「なんや、随分と殺風景な部屋やな」 トウジの言うことももっともだ。簡素なテーブルに椅子は2つ。 テレビはない。食器類も棚を必要とするほどあるわけでもない。 壁にはアスカとの写真が一枚額に入れて飾ってある。それだけだ。 僕にはもう他に必要なものなんてないから。 「さて」 トウジは居住まいをただして僕に向き合う。 僕は今淹れたばかりのコーヒーを飲むこともできずに彼を見つめる。 「かみさんが言うにはな、こうや…」 トウジの話を総合するに、アスカは今「半ば自暴自棄に」なっているらしい。 ネルフの監視下にあるものの、夜の仕事を転々とし、酒浸りの毎日らしい。 で、よく酔っぱらって泣いてヒカリのところに電話をしてくるらしい。 「私がみんな悪いの。こうなっちゃったのは私のせいなの」 と泣くという彼女の姿を僕は想像できなかった。 あのアスカが?信じられない。 「おまえ、ほんまにアホやなぁ…」 トウジが僕の気持ちを見透かしたように言う。 「あの子の面倒、おまえ以外に誰がみれるんや?おまえしかおらんちゅーねん。 まあ確かにいきさつは聞いとる。けどな、おまえもあの子の気持ちの 奥底をちゃんと見てやっとらんかったのとちゃうか?」 そう言われてみれば、僕は仕事にかまけていつも夜は遅かったし、 だからアスカが色々な買い物をしてくるのを止めることはできなかった。 「寂しかったんよ、あの子は。もっとしっかり見といてやらにゃ…」 そういうとトウジは立ち上がった。 「そういうわけじゃ。ほな、またな。帰り遅れるとかみさんうるさいねん」 僕はあまりのことで、アスカの居所や連絡先を聞くことすら忘れていた。