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Main Story Ⅱ-11

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第二章 第十一節

「レイ、前触れ無しにあぁいうの、やめない?」
「…………」
静かに怒りを発しているカサンドラの足元で澪は、乱れた呼吸を何とか戻そうとしていた。
「澪、大丈夫か?」
「れいちゃん、お水飲む?」
けろりとした琴菜と先程まで肩で息をしていた春日が俯いた顔を覗き込む。
「……だめだねー、反応無し」
「こんな側にいるのに?」
「存在自体気付いてないかも。さっき外で色々やったけど反応なかったし」
神殿を入ってすぐに広い空間があった。
外観は灰色がかった白だったその建物の中は、壁や床、等間隔に並ぶ柱や高い天井までくすんだ青の石造りだった。
壁際にそって浅い溝が掘られ、柱と同じ間隔で目線の高さに流れる水のような曲線を描く彫刻の飾りがついている。
柱の根本や中程、天井との境目も同じような彫刻で飾られているが、すべてが色あせて綺麗な形は残っているのに廃墟のような雰囲気を漂わせていた。
広間の一番奥、祭壇と思われる大きな岩が動かされ、隠されていたのだろう地下への階段が口を開けていた。
ジルコンとルギネスがその階段へ歩み寄る。
聞き耳をたてていたルギネスが眉をひそめた。
「奥にも、いるな」
「サフったらモテモテだねー」
おどけた調子でジルコンが苦笑した。




音をたてないように静かに階段を降りる。
階段の傾斜は急でもちろん手すりなど無い。
仕方なく壁に手をつき、一段降りるだけでもかなり神経が磨り減っていった。
視界がくすんだ青で埋め尽くされる。底は未だ見えず、青い闇が広がり、静寂がたゆたう。確かに階段を下りているはずなのに、水の中を湖底へと潜っていくような錯覚を感じた。
「この神殿、地下にこんな場所があったとはなぁ」
カサンドラが小声でぼやくと、ルギネスも頷いた。底へと近づくにつれ、壁の色がくすんだまま濃度を増していく。
小さく炊いた光が揺らめく幻想的な光景に、そんな場合では無いと解りながらも琴菜と澪は思わず溜息をついた。春日に至っては目を奪われ、たまに段から落ちそうになっている。
そんな三人を見て、何時の間にか姿を消したジルコンが気配だけで微笑んだ。




「あ」
ようやく階段の終わりが見えた。直ぐに小さな部屋へと空間は続いている。
部屋には幾重にも飾り彫りされた重厚な石の扉がついており、半開きになっているそれから続く空間からたいまつかなにかの光が漏れている。
細心の注意を払って扉に近づくが、あまり中の様子は伺えず、音もあまり聞こえない。
念のため扉を開けたところから死角になる位置に固まり、どうすべきか相談を始めようとしたその時。



「クソッ!」
扉の中から忌々しげな男の怒鳴り声が聞こえた。
続いてキィンと何かを弾く様な音が響く。
「何故解除できん!この役立たず共が!」
周りに当り散らしている男を宥めるような声も微かに聞こえる。
「すみません、私達とは、格が違いすぎて……」
「黙れ!」



「……かなーり、苛立ってるねぇ。どれだけ振られ続けてるやら」
ジルコンがやれやれと首を振った。
「今なら奇襲かけちゃえそうな気もするな……なんか数あんまりいなさそうだし」
琴菜が呆れ顔で呟き、各々が苦笑したり神妙な顔をしながら頷いた。
「しかしもっと数がいると思ったんだが……ここも少数なのは少しおかしい」
ルギネスが顔を顰める。
「俺ら囮に引っかかってましたーだったらやだなぁ」
うげ、とカサンドラも嫌そうな顔をした。
「やだなぁじゃすまないんじゃ」
「あ」
澪がつっこむ声に被さるように、ジルコンが目を見開いた。
「どうした?」
「いや……サフの気配が強すぎて気づかなかったよ。そっかそっかなんでこんなに少数なのかわかった」
納得したようにうんうん頷く。
「どういうことだ?」
「力の弱い精霊の気配がする。しかも複数だ。あのヒステリー起こしてる人、精霊使いじゃないかなぁ?」




