シンジとアスカの夫婦生活まとめ2
http://w.atwiki.jp/aaabbb2/
シンジとアスカの夫婦生活まとめ2
ja
2007-10-25T11:57:12+09:00
1193281032
-
その指先で二話
https://w.atwiki.jp/aaabbb2/pages/57.html
何かしらのきっかけがあるとしたら、それはこの時点で既に現れていたと思います。
重たい口を開いた時には、彼は既に自己完結したかのような語り口で、ゆっくりと、
しかし確かな口調で語り出した。
あの、ちょっときわどい話になるんですけれど…、こういう事も話さなくちゃいけないんですか?
おびえたような目つきの奥に光るものを感じ取って、私は躊躇なく答えた。
多分、それがあなたの今の心の闇の核心に近づく鍵です。全て話してご覧なさい。
わかりました。
しばらく、とは言っても5秒かそこらだが、彼は考えて、そう答えた。
元々僕たちは上司の家で同居していましたから、お互いのプライベートはある程度
浸食してしまうというか、気を遣わなきゃいけないんでしょうけれど、
時としてふっと気が抜ける時があるというか…、とにかく、その日僕は彼女の部屋にある
CDを借りようとして、ノックなしに扉を開けちゃったんです。
最初に、目が合いました。アスカは、ベッドに腰掛けていました。右手を上に上げていました。
そして次に僕は彼女の左手に焦点を合わせました。それから僕の視線はその彼女の
左手の細い綺麗な指先に向けられ、そしてその指が持っていた小さいピンセットと、
彼女の脇の下の所で釘付けになりました。
むだ毛の処理をしている、という事は瞬時に理解できましたが、
どう反応したらいいのか分かりませんでした。彼女も同じだったようで、しばらく、
全くの無音状態が続いたような気がします。その時鳴いていた蝉の声、まだ覚えていますよ。
当然、殴られ蹴飛ばされ、部屋からつまみ出されました。何か色々と叫んでいましたが、
ドイツ語だったので分かりませんでした。その方が幸せだったと思います。
で、僕は追い立てられるように部屋に戻りました。頭の中はその時の光景で一杯です。
顔は真っ赤だったと思います。アスカのその指先と、鈍く光る金属の先で
つままれる細い毛先…。密生まではいかずに白い肌の上に疎らに生えている
その薄く細い毛を1本1本つまんでいくその指先と彼女の吐息…。その情景をまざまざと
思い浮かべて、僕はどうしても我慢できず、そのまま自慰行為に耽ったんです。
僕も男ですから、それまでにもまあ、色々とオカズにしましたよ
2007-10-25T11:57:12+09:00
1193281032
-
その指先で一話
https://w.atwiki.jp/aaabbb2/pages/56.html
さて、何からお話したらいいでしょうか。
彼は私の前にゆっくりとした動作で腰掛けると、そう言った。
こけた頬に光ばかりが集まった大きめの目。
その目で私を見つめ、何か諦めたような微笑みを浮かべて、彼はゆっくりと語り出した。
彼の名前は、碇シンジ。
僕はご存知の通り、あの動乱の中心にいた人間の1人です。
僕は、僕が壊した世界にまた戻ってきた時に、今の妻が傍にいてくれたことで、
自分を取り戻すことができました。
けど、その代わりに自分の中からこぼれ落ちていったモノも数多くある、
その事に後になって気づきました。もう、遅いんですけれどね。
最初に断っておきますけれど、絶対に妻には内緒にしておいてくださいね。
あと、職場の上司にも。こんなこと、本来なら墓場まで持っていくべきことなのに…。
いや、そんなことないですよ、誰しも心の奥に蓋をしてしまいこんでいるものがあって、
みんなそれで苦しんでいるんです。その苦しみに耐えられなくなった人のために、
私のような存在があるんですよ、どうぞ、遠慮なく話してください。
もちろん、秘密は厳守します。
そう言うと、彼はまた、私の目を見つめ、数秒たってからふっと息を吐いた。
彼が語り始める時が来た。
えっと、どこから話始めたらいいのかよくわからないんですけれど…。
とりあえず、今の妻と交際することになったあたりから話しましょうか。
どうぞ。
私は助手が持ってきた大きめのグラスに注がれたアイスティーを彼に勧め、
自分もそれを一口啜った。それを見て、彼も同じようにアイスティーを一口飲み、
美味しい、と呟いてから再び戦線に復帰してきた。
えっと、僕が彼女、アスカって言うんですけれど、アスカと知り合ったのは
もう結構前のことなんです。14歳の頃だから、もう15年以上前です。
会った当初はなんだこの高飛車な姉ちゃんは、と思いました。だけど、
