあの男に味方するのかね」 「だって、愉快じゃありませんか。貴方みたいに傲岸不遜な悪人がいいように振り回されて  ……自分の尻尾を追いかける仔犬みたい」 女はいよいよ愉快そうに、声を立ててわらい出した。 「ふん。君はよほど奴のことが気に入ったとみえる」 「ええ……そうね。きっ...
  • 22-969
    超マイナースポーツの天才 夏にさ、大学の友達何人かで地中海方面に旅行いったんだよ。 全員で行動というより、気に言った土地で一時解散、数日後に別の現地に集合みたいな 集団一人旅みたいなノリで。ほら、四六時中一緒ってのも飽きるだろ?一応全員旅なれてるし。 でさ、トルコだったかなあ、そこで3日後に集合って事で別れたんだけど…青木だけ戻ってこなかったんだよ。 ほら、ノビタ眼鏡以外特徴を伝えるのに困る青木だよ。 2日ぐらいまでなら列車の都合で遅れたんだろうとなるけど。5日も遅れたとなったらなにかあったって思うだろ? さすがにヤバイと思って、現地の大使館に問い合わせて、俺達も青木の足取りを辿って見たんだよ。 そしたらさ、青木の奴どうしてたと思う?あいつ、なんか知らないうちに現地のヒーローになってやがっったんだよ。 丁度青木が行った時にはそこの村ではお祭りをやってたら...
  • 23-969
    探偵と刑事 ○素人探偵とエリート刑事  ・素人探偵とは、職業探偵じゃないが行く先で事件に遭遇してしまい探偵役をやるタイプの探偵。死神体質。   本人は進んで探偵役をやりたいわけではないが、なぜか行く先で事件が起こってしまう。  ・容疑者扱いされたり殺されかけたり、いろいろ大変。本人もうんざりしている。   うんざりしてはいるが、持ち前の正義感+勘の良さ+お人好しな性格から事件の無視ができない。  ・刑事は本庁の刑事。とある事件で素人探偵と知り合いになり、以来、彼の推理力を高く評価している。   行く先で容疑者扱いされたりなんだりで困ったことになる探偵を保護して、けしかける。   保護してくれることには感謝しているが、何かと自分を担ぎ出そうとすることには文句たらたらの探偵。  ・エリートの刑事に向かってタメ口で話しているのが、他の刑事からすると「あいつは何者だ」状態。...
  • 16-969
    ずっとお慕いしていました 今日も良い天気だ。 そんな国民的アニメの主題歌のようなことを考えながら、喪男は公園を歩いていた。 理学療法士である彼の職場は公園の横にあり、昼飯はいつも噴水の前にあるベンチで食べるようにしていたためである。 本当は病院内の休憩室でも食事はできるのだが、女性スタッフといまいちなじめないでいる喪男にはその部屋を利用する勇気が無かった。 「うーい、きょうもごくろうさんっと」 大きな独り言を言い、いつものベンチに腰掛け手製の弁当を取り出す。 平日昼間の公園というものは大体いつもいるメンバーが決まっていて、何とはなしに顔見知りになっていた。 公園内の美術館職員は外のレストランに向かっているし、ホームレスは皺だらけの新聞を読んでいる。 文庫本を読みながらもくもくとパンと缶コーヒーを片手で持ち替えつつ有意義な時を過ごしていると、不意に頭上から影が差した...
  • 12.5-969-1
    ドライブ 「頼むから乗って」 バイト帰り見覚えのある黒いワンボックスが止まると同時に窓が開いた。 びっくりしたじゃないか。 必死な形相で言ってくるモンだから助手席側に回ってドアを開けるとあからさまにほっとした顔になる。 ムカつく。 何も言わずにシートベルトを締めると車は走り出した。 「…車に俺を乗せて逃げ場無くす作戦か?」 「…ごめん、でも、乗ってくれるなんて思わなかった」 だってお前必死な顔してたもん。 駅前のCD屋の洋楽コーナーでよく見かけるスーツの男 という印象が変わったのは1年前 少女漫画みたいに一枚のCDを同時に取ろうとして手が触れ合った。 お互いびっくりしたけどスーツの男が「この店良くいらっしゃってますね、洋楽好きなんですか?」 なんて言ってくるから「好きですよ」なんて返しちゃって。 その後意気投合して俺たちは友達になった。 ...
