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戦争準備状況 - (2007/01/09 (火) 21:13:43) の最新版との変更点

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-**愛鳴藩国戦争準状況
+**愛鳴藩国戦争準備状況
 
 
 
 
 
 
  「・・・また戦争、始まるの?」
 
  細々と呟かれた少女の呟きに、少年は炎の色を湛えた瞳をそっと眇めた。
 
  この国、愛鳴藩国は戦災などにより孤児になった多くの子供達を抱えている。悲しいことに、数多くある国立の孤児院がその役目を終えることは今の世では未だ叶わない。そして再び戦争が始まれば、その数はまた増えてしまうかもしれないのだ――。
 
  少年、渋谷涼太郎も孤児だ。
  数年前、彼が12歳の時両親を亡くして以来、流れ流れて辿りついたのがこの愛鳴藩国だった。親戚から見放され人間不信に陥っていた涼太郎に向かって何を言うでもなく、ただ手を差し伸べてくれた人。それが後の涼太郎の家となった孤児院の院長であった。
  そこで、涼太郎は永遠に失ってしまったと思っていたものをまた手に入れた。それは正確には別物であるけれど。
  涼太郎は、同じ孤児院で暮らしている少女に向かって微笑みかけた。少女は今年6歳になったばかりだったが、涼太郎と同じく孤児であった。子供たちの多くは戦争により心的な外傷を負うものが少なくない。少女もまた、そうして傷を負った子供の一人だった。
 
  「うん。・・・でも心配しなくても大丈夫だよ。俺たちが皆を、この国を守るから」
 
  戦時動員令が下りたのは、つい先日のことだった。国中から資金・燃料が掻き集められ、このままでは国の財政が破綻するのではないかというほどである。そんな中、国防を担う飛行剣士も警戒態勢を整え始めていた。
  涼太郎は飛行剣士――正しくは飛行剣士見習い、である。ゆえに先程の涼太郎の言葉には嘘が含まれている。見習いでしかない彼には国防の任に就くことなど許されていない。せいぜい街の治安維持に貢献するくらいのことしかできない身であった。涼太郎には国を守るだけの力も、機会も、今はまだないのだ。
  それが分かっていてなお、涼太郎は嘘を吐いた。「俺」たちがこの国を守る、と。
 
  「だから恐がらなくてもいいんだ。俺たちのホームは壊させやしない」
 
  震える少女の肩にぽんと手を置いて、涼太郎は自分に言い聞かせるようにそう言った。
  もしかしたら、恐がっているのは少女だけでないのかもしれなかった。
  孤児院のことを「ホーム」と呼ぶ者は多い。親を失った子供たちにとってそこはまさしく家であった。ゆえに、孤児たちは孤児院を卒業した後になってもなお自分の出た院を「ホーム」と呼ぶ。そこで惜しみなく注がれる愛情は、かつて子供たちが親から受けていた「愛」と等しいものだった。
 
  ――もう二度と、家を、家族を失いたくはなかった。
 
  少女は涼太郎にとって実の妹のようなものだ。少女だけでない、この孤児院に暮らす子供たち、先生たち全員が彼にとっての家族だった。誰一人欠けてもダメだ。
  
  「じゃあ、私お祈りする。涼にいちゃんが怪我しませんように、って」
 
  ふわり、とした笑顔が少女からこぼれる。
  涼太郎は少女を安心させたくて、笑って欲しくて、嘘を吐いた。それなのに、その笑顔を見たときどうしようもなく泣きたくなってしまった。
  
  「……うん、うん。…………ありがとう」
  「涼にいちゃん?」
 
  涙の滲んだ目を見られないように、涼太郎は顔を伏せた。
  (戦争なんてきらいだ)
  早く大人になりたくて仕方がなかった。見習いの文字が取れて、きちんとこの手で大切な人々を守れるようになりたかった。大人になって、戦争のない世界を作りたかった。
  (でも、俺には力がない)
  涼太郎は飛行剣士である先輩たちの姿を思い浮かべて、ぎゅっと瞼を閉じた。
  今の涼太郎には、大人である彼らを信じ、応援することしかできない。外では、偵察のため上空を飛行する戦闘機の発する轟音がとどろいていた。
  (お願いだから信じさせて、……もう失うことはないって)
  
  
 
 
 
 #ref(09sasie.jpg)
+(画:ミリ)
 
 
  90107002
 
  愛鳴藩国のとある孤児院にて。
  
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+(文章:ミリ)