アスカには1人で抱え込んでいたたくさんの問題や、傷があって、
それを隠す為に無理をしていたんだ、ということがそのうちに分かってきて…、
使徒のせいで一端はバラバラになっちゃった僕やアスカの心をあの戦役の後、
僕たちは一生懸命に修復してきました。喧嘩ばかりしていた気もしますけど、
それでもお互いの欠けた部分
2007-10-25T11:55:32+09:00
1193280932
-
エピローグ
https://w.atwiki.jp/aaabbb2/pages/55.html
「以上で、報告終わります。全体的には全て予測の範囲内です。」
「ありがとう、伊吹三佐。」
「あの、先輩…」
「何?」
「いいんですか?本当に」
「何が?」
「あの…私、いつまで秘密にしていたらいいのか…」
「ずっと、よ。伊吹三佐。」
「…はい」
「MAGIのシミュレーションは今までは完璧よ。あの2人には悪いけれど、
これで貴重なデータを得られるわ。」
「でも…、」
「大丈夫よ、最終的にアスカをサルベージする為には、
今の状態でのデータを集めることがまずは一番の優先事項なの。
その為にも、あなたには頑張ってもらわなくては。」
「…はい」
「いい子ね、フフ」
2007-09-20T21:47:07+09:00
1190292427
-
42
https://w.atwiki.jp/aaabbb2/pages/54.html
外はいつの間にか暗くなっていて。
でも、部屋の中に満ちているLCLの匂いは一向に薄まる気配がない。
アスカは、ここにいる。
僕はゆっくりと起きあがる。
目の前にあったらしい鏡が粉々に砕け、片づけられた跡が残っている。
ガラス片はどこかに落ちていないか、探してしまう僕。
何の意味があるのか、わからないまま、
それでもソファーの下に落ちていた破片を見つけ、
それを手にして僕はアスカのもとへ近づく。
枕元に腰掛け、アスカの頬を撫でてから、手を握る。
また光が飛び散るかな?と思って、その瞬間は目を閉じていたけれど、
何も起こらなかった。
ゆっくりと目を開ける。おそるおそるアスカの方を見る。
アスカは、先ほどと変わらず、眠っている。
頬を触れた手に残ったのは冷たい感触だけ。
僕は泣きたくなるのをこらえて、彼女にキスをした。
ふいに、鏡の破片が光る。
目をやると、そこにはアスカが写っていた。
それは小さな小さなアスカだったけれど、僕には十分な、完璧な彼女だ。
鏡の中にいたのは、眠っているアスカではなく、微笑んでいるアスカ。
振り返ってみても、そこには何もない。
でも、鏡の中ではアスカは微笑んでいる。口がゆっくりと動く。
最初は何を言っているのか分からない。
アスカは何度かそれを繰り返した後、苛々したような表情で、
僕の方に近づいてくる。
やがて鏡の中で、僕の背後にぴったりとくっついたアスカは、
僕の耳元に口を近づけて、囁いた。
「歌って」
実際に声が聞こえて、僕はびっくりして立ち上がる。
その拍子に鏡の破片はベッドの上から落下し、
高級そうなカーペットの中に埋もれる。
拾い上げた鏡の中では、アスカが僕の方を向いて、何かまた言っている。
「バ…カ…シ、ンジ?」
僕が口に出して言うと、アスカは笑い転げ、親指を立てた。
合ってるみたいだ。
そのままアスカは続けて
「大好きよ」
と言った後、また風景の中に溶けていった。
「あたしはずーっとシンジの傍にいるわ。」
アスカの声を思い出し、僕は泣いた。今度は声を上げて泣いた。
アスカは嘘をついていない。きっと僕の傍に居続ける。
おそらく、きっと、ここに眠っているアスカが目を覚ますことはないだろう。
僕は、永遠に彼女を失った。
でも同時に、彼女
2007-09-20T21:45:01+09:00
1190292301
-
41
https://w.atwiki.jp/aaabbb2/pages/53.html
でも、2人の時間は、僕とアスカにとっては一瞬のものでしかなかった。
多分、かなり長い時間、僕たちはお互いに触れ合い、見つめ合い、それだけで
色々な事を伝え合っていたと思う。
だけど、時間は冷酷に流れていく。その時は、来るんだ。
「シンジ、ごめんね。」
アスカは何か吹っ切れたような顔で、僕を見つめる。
「あたし、素直になれなかった。シンジが傍にいてくれるだけで良かったのに、
憎まれ口ばかり叩いて、シンジを信じていなかった。」
「そんなことないよ。僕には分かる。
むしろ、君の気持ちから逃げていたのは僕なんだ。
仕事なんかに逃げて、最低だ。」
アスカは、何も答えない。
「ごめんね、シンジ。」
突然の一言。