  • part29
    ... 29-969? 29-979?
  • 12.5-969
    ドライブ 濃い海老茶色の列車が走る地下鉄の駅の階段を上がりながら、連れが楽しげに声をかけてきた。 「本日の乙女座の幸運の鍵は『ドライブ』やって」 「あぁ、朝のテレビな…。山羊座は『いつも行く場所でも、違った道を通るのが吉』とか言うとったな」 「乙女座と山羊座の結果ってなんか似ることが多いんやなぁ。同じ研究室のオカルト娘もそんな事言ぅとおわ」 たわいもない話をしながら少し歩いて、100円の自販機・500mLのミネラルウォーターを2本。俺は片方を相手に手渡した。 「ふーん。あ、ありがとぉ。で、どないする?ドー、ラー、イブっ」 「どないしようもないやろ。俺はペーパーやし、お前は免許も車もないやろ。  だいたいここ、俺らのお決まりのコースの日本橋やないか。こんなとこでレンタカーはもっと御免やからな」 そう、俺たちはどこからどう見てもヲタカップルってやつだ(男同士でもそう言う...
  • 9-949
    妻子持ち×変態 通話を終了して携帯電話をテーブルに置く。と、ベッドの方からくぐもった声がした。 「奥さん?」 「……起きてたのか」 「気ィ失ったままだと思ってた? あ、だから普通に喋ってたんだ」 毛布にくるまったまま、にやにや笑っている。 「なんでこの時間に電話……ああ、今の時間って会社の昼休みか」 「……」 「奥さん何の用だった?今日は早く帰ってきてね、ってラブコール?」 「お前には関係無い」 「まさか旦那が仕事抜け出して昼間から男を抱いてるとは思ってないだろうなぁ」 睨みつける。 しかし悪びれた様子もなく「俺なら夢にも思わない」と頷いている。 「ねえ、奥さんからの電話が十二時過ぎにかかってきてたらどうしてた?」 「知らん」 「ヤってる最中でも誰からかは分かるよね、着メロ違うから」 「……いつから起きてた」 「もし今度そういうシチュエーションにな...
  • 9-979
    息子の友人×父親 萌え語りしてもいいですか。 このリクの仕方だと何パターンか考えられるけど、 今回は息子をAとした場合、Aの友人×Aの父親ってケースで。 使い古されてる設定な気がするけど、父親は早くに妻を亡くしていて。 忘れ形見の息子を、男でひとつで苦労しながら大事に大事に育ててた。 でも、そんな息子にも親離れの時期が来て。 恋人が出来たのでもいいし、進学で家を離れるのでもいいが、 とにかく父親に相談せずに何でも自分で決めるようになる息子を見て、 父親は嬉しい反面寂しさが募ってくる。 息子に何も相談されないことで、自分は頼りないんだろうかとか悩んでてもいい。 そこで、息子の友人Bの出番なわけですよ。 Bは息子と幼馴染で、小さい頃からよく家にも遊びに来ていた。 そして、昔から(Aの)父親には懐いていた。 父親は深い意味もなく息子の友人の...
  • 9-939
    × 粋Z○ 好々爺 「また新しいニット買ったのか?」 「う、うん。似合わない?へん?」 「いや似合っるよ。でもそれ高かったろ?」 「うん。ちょっとだけ」 「ちょっとかよ。…おまえさ、バイトまた増やしたんだってな」 「うん、本屋とコンビニ」 「そりゃ高い服ばっか買ってたら追いつかないだろうけどさ。服もいいけど 無理すんなよな」 「わかった」 「…なぁひとつ聞いていい?」 「うん?なに?」 「なんで急にオシャレんなってんの?前はウニクロとか不印とかばっかだったじゃん」 「オシャレな俺はいや?」 「いやなわけねーじゃんよ。でもバイト増やして疲れきってまですることか?」 「粋Zは一日にして成らず、って書いてあった」 「は?」 「話題の雑誌に」 「……?」 「この前 テレビの粋Z特集見てたら亮言ってたじゃん」 「何を??」 「粋Zカッケーって。こうい...
