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「じっちゃん、すげー剣だな!!」 「ん?なんじゃ、坊主どっから来た?」 少年が目を輝かせながら話し掛けてきた。 見ると身なりの良い、どこかの商家の子供だろうか。 「どこだっていいだろ、それよりこれ、すげえ剣だなー!」 「貧乏武器屋にゃ不釣合いかね」 「そんなこと無いけどさ。でもこの剣、何で値段がついてないんだ?売ればすごい金になるだろ?」 「ホッホッホ、残念だがそれは売り物じゃないんじゃよ」 「ふーん?」 「それより坊主、こんな所に居ると母ちゃんに怒られるんじゃないのか」 「へん、家に居たって怒られるんだ、勉強ばっかりでつまんないしさ」 「ふむ、そうか…じゃあひとつ昔話でもしてやろう」 「えぇー、つまんなそうだなぁ」 眉毛を八の字にして堂々と不満を漏らす。 「ホッホッホ、この剣の持ち主がどういう人だったか知りたくは無いか」 少年は見るみる瞳を輝かせ、寄って来ざまに 「知りたい!!」 と叫んだ。 「ホッホッホ、では聞かせてやるとするかな この剣の持ち主がいかに強く、美しく、優しかったか…」 「俺たちはラムザの向かう所へ行くだけさ…」 マラークは事も無げに言った。 軽く微笑み、ラファも頷いた。 「しばらくはこの国を旅しようと思う。こんな老いぼれにも色々と出来る事はあろう」 「私もシド様と共に行こうと思います」 シドに続けてメリアドールが言う。 ミュロンドでの激しい戦いから五日ほど経っただろうか… 皆、はぐれてしまった仲間を探しに行くのだという。 この場に居て、曇った表情を見せるものは居ない。 私一人を除いて。 そう、あの日私たちはミュロンドの地下深くでアルテマを倒した。 アルテマは消え、すべてが崩れ、我々は闇に飲み込まれた… そこまでは覚えている。 朝日のまぶしさに、ふと目が覚めた。 ミュロンド崩壊の影響を受けてだろうか、以前の面影など微塵も無く崩れ去った、 オーボンヌ修道院の近くに私達は横たわっていた。 手に剣を握り締めながら。 目が覚めたとき、周りに居たのは マラーク、ラファ、シド、メリアドール、ベイオウーフ、レーゼだけだった。 ラムザは? 他の皆はどこへ行ったのだろう? 皆…ミュロンドの地下へ消えてしまったのだろうか。 脱出する途中ではぐれてしまったのだろうか。 思考をめぐらしてみても答えは出ない。 話し合いの結果、先ずはここで数日待ってみることになった。 はぐれた仲間を待つ間、皆色々な話をした。 ラムザに命を救われ、生きる意味を見つけたマラークとラファ。 国を愛し、祖国に骨を埋めるであろうシドとメリア。 遠い地で静かに暮らしたいと願うベイオとレーゼ。 あれこれ話すうちに、次第に自分の向かう道が見えてきたのだろう。 死んでしまったかも知れないと憂うより、 生きていると信じ、探しに行くと決めた者。 次に自分が成すべき事を見つけ、歩きだそうとする者。 日が経つにつれ、次第に皆の瞳に力が宿り始める。 最初に立ち上がったのはマラークとラファだった。 「ここに居ても仕方ないわ、ラムザ達を探しに行きましょう」 若い二人は時間が惜しいと言わんばかりに 「じゃ、お先に!」 と元気に旅立っていった。 続いてシドとメリアが 「若い者に負けてはいられん、ラムザ達とも…生きていればいずれ会えるやもしれぬ」 「そうですね、私達にもまだやるべきことはあるはず」 そう言い、静かに去っていった。 私は…どうしたいのだろう? どうすればいいのだろう? 程なくしてベイオが話し掛けてきた。 「俺達も行こうと思う。残念だがこれもひとつの決着の形かも知れない」 ベイオとレーゼはすべてを受け入れたのか、先に旅立っていった者達とは違っていた。 