言った瞬間に部屋の向こうで何かが割れる音がする。
「え?」
「…鏡。新しい景色を映すものよ。」
「え?よくわからないよ、アスカ、君は一体…」
僕が言い終わる前に、アスカの声が響いた。
脳に直接響き渡ったその声は、今まで聴いたどんなアスカの声よりも
穏やかで静かで、そして僕への想いに満ちあふれていた。
「覚えていて、シンジ。あたしはずーっとシンジの傍にいるわ。
何があっても、どこでも、いつまでも。」
「行くな、アスカ!」
咄嗟に叫んだ一言は、けれども声にならずに喉元で凍り付く。
アスカは、輝き出すと、ゆっくりと浮かび上がり、風景に溶け込み始めた。
握りしめていた手も、やがて消え、僕の手だけが空しく宙を掴んでいる。
最後まで残っていた表情が、僕に向かって微笑む。
「きっとこの先、何があっても、あたしたちは乗り越えていけるわ。」
そして、アスカはそのまますっと消えていった。
最後に聞こえた言葉は、一瞬たりとも忘れない。
「だって、あたしたちの愛は真実だもの…。」
扉が開く。同時にミサトさんが駆け込んでくる。
「シンジ君?大丈夫?無事だった?」
僕は呆然として、ベッドの脇に腰掛けたまま。
アスカの手を握りしめたまま。
アスカは、そこにいる。
安らかな、寝息をたてて。
指先から心臓のトクン、トクン、という鼓動が伝わってくる。
その微かな動きが、全て僕へのメッセージのような気がして、
僕は手を離すことができない。
アスカは、ここにいる。
眠っている。
でも、僕には分かった。
2007-09-20T21:44:16+09:00
1190292256
-
40
https://w.atwiki.jp/aaabbb2/pages/52.html
その瞬間、パンッ!とフラッシュが焚かれたような真っ白な光がはじけ飛び、
同時に何かが爆発したかのような音が僕の鼓膜を貫いた。
その光のあまりの眩しさに僕は思わず目を瞑り、
その目を開けた時には、アスカは目の前に腰掛けていた。
至近距離の中、アスカは黙って僕を見つめる。
僕も声を失ったかのように黙ってアスカを見つめる。
先ほどの残光が目から消え、アスカに焦点が合うまでしばらく沈黙が流れる。
「ずっと、ずっと、シンジを待っていたわ。」
ゆっくりと動くアスカの口の動き。耳を通して聞こえる声。
アスカだ。僕の最愛の妻だ。
右手は、繋がれたまま。このまま放したくない。いや、怖くて離せない。
「僕もだよ、アスカ。君と会える日をずっと待っていた。」
「…」
「何?」
「この手」
「え?」
「あの日、あたしを救ってくれた、この手。」
アスカの両目から涙がこぼれ落ちる。
「シンジはいつもこの手で、あたしを救ってくれた。」
「…うん」
「浅間山でも、サードインパクトの時も、」
「…うん」
「あたしに自分の気持ちを気づかせてくれた時も」
「僕も、」
「僕もアスカのこの手に助けてもらったよ。」
「あたしが?シンジを?」
「そうだよ。」
「ホントに?」
「僕がアスカに嘘ついたことある?」
アスカはちょっとうつむいて、目を伏せる。左手で何度も涙を拭う。
頬が上気しているのが、わかる。
その頬にゆっくりと僕は左手を触れる。
赤みが増し、僕の手を通して、アスカの体温が伝わってくる。
気がつくと僕も、泣いていた。
「僕は…君とこの数日の間に、何度か会っていた気がする。」
「うん。」
「あれは、やっぱりアスカだったの?」
「あれ」が何を指すのか、アスカははっきりと分かっていて、
僕の目を見つめ、しっかりと頷く。
「あたしが、あなたを呼んだの。
あたしがシンジの夢に出てきたのは、あたしがあなたを求めていたから。」
「うん。分かっていたよ。」
これ以上ないくらい、まっすぐな言葉で、瞳で、
誠実に、素直に、
アスカは僕に彼女の本心を語ってくれた。
「あたしは、ただ、寂しかったの。シンジに傍にいてほしかったの。」
今となってはもう戻れないけれど、
僕はこの数日でアスカの想いを痛いほど心に染みこませ
2007-09-20T21:43:39+09:00
1190292219
-
39
https://w.atwiki.jp/aaabbb2/pages/51.html
シンクロ率がほぼゼロから一気に跳ね上がったきっかけは、
ママの魂を弐号機の中に感じたから。
その追跡調査、シミュレーションなんて何度やったかわからない。
その度にあたしは偽りのママから声をかけられ、
その度に偽りと知りながらも「ママ」と手を差し出していた。
助けを求める手を。
でも、今日は違った。
今日呼びかけてきた声は、偽りのものではなかった。
差し出す手を一顧だにせず、ママは言ったの。
「アスカ、あなたはなんでこんなところに居るの?