  • 9-999
    かえって免疫がつく 聖地バラナシの朝はガンガーでの沐浴で始まる。 「嫌だ」 「まあそう言わず」 「嫌だ嫌だ嫌だ! こんな河に入ったら病気になる!」 俺と奴は、聖なる河のほとりで手を引っ張り合っていた。 「インドだぞ、バラナシだぞ、ガンガーに入らずしてどうするよ!」 「入ったら死ぬ!」 「お前それはここにいるインド人たちに失礼だぞ」 「日本人だからいいんだよ! 水の国の人だからいいんだよ!」 俺が引っ張る。 ふんばられる。 ふと力が抜けると逃げようとされる。 また引っ張る。 以下繰り返し。 周囲のインド人の視線が痛い。日本人の恥ですいません。 「だいたいどこが聖なる河だよ、ひどいよこの色、綾瀬川より汚いよ!」 「大丈夫だって! だいたいなぁ、日本人は潔癖すぎなんだ、だから免疫力が低下してアトピーとかアレルギーとか蔓延する...
  • 9-909
    お母さんみたい 「オラとっとと顔洗ってメシ食えメシ」 寝ぼけ眼でリビングへ行くと、ごはんとみそしるのいい匂いがふんわりと 俺の鼻をくすぐる。そして聞こえて来る野太い声。これは夢だろうか。 ジムで知り合ったノンケの一哉さんに一目惚れをしたのは俺だった。 178cm70kgの平均的な体格の俺に比べて、一哉さんは190cm100kg、 握力80kg、背筋200kg越えの鍛え抜かれた身体に男らしい精悍な顔立ち。 それでも顎に生やしてるヒゲは触ると意外と柔らかい事を昨日知った。 そう、昨日、俺は、一哉さんとひとつになったというかなんというか まあぶっちゃけ口では言えないような夢のひとときが色々とあって、 なんだ、その……苦節2年、とにかく俺の想いは彼に通じたらしい。 鍛えてるだけあって、あらゆる意味で一哉さんはすごかった。 腰なんかもうがくがく。腕も筋肉痛でがた...
  • 9-929
    アフロ受け 「鬼はー外!福はー内!」 田中さんは4~5歳の子供たちに紛れて無表情で俺に豆をぶつけてくる。 しかも本気だ。俺を鬼だと思ってるとしか思えない。 これでも園児から絶大の人気を誇っている保育士だ。 俺はと言えば、このアフロのせいで豆まきの鬼をやらされる始末。 「やめ、やーめーてくだっ、ちょ!」 「鬼のくせに口ごたえか。むかつく。ユウヤ、行け」 田中さんの命令は絶対であるらしく、もも組のユウヤは何の疑問ももたずに深く頷いた。 目がマジだ。 「オニはーそと!ふくはーうち!オニはーそと!ふくはーうちっ!」 ユウヤ近っ!至近距離はずるいだろ!アフロに豆を絡ませるのをやめろ! 「よーし、これくらいで許してやるか。もう来るなよ、鬼」 もっと初期の段階で出るはずであった台詞のお出ましだ。 「『く、くっそー、おぼえてろー』」 古典的な捨て台詞を吐いてお遊戯室か...