「精霊……使い?」
怪訝そうに眉をひそめて琴菜が聞き返す。
「う~ん……水か……地の属性かな?今残ってるの。小さすぎてわかりにくいけど」
眉間にしわをよせてジルコンが言う。
「魔法使うのかーめんどいなそれ」
「だが、魔法さえしのげば……どの属性がいるのか、正確にわからないか?」
「ん~、サフの気配が強すぎてわかりにくいんだよね。でも人数が少ないのも精霊使いだからだろうね」
「だから、精霊使いってなんだ?」
わけもわからないまま進んでいく話に琴菜が無理矢理割り込む。
「……?レイもそうだろう?」
カサンドラはなにがわからないのかといった表情で澪と琴菜を交互に見る。
「……今はそれどころじゃないだろう、どうしのぐ気でいるんだ?」
澪はカサンドラと琴菜の視線を避けてルギネスに尋ねる。
「……使役されてる精霊の属性がわかればレイに対立属性の魔法を援護として頼むんだが……」
「正確にわからないんじゃぁねぇ」
困ったね、と言わんばかりにジルコンが苦笑する。
その背後にあった扉の隙間から淡く光るものが音もなく飛び出した。
「御主人様っ侵入者ですっ」
澄んだ声が石室で響き渡る。慌てたカサンドラがとっさに飛び出してきた小さな光を捕まえるが、既に扉の向こうから数人が駆け寄ってくる足音がした。
「あ~こうなったらしょうがないんじゃねぇ?」
パシッという音を響かせて手から逃げ出した精霊を目で追いながらカサンドラが呟く。
「だったらさっさと入れ。こんな狭い所じゃ剣は振れないだろ」
溜め息をつきながらルギネスが答えた。

じゃぁ、と開けられる寸前だった扉をカサンドラが力一杯引いた。
力を込めて内部から扉を押そうとしていた兵士が二人、つんのめるようにして飛び出してくる。
狙っていたかのようにルギネスの剣が一閃する。
落とされた魔物兵の腕が床につく頃にはカサンドラが室内に飛び込み二人の魔物兵を相手に立ち回り始めていた。
扉から転がり出た兵士らにとどめをさしたルギネスの後について琴菜も室内に飛び込む。
後に続こうとした澪と春日をジルコンが引き留める。
「二人は、奥の祭壇まで走って」
いつになく潜められた声に澪が訝しげな視線を向けるが、春日は大きく頷いた。
奥の祭壇にはこの場にただ一人、人間の姿をした兵士が周りに淡い光をいくつか浮かべて立っている。
「あの光が精霊。地の属性しかいないし、弱いから強力な魔法は無理。でも一応妨害してくると思うから気をつけてね」
それだけ言うとジルコンはまだ疑うような目をしている澪の手を取って走り始めた。
剣戟の間をくぐり抜け、ジルコンと澪、春日の順に石組みの部屋を駆け抜ける。
苦戦しながらも魔物兵を戦闘不能にしたカサンドラとルギネスも後を追う。
駆け寄ってくるジルコンに祭壇の側に立った男が何か言おうとした瞬間、周囲に浮いていた光が唐突に消えた。
「……俺やサフにかき消されるような精霊使うくらいで、いい気になるなよ」
ボソリと呟いたジルコンの言葉を、澪が聞き返す前に祭壇まで辿り着く。
あがった息を整える暇もなく、男が手にした剣を澪が蹴り落とす。
遅れて辿り着いた春日がとっさに手をついたのは、祭壇に飾られていた手の平ほどの大きさの青い石の上だった。