あなたの居場所はここじゃないでしょ?」
「あたしの居場所?」
「そう、早く帰りなさい。早くしないと手遅れになるわよ…。」
その「手遅れ」という言葉を聞いた瞬間に、あたしの恐怖心が、
なぜか暴走した。
どうしてかは分からない。
ただ、シンジに会えなくなる、という恐怖が全身を一気に浸食した。
あたしはもう失いたくないの。あなたを。
助けて、シンジ。
気がついたら、あたしは溶け込んでいた。
この世界のあちこちに。
あたしは断片として、色々な場所に少しずつあたしを落としてきた。
この世界、あたしとシンジの世界。あたしとシンジだけの世界。
あたしの身体をあたしは上からぼんやりと眺め、
それからシンジを探しに行った。
助けを求めに。
素直になるために
2007-09-20T21:39:32+09:00
1190291972
-
38
https://w.atwiki.jp/aaabbb2/pages/50.html
「シンジ、」
あたしは、目覚める。
待ち続け、待ち続け、うんざりするような時間を飛び越えて、あの人を。
彼を一端は破滅に追い込んだのは、あたし。
自分でも分かっていながら、止められなかった。
それは重々分かっていたけれど、周辺から指摘されると腹が立った。
あんたたちに何が分かるっていうの?
あたしの辛さ苦しみ、何も分かってないくせに!
でも、どうしようもなかった。
あたしは結局、シンジとは引き離され、ドイツに戻された。
「出戻り」ってやつだ、そう言って自分を嗤った。
ドイツでの日々も退屈で、どうしようもなく空虚で孤独で、
ただ日々の積み重ねが数えて過ごすことしかできなかった。
表向きはドイツ支部への出向だったけれど、
別にやることなんて何もないんだ。シンジと距離を置くのが目的なのだから、
ドイツに着いた瞬間にその目的は達成されたのだから。
あたしは毎日、とりあえず出勤のカードを通し、
与えられた個室で時間をやり過ごし、
夕刻にまたカードを通して帰宅する、
それ自体を仕事として、とりあえず生きた。
シンジへの連絡手段は絶たれ、約束の1年間を耐えることのみに集中した。
時々ヒカリが連絡をくれたけれど、
あたしは素直になれず、いつも愚痴をたれてばかりいた。
そう、あたしは素直になれなかった。素直になるのが、怖かった。
臆病な自尊心が、いつもあたしの邪魔をしていた。
それに気づかせてくれたあの人には、会うことができない。
あたしは、真っ暗闇の中に居た。
狭い部屋で毎日を過ごすことにも慣れ、
誰とも会話することなく過ごす事にも慣れ、
そうやって1年が過ぎようとしていた。
最初に話を持ってきたのは、ドイツ支部のなんとかと言うお偉いさんで、
これは日本の本部からも承認を受けているから、と実験概要を見せられた。
その実験は、日本で行っているものとほぼ同種のもので、
あたしにはやる意味はないように思えた。
けれど、このドイツ人達は、「自分達で」実績を作りたい、という
野心満々の連中ばかりで、ああ、あたしを利用したいんだな、
ということはすぐに分かった。
日本の承認を取っているというのもただの嘘だろう。
それでもあたしは、書類にサインをし、久しぶりにプラグスーツを着て、
シミュレータに、乗
2007-09-20T21:39:16+09:00
1190291956
-
37
https://w.atwiki.jp/aaabbb2/pages/49.html
「遅いじゃないか」
アクビを噛み殺しながら、加持さんはミサトさんに話しかける。
「ごめん、色々と話こんじゃってさ…」
片手をあげてごめんねポーズを取るミサトさんの後ろから、
僕は加持さんを眺める。
その視線に気づき、加持さんの視線がすっと上がる。
僕と目が合う。
僕が慌てて目を逸らすまでのほんの僅かの間に、
僕は彼の今の態度が、
その場の緊迫感を和らげる為のポーズであったことを知る。
だって、加持さんの目は怖いままで、ちっとも笑ってなんかいないから。
「シンジ君、久しぶりだね。」
「ええ、お元気そうで…」
加持さんの寂しそうな微笑みが、僕から次の言葉を奪う。