  • 9-989
    ふたりだけにしか分からない  三人してテレピン油の匂いを振りまきながら帰る道すがらのこと。  道端の電柱に何気なく、一枚のチラシが貼ってあった。  俺にとっては本当にそれだけのことで、けれど先輩方にはそれは、何か心に触れる ものであった、らしい。 「なぁヨシ、これって……なんつーか、アレだよな」 「んー? ……ああ、うんうん。でもお前にとって、だけどな。俺はそうでもないね」 「か? え、てっきりむしろお前にとってのアレだと思ったんだが」 「でもない、ないない。お前向きだよ。俺向きじゃない」  なおも盛り上がるふたりは、完全に歩みを止め、剥がれかけたチラシとツーカーな 会話に夢中。俺ときたら全然それについていけなくて、完全に蚊帳の外だ。何なんだ その『アレ』とやらは。  どうにもついていけなくて、仕方が無いから俺はその場を去った。ふたりは気付く ことなく、俺...
  • 9-959
    4分遅れの時計 新入社員と入社して、もうすぐ1年。 俺が知る限り、俺の直属の上司である片岡さんは、一度もネクタイをゆるめたことも、 髪に寝癖がついたことも、忘れ物をしたと慌てることも無い。 いつも同じように、キッチリしている。(そして俺は、情けない姿ばかり見せている) さらに仕事はで完璧で、早い。接待もスマートにこなす。 堅物に見えるからか、女がいないようなのが、マイナスといえばマイナスなぐらいだ。 「木田。ぼんやりするな。考え事しないで手を動かせ」 書類をプリンタに打ち出しながら、静かな声で片岡さんは言った。 俺はビクッとして、あわててパソコンに向かう。 「木田、今こっちに届いたメール転送するから、書類に文面付け加えてくれ」 「はい」 返事している間に、メールは届いた。相変わらず仕事が早い。追いつくだけで必死だ。 『A社プレゼン資料について2   200...
  • 9-919
    あやかし×平安貴族 雨が降り始めた。最初は小粒の雨だれだったが段々と雨脚が強まっていく。 勝利に沸き立っていた周りの人々は、その興奮に文字通り水をかけられたのか、 足早に山道を引き返していく。 しかし、彼――私の仕える主人だけは、その場に佇んだまま動こうとしなかった。 右手に剣を携えたまま、雨に打たれている。 私は主人の元に走ろうとして、一瞬だけ躊躇した。 彼の足元に転がるそれが、また起き上がり牙を剥くのではと思ったのだ。 しかし、すぐにその考えを打ち消して傍に駆け寄る。 「中将様、お怪我は」 訊くと、彼は足元から目を離さず、ただ「ない」と短く言った。 その視線につられるように、私も足元を見る。 それは、漆黒の毛並みを持つ獣だった。今は骸となって地に横たわっている。 大きな体躯をしたそれは山狗に似ていたが、本来は何という獣なのか私には分...
  • 9-979-1
    息子の友人×父親 「おとうさんを僕にくださいっ!」 それは我が最愛の息子の、晴れの成人式の日のこと。 本日はお日柄もよく滞りなく式も執り行われ、凛々しい紋付袴姿に惚れ惚れと 息子の健やかなる成長を、天国の妻に報告しようと仏壇に向かって手を合わせた時だった。 先ほど帰宅した息子が、友人と二人で引き篭もった奥座敷から、大きな声が聞こえてきた。 何事かと思い襖の陰から中を窺えば、袴姿の若者が二人向かい合い、 我が息子の親友A君が、畳に頭を擦り付けるようにして土下座をしている。 息子は神妙な顔で腕を組み、そんな彼を見下ろしている。 そして再び、 「おとうさんを僕にください」 今度は噛締めるようにしっかりと、腹の底から響くような頼もしいA君の声。 何か昔のテレビドラマなんかであった結婚を許しをもらいに行くシーンみたいだなと、 少しワクワクしてみたけれど、ちょっ...
