「はあ・・・」 ため息をついて歩いている僧侶が居る。 先日僧侶としての資格を受けたばかりの若者だ。 少しうつむき気味に歩くその姿は誰が見ても落ち込んでいるように見えた。 それを見て声をかける先輩の僧正が一人。 「落ち込んでるようだけど、どうしたの?」いつも変わらない笑顔で声をかける。 「あ、○○さん。じつは、昨日初めて任された治療に失敗しちゃって・・・・」 見るからにがっくりしている。 「練習ではあんなに上手く行ったのに本番になったら緊張してうまくいかなかったんです。 昨日は同期の子が助けてくれたから良かったんですけど・・・ 昔から緊張するとすぐ失敗して、私に僧侶って向いてないのかもしれません。」 「少し私のお話に付き合ってみない?」 そういう僧正の顔は過去を懐かしむような、そんな笑顔だった。 /*/ 寺院の中を歩きながら話す二人 「その治療をするとき、どんな気分だった?」 いつもと変わらぬ笑顔で聞く僧正 「すごく、不安で、怖くて・・・もし失敗しちゃったらこの人どうなるんだろうとか、 家族がどれだけ悲しんじゃうんだろうって考えれば考えるほどどんどん手が動かなくなっていって・・・」 傍から見ると、僧侶の体に無駄に力が入っているのが分かる。 まさに緊張している状態そのものだ。 「そっか、じゃあ別な質問をさせてもらおうかな。」 変わらぬ笑顔の僧正。 「その前に、深呼吸して。」 言われたとおり素直に深呼吸を二度する僧侶。 「ちょっと思い出してみて。 あなたが治療しようとしていた人はどんな人だった? ちょっと想像してみて。 あなたが治療に成功して、その人が怪我する前より元気になったらどんな結果が待ってたと思う?」 少し昔を懐かしむように聞く僧正 「彼は、とっても誠実そうな人でした。 マラソンランナーだ、とも聞いてました。 きっと足の傷が癒えたら、また練習の日々だったかな。 陸上部のホープらしいので、大会とかでもいい成績を残してたって。 そんな彼が怪我をする前より元気になったら、 きっと藩国で一番のランナーになっちゃうかもしれません。」 僧侶の顔にはどんどん笑顔が戻り、 ちょっとおしゃべりないつもの彼に戻る。 その肩の力もいい感じに抜けている。 #ref(http://www9.atwiki.jp/aimehankoku?cmd=upload&act=open&pageid=73&file=soujou2.jpg) (注:僧侶の外見が+5と非常に高いため、とても可愛く見えますが、 このイラストの僧侶は男の子です。 だから男性が僧侶なアイドレスを着ても違和感が無いんです。 きっと・・・) そんな彼を見て僧正は一つの決心をする。 そして服の下で首にかけていたお守りを取り出す。 「あなたにこれをプレゼントするわ。 これは私が昔、あなたくらいの僧侶だったころに、 やっぱり先輩の僧正からプレゼントしてもらったものなの。 その先輩も先輩の先輩から、そんな感じで代々受け継いでるものよ。」 変わらぬ笑顔の僧正。 「これはすごいマジックアイテムなのよ。 私も昔治療によく失敗して、あなたのように落ち込んでた。 でもこれを貰ってから、ほとんど治療に失敗しなくなったの。 今度また失敗しそうだったら、この中に入っている紙を見て、 そして今日お話していたことを思い出して。」 そう言って僧侶の首にお守りをかける。 /*/ そのお守りは、何の変哲もない袋に、紙が入っているだけだった。 魔力も、加護も、リューンの力も感じられないただの袋と紙だった。 しかし、それを受け取った僧侶は、それから治療で失敗することがほとんど無くなった。 どんなときも自信たっぷりに治療を行う彼は、僧侶のエースとなり、僧正へと推薦される。 それは間違いなく彼の治療の成功率を上げる 素晴らしいマジックアイテムだった。 /*/ 近い将来、彼は再度治療の任務を受け、 そしてお守りの中身を見る。 そして、今日この日に聞いた一言とまためぐりあう。 「あなたが治療に成功して、その人が怪我する前より元気になったらどんな結果が待ってる?」