「私達は幸せを見つけたけど…貴女は…」 去り際にレーゼが悲しそうな瞳を向けてこう言った。 「貴女には幸せになって欲しい…」 次の日。 二人は私に軽く微笑みかけ、旅立っていった。 振り返ることなく。 私はどうすれば良いのだろう。 私の幸せとは? ここで仲間を待つしかないのか。 私も歩き出すべきだろうか。 しかしどこへ行く? オヴェリア様を守りきれず、異端者としてグレバドス教へ剣を向けた私には帰る所も無い。 考えがまとまらない。 ラファとマラークは権力の束縛から開放され、自分達の力で生きる大事さを見つけた。 「私は何のために生きていたのか?」 シドやメリアは民を思えばこそ、ここに留まる事を良しとしなかった。 「私は誰のために戦っていたのか?」 ベイオとレーゼは愛する人がいる。 それだけで何処へ行っても大事なものを見失うことは無いだろう。 「私を愛してくれる人はいるのか?」 オヴェリア様は私を信頼してくれていた… だが政治に利用されるためとは言え、いずれは王族として国の頂に立つことになろう。 そのとき、傍らに居るのは私じゃ無くても良いのかもしれない。 「私には…何も無い?」 ベイオとレーゼが去ってから一日が過ぎた。 雨だ。 木陰に身を寄せながらそっと肩をすぼめる。 地面を叩き付ける雨音のせいか、自分が置いていかれているという意識が強くなる。 「ラムザ…」 ふと口にした一言に自分自身驚いた。 ラムザ…? そうだ… 私はラムザのために戦ったのだ。 オヴェリア様を奪われ、騎士団にも帰れない私が居るべき場所はひとつしかないのだ。 それが私が最後まで戦ってきた理由。 私が生きてきた理由。 戦いの中で培ってきた信頼感。 嘘や裏切りの中でただ一つ信じられるもの。 やっと見つけた… 本当の自分の気持ち… ベイオ達が去っていってから二日。 激しくなってきた雨音が止む気配は一向に無い。 剣を抱きしめながら、かき消されそうな声で何度もつぶやく。 ラムザ…  ラムザ…… 自分の気持ちを認めてしまったせいか、ひどく寂しくなってくる。 周りには誰も居ない。 なんて心細いんだろう。 涙があふれてきた。 ラムザ…死んでしまったのか? 生きていて欲しい。 もし生きていたら私を探してくれているだろうか。 早く…私を見つけて欲しい… 木陰に座り込んだまま、どれくらいの時が経っただろう。 いつの間にか雨は上がっていた。 一人になってから三日目。 体がだるくて動かない。 ここに居ても仕方がないのは分かっている。 だが足が動かない。 どうしてもここから離れようという気持ちになれない。 このまますべてが無くなってしまうような、そんな虚無感の中から抜け出せない。 自分はこんなに弱い人間だったのかと、認めれば認めるほど胸が苦しくなる。 …? ふと、微かな足音が聞こえた。 人の気配だ。 不安? 希望? 色々な感情が混じってよく分からない。 足音の主は味方ではないかもしれない。 しかし立ち上がるでも無く、剣を持つでもなく。 無垢な赤子が何かを見つけたときのように、足音のする方向をただじっと見つめている。 涙を流しすぎたせいか、目がかすんでよく見えない… 足音が近づくにつれ見慣れた背格好がシルエットとなり、次第に目に映りはじめる。 金の髪が風になびいているのを見たときに、私は剣をつかむのも忘れて立ち上がっていた。 「アグリアス…さん…?」 ラムザは確かにそう言った。 「アグリアスさん」 あぁ…!もし居るのなら神に感謝する…! ラムザは私を探してくれていたのだ!! 大粒の涙がこぼれ、想いが溢れて声にならない。 髪は乱れ、服も雨水に汚れてしまっているが今はどうでも良い。 今すぐ駆け寄って、抱きついてしまいたい! それなのに2、3歩歩いただけで足が動かない。 でも、今なら言えるだろう。 すべてを無くした自分が居るべき場所… ラムザの腕の中でなら…「愛している」と。 