  • 9-909-1
    お母さんみたい 「あったかい格好してけよ」から始まり「受験票は?」「地下鉄の乗り換えはわかる?」と続いて、 「切符はいくらのを買えばいいか」に到ったとき、俺は去年のことを思い出していた。 世の受験生は、皆このような朝を過ごすものなのだろうか。 昨日まで散々繰り返してきた会話を、当日の朝の玄関先で再びリピート。 俺、受験二年目ですが、昨年はかーちゃんがこんな感じだった。 そんで、朝っぱらからカツ丼食べさせられて、油に中って、惨憺たる結果を生んだのだ。 そのことについては恨んでいない。むしろ感謝している。 なぜかというと、一年間浪人させてくれた上、都内の叔父さんところに下宿を許してくれたからだ。 「それからこれ、頭痛くなったりしたら飲んで。眠くならないやつだから」 手のひらに錠剤を数粒のせて、差し出すこの人が、俺の叔父さん。 「お腹下したらこっち。気持ち悪くなった...
  • 9-989-1
    ふたりだけにしか分からない 市民公園の大きなケヤキ、それをぐるっと取り囲むベンチに座る人影ふたつ。ケヤキを挟んで背中合わせのふたり。 つまらん昔話でもしようか、と、片方が呟く。昔を語るにはあまりに幼すぎる声。 「…昔々、黒い妖(あやかし)がいてな。ここらの村人は皆、夜になると家に閉じこもって震えておった」 背中合わせに座った人影が続ける。 「妖は家畜を襲い、作物を荒らし、井戸の水を濁らせた。  挑みかかった剛の者は皆、翌朝には骨になり転がっていた」 「…訂正しろ。骨なら食えんが、あれはまだ食えた」 「細かいところにこだわるな、お前」 「犬畜生と一緒くたにされるのが不快なだけだ」 明らかに機嫌を損ねる幼い声に思わず苦笑を漏らす、その声も決して年経ているとは言い難い。 「…まぁよい、続けるぞ。  ある日、村に武者修行なんぞという名目で旅をする若造がふらりと現れた...
  • 9-949-1
    妻子持ち×変態 散る火花、電動ドリルの回転音、荷を積載して行き交うトラックの軋み、砂埃、 天を突く事を恐れず真っ直ぐ伸びていくクレーン車の腕が、白日の空には余りに 不調和に過ぎる黒い鉄骨を高々と吊り下げる下で、労働者達の怒号が交差する。 決して気短な人間ばかりではないのだが、種々の工程に付随した騒音が 鼓膜を刺激しない建設現場など未だ有り得ず、スピード、効率を高めることに腐心する 人々は拡声器を握り締め、腹の底から大いに声を張り上げる一方で、かつ瓢箪型を した小さな耳栓に世話になりもした。 作業音に限らず、どんな職場にも耳を塞いでしまいたくなるような害音は存在 するもので、特にそれが人の喉から発された聞くにも耐えない言葉であり、己が身を おびやかす予感すら匂わせていた場合、鉄拳の一つも見舞いたくなるのが 人情というものだ。決して、自分は気短な性質ではなかったは...
  • 19-949
    剣の刃を渡る 「今度はスパイだって?随分と無茶をするんだな」 部屋から出た瞬間、そう話しかけられた。 「ええ、まあ任務ですから」 にこやかに答えると、目の前の男は大きく肩をすくめる。 「いくら百の顔を持つあんたと言えど、さすがに内部調査は危険だろう」 「そうですね…もちろん覚悟の上です」 「これはこれは。素晴らしい忠誠心だ、尊敬するよ」 まるでお手上げだ、とでも言うように男は笑う。 「当然のことですよ」 自分も笑いながら対応する。 「では、私は準備がありますので」 そう言いながら背を向けると、トン、と背中に硬い物が当たる感覚がした。 「…なんの真似です?」 後ろを振り返らず、冷静な声のまま尋ねる。 「はは、流石だな。もうとっくにスパイのあんたがこんな物にビビるわけねえか」 先程と変わらないトーンのまま男も続ける。 「分かってるだろ?俺はあんたの正体...