「とりあえず、まずは会ってからだ。」
肩を叩かれ、僕は扉の前に立った。
ゆっくりと扉が開いていく。
最後の扉が、開いていく。
聞こえる。アスカの呼吸が。
聞こえる。アスカの鼓動が。
ホテルのスィートルームのような、だだっ広い部屋の真ん中、
そこにぽつんと置かれたようなベッドの上に、僕の最愛の人は居た。
白い肌はますます透き通るようで、そこから延びた何本もの管が、
妙な現実感を持って、僕の目に突き刺さる。
まるで童話の世界。完璧な眠り姫としての役割を演じきっている、僕の妻。
ここが物語の世界ではない、ということを知らしめる
栄養チューブや心電図、脳波計のコード。
世界の歪みが、そこにあるようで、なんとなく違和感がある。
「…シンジ君、」
ふいに僕を現実に引き戻す声。加持さんだ。
「これが、彼女の病状だよ、読むかい?」
クリアファイルの中に、何枚かのレポート、何種類もの検査結果。
読めばアスカの「病状」はわかるかもしれない。
けれども、アスカの「今」は多分理解できないだろう。
扉が開いた直後から僕は気づいていた。
この、匂いに。おそらく、僕しか気づいていないだろう、このLCLの匂いに。
「すいません、」
僕は加持さんが差し出すクリアファイルを横目に言った。
「しばらく、1人にしてくれませんか?」
加持さんは手を伸ばしたまま、僕の目を見つめ、静かに答えてくれた。
「ああ、もちろん、構わないさ。」
加持さんは、クリアファイルをそっとベッド脇の小さな机の上に置くと、
ミサトさんと付き添いの看護士さんを促して、そっと部屋を出
2007-09-20T21:36:45+09:00
1190291805
-
37
https://w.atwiki.jp/aaabbb2/pages/48.html
シミュレーターが異常を検知して緊急停止した時には、
全てが終わっていた。
そのテストは、今まで日本でサードインパクトの後、
アスカが散々苦しめられてきた量産機との戦いの再現シミュレーションで、
別にやる意味はなかったのに、とミサトさんは吐き捨てるように言った。
確かに、あのシミュレーションをやった夜のアスカの疲弊した姿は、
僕しか知らないかもしれないけれど、相当なものだった。
そのデータはMAGIを介してドイツ支部にも提供されている筈。
アスカがそれを望んだから、実験は強行された、
というリポートがドイツから届いても、ミサトさんは納得いかなったらしい。
そして、アスカをドイツへ出向させた自分を責めていた。
「シンジ君も、読む?」
「え、いいんですか?トップシークレットの筈じゃあ…」
「あなたはこれを読む資格があるわ。
むしろ、読むべきだし、読んで欲しいの。」
新たな一杯と共に、どこからともなく現れた20枚程のA4用紙。
「惣流・アスカ・ラングレーの意識障害事故について」
時系列で並べられたアスカの行動と、ドイツネルフの対応。
ドイツネルフの対応と「原因不明」の羅列は言い訳にしか思えなかったけれど、
それでも食い入るように読んでしまう。
原因不明の羅列の中で、ただ1つ、原因を示唆するものとして、
アスカのお母さんが事故に遭った施設と同じ施設で今回の実験は行われた、
との一文が目についた。
おそらく、その推測は間違ってはいないだろう。
でも、だからそれがなんだってんだ。
シミュレーションの内容は、日本でやっていたものとほぼ同じもの。
日本語とドイツ語くらいの違いしかない。
確かに、やってみてどうなる、というものではないのかもしれない。
けれど、アスカはシミュレーターに自ら望んで、乗った。
事故が起きた瞬間にアスカが叫んだ最後の言葉、
そこで僕の時は一瞬、止まる。
そこに書かれていたアスカの最後の一言は、あまりにも僕の想像というか、
願望通りで、その一言を読んだ瞬間に鳥肌が立つ。
「Hilfe,Shi….」
(ネルフ本部註「助けて、シ….」
配偶者である本部所属碇シンジを呼んだものと推測される)
僕を呼ぶ声、僕を求める声。
僕には届かなかった。僕は聞こえないふりをしていた。
なぜ、もっ
2007-09-20T21:32:26+09:00
1190291546