ラムザが駆け寄ってくる。 早く、私の元へ… 彼の一歩一歩が福音のように感じられる。 だが手を伸ばせばすぐそこにという距離にきて ラムザは私を通り越し木陰へと進んで行った。 何が起きたのか分からなかった。 ラムザはそこに居る。 私のことが目に入らなかった訳では無いだろう。 「ラム…ザ…?」 立ち尽くす私をよそに、いきなりラムザは大声をあげた。 「おーい!アルマ!」 あまりにも急な事に驚き、全身を震えさせラムザから一歩退く。 倒れこんでしまうのをなんとか押さえ込んだ。 駆け足でアルマが寄ってきた。 「どうしたの、兄さん」 「見てよ、アグリアスさんの剣だ」 「どうしてこんな所に?」 何を言っている? 二人ともどうしたというのだ? 「私は…ここに…」 そう言いながらラムザの肩に触れようとした時、甲冑をするりと指が通り抜けた。 「あのとき、アグリアスさんが助けてくれなかったら僕は…」 その一言を聞いたとき。 私はすべてを思い出した。 そう、あの日、私達はアルテマを倒し、崩壊するミュロンドで 誰かが呼び出した召喚獣につかまり脱出したのだ。 だが何人かは助からなかった。 私は、崩れ去る船の破片に巻き込まれ気を失っているラムザを助けるために バハムートの背から飛び降り、彼の体を放り上げたのだ。 「オルランドゥ様、マラーク、ラファ、メリアドール、ベイオウーフさん、レーゼさん」 「兄さん、皆…死んでしまったの…?」 「…分からないけど、きっと…きっと皆生きてるはずさ」 「…うん…そうよね!」 私は絶望に塞ぎ込んでいた自分が少し恥ずかしくなった。 ラムザは私の剣の塚に手をかけ 「きっと見つけます…アグリアスさん。貴女は僕の命を救ってくれたから…」 そう言いながら剣を引き抜いた。 「あの戦いで…貴女は僕にとってただ一人の女性になったんだ」 私は息を飲み、時が止まったような気さえした。 雨上がりの雲の切れ目から陽の光が指し、剣を輝かしく照らし出す。 さっきまで聞こえなかった小鳥さえずりが、今ははっきりと聞こえる。 気が付けば先程までの足の重みは消え、服も髪もいつも通りに戻っていた。 すべての悪夢が消えたかのような気持ちになり、体は信じられないほど軽くなった。 聞こえるかレーゼ 私は…見つけたぞ…私の幸せを ラムザが生きていてくれた…それだけでも嬉しいのに ふふ、ラムザが私のことを… 聞こえるか…レーゼ…? いま私はどんな表情をしていたのだろう。 笑っていた事だけは間違いないのだが。 そんな他愛も無いことを最後に考えながら、私の意識は光の中へと消えて行った。 「行こう、アルマ」 「ええ!」 剣を収め、来た道を戻っていく二人。 次第にその姿は小さくなっていく。 二人は途中一度だけ振り返ったが、それを見ていたものは居ない。 「それで!?それで!?」 「壮絶な死闘の末に強大な魔物はついに倒れ、そしてその女騎士は 死の淵にあった若い一人の男の命を…自分の命と引き換えに救ったのじゃよ」 「おぉー…」 「そしてその騎士が持っていた剣がそこにある剣…と言うわけじゃ」 「すっげー!!」 と、ここで子供の声を聞いてか、一人の女性が店の中に入ってきた。 「こら!パナン!こんなところで何をしているの?」 「あ、ママ…」 「おうちに帰って勉強しなきゃ駄目じゃない」 「はーい…」 「すみません、うちの子がご迷惑を」 「なんのなんの。話し相手になって貰うとった所ですじゃ」 「じゃあ行きますよ」 「うん…、あ、ねぇじっちゃん!」 「なんじゃね?」 「どうしてその剣がここにあるの?」 「ふむ…」 「ほら、置いていくわよ?」 「あ、待ってよーママー!」

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