  • 19-929
    二人がかりで 何事も二人がかりで取り組めば、完璧に近い形を作り上げられた。 例えば、夏休みの宿題。 例えば、文化祭での二人司会。 例えば、大学での卒業研究。 一人では不可能に感じることも、二人がかりだと些細な事のように思えてくる。 俺らは自他共に認める最強のコンビで、行く先に怖いものなどない。…はずなのだが。 はぁ、と溜め息を漏らした俺を見て、相棒が困ったように笑った。 「そんなに緊張しないでよ。俺にまで伝わってくるじゃない」 ほら、幸せ逃げちゃうよ? と続けた相棒は、いつも通りへにゃりと表情を崩した。 「この状況で緊張しない方がおかしいんだよ。あー、汗かいてきた」 俺はそう言いながら、黒いスーツに両手を拭いつける。 落ち着かず、ソワソワと体を動かし続ける俺に呆れたのか何なのか。 急に相棒は俺に手を差し出した。 意図を掴めず、呆けた顔を上げた俺に、...
  • 19-909
    二対二 ……合コンって、普通もっと人数を集めるべきだろう。 そう思ってしまうのは、現在この場に居るのが男女合わせてたったの四人、 つまり男二人に女二人の、二対二という酷過ぎる状況だからだ。 その上、俺以外のもう一人は顔よし性格よしおまけに仕事は銀行勤めという、非の打ち所のない好青年だ。 今を遡ること二十年、俺とこいつがまだお互い小学生だった頃は、 泣きながら俺の後ばかり付いてきていたというのに、一体どうしてこうなってしまったのか。 まったくもって、時の移ろいのはかなさ空しさばかりを感じてしまう次第だ。 ちなみに向かいの席に座っている女の子二人はどちらも容姿のレベルが高く、ついでにプライドも随分とお高いようだ。 よくて中の下、悪くて下の上のフツメン以下の俺など眼中にも無いようで、二人揃ってヤツのことばかりを虎視眈々と狙っている。 「坂元さんって、東部銀行にお勤めな...
  • 19-979
    正統派RPGの勇者と魔王 黒く長い髪に金色に煌めく瞳、豪奢な刺繍の入った漆黒の衣を身に纏う男がひとり、暗闇の中に佇んでいる。 彼は「魔王」だった。人類が文明を築く遥か以前より存在し、数多の魔物を従える魔族の王。 いつしか地上を我がもの顔でのし歩くようになった人類と、過去何度も地上の覇権をかけて争い その度に勇者の力を持つ人間に倒されては地の底に封印されてきた。 そんなことをもう何百年も繰り返している。 今回もその繰り返しの中のひとつだった。長い時間を経て緩んだ封印を破り、魔王は再びこの世界に姿を現した。 早速各地に魔物を放ち、幾つもの国を支配下に置いた。 魔王城は連日の宴に沸いたが、魔王の心は満たされない。未だ己を倒すに値する「勇者」が現れないのだ。 兆しがあったのは半年ほど前だった。 辺境の国からひとりの少年が旅立った。取るに足らない存在であると思っていたのも...
  • 19-959
    そら涙 1年ぶりの町は何も変わっていなかった。電車を降りてこじんまりとした駅に着くと 俺はまっすぐにあいつの元へと向かった。 空はオレンジ色に染まり、そろそろ日が沈もうという頃。田舎の小さな駅だけあって 行き交う人の姿もまばらだ。 そんな駅から歩いて10分程の墓地に、あいつは眠っている。 「去年ぶりだな」 墓石に水をかけて花を供えると、俺は奴に話しかけるようにそう声をかけた。 こうして毎年墓を訪れるようになって、もう5年になる。 「なあ」 一呼吸置いてから、俺は再び口を開いた。これも毎年のことだ。 「…俺はお前なんて嫌いだったよ」 こいつとはこの町で2年と3ヶ月一緒に暮らしたけれど、次第に嫉妬深くなり友人と遊びに 出かけただけで誰と何処へ行ってきたのか、俺に逐一報告させようとするこいつに段々と 嫌気がさしていったのはやむを得ないことだっただろう 暴力を...
  • 19-919
    止めを刺される 昨日一晩考えた。俺は立石のことをどう思っているのか。 一晩中真剣に考えて真剣に自分の気持ちと向き合ってみた。 …まあ時々体育祭とか、あとついこの間の文化祭の時の立石の写真を見ながらだけど…。 他にも立石から来たなんてことないメールとか、くだらない写メとかも見たけど…。 そしてとりあえず出た結論は、やっぱりあいつ外見も内面もイケメンだわ、だった。 うん、俺の気持ちはほら、あれだな。憧れ。だってあいつマジですげえもんな。 顔はもちろん、努力家で頭もいいしスポーツも好きだし人望だってあるし。 ああ見えて実家が寺だかで結構真面目だし、かといってふざけないわけでもなくノリもいいし。 かっこいいからうらやましいって感じなんだな、うん。 「お、おはよう伊藤」 全く罪な男だぜ畜生…なんて思っていたら、正に張本人の立石が下駄箱の前にいた。 「うわ立石!なんだよ...
  • 19-959-1
    そら涙 正座させてからおよそ十五分。両手で顔を覆い、ぐしぐし鼻を啜るのを目の前にしても、胡坐をかい た俺は沈黙を守っていた。まだ、まだだ。なぜなら、いまの、こいつの、これは、 瞬間、「うぅぅ」と呻いて肩を窄め、身体を前に倒した。丸くなった背が震えるのを見て、ぎょっと した。あ、やばい。まずい、これは、 「おい、亮。あのな、」 思わず「もういい」などと口走りそうになって、慌てて思い留まる。危ない。またうっかり許しちま うところだった。こいつのいつもの手じゃないか。なんでこう同じ手に引っかかるんだ俺は。こいつ は、風呂上りに着替え一式(パンツ含む)を隠して、タオル一丁で部屋をうろうろする俺をニヤニヤ 眺めてたんだぞ。上下とも見つけても、肝心のパンツがこいつの尻の下にあったもんだから、上は着 てるのに下は相変わらずタオルだけという間抜けな格好の俺を笑いやがったの...
  • 19-929-1
    二人がかりで 見た瞬間に「押さえ付けられて」以外思い浮かばなかったことをお許しください。 で、二人がかりで押さえ付けられるシチュエーションなんかもう一つしか思い浮かばないよね。 二人ということで双子設定を受信。 でもってほとんど見分けがつかないほど瓜二つで、しかも小悪魔系の美少年な双子とか。金髪とかもグー。 あとなにか特殊な能力故に他の人たちから、親からも疎んじられてて、 お互いだけが心の拠り所だったみたいな感じ。 そんな中現れる青年。彼は例えば仕事だったり命令だったり 双子の側にいなきゃいけない関係で、彼らの面倒をみる羽目になる。 でも互いしか自分の世界にいらないと思ってる双子は、青年に反発して むちゃくちゃ嫌がらせしてみたりして。 で、青年は「くそガキども!……ったく何で俺が。勘弁してくれよ」とか ブチブチ言いつつ面倒見のいい苦労性タイプ...
  • 9-069-1
    毛布に包まる 「適当に座っててくれ。」 「おー……。」 と言いつつ奴は辺りを見回している。 珍しいものなんか何も無いぞ。 「布団発見!突撃ー!」 俺の布団に寝転ぶな、子供かお前は。 ゴロゴロと転がっているリュウジを無視してお茶を用意する。 茶葉を急須に入れていると何度も俺を呼ぶ声がする。 茶を入れるのに集中したいのに何事だ。 「五月蝿いな、白湯飲ますぞ。」 「これすっっっっごく気持ちいい!なにこれ!」 何って、 「毛布だろ。」 リュウジは何が楽しいのか毛布に包まって笑いながら脚をバタバタさせている。 そうかと思うと急に体を起こしてシャツを脱ぎ始めた。 「なっ、何やってんだよ……。」 「これの感触をもっと味わおうと思って。」 相変わらず突拍子も無いことを思いつく奴だ。 「風邪ひくからやめろ。」 そう言っても「えー。」とか「お前も一緒にどうよ。」...
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